したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

SS投稿専用スレッド

54青空の約束(3)-2/3:2006/04/22(土) 15:17:16
 青年の思慮深い瞳が一瞬影を帯び、やがて強い決意が宿る。
「君はいつも、想像もつかない方法で僕をびっくりさせるんだね。これ
じゃ一生目が離せないじゃないか」
 指先に触れた彼の手のぬくもりと、甲に押し当てられた唇の熱を、ル
カは生涯忘れることはないだろう。観衆のどよめきが二人を包むのを感
じながら、緊張の糸が途切れたルカは未来の夫の腕の中へと倒れ込んで
いた。
     ***
 目覚めた瞬間、目に飛び込んできたのはまばゆいばかりの純白。
 それが自分の身につけているウェディングドレスの色だと気づいた瞬
間、ルカはまだ夢の中にいるような錯覚にとらわれた。ずっとふわふわ
した雲の上を歩いている夢をみていたのだ。とても幸せで、気持ち良か
ったのを覚えている。
「ちょっとちょっと! なにやってるのっ」
「……あへ、ヒアンハ? ……っ、たぁ…!?」
 無意識にほっぺたをむにゅっとつまんでしまったルカのおでこに、痛
烈なデコピンが飛んできた。
「あれ、じゃないでしょ! 予定外の相手にプロポーズしたと思ったら
いきなり気絶しちゃって、大変な騒ぎだったんだからね。ここに運ばれ
る間も幸せそうに笑いっぱなしだし…まったくこの子は、いきなり顔の
筋肉がゆるんじゃってもう」
 両手を腰に当てて心底から呆れた顔をしている幼なじみが、けれどど
こか誇らしげに見えるのは気のせいだろうか。
「まったくですわ。よくもわたくしの最愛の兄を奪ってくださいました
わね」
 なぜか頭の上からフローラの声がする。言葉とは裏腹に、その口調は
軽やかでどこか面白がっているかのようだった。
「ああっ、だめ、動かないで! いまフローラが髪を結ってくれてると
ころなんだから」
「え? え? なんなの?」
「そうですわよ。じっとしてて下さいな、お姉様。もうじきお兄様がベ
ールを持って帰ってきてしまいます。それまでにどうにかしないと」
 フローラが髪を結い上げる傍ら、ビアンカはルカに花嫁の化粧を施し
ていく。質問も抵抗も封じられたルカは、されるがまま身を任せるしか
ない。ちらちらとあたりを見回して、どうやら気絶しているうちにルド
マンの別荘まで連れてこられていたらしいと把握した。
 ちなみに、ルカが腰かけているのは横たわって眠れてしまうほど大き
なソファである。心地よく眠っている間に着替えさせられ、着々と式の
準備は進められていたようだ。侍女に命じずビアンカとフローラが支度
を手伝ってくれたのは、傷痕を気にするルカへの思いやりなのだろう。
「…ふう、どうにか形になったわね」
「ええ、我ながら最高傑作ですわ」
 顔を見合わせて満足そうに笑いあう二人の友人に、ルカ本人だけがつ
いていけない。だが、さすがにムッとして口を開きかけた瞬間に玄関扉
が開かれ、輝かしい真昼の陽光とともに盛装姿のフローニが現れると、
ルカはすべての状況を飲み込んでなにも言えなくなってしまった。
 つまり、これから結婚式なのだ。自分と、彼の。
 ルドマンが特注していたシルクのベールを手に、フローニが自分に近
づいてくる様子を、ルカはやはり夢見心地で見つめていた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板