したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

SS投稿専用スレッド

28夜に咲く花 後2:2006/02/23(木) 00:55:17
 夜の風が運ぶ草の匂いは昼のそれとは違う。夜は魔物の時間だ。夜行性の魔物は活発
になり、眠りに落ちた魔物も人間の匂いを嗅ぎ付ければ眼を覚ます。聖水の力が無けれ
ばのんびりと歩くことは叶わないだろう。
 揺れる草が足首を撫でる。視線の先には、求めている奇跡の薬草があった。
「おーい、リュカっ!」
 名を呼ばれ、リュカは振り向いた。近づく仲間を視界に納め、遅いよ、と笑う。
 ターバンと揃いの紫のマントは夜の色によく馴染む。夜目が効く少女を一人にしては
いけないとヨシュアは学んだ。
「これは」
 言葉を途中で呑み込む。光源の乏しい夜の草原で、それは小さな輝きを放っていた。
 シロツメクサのように小さく、白百合のように可憐で、林檎のように芳しい。その一
方で薔薇にさえ勝る凛々しさも感じられた。それはただ神秘的と呼ぶには、あまりにも
陳腐だった。
 リュカはしゃがみこんでルラムーン草に指で触れる。光の粒が、花の先から僅かに零
れ落ちた。粒が落ちると光は煌きを失う。引き抜いたら光が消えてしまうのではないか、
心配そうに彼女は告げた。ヨシュアは苦笑する。そんなことを言っていたらルラムーン
草を持ち帰ることは永久に不可能ではないか。言ってから、彼もまた屈んだ。
 持って帰ろう、一緒に。
 どちらともなく、それを言い出した。茎を掴んだリュカの手に、ヨシュアの手が添え
られる。剣を握り続けてきた故に無骨な形になってしまったその手は、触れれば崩れて
しまうかのように彼は感じた。
 本当ならば、こうやって花を愛でるべき手であるはずなのに。
「ありがとう」
 リュカはルラムーン草越しにヨシュアの瞳を見上げた。大神殿での逃亡の手引き。数
数の戦い。
 修道院を守護する僧兵やラインハットの衛兵として生きる道もあった。その中で、彼
は最も危険なリュカを護るということを選んだ。償いの意思はあったのだろうが、助け
てくれたことにリュカは心から感謝している。
「ああ」
 ヨシュアの返事は短かった。それでも、リュカは満足だった。

 馬車に二人が戻ったのは、それからしばらく後のことだ。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板