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40再会_A・2:2006/04/11(火) 22:50:40
 ぶつかる!
 衝突を覚悟した彼の全身が硬直し――ひらりとその横を通り過ぎ、彼女は素晴らしい身の
こなしであっさりと着地した。
 振り向いた先で、紫の外套と白い旅装束が翻る。
 ああ、そりゃそうだよな。
 普段から戦いで鍛えているし、気軽に塔から飛び降りたりしているんだから。
 決めたばかりで無駄になった覚悟を持て余しながら、ヘンリーは思った。
「久しぶり、って言うほどでもねえな?」
 気を取り直して、小柄な後ろ姿に声をかける。
「うん。思ったより、また会うの早かったね」
 長い黒髪を手櫛で整えながら、彼女は振り返る。変わらない、屈託の無い笑顔。
 その口元と頬が小刻みに震えだし、
「ぷっ……さっきのヘンリーの声、凄かった!」
 彼女は弾けるように笑い出す。それはもう遠慮のかけらも無く。
「笑うな。子分の癖に生意気だぞ」
「何年も前の話を持ち出さないで、って言ってるでしょう」
 照れ半分、不機嫌半分で軽くターバンの頭を小突くヘンリーに、彼女は息を整えながら、
即座に答えた。

 思ったより早い再会。
 ラインハット王子ヘンリーと修道女マリアがめでたく結婚した。
 連絡を受け、あれよあれよと舞い戻ったラインハットにて、そのヘンリーとマリア本人の
口から勘違いだということが発覚し、脱力するは爆笑するはの混乱を経て、再び別離を果た
したのは、つい先日のことだった。
 王子の朋友であり恩人たる少女に、ご報告申し上げるためだけに、遠路はるばるやってき
て、仁王立ち……丁重にお迎え頂いた王国兵の見上げた行動力は、彼女の記憶に新しい。
 次はいつ会えるかわからないけど、なんて言うんじゃなかったわ。
 全くだ、俺の感動を返せよ。
 軽口を叩きながら、二人は城の一室である応接間の豪華なテーブル越しに向かい合う。
 辺りに漂う、女官の淹れたあたたかな紅茶の甘い香り。
 身体が沈むほどクッションの効いた椅子に腰掛け、少女はわずかにぐらぐらしている。
「俺も城に戻ってから、色んな連中に会ったけどよ」
 紅茶のカップを傾けながら、ヘンリーは言う。
「空から降って来た奴を歓迎するのは、初めてだぜ」
「ルーラって便利なんだけど、制御が難しいの。慣れれば、上手く行き先を決められるっ
て、ベネットさんは言ってたけど」
 本当かしら、と彼女は小さく付け加える。
 他に使用できる者がいないのだから、確かめようが無い。
「でも、いきなり城に飛んじゃうなんてね。皆には、馬車で待っててもらって良かったわ」
 たしかに彼女の連れの、気は優しいが少しばかり個性的な仲間たち――平たく言ってしま
えば、スライムナイトや腐った死体が、ラインハットの城内を歩き回る様子を想像すると、
笑いが止まらない。ではなく、冷や汗を禁じえない。
「ヘンリー、今ろくでもないこと考えなかった?」
「いきなり人聞きの悪いこと言うなよ」
 眉根を寄せて、不自然に鋭い勘を発揮する友人に、ぬけぬけと答えてみせる。


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