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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ドラゴンクエスト1部門〜

34竜王×勇者【20】:2004/09/23(木) 17:23
 平穏な時が長らく続いたある年、王は病に臥した。執務中に気分が優れないと訴えて
寝室へ運ばれたが、そのまま二度と立ち上がることはなかった。王は既に齢八十を超え
ていた。老王を見舞うために世界中から客人が訪れた。その中には、滅多に俗世に姿を
現さないと噂される隠者の姿もあった。顔が見えないよう外套で深々と覆い隠し、杖を
ついてはいたがしっかりとした足取りで歩くその姿は、とても彼が両の目を盲いている
とは信じがたいものであった。見舞い客の大半は贈り物の品々を持参していたが、この
盲目の隠者は杖以外には何も持っていないようだった。老王はこの隠者の訪問を大層喜
び、世話係をすべて下がらせて二人だけで面会した。隠者は来た時と同じく静かに城を
去り、誰にも声を掛けられることはなかった。隠者が帰った後、薬湯を寝室へ運んだ世
話係の話によれば、老王は重病を患っているのが嘘であるかのように顔色が良く、世話
係は「きっとあの隠者は王にとって特別な存在の御方であるに違いない」と考えて、既
に立ち去ってしまったかの者の訪問を心より感謝したという。
 だが二日後の夜、家族が見守る中でついにローレシアの老王は身まかった。まるで眠
りに落ちるかのような静かな死だった。王の遺体を棺へと移す際、王子は父王の左手の
人差し指に見慣れない指輪が嵌められていることに気が付いた。それは、貴石や豪奢な
装飾は付いていない代わりに美しい彫刻が施された指輪で、一国の王が身に付けるには
少々地味であったが、王子には何故かそれが誇り高くも飾らない人柄だった父王が最期
に身に付けるに相応しい物のように思えてならなかった。生前決して装飾品で彩られる
ことがなかったその指におさまるべくしておさまった指輪は、宮廷学者によれば、その
昔戦士が嗜みとして身に付けた装飾品ではないかとのことだった。やはり父には似合い
の指輪だと、遺された家族は涙で目を赤くしながらもひっそりと笑った。

 故人を悼む人々の心を代弁するかのようにしとしとと雨が降り続く中、初代王の葬儀
はしめやかに執り行われた。父王より受け継いだ冠を戴いた新ローレシア国王は厳かな
表情で式に臨んでいたが、葬儀の途中から一羽の小鳥が頭上の空を旋回していることを
知っていた。他の鳥達は雨を避けて、森の木々に留まり羽を休めている頃だろうに……
その一風変わった小鳥は、兵士の持つ王旗の先端に留まったりして、まるで葬儀に参列
しているかのように見えたので、新しい国王は内心それを微笑ましく思っていた。
 ローレシア前王妃と国王、それにサマルトリア国王とムーンブルクの王妃──つまり
ローラ姫とその子供達──が立ち会って棺が納められた後、王家の墓の入口は石壁で塞
がれた。こうして墓に誰の出入りも許されなくなったその時、例の小鳥がさっと空から
舞い降りてきて墓の上に留まった。しばらく墓の上でちょこちょこと動き回り、故王の
死を嘆くかのように麗しい声でさえずっていたが、小鳥はいずこともなく飛び去った。
ねずみ色の雲が分厚く垂れ込めていた空からは、雨粒の代わりに淡い陽の光が雲の切れ
間より射し込んだ。小鳥の鳴き声は、もう誰の耳にも聞こえなかった。



                               〜終〜


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