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15砂漠の夜・1:2006/02/15(水) 16:23:18
『レヌール城にて』の感想を下さり、ありがとうございました。めっさ嬉し。
以下、女主人公と娘がメインの話です。
どうも感情的になってしまったので、湿っぽいのが嫌いな方は、ご注意を。



 - 砂漠の夜 -

 彼女は寝台に腰掛けて、二人の子供達を横目で見た。
 たまに雑談を交えながら、ヒャダルコの呪文書を読みふける娘と、ベギラマの呪文書をあくびをしながら見ている息子。
 ……今からこれなら、もっと大きくなったら、どうなるんだろう。
 二十歳前後の若さで、数多の魔物を従え、高度な武具や呪文を自在に操る自分のことを完璧に棚にあげて、彼女は思い――
「きゃーー! お兄ちゃんっ! 本によだれたらさないでーーー!!」
「……うーん……ボク、呪文苦手だよ……先生ごめんなさい……」
 夢の世界に片足を突っ込んでいる兄の手から、呪文書を奪い取るのに必死な娘に、
 私達も、もう休みましょうか。と、苦笑しながら声をかけ、すぐに眠りこけた息子を寝台に運ぶ。
 今までの思考が――もともと、深刻に考えているわけでもなかったが――きれいに霧散していくのを感じながら。

 彼女の息子と娘は、本当に良く出来た子だった。
 自分たちを探して、ずっと旅をしていたという子供達。今だって文句も言わずに、進んで戦い、ついて来てくれる。
 出来すぎる子だからこそ、一抹の心配もあった。
 無邪気に笑っている顔の裏で、泣いているかもしれない。
 そんな時、気付いてやれるのだろうか。
 母親の記憶も、子供達との思い出さえ、持たない自分でも。

 父は父で大好きだったし、父は当然、まだ見ぬ母にも、愛されていたと信じている。
 けれど、母がいなくて寂しい思いをした子供の頃を思い出す。
 だからこそ、うんと子供達を可愛がるつもりだった。
 寂しい思いは、決してさせまいと思っていた……はずだった。

 ――――?

 物音が響いた気がして、彼女は、はっと目を覚ます。
 何処から何処までが、夢か現実だったのかよくはっきりしない、あの感覚。 
 静かに、極力音を立てないように身を起こし、隣の寝台の方を見た。
 暗闇の中、かすかな寝息に合わせて、小山になった毛布がかすかに上下する。
 ……二人分にしては小さすぎる。
 彼女は、考えるより先に寝台から飛び起きた。勿論、なるべく音を立てないように。

 ここは、砂漠の王国テルパドール。
 彼女の小さな息子が、勇者として認められたのは、つい先日の事だった。


 愛用の紫の外套を羽織り、彼女は静かに部屋の扉を閉める。
 深い闇夜に浮かぶ半月が、窓越しに砂漠の町を蒼く照らし出す。
 静寂の向こうに見える、廊下に佇み、窓枠に手をかけてぼんやりと外を眺める、小さな影。
 ……眠れないの?
 そっと声をかけたつもりだったが、びくっ、と小さな肩が跳ね上がった。
 そろそろとこちらを向いた小さな影――彼女の娘が、ほっ、と息をつく。
「お母さん……なんだか、目が覚めたの」
 囁くような声音でも、夜の冷たい空気にはよく通った。
 おかっぱに切りそろえた、月明かりに染まった艶やかな髪を撫でる。
 今はここにいない愛しい人と同じ色の髪。瞳の色も自分に似ていない。ちょっと悔しい。
 怖い夢でも見た?
 優しい問いかけに、娘は一巡した後に、黙って首を横に振った。
 じゃあ、なにか心配な事でもあるの?
「平気、です。何でも……ないです」
 嘘だ、と思った。
 この子は、心の平静を欠いている時に、敬語を使うクセがある。
 頬に触れると、とても冷たかった。いつからここにいたんだろう。
 外套を広げて娘を中に入れると、驚いた顔をしてこちらを見上げてきた。
 イヤだった? 内心どきどきしながら問いかけると、
「う、ううん!」
 娘は、ぶんぶんと激しく首を横に振った。
 そんな事あるわけがない、と全身で語っているその姿に、思わず笑みが零れる。

 でも好意を寄せてもらうほど、子供達が可愛ければ可愛いほどに、胸が痛かった。
 長く傍にいられなかったのに――


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