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53青空の約束(3)-1/3:2006/04/22(土) 15:16:41
とんでも連投で申し訳なさMAXです。
これで最後になりますのでどうぞご勘弁を。

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     ***
「さて、心は決まったかね?」
 早朝から呼び立てられたルドマン邸では、神妙な面持ちのヘンリーと
アンディが待ち構えていた。ビアンカとフローラも心配そうにこちらを
見つめている。そして、彼らを通り過ぎた部屋の一番奥に、息をひそめ
る様子で成り行きを見守っているフローニの姿があった。
 ほんの一瞬交えた視線に、ルカを力づける優しい笑みが浮かぶ。
「…はい、決まりました」
 ルカの返事に満足げに頷くと、ルドマンは「では花婿のもとへ」と促
す。
 アンディの前に歩を進めた瞬間、まだ包帯も痛々しい表情が晴れやか
に輝いた。かすかに胸が痛んだけれど、ルカは立ち止まらずに歩を進め
る。
 ──あなたが本当に成長できるのは、守るべき人がいてこそ。だから、
私ではダメなの。守られるばかりの愛なんて、おてんば娘には向いてな
いのよ。
 勝利を確信したヘンリーが誇らしげに笑みを浮かべ、ルカに向かって
手を差し伸べる。けれどルカがその手を取ることはなかった。
 ──私の強い部分を信じてくれるヘンリー。大切な友達。ずっと互い
に支えあう関係を望むあなたは、いつか私の弱さに失望する日がくるか
もしれない。
 成り行きを見守る屋敷の人々の間からざわめきが零れる。ルカの名を
呼ぶヘンリーの声が聞こえたが、振り返りはしない。
 真っすぐ見据える双眸の先には、長身の青年だけが佇んでいた。
 驚きに見開かれた青い瞳は、あの日の空の色。
 懐かしい、幸福の記憶。そしてどこまでも続く未来への標──。
 目の前で立ち止まり、見上げた表情には困惑が浮かんでいた。
「…ねえフローニ、憶えてる? かくれんぼで見つかったら、私、あな
たのお嫁さんになるって約束したのよ」
 昨晩、彼の肩を借りて涙しながら甦った記憶。それは子供じみた賭け
だったけれど、いまのルカを後押ししてくれる、たったひとつの勇気と
なる。
「ルカ、僕は…」
「私の幸せは、フローニ、あなたの傍らにあるの。私の宿命があなたを
巻き込むかもしれないとわかっていても、気持ちは変えられない」
 あなたの背負った宿命に巻き込まれたってかまいはしない──言葉に
はのせられなかった想いまで、ちゃんと伝わっただろうか。不安に揺れ
そうになる心をありったけの勇気で奮い立たせ、ルカはその小さな手を
彼に差し出した。
 フローラのように可憐な指先ではない。剣を握り、魔物と戦い続けて
きた、これは戦士の手だ。
 もしもこの手を取ってもらえるのなら。
 この先ずっと、自分自身の歩んできた道を誇りに思えるから。
 もう二度と、過去は振り返らずに未来だけ見つめて生きていけるから。
 ルカの願いを包み込むかのように、フローニの目元がふっと優しく綻
んだ。
「…もちろん憶えてるよ。だから僕はどうしても君を見つけたくて、マ
ストにまで登ったんだ」


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