したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

SS投稿専用スレッド

61ずっと一緒に・6:2006/05/12(金) 19:31:43
 かもしれない、は要らなかったな。彼は思う。
 口とガラの悪いスライムやキラーパンサーとか、無意識で不思議な踊りを繰り出し、人の
魔法力を減らすサボテンボールやドラキー、パペットマンとか、背後で不気味に微笑んだり
転がったりしている挙動不審な爆弾岩とか……慣れてしまえば、どうと言うことは無い。
 その返答に、リーシャは実に満足そうに頷き、ヨシュアもまた納得する。
「うん。もっと沢山の人が、皆のこと、わかってくれるといいな……あれ?」
「ああ、なるほど。ん?」
 二人が振り向いた先の皆――つまり彼女の仲間たちは今、がっくりと力尽きたように倒れ
伏していた。
 ……駄目だこいつら。哀愁漂う佇まいが消極的だが力いっぱい主張する。
「どうした。疲れが溜まっていたのか?」
「早く言わなきゃダメじゃない。体調を崩したらどうするの」
 身を起こす魔物たちは、真顔で心配する二人に生温かい視線を送った。
 ありがとうばかやろう、と。
「違うわ、この鈍感と天然があぁ!」
 べしゃ。
 スラリンが叫びながら、勢い良くヨシュアの顔面に体当たりする。鉄の胸当てを装備して
いないだけ、ドラきちのそれよりはだいぶマシだろう。
「スラリン!?」
「何をする」
 驚きの声と少し不愉快な声をそれぞれ上げる二人に、最悪の組み合わせだ、とスラリンは
かんしゃくを起こして飛び跳ねる。
「一歩前を期待していた、おいら達をどうしてくれるよ!」
「がっかりにゃー」
 ?
 失望を全身で――消極的では伝わらなかったため――表現するスライムと、大仰にため息
をついてみせるドラキーに、意味がわからない、と心の底から不思議そうな面持ちで、顔を
見合わせる人間二人。
「もう一度口に出してみれば、わかるのではないかね」
 マーリンが、そ知らぬ顔をしてお茶をすする。
 とにかく意味がわからない。仕方が無いので仲間たちの言うとおり、ヨシュアは真っ直ぐ
にこちらを見つめてくるリーシャに向かって口を開き――
「ずっと……」
 ――即座に閉ざした。
 ざくっ、と静けさの中に破邪の剣が床板に突き刺さる音が響く。後で修繕しなくては、と
妙に冷静な事を考える。
 恥ずかしさに悶絶する者、笑いをこらえる者、事情を飲み込めない無垢な者――反応は
様々だが、誰もが声を潜めているおかげで、甲板は気まずい静寂に包まれた。
 波が船体に打ち付けられる音と、たまに思い出したように鳴く海鳥の声が響く。
 手入れを終えた破邪の剣を手早く鞘に納め、無言で立ち上がるヨシュア。
 笑いをこらえ切れなかった誰かが噴き出す声。
「待ってヨシュアさん! 先に逃げるなんてズルイよ!」
 続いて聞こえる、リーシャの慌てた声。
 背中越しではその表情はわからない。振り向いて確認する気も起きない。
「……勘弁してくれ」
 彼は額に手を当てて、誰にともなく、万感を込めて一言呟く。

 今が夕暮れ時で良かった、と誰かが思った。



(了) おそまつさまでした。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板