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46青空の約束(1)-2/3:2006/04/18(火) 21:33:32
 勇ましく剣を振るうルカの両肩は驚くほど小さく、せつない気持ちに胸が締めつけられる。日に焼けた肌のそこかしこに残る傷跡ひとつひとつに、彼女の流した涙の記憶が宿っているに違いないのだ。
 ビアンカにすら、囚われの十年を多く語らない。だが、ルカの全身に走る決して消えない鞭の痕跡が、彼女が与えられてきた苦痛のすべてを物語っていた。
 どうしてこの子ばかり、こんなに辛い目にあうのだろう。自分が男なら、もう絶対に一人になんかさせないのに。どんな危険からも守ってあげるのに。
 けれど自分は女で、病に倒れた父がいる。決して彼女の傍らに立ち続ける夫にはなれないというのが悲しいかな現実なのだ。
 どうかルカが選ぶ男性が彼女を幸せにしてくれますようにと、祈ることしかできないのがひどくもどかしかった。
「…実はね、私の初恋ってルカなのよ」
 突然の告白にきょとんと顔を見上げてきたルカに、年上の少女はクスクスと軽やかに微笑んで見せる。
「レヌール城で私がお墓に入れられちゃったとき、一生懸命助けてくれたでしょ? すごーくかっこ良くて頼もしかったんだもん、ルカってば。男の子だったら絶対お嫁さんにしてもらったのに、まさか先を越されるなんてねぇ」
「あら、それを言うならわたくしだって…。昔うちの船で兄と三人で遊んだこと、憶えてらっしゃるかしら? 転んでしまったわたしくに手を差し伸べてくださったルカさんの笑顔、ずっと忘れられませんでしたわ」
 二階から降りてきたフローラが淡いラベンダー色の夜着を胸に抱えて、階段の手摺り越しに声をかけてくる。着替えを持たないルカのために服を探してくれていたのだ。
 振り返ったルカの目には、いつもと変わらず優しい微笑を浮かべた令嬢のたおやかな姿が映っていた。ビアンカとはまた違ったタイプの女性だけれど、穏やかでしとやかな、自分にはない部分をたくさん持っているフローラも、ルカにとって好もしく新鮮な存在だった。
「うん、もちろん憶えてるよ。船の上でするかくれんぼなんてはじめてで、すごく楽しかったもん。あとちょっとで陸地ってときに、フローニに見つかっちゃったんだよね。あれは悔しかったなぁ」
 フローラによく似た双子の兄との競争を懐かしく思い出し、自然とルカの表情が綻んだ。
 指輪の捜索で慌ただしくしていたせいで、ゆっくりと再会の挨拶もしていないけれど、彼もまた立派な青年へと成長を遂げていた。ルドマン自慢の後継者である。
「ふふっ。お兄様ったら、わたくしなんかそっちのけで、あなたを探すのに必死でしたわね。絶対につかまえるんだーって。遊びであんなにムキになったお兄様、はじめてでしたのよ? …ああ、そうそう、お待たせしてごめんなさい。私のものだと少し大きそうでしたから、ちょっと探すのに手間取ってしまって」
 ふっくらと柔らかな曲線を描くビアンカやフローラに対して、あまりに痩せぎすな自分が恥ずかしかった。筋肉質に引き締まった華奢な肢体はひたすら戦闘のために鍛え抜かれ、少女というよりは少年のそれに近い。純白のドレスを纏う花嫁姿が似合うはずもないとルカは思う。


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