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97名無しさん:2008/04/24(木) 22:17:58
<神殿にて(後)>1/2

 ヨシュアは子供の頃に両親をなくして、妹のマリアと二人きりになってしまった。両親が残した財産は古い指輪を残して全て売り払った。それは今、ヨシュアの指にある。
「兵士の仕事だなんて危ないことがあるかも。この指輪はお守り代りに兄さんが持っていてね。」
 二人が「光の教団」に身を寄せたのは生きていくためだ。ヨシュアは大人になると兵士にされ、マリアは教祖の側に仕えた。
 教団は全ての人々の幸せを説いている。最初はそれを信じていたヨシュアだが、最近配属された神殿の建築現場で、多くの人々が無理やり働かされ傷つけられているのを目の当たりにした。そして彼らが逃げないように鞭を振り回している監視の男は、明らかに魔物だった。
「これが光の教団の正体だったのか!?」
 心底嫌気が差したヨシュアは、いずれどうにかしてマリアと共に教団から離れようと考えていた。

 しかし、そんな時。
 マリアが突然、奴隷にされ神殿に連れてこられた。教祖の大事にしていた皿を壊してしまったのだ。
 妹があの野獣のような奴隷どもの中に置かれたと考えると、不安で気が狂いそうだった。一刻も早く連れ出さなければならなかった。
「どうしたの?」
 いつの間にか一人の奴隷が自分を心配そうに見ていた。先日助けてやったルカという女奴隷だ。
「元気がないように見える。どこか怪我でもしたのか?」
 ヨシュアは神殿奥の牢屋番をしているところだった。そこには脱走を企てた奴隷が一人閉じ込められている。
「妹が……いや。何でもない。」
 奴隷にこんなことを話してもどうにかなるとは思えずヨシュアは話を変えた。
「お前、回復魔法を使ってたな。」
「ああ。それがどうかした?」
「なぜ奴隷にされたんだ?」
 ルカはヨシュアの顔を探るようにじっと見つめた。
(こいつにはここで初めて会ったのに、どこかで見た気がする目だ……誰かに似ている……)
「子供の頃だ、父が魔物に殺されて、ここに売られたんだ。」
「子供の頃からここにいたのか!?」
 そうでありながら、どうしてこんなに優しくいられるのだろう、とヨシュアは驚いた。
「……どうして私のことを聞くの?」
 ルカはヨシュアの目を見つめ続けている。
「少し私の話を聞いてくれるか?」

 ヨシュアは自分の生い立ちを話すつもりは全くなかったのだが、ルカの瞳に覗き込まれているうちに、妹が奴隷になったことも含めて身の上をすっかり話してしまった。
「もっと早くに教団を離れていればよかったと後悔しきりだ。しかし、ここの奴隷たちのことも知った以上、放ってもおけんし、第一内情を知っている私を教団が見逃すはずもない。」
「諦めたらおしまいだよ。」
 その言葉にヨシュアは、彼女の瞳が誰に似ているのか思い出した。
 荒んでいた子供の頃、出会った剣士が自分を諌めた言葉だったのだ。ルカのまっすぐな瞳はその剣士を思い出させた。更に髪の色も同じく黒い。全く梳られず無造作に束ねたそれが、一層あの剣士の姿を思い出させる。
「お前……確かに女だよな?」
「なんだよ。こないだ助けてくれたじゃないか!」
 ルカは顔を赤くした。


 全員で逃げる、その計画のためには、まず、ヘンリーに脱出してもらう必要があるとルカは考えていた。彼の実家であるラインハット王家ならば、奴隷全員を逃がすための軍隊や船をここに送り込む力がある。
 そのための協力を知り合ったばかりの名も知らぬ兵士にしてもらうつもりだった。
「問題は……山積みだなぁ。」
「何だよ、問題って。」
「ヘンリー!?聞いてたの?」
「危ないこと考えてるんじゃないだろうな。お前、親分に隠し事はナシだぞ。」
「判ってるよ。」
 問題なのは、ヘンリーは一人では決して逃げようとはしないだろうということだ。説得には時間がかかりそうだった。

 しかし、事態は急転した。
 奴隷らしくないという理由でマリアが鞭男に目を付けられた。彼女に鞭が振るわれたのを見たヘンリーが庇いに飛び込み、それをまたルカが助けに入って、ついに攻撃呪文を炸裂させてしまったのだ。
 マリアを襲った鞭男は倒せたものの、多くの兵士に囲まれ、ルカはついに捕らえられてしまった。手に余る危険な奴隷として。


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