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44再会_B・3:2006/04/14(金) 23:36:17

 結局、その噂は全くの出鱈目だった。
 それを知った時の脱力感は、拍子抜けしただけか、安堵だったのか、よく覚えていない。
 そうして、一風変わった心優しき仲間たちと、長年苦楽を共にした親分がここにいる。
 仲間が何人か増えた事以外、永い虜囚の日々から解き放たれて、見るもの全てが色鮮やか
に映ったあの日々と何も変わらないはずなのに、あの日生まれて、未だ消えずに残っている
正体不明の渦巻きが、彼女の心に未だかつて感じた事のない影を落とす。
 感じた事のない影。形のないもやもやが固まれば、その正体がわかる気がする。
 もう少し。もう少しで――

「どうなんだろ、ってオイ……自分のことだろ?」

 ぱっ、と固まりかけた何かが霧散した。

「ボケるにはまだ早いぜ」
 呆れたようなヘンリーの声が、無遠慮に彼女の悩める心を突き刺す。
 ボケるとは何だ。人の気も知らないで。誰のせいで悩んでいると思っているのか。
 あっという間に、もやもやが、むかむかにすりかわる。
「……忘れた」
 彼女は思考を放棄して、いい加減な結論に逃避した。
 そう言ってみれば、本当にそんな気がしてくるから不思議だ。
「はぁ?」
 ヘンリーは間の抜けた声を出す。
 彼にしてみれば、少女が急に不機嫌になったようにしか見えないのだから、それは仕方の
無い事だ。罪が無いとは言えないが。
「いいわよ、もう」
 いつも穏やかな物腰の彼女にしては珍しく、棘を含んだ声音で言い捨てる。
「忘れるってことは、大した用事じゃなかったのよ」
 ……何故、私が得体の知れない感情に、振り回されなければならないのだ。
 理不尽な怒りに任せて、理解できない『何か』に強引に蓋をする。
 驚いてその後を追いかける親分とパトリシアを尻目に、彼女はぐさぐさと、明らかに不機
嫌な様子で樫の杖で地面を刺しながら、早足で歩き出す。 
 ……人間って本当に馬鹿ね。
 荷車を引くパトリシアの呟きを、彼女は聞こえなかったふりをした。
 視線の先で、サラボナの町へと続く洞窟が暗く口を開ける。
 その向こうで待つ決断を、彼女は知る由もない。
 その先に続く道程は、誰にもわからない。
 得体の知れないもやもやと、向き合う暇は与えられないまま、その時は迫る。



(了)


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