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86
:
In the secret 後
:2007/09/23(日) 01:07:27
「そうだ、結婚式には呼べなかったけど、せめて記念品を持っていってくれよ。昔のオレの部屋、覚えてるだろ? あそこの宝箱に入れてあるからな」
「ヘンリーさまとの結婚式では、ラインハットのオルゴール職人さんが記念品を作ってくださいましたの。でも、ヘンリーさまったらなぜ昔のお部屋の宝箱に入れたりなさったのかしら?」
言われるがままに彼女は部屋を後にした。
そこから、二人の幸せに包まれているその部屋から、一刻も早く立ち去りたかった。
そのまま帰ろうかとも思った。しかし、ヘンリーの好意を無碍にする事など彼女に出来るはずもなく、重い足取りでヘンリーの子供時代の部屋へと向かった。
そこは、今では太后の部屋となっていて、顔を見るなりお礼の言葉を述べられた。
失礼なく挨拶をし、奥の部屋へと入る。
昔と変わらず、あの宝箱はそこにあった。
昔の、まだ父が生きていて、お互いに何も知らない子供の頃の思い出が甦る。
『そんなに言うならオレの子分にしてやろう。隣の部屋の宝箱に子分のしるしがあるからそれを取ってこい! そうしたらお前を子分と認めるぞっ!』
『どうだ?子分のしるしを取ってきただろうな!?
なに? 宝箱は空っぽだったって? そんなはずはないぞ! 子分になりたければ、もういちど調べてみな!』
思い出して、自然と笑いがこみ上げてきた。
――なんだ、子分のしるしを見つけてないから、私はヘンリーの子分じゃないじゃないか。なのに彼ときたら、私のことを完全に子分扱いして。
宝箱を開ける。
中にはやはり、記念のオルゴールなど入っていなかった。
「やっぱりね。ヘンリーったら、ちっとも変わらないんだから……」
しかし、オルゴールは入っていなかったが、代わりに一通の手紙が入っていた。
『――、お前に直接話すのは照れくさいから、ここに書き残しておく。
お前の親父さんのことは今でも1日だって忘れたことはない。あのドレイの日々にオレが生き残れたのは、いつかお前に借りを返さなくてはと……そのために頑張れたからだと思っている。
一時期は、お前の事を一生守っていくことが、オレのするべきことだと考えていた。そしてそれは同時に、オレの願いでもあった。しかし、伝説の勇者を探すというお前の目的は、オレの力などとても役に立ちそうもない。オレにはオレのできること、この国を守り、人々を見守ってゆくことが、やがてお前の助けになるんじゃないかと、そう思う。
――、お前はいつまでもオレの子分……じゃなかった、友だちだぜ』
普段は心の内に秘められたヘンリーの想い。
苦悩と葛藤と決断と、彼の想いの綴られた手紙。
彼女の心に深く深く、入り込んでくる。
――ヤダよ! ヤダよ!
友達じゃなくていい! 子分でいい!
何でも言うことを聞く! 負い目を感じる必要なんてない!
ずっと一緒にいたんだもん! いつも助けてくれたんだもん!
だから! だから……!
お願いだから……私の傍にいてよ……。
私の隣で一緒に笑って、一緒に怒って、一緒に泣いてよ……。それだけでいいから……。
大好きなの……貴方の事が…………。
溢れ出す想い。しかし遅すぎた感情の目覚め。
彼女の想いは声にする事すらかなわず、誰にも知られることなく、密やかに彼女の心で廻り続ける。
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