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55青空の約束(3)-3/3:2006/04/22(土) 15:17:39
「私たちは先に行ってるわ。あんまり遅くならないでよ、主役のお二人」
 そう言い残すと、親友たちは別荘を出ていってしまう。
 なんだか、とてつもなく気恥ずかしい。
 生まれて初めての化粧に、豪奢な純白のドレス。女らしい部分なんて
ちっともない自分の姿が、フローニの目にはどう映っているのだろう。
「あの…お、おかしくない…?」
 消え入りそうな声で囁いたルカに、フローニは微笑を浮かべながら首
を傾げる。
「お化粧…ビアンカがしてくれたんだけど、私、したことないから…」
「素顔の君も可愛いけど、今日はとびきり綺麗だと思う」
「……っ」
 あまりに率直な褒め言葉を受けて、ルカは耳まで真っ赤に染まった。
 フローラもそうだが、育ちのよさが成せる技なのか、この兄妹は臆面
もなくこういった言葉を口にする。少しは言われるほうの身にもなって
もらいたい。嬉しいけれど、それ以上に恥ずかしくてたまらなかった。
「あのね、ルカ。僕たちが出会ったあの日、パパスさんはうちの父に自
慢してたそうだよ。君はお母さんにそっくりだから、将来はすごい美人
になるぞって」
「…お父さんが、そんなことを…?」
「うん。僕もついさっき父からはじめて聞いたんだけど。『だったらぜ
ひうちの息子の嫁に』って言ったら、絶対一生嫁には出さないって断ら
れたって。…ひょっとしたら今頃、すごい剣幕で怒ってるかも」
 くすくすと笑うフローニにつられて、ルカも微笑む。胸の痛みを感じ
ずに父の面影を思い浮かべるのは、彼の死を目の当たりにして以来はじ
めてのことだった。
「あのね…気になってたんだけど。私、もしかしてとんでもないことし
ちゃった? 跡継ぎのあなたを選ぶなんて、ルドマンさん怒ってない?」
 心配そうに上目遣いで見上げてくるルカの手を取り、フローニは彼女
をソファから立たせる。
「大丈夫、父は君を気に入っているよ。いずれ時期がきたらこの街に戻
らなければいけないけど、それはたぶん、もう少し先の話だから」
 時がくれば、フローニは自分が抱えている秘密をルカに打ち明けてく
れるだろう。だからそれまで、彼を信じて共に歩いてゆけばいい。
「それじゃ、行こうか。みんかが待ってる」
 ルカの手を引き扉を開いたフローニはふと思いついたように立ち止ま
り、自らの手でシルクのベールを花嫁に被せると、その滑らかな絹に隠
れてそっと唇を重ねてきた。
 いきなりのことに双眸を瞠ったルカの手を握り直しながら、いたずら
っ子の表情で笑ってみせる。
「いつも驚かされてばかりで悔しいから、お返し」
「…もうっ。覚えてらっしゃい」
「望むところだよ」
 まだ神の御前ではないけれど、二人は幸福な未来を互いに誓い合う。
 つないだ手の、ぬくもりにかけて。
 扉の外には、果てなく晴れ渡った青空が広がっていた。

END


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