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39再会_A・1:2006/04/11(火) 22:50:19
A 水の洞窟の同行者として
B うわさのほこら関連

※本スレ1の過去ログを参考にした、ヘンリー再加入(妄想脚色付き)の話です。
 設定は全て仮のものです。

 ― 再会 A ―

 ヘンリーは一人、佇んでいた。
 見下ろした先は城下町。
 彼方に広がる山脈と、森と平原の濃淡の緑。その隙間にかすかに見える水平線。
 風に衣服を揺らされて、手すり代わりの城壁に触れると、昼下がりの陽気を吸った石壁
が、ほんのりてのひらに温かい。
 ラインハット王城の屋上に広がる風景は、昔から変わることが無いけれど。
 小さい頃は手の届かない場所であり、ただの風景にすぎなかった、それらの実際の姿を
今は知っている。
 険しい山道、森の匂いと日光を遮る木々の影。足が棒になる草原の広さ、息を潜めてこち
らの動きを探る、魔物の気配。
 戦いの日々。
 あいつらは、元気にやっているだろうか。
 長年、共に辛苦を乗り越えてきた子分の少女と、彼女に惹かれ、同じ釜の飯を食った魔物
たちを思い出す。
 今の環境に不満を持っているわけでは無い。
 ラインハットの民も、弟王のデール自らもまた、救国の英雄であるヘンリーに、王の座に
着くよう願ったが、彼はそれを固辞した。長い目で見れば、己が王の座に着くには無理があ
る。彼自身が一番わかっていた。
 たしかに一時的に民の支持は得られよう。だが英雄の名声に賞味期限が訪れた時、十年間
の空白が、あらゆる意味で致命傷になる。
 どうしても変わらない兄の考え、その事実を悟ったのであろう、
 ――わかりました。
 いつの事だったか、短くそう告げたのを最後に、弟は王位の件を口にするのをやめた。
 そして、傍で見ていて心配になるくらい、必死に働く日々が始まった。地に堕ちた、民の
信頼を取り戻すために。
 もともと勉強熱心で誠実なデールの、それが精一杯の罪滅ぼしだった。
 王族である以上に、親分そして一人の兄としてそれを支えるのは当然だったし、またやり
がいのある仕事でもあった。
 そして今、彼らの努力が実を結んで、ラインハットに平穏が訪れつつある。
 ようやく手に入れた自由を満喫していたあの日々が、この頃無性に懐かしく思えるのは、
きっと達成感に気が抜けているのだろう。ヘンリーは自嘲混じりの吐息を小さく零す。
 まだまだ手放しで安心するわけには、いかないと言うのに。
 ――ヘンリー!
 全く、幻聴まで聞こえてくるなんて終わっている。
 短くため息をついて、彼は城内に戻ろうと、背後の扉に向かって踵を廻らす。
 ――どけてーーーー!!
 やけに、はっきりした叫び。幻聴ではないのだろうか。
 何事だ、と半信半疑で空を仰いだ、彼の視線が凍てついた。
 空の真ん中、こちらに迫り来る、見慣れた少女の姿。
 幻覚まで見えたら流石にヤバイぜ俺、とヘンリーは思い、否、現実から目を逸らしている
場合ではない、と瞬時に考え直す。
 ……マジかよ!

「うわあああああああああああっ!?」


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