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47青空の約束(1)-3/3:2006/04/18(火) 21:34:24
 よくこんな自分に二人の男性が婿候補の名乗りを上げてくれたものだ。しかも内一方は、目の前の可憐な女性を心から愛していたはずなのに、いったい彼は何を血迷ったというのか…。
「この色、きっとルカさんにお似合いですわよ」
 かつての求婚者・アンディの心変わりをどう受け止めているのだろう、フローラは内心をおくびにも出さずルカに接してくれていた。さすがは躾の行き届いた良家の子女、と言うべき冷静さには舌を巻く。
「うわぁ、やわらかい…。ありがとう、私なんかにはもったいないくらい素敵」
「なに言ってるの、明日には花嫁になるくせに。さあ、着替えちゃいなさい」
「ビアンカってば、お母さんみたい」
 本当の母はどんな人なのかわからないけれど、なんだかちょっぴりくすぐったい。
 女性らしい膨らみの乏しさを見せたくなくて、ルカは二人に背を向けて着衣を脱ぎ捨てる。だが、ハッと息をのむ気配を感じて、軽卒に服を脱いでしまったことをすぐに悔やんだ。
 鞭の痕が一番集中しているのは、背中だから。
 長く伸びた髪でも隠しきれない無惨なそれを、よりによってビアンカとフローラに見られてしまうなんて。
「…あはっ、参っちゃうよね。自然に治るまで放っておかれた傷だから、ベホイミでも消せないの!」
 夜着を胸元に抱えたルカは、顔だけで振り返りながら精いっぱい明るく笑ってみせた。お願いだから同情しないで、と心の中で叫びながら。
 もしも同性の二人に慰めの言葉をかけられてしまったら、もう毅然と立ってはいられないような気がするのだ。
 普通の女の子でいたいなんて望みは一生抱かないと、激しく鞭打たれながら心に誓った。父の遺志を継ぐために。母を救うために。自分の人生は、そのためだけにあるのだと歯を食いしばって涙を堪えて生きてきたから。
「…まったく、相変わらずおてんばなのねぇ、ルカってば。あんまり無茶しちゃダメよ」
 フローラよりも先に口を開いたビアンカが、呆れたように肩を竦め、人さし指でルカのおでこをピンッと弾く。そんなやりとりに微笑みを取り戻したフローラが、「早くお召しにならないと風邪を引いてしまいますわ。ベッドの用意もメイドが整えているので、いつでもどうぞ」とルカを促した。
「うん、ありがとう。…でもすぐには寝られそうにないや。こんな格好だけど、ちょっとだけ庭を散歩してみてもいいかな?」
 ビアンカと視線を交わしたフローラが「それではこれを…」と、自らが羽織っていたナイトガウンを差し出そうとするのを、ルカは小さく手で制した。
「ううん、大丈夫。ちょっと風に吹かれて、いろいろ考えたいの」
「そうですか…。ねえルカさん、同じ年頃の方とこうしてお話しする機会があまりないので、わたくしも今夜はこちらにご一緒させて下さいな。ビアンカさんとおしゃべりしながらお待ちしてますわ」
「…ありがとう、二人とも」
 優しい友人に見送られて館の扉を開いたルカは、夜の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 決断のときは、迫っている。


[つづく]


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