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50青空の約束(2)-1/3:2006/04/20(木) 07:47:47
     ***
 ヘンリーか、アンディか。
 本来ならこの結婚は、フローラとアンディが結ばれるべきものだったのだと
ルカは思う。それなのに。
 愛娘の婿探しで躍起になっていて、少女のルカには目も留めてくれないルド
マンの気を引きたい一心で、ついつい炎の指輪を手に入れてしまったのが事の
発端である。
 指輪のついでにアンディの心まで奪うことになろうとは、誰が想像できただ
ろう。
「君といれば、僕も一緒に成長していけそうな気がする」と彼は言った。全身
大火傷の病床、最愛の幼なじみに看病されているその目の前で。
 フローラに対して失礼極まりないセリフだと一時は腹も立ったけれど、実の
ところ彼の本心はまだ彼女に向かっているのだろうとルカは確信している。
 なぜならアンディにとって、成長とはすなわちフローラにふさわしい自分の
姿だからだ。
「一途な人みたいだし、ちょっと勘違いしちゃってるだけなのよね…」
 ルカが備えている圧倒的な『力』への憧れを、愛情と誤認しているに違いな
い。フローラへの面目が潰れ、心がルカへと逃げているようにも感じていたが
、どのみち火傷が治って熱が下がれば正気に戻るだろう──そう簡単に考えて
いた。
 死の火山からほぼ無傷で生還したルカにルドマンはいたく感激し、「婿選び
はまた他の方法でもできる。よし、もし水の指輪を取ってくることができたな
ら、君の旅にできる限り力を貸そう」とまで約束してくれたことに浮かれ、ル
カは事態を重く受け止めてはいなかったのだ。
 だが、協力してくれたビアンカとともにサラボナに戻ったルカを迎えたもの
は、なんと数カ月前に別れた旧友の姿だったのである。
 ラインハットにいるはずのヘンリーは、どこでどう聞きつけたものか、アン
ディがルカに求愛したと知りサラボナに飛んできて「ルカは誰にも渡さない」
と言い出したらしい。
 ルカ不在のまま睨み合うヘンリーとアンディを見兼ねたルドマンが「だった
ら本人に選ばせなさい。結婚式は私が面倒をみよう」などと馬鹿げた提案をし
てくれたおかげで、ルカはいまこうして頭を悩ませる状況に追い込まれていた。
 最初、ルカは当然断ろうとした。ヘンリーともアンディとも、いまはまだ誰
とも結婚なんて考えられないから。けれど、ルドマンの機嫌を損ねれば天空の
盾は二度と手に入れられないかもしれない──その不安が、ルカの決断を鈍ら
せる。
「私、どうしたらいいのかな、お父さん…」
 見上げた星空は遠くまばゆく光を放つばかりで、答えてくれそうにない。
 屋敷を囲む優雅な木立の隙間を、春のぬくもりを帯びた夜風が吹き抜ける。
 頬をなぜるその感触は、記憶に遠い母の面影を宿していた。
 行方不明の母を命がけで探し続けた父。二人の間に通いあっていたような強
い絆を、果たして自分とヘンリーの間に築くことができるのだろうか。
 やんちゃでわがままで、手のつけようのなかった王子様。一緒に攫われ、神
殿での過酷な労働も二人で心を支えあってきた友。
 ──そう、ルカにとってヘンリーは大切な友なのだ。よくも悪くも、互いを
知り過ぎている。
 ヘンリーを夫に選べば、彼はきっとこう言ってくれるだろう。
 共に戦おう、と。


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