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85In the secret 前:2007/09/23(日) 01:05:17
 彼女は頭の中に、ラインハットのお城を思い浮かべる。
 幼い頃に訪れて、つい一年ほど前に再び訪れた、深い思い出の残る城。
 そのお城をキレイにイメージできたその時、彼女は呪文を唱えた。
「――ルーラ!!」
 その瞬間、彼女は強烈な力で上に引っ張られるような感覚に囚われ、思わず目を閉じた。
 次の瞬間には、地面に降り立つ感触を感じ、ゆっくりと目を開けた。
「……うわぁっ!!」
 目の前には、威厳を示すかのように、立派な造りのお城が佇んでいた。
 彼女はルラフェンから、海を挟んだ違う大陸にあるラインハットまで、一瞬にして辿り着いたのである。
「これがルーラ……。すごい!」
 ひとしきり喜びを噛み締めた後、彼女はお城の中へと足を踏み入れた。
 入り口を守る兵士が彼女の顔を見とめ、奥へと通してくれる。国の一大事を救った功労者、そして王子の友人として、顔パスになっている。

 尖塔への階段を昇り、ヘンリーがいるという部屋に向かう。
 会ったら何て言おうか、いきなり尋ねたらヘンリーはそんな顔をするだろうか、そんな事を考えていると、自然と笑みがこぼれてきた。
 階段を昇りきり、部屋の前へと辿り着く。扉の前に、一人の兵士が立っていた。
「ここはヘンリーさまと奥さまのお部屋。無用の者は……あっ、あなたさまはっ! さあ、どうかお通りください!」
 そう言って兵士が扉の前を譲った。
 彼女は緊張した面持ちで扉の前に立つ。
 兵士の驚きようにびっくりしたのと、ヘンリーに久しぶりに会うという緊張から、彼女は兵士の言葉を聞いていなかった。彼女にとって、恐らくは一番重要であろう言葉を……。
 兵士に促され、彼女はノブに手をかけてゆっくりと回し、押し開いた。
 一歩、二歩。彼女が室内に足を踏み入れるとすぐに、懐かしい声が聞こえてきた。
「こいつは驚いた! ――じゃないか!」
 ヘンリーが驚いた顔、そして笑顔になって駆け寄って来る。
 そして彼女の前までやって来て、彼女が再会の喜びを口にする前に、ヘンリーは口を開いた。
「随分お前のことを探したんだぜ。うん、その……。結婚式に来てもらおうって思ってな。実はオレ、結婚したんだよ!」
 照れ臭そうに、しかし嬉しそうに話すヘンリー。
 彼女が言葉の意味を理解できないうちに、別の声が聞こえてきた。
「――さま、おひさしぶりでございます」
 ヘンリーの隣には、見覚えのある美しい女性が立っている。
 彼女達と一緒に教団から逃げ出し、その後はシスターとなって一緒にラインハットを救った、マリアだった。
「わはははは! とまあ、そういうわけなんだ。お前に知らせなかったのは悪いと思っているが、一日でも早くマリアを幸せにしてやりたくてな」
「まあ、あなたったら……」
「とにかく、――に会えて本当に良かった。ゆっくりしていってくれよ」
 ヘンリーとマリアの幸せそうな顔と、会話を聞いて、彼女は悟った。

 ――ああ、もう私の入る隙間はないんだ。


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