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98名無しさん:2008/04/24(木) 22:58:11
<神殿にて(後)>2/2

「起きたのか、ルカ。うなされてたようだが大丈夫か?」
 ルカは目覚め、牢獄の中で、側にヘンリーが座り込んでいることに気付く。
「う、うん。ヘンリーは?」
「オレの方はどうってことないさ。」
 ルカの目から涙がこぼれた。
「おい、どうした?傷むのか?」
「ちが……う。
ごめん、攻撃の魔法なんか使ったからきっと危険な奴隷だって思われてる。」
「何言ってるんだよ、お前はオレとあの女の子を助けてくれたんだぜ。
謝るなよ。感謝してるよ。ルカ。」
「絶対に、逃がすから。ヘンリーだけは。」
「逃げる時はお前もだ。」
「それはいい。ついでに私の妹も頼む。」
 その声がするまで、二人とも人影が近付いてきたのに気付かなかった。
「誰だ!」
「あんたは……。」
「ヨシュアだ。まだ名乗ってなかったな。」
 ヘンリーはいきなり現れた兵士に警戒の目を向けていて、ルカの目の下が赤く染まっているのに気付いていない。
 ヨシュアは牢獄の鍵を開けた。
「妹を助けてくれて感謝する。そんなお前たちを見込んでの頼みがある。
逃がしてやるから妹をここから連れ出してほしい。」
 ヨシュアの後ろに、二人が助けた新入りの女奴隷マリアがいた。
「妹?」
「さきほどはありがとうございました。」
 粗末な衣服に包まれた彼女は頼りなげに見える。
「どうやって三人も逃がすんだ?」
 ヨシュアは牢屋の側の水路を見た。大きな桶が浮かんでいる。
「あの樽に入るんだ。そうしたら私が水門を開いて樽を外に流す。
かなりの高さから落ちるが、うまくいけば水が衝撃を和らげるだろう。
隙間にはこれでも詰めておけば怪我も少なくて済む。」
 ルカは大きな布の袋を受け取った。
「このままでもお前たちはおそらく……できるか?」
「わかった。あんたの妹を預かる。オレたちを逃がしてくれ。」
 ヘンリーは頷くと樽に向かった。マリアもそれに続く。
「お前も行くんだ。」
 ヨシュアはルカの背中を樽の方へ押した。
 しかし彼女は布袋の中を覗いたまま動かない。
「これ……ここに来た時に取り上げられた……?」
「ああ、やっぱりお前のか。
奴隷から取り上げた物の中で、それだけ子どもの物が入ってたからな。リボンとか。」
 袋の中にはビアンカにもらったリボンがあった。色はすっかりくすんでいたが、思い出は鮮やかに脳裏に蘇る。
「外に出たらちゃんと髪梳かせよ。」
 ヨシュアがルカの頭を撫でた。
「このまんまじゃ美人が台無しだからな。」
「ルカ、何してるんだ。」
 マリアを樽に入れたヘンリーがルカを呼んだ。
「……あんたはどうするんだよ。」
「水門を空ける。聞いてなかったのか。」
「私たちを逃がしたらひどい目に遭わされるんじゃないの?」
「私の心配か?」
「心配したらダメか?」
「むやみに泣くな。私と離れたくないのかと勘違いする。」
 彼女は動こうとしない。
「ああ、そうだ。これを。」
 ヨシュアは指からリングを外した。
「持っていってくれ。」
 古ぼけているはずのリングが淡く光った。
「……キレイ。」
「気に入ったなら持っててくれ。
つまらない物だが一応、私やマリアの親の形見だ。無くすなよ。」
 ルカはヨシュアから離れて樽に向かった。
 ヘンリーが樽の縁に乗り、彼女を引っ張り上げ中に入れた。
 三人と布袋で隙間は殆どなくなった。内側から何とか蓋をする。
「水門を空けるぞ。」
「兄さん……!」
 マリアが小さく祈るようにつぶやいた。
「マリア、元気でな。
ヘンリー、マリアを頼む。
死ぬんじゃないぞ、ルカ、お前は生きろ、何があっても……!」
 樽が水の流れに飲み込まれた。
「――――!!」
 ルカの叫びも暴流に飲み込まれ、誰の耳にも届かなかった。


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