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93運命的な彼の後悔 1/2:2008/04/03(木) 21:07:10
 ――なぜ私が奴隷の管理などしなければいけないのか。
 彼の頭の中はその疑問で埋め尽くされていた。
 彼は子供の頃に親を亡くし、幼い妹と二人で生きていくために光の教団に入信。妹の為にも少しでも暮らし
が楽になればと身を粉にして教団に仕え、念願の神殿騎士になれたはいいが、その配属先は大神殿建設現場。
そこで使役している奴隷の管理・監督だった。
 ――このような仕事、わざわざ神殿騎士たる私でなくとも、むちおとこに任せておけばいいものを。
 神殿部分の建設状況を見るでもなく眺めながら、彼は心の内で愚痴っていた。
「やめろ!」
 突然響いたその声が、彼の意識を内から外へと呼び戻した。
「何事だ?」
 声の発せられた方へと近づき、傍にいた兵士に尋ねる。
「はい。また、アイツです」
 うんざりした様子で兵士が指差す先には、一人の奴隷をかばって数人のむちおとこに立ち向かう奴隷の姿。
「また、か」
「貴様ら! さっさと仕事に戻れ!」
 遠巻きに事の成り行きを眺めていた奴隷たちに向かってヨシュアは声を張り上げる。
 その声を聞いた奴隷たちは一様にそれまでの作業を再開した。
 その様子を見届けてから、ヨシュアは問題の奴隷の眼前に立つ。
 長い黒髪と、意志の強そうな瞳が印象的だ。
「騒ぎの原因は何だ?」
「この人は足を怪我している。休ませてあげて欲しい」
 言われ、ヨシュアはその奴隷の後ろで倒れ伏す奴隷を見る。
 確かに足に怪我をしていた。足の甲が紫色に腫れ上がっている。運搬中の岩でも落としたのだろうが、もし
かすると骨折しているかもしれない。
「……わかった。そいつを連れて行け。ただし、そいつの分の仕事もお前がやるんだ。いいな?」
 その奴隷は無言で頷くと、倒れている奴隷を軽々と抱きかかえ、その場を去った。
 その姿を見送ってから、ヨシュアは傍にいる兵士に告げる。
「アイツが戻って来たら伝えてくれ。仕事が終わったら私の部屋まで来るように、と」
「はい。わかりまりました」
 そしてヨシュアは、地下部分の進行状況を見るべく地下へと続く階段へと歩いて行った。

 陽も落ちかけた頃、自室で事務作業をこなしていると、扉がノックされた。
「入れ」
 来訪者が誰なのか勿論わかっているヨシュアは、扉の向こうに呼びかける。
 はたして入ってきたのは、あの黒髪の奴隷だった。
「……何か?」
 短く問いかけてくる奴隷。
「聞くところによると、お前はもう奴隷になって十年近くなるらしいな」
「それが?」
「何故いつまでも私たちに逆らう? それにいまだに脱走を企てているらしいが、諦めようと思わないのか?」
 奴隷は静かに首を横に振る。
「私にはやらなければいけない事がある。それを果たすまでは、何があっても諦めたりしない」
 静かに、しかし溢れんばかりの強い意志が込められた言葉。その眼差しは鋭く、強く、輝きを見せる。
 ヨシュアはその射るような視線に耐えられず、思わず呻いた。
「だが! 現実問題として、お前は一生! ここから出ることはできない!」
 奴隷に気圧されないために、自然と語調が荒くなる。
「それでも、私は諦めない」
 瞳と、言葉とから発せられる意志がその強さを増し、ヨシュアは完全に気圧された。
「……くっ、くぅ」
 ヨシュアはおもむろに立ち上がると、奴隷の目の前まで歩み寄る。
「何故だ!? 何故、お前はそんなに強い! 奴隷の身で! まして、女でありながら!」
 ボロボロの奴隷の服に手をかけると、力任せに引き千切った。


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