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43再会_B・2:2006/04/14(金) 23:26:05

 ――どうか、兄を自由にしてやって下さい。
 先日、ラインハット王城を訪れた彼女に、国王デールが口にした嘆願。
 それに対しヘンリーは本気で怒りを露にした。十年間、王族としての勤めを果たせなかっ
た自分は邪魔なのかと。
 国が大変な時に、救国の英雄――ヘンリーを連れ出すなんて、出来るわけが無い。
 彼女もまた、最後まで反対した。
 でも結局、デールの意外な頑固さと、その眼差しの温かさ、寂しさに降参して。
 もしもラインハットの国民やデールが困っている時は、必ず駆けつける。
 結局、そう弟王と少女に約束して、ヘンリーは半ば追いやられるように再び旅立った。

 もうすぐ、岩山に穿たれた洞窟に辿り着く。
 一度目は洞窟を目前にルーラで引き返してしまったから、この草原を通るのは二度目だ。
「……なあ」
 背後からヘンリーの声が聞こえた。声音からだけでは、その感情は慮る事は出来ない。
「なに?」
 何となく振り向く気分にはなれないまま、彼女は答える。
「あの時さ、ラインハットに用があったんじゃなかったのか? 何かゴタゴタしてて、町に
出るとか、全然そんな暇なかったと思ってよ」
 少女の足が、止まる。
 数歩遅れて、ヘンリーと荷車を引く白馬パトリシアが立ち止まった。
 唐突に留まった荷車が乱暴に揺れて、幌越しに仲間たちが騒ぐ声が聞こえ、何事か、と
パトリシアも鼻を鳴らす。
「……どうなんだろう」
 ぽつりと、少女は呟く。

 ある日、彼女は一つの噂を聞いた。
 宿泊先の女将が何気なく語った、海の向こうの王国の噂話を聞いた時、『二人』を祝福す
るために、ラインハットに戻るべきかと思った。古代の呪文ルーラは、一瞬にして、それを
可能とする。
 しかし、今は天空の勇者と装備品とを捜し、まだ見ぬ母を救い出す事を一番に考えるべき
だと思い、そのまま旅を進めた。
 心の片隅で、もやもやとした何かが渦を巻いていた。

 迷宮の町を囲む森林を彷徨いながら、考える。
 ……彼なら、わかってくれるだろう。
 草原を南に下りながら思う。
 ……母を捜せという、父が最期に遺した言葉が、今の自分を動かしているから、
 比較的緩やかな山道を越えながら。
 ……立ち止まっている、時間が惜しい。
 西大陸を結ぶ砂丘の砂の中、
 ……何となく、胸が痛いのは
 命をかけて、相容れぬ魔物と切り結んでいても、
 ……たぶん、家族のように思っていた人が離れる寂しさで、

 そして今立つ場所、洞窟を目前にしたこの景色の中で、あの日、聞いた噂が蘇る。

 ――何でも結婚なされたのは、王さまの兄上のヘンリーさまとか。

 用事があったわけじゃないし、理由も定かではない。
 ただ何かに突き動かされるように、ルーラの呪文が口を吐いて出ただけ。


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