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51青空の約束(2)-2/3:2006/04/20(木) 07:49:24
 けれど彼は王族の血を引き、傾国の危機に瀕する故郷の未来を担う存在でも
ある。彼の帰還を心底から歓迎していたラインハット国民の姿を思い出すと、
常に危険がつきまとう冒険の旅につき合わせるなんて、とてもできそうになか
った。
 その時、ぱきっ…と背後で小枝の割れる乾いた音がして、ルカの物思いが打
ち破られた。
「誰!?」
 いつものくせで腰の剣に手を伸ばし、いまは薄いシルクの夜着しか身につけ
ていなかったことを思い出した。
 振り返ったルカの双眸に、木立の陰から現れた長身の青年が映し出される。月影に隠れて表情はわからないけれども、ひどく気まずそうに髪を掻き上げる仕草は子供の頃から変わらない彼のクセだった。
「驚かせて悪かった」
「…フローニ…どうしたの、こんな夜更けに」
「君こそどうしたんだ? 別邸の明かりがまだついているのが気になって様子
を見にきたんだが…眠れないのか?」
「うん、まあね。いろいろ考えてたの」
 盛大な溜め息をこぼしたフローニは、自らが身につけていた白い上着をルカ
の肩へとかけてくれる。彼の体温を直に感じたルカは、自分の身体がこんなに
も冷えきっていたことに改めて気づく。
「強引な父ですまない…。言い出したら聞かないところは昔から変わらなくて
、ああなると誰にも止められないんだ」
「ううん、いいの。元はと言えばフローラのお婿さん探しを邪魔した私のせい
なんだし。結婚もね、悪くないと思うのよ。ただ、ちょっと…ほんのちょっと、
迷ってるだけなの…」
 言葉を濁すルカの心中を察したのか、フローニはただ黙って傍らに立ってい
る。こんなにも心地良い沈黙があるなんて、知らなかった。ただ隣にいるだけ
で感じられる体温の優しさを、ルカは生まれてはじめて味わっていた。
 一人で過ごすにはつらい夜だった。けれど、醜い傷痕をビアンカたちに見ら
れてしまっては、気軽に語り合う心境にはなれなくて。
 言葉を交わす必要もなく、ただこうして穏やかな空気を分かち合える存在が
、嬉しい。
「ねえ、フローラはお婿さんを探してるのに、お兄さんのあなたは結婚しない
の?」
 ふと疑問を口にすると、青年は困ったような微苦笑を口端に浮かべた。
「僕には…父から引き継ぐ大切な役目があるから。それが落ち着くまで誰とも
一緒になるつもりはないんだよ」
「役目…」
「そう。フローラや母は知らない、嫡男だけに課せられる宿命みたいなもの。これまで何代もの間なにごともなく無事に過ごせてきたけど、どうやら僕はのんびり構えていられないらしいから」
 多くを訊ねなくとも、ルカには彼の背負ったものの重さがわかるような気が
した。だからこそ、彼も秘密を話してくれたのかもしれない。
 フロールの宿命がどんなものなのかはわからなくても、彼の覚悟は理解でき
る。危険を伴うかもしれない来るべき瞬間に、一人きりで立ち向かうつもりな
のだ。
「父は、だったらフローラの結婚相手に立派な青年を選んで僕を手伝わせれば
いいと言い出して…その結果がこの状況なんだ。だから、君の結婚話は僕のせ
いとも言えるんだよ。本当にすまない」


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