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64前夜・2:2006/05/15(月) 22:19:24
「さっきからずっと、手がすごく冷たいの。緊張してるのかな」
 彼女は口に付けたコップを勢いよく傾け、当然のようにむせた。どう見ても緊張している。
「しない方がおかしいだろ」
 笑わなかった自分を心の中で褒め称えつつ、ヘンリーは言った。それでも一応、心にも
ないことは言っていない。
 そうかな、と少し安堵の表情を見せて、彼女は改めてコップの水を一気に飲み干した。
 緊張すると、無性に喉が渇くものだ。
「ビアンカ姉さんもフローラさんも、みんな眠れないって」
「そりゃあな」
 ヘンリーは気の無い返事を返すが、疑問には思わなかった。
 あくまで他人事だが、ここまで奇抜な他人事も滅多にお目にかかれない。
「……やっぱり、そう思う?」
 彼女は空になったコップを置いて、恐る恐るといった風に問いかけてくる。
「まあ、そりゃ……」
 ヘンリーは言葉に詰まる。
 不安に赤くなった、きれいな黒い瞳。
 窓から差し込む深い群青の月闇の中、無言で見つめ合い――
 ぶは。
 顔を見合わせた二人は、同時に噴き出した。
 あはははははっ! あはははははは!!!
 お腹を抱えて、目じりに涙を浮かべて、二人は堰を切ったように大笑いする。
「あのおっさん、ありえねえって! 何だよあの自己中!?」
「ねえ、そうよね! そう思うよね!?」
「あたりめーだろーが! 何がどうしてこうなってんだ?」
「知らないわよー!」
「ていうか天空の盾どーすんだ! どこまで脱線してんだよ!」
「結婚って何? ちょっと前に、信じられないとか言ったの誰よ」
「おめーだろ!」
「えー、ヘンリーじゃなかった?」
「お前もお前だっての! 余所様の結婚話に何、首突っ込んでんだよ!?」
「だ、だって!」
「だってもへったくれもねーよ!!」
「こんなことになるなんて、思わなかったんだもん!」
「もん言うな!」
「○○○○○○○○○!」
「××××××××××!?」
「△△△△△△△△!」

 ―― 一通り文句やらストレスやら理不尽やらをぶちまけた後、ぜいぜい言いながら息を
整えたら、再びやってきた静寂がものすごく耳に痛かった。
 三度繰り返すが、夜の空気は音をよく通す。窓も扉も閉め切ってはいるが、下手をしたら
ご近所の安眠妨害だ。
 暫く息を潜めて耳を澄ます。どこからか苦情が出た様子は感じられない。
 大丈夫だろう。たぶん。無責任な事を考えながら、二人は再び笑いあった。


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