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26夜に咲く花 前2:2006/02/23(木) 00:54:07
 それからさらに数分、二人は何度目かの行き止まりに辿り着いた。
 落胆はなかった。足元はこれまでの砂利の足場と違って芝生が敷かれており、石のテ
ーブルと椅子が置かれている。町の憩いの場所のひとつなのだろう。
 椅子には先客がいた。リュカよりも少し年上の、黒い服を着た修道女だった。一目で
修道女だとは分かったが、見慣れない服だと思い注視する。
 目が合った。ヨシュアは苦々しい表情を浮かべる。慌てて謝るリュカに対し、修道女
は清楚な笑みを浮かべて口を開いた。
「あなたも、光の教団の教えに興味がおありなのですか?」
 ぞくり、とする感覚が全身を奔った。服の下に隠れた膝が細かく震える。頭が警鐘を
鳴らす。指先が冷たい。背を流れる汗は違う種類のものだ。
 全身で全力で拒否をしようというのに、声帯は言うことを聞かず振動を続けた。遠く
遠くまで逃げてきた。だというのに、教団の手は既に喉元までのびている。どこに逃げ
ても無駄なのではないか、そんな悲観までよぎる。
 す、と肩に大きな手が置かれた。
「いや、彼女は教団員だ。私は神殿に着くまでの護衛を仰せつかっている」
 ヨシュアは鋼鉄の盾を修道女に向ける。ところどころ窪んではいたが、それには確か
に光の教団の紋章が刻まれていた。
「あら、そうでしたか。それは失礼を」
 修道女は柔らかく言葉をつむいだ。立ち上がり、リュカの手を握る。
「ともに、幸せになりましょうね」
 震えるばかりの少女には、無言で頷くことしかできなかった。

 酒場で貰った飲み物が喉を通ると、ようやく意識が自分の元へと帰ってきた。青ざめ
ていた頬に桜色が戻る。
「すまない、止めるべきだった」
 心底申し訳ないという表情で、ヨシュアはリュカに頭を下げた。リュカは慌てて首を
振る。ヨシュアに非は無い。落ち着くと、リュカはぽつりと口を開いた。
「怖かった」
 鞭打たれる日に戻ることが。光の教団が勢力を広げていることが。それを多くの人が
信じてしまっていることが。優しい眼差しをリュカは思い出す。かつてのサンタローズ
でも、同じような眼差しを受けた気がする。
 街中でなければ、魔物たちに八つ当たりをしてしまいたかった。


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