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60ずっと一緒に・5:2006/05/12(金) 19:28:02
「私は両親は知らないが、マリアがいた」
 唐突な言葉にリーシャが徐に顔を上げると同時に、彼は視線を剣に戻す。
「一人ではなかったから、それはそれで恵まれていたのだろうな」
 無論、常にそんなに前向きでいたわけではない。恥を恐れずに告白するなら、妹の存在を
負担に感じた時もある。幼い頃は特に。
 だが、妹を守らなければならないという思いが、何よりも心の支えだったのは間違いない
と言い切れる。一人だったらとっくに力尽きていた。
「だから、気にしないでくれ」
 短い沈黙の後、うん、と小さく頷く気配がした。
「……ヨシュアさん」
「どうした?」
 声をかけられたから返事をしたのだが、何故か彼女の方がわずかに狼狽える。
「あ、うん。えっと、ヨシュアさんが自分のこと話すの、珍しいなと思って」
 少しだけど、と付け加える彼女の科白に、確かに言った覚えは無いな、と彼は思い、
「そんなに面白い話ではないからな」
 思ったままを口にする。
 光の教団があることで、全ての人が幸せになれる――そう思っていた。自分も妹も。
 信じていたものは、全て偽りだった。
 物心付く前から、盲目的にそう思い込まされていたとしても。教団に傷つけられる人々を
見るたび、己がいかに愚かだったかを思い知る。この先ずっとそれは続く。シスターとして
神に仕える妹もまた同じだろう。
 身から出た錆なのだから、自分としては(恐らく妹も)それでいいが、それはどう考えても
他人に聞かせて楽しい話ではない。
 そう、と小さく相槌を打ったリーシャは、少し寂しそうな顔をしていたが、やがて憂いを
振り払い、いつもの曇りの無い微笑を浮かべた。
「……そうよね」
 穏やかでいて、凛として芯の通った声。
「私にも、お母さんはいなかったけど、お父さんとサンチョも、サンタローズの人たちも、
ヘンリーもリンクスもビアンカ姉さんもいたし、ベラにも会ったわ。今も皆がいてくれる」
 きっと幸せなんだわ。彼女はごく自然にそう結論付ける。
 いつの間にか半ばまで水平線に隠れ、深みを増す太陽の赤が辺りを照らした。
「いつか、お母さんとみんなと一緒に、サンタローズに帰れるかな」
 右手を額にかざして、眼を細めて夕焼けの空を見上げながら、彼女は言う。
 口にすることで、その願いを確かなものにするように。
「お母さんとサンチョを見つけて……また、あの家で暮らしたい。リンクスもピエールも
スラリンも……みんなと一緒に」
 あ、でも、それだと、人が多すぎて家が壊れそうだね、とリーシャは笑った。
 仲間たちが、聞こえていない振りをしているのは――気づかなかった事にしてあげよう。
「ずっと一緒にいる、か」
 彼女の言を復唱し、ヨシュアも少しぎこちなく微笑する。
「それも、いいかもしれないな」
 聞き耳を立てていた周囲の魔物たちの反応は、真っ二つに分かれた。
 その言葉の温かさに無邪気に喜ぶか、涼しい顔をしたまま武器の手入れの仕上げに取り掛
かる青年を、驚愕の表情で凝視するか。
「本当の、本当に? もう一度、言ってくれる?」
 魔物たちの反応に、怪訝そうに眉を顰めたヨシュアが、何事かと問いかけるより早く、
リーシャが大きな黒い瞳を輝かせて彼を見つめる。
 状況がよくわからないまま、ヨシュアはそれらしいと思われる言葉を繰り返した。
「……それも、いいかもしれないな?」


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