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52
:
青空の約束(2)-3/3
:2006/04/20(木) 07:51:16
少しも悪いことなんかしていない青年の謝罪に、ルカはふるふると首を振る。
かける言葉もなくて夜空を見上げれば、降り注ぎそうなほどに満天の星が瞬い
ていた。
「……あの頃に戻れたらいいのにね」
ルカの呟きに、頭ひとつ半高いところでフローニが小さく微笑むのがわかる。
「かくれんぼで君を探すのは大変だったよ。まさかマストの見張り台に隠れて
るなんて想像もしなかったから」
「あはは、結局見つかっちゃったけどね」
「二人して登ってるのを船長や父さんたちに見つかって、ひどく叱られたっけ」
「お父さんにお尻を三回もぶたれたのよ、私」
「僕なんか五回だよ」
お互いに指を回数分立てながら真顔を突き合わせて、次の瞬間同時に噴き出
した。
夜の帳に隠れるように、ルカとフローニの密やかな笑い声が風に解ける。
「私、あの日見た景色は忘れない。青い海と空がどこまでもどこまでも広がっ
てて、本当に綺麗だった…」
いつも笑っていた。
父と出る旅の意味も知らず、ただ無邪気に幸福だった日々。毎日が小さな冒
険の連続で、こんな日が永遠に続くと思っていたあの頃の自分──。
「なにも変わってないよ」
少女の揺れる心を見透かしたかのように、フローニはぽつりとつぶやいた。黒曜石を思わせるルカの大きな瞳が見開かれ、二人の視線がぶつかり合う。
「世界は大きく歪んでしまったけれど、君はあの頃のまま少しも変わっていな
い。たとえなにがあったとしても、まっすぐな視線も、勇敢な心も、僕が大好
きだった昔のままのルカだ」
「…フローニ…私は……」
「よくがんばったね、ルカ」
「……っ…!」
どんなときも、決して涙は見せなかった。どれだけ傷つけられても、痛くて
も、悔しくても、悲しくても、寂しくても──絶対に涙だけは見せまいと肩肘
を張って生きてきた。そうしなければ、小さく弱い心が感情に押しつぶされて
しまいそうだったから。
泣き方すらも忘れるほど、長い孤独だったのだと今さらながらに悟る。ルカ
はフローニの広い肩に縋りつき、声にならない嗚咽を小さな身体から絞り出し
、失った大切なものすべてに、ようやく別れを告げた。
髪を優しく撫でてくれる大きな手のひらの暖かさ。それは懐かしい父の手に
似ているのに、なにかが違う。ずっとこうしていたいと願うほど、心地よい感
覚だった。
どれくらいそうしていただろう。呼吸を整え落ち着きを取り戻したルカの耳
元で、フローニが静かに囁く。
「父のことは気にしないで。盾はいずれ僕が継承するものだから、誰を夫に選
ぼうと君になら無条件で貸し出すよ。もしまだ結婚したくないなら、それでも
いい。自分が一番幸せになれる道を選んでほしい。君にはその権利があるし、
僕も心から君の幸福を望んでいる」
そう言い残すと、彼はルカを残して屋敷へと戻っていった。
彼の姿を見失った途端、すさまじい喪失感を胸を襲う。一人立ち尽くす夜の
庭園は、凍えそうなほどに寒い。
──どうして大丈夫だと思えていたのだろう。一人きりで生きていけると。このまま旅を続けられると。どうして、そんなふうに強がることができたのか。
誰に聞くまでもない。もう答えは、ルカの中で確かに芽吹いていた。
孤独で凍りついた胸に、春風を吹き込んだ彼の力で。
[もちょっと続く]
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