したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

SS投稿専用スレッド

41再会_A・3:2006/04/11(火) 22:51:05
「で、どうしたんだ。サラボナに行くんじゃなかったのかよ?」
「うん。それなんだけどね」
 彼女は簡単に説明した。
 とある町に住む名家の家宝として、天空の盾と呼ばれる品が伝わっているという噂を聞い
て、そのサラボナの町に辿り着いた。
 そこで、その家の娘の、望まぬ結婚話を白紙にするために必要な指輪を手に入れるには、
水門を開けて川を下らなくてはならないのだが、水門の鍵の管理人が「女だけでは危険だ」
と承諾してくれなくて困っている、と。
「意味わからねえ……」
 それを聞いたヘンリーは、呆然と呟く。
 特に後半、どの辺に彼女の目的である天空の勇者や天空の盾が、関係あるのかが。
「だ、だってね。無理に結婚させられるなんて、可哀相じゃない」
 盾についてはその後に考えるわ、と、どこまでもお人好しで行き当たりばったりな友人に
彼はとうとう頭を抱えた。
「それにフローラさんって、初めて会った気がしないの。何となく放っておけないのよね」
「何となく、で命張るなよ。お前も、相変わらずって言うか……」
 最近、妙に結婚話に縁があるよね、と笑って結論付ける彼女に、ヘンリーは呆れて苦笑を
返すしかない。
「結婚か。俺たちもそんな歳なんだな。信じられねえや」
「そうよね。私は、そんなことより早く勇者を探して、お母さんに会わなくちゃ」
 早くと言いながら、回り道をしてるお前は一体何なんだ、とは言わないでおく。
「そんなことって、お前な。それじゃ、あっという間に行き遅れるぜ?」
 その代わりと云う訳でもないが、ヘンリーは意地悪く言った。自分から始めに「信じられ
ない」と切り出しておきながら。
「いいわよ。リンクスやスラリンたちがいてくれるもの」
 少女は唇を尖らせて言い返し、湯気の引いたティーカップを口にする。眼と声音が本気な
のが、彼女らしい。
 空になったカップを受け皿において、一息つく。
「じゃあ行くか。デールと話つけないと。流石に黙って出て行くわけにはいかねーからな」
 一瞬の沈黙を挟み、椅子を引いて立ち上がるヘンリーを見上げ、あまりに急なことに、
少女は目を丸くした。
「どうしたよ。男手が必要だから、俺のところに来たんだろ?」
「そうだけど……いいの?」
 すごく、危険だし。ぽつりと呟く彼女の言葉を、今更何言ってんだよ、と笑い飛ばす。
「子分の面倒を見るのは、親分の役割だからな。気にするな」
 有無を言わせぬ強い口調でヘンリーは言った。
 ……この少女が他人に頼る事は、滅多に無い。
 気が遠くなるほど長い奴隷時代、決して弱音を吐かなかった。
 滅びたサンタローズの村を見ても、一度もラインハットに恨み言を言わなかった。
 彼が、荒廃したラインハットに残ると決めた時も。
 頼るべき父、青春の十年。帰るべき故郷、懇意にしていた村人達、待ってくれていると信
じていた、家族同然の召使。
 この国と自分の存在のために、何もかもを失った少女。
 彼女が助けを求めるなら、出来る限り力になりたい。
 たしかに負い目もある。それ以上に、長い付き合いの戦友として。
「ありがとう。ヘンリー」
 さっきからかわれたことも忘れたように表情を輝かせ、彼女も席を立つ。
 いつでも真っ直ぐに礼が言えるのは、この少女の良いところだと思う。
 見習う事は、自分には出来そうに無いが。

 呑気に「信じられない」だの「そんな事」だのと言っている彼らを待つ、重大な選択。
 それは、もう少し後の話。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板