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821/2:2007/09/19(水) 18:56:03
 しばらく待ってみたが、ヘンリーは帰ってこなかった。
 仕方なく一人で天空の盾入手方法を考えようとした彼女は、街の外れの方に瀟洒な家があるのに気づいた。
 ――あそこはまだ行ってないよね。
 その家の持つ雰囲気のせいか、自然と彼女はそちらに向かって歩を進めていた。
 家の周りに堀があって、綺麗な水が流れている。街の中にありながら、周囲はとても静かで、まるでここだけが切り取られた別世界のように感じられた。
 ――なんだか、心が落ち着く。
 扉の前に立ち、コンコンとノックをする。
 少しの間があって、扉が開けられた。
「何か御用でしょうか?」
 彼女を出迎えたのはメイドだった。
「えーっと、この街に伝説の勇者が使ったと言われる盾がある、という話を聞いたんですけど……何かご存じないですか?」
「それでしたら、私の主、ルドマン様が家宝とされています」
「えっ? ここって、ルドマンさんのお屋敷なんですか?」
「いいえ。こちらはルドマン様の別荘です。ルドマン様のお屋敷は街の北側にございます」
 メイドのこの言葉に、彼女は驚いた。
 ――いくらお金持ちとはいえ、街の中に自宅と別荘を持ってるの? ……何のため?
「お客さんですか?」
 と、家の中から声が聞こえた。
 メイドは中へと振り向き、説明をする。 
「はい。こちらの方が、ご主人様の家宝についてお尋ねになられました」
「父の? ……どうぞ、お通ししてください」
 その声を受けて、メイドが室内へと彼女を案内する。
「……おじゃまします」
 自然と潜めがちになる声。
 ヘンリーのお城のような規模の違う世界ではなく、身近なお金持ち、豪華な屋敷に少し気後れしてしまう。
「どうぞこちらへお座りください」
 室内へと入った彼女を、ソファーに座るように促すのは青年。
 肩までよりもさらに長い髪は薄い茶色で、サラサラと音を立てるかのように微風に揺れている。こちらを見つめる瞳もまた薄い茶色で、優しさを湛えている。肌の色も白く、受ける印象は『儚げ』の一言に尽きた。
 彼の言葉を受けるならば、ルドマンの息子なのだろう。
 彼女は言葉どおり、素直にソファーに腰掛ける。
 青年もテーブルを挟んで向かいに腰掛けた。
 メイドがティーセットを運んできて、カップに注ぐ。紅茶の良い香りが室内に広がる。
「それで、我が家の家宝に興味がおありなのですか?」
「……はい! 実は――――」
 彼女は自らが父を亡くしたこと、母を捜していること、そしてそれには天空の勇者を探さなければいけないこと、そのために天空の装備を探していることを伝えた。ヘンリーの事や、自らの詳しい過去は伏せておいた。ヘンリーに関しては、アレでも一応は一国の王子である。それがフラフラと旅をしているというのはあまりよろしくは無いだろう。自分の事に関しては、他人に話せるだけの勇気はまだ、持っていなかった。


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