したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

SS投稿専用スレッド

68雪解け・1:2006/07/02(日) 12:15:48

※幼女主人公とベビーパンサーとベラ。
  春風のフルートを取り戻した直後の話です。

 ― 雪解け ―

 その光景は、いつもより少し長く眠っている。
 遠くの峰は銀色に輝き、裸の木々は雪帽子を被り、川や湖の氷は身動き一つせず、地面は
余すところ無く雪で覆われて、その下でじっと息を潜める草花の芽。
 時折駆け抜ける風に巻き上げられた雪の粉で、白く煙る銀世界の向こうに、氷の館と呼ば
れる氷山が聳え立つ。天然のものなのか、何者かの手による創造物なのか。それははっきり
しないが、全てが青白く透き通る氷によって形作られた姿はいっそ見事ですらあり、その温
度の無い美しさが、銀世界の寒々しさをいっそう引き立てる。
 不意に、中央に穿たれた洞穴の奥で何者かの影が動いた。
 複数。
 蠢く影の一つが俊敏な動作で、陽の差す表の世界へと飛び出し――
「はぁー、やっと外だわ、春の息吹を感じるわ!」
 重々しい辺りの佇まいと不釣合いな朗らかな声と共に、洞窟の奥から小柄な少女が姿を現
した。元気よく両腕を振り上げて背伸びをし、ゆったりした風変わりな衣装をふわふわ揺ら
す。赤い宝石の付いた金の髪飾りがよく映える菫色のくせっ毛。その影に見え隠れする、耳
朶が薄く尖った特徴的な耳は、妖精と呼ばれる種族特有のものだ。
「ホント? わたし、全然わからないよ……」
 妖精ってすごいんだね。
 続いて顔を出したのは、紫の外套を纏い、白い綿毛の縁取りが付いた毛皮のフードをすっ
ぽり被った、澄んだ漆黒の瞳が印象的な幼い少女。小さな両の手には、淡い銀青の光を放つ
横笛がしっかりと握り締められている。少女の足元で、燃えるような鬣と金色の毛並みを
持つ子猫?が、さくさくと爪で地面に積もった雪を掻く。
 少しでも、山脈の館に入る前と変わったところを見出そうと、きょろきょろ辺りを見回す
少女の様子を見て、
「ううん、そんな感じがするだけ。ポワン様が春風のフルートを吹かないと、本当の春は来
ないもの」
 無邪気で悪戯な微笑を浮かべながら、悪びれた風も無く言ってのける妖精の少女に、もう
一人の紫の少女はあんぐりと口を開ける。
「えー、何それー」
「いいのいいの、小さい事は。さあ急ぎましょ、ポワン様が待っていらっしゃるんだから!」
 急かされるように――いや、明らかに急かされて背中を押され、少女は積もった雪に足を
捕られてバランスを崩す。
「わわっ、ベラ、押さないで、大丈夫だってば、言われなくても急ぐひゃふ!」
 両手をわたわた振って何とか持ちこたえていたが、ついに顔面から積雪にダイビング。当
然、少女の言葉は全て言い切る前に奇声と共に中断された。雪に突っ伏す彼女に相棒の猫?
が近づき、雪にめり込んだ少女の毛皮のフードを被った後ろ頭を、肉球でぺちぺちと突付く。
「うぅ〜〜、つ、め、たーい……くすぐったいよリンクス」
 猫(リンクス)の手を優しく退けながら、少女はゆっくりと身を起こし、前髪や鼻の頭に
くっついた雪を払い落とす。雪原には何ともお間抜けな人型が、丸くくっきりと残っていた。
「あ、あは……あはは、ゴメンね?」
 乾いた笑いと共に頬を掻く妖精の少女――ベラ。それに対するもう一人の少女の返答は実
にシンプルだった。
 ベラの引きつった笑顔に、ものすごい量の雪の塊が降り注ぐ。
「ひぁやっ!?」
「あ」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板