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45青空の約束(1)-1/3:2006/04/18(火) 21:32:34
 冷たい水にひたされた布が、絡まりもつれたルカの髪を優しくほどいていく。しなやかな流れる滝のように豊かな黒髪を丁寧に梳かしながら、ビアンカは小さく感嘆の吐息を漏らした。
「本当に綺麗な髪よね、ルカ。まるで砂漠の夜空みたい…。過酷な旅をしてたっていうのに、ちっとも傷んでないなんて信じられないわ」
「そ、そんなことないよ。ビアンカやフローラみたいに、ちゃんとした…手入れとか、したことないもん。ただ、身体と一緒で頑丈なだけが取り柄なの」
 正直なところ、手入れといってもどんな方法があるのかもルカは知らなかった。奴隷として過ごした年月には、髪の毛どころか身体を水で拭う機会すらろくに与えられなかったのだから無理もない。いまだって旅の途中は川や泉の水で汚れを洗い流す程度なのだが、さすがにそれは恥ずかしくて口にできなかった。
「羨ましいわ。私の髪なんて、日に焼けちゃって大変なんだから」
 病床の父に代わり、太陽の下で汗水を流して働いてきたためだろう。ビアンカのブロンドは陽光に曝され、ところどころ褪せた色に輝いていたが、かえってそれが彼女の自然体な美しさを際立たせてもいる。
 不満げに唇を尖らせている親友に、「ビアンカの髪、おひさまみたいで私は大好きだよ」と、ルカは心からの言葉を投げかけた。
 父・パパスの命と引き換えに生き抜いてきた隷属の日々。反抗的な奴隷だったルカは地下での過酷な労働を強いられることが多く、陽の光にどれだけ焦がれたか知れない。ビアンカと過ごした冒険の記憶は、荒みそうになるルカの心を照らしてくれる太陽そのものだったのだ。
 ルカは過去を深く問おうとはしないビアンカの優しさに感謝した。
「うふふ、ありがと。またルカとこんな時間を過ごせるなんて思ってなかったから、すごく嬉しいの。洞窟の冒険も、大変だったけど楽しかったわ」
 ビアンカの協力を得て、ルカは水の指輪を手に入れた。いまは炎の指輪とともにルドマンの管理下にある。
 ──明日の朝ルカが選ぶ結婚相手と、ルカ自身のために。
 年頃の女性だけで宿屋に泊まるくらいなら…と、ルドマンが二人のために別荘を貸し出してくれたことを、いまさらながらにありがたいと思う。
 突然決まった花婿選びを控えて、一人きりで過ごすには夜はあまりに長すぎた。
 旅の埃を落とすために湯浴みした後、絡まり縺れていたルカの髪を梳かしたいと言って譲らないビアンカに座らされたソファの上で、ルカは居心地の悪さにもぞもぞと身じろぐ。綿の詰まったふかふかのクッションがお尻にくすぐったい。
 フローラから借りた馬毛のブラシで、艶やかな長い黒髪をせいいっぱい丁寧に梳るビアンカは、ルカに悟られないよう小さく唇を噛み締めた。


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