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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ドラゴンクエスト2部門〜

1名無しの勇者:2002/10/18(金) 20:16
DQ2の小説専用スレです。
書き手も読み手もマターリと楽しくいきましょう。

*煽り荒らしは完全放置。レスするあなたも厨房です*

168名無しの勇者:2005/01/12(水) 23:57
見れるよー?

169名無しの勇者:2005/01/13(木) 19:47
私も見れないよう(TдT)
ウワァン

170名無しの勇者:2005/01/13(木) 20:47
なんでだろう。
開けるようになったけど表示されないよう。
某サーチから逝けますか?

171名無しの勇者@神殿の中の人:2005/01/13(木) 21:23
[壁]Д`)アワワワワ 報告を貰って飛んで来ました。
開けないというご指摘は以前にもいただいたんですが…
ノートン先生を切ってもダメですか?

172170:2005/01/13(木) 21:54
バスターなんですが、切ってみても駄目でした。
403 Forbidden と出ます。すみません(つД`)
ロビーに移動した方がいいですか?

173名無しの勇者@神殿の中の人:2005/01/13(木) 22:25
すみません、書き込みこれで最後にします。
私事でスレ汚しして大変申し訳ないです。

>170=172さん
バスター切ってもダメですか。あわわどうしよう(゚Д゚;≡;゚д゚)
参考までにお使いのOSとブラウザのバーションをお聞きしても良いですか?
それを見て対処法を考えたいと思います。
ブラウザはスタンダードでないものだと弾かれるかもです…。

174170=120:2005/01/13(木) 23:07
窓XPのSP2でIE6です。どうしてでしょうかね(;´Д`)
捨てアド残して去ります。スレ汚しすみませんでした。

175俺様受け:2005/01/31(月) 13:41:46
って、もう過去の遺物なのかなー。
時流に逆行してるのを、あえて―――。
スルー推奨(悲)。

176名無しの勇者:2005/01/31(月) 13:45:40
「さがれ、カイン!」
「るせぇ!任せろってば!」

前に立ちはだかるカインの金髪に視界を阻まれ、アレンは掲げた剣も降ろさざるを得ない。
アレンには窺い知ることの出来ない古代語が、カインの口から耳に拾えないほどの速さで紡ぎ出され、
張り詰めた空気が臨界に達し、カインの後姿は閃熱を背景にした黒いシルエットになる。

「ベギラマ!!」

一瞬で、狂暴な屈強のモンスターの一群が、熱と光の渦の中で無力にも灰燼と化していく。

「まだだ、息があるぞ!」

視線をモンスターに向けたまま、光に照らされたカインの顔が振り返り気味に向けられる。

わかってる、見とれてただけじゃない!
アレンはその言葉を飲みこんで地を蹴り、カインの傍らから前に飛び出した。

「――――――ッ!!」

無言の気合が込められた太刀が、断末魔から開放すべく、死にきれないモンスターに一閃の光となって打ち下ろされた。

177俺様受け:2005/01/31(月) 13:49:46
あれ?cookiesは……!?;;

178俺様受け:2005/01/31(月) 13:52:05

アレンは気持ちのままに怒りをぶつけてくる性格ではない。
普通に話しかければ、普通に応えてくる。
だからといって、内心に抱えた憤懣を隠しとおせるわけではない。


―――困ったわね。

マリアは、普段から無口なアレンと、弁舌が立つくせに言葉の足りないカインとを代わる代わる見やった。
お互い、相手が怒っているのはわかるが、相手の非を責めることも無く、自分に非があるとも思っていない。
こういったことは、よくあることで、そのうちおさまるのは分っているのだが。

宿で、重苦しい静寂の中摂られた夕食の後、マリアは開け放したアレン達の部屋を覗いた。
そこではアレンが一人で武具の手入れをしている。
マリアに気付いたアレンは、柔らかく問いかけるような微笑を向ける。
なんでもないの、というふうに軽く手を振って笑い返した。
同室のカインは部屋に戻りあぐねてるらしい。

案の定、カインは階下で途方に暮れたように、所在無くぶらついている。

「きっと貴方がアレンを困らせたのね?違って?」

怒るでも責めるでもないマリアの言葉に、カインはことさら厳しい顔で振り返る。
カインの繊細で整いすぎた顔立ちは、揺れ動く感情を隠せないまま、マリアにだけ見せる小さな子供が拗ねたような表情になり、視線が逸らされる。

179モンスターズの憂鬱(1):2005/02/03(木) 06:50:52

 ロンダルキアの夜空には、今日も星が見えない。決戦を前にして、吹雪は最後の抵抗を見せるように
いつにも増して猛烈に吹きすさんでいる。
 暖炉で薪が爆ぜる音を聞きながら、ロランは窓の向こう側の景色をぼんやりと
眺めていた。愛用のゴーグルを膝元に置いて、ロッキングチェアを所在無げに揺らす。それまでの旅路では
ただのアクセサリーに過ぎなかったゴーグルも、極寒の地となれば話は別だ。
 心ここにあらず。まさにそんな感じのロランをいよいよ見かねて、サトリはもはや読み飽きた魔術書を
しおりも挟まずにぱたりと閉じた。
「どうした、ロラン?」
「え?」
 後ろから突然に呼びかけられて、ロランは一瞬だけ肩をすくめた。野外に出ればどんなにかすかな
魔物の気配でも感じ取るはずの剣の名人がこの体たらくとは、何とも情けない。
 サトリは呆れるのをこらえてもう一度同じ質問を繰り返す。しかし返ってきた答えは実にそっけないものだった。
「いや、何でもない」
「何でもないって、お前。少し気ぃ抜きすぎだろ」
 そうかな、と言いながらはにかんでみせるロランの表情はどことなく曇っていて、何でもないはずが
無いことを如実に物語っている。サトリは呆れついでにため息をこぼした。
「何でもないこと無いわよ、顔色も悪いわ」
「ルーナまで。そんなことないよ」
 放っておけば「どうかしたのか」と「何でもない」の堂々巡りに発展しかねない。そう確信した
ルーナは、とうとう二人に口を挟んだ。
「無理しないで、私たち仲間なんだから」
 彼女の使う「仲間」という言葉は、心なしかロランとサトリが口に出す以上に重いものをはらんでいる。
ルーナが背負った境遇によるものもあるだろうが、何より、彼女の裏表ない優しさがその一言に
込められているせいに他ならない。
 戦友にして親友の二人に迫られて、ロランは気弱な笑みをますます情けなく崩した。
「ごめん。でも本当に何でもないんだ」
 それぞれに一度ずつ伝えた言葉を、ロランはもう一度やんわりと繰り返す。
 物腰こそ柔らかいもののこうなると彼は中々に頑固で、余程のことでもなければその主張を変えることは
ない。それをよく知る二人には、追及を諦めるより他の選択肢は残されていなかった。
「それならいいけど、ロランったらいつも一人で抱え込むんだもの。でもまあいいわ、私たちでよかったら
いつでも相談に乗るから」
「ありがとう、ルーナ」
 心優しい少女の一言に顔を綻ばせて、ロランは感謝を述べた。決して個人の領域に無理やり踏み込む真似を
しないルーナは、相談役としてこの上ない相手だと彼は思う。
「あ、シスターに呼ばれてる。私ちょっと行ってくるわね」

180モンスターズの憂鬱(2):2005/02/03(木) 06:51:22

 気候に慣れ、強敵との戦いに慣れるためには、それなりの時間が必要だ。そのために身を寄せる場所を
提供してくれたのは、ロンダルキアにただ一つ佇む小さな祠の神父とシスターだった。日々の食事から蘇生まで
何かと世話になっており、特に女性同士ということもあってかルーナとシスターは親しくしているようだった。
「ルーナの奴、意外と呑気なんだな」
 若い女性の声がした台所へとルーナは小走りで駆けていく。彼女がドアの向こうへ消えるのを
見届けて、サトリは軽くため息をこぼした。
「そう?」
「明日はいよいよだってのに」
「気楽な方がいいよ。変に気張るよりは」
「そりゃそうだ」
「だろ?」
 言葉少なな形ばかりの会話を断ち切るように、気のない笑顔を浮かべたままロランはついと窓の外へと
視線を逸らした。白く柔らかなはずの雪の結晶が、鋭い凶器となって窓ガラスに噛み付いてくる。ほんの
数センチ先の光景が、暖かな部屋の中では遠い出来事のようだ。
 その様を食い入るように見つめるロランの肩を、サトリはぐいと掴んだ。
「……おい」
 ロランはサトリの乱暴な仕草に少しためらった風だったが、彼の目が怒っていないことを
確認すると、また力ない笑みを作って言った。
「サトリ、ルーナにも言ったけど大丈夫だよ。ただ疲れてるだけだ」
「疲れてるだけってお前、」
「今日戦った魔物……あいつら、ものすごく手強かっただろ? それだけだよ」
 思い切り顔を渋らせたサトリの言葉を遮って、ロランは矢継ぎ早にそう告げた。彼のこういう態度は珍しい。
「……」
 ルーナのように柔和な態度を取ることは、サトリには出来ない。こうも頑なに拒まれ続ければ、
サトリは黙り込むしかなかった。
 それを納得してもらえたのだと受け取ったロランは、規則正しく揺れていたロッキングチェアから
立ち上がった。握り締めたゴーグルのレンズは、手のひらの温もりで白く曇っている。
「心配しなくても、今日はもう寝るから。明日はいよいよハーゴンの討伐だし、体調は万全にしておかなくちゃね」
 サトリのほうを見てへらりと笑ったロランの顔色は、確かに先刻ルーナが言ったように優れない。明らかに
苦悩を抱えているロランを放っておくわけにもいかなかったが、それにしても彼を引き止めておくのは憚られた。
「……ああ」
「じゃあ、僕は先に寝室に行ってるよ。サトリも早く寝たほうがいい……お休み」
「……ああ」

181モンスターズの憂鬱(3):2005/02/03(木) 06:51:44

 手に持った魔術書の内容は、先程以上に頭に入ってこなかった。いつものサトリなら熱中して読みふける、
高尚な文句が書き連ねられているはずの文字列が、今はただの記号に見えて仕方がない。
 自分を納得させるように盛大なため息を吐き出して、サトリは立ち上がった。
 台所ではルーナとシスターが明日の弁当の下ごしらえをしていて、「もう寝る」と告げにその場面を覗いた
サトリは何だか拍子抜けしてしまった。まったくハイキングにでも行くつもりなのかと言いたくなる様な、苦難の
旅の集大成が目前になっているとはとても思えない光景だ。しかしそれが彼女たちなりの心遣いであり、
精一杯の気晴らしであることも同時に理解していたため、彼は敢えて何も言わずにその場を立ち去ることにした。
 石造りの階段を上って、二階へと向かう。年老いた神父は既に寝入っているらしく、男二人が
拝借している寝室の隣部屋は静まり返っていた。
 サトリは寝室のドアを開いた。ランプの中で炎がちらちらと揺れ、室内を暗く照らしている。
「……ロラン、まだ起きてるか?」
 返事はなかったが、寝台の上でロランの身体がぴくりと動く。ロランがそのまま起き上がろうと
したので、サトリは慌てて制した。
「そのままでいいから聞け、そのままでいいから」
 すっかり綻びだらけになった愛用の法衣をロランが寝ていないほうの寝台へと投げ捨てて、サトリは暖かな
毛布の中に潜り込んだ。寝返りを打つと、背中を向けて毛布に包まるロランがちょうど目線の先になる。
「……俺たちが心配してるのはな、お前の体調だけじゃない、気持ちもなんだよ。ルーナも
言ってたけどさ、お前いつも一人で抱え込むから。ルーナに話せないことだったら、俺が聞いてやる。
明日の戦いに臨むのにそんな状態じゃ、ハーゴンにも失礼ってもんだろうが」
 下の階で話した際に言えなかったことを、サトリは一息に吐き出した。ロランは一瞬だけ肩を動かしたが、
それきり固まって動かなくなる。
 重苦しい沈黙に耐え切れずにサトリがとうとうあくびを漏らしたところで、たった一言、彼はぼそりと呟いた。
「……ごめん」
 ようやく口を開いたロランのあまりにも彼らしい言葉に、サトリは思わず苦い笑みを浮かべる。
「謝るな。俺たち仲間だろ? 何も話してもらえないんじゃ、逆に不安なんだよ」
「ごめん、ありがとう」
「だーかーら謝るなって、俺お前に謝られるの苦手なんだよ」
 耳の辺りが痒くなる、と言ってサトリはぼさぼさの金髪を掻きむしった。ついでに上半身を起こして、
皺が寄った毛布を撫で付ける。

182モンスターズの憂鬱(4):2005/02/03(木) 06:52:17

「はは、サトリらしいな……大したことじゃないけど、聞いてくれるかい」
 幾重にも重ねられた毛布を掻き分けて、ロランは寝返りを打った。それゆえに精悍な顔立ちになり切れない
大きく丸い瞳が、遠慮がちにサトリを捕らえる。
「ったりめぇだろ」
 相棒のそんな顔を見るのが、実はサトリのお気に入りだった。サトリは戦闘能力もリーダーとしての気質も、
ロランには決して叶わない。彼が唯一このローレシア王子に優越感を抱ける瞬間が、まさに今だった。
「……バズズ」
「え?」
「今日戦った、あのシルバーデビルだよ」
「あ、ああ……そいつがどうかしたのか?」
 ハーゴンが潜む塔の番人。あの白い魔物を、忘れられるはずがない。
 他の同種の魔物とは比べ物にならない体躯、知能、魔力。もはやロンダルキアに残す敵はハーゴンのみ、と
息巻いていた三人が急遽祠での一晩の静養を過ごさざるを得なくなったのは、偏に彼によるものだった。
「あいつが最期に言ったこと、サトリは覚えてるか?」
 サトリのいる寝台の方を向きながらも、ロランの視線はどこか遠くへと向けられていた。サトリは
何も言わず、ロランの次の言葉を待った。
「覚えてないんならいいんだけど」
 何も言わない親友に気が咎めたのか、ロランはふとそう言った。
「言えよ」
 サトリは強い目線でロランを見据える。こういう場合、視線が強いほうが勝つのだ。
 ついに折れたのは、ロランの方だった。
「まったく、君に隠し事は出来ないな」
 苦い笑みを浮かべるのは、今度はロワンの番だった。寒気に荒れてひび割れた唇を痛そうに吊り上げながら、
悪戯っ子のようににやりと笑ってみせる。しかしその笑顔は、次の台詞をつむぐ前に消えてなくなっていた。
「……勇者が英雄とは限らない、超人はすなわち魔の者に等しいのだから」
 頬に当てた枕に視線を落として、ロワンは言った。
「は?」
 サトリが反射的に疑問符を返したのを、つまりいまいち意味が飲み込めないのだとロランは
解釈したらしく、取り繕うように言葉を続ける。
「よく分からないだろ? 僕もよく分からないんだ。……だけど、何だか嫌な気分になってさ」

183モンスターズの憂鬱(5):2005/02/03(木) 06:52:56

 それきりロランは何も言わず、サトリもどう返したらいいか分からずに黙り込んだ。こういうときに
上手い慰めの言葉を思いつけない自分が、サトリにはもどかしくてならない。
「……まあ、アレだ」
「ん?」
 こういう場合、軽口王子が思いつく最善策は決まってただ一つだった。
「とにかく、俺たちが英雄じゃなきゃこの世界に英雄なんて存在しないぜ。俺たち以上の勇者なんて
いやしねぇんだからさ」
「うっわ、ご先祖様の罰が当たりそうだ」
 軽口で全てを煙にまいてしまえ。それが、サトリが苦し紛れに達した結論だった。それでも、途端に
破顔していつもどおりに自身の失言をたしなめるロランを見ると安心できる。
「ま、いいじゃねぇか」
「サトリらしいや」
「俺らしくない俺なんて俺じゃないだろ」
「あはは、おっしゃる通りだな」
 ひとしきり掛け合い漫才を楽しんでひとしきり笑った後で、サトリはふと真顔に戻って呟いた。
「バズズとやらが何を言ったか俺は知らないけど、お前はお前だ。気にすんなよ」
「……うん」
 ロランの丸い瞳が泣きそうに歪められて、サトリは胸中で焦る。
「ま、俺から言わせりゃお前の馬鹿力は十分化けもんだけどな」
 サトリが気まずい雰囲気をごまかそうとすると、決まって冗談交じりの言葉が口からこぼれてくる。
それを知らないロランではなかったから、彼の言葉ひとつひとつが一々ありがたかった。
「失礼だな、そんなこと言ったらしょっちゅう死んだり生き返ったりしてる君だって化け物じゃないか」
「ルーナだって人外になった前科ありだぜ」
「それ、ルーナに聞かれたら確実に殺されるな」
 二人は声を揃えてくつくつと忍び笑った。下の階から今にもくしゃみが聞こえてきそうだ、とサトリは思った。
「とにかくだな、俺たちゃ三人揃って化けもんだってこった。あんまし気にするな」
「別に気にしてなんか、」
「そうやってすぐに弱いとこ隠すのな、お前は」
 ロランの否定の言葉は、サトリの鋭い声色にかき消された。突然おどけた調子を潜めたサトリに
ロランはうな垂れるしか出来ず、毛布を寄せて肩を覆った。
「何につけてもそうだ。剣術の稽古もこそこそやって、わざわざ俺たちの目を盗んで魔術指南の本読んで。
腹に穴開いてんのに『気にするな』って言われた日にゃ、本気で気にするの止めようと思ったぜ」
「それは……」
 その先に続く言葉が見つけられず、ロランの弁明は未完成のまま空気に溶けていった。
「言い訳無用。俺はお前のそういうとこ嫌いじゃないけど、不安になる。そのままじゃ多分、いつか自滅するぜ」
「そんなことないよ」
「……どうだか」
「サトリは時々心配性すぎるんだよ、それだけだって」
「そうかねぇ」
「そうだよ」
「……まぁいいや。さ、寝るぞ」
 これ以上話しても埒が明かないことは眼に見えて分かっていたので、サトリは押し問答がこじれる前に
会話を打ち切ることにした。改めてもぐりなおした寝台は、体温が移ってすっかり温まっていて心地いい。
「ああ、お休み」
「明日寝坊すんなよ」
 最後の戦いを控えているはずなのにロランの就寝前の挨拶の調子はいつもと全く変わらず、それが
やや緊張気味のサトリには少し癪に障った。
「君に言われたくないな」
 茶々を入れれば、思いがけずロランは笑いながらも付き合ってくれた。引っ込みが付かなくなって、
サトリは言い返す。
「俺がいつ寝坊したんだよ」
 笑いを交えながら、ロランは今までの長い旅路を思い出す。こうして振り返ると、辛かったことなど
なかったように思えてしまうから不思議だ。
「リリザを発つ朝だろ、ラーの鏡を探しに行く日にもだし、ああ、確かデルコンダルの決闘の
ときもだ。ベラヌールの一件は仕方ないけど、テパの町でドン・モハメに会いにいくのが昼過ぎに
なったのは君のせいだよね……って、サトリ?」
 同意を求めてサトリへと声をかけたが、ついに彼からの返事はなかった。二人分の呼吸音と吹雪が
窓を叩く音だけが、部屋の空気を振るわせていた。
「何だ、もう寝ちゃったのか。……お休み、サトリ」
 最後に親愛を込めて友人の名を口にして、ロランは瞳を閉じる。

184モンスターズの憂鬱(6):2005/02/03(木) 06:53:16

 それきりロランは何も言わず、サトリもどう返したらいいか分からずに黙り込んだ。こういうときに
上手い慰めの言葉を思いつけない自分が、サトリにはもどかしくてならない。
「……まあ、アレだ」
「ん?」
 こういう場合、軽口王子が思いつく最善策は決まってただ一つだった。
「とにかく、俺たちが英雄じゃなきゃこの世界に英雄なんて存在しないぜ。俺たち以上の勇者なんて
いやしねぇんだからさ」
「うっわ、ご先祖様の罰が当たりそうだ」
 軽口で全てを煙にまいてしまえ。それが、サトリが苦し紛れに達した結論だった。それでも、途端に
破顔していつもどおりに自身の失言をたしなめるロランを見ると安心できる。
「ま、いいじゃねぇか」
「サトリらしいや」
「俺らしくない俺なんて俺じゃないだろ」
「あはは、おっしゃる通りだな」
 ひとしきり掛け合い漫才を楽しんでひとしきり笑った後で、サトリはふと真顔に戻って呟いた。
「バズズとやらが何を言ったか俺は知らないけど、お前はお前だ。気にすんなよ」
「……うん」
 ロランの丸い瞳が泣きそうに歪められて、サトリは胸中で焦る。
「ま、俺から言わせりゃお前の馬鹿力は十分化けもんだけどな」
 サトリが気まずい雰囲気をごまかそうとすると、決まって冗談交じりの言葉が口からこぼれてくる。
それを知らないロランではなかったから、彼の言葉ひとつひとつが一々ありがたかった。
「失礼だな、そんなこと言ったらしょっちゅう死んだり生き返ったりしてる君だって化け物じゃないか」
「ルーナだって人外になった前科ありだぜ」
「それ、ルーナに聞かれたら確実に殺されるな」
 二人は声を揃えてくつくつと忍び笑った。下の階から今にもくしゃみが聞こえてきそうだ、とサトリは思った。
「とにかくだな、俺たちゃ三人揃って化けもんだってこった。あんまし気にするな」
「別に気にしてなんか、」
「そうやってすぐに弱いとこ隠すのな、お前は」
 ロランの否定の言葉は、サトリの鋭い声色にかき消された。突然おどけた調子を潜めたサトリに
ロランはうな垂れるしか出来ず、毛布を寄せて肩を覆った。
「何につけてもそうだ。剣術の稽古もこそこそやって、わざわざ俺たちの目を盗んで魔術指南の本読んで。
腹に穴開いてんのに『気にするな』って言われた日にゃ、本気で気にするの止めようと思ったぜ」
「それは……」
 その先に続く言葉が見つけられず、ロランの弁明は未完成のまま空気に溶けていった。
「言い訳無用。俺はお前のそういうとこ嫌いじゃないけど、不安になる。そのままじゃ多分、いつか自滅するぜ」
「そんなことないよ」
「……どうだか」
「サトリは時々心配性すぎるんだよ、それだけだって」
「そうかねぇ」
「そうだよ」
「……まぁいいや。さ、寝るぞ」
 これ以上話しても埒が明かないことは眼に見えて分かっていたので、サトリは押し問答がこじれる前に
会話を打ち切ることにした。改めてもぐりなおした寝台は、体温が移ってすっかり温まっていて心地いい。
「ああ、お休み」
「明日寝坊すんなよ」
 最後の戦いを控えているはずなのにロランの就寝前の挨拶の調子はいつもと全く変わらず、それが
やや緊張気味のサトリには少し癪に障った。
「君に言われたくないな」
 茶々を入れれば、思いがけずロランは笑いながらも付き合ってくれた。引っ込みが付かなくなって、
サトリは言い返す。
「俺がいつ寝坊したんだよ」
 笑いを交えながら、ロランは今までの長い旅路を思い出す。こうして振り返ると、辛かったことなど
なかったように思えてしまうから不思議だ。
「リリザを発つ朝だろ、ラーの鏡を探しに行く日にもだし、ああ、確かデルコンダルの決闘の
ときもだ。ベラヌールの一件は仕方ないけど、テパの町でドン・モハメに会いにいくのが昼過ぎに
なったのは君のせいだよね……って、サトリ?」
 同意を求めてサトリへと声をかけたが、ついに彼からの返事はなかった。二人分の呼吸音と吹雪が
窓を叩く音だけが、部屋の空気を振るわせていた。
「何だ、もう寝ちゃったのか。……お休み、サトリ」
 最後に親愛を込めて友人の名を口にして、ロランは瞳を閉じる。

185モンスターズの憂鬱(7・終):2005/02/03(木) 06:53:51
 隣の寝台からすうすうと控えめな寝息が聞こえるのを確認して、サトリは瞼を開いた。
「……やっぱ、気にしてたか」
 彼は知っていた。魔物が死の間際にロランに放った呪詛の言葉も、バズズの落ちた首を睨みつけて
ロランが異様に身体を硬くしていたことも。
 若年ながらも武術の国・ローレシアで一、二を争う剣術の達人であるロランが、その力ゆえに
恐れられていることもサトリはまた察していた。旅の途中で立ち寄ったローレシア城だが、ロランと
連れ立って歩いているだけで何か得体の知れないものを見るような眼差しを向けられるのが、
彼にはたまらなく不快だった。
 サマルトリアではのんびり屋で通っていたサトリだが、自分はのんびり屋というよりも単に
怠け者で面倒くさがりのだけだ、と彼は思っている。へらへらと振舞ってはいるが、周囲の感情には
わりと敏感な自信があった。
 尊敬と怯えが入り混じった視線を受けるたび、ロランの肩が強張るのが痛々しい。そして日頃から穏やかで
笑みを絶やさない彼の瞳に影が落ちるのに、サトリは逐一心を痛めていた。
 だからなのだろう、とサトリは思う。バズズの言葉にロランが敏感に反応したのは。
 魔物という存在は一概に人の弱い心を見抜き、付け込む力に長けているものだ。その中でも抜きん出た
力を持つバズズのような輩なら、相手の精神を抉ることなど造作もないことに違いない。
「こればっかりは、俺がどうにか出来る問題じゃねぇもんな……」
 サトリは小さくぼやいて、ため息をこぼした。

 ――出来ることならば、守ってやりたい。誰にも傷付けさせたくない。

 彼にこの思いが伝わるときは、きっと来ない。しかし大切なのはそれではないことを、
サトリはよく理解していた。
 静かに眠るロランを起こさないよう、気配を消してサトリはそっと起き上がる。寝室に備え付けられた
小さな机の上には、精霊ルビスから送られた美しい宝玉の首飾りが無造作に置かれていた。
 惑いを打ち払うルビスの加護が込められたその守りを、毛布越しのロランの胸元にそっと乗せる。彼の
苦悩が少しでも晴れるよう祈りを込めて。
 明日の朝ロランが目覚めて、精霊の宝玉が彼の寝台にあることを尋ねられたら何と答えたらいいものか。
 ――とりあえず、ルビスが加護を与えたのだろう、とでも言っておこう。
 そう思いながらサトリは再び毛布に包まった。



 明日、彼らは英雄になる。

186179-185:2005/02/03(木) 06:58:51
本スレで話題が出ていたモンスターズ+で書かせていただきました。
数あるDQ漫画の中でも屈指の名作だと信じて疑ってないです(w
勢いあまって書いたもののどこに投下すればよいか分からなかったので、
とりあえず2部門で投稿させていただきました。
お眼汚し、失礼致します。

187名無しの勇者:2005/02/03(木) 07:31:07
>186
GJでつ。
ロランかわええ(*´Д`)ハァハァ
孤立しているのを一人ただ耐えているロランが激萌えでつ。

>175さんも是非、続きキボンヌ。

188179-185:2005/02/05(土) 00:12:57
184さん、感想ありがたいです。
稚拙な節も多々ある文ですが、萌えていただけるなんて光栄です。
久々にモンスターズ+萌が来てますので、もしかしたらまたこそこそ投下してるかもしれません。

……5と6が凄いことになっちゃってますが、見てみぬ振りしてくださいorz

189179-185:2005/02/05(土) 00:15:33
184って……187さんごめんなさい○| ̄|_

190名無しの勇者:2005/02/05(土) 02:28:42
>179-185の姐さん
楽しませてもらいました。3人ともすげーイイ!
モン+好きとしてもの凄く感謝!

191179-185:2005/02/07(月) 22:48:46
こりずにまた投下します。179-185の続きになります。
相変わらず上手く纏められてない文ですが、どうぞご容赦ください……。

192君の願いが叶う日(1):2005/02/07(月) 22:49:28

 ロランが目を覚ましたのはまだ夜が明ける前で、就寝前に灯した
寝台の脇のランプの火は尽きかける寸前のところでちらちらと揺れ、瞼越しにも
その存在を主張していた。
 眠りの世界から放り出されてしまった以上瞳を閉ざし続けているわけにも
ゆかず、ロランはうっすらと目を開けた。乾ききった眼球と瞼が擦れて
少し痛い。寝覚めでぼやけた視界には、何の飾り気もない石の天井が広がっている
だけだった。もはや見慣れた目覚めの景色だ。ロンダルキアの祠で寝泊りを
世話してもらうようになってから、もう十日以上が経つ。
 何度かまばたきを繰り返しながら、ロランは頭をゆっくりとめぐらせて
部屋の様子を見渡した。雪明りが厚手のカーテンの切れ間からぼんやりと漏れて、
かすかなランプの炎と共に部屋の中を照らし出していた。暗く重たい天井が、今いる場所が
旅の途中で立ち寄った街々の宿屋とは違うことを、最後の戦いがいよいよ迫っている
ことを、嫌でもロランに思い出させる。
 窓の外はこの世の終わりのように静まりかえっていて、昨夜には確かに
吹きすさんでいたはずの吹雪がまるで嘘のようだった。隣の寝台から漏れる
サトリの規則正しい寝息以外、音は無い。
 とうとうここまで来てしまったのか、とロランは改めて思った。ローレシアの城を
旅立ってからの様々な出来事が、一瞬のうちに頭の中を通り過ぎていく。
先行きも見えないまま一人でさ迷った頃があまりに遠い昔のように思えて、彼は
布団の中で音を立てずに笑った。
 本当にいろいろな事があったものだ。世界中を旅して回った。行き詰まったことは
多々あったが、その旅にも今日で終止符が打たれる。邪神官を討ち、ロトの血が
世界を救う。その目的がいよいよ果たされるのだ。
 それは喜ぶべきことだったが、ロランには一抹の名残惜しさもあった。志を共にする
仲間との、使命を帯びながらも気ままな旅。世間を知らずに城の中で育った
箱入り王子にとって、触れるものは皆一様に新鮮で素晴らしいものばかりだった。
広大な草原、荘厳にそびえる山々、賑わう下町。
 宿屋で出された暖かな郷土料理をつつきながら、サトリの冗談をルーナが
やんわりとたしなめる。それをロランが笑って、二人も笑う。時には弱音も吐きながら、
三人で確かめ合いながら進んだ道程。

193君の願いが叶う日(2):2005/02/07(月) 22:49:56

 長い旅路を思い出せば、旅の感傷ばかりがロランの胸を満たした。
 ――今はまだ、振り返るときじゃない。
 取りとめも無く流れる思考を移すように仰向けのままの姿勢から寝返りを
打とうとして、ロランはふと胸元に重みを感じた。ずっしりとのしかかる
その感覚は、しかし不思議と心地いい。
 毛布の上に右手を這わせて探ると、すぐに原因を突き止めることができた。
「……あ」
 毛布を除けて起き上がったロランが目にしたものは、美しい宝玉だった。大地の
精霊の紋章をいただいたその首飾りは、ランプの炎を受けてきらきらと
輝いている。ひんやりとした感触が火照った肌に心地いい。
 その首飾りを手に持ったまま、おや、とロランは首をかしげる。就寝前、それを確か
卓の上に置いたはずだと彼は記憶していた。精霊の守りに祈りをささげてから
眠りにつくことが、最近の彼の習慣になっていたのだ。
 ただの思い違いなのかとも考えたが、自分が寝台に持ち込んで眠ったのだとは
到底ロランには信じられなかった。他にも様々な可能性を模索してみたものの、
納得する理由が欠片も見つからない。
「何なんだ、一体……」
 誰に言うでもなくロランは呟いた。まったく身に覚えの無い出来事は、少し不気味だ。
 沸き起こる不審な思いを振り切るように、彼はわざと大きく頭を揺さぶった。
その拍子に、サトリの眠る寝台に視線が移る。すぐ隣で悩むロランなどどこ吹く風で
呑気にいびきなどをかいていて、ロランは八つ当たりよろしくその金髪頭に少し腹を立てた。
 こののんびり屋め、と目一杯の皮肉と親愛を込めてサトリに無言の非難を浴びせた
ところで、ロランははたと気付く。
 ――ああ、そうか。
 ロランは、ふと昨晩のサトリとのやりとりを思い出した。
『お前はお前だ。気にするな』
 ロトの守り神と言っても過言ではない精霊ルビス。彼女から賜ったその美しい守りは、
あらゆる迷いや誘惑を断ち切り、正しき道を示すという。「してやったり」と言わんばかりの
皮肉っぽいサトリの笑みが、手に持った宝玉の光の中に浮かんで、消えた。

194君の願いが叶う日(3・終):2005/02/07(月) 22:50:41

 思い返せば、いつもそうだった。
 どんな些細なことにも耳を貸し、親身になって心配してくれるのはルーナだ。サトリは
滅多なことがない限り、表立って励ましの言葉をかけるような真似はしない。
かと言って彼が冷血漢だというわけでは決してなく、いつでも遠まわしながらよろける
ロランの肩を支えてくれた。
 ロランは手にしたルビスの宝玉をそっと持ち上げた。銀の止め具が
しゃらしゃらと軽やかに鳴り響いて、不気味に静まり返った部屋の空気を洗い流して
いく。そういえば昨夜の苦悩に反して不思議と嫌な夢にうなされなかったことを、ロランは
思い出す。
 不器用で遠回りで、あまりにも直接的なその激励のやり方に、彼はつい
顔をほころばせた。改めてサトリの眠る寝台を覗き込んだが、よく見ればそれは
照れくさくてそっぽを向く悪戯っ子のようにも見えて、ロランは笑みをますます濃く浮かべた。
 サトリのことだ、どうせ目が覚めたら適当な台詞でごまかすつもりだろう。彼とはお世辞にも
長年の付き合いとは言えないが、ロランとて伊達に苦難の旅を共にしてきたわけでは
ない。サトリが視線を斜めに向けて「精霊様の加護でも下ったんじゃねぇの」とでも言う姿が
容易に想像できた。
「まったく……口で言ってくれればいいのに」
 そうは言ってみたものの、励ましや慰めを言葉にすることが何よりも苦手なサトリの
ことだ。それが精一杯の彼なりの感情の表し方なのだと、ロランには痛いほどよく分かった。
 ――苦しいのなら、守ってやる。俺がお前を。
 迷いを払うという精霊の宝玉は手の内で柔らかくきらめいて、サトリの無言の心遣いを
そうと告げていた。
「言ってくれなきゃ、こっちも何も言えないんだよなぁ」
 敢えて声に出してそう呟き、ロランは苦く笑う。是、と答える準備は既に出来ていた。
 実際、ロランはサトリの思いに薄々勘付いていた。仲間として、友人としての連帯意識や
親近感――そしてそれ以上の思慕にも。
 感情をストレートに伝えるのは不得手なサトリだったが、その挙動一つ一つから彼の
思いを読み取るのは、造作も無いことだった。基本的に分かりやすいのだ、サトリという男は。
 しかしながらその好意に対する否定的な気持ちは不思議と湧き上がって来ない。今まで
腫れ物を触るような扱いを受けて育ってきたロランには、むしろ彼の気持ちは有難かった。
 そしてそれが叶わぬことだとも、彼は余さず理解していた。
 魔法こそ使えないものの、剣術ならば誰にも負けない自信がある。少なくとも、
王宮兵士直々の指導を体よく抜け出してさぼっていた(本人が語っていたので間違いあるまい)
サトリでは、「守ってやる」対象が逆転してしまっているのが現実だった。
 それ以前に同性同士、何よりもそれぞれが継承すべき王家の血筋を担うべき存在だ。この旅が
終わってしまえば、おそらく身を寄せ合うことすら儘ならないだろう。
 それでも、ロランは思うのだ。

 ――彼が自分を守りたいと思うのなら、守られてやりたい。全てが終わったら、いつかきっと。

 我ながらわがままで子どもじみた考えだと胸中で笑い、その思いが叶うときが
来ることをロランは心から願った。

195名無しの勇者:2005/02/13(日) 03:41:43
>192-194
乙です。すごくよかったよ。感想スレも覗いてみて下さいね。

196名無しの勇者:2005/03/09(水) 19:51:27
忘れられた頃にサトロラひっそり投下します。
無茶苦茶長くなった上にぐだぐだでごめんなs…y=-( ゚∀゚)∵ターン

197So, you don’t have to worry(1/6):2005/03/09(水) 19:53:14

 幾百年もの沈黙を保っていた双塔が轟音と共に崩れ去っていく。深い憎しみや孤独や
悲しみを一身に背負い続けてきたその塔は、長い年月を経てようやくすべての役目を果たし
終えたようだった。
 その様子を、三人は遠くからじっと眺めていた。
 危険にいち早く気付いたサトリが二人を引き連れて移動呪文を唱えたのだ。崩壊を始めた
塔の頂上にいたサトリとルーナ、双塔の架け橋の下に風のマントで落下していたロラン、
そのままであれば、三人とも瓦礫のなだれに巻き込まれて間違いなく命を落していただろう。
「……終わったのね」
 感慨深げにルーナはぽつりと言った。丸く愛らしい瞳は細められ、今やすっかり瓦礫の
山と化したロンダルキアの双塔に向けられている。彼女は気付かなかったが、その脇では王子
二人も同じようにどこか気の抜けた表情を浮かべて遠くを見つめていた。
 長い、本当に長い道のりだった。世界を駆ける旅を終えて尚出口の見えなかった苦悶の
日々が、ついに終わりを迎えたのだ。
 ロンダルキアの雪山に木霊していた双塔の最期の咆哮が次第に遠のいていく。やがて辺りが
完全な静寂に包まれ、遥か彼方の空で鳶が鳴いた。その呑気な声が無性におかしく
感じられて、三人は足元に広がる草原に寝転びわけも分からぬままに笑いあう。
 そうしてひとしきり騒いでから、三人一様に無言で青空を仰いだ。快晴だ。ほんの
数刻前までは吹雪と暗雲に隠れていた陽光が、今は惜しげもなく大地に降り注いでいる。
「さて……これから、どうする?」
 いつしか重くなっていた口を最初に開いたのは、サトリだった。上半身を起こし衣服に
付着した葉を大雑把に払う。邪神官討伐の旅に赴いたときと同じ、紋章の刺繍が施された
法衣だ。そしてサトリが何気なく呟いた台詞は、宿先で地図を囲みながら三人でよく
交し合った言葉。かつて旅をしていた頃を思わせるような一場面に、ロランは自然口元を緩ませた。
「これから、か。そう言えば考えてなかったな」
「そうねぇ……もとの時代に帰る方法も分からないし、どうしたらいいかしら」
 緩和しきった頭を働かせる気になれず、ロランはなおざりに返事を返す。ルーナも同じ
気分なのだろう、柔らかな若葉の上で寝返りを打ちながら似たような台詞を吐いた。
「とりあえず、なるようにしかならないってか」
 全く実のない意見を全く実のない結論で適当にまとめ、サトリは大きく口を開けてあくびをした。

198So, you don’t have to worry(2/6):2005/03/09(水) 19:53:44
 見知った土地に見知った仲間を目の前にしてあやうく失念しかけていたものの、彼らが身を
置いているその時代は本来三人がいるべき時軸ではなかった。いつの間にか迷い込んだ
その世界では、三人にしてみればほんの数月程度前の出来事である破壊神との戦いが、既に
伝説と化すほどに過去のこととなっている。
 ルーナと同じように寝返りを打って、ロランは瞳を閉じた。そしてたった幾日かの間に起こった
数々の出来事を瞼の上に思い浮かべる。見慣れぬ魔物を供とし自らを魔物使いと名乗った不思議な
少年、異形の力を身に纏ったかつての強敵との邂逅。絶望の深淵、そして再会。
 その横では、サトリとルーナも同じように目を閉じて数日間の記憶を思い返していた。
 二人にとっても、それは忘れられぬ日々である。
 行方をくらましたままの仲間を探して世界中をくまなく探し回った後の、最後の望みを託しての
ロンダルキアへの過酷な旅。邪の神は滅びても世界に根付いた魔物の存在は消えず、極寒の
地へと続く洞窟には相変わらず侵入者を狙う獣たちがはびこっていたのだ。
 しかしやっとの思いで辿り着いたその白銀の世界にも友の姿はなく、二人は激しい
絶望にかられた。もはや友はどこにもいないのではないか、もしや思いつめて自ら命を絶って
しまったのではないか、と悲嘆にくれる二人の前に、突如現れた旅の扉。
 一縷の希望に縋るがごとく飛び込んだその先――そこに、彼はいた。
 再会の感激を噛みしめる間もなく激戦に巻き込まれはしたものの、彼らはようやく
巡り合うことが出来たわけだ。
 そして今、こうして何事もなかったように三人で日光浴などをしている。隔てられた時を微塵も
感じさせないそのひと時は、三人にこの上ない幸福感を与えた。
 風はどこまでも穏やかで、僅かにこびり付いたままの悲しみすらも洗い流していくかのように、
柔らかく草原を吹き抜けていく。頭上では鳶が輪を描いて舞っていた。

 頭上で燦然と輝いていた太陽が次第に西に傾き、溶け残った雪が夕日を受けて黄金色に
輝き始めた頃、三人はようやく重い腰を上げた。
 吹雪は収まったとはいえ、ロンダルキアは高山地帯だ。宵になれば底冷えのする外気が容赦なく
体温を奪っていくだろう。その上洞窟などには凶暴な魔物も多数生息しており、野宿を
するにはあまり向かない土地である。
「しっかし、どこに行ったもんかねぇ……」
 サトリは辺りを見渡した。視界の隅々まで広がる大自然は美しく壮大だが、現在彼らが
置かれた状況を考えるとあまり喜ばしい景色ではない。
「あの祠は?」
「まだあるけれど、今は誰もいない」
 ルーナが案を出したが、ロランはやんわりと却下した。自身もまた旅の途中で世話になった
祠を訪ねてみたのだが、そのときには既に無人で、誰かに荒らされたような状態になって
いたと彼は語った。
「そんなトコは御免だぜ」
 彼らが現在いる位置は、双塔がそびえていた台地を見渡せる小高い丘だ。そこからかつて
三人が身を寄せていた小さな教会の祠に向かうには、それなりの時間と体力が必要とされる。
その上凍えることはないと言ったところで、温かな料理や傷ついた身体を休めるための毛布、
治療用の薬草などはとても期待できないだろう。そこへ向かったところで
一時凌ぎにしかならない、とサトリは言ったのだ。
「あ、そう言えば」
「なあに?」
 おもむろに口を開いたロランに、ルーナは話を振った。
「宿なら心配しなくても良さそうだ」

199So, you don’t have to worry(3/6):2005/03/09(水) 19:54:26
 三人の内で唯一移動呪文を能くするサトリの魔力は、もはや長距離の移動を可能に
するほど残されていなかった。「その時代」を長らく旅していたロランがロンダルキア山脈の
麓に人里があることを覚えていたのは、非常に幸いなことだったと言えよう。
 魔力による移動をする際に発せられる青い光に包まれて三人が麓の町に辿り着いた
ときには、すでに気の早い星が輝き始めていた。人々は忽然と現れた少年たちを奇異なものを
見る目でじろじろと眺めたが、すぐに興味をなくしたのかそれぞれの日常へと戻っていく。
 ルーナが何気なくロランに町の名前を聞いたが、ロランは申し訳なさそうに首を振った。極力
人の集まるところを避けて旅をしていたので、町の存在は知っていたが名前までは分からないと
彼は言う。サトリが街道にいた若い娘をつかまえて土地名を聞いてみたところ、それは
三人に聞き馴染みの無いものだった。
 とにかく安い宿を見つけて部屋を取ることができ、定食屋か酒場で腹を満たすことが
できれば町の名前など行く当ても無くさすらう旅人にはどうでもいいことである。それは
ロラン達にとっても同じことで、実際にその町の名物だという温かな料理を目の前にして
しまえば、知らない土地にいるという疎外感は彼らの胸中からほとんど消えうせてしまっていた。
 根菜と鶏肉を主とした簡素な郷土料理だが、町の周辺でしか採れないという香草を
ふんだんに使ったメニューは、なるほど確かに名物というに相応しい味である。元々ハーブの
栽培に興味のあるルーナがしきりと配給係に香草の名前を尋ねていたが、満足な返答は
もらえなかったようで、不満げに頬を膨らませてお薦めだという鶏の香草焼きを突いていた。
 気心の知れた仲間との和気藹々とした晩餐は続き、それをほほえましく眺めていた店の
マスターに地元の果実酒などを振舞われて、三人は上機嫌で料理店を後にした。
 夜の町並みをそぞろ歩きながらの帰路であったために宿屋のドアを叩いたのは随分と遅い
時間になってしまっていたが、おかみは嫌な顔一つすることなくロラン達を迎え入れた。
彼女に侘びを入れて部屋のカギを受け取り、荷物を寝室に放り込んで取りあえずそれぞれ
湯浴み場へと向かう。
 落ち着いて今後の動向を考えられるようになったのは、それから後のことだった。示し
合わせた通りに人気の無い広間を抜けてテラスへと向かう。誰もいない空間は一風変わった
相談をするにはもってこいの場所だ。ロンダルキアから吹き降ろされる冷たい夜風が、風呂上りで
ほてった身体には心地いい。
 周囲を気にすることなく三人頭を寄せて明日以降のことを話し合い、取りあえず数日間の
行動をまとめて寝室へと引き上げることとなった。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「うん、お休み」
「おう」
 簡素な廊下の上で、ルーナは王子二人と就寝の挨拶を交わす。三人積もる話もあったのだが、
同室を取ることは流石に憚られた。邪神官討伐の頃には一室で夜を明かすことも時には
あったものの、それは財布の中身に宿代にすら裂く余裕が無かったときのみのことである。何より
身体を休めるための宿で、夜を徹して話し込んでいては元も子もない。明日からはまた、
新たな旅が始まるのだ。
 ルーナの姿がドアの向こうに消えたのを見届けて、ロランとサトリは歩き出した。廊下に
敷かれた質素な絨毯はそれぞれの生まれである王城のような豪奢なものではないが、二人の
ブーツを柔らかく受け止めて足音をしっかりと吸収していく。
 ロランは何も言わずに歩く。時々天井を見上げては、感慨に浸るように吊るさられたランプの
明かりをじっと見つめている。サトリは口を開こうと試みたが何を話していいか分からず、
小さく鼻を啜った。

200So, you don’t have to worry(4/6):2005/03/09(水) 19:55:16

 二人に当てられた部屋は、値段の割には広くて清潔で、風通りのよい比較的上等の部屋
だった。寝台が二つに卓と椅子が一つずつ、備え付けの箪笥にはきちんと折りたたまれた部屋着が
しまわれている。大きめに取られた窓には既に柔らかなカーテンが引かれており、室内を暖かく
照らすランプの光が屋外にこぼれるのを防いでいた。
 お互いにまともなベッドで眠るのは久しぶりだと言って軽く笑い合う。あまりにも長い
別離の時間を感じさせないやり取りが、かえって不思議だった。
「それにしても、ルーナには迷惑かけただろ? 言い忘れてたけど、明日宿を発つ前に
謝っておかないと」
 サトリより先に部屋着に着替え終わって、ロランは寝台に体を預けた。柔らかな毛布と日に
干されたシーツが心地よくて、思い切り顔を埋める。そして思い出したように、ぽつりと
そう言った。
「そうだな……っておい、俺はどうなんだよ、俺は」
 自分に対するねぎらいの言葉が無いことに気づいたサトリは少し口を尖らせる。ゴーグルを
外した頭をわざわざ巡らせ、ロランが身を埋める寝台の方を睨みつけてやった。
「聞くまでも無いだろう。感謝してるよ、ものすごく」
「……それならいいんだけどさ」
 面と向かって謝礼を言われるとかえって照れくさい。サトリは床に放り投げた愛用のマントと
法衣を拾い上げて、無造作に箪笥の中に押し込んだ。空いている寝台に飛び込むと、マットレスの
スプリングが軋んだ音を立てた。
「だけどほら、君はその性格だし。ルーナが道中苦労したんじゃないかなって思ってさぁ」
 寝返りを打ってサトリの方を向き、ロランは歯を見せて笑った。冗談めかして言ってはいるが、
あながち冗談ばかりことをその笑みが語っている。
「お前なぁ……本当のこと言うと傷つくんだぞ」
「自覚はあるんだ」
「文句あっか」
「無い」
 意味の無い会話が、やけに耳に心地よく響く。
 サトリは寝台から起き上がって窓際の卓まで歩き、その上に放り出したままの己のゴーグルを
手に取った。随分と傷が増えているが、レンズだけは新しい。ローレシア王子捜索の旅に出る
ことになり、その出立の折に取り替えたためだ。そのすぐ横にロランの青いゴーグルも置かれて
いたがこちらは目を覆う箇所にもいくつか傷が見られ、サトリは手に取った自分のものとそれとを
見比べて少し心を痛めた。
 それを箪笥の中、旅着の上に無造作に放り込んで、それから部屋の隅に放ったままにされている
少しばかりの荷を箪笥の横に移動させる。就寝前にすべきことが大方終わったのを確認して、
サトリはフロアランプへと手を伸ばした。
「消すぞ」
「ん」
 ロランはくぐもった声で承諾の意を示し、サトリはそれを受けてランプの灯を落とした。
室内は一瞬暗闇に包まれたが、ロランが起き上がってカーテンを開けたため、夜の柔らかな
暗がりがすぐに部屋を満たした。月はなく町明かりはほとんど落ちてしまっていたが、星の光が
仄かに明るい。窓の外、群青の空には雲ひとつ無い。
 サトリは卓上に置かれた夜間照明の小さなランプに手を伸ばしたが、窓際に立ち呆ける
ロランを見てその手をそっと下ろした。彼が何を思っているかサトリには分からなかったが、
何であるにせよそれを邪魔するようなことはしたくなかった。
 サトリは紐を緩めていたブーツを完全に脱いで寝台の脇に転がし、そのまま寝台に倒れこむ。
毛布にもぐりこんで頭を枕に沈め、それだけでは落ち着かないので指を組んで金の髪の下に敷いた。

201So, you don’t have to worry(5/6):2005/03/09(水) 19:56:10
 そうして目を瞑ったものの窓際から動こうとしないロランのことが脳裏から離れず、
サトリはそっと瞼を持ち上げた。彼は微動だにせずガラス越しの夜景を眺めている。静まり
返った町と、うっすらと浮かぶロンダルキアの山脈。
 遠くばかりをぼんやりと見つめるロランの様子を見ていると、彼が再び姿をくらまして
しまいそうな予感に襲われる。サトリは思わず口を開いた。
「ロラン」
「何だい、サトリ」
 名前を呼べばロランは振り返り、そして当たり前のように名前を呼び返される。些細な
ことで妙に安堵を覚える自分に軽く呆れ、サトリは胸中で、ああ、と小さくため息を漏らした。
「その……寝ないのか?」
 声をかけてしまった以上何かしらの話題を振らねばならず、サトリは取りあえず当たり障りの
無い質問を投げかけた。刻限は分からなかったが、大分に遅いことだけは明かりの無い
町並みを見ればすぐに知れた。
「ああ、うん、寝るよ。気に掛けてくれてありがとう」
 ありがとうと言って破顔し、ロランは窓際から離れて寝台へと腰を下ろした。先程サトリが
したように下履きを脱いで、かかとを揃えて寝台のすぐ横に置く。
「別に気に掛けたわけじゃねぇよ。明日からいろいろ大変なんだから、寝られるときに
寝とかねーと」
「あはは、そうだね」
 サトリは言葉尻を濁してふいとあさっての方を向いた。本人はごまかしたつもりの照れが
ロランにはしっかりと伝わって、彼は向けられた背中を見て忍び笑いをもらす。
「それにしても、何だかまだ信じられないな」
「ん?」
「……また三人で旅が出来るようになるなんて、夢みたいだ」
「夢なわけあるか、馬鹿」
「分かってるよ、ただ……」
「ただ、何だよ?」
「嬉しいんだ、本当に。嬉しすぎて実感が湧かないくらい」
「そうか」
 くつくつと笑うロランの声で彼が心底から幸せだと伝わってくる。それを聞いてサトリは
ほっと胸を撫で下ろした。決して口には出さなかったが、サトリとルーナは不安だったのだ。
自分たちがロランを探すことが、彼にとっては迷惑な行為でしかないのではないだろうか、と。
「だったらもうどこにも行くんじゃねえぞ」
「どこにも行かないさ。行きようがないよ」
 柔らかく微笑んで、ロランはきっぱりとそう言い放った。
「その言葉、忘れるなよ」
「ああ」
「すっげぇ手間だったんだからな、お前を探すの」
「……ごめん」
 冗談めかして吐き出した皮肉はサトリの思った以上に効果があったようで、ロランは笑みを
消しうな垂れて頭を枕に押し付け、ぽつりとそれだけ言った。やっとの思いで搾り出されたような
か細い声が、サトリの良心をきゅうと締め付ける。
「……悪い」
「何でサトリが謝るんだ」
「そんなつもりで言ったんじゃねえよ。お前を探すにしたって、好きでやったことなんだし」
 恐る恐る寝返りを打ってサトリはロランが横になる寝台を覗き込んだが、枕に埋もれた
その表情を読み取ることは出来なかった。かける言葉が見つからない。次の台詞を考えあぐねて
とうとう彼が寝返りを打ちなおそうとしたとき、ロランはようやく小さな声を上げた。
「サトリ」
「何だよ」
「……そっち、行っていいかい?」
 枕に吸い込まれてくぐもった、しかしはっきりとしたロランの声がそうと告げた。サトリは
しばらくその言葉を胸中で反芻し、無言で寝台に人ひとり分が横になるのに程よい間を空けた。

202So, you don’t have to worry(6/6・終):2005/03/09(水) 19:57:08
 布が摩れる音と、控えめに弾むスプリングの音と、それから裸足で木の床を歩くぺたぺたとした
音がした。二人分の重みに苦情を訴えるように、マットレスがぎしりと軋んだ悲鳴を上げる。
 毛布越しに触れたロランの重みに鼓動が早まる。そんなサトリの心境などどこ吹く風で、黒髪を
温いシーツに押し付けロランは口を開いた。
「本当はさ、恐かったんだ」
 サトリは何も言わず、ロランの背に触れた肩を小さく揺すって続きを促した。
「何がって聞かれても……とにかく、何もかも。だから逃げたんだ。まさか二人が追いかけて
きてくれるなんて思わなかったから、本当に嬉しい」
 吐き出すようにそう言って、ロランは消え入りそうな声で「ありがとう」と「ごめん」を呟いた。
「……そんな悲しいこと言ってくれんなよ。俺たち仲間だろ?」
 旅をしていた頃は常に先頭に立って明るく振舞っていたロランだ。面と向かって彼の弱音を
聞くことは滅多にないことで、サトリは少なからず切り返す言葉をためらった。
「何かあったら、絶対言えよ」
「うん」
「だからもう、どこにも行くなよ」
「……うん」
 伝えたいことはまだ残っていたが、サトリはそれで満足だった。

 暫く言葉を交わさないままそれぞれ寝台の上で丸くなっていたが、眠気はゆるゆると二人に
襲い掛かってくる。
 次第に鈍くなる意識の中で、サトリは背中越しに寝そべるロランの呼吸が少し深くなったのに
気付いた。半身を起こして彼の様子を窺うと、どうやらサトリより先に寝入ってしまった
ようで、ロランは猫が丸くなるように身体を縮めて眠っていた。
 その窄められた背中を無性に抱きしめたい衝動に駆られてサトリは手を伸ばしたが、寸前の
ところで思いとどまった。万一ロランが目を覚ましたら、伸ばされた手の理由を何と言っていいか
分からなかった。
 代わりに自身が被っていた毛布を広げ、ロランの身体にそっと掛ける。そうして自分のほうにも
少しだけ引き寄せた。二人で使用するには幾分か幅が足りなかったが、ロンダルキアの夜を
思えば大した寒さは感じない。
「……どこにも消えるなよ」
 ――俺が、守るから。
 その呟きが出来ることなら彼の耳に入らないように、その思いが叶うことなら彼の心に届くように。
 ちぐはぐな思いを胸に抱いて、サトリは眠りに尽くためにそっと目を閉じた。

203197-201:2005/03/09(水) 19:59:43
以上で終了です。
全然くっついてくれないこの二人…orz

204197-201:2005/03/09(水) 20:00:14
以上で終了です。
何かあんまり801になってないなぁ…全然くっついてくれないこの二人orz

205名無しの勇者:2005/03/11(金) 00:05:18
うぅ…アアアーサトロラキテター!萌えました!
頑張れ、頑張れサトリ!!

206197-202:2005/03/11(金) 13:31:24
感想ありがとうございます!
もう本当に書いていて自分でももどかしい限りです。
作戦名「はやくくっつけ」でキーを打っています(w

何だか自分のボボンっぷりに嫌気が差す今日この頃…(′∀`)
徒にレス消費ばかりして本当に申し訳…y=-( ゚∀゚)∵ターン モイッチョイットキマス
では他のDQ2の書き手さんを待ちつつ、暫く地下で二人をくっつけてきますノシ

207名無しの勇者:2005/03/13(日) 23:44:26
では私は作戦名「サトリがんばれ」でお待ちしてます。
なんかもうくっついてもくっつかなくても2人が幸せならいいや。
…というくらい、読んでいるこちらがホワンとした気持ちになります。
いやまあもちろんくっついて欲しいですけどw

208Naked Eyes【3】(178の続き):2005/03/24(木) 12:21:05
マリアは柔らかく微笑するとカインに寄り添うように見上げた。

「アレンはきっと心配しててよ。もう部屋に戻りましょう」

マリアの絹のような声に宥められて、カインは不意にことさら明るい表情で見返す。

「カイン?」

「そんなに気にすんなよ。アレンにはちゃんと謝っておくから」

なにか言いかけようとする王女に、カインは大仰に手を振って遮った。
彼はそのとって付けたような笑顔のまま「おやすみ」と手を振って背中を向け、足早に立ち去った。

マリアは白い額を曇らせ、胸の前でさし延ばしかけた手を握り締めた。



自分の小ささが、痛みとなってわが身を苛んだ。
足手まといになることを恐れ、必死に追いすがる毎日だった。

剣はアレンに敵いようもなく、魔法ではマリアに及びもつかない。
この二人の天賦の才の前に、自分が貧弱で無能であることをいやがうえにも思い知らされる。
それでも可能な限り、この二人の負担になるまいと、力も技も使い尽くせる限り使い果たすようにして、ここまで旅してきたカインだった。
それでもアレンは、一度たりともカインに助力を頼むことすらなかった。自分が、彼の前に出るのを喜ばないのは当然だった。

すばやさでは彼に負けるまいと、カインが先陣を切った時もあった。自分にだってやれる。守られるだけの立場ではないという事を証明したかった。
だが一撃で息の根を止められなければ、次の瞬間に反撃はくる。
何が起こったかわからないまま、意識を取り戻した時、自分は教会の祭壇の前にいた。
マリアの流す涙に胸を衝かれたが、それ以上に居たたまれなかったのは、怒気を滲ませたようなこわばったアレンの表情だった。
それすらも一瞬垣間見ただけで、アレンはそのまま顔をそむけ、以来アレンは自分とはまともに眼すら合わそうとしない。

209Naked Eyes【4】:2005/03/24(木) 12:25:00
時間を潰すのにも疲れてきた。
もういい加減アレンも眠っただろうとカインは暗い部屋にそっと戻ってきた。

部屋の両端にあるベッドの片方に、横になったアレンは背中を向けて身動き一つしない。

カインは一つ小さな息をついて、もう片方の自分のベッドに音も無く静かに潜りこもうとした。

「今までどこで何してたんだ?」

アレンの怒りを押し殺した声に、カインは凍りつきそうになった。

「起きてたのかよ?」

不機嫌なカインの問いに、アレンの怒気が強まる。

「心配で眠れるわけがないだろう!」

相手が上体を起こす気配を感じながら、カインはささくれた気分で横になる。
どうせ俺のやることはアレンを不愉快にすることばかりなんだろう。

アレンがベッドから降りて近づいてくる。言葉だけでは足りないということか?
相手が自分の傍らに立つのを、幾分身構えて見返した。
言葉で足りないなら何で来るのか、それに押されるまいとにらみ返すつもりだった。

―――あれ?

アレンのカインを見下ろす顔は、悲しみに彩られたものだった。

「……」
言葉もなく見つめるカインに、かがみこむようにアレンの顔が近づく。

「そんなに僕はキミに嫌われてるのか……」
アレンは耐えきれないように一度目を伏せた。
「だけど、僕は、君が心配だから、無理や無茶をして欲しくないから……」

意を決したようにアレンは立ち上がった。
「部屋を替えてもらうよ」

「どこ行くんだよ!」

「僕と一緒じゃ君がイヤだろう?」

「おい、ちょっと待てよ!」
素足のままベッドを下りてアレンを捕まえる。
「誰がイヤだなんて言った!?」

210Naked Eyes【5】:2005/03/24(木) 12:31:49

回転が速いカインの頭も混乱して言葉が上手く続かない。

「第一、誰が嫌ってるって……!?」

「離してくれないか」

「離したら出て行くんだろ?」

大した動作でもないのにカインは動揺で、肩で息をするほどだった。力でもみ合うなら、
カインはアレンに敵うはずがなかったが、アレンは大人しく従っている。

アレンはアレンで、自らの葛藤の為に動けずにいた。
自分の上着を掴むカインの手をどけたかったが、触れるのが恐ろしかった。

ただでさえ嫌われているのに。

離れた方がお互いのために一番いい。

「君がイヤだろう?」

「だから誰がそんなこと言ったよ?」

「イヤに決まってる!」

「決めんなよ!」

「君のことが……好きだ!」

搾り出すようなアレンの告白に、カインが息を飲む。

「初めて会った時からずっと……。迷惑だって判ってる。だから遠ざかりたかった。
でも、君が傷付いたり苦しんだりするのは、僕には耐えられないから。」

211名無しの勇者:2005/03/26(土) 01:00:40
>210せ、先生!!続きを…ッ!(ぐふっ)

212Naked Eyes【6】:2005/03/31(木) 23:48:44

アレンの上着を掴んだカインの手が、ためらいがちに離れた。

視線を落として、カインがぼそりと言う。
「―――嘘だろ」

「嘘じゃない!」

弾かれるように真剣な表情で振りかえるアレンの視線から逃げるように、彼は自分のベッド
に戻って腰を下ろす。

「なに言ってんだよ……」

抑揚のない言葉。うなだれたように肩を下ろし、カインは両手を握り合わせて自分の両腿に
ひじをつく。


―――初めて会った時?

カインは目を見開いて、自分の中の記憶に目を凝らした。


サマルトリアの城。皇太子として生まれながら、幼くして両親を失った自分。
摂政に立つ叔父がそのまま玉座に上り、何の後ろ盾のない自分は彼にとって邪魔者でしか
なかった。
不慮の事故の一つでもあれば、何も知らずに兄と慕ってくれる彼の小さな姫が、次の王位を
約束されると言うもの。

その自分が生き長らえたのは、皮肉にも叔父が人知れず恋慕していた我が母親に自分が生き
写しだったから―――。



回想するカインの手に力が入る。



行為の真の意味の知識がなくとも、本能で恥辱を強いられていることは理解できた。
ものごころつく頃から、口と手で奉仕する事を教えられ、毎夜のごとく強要された。
幼いながら、わが身の屈辱ゆえに他言できず、だからこそ誰一人として知られることなく、
それは日々延々と繰り返されてゆく。

病弱気味で、同年代の少年に比べて華奢な彼だったが、知的にはひどく早熟で、記憶にも
回転にも優れ、聡かった。それゆえに、人と全体の相関を見抜き、わが身の位置も認識していた。

無邪気で無垢な王女と接するにつけ、これが逆の立場でなかったことを心底安堵し、呑気さを
装うことで、彼女から自分の傷心を隠し通すことに決めたのは自分自身だった。

これほどの処遇に甘んじながら、なおも何の苦悩も抱いてないような彼を、王は愚鈍ではないか
と疑い、それはえてして自分には好都合と納得していた。
だからこそ過度に警戒することなく、対外的には子を案じる慈父をも装えたと言ってよかった。

だが、ほどなく、叔父の恋慕の想いは、妄執となってカインを襲った。

人の力では抗うことの出来ない摂理と言う運命。はかない花のように若く美しいまま身罷った
義姉たる亡き王妃への想いは、絶ち切られ、狂おしい想いと途方もない孤独だけが取り残され
ていた。それはひたすら隠されたまま、募るほどに歪み、やがて悲憤と激しい憎しみへと変質
してゆく。

十になった式典の夜、カインは腕を掴まれ、寝台に抑えつけられた。

213Naked Eyes【7】:2005/03/31(木) 23:51:25


アレンの前で、腰掛けたカインの肩が震えた。



アレンは、その式典にローレシア王の名代として、出席していた。
公式行事は滞りなく進行し、国民の一般参賀を受け、盛大な晩餐があった。
式場の移動の合間、闊達なアレンは自分から参列者の人並みの中をすり抜けるように小さな体で
掻き分け、カインに追いついたのだった。

―――カイン、見つけた!

心から嬉しそうな笑い声。何がそんなに嬉しくて楽しいのだろう。

―――僕、アレン。もうさっき紹介されたから知ってるよね

笑いながら片手が差し出される。どうしていいか解らない様子で立ち竦むカインの手を、待ちき
れないでアレンは掴んだ。

―――早く!急がないと見つかっちゃう!

限られた時間の合間で、アレンはその新しい友達と遊びたかったのだろう。掴んだと同時に走り
出し、カインを急かしてお城の冒険に誘い出した。

惹き込まれそうな青い瞳。
絵本に始まって、どんな書物の伝説にも絵が描かれている、勇者ロト。その再来と謳われた面影
を残す少年。

―――ね、カイン
―――あれは?カイン
―――カイン、それでさ……

いつのまにかカインも笑っていた。
アレンの笑い声とその息に、何かの魔法にかかったように、めまいがして、動悸がした。




生まれて初めて、他人に助けを求めた。


王は、カインを組み敷き、両膝を割らせ、彼を押し開き、こじ開け、張り裂けるまで引き裂いて
貫いた。
腕ほどもある物は脈打ちながら深く突き上げ続け、血を流しながらひくつく果肉の中に繰り返し
体液を注ぎ込む。

歯を食いしばっても涙が溢れ、体内を蹂躙される苦痛に、何度も透明な胃液を吐き出した。

―――アレン!!

カインは声も出せないまま叫んでいた。

明るい陽射しの中、自分に笑いかけたアレンに精一杯手を伸ばしながら。

214Naked Eyes【8】:2005/04/01(金) 03:36:52


うなだれたまま黙り込む相手に不安を感じてアレンが近づく。

「カイン……?」

傍らに立ち、覗きこむアレンの、囁くような問いかけ。

さっと振り仰ぐように顔を上げたカインの両手が広がり、アレンに伸ばされる。

「―――!!」

その手はアレンの首に縋りつくように回され、その勢いでアレンは相手に覆い被さるようになった
形で、二人して寝台に倒れこんだ。

アレンは咄嗟に肘と膝で自分を支え、下敷きになったカインに重みが負担にならないよう体を浮か
せた。

「カイン、何を……」

しがみついてアレンの首筋に顔を埋めていたカインは、うめくように息を漏らすと、ようやく相手を
解放し、仰向けに頭をついて、覆い被さったままのアレンを見上げた。

揺れる渇望の想いに、水色がかった緑の瞳が熱を帯びたように濡れている。

カインの形のいい唇が、蝶の羽のように震えた。

「オレが、抱いてくれって言ったら、……どうする?」

アレンは、さっと耳まで赤くなった。破裂しそうになる鼓動が、頭の中でまで割れ鐘のように鳴り響く。

絶句する相手に、カインは薄く笑った。

「いいんだぜ。無理しなくて―――」

そらすように横を向こうとした瞬間、アレンの顔が近づいた。

「う……」
 
勢いよく押し付けられるアレンのキス。しっかりと強く、暖かく、それでいて不器用な。
いかにも不慣れなアレンらしい。
それすら罪悪感を感じたように、すぐさま離れてゆく。

その離れかける口を追うようにカインが体を浮かし、両手がアレンに回された。

かすかなうめきと共に吐息が漏れ、カインの唇がアレンに押し付けられ、口が開かれる。

アレンは目を見開いたが、従順にカインの為すがままに任せ、その熱い息と舌を受け入れた。息が止まる
ほど喘ぎと唾液を貪り、その信じられない激しさに応えてカインの口腔を犯した。

何度も角度を変えては求め合い、互いに差し出せる全てと奪いたい全てを約束するかのようだった。

215175:2005/04/01(金) 20:21:57

「―――そして一夜が明けた」(BGMチャララ〜♪)で、次の回に終っても良さそうな悪寒。

アレン=16歳。正義感強く、生真面目で優しい優等生勇者。知識はあっても、体験に対して貪欲じゃない。
カイン=16歳(アレンより半年くらい下)。怜悧で繊細な、冷笑的激情家。献身的な面は隠されている。
マリア=同年齢ながら、一番大人。聖母のような限りない愛情と、思春期の不安定さを持っている。

性格は、概ね建部信明氏のゲームブックDQⅡ(自分のバイブル)に準拠してます。
可愛いサマ坊や、+のサトリも大好きなんですが、自分の基本が「てめえら死にやがれ」の
カイン皇太子殿下なのでこう言う展開に……。
王様のベッドは、サマルトリア城の二階のあのベッドです。(ちょっと待てと誰かに突っ込んで
欲しいよ)

不定期更新なので、割り込み推奨もとい感謝しますです。
3人くらいなら読んでくれてる方がいるかもと期待しつつ、また後半お付き合い下さいませ。
(今までが前半!?)

それと
「光の神よ!大地の精霊ルビス様!我が願いを聞き届けたまえ!肉体にぬくもりを、
瞳に光を。さまよえる211さんの魂を、この肉体に戻したまえ!ザオリク」

216街人B@研修中:2005/04/05(火) 07:38:58
久しぶりに来たら、萌が沢山(*´Д`)ハァハァ

取りあえず、>126-129の続きでも投下してみる。( ・∀・)アヒャ
ムーンタン視点でつ。エロ無し(´・ω・`)ショボーン

217ルプガナへの長旅に備えて買い出しに行く予定だったはずなのに:2005/04/05(火) 07:39:48
「遅い……。」
私は、魔法書を宿屋にあてがわれた自分の部屋で読みながら、何度目かの不平を漏らす。
明日からルプガナを目指して旅立つ前に、長旅に必要なものを今日、3人−ローレとサマルと私−で買い出しに行く予定だった。
そのはず「だった」のよ。
ところが、朝になっても二人は彼らの部屋から出てくることはなく、私が昼食を一人でとった後も起きてこない。
(このまま、明日の朝まで出てこないつもりかしら……あの二人は。)
きっと起きてはいるのだろう。私が朝食を済まして部屋に戻る時、彼らの部屋から物音がしたのだから。
けれど、そこへノックをして入る気にはならなかった。いくら再従兄弟(はとこ)といえども、年頃の淑女が、年頃の殿方の
部屋にみだりに入るのは気が引ける……という訳ではなく、彼らは全裸でベットに潜り込んでいることが容易く予想できたからだ。

以前、私は彼らの隣の部屋に泊まっていたが、彼らの閨事が筒抜けだった為、それ以後は少し離れた部屋に変えたのだ。
「全く……、毎晩しているでしょうに。何を考えているのかしら。」
まるで小姑みたいね、と自嘲してしまう。と同時に、扉がノックされる。
「どうぞ。」
多分、サマルだけだろうと予測したら、やっぱり彼だけだった。
「えっと、まぁ、ローレが発情させるような表情をするんだから仕方ないんだよねぇ……。おはよう、ムーン。」
サマルだけっていうのは、予想通りだけれども、開口一番の言葉にあきれて、どういえば良いのか判らない。
「いきなり、何を言い出すの?」
眉をひそめて問う。
「いやだって、何を考えているのか判らないって言ってたじゃないか。」
さっきと同じように、のほほーんとした口調で。
「あら、立ち聞き?イヤね。」
(この地獄耳が。)
露骨にイヤな顔をすると、「いや、聞こえただけだよ。」という型どおりの返答。
外見も優男で、のほほーんとしているくせに、こういうところは策謀家だ。のほほーんとしている振りなのかもしれないが。
「まぁ、良いわ……。それよりも、買い出しはどうするのよ。もう少しすれば、夕方よ?」
「ああ、それは大丈夫。ローレがちゃんと買い出しリスト作ってくれたから。」
そういって、ぴらぴらと紙を見せる。
それを聞いて少し安堵する。サマルと二人だけで買い出しに行けば、絶対に何か買い忘れる。私は、長旅の経験は無いし、
サマルは、策謀家なのか本当に抜けている天然なのか判らないが、どっちにしろ、抜けた行動を取るのには変わらない。
「そう……、じゃあ、さっさと買い出しに行きましょうか。」
そう言って、受け取った買い物リストを見る。買う店ごとに整理されていて使いやすい。おまけに、店も通りの並び順で
ずいぶんと買い出しの手間が省けるように考えられていた。
(マメよね……)
私の方が、ムーンペタに来ている回数が多いはずなのに、私以上にこの街に詳しくなっているローレを感心してしまう。
「ところで、ローレの具合はどうなの?」
おそらくは、ベットから起きられないんじゃないかと思うのだけれども、悪いのならば、ベホイミぐらいはしないと、と思っていたら、
「凄く良いよ。もう最高。あれほどの名器は無いんじゃな…ぐふっ。」
うっとりと話すサマルの顔に、読んでいた魔法書をぶつけてやった。

218ルプガナへの長旅に備えて買い出しに行く予定だったはずなのに:2005/04/05(火) 07:40:22
買い出しは予想以上にスムーズに進み、すべての買い出しが終わった頃でも、まだ日は高かった。
「これで全部かしら。」
沢山あった買い出しは、同じ店になんども通うといった無駄手間が無かったため、非常に効率が良かった。
「ローレのお陰ね……。ローレが居なかったら、本当に困るわね。」
「ええっ。僕のお陰で、かなり安く買えたじゃないかぁ。」
(この女たらしが。)
もうすぐ旅立つからということで、餞別代わりに店番の女性たちが値引きをしてくれたのだ。下は少女から上は老婆まで。
そうは思ったが、確かに値段交渉や情報の収集などではサマルが得意とするところだ。この間などは、井戸端会議にまで
参加していた程である。
「でも、本当にローレって何でも出来るわね。薬草の調合から、天気の予想、方角や距離のはかり方とかまで。」
そう、ローレと旅をして少ししか立っていないが、彼の活きた知識には何度も助けられた様に思う。
「まぁ、苦労しているから。」
ぼそりとサマルが口を滑らし、しまったというような表情を一瞬だけ浮かべた。ほんとに一瞬で、すぐにのほほーんとした
顔に戻っていたが。
(ああ、やっぱり策謀家ね……。)
少しの間、沈黙が流れた。

「ねぇ、ムーン、少しあの湖のほとりで休憩しない?」
のんびりとした声。微笑んでいたけれど、少し困ったような、追いつめられて諦めたような、そんな目だった。

219ルプガナへの長旅に備えて買い出しに行く予定だったはずなのに:2005/04/05(火) 07:40:43
「ローレは、僕が今から話す内容を知っているということは知らないから。」

小さな湖のそばで座って、しばらくしてサマルがそう切り出してきた。

僕は、10歳ぐらいの時、父親と共にローレシアを訪問したことがあるんだ。その時、城の様子とかが少し変だったんだ。
まぁ、簡単に言えば、サマルトリア側は皇太子である僕も訪問していたにもかかわらず、ローレシア側の皇太子である
ローレが出てこなかったんだ。皇太子同士の交流も訪問の目的の一つだったはずなのに、ね。
向こうの大臣たちの言い分は、まだローレ王子は幼く、失礼が有ってはならないから。という一点張りでね。
僕とローレではそんなに歳も違わないし、両国間の関係も良好だったから、別段、ちょっとのことでは外交関係に問題が
出るようなことは無かったはずなんだ。しかも、公式の場だけじゃなくて、非公式の場であるパーティでも会えなかった。
僕は、その時、そんなに僕と会うのが嫌なのかなぁと思って、少し拗ねてパーティを抜け出したんだ。そしたら、ありがち
だけれども、城の中で迷子になったんだよ。言い訳しておくと、ローレシアはサマルトリアと違って、街と城が一体になって
いるような構造だったからね。半分べそをかきながら、とぼとぼ歩いていたら、同い年ぐらいの兵士がやってきてさ、道案内を
しれくれたんだ。その時、僕と同い年ぐらいで、もう兵役があるの?って聞いたら、いや、志願したんだよ。って答えたんだ。
まぁ、それがローレだったんだけど、そんなこと知らなかったし、ましてや王子が一般兵になるとは思いもよらなかったから、
散々悪態を付いてしまったんだ。せっかく遠いところから来たのに、ここの王子は会ってくれない。酷いって。いろいろと愚痴を
言ったさ。それを悲しそうに聞いていて、それぞれの立場が有るから……と最後にぽつりと言ったとき、しまったと思った。
その時は、彼はローレ王子に仕えている身だから、主君の悪口を聞かされたら悲しいだろうなぁと思って、ごめんって謝った。
結局、彼がローレだと判ったのは、僕と父が宛がわれている部屋の前に到着したとき、ローレシアの大臣が血相を変えて、
「ローレ様!ローレ様がサマル殿下を連れ出したのですか!?サマル殿下の身にもしもの事が有ったらどうするおつもりですか!」
って、少年兵であるローレを叱りつけたんだ。すぐにローレがその大臣に謝って、今度は僕に「申し訳ありませんでした。サマル殿下。
私は任務に戻りますので失礼します。」って敬礼して行ってしまったんだ。
僕は、呆気にとられて、僕が勝手に抜け出したんだって言えずじまいで、ただ突っ立っていただけだった。

220ルプガナへの長旅に備えて買い出しに行く予定だったはずなのに:2005/04/05(火) 07:41:11
ローレとはそれっきりで、ずっと気にはなっていたんだけれども、会えなくてさ。だから、ローレが旅立ったって聞いたら、すぐに
僕も旅立つ準備を始めて。あと、なんでローレがあんなに冷遇されていたのかが気になってさ。ローラの門で足止めさせておいて、
僕はわざと旅立ちの泉を経由してローレシアの実情を調べに行ったんだ。

まずは街の人たちに話を聞いた。そしたら、口々にローレに対する不満を言うんだ。なんでも、ローレが魔法の素質を持っていない
事に対して、王位を継ぐのは不安だと。ちゃんと国を守れないんじゃないかって。また、魔法の素質がないのは勇者の血を引いて
いない証であり、国王の本当の子供ではないのではないかと猜疑の目を向けられている様だった。
そのために、ローレの母親は優しくて国民からの人気が高かったけれども自殺したらしい。王妃様が浮気したという噂が流れて。
そのことからも国民から人気が低くなっているようだった。それと、少し前に、魔物討伐に向かった騎士団が壊走するという不祥事が
有ったのだけれども、その原因がローレが統率を乱したからだと噂されていた。それ以外も散々な言いようでさ。最後に結ぶ言葉が、

「ローレ王子さえ生まれてこなければ、誰も不幸にならなかったのに。」だったよ。

221ルプガナへの長旅に備えて買い出しに行く予定だったはずなのに:2005/04/05(火) 07:41:45
でもさ、次に酒場に行って、非番の兵士たちに話を聞いたら、全く違っていた。曰く、
「魔物討伐での騎士団の壊走は、魔物が予想以上に多くて団長が真っ先に逃げ出したのさ。そして騎士団が混乱に陥ったんだ。
浮き足だった騎士団は簡単に包囲されてしまって、全滅か?というところで、ローレ王子が血路を開いて兵を逃がしたのさ。更に、
ローレ王子は最後まで戦場に残られて、一人でも多くの味方が脱出できるようにしていらっしゃったんだよ。ところが、敗戦の責任を
逃れるために、団長は、ローレ王子が全体の統率を乱し、真っ先に開戦の火蓋を切ったのが原因だと言ったのさ。お陰でローレ王子は
謹慎のあと、新設された遊撃部隊の隊長に左遷。しかも部下は、たった二人しかいなかった。」
「ローレシアの兵制は、4人一組で小隊を組み、5つの小隊で中隊を組み、5つの中隊で大隊を組むのだけれど、遊撃部隊はどこの
大隊にも属さない、中隊という扱いでスタートしたんだ。中隊なら20人居るはずなのに、たった3人だけ。」
「多分、団長はローレ王子に戦果を上げさせないつもりだったんだろう。ローレ王子が戦果を上げて昇進すれば、あの壊走劇の真実が暴かれる
可能性がある。」
「それと、前々からローレ王子は、自分の命を省みられない所があって、真っ先に危険な飛び込む癖がおありだった。そのため、
ローレ王子の身に何かあれば、直接上の上司である大隊長の責任問題になるから、それを避けたかったのもあるらしい。」
「でも、遊撃部隊は、ほかの部隊が訓練中に遭難した時、真っ先に駆けつけて全員無事に救助したりして、実績を上げ、隊員数も増え、
短期間でローレシア一番の精鋭部隊になったんだぜ。ローレ王子の功績だよ。だが……、今度はたった一人で、ハーゴン征伐を命じられた。
おまけに、今まで使っていた銀製の長剣は部隊の所有物だとか言って、返納させて銅の剣一本だけ……。ローレ王子に死ねと言っている
ようなもんだよ。」
「それで、部下が何人かが付いていこうとしたら、団長が謀反を企てている恐れありと吹聴しやがった。そんな訳でローレ王子は、本当に
たった一人で旅立っていったよ。しかも見送りは不許可だった。ローレ王子が不憫でならないよ。」

それで、僕は思ったのさ。ローレ王子の人気を落とすと得をする人物が居るんじゃないかとね。そして、僕はローレシア王に謁見をする
ついでに、城で働くメイドたちに話を聞いたんだ。彼女たちが一番詳しいだろうから。
もっとも、守秘義務が徹底しているらしく、最初はなかなか口を開かなかったけれど、まぁ、彼女たちもローレに同情的だったから、
最後にはここだけの話と言うことで教えてくれたよ。
ローレが5歳になるころ、王妃に首をへし折られ殺されたこと。王妃はその直後、首をつって自殺したこと。そして勇者の血を引く、
ローレのみが精霊の加護で蘇って、王妃は生き返らなかったこと。王妃を溺愛していた国王は、ローレに対し憎しみを抱いたこと。
そして、宰相は王族と外積関係にあり、その孫も王位継承権を持っていること。

222ルプガナへの長旅に備えて買い出しに行く予定だったはずなのに:2005/04/05(火) 07:42:05
愕然としたよ! 僕は!
すべての悪意、いや、害意がローレに向かっていることに。
隣の国が、いやしくも勇者ロトの国が、これほどまでにどろどろとした陰謀が渦巻いているとは!

それでも、僕はサマルトリアの王子であって、ローレシアの国にどうこう口出しすべきではないと納得しようとしてたんだ。
だって、口出しをすれば、内政干渉に当たる。必死になって、やり場のない怒りを抑えようとしていたんだ。
10歳の頃に出会った、あの悲しそうな顔が思い浮かんで。すぐに会いたいと思ったけれど、会ってどう言えば良いのか判らなくて。
結局すぐに、リリザの街へ逃げるように、ローレシアを後にしたんだ。

リリザで、ローレに会ったとき、一瞬言葉を失ったよ。
僕だったら、とうに絶望していただろう。母親に殺され、父親から疎まれ、国民からは、「生まれてこなければ良かったのに。」と
呪詛の言葉を聞かされて。
けれど、ローレの表情は絶望すらなくて。ただ、諦めしか無かったんだ。
考えてみれば、死のうと思っても、死ねない。もし、死ねるのならば、母親に殺されたときに絶望と共に終えることが出来たはずなのに。
世界はローレを必要としているから、終わりに出来ない。それは彼の意志に関わらず。
そして、死ぬことが出来ていれば、王位を狙う宰相がこれほどまでに国民に対してローレのネガティブキャンペーンを貼る必要もなく、
すべての悪意がローレに向くことはなかったはずなのに。

その時、僕は思ったんだ。ローレを守らないといけないって。いや、守りたいって。だから、僕は。
「共に戦いましょう。」と握手を求め、ローレはびっくりした様な顔で、でも、すぐに笑顔で答えてくれたんだ。

223ルプガナへの長旅に備えて買い出しに行く予定だったはずなのに:2005/04/05(火) 07:42:32
「その時、一目惚れだったんだよ。」
やっと、長い長い話が終わった。いつの間にか、夕方を過ぎ、日が沈む寸前になっていた。
私は、ただじっと話を聞いていた。泣きそうになりながらも、私は泣かなかった。泣いちゃいけないような気がしたから。
少し前にローレが泣きながら、私に話してくれた事があったけれど、これほどまで徹底されていたとは思っていなかった。

「ローレが遊撃隊の隊長になった後、凄い苦労して居るんだよ。遊撃隊のはじめから参加した一人のラーズって言う人が
話していたけれど、予算も無いし、訓練する場所も与えられず、森や山の中でレンジャー部隊のようなまねごともさせられて。
その時の経験が、今、役立てているのだと思うよ。」

「さぁ、もう帰ろう。遅くなるとローレが心配すると思うし。」
「そうね。」
そう言って私が立ち上がると、サマルは
「でも、聞いてくれてありがとう。」
「え?」
「やっぱり、僕一人で抱え込むのは、辛かったよ。だから、ムーンが聞いてくれて。ありがとう。」
人懐こい笑顔を私に向けてサマルが言う。
「当たり前じゃない。私たちは仲間なんだから。私だけのけ者にしないでよ。」
「うん。そうだね。」
そして、私たちは家路?を急いだ。

224街人B@研修中:2005/04/05(火) 07:44:54
相変わらず、1行の長さがまちまちで見にくいかも。(´・ω・`)ショボーン
いつも投下してから気づく罠。

あと、活かしきれなかった裏設定

サマルタンは、ローレタンのパパがローレを疎んでいたと思っていますが、単に誤解でつ。
でも、ローレタンのパパは、パパなりに頑張っていたのでつが、王妃が死んだショックで、
すぐにローレタンに構ってやれる余裕が無かったことと、ローレタンに良かれと思ってやったけれど、
すべて裏目に出てしまっているため、まわりから、パパはローレタンに対して良い印象を持っていないと
誤解されていまつ。さすがにサマルタンは、ローレのパパから、直接聞ける訳でもなかったので。
と、本文に書ききれなかったので、補足と言い訳。アッヒャッヒャ!ヽ(゚∀゚)ノ
難しいなぁ……。

225街人B@研修中:2005/04/05(火) 07:45:42
エロがないから追加で書いてみたけれど、エロくなかった……・・・(;´Д`)ウウッ…
取りあえず、おまけ投下。

おまけ 前日の夜

部屋に戻るや否や、サマルが俺の耳をかんできた。
「おいっ。って……ふあっ。」
「当分、できないでしょ。だから……。」
甘い言葉を紡ぎながら、俺のうなじに唇を滑らせていく。ぞくりとする慣れることのない感触。
いい加減、耐性ができても良いはずなのに、躯の制御が効かなくなる。
「だ、駄目だって、あ、明日が……」
明日は、買い出しに行く予定だった。
「大丈夫だって。買い出しなら、僕とムーンで行くから。」
ガクガクと膝が震え、崩れ落ちそうになるのを、ぎゅっと後ろから抱きすくめられて、サマルに支えられるような格好になる。
「ま、まだ、剣もちゃんと、み、磨いて……うぁ。」
もう、駄目だ。あっという間に意識が混濁してきて、何を言っているのか、考えもまとまらなくなって。
サマルは、ずるい。ずるいんだ……。
「ねぇ、いいよね?」
そのくせ、子供がお菓子をねだるような声で言ってくるんだ。
いつの間にか、胸元が開けられて、サマルの少し冷たい手が、服の間に差し込まれていた。
駄目だと言っても、何度も何度も同じセリフを繰り返してくる。
そして、少しずつ服がはだけていって、少しずつ焦らせるような手つきで触れてきたり、
唇で頬や肩、喉のあたりを責めてくる。
いつも、抵抗する暇もなく、あっという間にこの躯は、サマルに落ちていく。

凄く浅ましい躯。

早く、「うん。」とうなずいた方が、楽になれる。という思いすら出てくる始末で。
けれど、その言葉を出すのは、恥ずかしいと、わずかに残った理性が押しとどめている。
その結果、サマルの愛撫がねっとりと、この躯を少しずつ熱く火照らせていく。
我慢できないぐらい、もう熱くなっていた。

いつの間にかアンダーシャツは脱がされて、ズボンのホックもはずれ、サマルの手がそこに伸びていた。
「もう、いいよね……ローレのここ、凄くきつそうだし、下着も濡れているよ。」
人差し指で、そそり立っているソレの先をつんつんとつつく。その度にびくびくと躯が震えている。
いつの間にか、ベットに端に座り、更にそのままベットに押し倒されるような格好で。背筋が反り返る。

ああ、もう……なんでこうなるのかな。いつも。
甘いキスをされて、そのままサマルの背中にゆるゆると手を回し、抱きついた。
それが合図。
ただあとは、ひたすらに貪られるままに、喘ぐだけだった。

226184:2005/04/05(火) 21:49:03
>189
亀レスですが、気にしないで下さい。ヽ(´ー`)ノ
サトロラ最高です。サトリタン(*´Д`)ハァハァ。ロランタン(*´Д`)ハァハァ。
とっとと押し倒せと応援しつつ、純情っぽいところが萌えでつ。

>215
カインタンも萌えですた。王様GJと思ってしまった私は、( ゚Д゚)イッテヨシでしょうか。

つか、修論の改訂版を出せと元居た研究室の教授からメールが来て、(;´Д`)ウトゥー
アッヒャッヒャ!ヽ(゚∀゚)ノアッヒャッヒャ!ヽ(゚∀゚)ノアッヒャッヒャ!ヽ(゚∀゚)ノアッヒャッヒャ!ヽ(゚∀゚)ノアッヒャッヒャ!ヽ(゚∀゚)ノ

誰か、ローレタンとサマルタンを陵辱してい……(ry

227名無しの勇者:2005/05/18(水) 17:08:46
>>160

228227:2005/05/18(水) 17:11:06
うわぁあやってしまったorz
スイマセン
>>165
サイトヒント希望、見つからない、もう無いんですか?

229名無しの勇者:2005/05/21(土) 00:18:38
>>228
地道に探せば見つかるよ。ヒントは>>165に書いてあるとーり

230Naked Eyes【9】(214の続き):2005/05/21(土) 04:56:49

溢れる唾液を追うように、アレンの口付けはカインの顎から頬、首筋へと移る。
うなじを味わい、洗い髪の香りに誘われ、耳朶に口を寄せる。

カインの全身が戦慄するのがわかる。
脱がすのももどかしく、上衣の裾から手を差し込んで、その肌の滑らかさと、きめの
細かさに夢中になる。アレンの悪戯な指は、燃えるような肌の上をさ迷い、わき腹を
くすぐり、背中のくぼみを探り、肩からゆっくりとしなやかな背筋をなぞり降り、
耳元で囁きかける。

「……カイン……」
「―――はッ……」

息がかけられ、触れるか触れないかのような指で、耳の内側の輪郭が撫ぜられる。
それだけでもカインの息がさらに上がり、全身が震えてくる。

しなう躰をなぞりながら、顔をずらし、たくし上げたシャツから覗く胸元に口を寄せる。
小さな丸い乳首をついばむようにくわえた口付けは、すぐに荒々しく吸い上げる貪りに
変わる。
舌で転がすようにしゃぶりつきながら、腰をなぞる手は暖かく湿った溝に滑るように
差し込まれ、下着をずり下ろしてゆく。片手はもう片方の胸の飾りを摘み上げ、その
痛いほど硬くとがってゆく先端を弄ぶ。

カインは片手の指を、アレンの濡れたように艶やかな黒髪に差し込んでわなないている。
一方の手の甲で自分の口元を覆い、もれてゆく声を押さえようとしながら、両胸を責め
られ、指を横に銜えて声を殺しながらのけぞった。

熱を持って昂まっていく腰のうずきに、落ち着かず両膝がこすり合わされる。
既に下着は膝まで下ろされ、不自由に固縛されたような苦しさに下半身が動かされる。

「ンうっ―――!」
やわらかな肉の中では、指でさえ硬く尖った骨のような感触の異物だった。
慣れるまで、宥めるようなゆるい動きで、アレンの指が、頑なに拒む花弁をほぐしてゆく。
片手でシーツを掴み、懸命に声をあげるのを押さえるカインは、高熱に浮かされたように
喘いでいる。背筋の一端を刺激してくる指からもたらさせる熱に、燃え立つような腰が
無意識に踊り出そうとする。

「……は、あッ、もうッ……!!」

理性も切れたようにカインが声をあげた。

「……指じゃ…ヤダ、アレン!……ッ、……ッ!」

ほぐされるのももどかしくカインが手を伸ばしてくる。

231Naked Eyes【10】:2005/05/21(土) 05:03:41
「……アレン!」

カインに夢中になったまま、着衣もほとんどそのままのアレンに、カインの震える指が
触れてくる。

「……いいから、俺に貸せ……」

慌てて上衣を取るアレンの下肢に、カインの綺麗な顔が近づけられる。
それだけでも跳ね上がる心臓に、今のカインの姿はこれまで想像したことすらないもの
だった。
脇までたくし上げられた上衣の下から、両胸の飾りが赤く熱を持ったまま濡れて堅く
尖り、膝まで晒された下肢は、夜目にも輝くほど白く、熱を持って脈打つほど熟れた
先端から泣くように透明なしずくが滴っている。
慣れた舌の熱さに大きく脈打って張り詰めるアレンを、さらに唾液でからめながら、
カインの濡れた瞳が見上げる。

「―――早く……、俺、もう……ッ!」

カインの華奢な体を抱き寄せるように引き寄せて横たえ、うつ伏せにした背後からかぶさる。
片膝を下着から抜かせて腿を開かせ、細い腰を持ち上げて自らをあてがい、沈み込ませる。

「―――ッ!!」

ヒュッとカインの喉が鳴り、息が止まるような声が漏れ、全身が大きく震える。
反射的に逃れようとする身体を、アレンの鋼鉄のような力が許さなかった。
まだほどけきらない堅い花弁が、かつてないほどの質量に押し広げられ、狭い果肉の中を
切り裂くように押し入ってくる。

「―――ああぁッ!!あっ!あっ!……」

カインの身体は耐え切れずに、大きくわななき、白い体液を溢れさせた。股間から熱く焼けた
針金を引き摺り出されるようだった。その放出に体内のアレンも絞るように締めつけられる。

まだ半ばも沈まないうちに鮮血を流すカインに、アレンは頭だけが冷静になる。

「―――カイン、無理ならよそう……」そんなにしてまで組み敷きたい欲望は無かった。

「―――やめるな!……続けろ!」

掠れたカインの声が叫ぶ。身体は放出の余韻にまだビクビクと震えていた。

振り返り気味にアレンを見上げるカインの濡れた瞳が、いつもの強気の光が影を潜める。

「お願いだ、アレン……、このまま俺を……」

後は声にならずに顔を伏せる。

そんなカインを抱きしめたい衝動のまま、アレンは自分のつま先に力を入れて身体を進ませる。
跳ね上がるカインの身体の細い腰を、さらに引き寄せ、しっかりと所有する。

突き上げて動きたい衝動を押さえ、わななき喘ぐカインを背後から抱きしめる。
アレンを受け容れた苦しさに、カインの身体は片時もじっとしていられないほど身もだえする。
そりかえる背中と細い腰が痛ましいほどだった。

アレンはわずかに身体を引き、アレンを咥えた敏感な部分が引っ張られ、引き攣る感覚にカインの
声が上がる。

アレンはカインを掬い上げるように抱きしめ、腰を下ろした自分の膝の上に降ろさせた。

自分の体重で、自らをアレンに縫いとめたカインが悲鳴を上げた。
アレンの腕の中に抱きすくめながら、かつてない深さと質量に恐怖する。
カインは涙を流してのけぞり、自分に回されるアレンの腕に縋りついて声をあげた。

「好きだ……、カイン……、好きだ……」

宥めるように繰り返されるアレンの耳元の囁きも、カインを乱れさせる愛撫のようだった。

232名無しの勇者:2005/05/24(火) 04:25:46
うを!久々に見に来たら>214の続きが!

233Naked Eyes【10】(一部訂正):2005/05/25(水) 10:51:33

自分の体重で、自らをアレンに縫いとめたカインが悲鳴を上げた。
アレンの腕の中に抱きすくめられながら、かつてない深さと質量に恐怖する。
カインは涙を流してのけぞり、自分に回されるアレンの腕に縋りついて声をあげた。

「好きだ……、カイン……、好きだ……」

234Naked Eyes【11】:2005/05/25(水) 11:07:40
宥めるように繰り返されるアレンの耳元の囁きも、カインを乱れさせる愛撫のようだった。

カインを抱きしめる手は、そのまま胸の飾りに触れ、アレンの指はその小さな尖りを摘み、
さすり、掠めるように触れては、強く弱く揉みつづける。

「―――いやァ、あッ、はああッ―――!!」

アレンの手は股間にも伸ばされ、濡れそぼった先端から、ぬるぬると輪郭をなぞるように根元に、
そして先端にと繰り返し辿り、緩やかに絞りあげる。

体内のアレンに刺激され、堅く立ちあがったままだったカインの楔は、再び痛いほど張り詰め、
先端を掘るアレンの指にヒクヒクと蜜を溢れさせていた。
体内に脈打つものを埋め込まれたまま、敏感になりすぎた全身を執拗に責められ、抑えようもなく
アレンを咥えたままの腰が踊る。

蕩けるような熱い果肉が凝縮してアレンの脈動を高め、カインの身体の最奥にアレンの熱い体液が
迸るように注ぎ込まれる。
その感覚にカインはのけぞってアレンに背中を預け、アレンの手の中に放出していた。

ビクビクするカインを抱きしめながら、アレンも息を荒げたまま余韻に浸っていると、まだ喘ぎの
おさまらないカインが震える声で囁きかける。

「……もう、離れていいか……苦しい……」

アレンは、ぐったりした相手の身体を慎重に横たえさせると、ゆっくりと身体を離す。
食い絞めるように離さないカインの果肉がざわめき、血や体液と一緒にずるずると引きずり出される
感覚に、カインがシーツを掴んでうめき声をあげる。

「カイン―――?」

気遣わしげな呼びかけに、カインが喘ぎながら答えた。

「―――おまえが気にするな、……俺が誘ったんだ、俺が……」
そう望んだから―――。

235Naked Eyes【12】:2005/06/08(水) 01:41:17
カインは、体を丸めるように縮めて喘いでいた。
アレンに貫かれた身体の中心は、まだ異物が差し込まれた感覚のまま灼けるように疼き、
形のいい眉がきつく寄せられる。
それでも、まだ花芯に熱がくすぶって残っているような、甘い苦しさが脈打っていた。

アレンは、カインに触れた感覚に、自分が恐ろしいほど魅了されているのを、息苦しくなるほど
感じていた。欲望が、カインを狂いそうなほど求め、噴き上がるようだった。

力無く横たわる相手に、できるだけ気遣いながら手を執り、楽な姿勢になるよう仰向かせる。
と、きつく閉じられていたカインの双眸が開いて、ゆっくりとアレンを見上げた。
ただその眼差しだけで、アレンの全身がぞくりとする。
半ば開かれた乾いた唇に、吸い寄せられるようにアレンの口付けが降りてゆく。
労わりたい気持ちの強さとは裏腹な、貪り尽くしたい気持ちに引き裂かれながら、アレンは
飢えたようにカインの肌の感触を求めた。

アレンの唇と舌が、余すところ無くその肌を味わってゆき、休むことのない指先と掌が、カインの
全身をさぐっていった。
鋼鉄の長大な剣ですら、羽のように扱うアレンの腕が、壊れ物を扱う細心さでカインに触れていた。

「……ッ、いいよ、アレン……」

荒い息の下、掠れた声で、カインが囁く。

「……もう一回……」

アレンは一瞬動きを止め、体を起こして相手の顔を覗き込む。

「何言ってるんだ―――」

アレンはカインの力の無い手を執って、その指に口付けるように、顔に近づけた。

「こんなに弱ってるくせに―――」

「……あとで、ホイミかけときゃ平気さ」

「馬鹿言ってるんじゃない!」

アレンは自分を抑えられなくなりそうな恐怖に駆られ、怒りの表情に変わる。

「―――俺が欲しいんだ、アレン……」

相手が、あれだけではけして満足しきれていないことは、カインにはたやすく察しがつく。それを
彼自身の鋼鉄の意志で、必死で抑えつけていることも痛いほど解っていた。

「―――もっとおまえが……」

立てたカインの両膝が、アレンの前でゆっくりと開かれる。
抗うこともできない磁力のような誘いに、アレンは真摯な表情のままで引き寄せられていた。

236Naked Eyes【13】:2005/06/08(水) 01:43:16
カインの白い腹部から、足の付け根まで、光る跡を残しながら唇で辿ってゆく。
あえて中心には触れないまま、のびやかな腿へと口付けは移っていった。

そのアレンの動きが途中で止まる。

「―――あ……」

カインの溜息のような声が漏れる。

右腿の内側、付け根近くに、古い火傷のような傷跡があることに、アレンは今初めて気付く。

カインの治癒魔法にかかれば、魔物からのどんな傷であろうと、跡形も無くきれいに消せるはず
だった。

「酷い……、痛みは無いのか?」

「……古いものだからな……、まだホイミが使えない頃、自分で焼いた……」

カインのさりげない口調の中の事実に、アレンは息を飲む。

「所有者の紋章の刺青……。そうだと気付いたとき、どうしても嫌だったのさ……」

カインは片腕で両目を覆い、低く乾いた笑いを漏らした。

「……大したお笑いさ。聖サマルトリア王国の、神官王子ともあろう者が、緑の法衣の下の
この無様な本性といったら……」

カインの自嘲を遮るように、アレンはその傷を指で辿り、敬虔に口付けた。

「―――これは君の誇りの証だ。違うか?」

「……誇り?……触れられただけで、濡れてくる俺が……?」

アレンは体を起こし、屈み込んでカインの耳元で囁く。

「君が、僕を感じてくれるのは、嬉しい―――」

アレンは右手を下に伸ばし、その中指を、ふいにカインの濡れた蕾に差し込んだ。

「―――んうッ!!」

跳ね上がるように、カインの身体がのけぞる。

237名無しの勇者:2005/06/08(水) 02:50:56
先生、続きの投下ありがとうございます(*´Д`)

238Naked Eyes【14】:2005/06/09(木) 01:21:13

アレンの長く強い指が、滑り込むように粘膜の奥まで埋め込まれ、震えて締めつける襞の中を
まさぐった。襞を強く押し上げ、掻き出すような動きに、カインの腰が何度も踊るように浮き上がる。
過ぎた快感に耐えられないような声が上がり、花芯の先から溢れるように透明な蜜が零れ落ち、
幹を伝い、蕾にまで流れてくる。
カインの両手がシーツを掴み、激しい喘ぎとともに、手足が突っ張られ、身体が捩られる。指が
身体の中を強く押し上げるたび、カインは切れ切れに声をあげて腰を上下させた。
増やされた指が内部を広げると、さらに外へ溢れてくる体液がアレンの掌を濡らす。

「―――クッ!」

銀の糸を引きながらすべての指が抜かれ、なおもそこは物欲しげに収縮を繰り返す。

アレンはカインの両膝を、自分の両脇に大きく割り開き、浮き上がる腰に手を掛けた。

「―――ッ!!」

アレンの滾り立つものが、カインの濡れきった中心に押し当てられた時、カインの全身に戦慄が
走る。

「カイン、力を抜いて―――」

アレンの優しい声音が降りる。

「……今度はもう、遠慮するな……!」喘ぎながらカインが答えた。「……優しくするんじゃない、
……もっと強く……してくれ……!」

腰を掴むアレンの手が、やがて応えるように強く引き寄せられ、彼の先端が、カインの花弁を
こじ開け、大きく押し広げて中に潜り込んでいく。

自身が、燃えるように熱く柔らかな漿果の果肉を貫いてゆく感覚が、アレンの全神経を支配する。
滴り溢れる果汁が、彼の滑りを高め、一気に狭い奥へと加速させる。
果肉が激しくざわついて、まとわり、蕩けながらもきつく、さらにきつく、拒むように締めつける。
内壁が自分を包み込み、震えるように波打ちながら、律動を高める感触に、アレンは我を忘れるほど
捕らえられ、導かれるままに突き上げ続けていた。

カインは、身体を二つに裂かれる感覚に、気を失うこともできないまま揺さぶられていた。
腰の内部を貫いて、下腹部まで突き上げてくる衝撃に、声をあげてのけぞった。
金色の髪が踊り、白い喉がさらされ、上体がアレンの動きに合わせて大きく揺れ動く。
硬く膨大な塊が体内をこじ開けて、敏感な襞の中で上下を繰り返す感覚に、カインは息もできないほど
だった。

大きくのけぞるたびに新しい涙がこぼれ、縋り付くものも無いまま、カインの両手が激しくわななく。

「アレン―――!!」

呼びかけとは違う響きで、カインの唇から自分の名が叫ばれる。届かないものを求めるように、
手が空を泳ぐ。

「アレン―――!!」

しゃくりあげるような嗚咽に近い響きが繰り返され、アレンは思わず声を掛ける。

「僕はここだ、ここに居る―――」

「ルビス様……」カインのきつく閉じた両目から涙が零れつづける。「―――あんなに祈ったのに
……、もう助けて、と、お願いしたのに…………!」

その響きに、胸が掴まれたような思いで、叫ぶように答えた。

「もう僕が居る!僕が叶えてやる!」

濡れた瞳が、正面のアレンを捉えた。

「―――アレン……」それは、いつもの彼の口調だった。「……おまえを刻み付けて、もっと……」

続く言葉は、嵐のような喘ぎにまぎれてゆく。

―――あの夢から俺を連れ戻して……

239Naked Eyes【15】:2005/06/13(月) 03:10:39

掌に収まってしまうような双丘を掴んで左右に開き、自分の動きに泣くようにひくつく果肉を抉り、
さらに深く沈みこませる。

引き擦り出されてはまた角度を変え、アレンの猛々しい楔が根元まで埋め込まれるたび、カインの
白い両腿がガクガクと痙攣する。
幾度も、その身体の奥にアレンの熱が放出され、それは彼の激しい動きで、繋がった部分から
音を立てて溢れ出していた。

カインはもう声をあげることもできず、貫かれたままさらに奥へと突き上げられる衝撃に、跳ねる身体
だけが揺さぶられる。
放出するたび、欲望は一層荒々しく屹立し、意識を失いかけているカインの身体の中を、火柱となっ
て立ち昇るようだった。

輪のような襞に締め付けられ、なおも衰えることを知らないアレンの楔が、やがて何度目かの放出を
カインの中に果たした。

雲間に光る稲妻にも似た戦慄が、カインの全身を走る。弦が飛ぶようだった。



すでに完全に意識を失っているカインの、しかしまだ息づいて、絶え間無くひくつく果肉だけは、鮮血
を流しながらも、アレンを咥えて離そうとしていない。

大きく肩で息をしながら、余韻から覚めたアレンは、ゆるゆるとカインの中から、自らを引き離した。
閉じきれずに震えるそこから湯のように体液が溢れ、白い腿の間に赤い染みを広げてゆく。

糸が切れた人形のように、カインは肢体を投げ出したまま、アレンを受け入れるために大きく広げら
れた両足すら、もう閉じる力も失っている。
裏を見せるほど、硬く屹立したままのカインの楔が、しとどに濡れたまま達しきれていないことが、
より痛ましく映る。。

アレンは、思わずそこに屈みこむと、手を添えて震えるものをゆっくりと口に含み、放出を促すように
舌を使って刺激しながら強く吸い上げる。先端がヒクンと先走りの蜜を出し始めると、楔が大きく震え、
すぐにドロッとアレンの口腔に熱いものが広がった。溢れ出るものを零さずに受け止め、飲み下して
は、さらに滲み出てくる雫までを舌できれいに拭い取る。
喉に残る蜜には、甘い血の匂いが混じっていた。

240Naked Eyes【16】:2005/06/13(月) 03:12:09


激しい欲望がつき果てた後の、悲しみに似た思いが押し寄せ、アレンは泣きたいような気持ちで、
動かないカインの横顔を見つめた。
堅く閉じられた、金色の睫毛に縁取られた瞼は白い花びらのようだった。
肩の後ろに腕を回して抱き上げ、呼吸が楽になるよう姿勢を変えさせても、目を覚ます様子はない。

汗で額に張り付いた髪を梳き上げ、ほっそりした頬の線を辿りながら、自分の知らない、彼の時間に
思いを巡らせた。
勝気で誇り高く、自分に無い多才な能力を持つ彼を、いつも賞賛の思いで見つめていた。
僅かな間の多くの発見が、自分の感情の陰影を際立たせていく。

自分の軽はずみな行動が、何かを壊したのか。それとも、何かを得られたのか?


「―――ルビス様……」

アレンは、カインを見つめたまま、カインが口にした精霊の名を、祈りを捧げるように呟いた。

―――僕に力をお与えください。嘉したもうロトの血とロトの剣にかけて……

末裔として、王族として、あまりにも多くの守るべき全ての事物の未来が、我が手に委ねられていると
いう重圧を、アレンはいつも真っ直ぐに受け止めてきた。
誰一人知る者の無い、ただの少年として、名も無い未来に姿を消す選択を、彼は敢えて採らなかった。
それはけして、彼の勇気や自信からではない。

失うことの恐ろしさの方が、彼を衝き動かしたといってよかった。

―――何一つ魔力を持たない自分に、何かひとつでも誇れるものがあるとしたら。

―――自分がやれるのなら、やって行こう。

カインとマリアを守る、一振りの剣として、―――アレンは自分をそう位置付けていたのだった。

では何がこれほど哀しく、罪の意識に思い揺さぶられるのだろうか。


アレンはまだ眠れないまま、傍らのカインの寝顔を見つめ続けていた。

241175:2005/06/13(月) 04:58:26
時間かけて勿体つけるほどの話でもなかったし、
読み返して「しまった!」という個所もありありなのに、
黙って許してくれている皆様に感謝。
後エピローグがもう少し、で切り上げます。甘えてて済みません。
どうぞ、奮って割り込んでください。

242Naked Eyes【17】:2005/06/19(日) 05:57:36


「―――いつまで寝てるんだ、いい加減起きろ!」

かろうじて上体だけは起こしたものの、アレンはまだよく頭が回らないまま、ぼんやりとあたりを
見回した。

「―――おはよう……」

他に言葉が思いつかず、ばつの悪い思いでカインを視界の端に捉える。
空が白々と明るくなる頃まで、寄り添って彼の寝顔を見ていたことまでは覚えている。
穏やかになった寝息を聞きながら、やがて自分も静かに目を閉じ…………

いつもの翠録の神官服が、ベッドの傍らで両手を自分の腰に当てて仁王立ちしていた。

「もう昼近いぜ。俺のせいで一晩眠れないほど悩んだんじゃないか、ってマリアにお小言まで食らう
し―――」

―――口喧嘩なら、きっとアレンは貴方に勝てないでしょうね

マリアならそう言ったかもしれない。

「一晩って…………」

言外の意味に硬直するアレンを余所に、カインはあっさり背中を向けると手を振って離れて行き、
扉に手をかけた。

「早く飯に来ないと、おまえの分、宿屋の周りの犬ころに食わせちまうぞ―――」

思惑を寸断するように閉じられた扉の音に、自分だけが勝手に夢でも見たのかもしれないという
不安が一瞬よぎる。
それ以上に思い出される光景に動悸がし始め、アレンは勢いよく頭を振って何とか現実に戻り、
ベッドから両足を下ろした。

身支度を整えようとして気付く。

自分の衣服や荷物の置いてあるベッドは、正面向かい側のベッドだった。



「―――ちゃんと仲直りはできたのかしら?」

降りてくるカインに、テーブルについていたマリアが、笑顔を向ける。
月輪のように澄んだ冷たいほど美しい顔が、笑うと、花が綻ぶように明るく華やいだ表情になる。

カインは、いつもの、カナリアを銜えた猫のような表情で適当に頷いて見せる。

「―――まぁね。この先、永い付き合いだし、俺たち三人きりだしな」

肩を竦めた彼の、いかにもな物言いに、それでもマリアはニッコリする。

マリアを見慣れているはずのカインでさえ、その美しさに、はっとなるのは彼女のこういう表情だった。

相手の幸福を、心から喜んでいる笑顔。

昨夜までのカインが纏っていた、今にも音を立てるのではないかと思わせるほど、限界まで張り
詰めていた空気がなくなった気がする。
マリアにはそれが嬉しかった。
真っ直ぐなアレンの方が、今は逆に落ち込んでるかもしれないが、感情を傷つけ合うような愚かな
争いになることはありえないと、マリアは疑いもしていなかった。

階上で物音がして、アレンが降りてくる気配がする。

マリアは、優雅に席から立ち上がって挨拶をし、アレンの冴えない笑顔が返ってくるのに、カインと
顔を見合わせて笑い合った。

243Naked Eyes【epilogue】:2005/06/19(日) 05:59:58


「―――鉄は錆びるように、肉が溶けるように、汝の外皮よ、崩れ落ちよ!」

マリアの澄んだ声がルカナンを唱えた瞬間、モンスターの表皮の色が一変した。

―――好機!
すかさず裂帛の気合とともに、アレンが地を蹴って最前列に飛び出す。

「―――俺の怒りと太古の誓約によって、お前を焼き…………アレン!!」

カインの怒鳴り声が飛ぶ。

「だから、俺の火線の前に出るんじゃねぇ!!って、一体何回言わせるんだ!?」

会心の一撃をこともなく与えて、振り返ったアレンが怒鳴り返す。

「一太刀で十分な相手だったんだ!力押しなら、僕がやってやる!!」

「危ないだろう!」

「危ないのは君の方だ!」

「どっちが!!」

「君こそ怪我したらどうするんだ!!」

そんなへまじゃねぇよ、と延々続きそうな言い争いから、数歩離れたマリアが小さく溜息をつく。
あいかわらず―――。
それでも、何かが変わったのは解る。

お互い、相手の心配をしていることを、もう不必要なまでに隠したりはしていないようだ。

「二人とも、伏せてッ―――!!」

反射的に地面に伏せる二人の、髪やマントをかすめて、真空の牙が宙を切り裂いて唸りを上げる。

頭上の死角から矢のように一直線に飛びかかるモンスターの群れが、一瞬にして血飛沫もあげず
に、原形すらとどめず、四散して降ってきた。

何が起こったか、恐らく当のモンスターたち自身さえ理解できなかったに違いない。

喉の奥で叫びを押し殺した二人が、魅せられたようにその光景を見つめる。

そのすぐ背後まで歩み寄ったマリアが、小さく声をかけた。
「貴方たちを心配してるのは、私も一緒よ―――」

振り返ると、静かな光をたたえて、菫色の瞳がかわるがわる二人を見上げる。

「……すまない」
「……悪かったよ」

ふと目を逸らせて、緑の平原を見渡すと、起伏の少ない地平の果てに、幻のように塔がそびえ、
蒼穹は限りなく、染まるばかりに青い。
自分の庭と言ってもいい土地だった。

幼い日と何も変わらない景色なのに、もうこの世界は、到るところ死と悪意に満ちている。

許さない、と、マリアは思う。

こんな間違った世界を、けして許しはしない。


金色に煙るような、豊かな巻き毛を翻してマリアは二人を振り返った。
この二人が、どれほど自分を救ってくれたことだろう。
自分一人では、小さな街からでさえ、一歩として出ることすら叶えられなかったのだ。

私たち、三人ならきっとできるわ―――。

ローラ姫の面差しと、ロトの精神と、ルビスの尽きせぬ愛情を、一身に具現した王女が微笑する。

ロトの再来たる、純粋で高潔な蒼の王子が、乙女に敬意をあらわすように、剣を掲げ、すぐに悪戯っ
ぽい笑顔になる。
アレンは振り返り、いざなうように傍らのカインに手を差し出す。

三人で何処までも行こう―――。

アレンとマリア。この二人が並ぶと、それだけで一幅の絵のようだ。
緑衣の神官王子は、端麗な顔に、彼らしい皮肉な笑顔を浮かべて、二人と肩を並べるように歩き
出す。

当然だ―――。

それは、カインの、心からの偽り。

二人と違い、自分の身体には、ロトの血は流れていないのだ。ただ宿命だけが、自分をこの旅に
駆りたてて強要する。
この、かけがえの無い二人の、「盾」になれと。

アレンとマリアはさりげなく離れて、二人の間にカインの居場所を作る。


目指す塔は、太古より風をめぐらせて聳え、悠久の時間の中、今は静かに、訪れる者たちを待っていた。


To be continued.

244175:2005/06/19(日) 06:02:47

最後まで読んでくださった方、有難うございます。

書き始めると、書きたい事だらけでどこまでも続いていきそうなので、
今度からチラシの裏に書くことにします……
迷惑をおかけした方、済みません。

勉強のために、ぜひ感想など頂けると嬉しいです。

では、読者に戻って、また素晴らしい職人さんたちを
お待ちすることにします。

245名無しの勇者:2005/07/31(日) 19:25:57
175さん、いいもの読ませてもらったよ。
ありがとう。

246175:2005/09/20(火) 01:50:51
>>245さん
遅くなって申し訳ありません。
温かいコメントを本当にありがとうございます!

247旅を始めよう(1/6):2005/10/03(月) 17:19:33

 窓を空けた途端、限りなく優しさに満ちた朝の風景がロランを包み込んだ。
 朝靄にけぶる町、遠く霞むロンダルキアの峰々、少しだけ白んだ明け方の空。
カーテンを引き、窓を開けると、ひんやりと冷たい朝の空気が流れ込んで
火照った頬を軽く撫ぜていく。
 ロランが起き上がった寝台には、いまだ睡眠にふける青年がいる。彼は
その友人を起こしてしまわないように、眠る肩にそっと毛布をかけなおした。
 昨夜、ロランはそのままサトリの寝台で眠ってしまった。それを思い出し、
何とも幼い振る舞いをしたものだと彼は少し赤面する。背中に残ったぬくもりは
この上なく心地よかった。
 誰もいないもう一方の寝台に腰を下ろし、ロランはゆっくりと目線を動かした。
暖色のカーテンが揺れて、昇ったばかりの太陽がその光を部屋の中にこぼしていく。
何も履かない足に床の冷たさが沁みたが、それはどうでもよいことだった。
 ふと、眠りこける相棒の呑気ないびきが大きな音を立てて、ロランはくすりと
忍び笑いをこぼした。彼の挙動の一つ一つが、いとしかった。
 いつでも自分を思ってくれた人だった。
 いつでも自分を守りたがってくれた人だった。
 彼に与えるべき言葉は、少し考えるだけで嫌になるほど思い浮かぶ。それは
免罪をこう言葉であったり、感謝の気持ちを表す幾通りもの言葉であったりしたが、
最終的には同一の感情に辿り着いた。
 ずっと気づかないふりをしてきた思いだ。今更表に出すのは気が引けて、
ロランは軽く頭を振った。脳がずしりと重い。昨夜の酒が残っているのだろう、
彼はそう思い込むことにした。

248旅を始めよう(2/6):2005/10/03(月) 17:20:44

 なすべきことも思い浮かばず、ロランは部屋を後にした。心なしか
喉が渇いていたのでとりあえず行き先を給水場のある食堂に決め、廊下を歩いていく。
昨夜のやりとりが、漫然と彼の思考を支配していた。
 ――これからどうするべきか。
 その意見を真っ先に切り出したのは、かつてのリーダーであったロランではなく、
ルーナだった。
「しばらくはこの世界のことを知るのが最優先だと思うわ。何にしても、とりあえずは」
「……そうだね。そうするのが、一番いいと思う」
 そしてロランは、彼女の言葉の裏に隠された真意を正確に汲取った。
 三人が今いるその世界、その時代は、彼らが本来属する時空の数百年後にあたる。
隅々まで旅をし、知り尽くしたはずの景色はあまりにも変わってしまった。
ならば、国もまた。
「そんなの、本当は建前なんだけれど……」
「分かってるさ。俺だって気になっちゃいるんだから」
 乱暴な言葉でルーナに気をやったサトリもまた、彼女と同じ思いだったのだろう。
世継ぎであるロランを失ったローレシアは衰退の末に廃墟となった。二人もまた
友のためとはいえ国を出奔した身だ。己の祖国の行く果てはどうなったものか、
気に病まないはずがなかった。
 いずれにしろ、ルーナの提案は間違いなく現時点で採り得る最善の策だった。
ロランであれサトリであれ、同じような主張を述べたに違いないだろう。

249旅を始めよう(3/6):2005/10/03(月) 17:21:31

 しばらくの間まっすぐ歩き続け、突き当りを右に曲がってすぐ、寝室に繋がる
扉よりも若干だけ大きなドアの前でロランは立ち止まった。少し重い扉を開いて、
中に進む。
 給水場の脇に伏せられたグラスを手に取り、水をそそいで一気に飲み干した。
寝起きで火照った身体が急に冷やされ、頭の芯がかすかに軋む。首を軽く振ると
それもやがて消え、清涼感のみが彼を支配した。
「おはよう、ロラン」
 ふと自分を呼ぶ声がして、ロランは振り返った。見知ったブロンドの少女だった。
「おはよう、ルーナ。随分と早いんだね」
「あなたこそ。サトリはまだ?」
「爆睡だよ」
「ふふ、そうだと思った」
 あなたを探して旅してた頃もね、それはもう大変だったのよ。サトリったら
朝は遅いし夜も遅いし、おかげでこっちの生活リズムもおかしくなっちゃいそうだった。
そういえば昔からそうだったもの、これから貴方もまた苦労する羽目になるわよ。
 そのようなことを、冗談などを交えてルーナは笑いながら言う。聞き上手で
どちらかと言えば話し下手の彼女にしては、やけに饒舌だった。笑う目元には
うっすらと隈が出来ていて、彼女に安眠が訪れなかったことを告げていた。
 そしてロランは、それを無視しなかった。
「何でも聞くよ、……僕で良ければ」
 少女の顔からふと笑みが消えた。伏せた目に渦巻く不安と怯えがはっきりと見て取れる。
「ほんとはね、少し、怖いの」
 ルーナはぽつりと言った。
「たとえここがほんとの未来じゃなくても、本物じゃなかったとしても、結果を
突きつけられるのが怖い。昨夜はあんな風に言ってみたけれど、できることなら
どこかに逃げ出してしまいたい」
「……逃げちゃ駄目だよ。そしたら今度は、僕とサトリで君を探さなきゃならなくなる。
だろ?」
 ロランは冗談めかして肩をすくめ、ルーナはそれを見て小さくはにかんだ。
結末を恐れて逃げ出したのは、彼もまた同じだった。
「ううん、大丈夫。絶対に、帰って来るから。約束」
「うん」
「わがままなのは分かってる。だけどこれは私の問題だから、一人で行かなくちゃ。
ムーンブルクは、私の国だもの」
 ――私の国がどうなったのか、私は知らなくちゃいけない。
 昨晩、彼女はそう言い、そして単身で祖国の土地へ向かうことを強く希望した。
王子二人はやや困惑はしたものの、反論することもなくそれを受け入れた。
 ロランがサマルトリアの、そしてムーンブルクの領地を訪れず、両国の噂も
全て避けてきたことは、彼自身にとっても、二人にとっても幸いなことだった。
実情を知ってしまえば、いくら隠したところで表情や会話の端にそれがにじみ出て
しまっただろう。

250旅を始めよう(4/6):2005/10/03(月) 17:22:13

「ああ、そう言えばロランは? どうするの?」
「……僕?」
 話題を逸らすように投げられたルーナの問に、ロランは一瞬考え込んだ。何も
考えていなかったのだ。彼はただ漠然と、かつてそうであったように、三人肩を並べて
旅ができることへの喜びを噛みしめていただけだった。
「ルーナに付いて行くわけにはいかないし、もう一人旅は十分にしたし、
ここにいても仕方が無いし、うん、そうだな……とりあえず、サトリとあちこちを
もう一度回ってみようかな」
 サトリ本人とそう決めたわけではなかったが、彼が決して悪い顔を
しないだろうことは容易に考えられた。
「それが良いと思う。サトリ、あなたがいなくて本当に寂しそうだったもの」
 ルーナは言う。ロランは何と返したらよいか分からず、ただ黙って彼女が
喋るままにまかせた。
「なんだか昔のロランを見ている感じだったわ。いつも通りのはずなのに、
心ここにあらずって言えばいいのかしら」
「僕、そんなんだった?」
「だったわ、今は違うけれど」
 ロランの真似をして肩をすくめてみせ、ルーナはふと微笑んだ。
「サトリにとってね、きっとあなたは芯みたいなものなのよ」
「……そうかな」
「そんな気がするの。そしてね、」
 少し顔を伏せたロランをまっすぐに見つめ、柔らかい笑顔のままルーナは言葉を紡ぐ。
「私、そういうのって、とても素敵だと思うわ」
「……そうだね」
 はにかんだロランの顔は穏やかだった。

251旅を始めよう(5/6):2005/10/03(月) 17:22:55

 そろそろ宿の朝餉の時間ということもあり、連れを呼びに行くためロランは一度
寝室に戻った。
 室内の様子を気にしつつ、そろそろとドアを開ける。
 よほど旅の疲れが出たのか、それとも清潔なシーツと暖かな毛布で
眠れるうちに眠っておこうとでも考えたのか、サトリは相も変わらず寝息を
立てていた。そういえば初めて聞いた彼の噂は「マイペースでのんびり屋」だったか。
ロランは改めてその真実性を実感させられた。
「サトリ、いい加減起きないか?」
「遠慮しとく」
 ぼやき混じりで呟いた言葉にいらえが返ってきたことにロランは一瞬おどろいて、
すぐに切り替えした。「……何だ、起きてるんじゃないか」
「布団から出たくないんだよ」
「相変らず無精者だなぁ」
「何とでも言ってろ」
 本格的に二度寝でも決め込むつもりか、サトリは毛布に包まりなおして
枕に頭を埋めた。彼が寝返ったおかげで広くなった寝台の空きに、ロランは腰掛ける。
そして唐突に切り出した。
「ちょっと話があるんだけど、いいかい」
 スプリングから伝わる振動で、サトリの肩が動いたのが分かった。「何だよ」とでも
言いたげに視線だけをロランに投げてよこす。
「いや、さ。大したことじゃないんだけどね。……これから、どうする?」
「大したことだろ、それ」
 お前も相変らずだな。サトリはそう呟き、やれやれと大げさに溜息をついた。
「まあどうでもいいけどさ。……俺は、サマルトリアに行くよ。今までずっと
責任逃れしてきたけど、もう逃げるわけにゃいかないみたいだしな」
 当然の答えだった。ルーナはムーンブルクへ、サトリはサマルトリアへ。
ロランとて、己自身が時代に迷い込んだことを知ったそのときは真っ先にローレシアの
地を訪れた。一度は捨てたものと思っていても、生まれ育った国はとても大切なものだった。
「そんでお前はさ、どうすんだ?」
 毛布の塊がもそもそと動いて、サトリはだるそうに起き上がった。ろくに乾かさずに
寝たせいだろう、獅子のような髪にロランはくすりと笑った。
「笑ってないで何か言えよ、ほら」
 寝台に座り込んだ親友の横に座り込み、せかすように脇腹を小突く。ロランはまた
小さく笑い、そして仕方が無いなとばかりに肩をすくめ、口を開いた。
「ルーナはムーンブルクに一人で行きたいって言ってた。やっぱり、サトリもそう思う?」
「……何でだよ?」
「僕ももう一人旅には飽きたんだ。だから、」
 水を飲んだばかりなのに口の中がやけに乾いて、声が出てこなかった。
「だからその……もし迷惑じゃなかったらさ」
 ロランは再び言葉を切り、小さく息を吐いた。拒絶が怖かった。横に座ったサトリの顔を
見ることができない。
「できることなら、君と、旅がしたい。もう一度」
「……ばか。当たり前だ」
 少し怒ったようにそう言われ、頭をはたかれる。それがロランには嬉しかった。

252旅を始めよう(6/6):2005/10/03(月) 17:23:34

「じゃあ行こうか。あんまり待たせちゃルーナに悪いよ」
 先にそう言ったのはロランだった。寝台の脇に脱ぎ捨てられたサトリのブーツを
彼に放り、自分は一足先に立ち上がった。そのまま窓際に背を持たれて
ぼんやりとサトリの身支度が終わるのを待ち、二人揃って部屋を出た。
「ルプガナは今どんなんだ?」
「立派な港町になってる。貸し船屋なんかもあったかな」
「じゃあ船旅ができるわけだ。ベラヌールとデルコンダルは決定だな。他に
どこかおもしろいもんあるか?」
「聞いた話だけど、世界中の木が生える島、あそこに町が出来たらしいよ」
「よし、そこも行ってみっか」
 食堂へ繋がる廊下を今度は二人で歩きながら、ロランとサトリは他愛も無い会話に
花を咲かせた。思いつく限りの街の名が挙げられてゆく。当分の間は行く当てに
困ることもないだろう。
 やがてルーナが待つはずのロビーの扉の前に着くと、サトリは笑みを浮かべ、
ロランをまっすぐに見据えて言った。
「それじゃ改めてよろしく頼むぜ、相棒」
 ロランもまた、自分に向けられた青い目をじっと見つめ返す。
そして、目の前の笑顔につられるように微笑んだ。
「こちらこそ。――頼りにしてるよ、サトリ」
「おう」
 どちらからともなく握り締めた互いの手が、熱かった。

253名無しの勇者:2005/10/05(水) 03:01:28
ロランキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!
カワイイヨロランvv
乙です!!ぜひこのままシリーズ化に!!(;´Д`)ハァハァ

254名無しの勇者:2005/10/08(土) 01:21:14
>>247->>252
さりげない会話なのにとてもときめきましたvv
ロランに、両思いおめでとう!と心から言ってあげたいです。

255名無しの勇者:2005/10/08(土) 12:05:03
キタァァァァァァ(゚∀゚)ァァ( ゚∀)ァァ(  ゚)ァァ(  )ァァ(`  )ハァ(Д`)ハァ(*´Д`)ハァハァ
ちょう癒されますた。乙ですよ!

256名無しの勇者:2005/10/16(日) 22:24:11
待望の新作ありがとう、ありがとう。ロラン最高!カッコカワイイヨー

257生の人:2006/02/26(日) 04:04:41
このスレ今までROMですたが
投稿作品読んでるうちに萌と妄想が溢れて来たので投下しまつ

サマロで過去捏造幼少期編
かなりおりずなるはいってるっぽいので嫌いな人はスルーよろ

258捏造幼少期【1】:2006/02/26(日) 04:08:01

ぼくは一度だけ一人でローレシアに行ったことがある。


まだ幼いぼくは、ぼくよりもまだ更に幼い妹と口げんかをしてしまった。
結局妹は泣いてしまい、国王である父はそんなぼくを諫めた。
別に怒鳴るわけでもなくやんわりとした口調で仲良くしなさい
ぐらいのことを言われたぐらいだったのだが、
ぼくは酷く腹を立て(はっきりとした理由は覚えていない)こっそり城を抜け出した後
人が込み合う馬車の中にこっそり紛れ込み国を出たのだった。

木や森に囲まれたぼくの国サマルトリアは、よその国と比べるとすこし”いなか”的であったが
国の人たちは仲が良く、ぼくが時折城の窓から城下町を眺めると人々は何時も笑っていて清々しい活気で満ちあふれている。そんな国だ。

父も少々変わった人で、少しでも暇が出来たとき、ぼくらを呼んで林檎の買い方や釣の仕方、
街燈を灯けるのや教会の鐘を鳴らすのは誰かと沢山のことを教えてくれた。
なのでぼくは馬車の乗り方も知っていたのだ。


二晩掛かってついたのは東の果て、ローレシアだった。
ムーンブルグ、サマルトリア、そしてローレシアは同じ祖先、それもかつてこの世界を救ったという
勇者ロトの子孫という特別なつながりを持ち、当然この三国では盛んに交流がある。
ムーンブルグは一度父に連れられ行ったことがあり、そこの王女とも遊んだこともあった、
だから一度も来たことのないこの地、ローレシアに来たかった。
この国の”王子”に会ってみたかったのだ。

馬車から降りて街を見渡した。
煉瓦や石で作られた壁や家。歩くたびこつこつと靴の音がなるのが心地良い。
東からの風がふくと微かな潮の香り。
街路の奥には一際大きく立派な建物、ローレシア城があった。

近寄ると大きな扉の前に厳つい顔をした兵士がいたが、
じっと見ているとぎろりと睨まれたので、慌ててその場から離れた。

自分の国の物と少々違った風采に興味が湧き、城壁沿いを歩いてちょっとした
探検気分でいたとき、ちょうどその音は聞こえたのだ。

すん、すんと鼻をすする音。時折しゃくり上げる引きつった呼吸。
それは紛れもなく押し殺した”泣き声”だった。

259捏造幼少期【2】:2006/02/26(日) 04:10:37

「どうしたの?」

そう遠くない突き当たりの角の向こうからその音は聞こえた。
角の向こうを覗くと自分とさほど変わらぬ歳に見える少年が立てた膝に顔を埋め
泣いていたのだ。
歳が近く見えたことでついつい興味をもってしまい、思わず声をかけてしまった。

「どうして泣いてるの?」

近寄ると足下に短く茂った草がさくさくと音をたてた。
日がちょうど後ろにあったことからぼくの影が自然その少年に掛かる。
その影と近寄って来る音に少年は微かに身体を強張らせ、そしてぼくの顔を見たのだ。

「君は誰?」
とその少年は戸惑いがちに言った。ぼくが彼と歳近いように見えたせいか、さっきまでの
怯えた雰囲気は少し和らいでいた。

「ぼく? ぼくの名前はサマル」

とても印象的だった。時折緑の光沢が交じる、それこそ真の黒の髪。
穏やかな、深い底の海色の瞳。
その瞳に、髪の色に吸い込まれそうに思った。
その色は伝承の勇者のそれそのものだった。
名乗って笑いながら右手を差し出すと、彼もまたぎこちなく
微笑み返し、その右手を握った。


「ぼくは・・・アレン・・・。」

君の名前はと訪ねると、言いかけて途中考えるように言葉を詰まらせたが、
それも僅かな間で彼の口からその名は言われた。
”アレン”という名前は取り立てて珍しいわけでもなく、勇ましき名とされていたので
もっぱら貴族間でよく使われる名であった。
ばくも好きな名前だった。


「いい名前だね」
とぼくが言うと少しくすぐったそうに彼は笑った。

260捏造幼少期【3】:2006/02/26(日) 04:14:37

あらためて彼の姿をよく見ると、動きやすそうな軽装の服の所々に擦りつぶれた草の染み。
顔や頬、手足や膝にも小さな擦り傷や打撲跡があった。
「剣のけいこをしてたんだ」
と彼は言った。そう言われた後、彼の足元を見ると刃の潰された鍛練用のつるぎが転がっていた。

その後そのまま彼の手を引っ張って、街の中の川で魚を追いかけたり歩いていた猫にちょっかいを出したりしながら
ぼくらは時間を過ごした。
少し日が傾いてきた頃、露店で買った林檎を公園のベンチで囓っていると、少し年上の連中が
やってきて絡んできた。
ごくありふれた難癖を付けてしつこく絡んでくるのでいい加減しびれが切れたぼくは小さな火の玉を
いくつかそいつ等の足下に散らしてやった。
さほど威力もない”メラ”に泡を食った連中は腰が抜けたように座り込んだり、逃げようとして
足がもつれ転んだりと端から見れば酷く滑稽な様だった。

「それ魔法?」
アレンは不思議そうにぼくの手を眺めた。
あまりにも不思議そうな顔だったのでぼくはちょっといたずらっぽく笑った。

しかしその時ちょうど腰を抜かしていた一人が木の枝を振りかざしてぼくに襲いかかってきたのだ。
あまりにも突然だったのでぼくは硬直して動けなかった。
ばしっと乾いた音。とっさにつぶった目を開けると、そいつは呆気にとられた顔をしていた。
アレンが持っていたつるぎで木の枝をはじき飛ばしたのだ。

「これ以上は許さない」
目の前の空間を軽く斬るようにアレンは剣を振った。
そいつらはアレンのその動作で力の差を感じ取ったのか、こんどこそ慌てて向こうへと走っていった。



「ぼくには魔法は使えない」

開いた手を寂しげに見つめてアレンは言った。
生まれつき魔力がない。
その分剣を扱えるように鍛練していたのだと彼は話してくれた。
それ故腕が思うように上達しないのを悔しく思い、丁度あの時泣いていたのだという。

「君は十分に剣技がうまいよ」

彼は悩んでいたが、実際公園で彼の剣裁きを見て僕は素直にそう言った。
彼の動きは流れるようで、同じ歳とは思えないほどの腕前と思った。
アレンは驚いたように軽く目を見張ると、俯きながら彼らしいはにかんだ笑顔で
「ありがとう」
と小さく呟いた。

261捏造幼少期【4】:2006/02/26(日) 04:17:41

さっきの騒ぎのせいかどうかは解らないが、それからしばらく後何人か大人が
駆けてきて少し乱暴にアレンの腕を掴んだ。

「探しましたぞ」

と一人の大人が言う。その大人の身なりが町の人よりも違い、少しきらびやかだった。
ああ、やっぱり彼は貴族の子だったのだろう。
大人に囲まれ、腕を引かれながら彼は連れて行かれた。
そのとき振り返ったアレンの顔が泣き出しそうに見えたのは気のせいだったのだろうか。


大人もアレンもいなくなって一人でポツンと立っていると、なんとその国の大臣がやってきた。
その大臣は時折サマルトリアに来るので顔をよく知っていたし、大臣もぼくがサマルトリアの
王子ということを知っていたようだ。なんかアレンが迷惑かけたと必死で平謝りしてきた。

結局その大臣つてに僕の消息がサマルトリアに知れ渡り、帰ったときは父にこっぴどく叱られた
国中の人が僕のことを必死で捜したらしい。
今度抜け出すときは置き手紙でもしておこうとぼくは懲りずに思った。


結局その後城を抜け出しても国を出ることはなかった。
その後何回か父と妹とローレシアに行くことはあったが、結局王子に会うことも、
アレンに会うこともなかった。
しかしあの日からずいぶん時間がたった今でも、あの時のアレンの瞳の色は
鮮やかに思い出せるのだ。



ぼくは一度だけ一人でローレシアに行ったことがある。
もしもう一度叶うなら、あの寂しい、深い青の目をした少年にもう一度会いたいと思った。

262捏造幼少期【4】:2006/02/26(日) 04:31:13
以上です。おそまつさまですた。

今頃ミス発見
メラって書いたけどそもそも2の時代にメラがあるのかどうかがわからんことに気付きましたorz
ギラに脳内変換してやって下さい

あと補足説明
名前
サマルトリア→サマル
ローレシア→ローレ  あたりで アレンはもちろん偽名

ロレは魔力を持たない子なので回りから余りよく思われてない
その分みっちり武芸を仕込まれてます ビシバシにきびしくみっちりと
そんでちょっと辛くてベソかいているときに家出サマルにドンピシャ
そんな話で御座います
だいたい8才ぐらいで
ハーゴン討伐時にはサマルはアレンがローレシア王子とはサパーリわかってませんが
ロレはバッチリ覚えてます
そのうちロレ編も出来上がり次第投下したいと思います

以上ありがとうございますた

263名無しの勇者:2006/02/27(月) 23:11:34
ちょ…サマが覚えてなくてロレが覚えてるとか萌え杉る
魔力はないけど力バカじゃなく聡いロレに萌え!
続き待ってます!

264名無しの勇者:2006/03/08(水) 01:35:06
サマルって、メディアによっては別人のごとく人格が変わるから
サマルで二重人格ネタを読んでみたい。

例えば、普段のサマルは気が弱くてのんびりやだけど、Hする時はもう一つの人格(気が強く高慢)が出てきて
イニシアチブを取るはずだったローレが、逆にサマルに翻弄されてしまうとかね。

自分文才無いから、誰か書いてくれないかなあと他力本願になってみる。

265名無しの勇者:2006/03/14(火) 01:35:01
GJですた。(*´Д`)ハァハァ
寂しげな瞳のロレが萌えですた。ロレ編たのしみでつ。


最近というか、ずーと、仕事が忙しくて、妄想できない(´・ω・`)ショボーン
つか、1年以上、帰宅時間が0時を回ってる orz

266生の人:2006/07/15(土) 07:12:50
オッス、オラごくryじゃなくて
>264の二重人格ネタに触発されちょっと妄想
まだ仕上がってないけど途中まで出来たんで投下

ちなみに名前はサマル+ローレだけど幼少期とは別物なのでよろ
追伸 >265乙 ロレ編はちょっとまってね

267二重人格【1】:2006/07/15(土) 07:15:45

今現在ムーンブルクの亡霊から聞き、王女を元の姿に戻すため
あからさまにおかしい色をした毒沼の中でもう3時間も鏡を捜している。
まぁ、一人じゃないだけまだマシだが。

とりあえず生存確認がとれた王女がいない今、サマルトリアの王子が実質俺の相棒だ。
鈍く痛みを訴える腰をさすりながら俺はうんざりとため息を付く。
腰の痛みの原因が長時間屈んだ事だけでないことがよけい腹立たしい。


「なかなか見つからないですねぇ〜。」

のんびりとした声が沼の岸から聞こえた。

「どうせ野営するつもりですし一旦休憩したらどうですか?」

いつの間に沼から上がったのか、少し離れた木陰の下、のんびりくつろぐ
あいつを見つけてしまった。

サマルトリア第1王子、サマル。
妹や城の護衛兵士から”のんびりした性格”とあれほど言われていたから
少しなりとも理解していたつもりだったが・・・。
あまつさえ腹這いに寝転がって持参した呪文書を読んでやがる。まったりと。
そのせいか疲れがどっと押し寄せた。昨夜の疲れも引きずっているのに。
ああ、振り返らなきゃよかった。

「おまえがトロいからこんなに時間掛かってんじゃねーか!!」

こめかみが引きつるのがはっきり解る。
とにかくアイツはトロい。歩くのも食事をするのもざっと俺の2倍の時間が掛かる。
(歩く時は回りの景色に注意が行っているせい。食事は良く噛んで食べろと言われているから、だと。)
実際俺が沼の中を10メートル進む間、奴が進んだのはその半分くらいだった。
とにかく酷くマイペースだ。
もしここで俺が奴を殴ってもだれにも非難されないだろう。
粘つく泥を踏みしめながら何度目か解らないため息を付いた。


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