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69雪解け・2:2006/07/02(日) 12:16:31

 今度はベラが奇声を上げ、少女は眼を丸くする。お返しとばかりに投げつけたものの、ま
さかそこまできれいに命中するとは思わなかったらしい。してやったりと思わなかったわけ
ではないが、少女は少し申し訳無さそうな顔をする。
 ベラは猫のような仕草で、ぶるぶるっと全身を震わせながら雪を払い落とし、両手で目一
杯雪を掬って少女に投げ返す。
「やったわねーっ!」
「だってー、ちょっとは、よけると思ったんだもーん!」
 歓声を上げながら、かくして雪玉――と呼ぶには、いささか豪快な代物――のぶつけ合い
が始まった。リンクスはふぅっと鼻で溜め息をつき、付き合ってられん、と死闘を繰り広げ
る二人から黙って距離を置く。
「問・答・無・用ーっ!」
「えーい! 負けないからねっ!」
 元気のいい声が飛び交い、雪の塊が派手に飛び散り、細かい雪の粉が舞う。少女二人の熾
烈な争いを尻目に、雪の上で丸くなって、くあっとあくびをするリンクス。何とも無防備な
振る舞いだが、春風のフルートを奪った雪の女王を倒した影響だろうか、あれだけ少女達を
てこずらせた魔物の姿は影も形も見当たらない。
 壮絶でいて楽しそうな声が、暫くの間、冬の澄んだ空に響き渡った。

 やがて気が済んだのか、体力が尽きたのか、全身雪まみれの二人は試合を中断して、肩で
息をする。一面の雪原は、手で雪を掬った後や足跡、全身跡やらで、二人と一匹の周りだけ
ボコボコ穴だらけだ。
「冷たーい。靴に雪入っちゃったよ」
「ホントにもー、風邪ひいちゃうわ。ギラ使えばあったまるかしら?」
「いや、あぶないから。やめようよ」
 冗談めかして言いながらも精神集中を始めるベラを、少女は慌てて止める。
 吹雪よりも、魔物が悪い気持ちでしてくる攻撃の方が、痛そうな気がするんだけど、と疑
問に思いながらも。
 妖精は、ヒャドに代表される氷の呪文や、魔物の放つ吹雪のブレスなどに、人間よりも遥
かに耐性を持つという。実際に、その手の攻撃を繰り出してくる魔物たちとの戦いの際も、
ベラが辛そうにしている素振りを、少女は見たことが無い。いつだったか本人に訊いてみた
ところ「冷たいものは冷たいし、寒いものは寒いのっ」という答えが返ってきた。
 ……そういうものなのだろうか。
「私、こんなに雪に触ったの初めてだわ。ここの冬は、いつもはもっと短いも……」
 ふわふわと宙に浮かび、衣服や髪についた雪埃を叩いて落としながら、ベラは自分で口に
した言葉で瞬く間に顔色を青くする。
「やだっ、こんなことしてる場合じゃないわ、ポワン様にフルートをお渡ししなくちゃ! 
ね、ちゃんとフルート持ってる? そこら辺に放置して失くしちゃったなんてコト無い!?」
「大丈夫だよ。ほら」
 ものすごい勢いでベラに詰め寄られるが、少女は落ち着いた様子で頷き、懐から銀色の横
笛を取り出す。
「そ、そう……良かった……」
 日の光を照り返してキラキラする横笛を目に、ほっと胸を撫で下ろす。妙に切実なその様
子に、以前、同じような失敗をしたことでもあるのだろうか?と勘繰らずにはいられない。
けっこう慌てんぼうのベラならありえそうだ、とも。


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