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【ネタバレ】紅色天井艶妖綺譚・2【攻略】
455
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:01:17
そんな主の表情を眺めつつ、彼の髪に触れられるという至福。
だが、いつもそれは長くは続かない。
するり、と藍丸の肩に白く細い指が絡みつく。
「着付けはとっくにすんでるんじゃないのかい?」
「こ、弧白」
気恥ずかしい場面を見られたと、うろたえる藍丸に琥珀の瞳を細めて弧白は更に身を寄せる。
「孝行者だねぇ藍丸。養い親の好きなようにさせてやるなんて」
「こ、孝行って何だ! 俺ぁただ…」
あたふたする主の項に唇を埋めつつ、弧白は揶揄の視線を雷王へと向ける。
「……」
雷王は藍丸の髪に触れていた手を引き、弧白の視線を正面から受け止める。
見えぬ火花が散っていることに、藍丸は全く気が付いていない。
先程までは雷王に頭を撫で回され、今度は背後から弧白が身を寄せてくる。
しかも、首筋に冷たく濡れた感触までしては……。
「あーもう! うっとおしい!!」
とうとう藍丸が癇癪を起こし、弧白は振りほどかれる……というか、振りほどかれる前に身を離す。
「お前ら揃ってべたべたべたべた!! もう俺ぁ嫌だぞ」
雷王を睨み、弧白を睨む。
「いいか、今日一日お前ら俺に触んな! 近寄んな! わかったか!!」
怒りのまま言葉をぶつけると、肩をいからせたまま寝間を出て行ってしまった。
主の不機嫌にも妖狐は動じず、笑みを浮かべて背中を見送る。
「おやおや、拗ねてしまったよ。可愛いねぇ…」
「弧白、お前はわざと……」
雷王が皆まで言う前に弧白は意味深に微笑んで肯定してやる。
「私はねぇ、藍丸の全てが欲しいんだ。最初に藍丸を見つけたのはお前かもしれないけど、あれは私のものだ」
「…藍丸を物扱いするな」
「まだ綺麗事を言うのかい? お前だって藍丸が欲しいんだろう。全部自分のものにしたいんだろう?」
「私が願うのは、藍丸の幸せだけだ」
尚も譲らない雷獣に、弧白の柳眉が跳ね上った。
「そうかい。なら、私と藍丸が寄り添う姿でも眺めて満足していることだ」
藍丸に続いてすっかり機嫌を損ねてしまった弧白も、その場から煙のように消えた。
一人残された雷王は小さく嘆息する。
小さい藍丸と暮らしていた頃とは決定的に違う部分はここだ。
雷王の想い人は今や、他の誰かの想い人でもある。
それは弧白であり、嘉祥でさえも藍丸に惹かれている節がある。
だが、その藍丸もいずれは誰かに惹かれ、生涯を共にしたいと願う相手ができる。
「俺は一体……藍丸にどのような関係を望んでいるのか……」
弧白が揶揄したように、親としてのそれか。
それとも……。
「考えても、詮無いことだ」
己が第一とするのは主の幸福である。
だから、彼が己を望まぬのであればこの恋慕は終わりを告げる。
「私は藍丸を、ただ想うのみ」
雷王は己に言い聞かせるように呟いて、しばし目を閉じ何かに踏ん切りをつけると寝間を後にした。
09.09.17up
雷王VS弧白でした。
この二人のバチバチが好きなんだ!
今回は溢れんばかりの雷王の慈愛を藍丸にぶつけてみました。
弧白の邪魔もあって、藍丸キレちゃいましたが(笑)
雷王は絶対ちっちゃい頃の藍丸と今の成長した藍丸を比べて一人感動してたりすると思うんだ。
藍丸もそれをわかってて、時々それにつきあってあげたりすると思うんだ。(大妄想)
雷王は親としての愛を取るのか一人の男としての愛を取るのか、この葛藤がいいんだよなぁ〜。
456
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:01:29
本の虫・2
妖刀事件を経て、雷王との関係が大きく変わった。
自分へ向けられる雷王の愛情が、養い子に対するそれからもっと熱く激しいものへと転化したのである。
いや、雷王は以前から自分にずっとそのような感情を抱いていたと言っていたから、転化とは言えないのかも
しれない。
藍丸自身も、雷王は母から自分を託されたから傍にいてくれるのだと思っていたので、彼が本心から自分を望
んでくれているとわかって嬉しかった。
幾多の悲しみを乗り越えて、二人は晴れて結ばれた。
昨夜も互いの想いを確認し合ったばかりだ。
「んー…」
気だるさを感じつつも、藍丸はもぞもぞと布団の中で身じろぎする。
隣に慣れた体温はない。
どうやら情人は先に起き出しているようだ。
差し込んでくる光に目を細める。
「ふあ……。もう日が高ぇじゃねぇか。雷王の奴、起こしにこねぇな……」
いつもならば二三度は確実に声をかけにきているはず。
寝汚い藍丸は通常、いくら声をかけられてもなかなか起き出さないのだが、かかるはずの声がかからないとな
ぜだか逆に目が覚めてしまう。
「うー…」
もぞもぞと布団から這い出してきょろきょろと辺りを見回す。
「あれ?」
そこで違和感に気がついた。
寝間にはこんなに本が並んでいただろうか?
それに、もう少し広い間取りであったはずだ。
(部屋の広い狭いはまあいいとして、こんなに本があるなんざ、まるで雷王の部屋みてぇじゃ……)
ぼんやり考えていたが、それは実に的を射ている。
「ああ!」
がばりと起き上がり、藍丸はぽんと手を打った。
「そういや、昨日は雷王の部屋で寝たんだった」
夕餉を食べ、読みたい本があるだかですぐに自室へこもろうとした従者にくっついて行って。
適当に雷獣の読書を邪魔していたら組み敷かれて……ということがあって、なし崩しでここで一夜を過ごした
のであった。
「き、昨日のこたぁ思い出さなくていいんだよ!」
赤面する頬をぱんぱんと叩き、昨夜の情景を頭から追い出す。
「…あ」
布団の上で胡坐を掻き、自分の身なりがきちんとしていることに今更ながらに気がつく。
もちろん、雷王の手によるものだ。
藍丸が気を遣った後、雷王はいつも彼の体を清めてやり新しい夜着に着替えさせる。
こんなところは養い親として自分を育てていた頃の名残なのだろうか。
「……雷王」
きっちり着つけられた夜着にそっと手を触れて、小さく想い人の名を呼ぶ。
「そ、その。何だ! このままだと妙な気持ちになっちまう」
一人ぶつぶつ言いながら、藍丸は勢いよく立ちあがった。
かと言って、夜着のまま部屋を出るわけにもいかない。
だが、雷王がいつ来るのかもわからない。
ならば自分で着つければいいことなのだが、藍丸の緩い着付けでは雷王がこさえた所有の証が丸見えになって
しまう恐れもある。
…確実に見られる。
(くそ、結局は雷王待ちか)
もう一度寝直してもいいかとも思ったが、すっかり目が覚めてしまった。
眠くないのなら、この部屋は藍丸にとって退屈なだけだ。
「早く来やがれ、雷王」
唇を尖らせて文句を垂れるも、こう時に限って雷獣は現れない。
しばらく所在なさげに突っ立っていた藍丸だが、すぐに限界が訪れた。
つまりは飽きたのだ。
「あー! くそ。なら、あいつが来るまで何か面白れぇこと見つけてやる」
意地になって辺りを物色し始めた。
(そういや、前もここで面白いもんがないか探し回ったんだっけ)
あれは、まだ自分と雷王が主と従者の関係だった頃だ。
そう昔ではないはずなのに、何だか懐かしい。
「前は俺に食わせるための料理本を見つけたんだっけな。……今度は何が見つかるか」
つい先程までは脹れっ面であったのに、今は宝探しをしようとしている悪がきの顔だ。
勇んで本棚を調べて回るが、なかなか期待するものを発見できない。
「ちぇ。そう簡単にはいかねぇか…」
落胆する藍丸だったが、ふとある一部分に目が止まった。
それは、雷王が愛用している机。
本棚だけではなく、机の上にも本が綺麗に並んでいる。
「ったく。あいつ本当に本の虫だよな」
苦笑しつつ、手を伸ばしたのはその引き出しであった。
「ここはまだ開けてなかったんだよな」
457
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:01:41
人の机の引き出しを暴くなど礼儀に反するとは思ったが、好奇心が抑えきれない。
(すまん、雷王!)
藍丸は心の中で謝って、引き出しを静かに引いた。
「あんま物、入ってねぇな…」
藍丸の言った通り引き出しの中は驚くほど物が入っておらず、中を探らずとも中身が知れるような内容だった。
「何だ。あんまり使ってなかったのかよ」
再びがっくりした藍丸だったが、引き出しの中は空ではない。
「入ってるのはこの帳面だけか……」
年季の入った、みすぼらしい帳面だ。
大して期待せずにそれを捲ってみると……。
帳面にはびっしりと字が埋まっていた。
「んあ? これ、雷王の字だ」
本ではなく帳面であるのだから、当然のことだ。
だが、捲くっても捲くっても雷王の字ばかりなのでつい驚いてしまった。
「こんなにたくさん、何書くことがあるってんだ……?」
細かい文字を読むのは好きではないが、雷王が書いたものとあれば興味がそそられる。
「ちょっと読んでみるか。えーと、なになに今日は藍丸が……って! 俺のことかよ?」
自分のことが書き記してあるならば俄然先が気になる。
藍丸はこれまでにないくらいに真剣な面持ちで、雷獣の文字に視線を走らせた。
今日は藍丸がやけにぐずった。
朝も起きた早々しくしくと泣き出し、機嫌も悪く俺の言うことを聞いてはくれない。
どれだけ宥めても機嫌が直らないので少し距離を置いてみようと思えば今度は大泣きだ。
移動しようとした俺の足にしがみついてわんわんと泣く。
藍丸と暮らし始めてまだ日が浅い。
だから、すぐに藍丸の気持ちを汲んでやれぬ。
我ながら情けないことだ。
「な…! こ、これって。まさか」
記憶にない、幼き日の出来事が雷王の字によって綴られている。
「雷王が、日記……?」
しかも、見たところ自分を拾って間もなくの日記のようだ。
帳面にはびっしりと子育ての苦労が記されている。
「……雷王の奴、こんなの書いてやがったのか」
照れくさいような、くすぐったい気持になりながら続きの頁を捲る。
ぐずっていた自分を持て余していた雷王は、一体どうしたのだろうか?
今日も藍丸の機嫌が悪い。
最近、笑った顔を見たことがない。
俺に何か落ち度でもあるのだろうか?
きちんと三食与え、寒さに凍えさせもしていないというのに。
やはり、母親がいないからか。
まだ藍丸は幼い。
俺などより母の方が良いに決まっている。
だが、そればかりはどうにもならない。
俺では代わりにはなれぬのだろうか……。
「……雷王が、俺のことで悩んでる」
小さく呟く。
罪悪感で胸が痛い。
幼かったとはいえ、自分はなぜ雷王にこのような態度を取っていたのか。
(雷王は見返りなしで俺を育ててくれてるんだ、なのにどうしてぐずってんだよ俺!)
過去の自分に腹が立って、そしてやっぱり先が気になって再び紙面に視線を戻す。
毎日のように藍丸が癇癪を起している。
俺が至らぬからだろう。
かと言って、育児について助言してもらえる知り合いもいない。
困り果てていたのだが、俺が翻弄されてどうする。
藍丸が泣いている。
何か辛いことがあるから泣いているのだ。
それを、俺がわかってやらねば。
でなければ、藍丸はこのままずっと涙を流し続けることになる。
雷王は、藍丸が記憶にも留めておけないほどに小さな頃からこんなにも心を砕いてくれていた。
彼の一喜一憂がこの帳面に溢れている。
それだというのに今でも自分は彼に我儘ばかり言っているように思う。
458
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:01:53
「……」
いつしか独り言も止み、藍丸はただ続きを読み進める。
今日は新たな発見があった。
藍丸が笑ってくれたのだ。
毎日のように悲しそうに泣いている姿が忍びなく、俺はとうとう藍丸を抱きしめた。
すると、藍丸の身の震えが収まり涙も止んだ。
俺に縋りつくように寄ってきて、胸に頬を寄せられた。
その際の至福は、とても言葉には表せない。
藍丸は俺を拒絶してはいなかったのだ。
ただ、ぬくもりが欲しかったのだ。
藍丸は寂しくて泣いていた。
俺は人の子を育てるのに慣れていなくて長く抱いていてやったことがなかった。
藍丸の目元は涙で濡れていたが、笑顔で眠りについた。
俺の腕の中で。
彼が寂しい時、悲しい時はこれからこうしてずっと抱いていてやろう。
俺は、いつでも藍丸には笑っていて欲しい。
幸福でいて欲しいのだ。
「……」
文字を追う瞳が潤んでいる。
頬は熱く、赤い。
帳面を閉じて、空いた片手で口元を覆う。
(何かこれ……恋文みてぇじゃねえかよ…!)
本当は身が震えるほどに嬉しいくせに、恥ずかしい奴、と心で呟く。
その、直後。
「……ら、藍丸」
自分を呼ぶ、どこか引き攣ったような声は紛れもなくこの部屋の主のもの。
「おわっ!?」
文字通り飛び上がって藍丸は襖へと目を向ける。
そこには茫然とした雷王の姿。
紅の双眸は、見開かれたまま藍丸の手にある帳面に向けられていた。
「あ。あー。えっとこれはだな…」
明らかに盗み見の現行犯だ。
どうにも言い訳できずに藍丸はあたふたしてしまう。
そんな主の様子に、呆然としていた雷王の心は逆に落ち着いてきたらしい。
観念するように溜息を吐き、簡潔に問う。
「……読んだのか」
「ちっとだけ」
「……」
「す、すまねぇ。つい…」
今更ながらに押し寄せる罪悪感に小さくなる藍丸を見て、雷王は緩やかに首を振った。
「いや。手に届く場所に置いておいた私も悪いのだ。返してくれるな?」
勝手に日記を見られたと言うのに怒りもせず、自分も悪いとさえ言って手を差し出してくる雷王の大人の対応
に、藍丸は項垂れてしまう。
「う……悪かった」
大人しく帳面を大きな掌の上に置いた。
俯いたままの藍丸の頬を、もう片方の掌が包み込む。
「私の日記を見ただけなのに、どうして赤くなっているのだ?」
「…っ、赤くなんてなってねぇよ」
「嘘をつけ。しっかり熱を持っているぞ」
つるりと頬を撫でられれば、ますます真っ赤になってしまう。
「藍丸?」
「…俺のことばっかだったから」
「何?」
「お前の日記! 俺のことばっかり書いてあるから、照れ臭くなっちまったんだよっ」
これでいいかよ、とそっぽを向いてしまう主になぜか雷王もばつが悪そうな面持ちになる。
「それは…まあ、そうなってしまうのも無理はないというか」
「…んだよ。はっきり言えよ」
視線だけ雷王を見上げれば。
「これはただの日記ではない…からな」
「何の日記だよ?」
「……育児日記だ」
459
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:02:03
かつての雷獣の王が。
育児日記。
「…くっ」
「むぅ」
肩を震わせ笑いを堪える主に、雷王は情けない顔をして呻く。
雷王を困らせたくはなくて、藍丸は笑いながら彼に抱きついた。
「藍丸?」
「悪い。勝手に日記盗み見た俺に、笑う資格なんざねぇのに」
けど、同じくらいに嬉しかったのだ。
「お前、俺がちっちゃい頃から気にかけてくれてたんだな……ありがとうな」
「藍丸…」
日記に書いてあったように胸に頬を擦りつければ、すぐさま顎に手をかけられ、唇を奪われる。
「んっ」
「藍丸…」
己の名を呼ぶ熱い囁きに、藍丸は瞳を閉じて身を任せた。
程無く、雷王の手から帳面が滑り落ちる。
しかしその頃にはすでに互いしか見えていない二人は、再び布団へと倒れ込んだのだった。
昨夜も長引いてしまい、疲れ果てた主を気遣い起こすのを遅らせたのだがこれでは意味がなかった、と事後に
苦笑され、あまりの羞恥に藍丸は思わず畳に転がっていた帳面を持ち主の顔に投げつけてしまった。
09.09.23up
いつか書いた本の虫の続きと言うか、両想いバージョンでした。
料理本に続いて、今回は日記です。
雷王もまだ保護者慣れしていないので、一人称は「俺」になってます。
育児日記☆絶対雷王は書いてると思う!
しかもかなりポエム入ってそうな感じだ。
雷藍がらぶらぶすぎてどうしようかと思いました。
ばかっぷる一直線なんですけど!
あと、雷王の机に引き出しがあったのかはうろ覚えです(汗)
なかったような気がするんだよなぁ…。スルーでお願いします!!!
460
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:02:19
意識
朝餉を終え、藍丸と雷王は萬屋稼業に精を出すためこれから外出だ。
一紋総出で主とその従者を見送る中、桃箒がおずおずと前に出る。
「主様、今日のお帰りはいつも通りでよろしかったでしょうか…?」
夕餉の頃合いを見計らいたいのだろう。
藍丸はそうだな、と今日の予定を思い返す。
「今日の依頼は失せ物探しだからな。そう時間はかからんだろ」
守備が良ければ昼間のうちに帰れるのではないか。
そう続けようとしたのだが。
「藍丸、確信もないのに断言するものではない。…桃箒」
「は、はい!」
桃箒は自分の質問のせいで主が咎められてしまったとすっかり恐縮している。
「探す物によっては多少時間がかかるかもしれぬ。だから…」
己の言葉を遮られ、いつもの藍丸ならば憤慨して子供のように拗ねるところだが、今回は違った。
「……」
桃箒に細やかな指示をしている雷王を無言で見つめている。
彼らの話など耳に入っていない様子であった。
(……髪、赤ぇな)
至極当然のことを改めて思う。
雷王の燃えるような紅の髪。
雷獣であった時彼の毛並みはこんな色だったのだろうか。
桃箒を見据える同じ色の双眸もきっとそのままだったに違いない。
物心ついた時から傍にいたので気づきにくいが、雷王は人目を引く容姿をしている。
引き締まった体躯を持ち、身の丈もずば抜けて高い。
顔立ちも凛々しく端正で、彼と出かける際は通りすがる女性が振り返るほどだ。
そんな彼にこのような紅が彩っているのだ。魅力的でないはずがない。
今頃になってそれを実感することになろうとは。
「……」
じっと従者を見つめていた藍丸は、途端に渋面になる。
なぜ今になって自分がこのことに気づいたのかを十二分に理解していたからだ。
きっかけは、数ヶ月前に起こった妖刀事件。
事件の最中、雷王が自分へ寄せる想いを知った。
そうして己もそれに応えて今に至る。
恐らく、藍丸もまた幼い頃から雷王に惹かれていた。
ただ己の想いに気づかなかっただけで。
雷王へ向ける想いを認識した瞬間、それまで気付けなかったあらゆる感情が嵐のように藍丸を翻弄した。
今、この状態もその一部分にすぎない。
(い、今更何どきどきしてんだよ、俺っ…)
ただ雷王を見つめているだけなのに熱を持ち始める頬に焦りを感じて彼に背を向ければ。
「藍丸?」
いついかなる時も藍丸を気にかけている紅の従者は、この時も例に漏れずに主の異変を察知してしまったよう
だ。
気遣わしげな声に、藍丸の心はかえってざわめく。
「は、話が終わったならとっとと行こうぜ!」
敢えて雷王の言葉に返事は返さず彼を促す。
「あ、ああ。では行ってくる」
さっさと屋敷を出て行ってしまう主に戸惑いつつも、雷王は律儀に一紋たちへ声をかけた。
主らを見送る桃箒たちであったが……。
彼らの姿が完全に見えなくなると、皆が一様に息を吐く。
「何と言いますか……」
何事かを言いあぐねている桃箒の言葉を蛟女が引き継ぐ。
「微笑ましい、よねぇ」
一紋全員の思いをはっきりと口にした彼女に、皆はしきりに頷いている。
「想いが通われたお二人なのに、初々しいですよね」
「まあ、そこが主様と雷王様らしいと言うか」
恋敵とも言える弧白が一紋を去ったというのに、あの二人はちっとも進展していない様子なのだ。
「藍丸と雷王は仲良しなの〜」
「でも、そわそわしてるね?」
「何でかな? 何でかな?」
苦笑している彼らの横で、無邪気な一つ目たちが騒いでいる。
こちらもまた微笑ましい。
だが、ひとつだけ述べておかなければならないと桃箒は彼らに目を向けた。
「いいかい、一つ目たち。しばらくあのお二人はそっとしておいてあげて下さいね」
すると、彼らの視線が一斉に桃箒へと向かう。
「そっとするの?」
「何で?」
「どうして?」
あっという間に質問攻めにあってしまう。
「主様と雷王様にもっともっと仲睦まじくなって頂くためです。…いいですね?」
桃箒は大げさなほどに真剣な面持ちになり、一つ目たちに言って聞かせるのだった。
461
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:02:33
雷王に赤い顔を見られたくなくて早足で歩いていたが、歩幅の大きな彼にすぐ回り込まれてしまった。
「待て藍丸、何を急いで……」
「っ!」
回り込まれて歩みを止められ、これでは正面から顔を見られてしまう。
頬を真っ赤にさせた藍丸を視界に入れた雷王は鋭く息を呑んだ。
「藍丸、顔が赤い。風邪でも引いたのか?」
温かくて大きな掌が、労わるようにそっと藍丸の片頬を包み込む。
現在、雷王を意識しすぎている藍丸にその刺激は大きすぎた。
「なっ、何でもねぇ!」
焦りが頂点までに達し、つい労わりの手を払ってしまう。
「…あ」
さすがに悪いことをしたと思ったのか、藍丸の表情が途方に暮れたものになる。
しかし、雷王にとっては藍丸の異変の方が気にかかるらしい。払われた手を胸元に引き戻し、再度問う。
「熱は? 寒くはないか?」
「…雷王」
全力で心配してくれる従者に、ようやく藍丸は落ち着きを取り戻し始めた。
だが、熱を持ったままの顔をまだ見られたくなくてそっと額を雷王の胸にくっつける。
「……大丈夫だ。心配かけてすまねぇな」
藍丸は知らない。
そんな彼の仕草に、雷王が耐えるように唇を引き結んだことを。
雷王の胸に額をくっつけながら、応えがないのを訝しむ藍丸を、太い腕が抱きしめる。
「!」
「……あまり煽らんでくれ」
欲情を押し殺す声色に、落ち着きを取り戻しかけていた藍丸の鼓動がまたも早まる。
「っ、別に俺は煽ってなんか」
じたばたと彼の腕から脱出しようとするが、力強い腕は主を決して離さない。
「雷王っ…」
「藍丸」
「っ…!」
耳にそっと名を囁かれ、藍丸はびくりと肩を震わせ動きを止める。
重厚なる低音が、心地よく耳に響いて抵抗するのを忘れてしまったのだ。
幼い頃からずっと耳に入れている従者の声。
この声を聞くと、藍丸は自然と安堵してしまう。
無条件に、「大丈夫」なのだと思ってしまうのだ。
急に大人しく抱かれてくれる主に、今度は雷王が首を捻る番だ。
「藍丸? …やはり、調子が……」
「だ、大丈夫だって! お前は気にしすぎなんだよ」
また雷王の心配が再開しそうだったので、藍丸は慌てて我に返る。
そろそろ頬の熱も引いただろうと判断し、顔を上げれば真摯な様子でこちらを真っ直ぐに見下ろしている雷王
の面ざしが目に入った。
途端。
「―――!」
ようやく引いていた熱と頬の朱が一気に巻き戻る。
「藍丸?」
こちらを見つめる雷王から目を離すことができない。
先程のように逃げたり誤魔化す余裕もないほどに、藍丸は雷王に見惚れてしまっていたのである。
顔を上げたと思ったら途端に硬直して顔を真っ赤にさせる主に、雷王は困惑していた。
今度は何を問いかけても答えてはくれず、ただじっとこちらを見つめているのだ。
いつもは好奇心できらきらと輝いている黒い瞳が潤んでしまっている。
けれどもそれが悲しみの表れではないと雷王は直感した。
我をなくしたような主を前に、雷王はそっと辺りに視線をやる。
朝方を少し過ぎた頃合だからだろうか。
表には人気が感じられない。
それを確認すると、雷王はそっと主の肩を引き寄せて薄く開いた柔らかな唇を吸った。
「んっ…」
ただ、茫然と雷王を見上げていた藍丸の反応は、やはりいつもより鈍い。
だがようやく我を取り戻したらしく、慌てて雷王を突き放そうとするが、そうはさせじとより深い口付けを与
えた。
「んっ、……ふ、んぁ…」
口付けに翻弄され、突き放そうとする藍丸の手から力が抜けていく。
やがては雷王に縋るように寄りかかってしまった。
人気がないとはいえ、ここは天下の往来だ。
雷王はあっさりと唇を離すが、藍丸の膝は深い口付けのためにまるで力が入っておらずその場に崩れ落ちそう
になる。
心得ている雷王は、その細い体を抱き寄せ支えた。
潤んだままの瞳がそっとこちらを見つめてくる。
その仕草、その吐息。
本当に―――堪らない。
「落ち着いたか?」
無理矢理欲を抑えつけ問いかける。
「……落ち着かせようとしてんのに、何で口付けなんだよ」
掠れた声で、呆れたように返される。
462
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:02:45
「言葉で宥めるより効果があるのではないかと思ってな」
「…!」
少し悪戯心を交えた切り返しに藍丸は硬直し、「馬鹿野郎」と呟く。
しかし、主が怒っていないのは明白だ。
ようやく足腰が立つようになり、今度こそ藍丸は雷王から身を離す。
非常に癪だが、確かに心は落ち着いていた。
雷王を見るだけで、雷王の声を聞くだけでどうしようもなく意識してしまっていたというのに。
もしかしたら、荒療治が効いたのかもしれない。
「…行くぞ! これ以上立ち止まってたら約束の刻限を過ぎちまう」
今度は調子を狂わせることなく目の前の従者の顔をしっかりと見据えられる。
「ああ」
雷王はそんな彼に更なる問いかけを重ねることはなく、頷くだけに留めた。
いつものように隣合って歩く。
そのまま特に言葉を交わさなくとも居心地の悪さはない。
互いが隣にいることに僥倖を感じながら、二人は歩く。
これから先もそれだけは変わらない。
相愛のはずなのにこんなにもお互いを意識しすぎる二人の恋は、不器用ながらも着実に歩みを進めていた。
10.01.04up
今年最初のssになります。
雷藍でした!もうお前らずっと一緒にいろよ!結婚しちゃえよ!という感じになりました。
今まで書いた雷藍の中で一番のだだ甘になったのではないかと思います。
最後までいってしまっているのにこの初々しい感じが雷藍なんだよなぁと再認識!
藍丸は今まで雷王への想いを認識していなかったので、想いに気づいた後のギャップはものすごいと思うので
す。
雷王にドキドキしすぎてきょどってる藍丸、、、私は萌えました。
そしていつものように自家発電(泣)
これからももっと一人で踊るよ!
463
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:02:59
羽織の秘密・1
妖刀事件を経て江戸の羽織となった藍丸は、雷王と共に不埒な事件を起こす性質の悪い妖と対峙していた。
その妖は力が弱く、呆気ないほどすぐに決着がついた。
力なく倒れ伏す妖に歩み寄ろうとする頭領を、その従者が止める。
「藍丸、止めは私が」
藍丸が羽織という立場となっても、雷王は彼の手を血で汚したくはないと思っている。
そのため、妖に手を下したことは滅多にない藍丸だ。
しかし、このままではいけないと自覚もしていた。
「いや、今回は俺がやる。まだ駆け出しだが、俺も一応羽織なんだ。けじめくらい手前でつけねえとな」
「藍丸……」
納得いかないのだろうが、養い子の成長を目の当たりにして感激もしているのだろう。
もう自分たちは養い親養い子の関係だけではないというのに。
心を通じ合わせた者同士なのだと強調するために、藍丸は逞しい彼の胸板へと身を寄せた。
「!」
「俺ぁもう子供じゃねぇよ。……そうだろ、雷王」
「むぅ…」
そこまで言われてしまっては、これ以上主を止めることはできず。
黒髪に武骨な手が差し入れられ、くしゃりと撫でる。
子供ではないと言ったのに、その仕草が嬉しくて藍丸は少しだけ片笑む。
この高い体温にもう少し寄り添っていたかったが、状況が状況だ。
そっと身を離して、倒れた妖へと目を向けたのだが。
「!?」
倒れていた場所に、妖がいない。
鋭く辺りに目を向け。
自分たちの頭上にその姿をとらえた。
「藍ま…」
「っ、くそ!」
まだ飛びかかってくる力を残していたとは。
それに気付けず日和っていた自分たちの失態だ。
妖は雷王の背後から襲いかかってきたので、この状況をどうにか回避できるのは藍丸のみ。
「雷王!」
咄嗟の判断だった。
渾身の力で雷王の巨体を突き飛ばし、藍丸は妖を仰ぎ見る。
瀕死の妖は目を血走らせながら藍丸へと襲いかかった。
「このっ…」
右手に炎を召喚し、飛びかかってきた妖へと叩き込む。
「!!」
炎に包まれた妖は断末魔の叫びを上げながら、藍丸に向かって口から真っ赤な血を吐きだした。
「っ、うわ!」
妖を見上げていた藍丸の顔に、その血は降り注ぐ。
視界が赤で覆われ、藍丸の身体がふらつく。
「藍丸!!」
後ろに傾いだ羽織の細身を支えたのは、態勢を立て直した雷王。
彼は主の血まみれの顔に目を見瞠り、そうしてそれを成した妖を睨め付ける。
「おのれ!」
大切な主への無礼に、雷王の怒りの稲妻が未だ炎に包まれ転げ回っている元凶へと突き刺さる。
先程よりも壮絶な絶叫が辺りに響き、ようやく妖は消滅した。
「藍丸、藍丸! 大丈夫か?」
妖の最期を見届けもせず、雷王は腕の中の藍丸を覗き込む。
「あ、ああ。どうにか平気だぜ」
変わらず藍丸の顔は妖の血で大変なことになっていたが、特に外傷はない。
「すぐに血を川で洗い流そう。それまで目を開けてはならんぞ」
「…おう」
頬を伝って滴り落ちるほどの大量の血液を顔に浴びてしまった藍丸は、とても気持ちが悪そうだ。
「しばしの辛抱だ」
目元を己の上衣で拭ってやり、主を横抱きに抱え込む。
目を瞑っていては川辺にも辿り着けないため、藍丸は何も言わずに体を預ける。
雷王はそれこそ風のように駆け、程無く川辺を見つけて主の顔を清めた。
464
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:03:11
「ったく、今日は散々だったぜ」
藍丸は川辺で血を洗い流し、すっきりした様子で屋敷に戻ってきた。
「まだ相手に息があったというのに油断した。…すまない」
「そりゃ俺だって同じだ。気持ち悪ぃ思いはしたが俺は無事だったんだ。そんな気に病むな」
項垂れる雷王の胸を手の甲で軽く叩き、見上げる。
藍丸の気遣いに、雷王は紅の瞳を細めて頷いた。
「…ああ。ありがとう、藍丸」
「雷王……」
屋敷へ入る前に少し雷王に甘えたいと思った藍丸は、先程のように体を巨躯へと預けようとしたのだが…。
「…え」
周りの景色と共に、雷王の姿が消えた。
突然視界が黒く塗り潰されて、藍丸は動きを止める。
「藍丸、どうかしたのか?」
心配そうな従者の声に、彼がすぐそこにいるのだと察する。
どうにか心を落ち着かせて、何度か瞬きを繰り返す。
……見えてきた。
どうにか視界がひらけ、藍丸はほっと胸を撫で下ろした。
見上げれば、己を案じる雷王の顔が飛び込んでくる。
「ちょっと疲れたみてぇだ。すまん」
「ではすぐに夕餉にして、早く休んだ方が良いな」
言うが早いか雷王は主を抱き上げ、屋敷に入る。
(何だ、さっきの……?)
そんな彼に身を預けながら、藍丸は早まる己の鼓動を感じていた。
主とその従者の帰還を一紋が出迎えて、いつもの夕餉が始まる。
「主様、今日のご依頼は如何でございましたか?」
「楽勝だったぞ。嘉祥の依頼にしちゃあ今日の妖はあんまり手ごたえがなかったぜ」
桃箒らに本日の武勇伝を聞かせてやりながら、藍丸は先程の出来事について考えていた。
(あれから妙に視界が霞む。やっぱ、さっきの妖のせいか……?)
なぜ目の調子がおかしくなったのか。
心当たりはたった一つだ。
(妖の、血……)
あれを浴びたせいで、一時的に視力が弱まってしまったのか?
いつしか武勇伝は途切れ、藍丸は己の考えだけに集中する。
(大丈夫だ。さっきみてぇに何にも見えなくなったわけじゃねぇ。時間が経てば治るだろ)
このままやり過ごせる。
今、藍丸が最も恐れているのは己の異変に雷王が感づくことだ。
先程の一件のために一時的とは言え視力に異常をきたしていることを悟られてしまえば、彼はきっと激しく己
を責めるに違いない。
そうして、もっと過保護になるだろう。
最近は一人前の一人の男として見てくれるようになったと思っていたのに。
自分を大切に扱ってくれるのは嬉しい。
だが、守られてばかりいるのは嫌だ。
雷王とは対等でいたいのだ。
(一晩寝りゃ大丈夫だ。うん…)
「藍丸」
「うおあ!?」
突然視界に雷王の顔が現れ、藍丸は素っ頓狂な声を上げてしまった。
後ろに手を付いて驚いている主に、雷王は眉を顰めた。
「やはり疲れが出ているのだな。夕餉が済んだらすぐに床の用意をしよう」
「そう…だな。すまねえ」
雷王の言う通り、今日は早くに眠ってしまうに限る。
下手に動かない方が異変に感づかれないというものだ。
その夜、藍丸は早くに床に着いて夢も見ずにぐっすりと眠った。
465
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:03:25
翌朝。
昨晩早くに眠ったためだろう。
雷王に起こされる前に藍丸は目覚めた。
薄らと瞳を開け……そして、途方に暮れた声で呟いた。
「……何だ、こりゃあ……」
朝だというのに辺りが薄暗い。
まるで一枚の膜が張られたように視界がはっきりとしなかった。
(まだ調子が戻らねえのかよ)
一気に目が覚めてしまった彼は、隣を見る。
視界は悪かったが、隣の布団はすでに空だ。
雷王は朝が早いので、確認するまでもないのだが。
「よし、まだ大丈夫だ」
立ち上がり、目を凝らして部屋内を見回す。
今のところは普通に動ける程度に視力はある。
ただ、全体が薄暗いので躓かない様に気をつけなくては。
そうこうしているうちに慣れ親しんだ気配が近づき、襖が開かれる。
「…雷王」
鼓動を早めながらそっと名を呼ぶ主に、雷王は息を呑んだようだった。
「藍丸、珍しいな。自分で起きるなど……」
とりあえずは気付かれていない。
「俺だってなあ、あんな早く寝れば嫌でも早く起きるぜ」
藍丸は平静を装って返事をした。
「早起きは三文の得と言う。これからもこうであって欲しいものだ」
薄く笑い、雷王が近づいてくる。
藍丸はそれ以上何も云わず、雷王の着付けを受ける。
(あんま、雷王が見えねぇ……)
きびきびした様子で着替えさせてくれる雷王を見下ろし、内心で溜息を吐く。
治りが遅い。
妖の血以外にも、何か原因があるのだろうか?
しばらくこのままなのか。
それともこれからずっと……?
「……!」
背筋がぞっとしたが、それでも雷王には言い出せなかった。
どうにか朝餉も皆に気づかれずに過ごし、その間に藍丸はこの先のことを考えた。
幸い今日は雷王一人の仕事がある。
彼がいないうちに……まだ身動きが取れるうちに、どうにか手を打っておかなければ。
桃箒に外出の旨を伝え、藍丸はある場所に向かっていた。
そこは―――。
「おや、藍丸ではないですか」
江戸一番と言われている呉服問屋から出てきたのは、美しき古代帯の妖。
「…よう、襲」
朝よりも確実に暗く狭まった視界で彼をとらえ、微かに笑う。
いつもと様子の違う藍丸を、襲は訝しげに見つめ……そうして目を瞠る。
「藍丸、目をどうされたのです?」
「…やっぱ、襲にゃばれちまうか」
「嘉祥様をお訪ねになられたのでしょう? さあ、とにかく中へ」
力なく片笑む彼に肩を貸し、襲は奥へと誘った。
466
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:03:36
客間に通され数刻もせぬうちに屋敷の主であり、古くからの羽織でもある嘉祥が姿を現した。
襲からすでに話は聞いているのだろう。
藍丸が何かを言う前に、顎を掴まれ上を向かされた。
「…これは難儀な」
「わかるのかよ?」
先程よりも症状は悪化しているようで薄ぼんやりとしか見えないが、嘉祥の整った顔が顰められたのはわかっ
た。
「これは、昨日私が依頼した妖に?」
「……ああ。あいつの吐いた血を顔に受けた」
「なるほど。……藍丸、これは呪いだ」
「呪い?」
思ってもみない言葉を聞かされ、藍丸は瞳を瞬かせる。
「そなたの目に断末魔の怨念がこびりついておる。……このまま放っておけば失明するところだったぞ」
「なっ…!」
一時的なものだと思っていた藍丸は、びくりと肩を震わせる。
「あの妖は力は弱いが精神力が並外れておる。くれぐれも油断せぬよう忠告したはずだが…」
嘉祥の苦言に、藍丸は言葉もない。
「……詰めが甘かったのは認める」
しばらく沈黙したのち、素直に認めた。
嘉祥は目を細め、小さく息を吐くと彼の顎から手を離した。
「ま、この私を頼ったのは正解だ。新人の羽織にはいい薬にもなっただろうて」
「…くそ」
嘉祥の正論に、藍丸は返す言葉もない。
向かいに腰を下した嘉祥は、そんな藍丸をじっと眺める。
そして。
「時に藍丸、雷王はこのことを?」
「あいつには何も話してねぇ。心配させることもないしな」
「…ほう?」
藍丸が本心を述べていないと悟っているのか、嘉祥の口調は意味ありげだ。
それに苛立ちつつも、藍丸は釘をさしておく。
「雷王には内密に頼むぞ。知られたらもっと大事になっちまう」
「それでここを訪ねたのか。…ふむ。いいだろう」
嘉祥は一つ頷き、再び藍丸へと近づく。
「元は私がした依頼だ。貸し借りはなしでいいですよ」
大旦那の口調で耳元に囁くと、滑らかな藍丸の頬に手を添える。
「んだよそれ! 貸し借りなしなんざ、俺の気が…」
妖は貸し借りを重んじる。
それを知らぬ嘉祥ではないはずだ。
しかし嘉祥は頭を振り、意地の悪い笑みを浮かべた。
「まあ、私も同時にいい思いをするのだ。ちょうど貸しを返してもらえるということにはなると思うぞ」
「は? 何言って……!?」
空いた手で瞼を塞がれ、藍丸は言葉を止める。
閉じた藍丸の瞼に、柔らかく温かなものが触れた。
「なっ…」
「静かに。一応治療中だ」
茶目っけたっぷりに言い、藍丸の動きを封じてしまう。
「うあ…」
再び瞼に唇が当てられ、何かを吸い取られる感覚に眩暈を覚える。
傾いだ体を優しく抱き留められ、もう片方の瞼にも口付けられた。
先程と同じ感覚が藍丸を襲う。
全てが終わった頃には座っているにも関わらずその場に頽れそうになる。
嘉祥に支えられていなければ、為す術もなく倒れ込んでいただろう。
「大丈夫か?」
「…あ」
とん、と背を叩かれ藍丸は我に返る。
だるい体に鞭を打ち、のろのろと嘉祥を見上げた。
視界はまだ、変わらない。
「手前……何しやがった?」
「人聞きの悪い。私はお前にこびりついた呪いを吸い取ってやったのだぞ」
「呪いを、吸い取る……?」
「そうだ。呪いはお前の生命力と同化していたからな、それごと吸わせてもらった」
体のだるさはそのためか。
「呪いを吸い取ったって、お前は大丈夫なのかよ?」
「おや、心配してくれるのか?」
やけに嬉しそうな嘉祥の声に、藍丸はつい憮然としてしまう。
「俺のせいでお前に何かあったら襲に申し訳ねぇだろ!」
「そう言うことにしておこうかの」
ふふ、と笑みを浮かべる。
「呪いのことは気にするな。私も長く生きる妖。この程度の呪いではどうともならん」
「…悪かったな、若輩者で」
「経験ばかりはすぐにどうにかできるはずもない。精進することだ」
「……」
何も言い返せない。
だるい体も嘉祥に預けたままだ。
467
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:03:46
「逆に、私は若い生命力を頂けたのだ。貸し借りなしで問題なかろ?」
「…確かに、な」
これならば藍丸も文句はない。
己を奮い立たせて嘉祥から身を離す。
座り直す藍丸を、嘉祥はどこか残念そうに見つめた。
「体が辛いだろう。ここで休んでいくといい」
「いや、いい。そろそろ雷王が帰ってくる。…世話になった」
立ち上がる藍丸を、もう嘉祥は引き留めはしなかった。
「視力はこれから徐々に回復していく。それまで大人しくしていることだな」
ふらつきながらも部屋を出て行く若き羽織の後ろ姿を見送る。
「嘉祥様」
見計らうように現れた襲に、嘉祥は小さく問いかけた。
「なあ襲よ。雷王は羽織の異変に気付くと思うか?」
すると、襲は間髪容れずに答えた。
「もちろんでございます。でなければ、羽織にお仕えする資格などございません」
「ふむ。……では、藍丸の苦労も水の泡と消えるか」
「はい。藍丸には申し訳ないのですが…」
「なるほど。大目玉を食うのは必至か。…だがその前に、あそこまで視力が弱っておれば屋敷に辿り着くことも
できまい。襲、送ってやれ」
「御意」
どこまでも状況を楽しむ己の羽織を、襲は恭しく見つめ頭を垂れた。
10.03.16up
ちょっと長くなってしまったのでぶっつり切ってみました!
その他諸々の言い訳は次回に持ち越しということで…。
468
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:03:59
羽織の秘密・2
襲に送り届けてもらったお陰で随分早く帰宅できた。
しかし、嘉祥の屋敷を出た頃にはすでに陽が沈み始めており。
そっと屋敷に戻ったが、あっという間に皆に出迎えられてしまう。
当然、雷王の姿も。
「……すまん。遅くなった」
「藍丸、一体どこへ行っていたのだ?」
嘉祥のところだなどと、言えるはずもない。
「腹が減ったな。桃箒、すぐ夕餉にできるか?」
「藍丸」
雷王の問いを敢えて流せば、ぐいと腕を引かれる。
(くそ、まだぼんやりとしか…)
雷王の姿が見られず、口惜しい。
藍丸は唇を噛みしめ。その手を振りほどいた。
「疲れてんだ。後にしてくれ」
「藍丸、お前は…」
「桃箒、夕餉は俺の部屋に運んでくれ。今日は誰も入ってくるな」
これ以上何か問われる前にこの場を離れたくて足を早める。
が―――。
「っ!」
見事に階段に躓き、転倒しそうになる。
息を呑む一紋たち。
だが、唯一の従者は風のように動いていた。
「大丈夫か、藍丸」
「…あ」
大きな体に抱き止められ、藍丸は知らずに体の力を抜いてしまう。
「雷王…」
まだ視界がはっきりしない。
雷王の顔が見たい。
疲れた。
この腕の中で眠ってしまいたい。
「…藍丸?」
雷王は焦点の合っていない藍丸の瞳を見つめ、眉を顰める。
「っ、頼んだぞ桃箒」
ほとんど直感で不味いと気づき、藍丸は気力を振り絞って雷獣の腕から抜け出した。
手擦りに縋るようにして、無理矢理階段を登り切った。
自室にこもれば、そこへ足を踏み入れる者はいない。
「…はぁ」
ようやく一人になれて、藍丸は息を吐く。
「……」
腰を下ろし、辺りを見回すがやはりまだ視力が戻らない。
(けど、これ以上酷くもなってねぇみたいだ)
嘉祥が言った通り、少しずつ視力は戻っていくのだろう。
「もうひと眠りすればきっと…」
「主様」
希望を持って頷いていると、桃箒の声が耳に飛び込んでくる。
「あ、ああ! 何だ」
驚きのため、少々上ずった声になってしまったが、その変化に桃箒は気が付いていないようだ。
「夕餉をお持ち致しました」
「よし、入っていいぞ」
本当ならばなるべく接触したくはないのだが、この状態で膳を運ぶのは無理だ。
そっと襖が開く音が響き、穏やかな気配が近づいてくる。
同時にいい匂いも。
「ありがとうな、桃箒」
近づいてくる人影に礼を述べる。
「とんでもございません! 主様は相当にお疲れのご様子。たんとお食べになって下さいませ」
「おう」
桃箒はそれ以上何も言わず、静かに退出していった。
胃を刺激する香りに腹が鳴る。
「…ま。時間かけりゃあ何とかなるよな」
手探りで箸を掴み、藍丸は膳と対峙する
「ぼんやりして、どれがどれだかわからねぇ…。けどどうにか食わんとな。えっと、まず飯だ」
きっとこの白いものがそうだろう。
そうっと手を伸ばして茶碗を掴む。
「…ん、うめぇ」
桃箒の作る料理はどれも絶品だが、いつもよりも更に美味に感じる。
469
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:04:10
視力が失われている分、味覚が鋭くなっているのかもしれない。
至極満足な様子で茶碗を膳に戻す。
「えっと次は吸い物、吸い物…」
あまりに白飯が美味しかったから、藍丸はつい油断をした。
探るようにではなく、普通に手を突き出してしまったのだ。
指先は吸い物の椀に触れたのだが、勢いがよすぎてしまい。
「うわっ、あっつ……!」
勢いよく椀が倒れ、熱い汁が手にかかる。
唐突に襖が開け放たれたのはその時だった。
「藍丸!?」
切羽詰った、自分を呼ぶ声。
「え、ら、雷王!?」
視力がなくとも声だけでその主がわかる。
火傷してしまった手を振りながら、藍丸は仰天した。
(やばい…!)
咄嗟に身を翻し、彼から離れようとするが……。
「待ってくれ、藍丸」
まだほとんど視力は回復していない。
見えない視界で碌に逃げることもできない彼を、雷王は後ろから抱き込んだ。
「っ!」
「藍丸…」
強張る細身を抱き締めて、雷王はそっと藍丸の身を反転させた。
こちらを向かせたはずなのに、藍丸の視線はどこかずれている。
自分を見てくれない……見ることのできない主の瞳を悲しげに見つめ、雷王は確信した。
「藍丸。お前、目が……」
「……っ」
もう少しでどうにかなりそうだったのに、結局事が明るみに出てしまった。
藍丸は何も言えずに俯いてしまう。
雷王は己を責め、藍丸に危険な依頼をさせはしないだろう。
従者の次の言葉を恐る恐る待ち構えていた藍丸であったのだが。
「あ……」
雷王の大きく温かな手が、火傷をした藍丸の手をそっと包み込んだ。
彼の癒しの力でみるみるうちに熱さと痛みが引いていく。
心から安堵できる男の腕に抱かれて、藍丸はいつしか体の力を抜いていた。
治療が終わり、雷王はそっと主の顔を覗き込む。
「いつからだ?」
「……昨日の依頼の時」
あれほど頑なに言うものかと思っていたのに、問いかけられれば素直に答えてしまっていた。
藍丸の言葉を聞き、雷王は低く唸る。
そうして、再び掌が目元に近づく気配がしたので慌てて止めた。
「大丈夫だ! もう治療してもらったから」
「治療…? 今日出かけていたのはそのためか」
「お、おう」
「嘉祥の所か」
「…!」
一つ秘密が明るみになると、芋蔓式で全てが晒されてしまう。
雷王は何か言いたげだったが、小さく息を吐いて首を振る。
「お前の目は、元に戻るのだな?」
「ああ。呪いを取り除いてもらったから、徐々に戻るって」
「…そうか」
心から安堵した声で頷き、再び包むように抱き締められる。
耳元でよかったと声がした瞬間、藍丸も雷獣を抱き締めていた。
「黙っててすまねぇ」
「……私を案じてのことだったのだろう?」
何も言わずとも、雷王は全てわかってくれている。
そう実感して、藍丸の胸が熱くなった。
「それもある…けど」
「けど?」
「死にかけた妖相手に呪いなんざかけられちまって。俺…頼りねぇだろ? だから」
「それは違う」
「…え」
見えない瞳で雷王を見上げようとする。
やはりぼんやりとしかわからない。
雷王はそんな主の頬をそっと撫で、はっきりと言葉を紡いだ。
「お前は私を庇って呪いを受けたのだ。頼りないなどとは思わない」
「雷王…」
「私の代わりに呪いを受けさせてしまった。すまない」
「お、俺が好きでやったんだ! お前のせいなんかじゃねぇよ」
雷王に責任を感じて欲しくなくて、必死に言い募る。
「そう思えるよう努めよう……だから、お前も自分を頼りないなどとは思わないでくれ」
「らいお…」
労わるように口付けられた。
先程の食事と同様、見えないからこそその感触がやけにはっきりと感じられ、一気に体が熱くなる。
唇を離し、もう一度強く主を抱きしめると、雷王は彼を解放した。
470
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:04:31
「あ…」
「まだ食事の途中だっただろう? ……手伝おう」
「う、お、おう」
この先を期待してしまった自分が恥ずかしく、ぶっきらぼうな返事になってしまう。
そんな主の気も知らず、雷王は彼を膳の前へと運ぶ。
「零してしまった汁は幸い膳から溢れてはいないようだ」
雷王は手拭いで手早く膳を拭き、おかずの一つを箸で摘む。
「さあ、藍丸」
「ん」
大人しく口を開ければ優しい甘さが広がった。
「やっぱ桃箒の出汁巻き玉子はうめぇな」
「そうだな」
雷王は頷いてくれるが、そこで藍丸はあることに気がつく。
「雷王、お前……もしかしてずっと俺の部屋の前にいたのか?」
でなければあのように素早く駆け付けられるはずがない。
雷王はばつが悪そうに小さく咳払いをしたあと、それを肯定した。
「ああ。お前の様子が妙だったからな。何かあってはならぬと控えていた」
「雷王…」
気づかれたくなかったとはいえ、あんなに邪険にしてしまったのに。
ずっと自分を案じてくれていた雷王に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「気に病むな。私がそうしたかったのだ」
先程藍丸が述べた言葉を、今度は雷王が口にする。
そうして、もう一つ重要なことに気がついた。
「じゃあお前、何も食ってねえんじゃ」
「お前の夕餉が終わったら後から食べる。心配するな」
「けど、腹減ってるだろ」
「妖はそうそう飢えるものではない。大丈夫だ」
無理矢理丸め込まれ、今度は煮魚の身を放り込まれる。
結局藍丸は、雷王の手で夕餉を平らげた。
「…お」
その頃には若干視力も戻ってきており、先程よりもはっきり雷王の顔が見えるようになっていた。
何度も瞬きしながら雷王を見上げていると、彼は笑ったようだった。
「見えるようになったのか?」
「おう。まだ完全じゃねぇけどな」
「では、今しばらくの辛抱だな」
「…ん」
隣に座る雷王の胸板にそっと身を寄せれば、すぐに抱き締められる。
「もう休んだ方がいい。眠るまで付いていよう」
「駄目だ」
「藍丸?」
即答され、雷王は悲しげに主を見つめる。
けれども藍丸は流されず、頬を膨らませて言った。
「お前、まだ夕餉食ってねぇだろ。俺ぁ覚えてんだぞ」
「!」
怯む雷王に少し嬉しくなりながら、藍丸は命じた。
「いいからちゃんと飯を食え。それまでは起きててやるから」
「むぅ…」
主の命に従ないわけにはいかない。
藍丸の黒髪をひと撫でして、腰を上げる。
「一人で平気か?」
名残惜しそうに問いかけられるが、藍丸は澄ました顔で頷く。
「さっきよりも調子がいいんだ、問題ないぜ」
「…そうか。ならば」
「雷王」
膳を持ち上げ、大きな体をしゅんとさせて退室しようとする雷王を引き留める。
「飯食ったらちゃんと戻ってこいよな。視力が完全に戻った時、一番にお前の顔が見たいんだからよ」
照れ臭い。
視力が弱まっていても情人を直視できず、藍丸は視線を外す。
雷王は小さく息を呑むが、この上もなく幸せそうに頷いた。
「わかった。しばし待っていてくれ」
なぜか膳が再び下に置かれる。
不意に顎に手をかけられ、上向いたところでもう一度口付けられた。
「…おう」
藍丸の返事を聞き、雷王は今度こそ部屋を出て行く。
あの様子ではすぐに戻ってくるだろう。
「そしたら早食いは体に毒だって言ってやる」
普段、藍丸が雷王から言われている注意の一つだ。
「だから、早く戻ってこいよ。…雷王」
まだよく見えない目で閉じられた襖を見つめ、小さく呟いた。
471
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:04:42
10.04.02up
長々とすみませんでした。雷藍でした〜。
雷王に自分の不調を隠す藍丸を書きたくて妄想しました。
結局バレましたが、バレる経緯が一番書きたい部分でもあったので自分的に満足です☆
あと、何か嘉藍みたいにもなりました。楽しかったです(笑)
今回、嘉祥と襲はとってもいい人でした。
これがドラマCDみたいな感じだったらもう藍丸はソッコーてごm…げふんげふん。
まだまだ雷藍は萌えどころ満載です。ネタが尽きない!
472
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:04:56
過保護雷獣
そろそろ梅雨の季節だ。
「ひゃー、冷てぇ」
しとしととよく降るようになった雨の中、萬屋頭領が戻ってきた。
今回は珍しく従者を連れておらず、彼一人で外へ出ていたのだ。
屋敷へ戻るなり、慌ててすっ飛んできたのは桃箒ではなく―――。
「藍丸!!」
巨体の割りに結構な速度で走り込んできた赤の従者の手には何本かの手拭い。
「おう、雷王」
藍丸と言えば、血相を変えてやって来た従者に驚いた様子もない。
濡れた髪をがしがし掻き回して、へらりと笑う。
「見事に雨に降られちまった」
「何を悠長な!」
雷王は主の黒髪に手拭いを乗せ、急いで水滴を拭う。
彼の力は強いので、当然……。
「いてっ、痛ぇって雷王」
「我慢しろ。しっかり露を拭っておかねば風邪を引く」
続く主の抗議も無視して、雷王は持ってきた手拭いを全て使い果たす。
その甲斐あって、藍丸は濡れ鼠ではなくなった。
「風呂を沸かしておいたからすぐに入れ」
「お、おい雷王っ」
有無を言わさぬ力で藍丸は風呂場へと引きずられていく。
これでは主と従者と言うよりも子と親だ。
まあ、この二人は限りなくそれに近いのだが。
あれよという間に連れ去られてしまった主を見送って、桃箒と蛟女は顔を見合わせ苦笑した。
「お二人共、恋仲になられてもお変わりないですよね」
「概ねお変わりないけれど……でも、雷王様が一段と過保護になられたと思わないかい?」
「……そう言えば……」
「恋仲って言うのはもっと対等なものなんだろうけど、雷王様にとっては愛しい主様が更に愛おしくて仕方がな
くなってしまったんだものね……」
「きっと、今まで雷王様はご自分を抑えていらっしゃったんですよ。その箍が外れてしまったとは考えられませ
んか?」
二人は二人なりに雷王の気持ちを慮る。
けれども。
「私たちの憶測通り、もし今までの雷王様の過保護振りが抑えていたものだったりしたら……」
「それはそれで、すごいですよね」
でも相手が主様ならば仕方がない、と二人はすんなりと納得してしまった。
「湯をかけるぞ」
「わっ、ちょっと待てって! まだ心の準備が」
風呂場に放り込まれるなり即湯を被せてこようとする雷獣に、藍丸は慌てる。
「早くしなければ風邪を引く。聞き分けろ」
「うー」
「案ずるな。いきなり頭から被せたりはせん」
「……」
確約をもらい、藍丸はようやく抵抗をやめる。
雷王はそんな主を見下ろして、僅かに微笑んだ。
「…何笑ってんだよ」
「いや、何でもない」
言いながら、不貞腐れたような主の肩からゆるゆると湯をかける。
どこか遠い目になる紅の目。
彼がどのようなことを考えているのか、藍丸には手に取るようにわかる。
「ふんっ。どうせ俺が餓鬼だった頃でも思い出してるんだろ」
「!」
心のうちを見事にいい当てられ目を瞠らせる雷王に胸が空いたのか、藍丸は幾分機嫌を上昇させる。
「昔からだけどさ、お前、ほんとに過保護だよな」
幼い頃の己の話をされる前にこちらから仕掛けてやる。
過保護という藍丸の言葉が痛かったのか、雷王はしばし言葉もなく渋面になっていたのだが……。
「……私は、過保護だったのだろうか?」
「……」
雨に降られたくらいであのように大げさな出迎えをしておいて、この問いかけだ。
藍丸は思わず呆れてしまう。
「藍丸?」
いよいよ心細そうな従者の様子にはあっ、と溜息を吐く。
「お前、自覚なかったのか? その問いかけは今更だぜ」
「だが私は、それらが全てがお前のために必要な行動だったと思っている」
「! は、恥ずかしい奴」
雷王は限りなく本気だ。
こんな風に真剣な顔をして目の前に立たれたら、妙な気持ちになるではないか。
それを口にしたら後には引けなくなるので言葉にはしない。
しかし、変わらず雷王は慈愛の眼差しでこちらを見下ろしてくるのだ。
過保護に……大切にされすぎて、くすぐったい。
473
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:05:07
「……藍丸」
気持ちを言葉にせずとも、何だかいい雰囲気になってきた。
二人はしばらく見つめ合い……。
そのまま口付けするかと思われたが、思わぬ事態が起きた。
藍丸の鼻がむずむずし始めたのである。
その衝動はすぐに止められるものではなく……。
「ふ、ふぇっくしょい!!」
肩に湯をかけたきり、放置状態だった藍丸の体が冷えたのだ。
「ら、藍丸!」
それをすぐに察した雷王は慌てて湯をかける。
何度か湯をかけ、体が温まってきたところで湯船に入った。
「……温けぇ」
「そうか」
一息ついて、二人は改めて顔を見合わせ……。
「…くくっ」
「ふ…」
どちらからともなく、笑いが込み上げる。
「ざまあねぇな、俺たち」
ひとしきり笑った後、藍丸が肩を竦めた。
主の言葉に雷王は大きく頷く。
「ああ。……風邪を引かせぬよう風呂場に押し込んだというのに、これでは本末転倒だ」
「盛り上がって我を忘れてたもんな」
くすくす笑いながら、そっと手を伸ばす。
「?」
伸ばされた手に触れれば、すっかり温かくなった手にしっかりと握られる。
「ま、万が一風邪引いたとしても、構わねえけどな」
「何を言うのだ」
それをさせぬために己がいるというのに、眉を顰める雷王に藍丸はいたずらっぽく笑う。
「風邪引いたらもっと過保護にしてくれんだろ?」
「!」
掴んだ大きな掌を己の頬に当て、はにかむ。
「お前が必要なことだって言うんだ。過保護にすんのは許してやる。……ただし、俺限定でな」
「藍丸……」
「手前は俺だけの過保護雷獣なんだからな」
このような可愛らしいことを言われて、何もできぬ雷王ではない。
湯船の中の主を引き寄せて、今度こそ唇を吸う。
自分が濡れるのも構わず抱きしめれば、主の腕も首へと廻される。
ここがどこかも忘れて、二人は互いの熱を高め合った。
主がのぼせるのは時間の問題であったが、傍にいる過保護雷獣によって手厚く看護されることだろう。
10.02.15up
き、季節感皆無ですいませーん!!
過保護な雷王に滾ってしまい、勢いで書きました。
これでもかというくらい藍丸に過保護な雷王を書きたかったのですが、なんか、ちょっと弱いかもです。
もうちょっと大事大事にさせたかった!!
過保護な雷王が満更でもない藍丸も、セットで萌えます。
お得なCPだな雷藍って。
474
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:05:23
雷獣の確信
妖刀事件の後、特に大きな事件もなく萬屋は数々の依頼をこなしていた。
今、頭領と赤の従者が江戸の町を駆けているのもその依頼のうちのひとつだ。
「待ちやがれ!」
よく通る藍丸の声が響くも、待てと言われて待つ者がいるはずもない。
人の賑わう商店街での捕り物は、少々厄介だ。
加えて追うのはすばしっこい小妖怪。
人と人との間を縫い逃げ惑う標的を少しずつ人気のない裏通りへと追い込むことに成功する頃には結構な時間
が経過していた。
「手間かけさせやがって」
藍丸は、きいきいと哀れな声を上げる小妖怪の細い腕を掴み上げる。
「お前、ここ連日店の売り物を掠め取っているそうだな」
彼の傍に寄り添う雷獣の王が静かに語りかけると、小妖怪は鳴くのをやめる。
恐る恐る巨体を見上げる妖を、藍丸は鼻で笑った。
「商人たちから聞いてるぜ。手前はそうやってか弱い振りして相手を油断させて逃げ出すそうじゃねえか」
腕を掴む手に力を入れれば小妖怪は悲痛にきいきいと鳴く。
「藍丸、少々やりすぎでは…」
「こいつが何度盗みを働いてるのかお前も知ってるだろ、雷王」
少しくらい痛い目見せねえとわかんねえんだよ、と更に力を込める。
「こんな奴、俺の炎で消しちまっても構わねえんじゃねえか?」
腕を握る手に立ち上る、炎の気配。
本能的に命の危険を察知した小妖怪が、演技ではなく必死に鳴いて身を捩る。
「藍丸!」
言い知れぬ不安を覚え、雷王は炎の気配を宿す主の手を己の掌で包み込んだ。
「…っ」
流れ込む、緋王の炎気。
雷王は僅かに眉を顰めたが、主の手を離さない。
炎気が雷王へ流れたためか、彼の体温で我に返ったのか、藍丸ははっと顔を上げる。
「あ…雷王……」
どこか途方に暮れた黒の瞳を向けられ、雷王は安堵した様子で頷く。
そうして主から引き受けた小妖怪を締め上げる。
再びきいきい騒ぎ出したそれを正面から睨み据えた。
「お前、今回は不問にするが同じことを繰り返すのであれば、その時は塵も残さず消えると思え」
雷獣の凄みは、ずる賢い小妖怪を心底から震え上がらせた。
呆気なく解放してやると、腰が抜けたのかへなへなとそこへ座り込んでしまう。
しかし紅の双眸にはもはや眼中にはなかった。
先程まで小妖怪を締め上げていた己の手を抱え込むようにして俯いている主をすっぽりと包み込む。
「…雷王、おれ……」
「藍丸、大丈夫だ」
抱きしめる細身から伝わる炎の気配。
炎気をその身に移し換えながら、雷王は囁く。
縋るように雷王の背に手をやる藍丸だったが、すぐに彼の刺青のことを思い出す。
「! 悪い」
己の中の炎気は遠のきつつある。
けれどもそれだけ情人の背中を焼いている証左。
慌てて身を離そうとするも、己を抱き締める逞しい腕はびくともしない。
「雷王、離せって」
「案ずるな。もう炎気は収まりつつあるだろう」
「けど!」
「もう少し抱かせてくれ」
「……雷王…」
自分でも落ち着いてきたことがわかるのだろう。
暴れるのをやめ、そっとしがみついてくる。
「すまねえ……。俺、またあいつを…緋王を抑えられなくなってるのかな?」
あの妖刀の一件で、自分は確かに一度緋王を退けてみせたはずなのに。
「今日は気持ちが昂ぶっていたせいもあるのだろう。お前はちゃんと力を御しきれている。もっと自信を持て」
「……うん」
最も安心できる情人の腕の中で、藍丸は幼子のように頷く。
その様が愛おしくて、雷王は彼の額に口付けた。
「一度屋敷に戻ろう」
「けど、依頼人に報告しねえと」
我を取り戻し、藍丸は本来の目的を思い出したようだ。
雷王はそんな主の髪を梳いてやり、小さく頷く。
「後で私が伝えておく」
ようやく主から視線を外し、辺りを見回すが先程まで腰を抜かしていた小妖怪の姿はない。
「本当は生けどりだったのにな…」
「結果的に逃がしてしまったが、あれだけ脅かせばもう町には現れんだろう」
主を不安にさせぬように努め、その細身をそっと抱き上げる。
「ら、雷王」
「こちらの方が早いだろう?」
「う……」
間近で見る情人の微笑みに頬を赤らめ、藍丸は彼の肩口に顔を埋めてしまう。
今、彼に起こっている現状をうまく誤魔化し、雷王は風のようにその場から去った。
475
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:05:34
主を屋敷へ送り届け、雷王は迅速に依頼人の下へ状況報告に赴く。
妖を生け捕れなかったと言うのに依頼人である商人たちは手放しで喜んでくれた。
これまでの萬屋の評判が物を言ったのだろう。
礼に一席用意すると申し出があったが、雷王はそれを丁重に断った。
理由は無論、屋敷に置いてきた藍丸だ。
また同じことが起こった時は萬屋に一報するよう告げ、雷王は再び来た道を戻り始めた。
(藍丸…)
考えるのは主のことばかり。
最近の藍丸は、どこか不安定だ。
先程のように衝動に任せて炎の力を開放しそうになったのは今回が初めてではない。
極力気づかれぬよう振る舞ってはいたが、そろそろそれも限界だろう。
現に本人は薄々気付き始めている。
(やはり、緋王が時折目覚めているせいか…)
藍丸に肉体を譲り、一度は深い眠りについた緋王。
しかし今になってなぜか彼は時折目を覚まし、表に出ている時がある。
その影響が出ているのではないかと雷王は踏んでいる。
藍丸は緋王が目覚めていることを知らない。
それも今回の危うい状況を作り出している一因になっているに違いない。
(緋王が心を決めるまで待っていたかったが……そろそろ潮時か)
思考を巡らせているうちに、見慣れた長屋が視界に飛び込んでくる。
屋敷で休んでいる藍丸が気になって、それについて思案するのをやめた。
「雷王様、お帰りなさいませ」
屋敷に足を踏み入れると、すぐさま桃箒が出迎えてくれる。
「桃箒、藍丸はどうしている?」
それに頷き、雷王は何より気になる問いかけをした。
「はい…。夕餉は少し召し上がられたのですが、すぐにお部屋の方へ」
彼もまた、主の異変に気付いているようで、表情を曇らせて答える。
「そうか」
「雷王様、主様は……」
「案ずるな。少々調子を崩しているだけだ」
「…はい。そう、ですよね」
桃箒は尚も何か言いたげだったが、雷王の様子を見て思い留まったようだった。
「藍丸の様子を見てくる。調子が戻っていれば小腹も空く頃だろう」
そう言葉を続けると、桃箒はぱっと顔を上げる。
「は、はい! ではいつでもご用意できるように準備して参ります」
己の本分で主の役に立てることを、この心穏やかな妖は何よりの喜びとしている。
少しだけ表情を和らげて頭を下げ、すぐに踵を返す。
瞬く間に小さくなっていく後姿に目を細め、雷王も歩き出す。
当然、向かうは寝間だ。
「藍丸、入るぞ」
襖を開ける前に声をかけるが、応えはない。
眠っているのかと静かに襖を開けるが……。
「いない…?」
薄暗い部屋の中を見回すが、主らしき姿はなく、気配もないので、ここに主がいないのは間違いない。
ここでないのならば……。
雷王は取り乱したりせず、次に心当たりのある場所へと移動する。
それは、寝室と同じくらいに行き慣れた部屋……雷王の自室。
予想通り、主はそこにいた。
いつもの通り、雷王の緞子判を抱えて横たわっている。
「……藍丸」
己が不在の際はいつもそうやって眠る主が愛おしく、手を伸ばすも。
「っ」
触れて、眉を顰めた。
熱い。
主の体は燃えるように熱かった。
体調を崩してのことではない。それは、紛れもない緋王の炎気。
「……う…」
情人の匂いに包まれているというのに、藍丸は痛みに耐えるような苦悶の表情をしている。
炎気に呑まれまいと無意識に抵抗している証左だろう。
「暴走とまではいかぬが……」
常に炎気を纏ったままの状態である藍丸の消耗は思った以上に激しいようだ。
主を抱き起こし、喘ぐ唇を塞ぐ。
「んっ……ぐ…」
「っ……」
その身に宿る炎気を刺青へと移し換える。
幸い主は眠っているので大した抵抗もされずに炎気を吸収することができた。
「……この程度ならば、まだ」
額に浮いた汗を拭い、小さく呟く。
「……ん」
直後、藍丸が身動ぎした。
476
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:05:46
雷王の腕の中で寝返りを打ち、うっすらと瞳が開く。
「目が覚めたか?」
何でもないように声をかけると、主はゆったりと瞬きを繰り返した後に雷王を見上げた。
「らいお……戻ったのか」
「ああ。依頼は無事完了した」
「そっか…」
それだけ言うと、従者の腕を抱きしめる。
「どうした、やけに甘えてくるな?」
「……」
少しからかってみたが、藍丸は何も言わない。
ただ身を寄せてくる主に、紅の瞳が細まる。
「桃箒から聞いたぞ。あまり夕餉を食べなかったそうだな」
「ちっと、食欲なくてさ」
「今はどうだ? 軽いものであればすぐに用意できると桃箒が言っていたが」
ばつが悪そうに目を伏せる彼の頬を撫で、諭すように進言する。
「そうだな。何か、ちょっと寝たら腹減ってきたかな」
その身を苛む原因がなくなり、調子が戻ってきたようだ。
雷王は安堵の息を吐き、主からそっと身を離す。
「ではそのように桃箒には伝えておこう。お前はもう少しここで休んでいるといい」
「…おう」
藍丸は素直に頷いて、再び雷王の緞子判を抱きしめ横になる。
艶やかな黒髪をひと梳きして、雷王は一度部屋を出た。
こうして持ち直しはしたが、またいずれ炎気は主の体から滲み出てくることだろう。
雷王がいくら炎気を吸い取っても、これではきりがない。
(どうにかして緋王と接触する必要があるか……)
桃箒の夜食を食べた後、瞬く間に眠りに就いてしまった藍丸を寝間へ運びながら、雷王は思案していた。
しかし、緋王と対面するにはどうしたらいいのか。
呼びかけで素直に現れてくれるとは思えない。
かと言って、いつかの嘉祥のような強引な手段に出るのは論外だ。
「……どうしたものか……」
無邪気な寝顔に心癒されつつも、雷王は小さく溜息を吐いた。
だが、その好機は思いもかけず早くに訪れたのだ。
藍丸を寝間に運び、雷王もすぐに床につく。
主の様子を窺いつつも、いつしか彼も眠りについていたようだ。
しかし、数刻で目が覚める。
隣で眠っていたはずの主の気配が唐突に消えてしまったからだ。
「藍丸!?」
飛び起きて、主不在の床に手を突く。
「まだ温かい…」
彼が寝間を出てそれほど時間は経過していないようだ。
(だが、なぜ藍丸が部屋を出たことに気づかなかった……?)
眠っていたからというのは、妖である雷王の理由にはならない。
どうにも不可解だったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
雷王もすぐに腰を上げ、寝間を出る。
「……!」
すると、藍丸とは別の気配を感じ、雷王は息を呑んだ。
まるで雷王を誘うかのような、あからさまな気配だ。
「……」
彼の足は真っ直ぐに奥の間へと向かう。
襖を開けば冷えた空気が部屋を満たしていた。
それもそのはず。
外へと続く障子が全開になっており、柱に身を預けた主が夜の帳の下りた空を見上げて煙管をふかしていた。
現れた雷王など見向きもせずに、静かに煙を吐き出す。
夜の闇に極楽蝶が輝きながら舞い踊る。
それはとても幻想的で美しい眺めだったが、雷王の視線は動かない。
真っ直ぐに主を見据えたままだ。
「……緋王」
低い声で、もう一人の藍丸の名を呼んだ。
「ふん。ここまで膳立てすれば嫌でも感づくか」
変わらずこちらに視線を向けもせず、藍丸の姿をした緋王が言葉を返した。
雷王は驚く素振りも見せず、彼へと近づく。
「夜着が乱れている。……このように冷たい空気の中にいるのだ。きちんとしなければ風邪を引く」
しどけなく乱れた夜着を整えれば、ようやく緋色の瞳が従者に向けられる。
「一々小うるさい獣だ。我は炎の羽織。この程度の冷気で風邪など引かぬ」
うっとしげに従者の手を跳ね退ける。
「体の主導権を握っているのは藍丸だろう」
「半妖だから危ういと? あやつも舐められたものだな」
「そういうことを言っているのではない……むぅ」
藍丸に対する時と同じように小言ばかりを述べてしまっていた。
それに気が付き、雷王は言葉を止めてしまう。
477
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:05:57
緋王はそんな従者を見上げ、挑発するように片笑む。
「どうした? もう小言は仕舞いか」
「お前は私の小言を聞きに現れたわけではないのだろう?」
「……」
敢えて問いに問いで答えれば、緋王は不機嫌そうに従者を睨む。
「緋王?」
「汝こそ、我に聞きたいことがあるのではないのか?」
「!」
つまり、彼は雷王の様子を察して現れたということか。
自分から表に現れた緋王に、目を瞠る。
緋王はしばし驚く雷獣をつまらなそうに眺めていたが、再びそっぽを向いてしまう。
「話がないのならば我は戻るが?」
「ま、待て!」
さっさと瞳を閉じてしまう彼に、雷王は慌てた。
すると伏せた瞼を上げ、再び視線が戻る。
「話すがいい」
尊大な態度と口調だが、それが緋王であるので全く腹は立たない。
「最近、藍丸が不安定だ。お前が関係しているのだろう?」
問えば、緋王は無言で口角を上げる。
どうやら質問の内容は予想済みだったらしい。
「いかにも。我が表に出ることが増えたためだろうな」
あっさりと認めた。
「……やはり」
当人から確認を得て、雷王は俯き唸る。
そんな従者を面白そうに眺めつつ、緋王は口を開いた。
「それでどうする。再び我を封じてみるか?」
揶揄するような口調に、雷王は顔を上げた。
じっともう一人の主を見つめていたが……やがて首を横に振る。
「いや。その必要はないだろう」
「……」
この返事は予想したものとは違っていたようで、緋王は訝しむように雷獣を見やる。
彼の視線を受け止めて、雷王は言葉の続きを紡いだ。
「お前はもう、藍丸を消滅させようとは思っていない。……封じる理由が見当たらない」
「これからも好き勝手にこの体を使っても構わないと?」
挑むような口調。
緋王は一体、雷王にどのような言葉を望んでいるのだろう。
「そうなれば、お前の行動は藍丸に知れることになる。好き勝手と言うわけにも行くまい」
「ふん、この半妖が我の行動を把握できるとでも言うのか」
「あまり藍丸を見くびってもらっては困る。あやつもお前と同じ羽織と呼ばれる存在なのだから」
「……」
今の炎気を持て余した状態も、時が経てば体に馴染むようになるだろう。
その頃には己の中の緋王が目覚めていると気づくはずだ。
ここで初めて二人が向き合い、これからが決まる。
それは決して、どちらか片方が舞台から去るためのものではない。
緋王と話をして、そう確信した。
「随分とあやつを評価しているようだが……果たしてそううまくいくのか?」
彼が考えていることを、緋王も察したようだ。
もう一人の己のことを嘲るように鼻で笑う。
しかし、雷王はそれに対して抗議することはなかった。
むしろ微笑ましそうに目を細める。
「それは近い将来ではっきりするだろう」
「よかろう」
火鉢に吸殻を落とし、立ち上がる。
「汝がそこまで言うのならば様子を見てやる。……見込み違いであればこの体、我が好きに使うまで」
「そのような事態には成り得ない」
迷いない断言に、緋王は不快げに顔を顰めた。
「話は終わったな。我は戻る」
まだ熱を持っている煙管を躊躇いもなく雷王へ放り、目を伏せる。
煙管を受け取った頃には主の細身は傾いでおり。
「…藍丸」
心地よさそうに眠り込んでいる主を片手で抱きしめて、愛おしげにそっと名を呼ぶ。
緋王と藍丸。
雷王にとって、そのどちらともが惹かれた主だ。
この先彼らにどのような変化が起ころうとも、愛しい主であることに変わりはない。
決して悪い方へは向かうまいと妙な確信を持ちながら、彼の黒髪に唇を寄せた。
10.06.23up
緋王が時々表に出てくるよシリーズ(長)でした!
この話の雷王は、何かもう達観しちゃってますね。
もしまだ続くのであれば、この三人のドタバタになっていくのかなー。
その前に、そろそろ藍丸と緋王を対話させたいです。
478
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:06:10
金鍔男子・1
妖は、半永久的と言ってもいいほどの長命だ。
雷王はもちろん、半妖である彼の主も同様。
妖刀事件を経て、想いを通じ合わせた二人が共に時を過ごし早300年。
江戸は東京という名に変わり、人間たちも随分と様変わりした。
それでも変わらぬものはある。
「雷王! こっちこっち」
某有名百貨店に出向いた藍丸は、うきうきした様子で従者を手招いた。
上機嫌の主に、雷王は薄く微笑む。
外見がいいところで二十歳前後にしか見えぬ藍丸と、身の丈が2メートルという長身の雷王という取り合わせ
は、はっきり言ってとても目立つ。
一件強面の雷王に藍丸が気易く声をかけているのだ。
何も知らぬ周囲ははらはらと成り行きを見守ってしまう。
しかし本人たちは気にすることなく会話を続ける。
「早く行かねえと満席になっちまうって!」
「ああ、そうだな」
彼らは親子のように仲良く寄り添って、とある店舗に入って行った。
店の名は「大黒屋」。
今も昔も変わらぬ、藍丸が贔屓にしている甘味屋である。
やはり大黒屋は客で込み合っていた。
予想通りの満席だったが、数分後に運良く二人掛けの席が空く。
茶を運んできた店員に、すぐオーダーする。
「金鍔4つと期間限定の金鍔2つな」
「かしこまりました」
早速茶を啜りながら、藍丸はそわそわと店内を見回している。
「さすがは大黒屋だよな。とうとう東京の有名百貨店に店舗構えるなんてよ」
本店は変わらず浅草にある。
藍丸一紋の拠点もまた浅草。
それだというのにわざわざ支店に赴いた理由とは。
「開店記念の紫芋金鍔、ここでしか食えねえんだもんなあ」
にくいことしやがると緩む頬を押さえる。
齢300歳を越えるというのにこの無邪気さ。
いつまでも変わらぬ愛しい主に、雷王は小さく肩を震わせた。
「楽しみにしている割に、自分ではお目当てを頼んでいなかったようだが?」
「どんだけ時が経とうが俺の一番は大黒屋のノーマルな金鍔だ。お前も期間限定気になるっつってたろ、一個交
換してくれよ」
金鍔は一日4個までというルールは今でも変わっていない。
ならばそのうちの一つを期間限定のものにすればいい話だが、大黒屋で金鍔を頼む時は必ずいつもの4つと妙
なこだわりがあるらしい。
それを見越し、雷王は期間限定のものを所望したというわけだ。
「仕様のない奴だ」
「へへ、決まりだな」
藍丸が手を叩いたところで店員が注文の品を運んできた。
「お待たせ致しました」
「待ってました!」
(…本当に、変わらぬ)
何千何万と繰り返されてきた光景に、雷王はそっと微笑んだ。
479
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:06:20
「ほら雷王」
「ああ」
差し出された皿を受け取り、自分の皿の金鍔をひとつ交換する。
四つの金鍔を綺麗に四等分して、主に返した。
「ありがとな! へへ、まずは期間限定を…」
竹串で欠片を刺して、一口頬張る。
「んー、美味い。餡の金鍔も格別だが、芋もなかなか…」
幸せそうに吟味するその様子。
それは見る者をも幸せな気持ちにさせるものだった。
「お前を見ていると、自然と金鍔が食べたくなるな」
「ふぉっか?」
残りの芋金鍔を頬張っているので藍丸の発音は危うい。
「藍丸、物を食べながらしゃべるのは…」
いつも通りの雷王のお小言に、藍丸は温くなった茶を流し込む。
タンッと湯飲を置いた後、半眼になって恋人を睨んだ。
「んだよ、元はお前が話しかけてきたんだろ?」
「む。それはそうだが……」
しまったとばかりに黙り込む雷王に、藍丸は吹き出した。
「って言ってもせっかくの金鍔を互いに黙りこくって食べるのも詰まらねえ。ほどほどに気をつける」
「…私も間を読んで話しかけよう」
こうして二人は歩み寄り、顔を見合わせ笑う。
あっという間に一つ目を平らげて、藍丸は二つ目である普通の金鍔に手をつけた。
「おっ、これこれ。やっぱ大黒屋の金鍔はうめえなぁ。本店と味変わんねえし」
「…そうだな。いつまでも変わらぬ懐かしい味だ」
藍丸のようにがっつくことはせず、雷王はのんびりと金鍔を楽しんでいる。
「何百年も同じ味を守り続けるってのは並大抵のことじゃねえ。……俺は大黒屋に惚れ直したぜ」
「藍丸にそこまで言わせるのだ。これからも大黒屋は安泰だな」
「へへ。俺は三百年以上も大黒屋のファンだからな」
この手の会話は人が賑わう空間の中ではし辛い。
小声で囁き、三つ目に手を伸ばす。
その間に雷王はようやく期間限定を吟味する。
「ふむ。甘すぎず上品な味だ」
「だろ? どっちかって言うと、それは雷王向きだよな」
今度はきちんと口の中を空にしてから語りかける。
「やはり軍配はいつもの金鍔か」
紅の双眸を細めてそう言えば、主は迷いなく頷いた。
「おう。こっちも美味いんだけどな。俺はやっぱこっちだ」
最後の一つを大切そうに頬張る。
それを見、雷王は近くを歩く店員に声をかけた。
「すまない、茶をお願いできるだろうか」
「はい」
主が金鍔を完食する頃には温かなお茶が用意されていた。
「……はあ、美味かった」
これまた幸せそうに茶を啜り、ほっと息を吐く。
「それはよかったな」
「もう一回くらい芋金鍔食ってみたいぜ」
「ならばまた通えばいい。まだ期間はあるのだろう?」
「おう、今度仕事の帰りにでも寄ろうぜ」
「承知した」
まだ店内は混み合っている。
食べ終わったのならばそろそろ席を立った方がいいだろう。
レシートを掴み、レジへと向かう。
ショーケースに並んだ甘味たちを、主が輝く瞳で見つめている間に清算を済ませる。
「藍丸」
終わったぞと声をかければ、黒い瞳は未だキラキラと輝いている。
……これは。
「なあ雷王」
「桃箒たちの土産だけならば了承しよう」
「うっ」
先手を打たれ、言葉に詰まる。
「今日の分はもう食べただろう?」
「わ、わかってらぁ」
この様子ではあわよくば一二個余分に買うつもりだったに違いない。
(こんなところも変わらず……か)
だが、こうでなくては藍丸ではないという気もする。
金鍔については譲歩するつもりはないが。
せっかくなので期間限定の金鍔を一紋分購入し、二人はようやく店を出た。
480
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:06:30
「なあ雷王」
「どうした?」
隣合って歩く主に視線を向ける。
「いつも付き合ってくれてありがとな」
「!」
突然感謝され、雷王は言葉を失う。
「お前、俺みたいに甘味が好物ってわけでもないだろ?」
驚いている雷王を見上げ、藍丸は照れ臭そうにそっぽを向く。
雷王は可愛らしい主の様子に目を細め、黒髪に手を伸ばす。
「お前が甘味目的で店を訪ねるように、私にも目的はある。……だから、気にすることはない」
「目的?」
ピタリと藍丸の足が止まる。
撫でてくる大きな掌をどけて、彼を見上げた。
「お前は幸せそうに甘味を食べるだろう? 私はそれを眺めるのが好きなのだ」
「っ…!」
面と向かって口説かれた。
藍丸の頬が一気に赤くなる。
「藍丸?」
しかも、この雷獣は無自覚なのだ。
無意識に口説かれるこちらは堪ったものではない。
「ば、ばっかやろ…」
今すぐ抱きつきたい気持ちになったが、こんな往来では到底無理だ。
代わりにむんずと丸太のような腕を掴み、歩き出す。
「藍丸…」
「怒ってねえからな」
長い付き合いだと言うのにすぐ誤解するのでピシャリと言っておく。
「…な、雷王」
大きな体が更にしゅんとなったので、フォローのつもりで最後にこう付け加えた。
「次の仕事と言わず、近いうちにまた来ようぜ」
「ああ。そうだな」
最終的には大きな掌が主の手を包むように握りしめ。
結局二人はそのまま手を繋ぎながら家路に着いたのだ。
10.08.09up
現代編de雷藍でした☆
普通にデートでしたね、デート。
現代でも金鍔を食べる藍丸と、金鍔を交換しあうラブい雷藍が書きたかっただけの妄想でした。
全然R18のかけらもない!ごめんなさい!!
そして実はこの金鍔男子、もう一話続きます。まさかの連作(汗
481
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:06:44
まじない
健やかな寝息が、突如苦しげなものに変わった。
雷王はそっと目を開け、隣で眠る主の様子を窺う。
「う……ん、」
主は何度も寝返りを打ち、唇からは呻きが漏れる。
「―――っ!」
耐えきれず、やがて飛び起きた。
藍丸は半身を起こし、肩で息をしながら震えている。
だが、雷王は動かない。
荒い呼吸がおさまり主が落ち着きを取り戻した頃、彼はようやく身を起こすのだ。
「…藍丸」
やんわりと声をかければ大袈裟なほどに大きく肩が揺れる。
「雷王…」
振り向いた拍子に額から汗が流れ落ちた。
雷王は枕元に置いてあった手拭いでその雫を拭ってやる。
「今日も……か?」
気遣わしげに尋ねれば、藍丸は小さく頷いた。
「ああ。またあの夢だ」
力無く笑う主が痛々しい。
手拭いを端へ置き、その細身を抱き寄せる。
妖刀事件が終わってから、藍丸はこうして夜魘されるようになった。
決まって同じ夢を見るのだと言う。
その夢とは過去に犯した罪の再現。
遊び友達を焼き殺してしまった、あの悪夢だ。
連夜続くこともあれば、時折の場合もある。
当初はすぐに主を起こし、夢から引き戻していたが、やがて彼は雷王に命じたのだ。
魘されていても決して起こすな、と。
焼かれゆく童子。
手を下した己。
何度も罪を突き付けられる。
藍丸はその責め苦を受け入れたのだ。
それが唯一の贖罪なのだと信じて。
ひた向きに罪と向き合おうとする主を、雷王は強く抱きしめる。
「大丈夫だ。ごめんな、心配かけ通しで」
宥めるように広い背中へ腕を廻す。
雷王は緩やかに頭を振った。
「お前は強い。私が案じる必要などないほどに」
だから重荷に感じることはないのだと続ける。
「…おう」
心から安堵した様子で情人に寄りかかり、藍丸はゆっくりと息を吐く。
雷王はそんな主を癒すように額へ唇を押し付ける。
親が子供にするようなそれに、雷獣の腕の中で藍丸はくすくすと身を震わせた。
「お前にこうされるとすげえ落ちつく。…俺の居場所はここだって思える」
「それは光栄だ」
「きっとお前がいてくれるから、俺は平気なんだ」
「藍丸…」
彼の言葉に胸が熱くなる。
自分には勿体無い言葉だ。
「それに俺が日に何度もあの夢を見ないのは、お前のまじないのお陰……なのかもな」
だんだんと眠くなってきたのだろう。
言葉に抑揚がなくなってきている。
更なる眠りを促すように髪を撫でてやりながら、雷王は少々驚いた。
確かに藍丸は悪夢を見た晩、一度目覚めれば再び同じ夢は見ない。
それが唯一の救いだと思っていた。
まさか、彼からそんな風に思われていたとは。
もちろん雷王にそのような力はない。
ただの偶然と言ってしまえばそれまでだ。
だが。
「お前がそう思ってくれているのならば、そうなのだろうな…」
腕の中で完全に眠ってしまった主を覗き込む。
その前髪を掻き分け、願いを込めて唇を落とす。
今夜もきっと、悪夢が再び藍丸を苛むことはないだろう。
10.08.27up
というわけでFDカウントダウンその5でした。
やっと当日…!
そして当日なのに薄暗い話ですみません…。
雷王にでこちゅーさせたかったんだもん!
とにもかくにも、藍丸捕物帳発売おめでとうございます!!!!!
482
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:07:00
雷王
雷王ルートED時における主人公の属性 : 半妖の藍丸。
展開 : 擬似親子から永遠の伴侶。
雷王の低ーい声が好き。とにかくエロい。セクシー‥。
個人的に最強無比のルートだと思っています!
ある日のんびりと空中遊泳していたときに突如〝惹かれ〟て、あわや半妖に従属してしまいそうになった雷獣の王。
そこで羽織格〝緋王〟の存在を認めるも〝藍丸〟の母親の願いを律儀にも聞き届け、引き取った子供が〝人間社会〟で暮らせるよう、その養育と躾全般を担うことになった。
以来、外見・そして本来もった荒々しい性質からはおよそかけ離れた役目を負わされたにも拘らず、嫌な顔一つせず、父親のような存在感と母親のような細やかさで、藍丸を見守ってきた。
‥二十歳を過ぎた(?)今でも一人で着替えも出来ないほど超・甘々に育て上げた張本人(笑)。
たまに見せる藍丸の反抗的な物言いから、ときに厳しく教え諭すこともあるような感じだが、それでも基本的には上げ膳据え膳な若様ライフを提供している。
雷王の躾の概念にどうやら、〝自立させる〟というコンセプトは含まれていないらしい‥。
しかしながら萬屋を営んで社会貢献させているあたり、人間として暮らさせるために〝世間体〟というものはある程度気にしていたよう。(ゆえに、ニートはさせない‥?)
藍丸が食す金鍔を切り分ける際も、いい加減自分でやれ、とも言わず至極当然という風にやってくれる。
(それは孤白も同様)
「一つ聞くが、家族ではないとすると、何なのだろうか?」
長屋 (屋敷) への帰り道、雷王が藍丸の中での己の存在意義を問いかけた瞬間から、二人の間の空気が微妙に変化し始めます。(※選択肢によっては出てこない場面)雷王が実は自分の母親に惚れていたのでは、とひそかに想い悩む藍丸。
このあたりから、雷王ルートは雷王&藍丸、二人 (だけ) の世界‥。
特に藍丸の方が、雷王のことしか目に入っていないような感じになっていきます‥。(狐さんのこともそっちのけ!・笑)
その他キャラはこんな感じ。
今日丞 → 助けてくれた良い人で終わる。あとはまったく相手にされない。
桜螺 → 藍丸の母親の生死&墓所不明、というフラグを立てた人。
七絡 → 緋王覚醒のきっかけを与えたり、宗也を喰い殺して藍丸を自責に追い詰めたりと、結果的にすべての行動が雷王を後押しした。
緋王 → 渋々ながらも再び封印され、雷王の男を上げた。
雷王と孤白。
あの狐が、一番あっさりと身を引いたのが意外なことにこの雷王ルート。
「まぁいいさ。お前の覚悟に、今は赦してやろう」
緋王覚醒の妨げとなった雷王から、爪を引いたシーンが印象的。
なんだかんだと反目しあいながら、お互いに認め合っていた節が‥。
雷王の藍丸攻略方法。
一、 膝枕をしながらうまく童心に帰らせ、警戒心を解く。
二、 母親の生死で混乱する藍丸に真摯な対応をする。 (お墓探しの事実も告げる)
三、 過去の殺戮の記憶を封印し、藍丸の心を守り続けた。
四、 〝藍丸〟が望まぬなら、と羽織格の〝緋王〟を刺青の力に恃んで命がけで封印する。 (壮絶なキスシーン‥)
五、 四で負った火傷を、藍丸が雷王の真似で唇で癒そうとするのを、「背に唇など這わせるな。あのようなことはこういう仲になりたい者がすることだ」 と、教育的指導(笑)をする。
六、 宗也の死で混乱する藍丸を一人にせず、ついに落とす。
※ツボ台詞→「‥‥おまえは、そろそろ私の気持ちを察してくれ」
七、 膝の上にのせて対面でにゃんにゃん。
※激萌えセリフ→「手荒くされたいのなら、そう言え」とか「このように育てたおぼえはないのだが」とか‥vvv
それにしても、雷王って、藍丸を膝に乗っけるの好きですね‥(笑)。
雷王ルートには、たとえ最後の選択肢だけを誤ったとしても、絶対に藍丸が七絡に攫われないというパーフェクトルートが存在します。
他のキャラにもそんなルートがあるかどうかはまだ不明‥。(色々試しましたが、未だ発見できず‥)
雷王のみ、エンディング後の挿話がありませんが、よく考えたら彼だけがオープニングで藍丸との出会いを果たしているので、それで釣り合いは取れている、のか、な?
でも欲を言えば、ぜひ欲しかった‥です。(笑)
08/10/29 MAY
483
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:07:38
◆この草紙の約束事
雷王ED後。
弧白は漂泊中につき不在。
鏡丞は、まだ本名を明かしていない。
──もうじき、日暮れ時か。
陽の傾きを見遣って、雷王は道を急ぐ。
藍丸と大黒屋の店先で落ち合う約束をしていた。
朝はともに出かけたのだが、途中から二手に分かれての仕事となった。
萬屋の二人は今、「失せ物探し」をしている。
依頼人は、とある大店の主人である。
それも、あの嘉祥と商売上の取引があるという大店である。
現に依頼は、嘉祥が仲介する形で持ち込まれた。
なんだかいやぁな予感がするぜ、と眉をひそめた萬屋の主の袖を引っ張るようにして、雷王が嘉祥に教えられた商家に直接出向いたのは、つい昨日のこと。
「たまを探してくださいな」
「は?玉?」
「いえ、たまですよ。猫のたま」
最初に失せ物探し、としか知らされていなかった萬屋の二人はしばし唖然とした。
だが、すぐさま立ち直った藍丸が「あんの狸爺めが」と口中で毒づいたのを、雷王はしっかりと聞きとめている。
嘉祥は、同業の誼と嘯いては、これまでにもしばしば萬屋に面倒事を持ち込んできている。
さあ今度は一体どんな厄介な仕事を回してきたのやら、と身構えて出掛けてきたところが、失せ物探しの「失せ物」というのは、実は主人が奥で後生大事に飼っていた猫だという顛末。
拍子ぬけするとともに、よりにもよって半妖の主に猫探しを押しつけるとは……、とさすがに雷王も呆れはてた。
もし、弧白がいれば、きっと藍丸以上に怒っただろう。
──あれは、大の猫嫌いだったからな。
今は一紋から離れ、ひとり漂泊している白く美しい妖を思い、雷王は我知らず苦笑する。
そして猫は嫌いでなくとも、少なからず萬屋としての矜持を傷つけられたか、藍丸は依頼人のもとを辞したあともずっと不機嫌だった。
「猫探しなんぞ面倒でやってられねぇってこっちに押しつけといて、見つかったら見つかったでちゃっかり手前ぇの方に恩着せようって魂胆なんだぜ、ありゃあ」
「はぁ、まったくこれだから商売人ってのは……、なぁ、雷王?」
仮にも江戸に在る羽織のひとりである嘉祥を、藍丸は屋敷に帰ってからも今度は桃箒を相手にさんざんにこきおろし、そのあとは屋敷の妖たちにも代わる代わる宥められ、挙句、気を使った桃箒がいつもより少しばかり豪勢な夕餉の菜を拵える始末だった。
それを全て平らげる頃には、主の機嫌もようやく持ち直した。
「──ま、不本意だが、奴には借りもあることだし、使われてやるか」
報酬もまぁ悪くないことだしな、と煙管で一服吹かしながら気だるげに嘯き、藍丸は傍らに座る雷王の胸にそっと凭れかかってきたのだった。
──この江戸(町)で、猫一匹。はたして、見つかるものか。
それも、たまという名の白い猫、というだけでは何の手がかりにもなりはしない。
雷王は、芳しくなかった今日一日の聞きこみの結果を胸に、急いで大黒屋へと向かう。
おそらく藍丸の方でも、これといった成果はなかったはずだ。
きっと今頃、苛々しながら雷王が戻るのを待っているのではないか。
なにせ、大好物の金鍔を切り分けてくれる雷王がなくては、藍丸はそれにありつくことが出来ないのだから。
やっと大黒屋が見えてきたとき、ふと雷王は目を凝らした。
店の軒下にある長椅子に、二人の青年が並んで腰をおろしている。
ひとりはすぐ、主と知れた。
そして、もうひとり。
「あれは……」
知らず、ひそめるように低く呟いていた。
──あの男。確か、久慈今日丞、といったか。
公儀旗本の次男坊で、例の妖刀騒ぎの時に突如藍丸の前に現れて以来、何かと萬屋に接近してくる侍だ。
正確に言うならば、萬屋にではなく、その主に、である。
人としてあるべき気配がまったくなく、それでいて異様なほどの甘さで藍丸に構い、そしてあっさり手懐けてしまった
この男を、当然のことながら弧白や雷王は胡乱に思っていた。
弧白などは事あるごとに殺そうと言い、雷王も珍しくその意見には強く反対しなかった。
今も少しでも怪しいそぶりが見えたなら、雷王は今日丞に向かって容赦なく雷撃を繰り出すだろう。
──あやつは、気に入らぬ。
484
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:08:23
よく見れば、藍丸の膝の上にはすでに金鍔の皿が乗っている。
すべて程よい大きさに切り分けられているのは、今日丞の手によるものだろう。
二つに切り割るのでさえ覚束ないほど不器用な藍丸に出来る芸当ではない。
二人からは気づかれぬ距離から、妖の目でそれらを見てとった雷王は、今度は彼らが真剣に顔を見合わせ、一体何を話しているのかが気になり始めた。
何より、主の顔をじっと見つめる今日丞の目が、油断ならないのだ。
まるで口説き文句を囁いているかのような、熱のこもったまなざし。
それを見る雷王の、腹の底からふつふつと湧くような、この不快さ。
かつて弧白に対して抱いたことのある感情とはまた少し違ったものだが、それでも充分に苛立っていた。
藍丸と契りを交わすようになってから、雷王の欲は落ち着くどころか、日が経つほどにますます高まっている。
いつか、その細い身体を手折ってしまうのではないかと思うほどの情欲で、抱き潰すような激しさで、夜毎、獣は主を犯している。
尽きることのない、この欲望。
その分、主に近づく者への悋気も抑えがたいほど強くなっていることを、雷王は今、はっきりと思い知らされた。
──この様では、弧白のことは言えぬ……。
急く気持ちを抑え、雷王はゆっくりと彼らに近づいて行った。
それで猫は、と藍丸が口にするのが不意に耳に入ってきて、思わず雷王は眉をひそめた。
仮にも萬屋の主ともあろう者が容易く依頼の内容を他人に教えるはずはない、と思いながらも、雷王の苛立ちはさらに跳ね上がった。
先に彼に気づいたのは、今日丞だった。
「これはこれは、守り役殿。久しいね」
涼しげに整った相貌に、穏やかな笑みを浮かべながら今日丞が言う。
だが本当には笑っていないことは、その目を見れば分かる。
「お、なんだ、遅かったな、雷王。待ちきれなくてよ、先にいつもの頼んじまった」
「いつもの、というのはこの金鍔四切れのことかい?」
藍丸に応えようとする雷王を遮るように、今日丞が尋ねる。
「ああ、ここのは特別に美味くてな。四つでちょうどいい感じなんだ。ていうか、これ以上食べると雷王がうるさいからな」
「本当は四つでも多いほどだ」
雷王が憮然として言うと、藍丸はにっと笑って今日丞を見た。
「ほら、な?」
「それで、いつもは雷王にこうやって竹串で切り分けてもらうわけだ」
「そうそう。今日は代わりにやってもらったけどな」
「そうか、じゃあ……役目を取り上げてしまって、悪かったね」
と、まったく悪びれない声で今日丞は朗らかに言った。
言われた雷王は、無言で今日丞を見下ろす。
ふたつの視線が宙でぶつかり合い、火花を散らすより先に、
「ああ、美味かった。馳走さん!」
ぱんっと音を鳴らして合掌し、藍丸が言った。
その音で、雷王は、そして今日丞も、藍丸の方を見た。
「さーて、帰るとするか。雷王、ここの払い、今日丞の茶の分も払っといてくれ」
「ああ、承知」
「藍丸、待ってくれ。ここの払いなら私が……」
「いいんだ、今日丞。雷王も来たことだし、こっちが払う。今日の礼というには足りねぇかもしれねぇが」
「別に、私は」
さらに何か言い募ろうとした今日丞をよそに雷王は、ちょうど盆を下げに表に出てきた大黒屋の主人に二人分の代金を支払った。
「ありがとうございます。またお越しくださいませ」
三人の間に流れる空気など、まるで意に介していない柔和な主人の声に押され、今日丞も諦めたように立ち上がった。
「では、また会うことがあったら」
「ああ、そのときは奢ってもらう」
言いながら藍丸は、さりげない風情でそっと雷王の腕に自分の手をかけた。
雷王は、思わず今日丞の顔を見る。
ほんの一瞬、顔を強張らせた旗本の次男坊は、だがすぐにやれやれ当てられた、という顔つきでほろ苦い笑みを浮かべた。
「じゃあな、今日丞」
澄ました顔でもう一方の手をひらりと振り、萬屋の主は大柄な雷獣の腕を強く引いた。
485
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:08:44
「今日の礼、というのは?まさか、猫のことではあるまいな」
歩きながら雷王が問うと、藍丸はきょとん、とした顔つきで雷王を見上げた。
「なんで、知ってんだ。さっきの話、聞こえてたのか?」
その罪のない表情と口調に、雷王の怒りは半分ほどに萎えた。
「いいか、藍丸。依頼のことで容易く他人に頼るのは……」
「ああ、違う違う。そっちの猫じゃなくてな。宗也が七賢竹屋で飼ってた化け猫のことだ。今でも七賢竹屋のお嬢さんが、変わらず面倒見てくれてるっていうからよ」
「……すまん、藍丸。宗也や七賢竹屋の話はわかるが、それとあの武家の男とがどう関わるかが見えん」
「あ、そうか。そりゃそうだよな。ていうか、お前が最初に妙な勘違いするから」
「悪かった。最初から話してくれないか?」
「ああ、つまりな。あそこのお嬢さんってのが実は今日丞の妹なんだ。昔、七賢竹屋に養女に出されたらしい」
藍丸は、さっき大黒屋で会って初めて聞かされたらしい、今日丞と宗也の関係をぽつぽつと雷王に話した。
「──ってわけでな。結局、ふたりは想いあってたんだが、お互いそれに気づかねぇまま、宗也が……あんなことになっちまったんだ。今日丞は、それを悔いてる。もっと早く自分が何とかしてやるべきだったってな」
「そうか」
「俺も、今日丞とお嬢さんが二人して歩いてたときゃあ、てっきりそういう仲だと思いこんじまったからなぁ。やっぱりあのとき後を追っかけてりゃあ……、いや、今さらこんなこと言ったってどうしようもねぇけどな」
藍丸の声が暗く沈む。
その傍らで雷王は、そうだったのか、と呟いた。
「つまりあの男は、お前が半妖であることを、最初から知っていたわけだな」
「そう言ってたな」
「まったく、油断のならぬ」
その低く吐き捨てる声に籠った、まるで恨みのような音を聞き取ったか。
「なぁ、雷王。お前……」
そう言って藍丸が、小さくため息をついた。
「だんだん、弧白の野郎に似てきたぞ」
「……私が?」
「おうよ。さっきだってなぁ、怖え目で今日丞のこと睨んでただろ。ああいうきつい目は、弧白がよくしてた」
「…………」
「今にも殺しちまいそうな目だ」
「そうだな。今は弧白の心地が少しわかるようになった。過ぎる情というのはなかなか抑えが利かぬ、ということが」
そして雷王は、主の顔を見つめる。
人間の、母親に似たその面差し。
そして、不意に。
ああ、藍丸も知ったのか、と雷王は思った。
弧白のあの凄まじい悋気は、主への焦がれんばかりの恋情ゆえであったことを……。
──おかしなものだ。そばに在ったときより、あれのことを思うことがある。
ともに同じ存在に惹かれ、愛した妖。
その縁に引かれるように、いずれまた、主のもとに還ってくるだろうか。
永く時が経てば、また……。
「──まぁ、案外、何もなかったようなツラでけろっと帰ってくるかもな」
「ああ、弧白ならあり得る」
「……は?」
主の上げた頓狂な声で現実(うつつ)に引き戻され、雷王は目を瞬かせた。
ひとり感慨に耽っていた雷王をよそに、藍丸はずっと勝手に喋っていたらしい。
そして、雷王の返した答えはどうやら的を外したものであったようだ。
藍丸はまたも目を丸くしている。
こういう邪気のない無防備な顔がいけないのだと、主はまだまだ気づく素振りもない。
「何言ってんだ、雷王。猫だ、猫。今は仕事の話してんだ。ボケてんじゃねぇ!」
「ああ、失せ物の方か」
面目ない、と侘びる雷王に、藍丸はにっと笑いながら言った。
「まぁいつも三人一緒だったからな。俺もまだ、たまーに調子狂うが、お前でもやっぱりそうなんだな」
「そうだな。猫探しだと知った時、お前もまるで弧白のように怒っていた」
「え、そうだっけか?」
「ああ。だがあれよりは、ずっと可愛らしかったが」
「か、可愛いってなんだよ!仮にも男に向かって可愛いってのはねぇだろうがっ!」
「お前がどれほど可愛いらしいか、躰で教えてやってもいいが」
「こっ、この阿呆が!天下の往来で、なに抜かしてやがるッ!!」
「そうやって、すぐに己の感情を爆ぜさせるところとか、な」
雷王が大人の口調で囁くように言うと、揶揄われたと知った藍丸はますますいきりたった。
「雷王ッ!手前ぇッ──!!!」
暮色がせまる浅草の往来に、半妖の主の声が響き渡った──。
縁ある者
2008/11/09 MAY (G.F.P.L)
486
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:08:59
「呑み過ぎだ」
窘める、低音。
それをツンと聞き流し、藍丸は手酌でなおも注ごうとする。
「藍丸」
「だって。これうんめぇ……」
ソファの上で瓶ごと抱え込むように呑んでいるのは、桃箒特製の梅酒だ。
他にも幾種類かあるのだが、今藍丸が最もハマっているのは泡盛に漬けた三年物の梅酒である。
それも氷砂糖と黒糖とが絶妙にブレンドされたもので、今まで桃箒が漬けてきた歴代の梅酒の中で最高の出来になること請け合いの逸品である。
それだけに、酒好き+甘いもの好きの藍丸が朝昼夜となく手放さないのも肯けるが、さすがにこの有様はいただけなかった。
藍丸はもうすでに目もあてられぬほどべろんべろんに酔っぱらっている。
萬屋一紋を率いる主としての沽券にかかわる……ほどの。
そう、側近中の側近にしか見せられぬほどの。
いや、これは側近にもあまり見せられる類ではないような。
身内、もしくは伴侶ならばまぁ、致し方ないにせよ……。
とにかく、己以外の者には決して見せられぬ姿だ、と雷王は強く思う。
──見せるつもりは、毛頭ないが。
猫にまたたび、ならぬ、藍丸に酒、もしくは甘味、である。
悪いことに、梅酒はその両方を兼ね備えている。
そのうえ超絶に美味いとくれば、藍丸がこんな骨抜きになってしまうのも肯ける。
が。
そこでそうだと素直に肯いてばかりもいられないのが、雷王の雷王たる所以であり。
「呑み過ぎだ。いい加減にせぬか」
じわりと声音に叱責を滲ませてみるも、
「あ、あと一杯だけ。一杯だけ、な、雷王〜」
太い腕にぎゅっと抱きつかれ、邪気のない顔に見上げられて歎願されると雷王も弱い。
三百年もそばにいて、まだ甘やかし足りないのかと言われそうだが、こればかりは仕方がない。
藍丸を甘やかすまいとして厳しく対するのも雷王なら、気がつけばついつい、甘えられるがままに(いや、それ以上に)主を甘やかしてしまうのもまた、雷王で……。
しかも、今はふたりきり。
深夜の、雷王以外の一紋の者はすべて排され、けっして入ることの許されない奥の間ともなれば。
──多少のことなら、大目に見ても罰は当たらぬ。
現代の東京でも萬屋を商う藍丸は、もう苦労知らずの若様ではないのだから。
とはいえ。
先刻から、夜着がすっかり肌蹴てあられもない恰好になってしまっていることに、はたして当の藍丸は気がついているかどうか……。
湯上りの膚がさらに上気して、いやに艶めかしく映るのもよくない。
仮に、本人にはその自覚がないにしても、これでは誘っているのも同じ。
藍丸の雷王に対する甘えもまた、無尽蔵だ。
「では、あと一杯だけだ。いいな」
ため息をひとつ。
まるで睦言のような、耳をも蕩けさせるような低い囁きとともに許す。
「へへっ、サンキューな、雷王」
そう言って、まるで邪気のない顔で笑う主を、雷王はじわりと情欲の滲む双眸で見下ろした。
487
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:09:15
はぁ、目ぇ回ってきやがった……」
「だから、飲みすぎだと言っているだろう」
酒気に火照った藍丸の躰を背中から抱くようにして支えてやりながら、雷王は言った。
「水を飲むか?」
「……そういや、桃箒のやつ、アイスキャンディー買ってきてたよなぁ」
「アイス?」
その脈絡のなさに雷王は眉根を寄せるが、藍丸はさらに甘えた声で、
「なぁ、雷王ー、アイス食いてぇよー」
「……仕方ない。では、一本だけだぞ」
「ミルク味だぞー、チョコじゃねえかんなー」
「わかった」
こんな夜遅く、しかも風呂も済ませてあとはもう寝るだけという段になっての食への要望に、雷王は珍しく従った。
キッチンまで行き、冷凍室から箱入りのアイスキャンディーを一本取りだす。
部屋に戻ると藍丸が、さきほど雷王がさりげなく部屋の隅に遠ざけておいた梅酒の瓶にまた手を伸ばそうとしていた。
「まったく、性懲りもない……」
「い、いやぁ、その……、な!」
何が「な!」なのかよくわからないが、ため息を吐いた雷王がソファに座ってポンと膝を叩くと、藍丸は素直にその上に腰をおろしてきた。
後ろ向きのまま、藍丸の躰をしっかり抱き込む。
背中と胸板がぴたりと密着する。
ともに湯上りで、特に雷王は上半身には衣服を何も着ていない。
江戸から次々に世が移り、時が平成になっても雷王の「着ること」への苦手意識はさほど変わっていない。
昼間は仕方なく(下手をすれば犯罪者呼ばわりされるので)現代風の衣服をそれなりには着こなすものの、夜になって藍丸と二人きり、奥に下がったあとは一切かまわなくなる。
主のように浴衣を羽織ってみるか、今のようにスウェットの下のみを着けているか。
背なの刺青と、その下の壮絶な火傷痕は、余人の目には決して触れさせることはないが、藍丸の前で隠すことはもうずいぶん前からやめていた。
やめろ、と言われたからだ。
ときに一紋の主として、毅然とした態度で命じられれば、なんであれ逆らうことなどできない。
永くそばに在る雷王ですら──否、雷王だからこそ。
「ほら、藍丸……」
うすいビニールの袋を破って開けてやり、手渡してやろうとアイスのバーを摘みだす。
「ん、……」
手に取るのかと思えば、なんと藍丸は雷王にスティックを持たせたままで首だけを動かし、かぷりとその先端に噛みついた。
「…………」
赤い舌が、ちろちろと先を舐め、ちゅ、と吸ってはまた舐る。
まるで、己の先を嬲られているかのような……。
「────」
しまった、と雷王は仄かな苦さとともに思う。
──このまま酔いつぶれてしまうなら、今宵は腕に抱いて眠るだけでもよかったが。
だからといって、まるで下心がないわけではないのだ。
おかげで、今の今まで抑えていた情欲が獣のレベルにまで一気に高まってしまった。
「……藍丸」
低音が、深く沈む。
雷王は藍丸の口からアイスを離すと、その手にバーを持たせる。
そのとき、溶け落ちたわずかなアイスが、藍丸の指の上に零れた。
「冷てっ」
一瞬、びくりと肩が揺れる。
が、雷王はかまわずに後ろからその手ごと掴むと、藍丸の口にアイスキャンディーを押しつけた。
「んむっ」
アイスを口腔に深く食ませたまま、その耳朶を噛み、項に舌を這わせてきつく吸いあげる。
固く掴んだ藍丸の手ごと動かして、アイスを抜き差しする。
じゅぶじゅぶと、アイスが音を立てて藍丸の口腔を犯す。
あからさまな性の擬似行為だった。
強いられる藍丸は、いやいやをするように数度首を振る。
唇の端から、溶けて白い液になったアイスが溢れだす。
白い液が、仰のく首や胸の上を幾筋かに分かれて蛇行するように流れ落ち、藍丸の躰を撫でまわす雷王の手をも濡らす。
はしたなく肌蹴けた胸をまさぐり、甘く白い液をわざと塗って卑猥に汚した胸の粒をこねて抓むと、藍丸の肢体がびくんと仰け反る。
488
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:09:47
「ん、ぅむ、んっ」
鼻にかかった嬌声。
口をふさがれ、声を殺している分、淫らさがより一層際立つ。
が、その口中のアイスはじきに溶けてなくなってしまう。
その興趣を知ってか、藍丸もわざとのように大きく喘ぎだした。
バーを舐る感覚が、次第に弱まっていくのを感じる。
──そろそろ、なくなるか。
引き出そうとするとその名残を惜しむかのように、藍丸はバーに舌を絡ませ、強く舐った。
「…………」
「…………」
酔いも手伝ってのことか、先刻からやたら挑発的な行為を繰り返す主を、雷王は目を眇めてじっと見下ろす。
そしてくたりと躰を預けてきた主の顎を乱暴に掴み上げると、強引に唇を塞ぎ、甘い味のする舌を吸った。
※
「もう一度、風呂の支度をしてくる」
その場で抱き合い、互いに果てた後──。
雷王が言うと、まだ快感に目を潤ませている藍丸が不満げな顔で見上げてきた。
「…………」
「どうした?」
「──動けねぇ」
アイスと互いの体液とで汚れ、躰中がべたべたとして相当気持ち悪いはずだが、それよりも疲れの方が勝っているらしい。
ぐったりとソファの上で仰臥したまま、指の一本を動かすのも大儀そうな様子に、雷王はすまぬ、と謝った。
「無理をさせた。では、風呂は朝にして、今は拭くだけにしておくか」
早くも世話役モードに切り替わった情人を、藍丸はじっとりと恨めしげに睨む。
「誰も、入らねぇとは言ってねぇ」
「だが、」
「……。洗ってくれよ、雷王……」
これは戯れの続きか。
未だ酔いは抜けていないのか。
ここにきてまた性懲りもなく甘えてみせる主に、雷王もいつものごとく静かな低音で応じてみせた。
「──承知」
090722 雷藍サミット宿題/アイスェロ風味
2009/09/02 MAY (G.F.P.L)
+++COMMENT+++
某絵茶にて盛り上がったネタ(?)ですvv
「雷藍でエッチ+アイス」という感じだったかな??(うろ覚え)
しかしそこだけで終わらず、宿題と言われたのでがんばってみました‥。(で、出来はともかく!)
一ヶ月以上経っちゃったので、雰囲気とかかなり違っているかと。(ご、ごめんなさいです〜!!)
主催のKさんいわく、このネタは「アイスェロ風味」というらしいです。
ただ単に、エロ甘バカップ‥いや、主従を書いただけのような気がしないでもー。(……)
しかも、ネタふり忘れない。笑
次はお風呂ですね、Oさんー* (私信?)
別に続きじゃなくても楽しみですvvv (ていうかこんな暴投、どう受けろと‥)
それでは、お目汚しで、大変失礼いたしました‥。(平伏)
9/20 追記
大風さんがついにやってくださいました!
アイスェロ風味のうしろに、素敵なお風呂のSSを繋げてくださいました!!
あまりの萌えと嬉しさに、読んだ瞬間から舞い上がっています‥!
このあとのお風呂での雷と藍をご覧になりたい方は、大風さんのサイトへ今すぐ!!
他にも素敵な雷藍SSがたくさんありますよ‥* →Maple(ttp://otagelpam.blog91.fc2.com/)
489
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:10:03
「……うっ……ん」
明け六つ──
膚をさぐる手指のくすぐったさに、藍丸は半分眠ったまま、物憂げな声をあげる。
夢の中でも誰かが自分を抱き、躰に触れてきていたから、その続きなのかとぼんやり思う。
夜着が肌蹴た胸の上を、悪戯する様にゆっくりと這い回っている。
むず痒いような快感が、藍丸の意識を次第に目覚めさせていく。
が、躰の奥に燻ぶっている情欲を再び掻き立てるほどの激しさはない。
むしろ、ゆるく戯れ合いを愉しむような。
じれったくて、少し意地の悪い手つきから逃れるべく、藍丸は目を開けるよりも先に手を上げ、振り払おうとする。
「……おい、こら、弧白……、やめろって」
途端、指の動きが止まった。
と、同時に躰に乗せられている太い腕の筋肉が心なしか強張ったような──────。
「えっ」
驚き、声を上げながら藍丸はハッと目を開いた。
今唐突に、己の仕出かした間違いに気がついたのだ。
目に鮮やかな紅天井。
この下で己を腕に抱いて眠ることが許されるのは、たった一人──。
「ら、らいおう……っ」
動揺しながら、その名を呼ぶ
知らず、舌足らずな声になった。
「雷王、あのなっ──」
何を言ったらいいのかもわからぬまま──それでもこの状況がマズイということはなんとなくわかる──なお藍丸は必死に言葉を継ごうとする。
が、その顔をまともに見ることもできない。
怒っているだろうか。
否、怒らせてしまったろうか。
藍丸はおそるおそる、雷王の顔を見ようとして、だが結局はその顎のあたりを見るに留まる。
それ以上目線を上げることができず、藍丸は「えー、と、その……」と要領を得ない言葉を呟き続ける。
が、雷王はそれを阻むかのように、強い力で藍丸の腰を引き寄せた。
「なっ……」
「…………」
雷王は無言のまま、きつく主の躰を抱きすくめてくる。
いつしか、仰臥する雷王の上に抱きあげられる形になっていた。
押しつけられた胸板が、背中に回された腕が、すべてが、熱い。
その熱に躰ごと浸されているような感覚が、とても心地いい。
藍丸は躰の力を抜き、全部ゆだねるように頬を擦りよせた。
──ああそうだ、と藍丸は思い出す。
この獣は、元来激しい性質なのだ。
そうと知ったのは、例の妖刀事件の折。
つまりは、つい最近のことになる。
だが、それ以前でも、藍丸の為にならぬと判断すればなんであろうと容赦はなかった。
おおいに甘やかされてきた部分もあるが、その反面、ことあるごとに叱られ、厳しく躾けられてきたこともまた事実。
が、それはあくまでも、無骨な雷王なりの真摯な親心であると、藍丸はそう信じて疑わなかった。
だからこそ、それまでは何も考えることなく思うさま甘えきり、寄りかかっていられたのだ。
が、晴れて恋仲になってみれば、雷王に対する藍丸の視点は驚くほどに変わってしまった。
たとえば……実はこの雷獣、存外に欲深で、そして嫉妬深い。
……藍丸に関する、とある事情がらみの者が聞けば「何を今さら」と鼻で嗤われそうなことだったが、それまでおぼこだった藍丸にとっては、それが仰天するほどの事実だったのだから仕方がない。
やがて、雷王がふぅ、と息を吐いた。
490
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:10:28
「……雷王?」
やっと落ち着いた藍丸が、そろりと頭を起こし、その顔を見下ろしてみれば──。
「な、なんだッ、何笑ってやがんだてめえ! 雷王っ!!」
「いや、お前のその慌てぶりが可笑しくてな」
口許に笑みを浮かべたまま、すまぬ、と雷王は言った。
「お、脅かすなよっ!俺ぁてっきり……」
「私が、怒っていると思ったか?」
「あ、いや……その」
途端に口ごもる主をさも愛しそうに見上げ、雷王はふ、と唇に新たな微笑を刷いた。
「確かに……少し驚いた。お前が幾度となく弧白に不埒な真似をされていたことは知っていたが……」
「ふ、不埒って……お前」
「それでも、万が一にもお前がその気にならぬよう、あやつも加減していたものとばかり思っていたが……」
見込み違いだったか、と呟く雷王の眸を見た瞬間、藍丸の背にぞくりとした何かが走った。
「ら、雷王?」
「あのような顔、弧白にも見せたのか?」
「え?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
が、一拍遅れてようやく、雷王が自分を責めているのだと気づく。
「み、見せてねぇ!」
とっさに言い切ったものの、本当はあのような顔と言われても、いったいどのような顔なのか、藍丸にはさっぱり見当さえついていない。
やれやれ、とでも言いたげに雷王の眉間が僅かに顰められた。
「嘘をついてはならぬと、そう教えてきたつもりだが」
「う、嘘じゃねぇっ」
「──そうか」
雷王が、呟く。
いつもの低音よりも、さらに沈んだ声音。
たったそれだけのことで藍丸は、雷獣の情欲に火がついたことを、知る──。
「雷王!」
急に視界がぐるりと反転し、藍丸はわっ、と声を上げる。
布団の上に縫いとめられるように組み敷かれ、今度は雷王が上から見下ろしてくる。
「弧白が出て行ってからまだ間もない。だからお前は単に寝惚けて、私と弧白を間違えた……、それならばまぁ、許せなくもない」
「許せなくもって……あのなぁ!いいから聞いてくれって」
「先程から、私はお前の言葉を待っているが?」
それを慌てふためいて、ろくに説明できていないのは藍丸の方だと指摘され、ぐっと詰まる。
──そのとおりだ。
ここは、まだ獣の思考が冷静なうちにちゃんと聞きわけてもらう必要があると、藍丸は小さく息を吸った。
「だから、ついうっかり間違えただけでっ、他意はねぇ!だいたい、弧白の手は、もっと冷たくて……、でも、この俺にああいうことをしやがるのは、お前と……その、抱き合うようになる前までは、弧白だけ、で……」
「だから間違えた、か?」
「そうだって、言って、ん……、うぅ、んっ」
言い終わる前に、口づけられる。
しばらく息を継ぐ間も与えられぬほど、濃厚な交わりを強いられた。
「……っ、はぁ」
ようやく息をつけたことに安堵する間もなく、藍丸はまたも声を上げる羽目になった。
「わっ、な、何しやがるっ。もう、朝だぞ、雷王っ」
もともとしどけなく肌蹴ていた夜着をさらに脱がせていきながら、おもむろに雷王が覆いかぶさってくる。
「こ、こら、雷王っ。お天道様が上がってるってのに、こん、なっ、じき、皆も、起きだしてくる、って……っ」
「──そうだな」
「だ、だろ? わかったら、もう、放しやがれっ」
だが、と獣は、不敵な顔つきで藍丸を見下ろした。
「このように寝た子を起こすような真似をされてはな……。それに、お前がまことを言っているのか、それとも嘘をついているのか。確かめる必要もある」
「た、確かめるって。ちょ、なんだよ、しんじらんねっ、なんでもう、そんな大きくしてやがんだっ」
腰に押しつけられるものの大きさに、藍丸はぎょっとして叫ぶが、雷王は聞き入れない。
「私に火がつけば、今度はお前が口づけで構ってくれるのではなかったか?」
そうは言うものの、もはや口づけだけでは済まさぬ、とその表情やら手つきやらがすでに示している。
それがわからないほど、藍丸も阿呆ではない。
「だ、だって、昨夜もさんざん、しただろう、が!」
「仕方がない。私を煽るお前が悪い」
「だから、いつ煽ったよ?」
それが藍丸にはわからない。
本当にさっぱりわからない。
わかっていることは、己がこれから、この雷獣に喰らわれるのだということ。
どんなに抵抗をしても──。
……藍丸が、本気で強く拒まぬ限りは。
(結局、俺もかなり期待しちまってんじゃねぇか……)
話の流れはどうあれ。
雷王の巨躯に自ら縋るように抱きつく己に気づき、藍丸はそっと、艶のある自嘲の笑みを浮かべた──。
枕話
2009/10/05 MAY (G.F.P.L)
491
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:10:47
美しい獣
背中の封印の刺青は使い物にならないほど損傷した
広い背一面が埋まれば、胸に腹部に封印の箇所は移される
使い物にならなくなれば、両腕に両脚に、首筋に…
雷王は次々と刺青をためらうことなく入れていく
止めてくれと乞うたことすらある
取り縋り、もういいと涙した時もある
お前が犠牲になる必要なんぞないと、怒鳴りつけたこともある
だが、獣はその直情な頑なさゆえに、それだけは聴けぬと
どんなにしても言葉を聞き入れはしなかった。
雷王が声と視力を失ったのは、ついに彼の全身のどこにも
刺青が入れられなくなったときだ
見開いた色を失くした双眸とひらめく舌には、黒々と
これまで目にしたこともない印が深く刻まれていた
声を失くしてしまっているのに、彼の声ははっきり響く
視力を失くしてしまっているのに、今までよりも遠くが視える
まるで先を読んでいたかのように、雷王は欠けた部分を補う力を
天駆ける力を失いながらも会得していた
お前は、馬鹿だ
深く瞳を閉じて詰りながらも、藍丸も捕えた手を離せない
この獣は自分のものだ
誰にも渡さぬ。どこにも行かさぬ。
傲慢なまでの独占欲は、千年が過ぎても留まりはしない。
腕にした巨躯を強くつよく抱き寄せて、ひたと肌を合わせ
藍丸は雷王の唇に口元を寄せた
契約のときに傷でもついたか。柔らかく温かい彼の口中は
うっすら血の味がする
癒しの力は持たぬが、そっと刻まれた印を舌先でなぞって慰める
痛かっただろう。もう、これ以上の傷は付けるな
口づけの合間に呟く藍丸に、雷王は薄く満足に笑って返した
お前が舐めてくれるなら、痛みなぞ無くなる
これはお前のためじゃない。私がお前の側にいたくてやっている
響く声は耳から入るよりも真っすぐに、藍丸の胸に身体に響く
雷王の想いは声や目で知るよりも、鮮やかに剥き出しのまま
深みにまで滑り込んでくる
この…馬鹿が…
再びに口にした言葉に、雷王の笑みは深くなった
傷ついた目のふちも指先でなぞり、そこにも唇をあてた
自分のために全てを差し出す獣が愛しくてならぬ
傷だらけになってなお、美しく気高い獣が狂おしいほど愛おしくてたまらぬ
この大切な存在の全てが、自分だけのものだ
雷王が目にする世界が、視力を遥かに超えた いま…
藍丸は赤い瞳で飽くことなく、美しい獣を見つめ続けた
どらっぐおんどらぐーんネタで紅天をやってみるテスト
初めての紅SSで、完全に混ぜてみる危険
もう馬鹿か…
492
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:11:01
春雷
暦の上では数日前に啓蟄を過ぎ、今日は表に出ると湿った埃っぽいにおいが辺り一面に漂っていた。
「雨が降るやもしれぬな」
見上げて、雷王が呟く。
空には刷毛で刷いたような雲が薄っすらかかっているが、まだ青さは見て取れるほど。
だが雷王が言うのだから、おそらく雨は降るのだろう。
彼は雷獣の王、天地を司る神の従属。その存在ゆえ本能的に知り得ることも数多ある。
主に天候などがそれだ。
「なら、傘が入用なのか?」
「藍丸〜〜〜っ」
傘の一言に、空傘がぴょんと跳ねて出た。
「おいら、使ってくれる?」
童のような笑みで訊ねられるが、如何な理由であれ昼日中に一目で妖と知れる者を連れ歩くわけにはいかない。だがこう耀かんばかりの期待に満ち満ちた表情を向けられると、頭領といえどどうにも断りにくいのが正直なところ。
そんな藍丸の様子を見た桃箒が、主様を困らせてはいけないと間に入ったが、空傘は雨が好きだ。雨の中、人の役に立つことはもっと好きだ。その優しい性格は周知の事実。
「連れてってやりてえたぁ思うんだが…」
「いや、連れてはゆけぬ」
屋敷にいる妖たちの微苦笑を断ったのは、雷王の放った低い一声だった。
「今日は具合が悪い」
細めた眸が未だ天より離れない横顔に、藍丸がふと気づく。
「雷だな?」
「…おそらく」
この時期、啓蟄で這い出た虫も引っ込むと例えられる雷が鳴る。
春の風物詩といったところだが、それならば流石の頭領もきっぱりと断るしかない。
振り向くと、不満気な空傘と、雷王の強い言に射竦められた面々が並んでいたが、
「今日は雷神様の機嫌が悪いんだと。おめえに雷が落ちて怪我でもされちゃたまんねぇからな」
だから今日は皆で留守番を頼む、と空傘のてっぺんにあるろくろ辺りを撫でてやると、くすぐったいのか頭を振るように身を揺らし、わかったと明るい返事が返ってきた。
ほっと安堵した主を尻目に、雷王は桃箒にもう一枚手拭いを寄こすよう告げる。
濡れて戻るとの含みに、雨足はすぐそこまで来ていることを知り、桃箒は慌てて屋敷の奥へ消えると早足で戻ってきて無地の一枚を手渡した。
「そろそろ行くか、雷王」
「そうだな」
表の板戸を開け、見送りに出た一紋に土産を待ってろと言わんばかりに主は景気よく手を挙げる。
途端、ゴロロロロ…と遠鳴りが聞こえた。
「思ったよりはえぇな」
「ああ、まもなく雨も降る」
二人並んで歩きながら、藍丸は幼少期を回顧する。
雷が鳴るたび、両手で臍を隠し、土間の隅にしゃがみこんでいたあの頃を。
「春雷、か…」
493
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:11:11
その日、雷王は働きに出るからと、幼い藍丸一人を残し、家を空けていた。
働く。
言葉通り金子を得るための雇われに出ることもあるが、このときばかりは違っていた。
雷獣の王として新たな四時を知らせ往く天命を司り、一族郎等、群雲と共に風となるに務めていた。
農民に喜ばれる、豊作を約束する雷こと、春雷。
この時期、一族の長は強烈な閃光をまとい誇らしげに天を駆ける。
その煌きは地上に住まう者を脅かし、畏れを抱かせ、堂たる佇まいで圧倒する。
無論、村外れの家屋で留守番をする童も例外ではなかった。
夕暮れ時、雷王は遠目にも異変に気づく。
(いつもなら火影が見えるものを…)
竈にくべる大きな火がまだ扱えぬ童は、暗くなる時分にはに瓦灯に火を入れて雷王の帰りを待つのが常だった。それが今日に限っては闇に次ぐ闇に飲まれ、既に百姓家の輪郭すら朧気だ。
万が一の事態を思い、冷える肝が脂汗を掻くほどの妙な胸騒ぎに眩暈がした。
軋む木戸を力任せにこじ開けると、留守番をしているはずの童の名を呼ぶ。
「藍丸っ!藍丸はいるかっ!藍丸っ!!!」
返事がない。
しんと静まり返った内は冷え冷えとしており、小さな存在を目視しようにも闇は呼吸さえ飲み込んでしまう。
背筋に悪寒が走る。
とにかく灯りをと瓦灯に火を入れると、ふわりと柔らかな微光が小さな安堵を胸に灯す。
その火気を手に、物入れの中、竃の中、釜の中、と隠れるに想像し得ない箇所まで順に見て回るが、姿形の欠片すら何処にも見当たらず、いよいよ外へ探しに出ようかと覚悟を決めたそのとき、すぅ、とどこからか小さな寝息が聞こえた。
「っ?!!」
消え入りそうなそれを、足をそうっと忍ばせ辿ってゆくと、土間の隅から規則正しい確かな寝息が聞こえる。
「藍丸…?」
灯りを持ち上げると、そこには小さな体が丸まり転がっていた。
泣いたのだろうか、顔中涙が張り付きくしゃくしゃで、寝息に雑じり時折咥えた指をちゅうちゅう吸う音もする。
雷獣はこの世に生まれて、初めて腰を抜かすという経験をした。
「は、…無事、だったか…」
瓦灯を框に置くと、両手で藍丸をそっと抱き上げる。
季節はまだ春とは名ばかりといった風情で、朝夕は底冷えもするというのに、何故このようなところで。
着物越しに体温を分けあうように抱き締め、冷え切った背を何度も上下に擦って暖めた。
やがて子供らしい高い体温が戻った頃、伏せられていた眸がゆるりと開き、雷王を見た。
「…らい、おう?」
「ああ、寒くはないか」
剥き出しの足を摩りながら問いかける。
「…ううん、あったかい。ええと、…おかえりなさい」
「遅くなった。…腹は減っておらぬか」
これから火を起こすとなれば時もかかるが、埋み火が生きていればまもなく温かな味噌汁くらいなら支度できるだろう。
そう算段しながら火鉢を見た雷王の首に、突然藍丸が飛びつく。
「こ、こら、藍丸」
「雷王っ…雷王っっ」
ぎゅうぎゅうとしがみつく紅葉の手があまりに必死で、雷王は抱っこした身体をゆらゆら揺らしてあやしながら優しく問うた。
「何があった。…怖い夢でも見たか」
「……夢じゃない」
一際強い力でしがみつく幼子が、助けを求めるように震えだす。
「……雷が…」
「雷?」
「雷が……」
「…怖かったのか?」
雷王の腕の中、黙ってただひたすらにコクコクと首を上下に振る頭が、事の顛末を如実に伝える。
己が務めの果てに、脅えた藍丸は土間の隅、蹲って耐えたのだろうひとりぼっちで。
誰に頼ることもできず、襲いくる恐怖に恐れ戦き泣き喚き、おそらくはそのまま寝入ってしまった。
どれほど心細かったろうと、雷王は鼻先で揺らめく黒髪を梳いてやる。
この身が雷獣である限り、務めは誇り、成すべきもの。そのために己は在る、生かされる。
だが幼き愛子の落涙は彼の胸に後悔に似た一抹の感情を過ぎらせた。
「藍丸…よくぞ耐えたな」
「うんっ、うんっ」
よく頑張った、よく頑張った、藍丸は強い子だ…
雷王は何度も何度も繰り返し言い続け、抱っこしたままゆらゆらあやす。
藍丸もその力強い腕に安らかな心持ちを取り戻すと、いつしか再び眠りの淵へと落ちていった。
494
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:11:35
「そんなこともあったな」
「そんなことって…俺ぁ本当に怖かったんだからな!」
腕を組み、隣りを歩く巨躯にきゃんと噛み付く。
あれは確か数えで四つか五つ、初めてひとりで聞いた怒声の如く鳴り響動む雷を思い出す。
「だがまぁ…」
遠くに薄っすら見え隠れするお山の上、雨雲の中をぴかりぴかりと稲妻が走る。その、間もなくここいら一帯を覆うだろう前触れに、藍丸はふと表情を綻ばした。
「あのときのは、おめえが鳴らしてたんだよな」
主は愛しい者を見るような目で、今にも泣き出しそうな空を見上げる。
とても怖かった。
雷による雷火、轟音、地鳴りに攻め立てられ、ひとりの寂しさも相まって、わんわんと声をあげて泣いた。
いつもなら雷王がすぐさま抱き締めてくれるのに、あの日はいくら泣き喚こうとも彼は戻ってこなかった。
だが、
『春雷は怖くない。農民はこの時期雷が鳴ると、その年の豊穣が約束されたと喜ぶのだ』
夜、雷王の身体に包まれて、寝物語に聞いた話。
怖いより嬉しいが勝る雷の飛来。待ち侘びた喜びの神の到来。
それならわかると思った。
『それじゃぁ藍丸と同じ。おとっつぁんもおっかさんもいないけど、雷王がいるのが嬉しいの』
物心ついたとき、既に親はなかった。
その代わり、藍丸の側にはいつも雷王がいた。
「あれがおめえの音だと思ったら、雷が怖くなくなったんだよなあ」
「藍丸…」
切なげに名を呼ばれ、気恥ずかしさにへへへと笑う。
地上の生きとし生ける全てに四季を知らせ、その態で畏れられはしても好まれはしない雷の王を、全身で肯定したただひとりの童。
あの夜は、この愛子を永劫守り抜くと、雷王が心新たにした一夜でもあった。
「おいおい、降ってきやがった」
さあっと風に吹かれ、細い雨粒が二人の身体をぽつぽつと打つ。
雲は益々黒味を増し、そう間を置くことなく、突如空は唸りを上げる。
雨宿りできる場所を探し走る二人は、頭上に轟く迅雷のあまりの勢いに慌てて両耳を塞いだ。
「ひゃーっ、おめえの仲間はよく働くよなあっ」
音に負けじと大声で叫ぶと、雷王も些か声を張り上げた。
「花の息吹を呼び起こすためにせねばならぬ大事なのだ」
「………知ってらあ、そんなこたぁ」
「何か言ったか?」
「言ってねえ!」
いつしか雨は本降りとなり、方々に散らばる泥濘をその都度ばしゃりと蹴散らして、軒下目指してひたすらに走る。
川沿いに出ると、軒を連ねる店々がこれは降り籠められるとばかりに軒並み畳み始めていた。
「ちょいと貸してもらおうぜ」
戸を閉めた店先での漸くの雨宿りに、思わずふぅと息をつくと、肩の湿りをぱんと払う手にそっと手拭いが乗せられた。
「お、悪ぃな」
桃箒があたふたと出してきたそれだが、萌黄の木綿地とはなかなか気がきいている。
「春…なんだな、雷王」
暗く垂れ込める天を仰ぐ。
雷雲が務めを終え、去ったあと、時に春雨にそやされながら、弥生月は楚々とやってくるのだろう。
「ああ、一雨ごとに暖かくなり、じきに花も咲く」
「じゃぁよ、桜で花見っての、してえなあ」
濡れ髪から垂れる雫が弓状に撓る口角を掠め、顎から喉へと滑り落ちる。
藍丸の手から手拭いを取り、残滓を拭いてやりながら、雷王はその無邪気な表情に苦笑する。
主に忠実な腹心が、立ち昇る濡れ艶めいた若い色香に惑っているなど、知る由もないその笑みに。
「そうだな、夜桜ならば誰に遠慮することもないだろう」
着物の衿を僅かくつろげ、湿った布を忍ばせ、答える。
「ん、桃箒に馳走を作ってもらわなきゃなー。楽しみだな!…って、こら、やめろって」
「やめる、とは?」
耳にかかる髪を掻き揚げてやると、冷たいそこに口を寄せ熱く囁く。
ふるりと震えたのは、寒さからかそれとも…。
「…この…っ、ああ畜生…っ」
土砂降りの様相は相も変わらず軒の下。
人気のない路傍にて、若き主は噛み付くように口をぶつけた。
惚れた弱みとの耳打ちは、獣の欲に火をつけて、雨垂れを目隠しにふたり深く口を吸う。
さすれば頬に桃色の花が。
二藍の胸掻き乱す春疾風。
時節を越えて百花爛漫。
二十四節気がようわからん…(泣)
旧暦の春は1〜3月(2〜4月?)だから、春雷が鳴ると夏がくるのが正解。
今の感覚じゃ変だけど、とりあえず二月に鳴らしてみた!
ああああ難しいっもうしらんっ→書き逃げっ
495
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:12:31
◆ 睦言
仕事帰り、電車で最寄駅を降りたところで、藍丸が喉の渇きを訴えた。
目線の先にはスターニャックスの看板。
先日、TVCMで季節限定のさくらクリームフラペチーノとやらを見て以来、度々飲んでみたいとは言っていたが、
「ついでに、さくら蒸しパンも食いてえ!」
夕餉前だというのに、うきうきと足取り軽く店へと歩き始めたその背に、
「桃箒が泣くぞ」
もう半刻とせず支度が整うだろうと告げられると、甘味好きの虫も流石に眉根を寄せ、
「あー…そうだよな…うー…でもなぁ…季節限定ってのがこう……なぁ?」
店に入りたい気持ち七分、迷う気持ち三分、といった具合の表情で、スタニャの看板と守役の顔を交互にちらちら見始める。
「土産買って帰るってんでどうだ?クッキーとか」
入ることが前提の物言いに苦笑する。
主の甘味好きは今に始まったことではないとはいえ…、
「雷王…?」
見上げる目が強請るようにこちらの袖を引くから、我侭だとわかってはいるが、雷王もつい甘やかしてしまう。
「わかった。では飲み物だけだ。皆には何か見繕えばよいだろう」
「おう!話がわかるぜ!」
行くぞ!と途端に元気よく歩き始める現金な姿に、腹心は思わず苦笑を漏らした。
夕方、街灯を模した灯りのもと、早速件のさくらクリームフラペチーノを手に、藍丸は通りに面したテラス席へと腰を落ち着けた。肌寒さより人気がない貸切状態が気にいったらしい。
「本当に冷たくてよいのか。まだ暮れ時は冷える。私のものと交換するか」
「いんや、冷てえのがいいんだ。まぁおめえのホワイトホットチョコも捨てがてえんだが、動いたら汗掻いちま…って……」
突如湧き起こった背後の不穏な響めきに顔を上げる。
まだ一町ほど先だろうか、ナイフを振り回して喚き散らす若い男が、追っ手の警官らしき数人を威嚇しながら走っている。どう見ても男に不利な形勢だが、
「こっちに来そうだな」
「藍丸、中へ入るか」
「いや、ここでいいだろ」
騒ぎなど気にも止めず、桜色のチョコレートが散らばるアイスを一口、ぱくりと口にする。
「うっめ!やっぱアイスってうめえよな!」
な!と主が無邪気に喜ぶ姿とは対象的に、騒然とした気配は刻一刻と近づいてくる。
男は痩せ型のひょろりとした風体にも関わらず、凶器を所持しているためか、警察も随分梃子摺っているよう見受けられた。
駅から程近いこの辺りは、道は広いが人も多い。
誰も彼も巻き込まれないよう目を配りながらでは、男を追うのが手一杯といった状況なのだろう。
そうこうしているうちに、来るな寄るなと、男が発する言がはっきりと聞こえ始めた。
「暖かくなると奇怪しなのが出てくるってなぁ、今も昔も変わらねぇな」
横目で横断歩道の向こうをちらりと見やった藍丸が、アイスをもう一口ぱくりと食む。
「折角、甘味にありつけていい気分だってのに」
「…まったくだ」
ストローを咥え、ふりふり上下に振りながら藍丸が言う。
「行儀が悪いだろう。そのようでは今後外で飲食はさせられん」
対岸の火事は気になるが、しかし目の前の無作法は見過ごせない。
雷王は黙って主の口からストローを抜き取ると、グラスに刺し直してやった。
「うー…つい、な?」
悪戯が見つかった小僧のようにくしゃりと顔を歪める向こう、信号が赤に変わろうとしている。
雷王の目線が己が目から外れたことに気づき、藍丸もいよいよ背後を振り返った。
「ああ、ありゃだめだな」
「爪が甘い」
追い詰めた、そう警官が気を緩めた刹那の隙をつき、男は全速力で道を渡る。
左折車のボンネットに手を突き、身軽に飛び超え、気づけばあっという間に大通りを渡りきってしまっていた。
岸のあちらとこちら、追う追われるの関係が車列に寸断され歯噛みする警官の面に、男が指を差して爆笑する。
バカぢゃねえの?マヂ捕まえる気あんの?!
下卑た不愉快な馬鹿笑いが、薄闇のなか高らかに響く。
事態を見て取った周囲の面々が、蜘蛛の子を散らしたように慌てて散り散りに走り出した。
そしてひとしきり嘲笑うだけ笑った細面が、再び駆け出し、まさにスタニャの横を通り過ぎようとしたそのとき、
496
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:12:44
「…っ?!」
カランカラン…
空になったプラスチックのカップがアスファルトに転がる。
男の顔面には薄桃色をしたどろどろのアイス。
投げつけられたのは、スタニャ新商品さくらクリームフラペチーノ。
「んだこれっっっ」
苛々とクリームを袖で拭うと、目の前には二人の男が悠々とテラス席に座っていた。
「藍丸、食い物を粗末にしてはならんといつも言っているだろう」
「う、…いや、今のはカップが勝手にすっ飛んでったってぇか…」
今日二度目の「つい、な?」に溜息をつき、ホワイトホットチョコを無言で差し出す遣り取りに、すっかり外野に放り出された感のある男が瞬間ぶちっとキれた。
「んなわけねえだろうがっ!!!」
「煩せぇぞ」
背もたれに肘をかけ、相手の双眸にひたと目を合わせて藍丸が切り出す。
「カップが飛ぶわけねえって?うちじゃぁ家ン中を火狐も飛ぶし、煙管の周りを蝶も飛ぶ。そういや雷王も2、300年前にゃ飛んでたよな?」
「ふ、昔の話だ」
二人の間にだけ穏やかな気配が湧きあがる。
男が発する刺々しい空気すらまるで他人事のように笑みを交し合う二人に、やはり外野に追い出されていた男がついに激昂して怒鳴りあげた。
「ざっけんな!!!何してくれやがる!!!」
吠える手の中、軽い一振りで刃が飛び出す。
両刃が灯りを弾き、己が身を主張するように青白い光を放つ。
「バタフライナイフか…近頃の若ぇヤツらが好きそうなもんじゃねぇか」
子供に話し聞かせるように優しく藍丸が言えば、
「その程度の小刀、我らには脅しにもならぬ。やめておけ」
腹心の者も主に習い、一度は諭してやるが、
「うるせえ!てめぇの顔もぐっちゃぐちゃにしてやんよ!!!」
てめぇの血でなあっ!!!
我鳴る声より先に前傾姿勢を取ると、狂気走った二個の眼球が藍丸を捕らえ突っこんでくる。
「死ねええッ!!!……………………………あ、…ああっ?!!!!」
カップを手に取り、ずずっと啜ると、忽ち辺りに甘い匂いが立ち篭める。
「へえ、ホワイトホットチョコか。これも旨ぇな」
呑気に呟く右耳のすぐ脇で、骨と骨とが鬩ぎ合い、ミシミシと音を立てる。
右手で掴んだ利き手からナイフが容易に滑り落ち、今男は顔を雷王の厳つい左手に鷲掴まれていた。
ミシリ、ミシリ、と床板を徐々に踏み抜かんとするに似たその音は、顔面の骨が軋むそれだ。
決して気味のいい音ではないが、長き生を全うしていれば様々なことがある。故に別段怖ろしいこともない。
「地獄へ落ちたいか」
「ひ、ィィ、」
雷王の憤怒の形相に恐慌をきたした男は、拘束を振り解こうともせず、ただされるがまま。
意識とは裏腹にだらだらと流れる脂汗、一度捕まれば外したくとも外せぬ強き目線、無闇に込み上げる嘔吐感、それらは男の全身が恐怖に網羅された証だ。
狂気は畏怖に決して敵わない。
じきに白目を剥き、口から泡を吹き始めた姿を見て、漸くといった風情で藍丸が口を挟んだ。
「やめろ、雷王。…気の毒だろうが」
テーブルに肩肘をついて、男に殊更甘く笑んでやる。
「こいつのお漏らし片付ける店が、気の毒でしょうがねえ」
「…そうだな」
主の意思に従いぱっと手を離すと、意識を放った男の身体は糸の切れた人形然として、あっけなく地面に落ちた。
「あーでもな、そもそも俺のもんを怒らせたてめえが悪ぃんだぜ?」
背凭れに堂と凭れ、聞こえてるか?と声をかけるが、その身は微動だにしない。
流石にばつが悪くなったのか、雷王が眉間に皺を寄せた。
「すまない、やりすぎた」
主の制止がなければ、この男を己が感情の奔るがままどうしていたか。
最悪、この凶漢の息の根を今此処で止めていたやもしれぬ。
藍丸に仇なす者ならば誰であろうと、胸に吹く凶暴な風は矛となり、必ずや彼の身を貫くだろう。
だが時代は報復を許さない。
これら矛盾が歯痒くてならぬとばかりに、目を伏せると、
497
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:12:54
「いや、おめえが謝るこっちゃねえ」
ばたばたと今更ながら横断歩道を渡り来る警官を眺めながら、藍丸は続けた。
「ぜぇんぶこいつが悪ぃんだからよ」
歯向かってさえこなければ、おまえを怒らせることもなかっただろうと、主は雷王の行いの全てを肯定する。
彼の庇護下にある者ならば、皆この恩恵を受けるが、紅の男は特別多くを甘受される。
「おめえは俺の望みどおり動いた。それだけだ」
凛とした声が雷王を圧倒する。
おそらくはこれだから惹かれたのだろうと、幼き頃の主を思う。
己が身を支配たらしめるのが半妖の童だなどと、よもやと疑い憤ったあのとき、しかし既に気づいてはいたのだ。彼の幼子の資質に。
そして主はと言えば、この話は終まいだとばかりにホワイトホットチョコを最後の一滴まできれいに飲み干していた。まったりとした甘さが暫し舌に残る後味が事の他気に入ったらしい。
ただ藍丸には先の件よりずっと色濃く気をそそっていた大事があった。
「あのな雷王、」
唇についた甘みをぺろりと舐めとる。
「…今度はちゃんと自分の好きなもの頼めよ?」
「?!」
気づいていないとでも思っていたのかと、愉快げに目を細めて藍丸は笑う。
「本当は砂糖抜きのコーヒーかなんかがいいんだろ?」
「む、…いや、私は何でもかまわぬが、」
「ああ、全部わかってっからよ。いいから好きなもん頼んでこい」
わざわざすまなかったな、とカップを指で弾くと、雷王も彼の意図を汲み、促されるまま立ち上がった。
「…わかった。少し待っていてくれ」
「ついでにさくら蒸しパンと、皆への土産も頼むぜ」
「承知」
無骨な手を伸ばし、雷王は愛しき者の頬を撫ぜる。
それはどこも傷つかずよかったと、己が胸に安堵を引き出す手順のひとつに見えた。
そして店内へと向かう広い背中を、微熱を伴う眸が追う。
どこまでも藍丸をのみ想い、藍丸にのみ寛容な彼の優しさが心に染み入る。
「甘いもんなんざ、滅多に口にしねえくせに」
くくっと笑いに喉が鳴る。
冷たい物を頼んだから温かいものを頼む、それも主が求めればどちらも飲めるようにと甘いものを。
先刻の人間の件は少し遣り過ぎの感が否めないとはいえ、それもこれも全てが藍丸のためだ。
そもそも藍丸の窮地ならば、他者の命を奪うことすら微塵も疑わないのだあの獣は。
おめえの気持ちはちゃぁんと伝わってんだぜ?
頬杖をついたまま、目を伏せる。
雷王が戻り人心地がついたら、皆が待つ屋敷へ戻ろう。
甘味は食わねど、他でもない甘い睦言ならば、彼も大いに欲しがることだろうから。
「ん、俺も欲しいし、な」
知らず指を噛み、舐め濡らす。
身を焼くほどの恋慕の情は、未だ狂おしく嵐の様相で身の内を駆け巡る。
わかりあうほど独占欲は強まって、互いで互いを縛りつけるが、これはこれで気持ちがいい。
そんな芳しい色気漂う物欲し顔を春の風がさらりと撫でる。
睦む刻はまだこれから…
某スタBのメニューを勝手にレンタルしたんだが、ごめんSタバ(礼。)
さくらSチーマーはトールサイズで飲むもんじゃなかった…←やらかしたらしい。
そして今回も書き逃げるっンなもんしか書けなくてごめんよ雷藍っ→脱兎!
498
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:13:08
◆ 針供養
二月の八日は事始めにあたるが、物忌む日にもなっている
この日は毎年恒例の行事でありながら、これまた毎年かならず針供養が原因で屋敷の空気は騒然となる
内部でどのような事が出来湧いても我関せずと、動じることが少ない家哭ですら耐えきれず、ついにぐらり揺れた
不動の屋敷ですら動くのだから、内部に棲む妖怪たちは惑乱を極めていた
ざわめく気配に何事と姿を見せた主を、長い階段の下で集まっていた妖怪たちが一斉に見上げた。
どの顔つきも、動揺し落ち着きがない。力のある妖怪が結界を突き破ったわけでもないのに、珍しく怯える妖怪たちを、ざっと見渡し主は首をかしげた
「なんだ?」
主の側に影のように突き従う神獣の姿が、今日に限ってない
また常ならば、藍丸にここぞとばかり体を密着させる妖狐は主の後ろで頬を青くさせ、妖怪たちが藍丸に近づいていても威嚇すらしていない
まったく日頃と変わらぬのは、優しげな風情でいて豪胆な荒事に勇んで飛び込む、藍丸ただひとりだ
頼もしい主人の姿に、ひたと妖怪たちの気が縋りつく
「どうした。なんかあったか」
はて…と懐手で顎を支え尋ねる藍丸に、誰もが一様に口ごもる
言っていいものか。尋ねていいものか。互いに目で牽制しあう
息詰まる気配が色濃くなり沈黙だけが張り詰めそうなところに、
「何かって、あったなんてもんじゃないよ」
ほぉっと長い溜息と共に背後から狐の呟きがある
とたん、奇怪にも妖怪たちの感情の動きが狐に同調した
ひどく珍しい現象に、さすがの藍丸も眉をひそめた
雷王は畏れられているが、狐白は妖怪たちに恐れられている
狐を避けることはあっても、こうもあからさまに彼の一言に安堵することは滅多とない
訝る藍丸にもめげず、狐は口調だけは気だるくしていてもその表情は強張っていた
「お前、あの堅物が何しているのか知ってるかい」
狐白が示すのが雷王であるのは即座に知れた
反発を隠しもしない彼は、あまり雷王の名を呼ぼうとしない
名を呼ぶときはよほどの事情があるときと、狐は頑ななだ
「雷王がどうした」
尋ね返せば、むっと血色の悪い唇が意地となって結ばれる。
何を意固地になっているのか分からぬが、こうなったら梃子でも狐は動かぬことを知り得ている藍丸は、桃箒へ視線を移した。僅かにカチ合っただけであるのに、桃箒はすぐさま頭を低くする
「それが…水屋にいらして…」
「水屋?そんなとこで、なにしてやがる」
「その…雷王様は…」
499
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:13:19
口に出しにくそうに言葉を濁す桃箒の様子に、気短な狐が再びに割り込んできた
進まぬ話し具合に、業を煮やしたらしい
「針供養をしてるんだよ」
「針供養?」
「お前、知らなかったのかい。今日がその日と知っていれば昨夜から外へいたものを…」
ギリ…と鋭い牙で唇を噛む狐の美貌に白銀の髪が掛かり、恨みにつらみに凄味が添えられた
「迂闊にも、あの堅物の部屋の近くを通ってしまったせいで…とんでもない役災だよ」
「なんで部屋なんだ。今は水屋にいるんだろう?」
現時点の場所と居処が違う。疑問を素直に口にすれば、ぎっと音がしそうな勢いで、鋭い視線が放たれた
「藍丸!お前は私の通り道に、あんな気味悪いもんを黙って放って置けって言うのかい。馬鹿をいわないでおくれ」
眦まで引き上げる顔つきは、いつも以上に彼を狐に見せている
やっぱりコイツは狐さまなんだなあ…と呑気に思う藍丸に、
狐白は乱れた着物の肩口を指先で引き上げながら、荒く息を吐いた
「第一、お前が歩く場所に針が落ちたら危ないじゃないか。場所を変えてもらったよ」
「ああ、それで水屋にいるのか」
ぽんと手を打つ藍丸に、狐を筆頭にした妖怪たちが、恨めしげな目を向ける
「で…それとこの騒ぎと何の関係があるんだ?」
「鈍いねえ、藍丸」
これにも狐白が言葉を返す。どうやら珍事も珍事。彼は屋敷に住まう妖怪たちの代表となっているらしい
「いいかい。この私ですら不気味に感じることを、あの馬鹿は仕出かしているんだよ?この連中が騒ぐのは、当たり前じゃないか」
「ただの針供養だろ」
別に呪っているわけではない。
ごくごく一般的な行事ごとで、あの律儀な雷王であれば、折れた針の供養をするのは至極当然の事柄ではないか
「なんも拙いことはねえじゃねえか。珍しくもねえし」
仕事もない…というか、無理やりに片付けて萬屋は本日は休みとなっている。
外出はできないが、庭で皆で酒宴でも張らないかと誘おうとしてみたが、こうも緊張を漲らせられては口にも出せない
「珍しくないなんてこと、ないだろう!」
ついに狐は声を張り上げた
おお、今日は滅多とない珍事続きだ…!
500
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:13:29
藍丸は軽く瞠目し、狐を見上げた
狐白が声を荒げることは少ない。なおかつ、屋敷の妖怪たちと同じ立ち位置になることも少ない
だが今日は面倒が嫌いな彼が妖怪たちの筆頭にも立って、陳述までしてきている
こうまで息がぴったり合う妖怪たちの姿に、一紋としての纏まりを感じて藍丸は満足すら覚えた
「藍丸…とにかく、あの馬鹿を止めておくれでないかい。このままじゃあ、おちおち寝ても居られない」
お願いします、主さま…と桃箒も狐の肩越しに手を合わせ拝んでくる
周りを囲む妖怪たちも、一斉に手を合わせている
神仏を拝むでもあるまいし。そぐわぬことをする連中に藍丸はやれやれと息をついた
「わかった。けどな、針供養ってのは大事な行事だ。
特に俺たちみたいな妖しの仕立てに使う針は、否も応もなく力を吸っちまうのはお前らも知っての通り、ちゃぁんと供養しねえで、捨て去った挙句の果てに荒神にでもなられると面倒に…」
「お前、私がそれくらい分かってないとでもお思いかい?」
横合いから突き入れられる声は、凍てつくほどに冷たい
格下の妖怪たちは一様に震えあがり、中には崩れそうになるものもいたが、
藍丸は、『んん?』と呑気に狐を見返すだけだ
きょとんと首をかしげる風情は幼い
あまりの鈍さを発揮され、図らずも眩暈すら覚えた
分かってない。藍丸は根本が分かってない
狐白は本来なら、口が裂けても言いたくなかった
なぜ、屋敷全体が振動するほどの騒ぎになっているのか
自分さえもが、他と同調することになっているのは、なぜなのか
この豪胆な主に理解されていないのは、さすが羽織格と喜ぶべきなのか
慣れすぎているがゆえに、鈍いと嘆くべきなのか…
だが、どちらにせよ藍丸が理解してくれなければ、騒動に収まりは付かない
今回ばかりは常以上に雷王には寄りつきたくなかった
口惜しさと苛立ちともどかしさに苛まれ、くっ…と歯を噛みながら
狐白は深いふかい、魂まで流れそうな溜息をついた
「雷王を…とにかく、私たちの目の触れないところに連れ出しておくれ。
そうでもしないと、家啼が結界をしばらく張れなくなっちまう」
「まあ…そりゃあ困るが…」
ワケが分からないと首をひねりつつも、一紋の大事とあっては頷かざるを得ない
それでも疑問だけはある
「雷王の、どこがそんなにお前らに影響するってんだよ」
ついに、狐の我慢が限界を超えた
ぶちりと何かが切れた音を確実に誰しもが聴いた
501
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:13:41
「どこもかしこもだよっ!あんなのが、真面目な顔して針を刺す姿を
真昼間っから見せられて、身がもたないなんてもんじゃない!
どこから見ても、丑の刻参りか蟲毒の術中だろう!」
そこまで云われ、ようやく鈍い主は気がついた
全てに合点がいき、晴れやかな気分にすらなる
そうか。お前ら、雷王が怖いって言うのか…
さすがに狐の気に障ると、口にはしなかったが顔には出ていた
たちまち不機嫌の権化となりながらも、認めざるを得ない事実でもあるだけに、無言のまま、動作も粗く踵を返した
自室へでも立てこもり不貞寝を決め込むつもりだろう
なにしろ物忌いのせいで、外に出ることもままならぬ
今日は妖怪が常よりも多く行き交い、一年の挨拶をして回る日でもある
羽織格とみなされている藍丸や神獣である雷王にでも、二間を進むのも難儀なほど挨拶をしようと妖怪たちが押し寄せてやってくる
特に狐白などは、眷属が多い。寄せる妖怪の波は、自分と雷王の比ではない。
しかも、数多といる眷属の中には上位に繋がりを持つものもいるだけに、寄せ来る妖怪たちを無碍にもできず、かといって愛想を振り撒いてかわす器用さも持ち合わせていない
現に屋敷付近には、やたら妖怪の通りがありすぎる。手土産を下げた者までいると伝えられれば、奔放な藍丸ですら二の足を踏まざるをえない
当然、面倒を嫌う狐が籠る先は、屋敷の自室でしかないのは明白だった
まあ、雷王を皆の眼の触れぬ場所へやれば、事は収まる
毎年恒例ながら、いい加減に慣れろと思う藍丸は、獣の及ぼす波動の広さをやはり理解してはいない
「あーあ、怒っちまいやがった。まあ、雷王をどうにかしたら気もおさまるだろ。
さぁて、じゃあ水屋へ俺は行ってくるか」
お願いしますと再びに一紋に見送られ、行きついた先の水屋では
なるほど、雷王が大きな身体を屈めて一心不乱に針を供養する姿があった
一本いっぽん、細い針を埋める指先にまで生真面目さに満ちている
ときおりに何事かを呟いている唇は、ねぎらいの言葉を語っているのだろう
雷王は優しい
際限なく優しい
一見すれば厳格に思えるが、一言、二言を交わすだけで安堵が沁みてくる
真面目で堅物ではありながら、妖怪にはあるまじき情の深さも藍丸はよく知っている。
彼が供養してやれば、どんな器物も和ぎ神となり福を運ぶ神にすらなれるだろう。
それほどに、彼の表情は真剣で、太い指先には優しさをまとっている
屋敷の中にいる心安さなのか、普段よりも纏う気配は柔らかい
静謐さすら感じさせる横顔をしばらく眺め、藍丸はそっと場を離れた
桃箒たちには約束したものの、今は雷王の邪魔をしたくない
連中には気の毒ではあるが、少し待たせても支障ないはずだ
自分の一紋は、そんなに軟にはできてはいない
雷王の様子を見に行って、見通しを立ててやるだけで落ち着きを取り戻すのも、藍丸は毎年の経験から知り得ていた
けれども、あと半刻…
それまで待っても雷王が供養を続けているのなら、隣に座って一緒に手伝ってもいい
むしろ一紋総出で手伝えば、誰も雷王を見ないで済むのだから万事が丸く収まりそうだ
502
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:13:52
皆で手伝うと言い出せば、どんなに驚いた反応をするだろう
けれど、直後には温かな笑いと声で頷いてくれるだろう
待ちわびる桃箒の元へ、のらりくらり戻りながら
雷王の横顔を思い出した藍丸の口元からは、小さな笑いがふっと洩れた
とりあえず、紅色の針供養をやってみた
お豆腐を温めなかったのは、唯一のこった私の理性だ<うそです
ってか、狐と会話はしてても雷とは会話なしか…ッ!!
……なんでそうなったんだろう
503
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:14:23
◆ 諦念
鬼の居場所を存じませぬか
あどけない少年の面影を残した若者は、綺麗に澄んだ声で
静かに柔らかに問うてくる
だが、柔和な笑みを浮かべ、優しげなおもざしをしていながら
こちらを見る目は空洞だ
真黒な底知れぬ暗い穴のごとく、焦点の合わぬ瞳が見つめる先は
異形のものを求め揺らいでいる
鬼の居場所を存じませぬか
ゆっくりとした言葉は調べに乗って、耳に心地よい
古風な衣装に身を包み、舞うように動作する
数百年が過ぎても、変わらぬ若者が痛ましい
こちらを向く白い面に、雷王が応じた
お前が斬るべく鬼はこの世のどこにも存在しない
最後の鬼すらお前が斬り殺した
告げる答えに首を傾げ、にこり笑う手にある刀は
距離を置いても肌が泡立つ波動を放っていた
人間であれば触れることもできぬなら、近づきもせぬものだ
妖怪であっても容易く手にはせぬ、その刀
古の都で、名工によって打たれた刀は鬼をも裂く激しさを秘めている
気品のある柔らかく白い手が握るには、あまりに似あわぬ刀は
華奢な作りを裏切り、殺戮と血と呪いを重く纏いつかせていた
鬼はどこにおりますか
言葉は違えながら、繰り返す若者に雷王は困惑し
藍丸は諦めの息をついた
言い募ろうとする獣を制し、藍丸は異界を宿す瞳を覗き込んだ
もう止めろ。お前は仇をとったじゃないか
その刀が探す鬼は、とっくの昔にそこの桜の根元に
埋められ土に戻っちまった
一瞬、若者の眼は藍丸を捕えたように動いたが
すぅっと桜へと流された
うっすら赤い桜の花
この一本だけが周囲と違う色の花を宿すのは
その根元に眠る鬼がいるせいだ
504
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:14:40
はらり零れる花弁を見つめ、ゆっくり頭上へ視線を昇らせて
見上げたまま若い姿の幽鬼は呟いた
鬼は…どこにおりますか…
ざざぁっと花弁が舞い落ちる
若者を包み込んで舞い落ちる
抱擁のような僅かな刹那は、しかし突如突き破られた
惜しむごとくに追う白い花びらを振り払い、
迷いもなく若者は、彼方の常闇へ一歩を踏み出した
おにはおります
ざわめく風の音に混ざり、微かに聴こえた声は
鬼となったもの特有の色を含んでいた
桜が泣き叫ぶように、花弁を散らす
狂ったように堕ちる花。華。はな…
視界を閉ざすほどに乱れる花の中、藍丸は眠る鬼を見たように思った
幽鬼となった若者は、百年に一度、あちらからやってくる
自分が殺した恋しいこいしい鬼を探し
愛しんだものが眠る桜のもとを訪れながら
ついぞ恋しい相手に気付かずに、常夜の世界へ戻っていく
泣くな…
困惑をにじませる雷王の声に、ふっと眼を上げれば
獣は降り注ぐ桜の木を優しく見上げている
ざっと、応じるように花弁が狂い舞う
長く生きている雷王は、この桜に眠る鬼を知っているのか…
鬼を求め、鬼となった若者を彼は知っているのだろうか
泣くな…もう、泣くな…
囁くように、あやすように…
繰り返す雷王の上に、訴えるかのように花は落ちてくる
そのさなか、一瞬だけ現れた四本指の白い手が、獣の背に触れた
ほんの偶然なのか、意図してなのか
相手の心など読む力を持たぬ藍丸に分かるはずもない
だが…
雷王
505
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:14:53
呼べば近くになる雷王の体を、隣へ引き寄せ
あの手が触れた個所に手を添えた
布地の下からじんわりと、雷王の温もりが伝わってくる
唐突な主の動きに、雷王は問いかける眼差しを投げかけたが
やんわり笑ってやれば、従順な獣は視線を元へと戻した
この背には誰ひとりとして触れさせぬ
誰の目にも晒させぬ
雷王の傷も刺青も、藍丸のものだ
天命を捨て、身を捨て、命さえ捨て去るだろう獣
狂わんばかりに愛おしい獣が、
自分のために払った大きな代償の痕を
他の者が触れるなど、許されぬ
ここに刻まれているのは、ただの傷ではない
そんな生易しいものではない
カケラも触れさせぬ
指先でなぞる形は、違わず印と疵を辿っていく
どれほど触れていようが足りることはない
ゆっくり指を開き手のひらを押し当て、
温もりを移してみても、まだ足りぬ
渇望が腹の底からせり上がり、薄ら暗い欲も湧き起こる
雷王の全てを自らだけのものにしたい
自覚する熱は、鬼の強欲にも等しい醜さを孕んでいる
きっと、この獣を失ってしまえば自分は鬼になる
探して探して探し回り、哀しみに猛り狂った鬼になる
十万浄土を業火に包み、このほのお目指して戻って来いと、
さらなる紅蓮を世界に灯す鬼になる
乱れる心は、あの幽鬼に触発されたか
桜のあちらに透かし見えた鬼に誘発されたのか…
物悲しく、悼みを湛えるこの地場に感情は共鳴し渦巻いた
不意に気配を感じ見上げた先に、雷王の柔らかな眼差しがあった
いつの間にか桜は静まり、散らしたはなびらは消えている
あの桜もまた、百年に一度だけ鬼を求めて端境に姿を現す異界のものだった
藍丸…
静かに、噛みしめるように名を呼ばれる
温かみのある優しい双眸
深い色を宿したその瞳を受け止めれば、眩しいように目を細めた
ゆっくり大きな手が頬を包み、あやして触れる掌に心が静まる
お前のものに手を触れさせて、すまなかった
囁く声が鼓膜を振るわせ、心底にまで伝い落ちる
力のある腕が体を抱きしめ、繊細な温もりが口元に触れた
広い背を両手で強く掻き抱き、藍丸は自分から深みへと雷王を誘いこむ
疼痛を伴う甘さに酔い痴れて、やはり俺は鬼になれると
鋭利な輪郭を描く欲を思い知った
よし、何がやりたかったのか、まず確認してみようか
そして、半年ほど延々と壁を向いて正座しておけ
そっれにしても、本気でなにしたかったんだ自分orz
506
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:15:06
◆ 祈る
狭間にて、中空に浮かぶ丸い月。
欠けたるところもなき十全たるその姿に、凛と強き女子を思う。
今、何処にて、何をしているのか、と。
目が覚めたとき、隣りの布団がもぬけの殻だったことには気づかなかった。
厠の帰り、雷王の部屋の襖が僅か開いているのに気づいたのは偶々だった。
「加世…」
雨戸を引いて桟に腰掛け、眺めるは白き望月。
頑強な肢体を煌々と照らしつけ、畳に黒く影が落ちる。
笑む口の形すらイ草に染みこむほど、懐かしい者を見るような穏やかな横顔に、覗き目はなにやら見てはならぬものを見た気がして、その場で即座に背を向けた。
男の表情は幼き頃より目睫の間で見ていた。だがあのように何者かを慈しむような、否、いっそ恋慕といってよいかもしれぬ甘やかなそれなど、ついぞ見知らぬと思った。
加世という女子の名も。
夥しく流れる雷雲の中を泳ぐように奔っていたあの日、雷王は突如として地上に引き落とされた。
そして幼子を預けた女は、翌る満月の夜に姿を消した。
白々と冴える月は漆黒の闇を隅から隅まで照らし暴くゆえ、女の門出には全く不向きだったというのに、藍丸を連れ、四方八方手を尽くし探しに探したにも関わらず、結局は見つからず仕舞いだったあの折、もしや悟られず誘い出した手があったのでは、かどわかされたのは、と思いもした。
だが、
「僅か溜まる闇の隙間に落ちたか、それとも月に召されたか…」
妖の手に落ちたか、それとも神の手に連れられたか、そのどちらもあの者ならば有り得た。
妖との間に子を成し、天より我が身を引き摺り落とした加世ならば。
雷獣の王たるこの身を前にしても怯むことない勝気な目つきは、今尚憶えに鮮やかだ。
それだからこそ、彼の者が今もどこぞで生きているのではと思えてならなかった。
『藍丸のおっかあは何処にいるの?』
物心がついたばかりの幼子は、近くに住む年近い童の“おっかあ”に抱っこされたと言った。
慣れぬ柔らかな肉の感触に驚き、すぐに降りたそうだが、“おっかあ”は皆ああいうものらしいと気づいたとき、初めて何故と思ったのだろう。
何の意図ももたず、ただ素直に訊ねくる真っ直ぐな眸を、雷王は今も忘れられずにいた。
「月讀壮士よ、私は会わせてやりたいのだ」
月に祈る。
主は今の暮らしに満たされているやもしれぬが、半分は人の血をもつ者だ。親の腹から産まれた者だ。
いつからか知れず生まれ生きる我ら妖とは違い、人と半妖にとって親の存り様には意味も大きかろう。
それゆえ、何とかして居どころが知りたい、藍丸に知らせてやりたい、そう願うのだ。
「加世、何処にいる…」
天駆ける力を失い、人の形をとる今となっては、身ひとつで動くにも限りがある。
それとて暇をもらうたび、かつて居を構えた辺りへと赴き、探した。それももう幾年になるやも知れぬ。
最早行き止まりの感が否めぬならば、ここは神頼みしかあるまい。
かつて女が紅の獣にそうしたように、彼の者もまた天を仰ぎ、粛々と言霊を放つ。
「加世…藍丸は此処にいるぞ…」
「っ?!」
背中越しに聞いていた主の肩がぴくりと跳ねた。
今何と言った。
加世を藍丸に会わせたい、そう言ったかあの男は。
(加世…)
その名を口の中、小さく呟いてみる。知らぬ名だ。どうやら母親の名らしい。
されど…、と藍丸は目を伏せた。
揺れないのだ。
その名に揺さぶられるものが、己が胸のうち、如何ほど探そうが聊かも見当たらない。
寂しくはない。悲しくもない。言うならば、唐突に丸きり無縁の者と対峙したような心持ちだろうか。
507
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:15:17
見知らぬ者にそうそう心そそられるわけもなく、よって波風が立つ謂れもない。
柱に背を預け、眉間に皺をよせたまま息をつく。
『懸想した者ならひとりいる』
妖である雷王が惚れた唯ひとりが母ではないかと疑ったことなら数知れずある。
口喧しく説教を垂れるときに必ずつく余計な一言など、特に厭わしいことこの上ない。
“母者に頼まれている”
これに幾度腸を煮やされているか知れない。
事毎に何故これほど胸中の乱れを御しきれないのかも知れない。
母親に頼まれたからおまえは此処にいるのか
責任を果たすがためだけにおまえは俺の世話を焼くのか
胸が針で刺されたようにちくりと痛む。
夜闇のなか、物思いは底なしに深く沈んでゆく。
止まらない。
「つれぇなぁ、こりゃ」
その場にずるずると座り込む。
雷王はいつも側にいるのが当たり前のようだが、血の繋がりがないから親兄弟ではない。
人と人とが血の繋がりにより共に在るものだとするなら、彼が此処にいるのは当たり前ではないのだろう。
けれど彼は優しい。
「側にいろと命じれば…ずっと側にいるだろうよ」
その眸に映るのが、たとえ藍丸ひとりでないとしても。
鳩尾のあたりが圧されたように息苦しくなる。
「はぁ…痛ぇな畜生…」
寝着の衿に指をかけ、きゅっと握り締め、思う。
月なんざ見てんじゃねえ。
こっちを向け。
こっちを向いて俺に言え。
なんでもいいから、俺にぶつけろ。
黒々しい塊のようなものが喉元で腫れ上がる苦しさに、眦が涙を滲ませた。
「俺は…母親なんざどうだっていい」
万が一、本当に彼が振り向いたなら言えるだろうか。
今更顔も覚えていない親など、
雷王の心中で己より多くを占める人間など、
そんなもの、
「俺ぁいらねえ」
面と向かって言えたなら、この身はどれほど楽だろうか。
心はどれほどの優越に酔えるだろうか…
すぐそこにいるのにとても遠く感じられる隔たりに胸が締め付けられる。
この思いはどこにどのように片付けたらよいのだろう。
生まれて初めて知る胸苦しさを持て余し、藍丸は今宵眠れぬ刻を過ごす…
藍丸のオカンの名前は私が勝手につけた、ごめんよらぶでり(礼。)
両思いになる前のふたりなんだけど、どうだろう…読めます、か…?
相変わらず、探り探り書いとります<(_ _)>
※雷王を引き摺り落としたのを、藍丸→オカン、と捏造注意。
508
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:15:31
◆ 夢現
辺りは夕焼けの色に染まり、田んぼでは黄金色の稲穂が頭を垂れている。
刈られるときを日一日と待つ彼岸の折、畦道には燃えるような曼珠沙華。
鮮やかに咲くその花は、田の淵をぽつりぽつりと彩るからこそ美しい。
だが同じ紅色をした過ぎる炎は野を焼き畑を焼き、風に煽られ阿鼻叫喚の態で踊り狂う。
禍々しいまでの美しさをひけらかすその様を前に、子の背中はぴくりとも動かなかった。
紅の獣は今も鮮明に覚えている。
愛児の恐怖に引き攣れた双眸と、秘められた力への戦慄を。
いつからか、童は探していた。
辺り一面、薄っすら積もる灰の中、しゃがみこみ、一心不乱に何かを探していた。
「ここは…」
どこかで見たことのある情景に、気のせいだと頭を振る。
気のせいだ、見知らぬ、初めて目にする、そう思い込もうとする。
似ているからだ。
焔が滾り、暴れ狂ったあの土地、あの場所に、今見ている景色が酷く似ている。
今となっては既に居も移し、かつての縁も遠く彼方へ追いやったというのに、ひとつ紐解けばずるずると思い出は蘇る。
友が死んだ。友を殺した。
脅える童を雷王は抱き締めた。
子に記憶封じの術をかけ、己が背には力の暴走を食い止める紋を彫った。
そして漸く得た笑顔はあまりに無垢で、これでよかったのかという自問は心を苛んだ。
しかし、これでよかったのだとするしかなかった。
あとの責は全てを自らが負うことで、目を瞑るしか。
「何故今になってまた思い出す…」
主と己が編みし過去、これは夢かと男は思う。
視線を落とすと、しゃがんで丸まる背が、まだ何かを探し揺れていた。
微笑ましい姿に声をかけた。
何を探しているのかと。
返事はない。
ひたすら地面に手を這わせ、童の足はじりじり進む。
もう一度、同じく問うてみるがまた返事はない。
そういえば、この子の名は何といったか。
呼びかけようとして戸惑う。
大切なその名がでてこない。
私の命さえ霞むほどに大切な、かの者の名が出てこない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、何を探している」
灰で手を白く汚して、おまえは何を探している。
私の愛児、おまえは何故答えてくれない。
歩み寄り、小さな肩にそっと手を置いたそのとき、
「あった!!!」
無邪気な甲高い声が響き渡る。
そうか、見つかったのか、よかったな
探しものが何かは知れぬが、見つかったならよかったと、
腰を屈め、子の手元を覗き込むと、そこには一房の髪の束。
509
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:15:44
(髪…?)
「よかった…」
「藍丸?」
そうだ、この子は藍丸。私の可愛い稚児。
どうして一時でもその名を忘れていられたのだろう。
口ずさむだけで愛しさに甘く締めつけられるその名を私は…
「よかった、全部燃やしてしまわないで…」
「らんま…る…?」
ふっと蝋燭の炎を吹き消すかの如く、瞬く間に四囲が闇に閉ざされる。
そのような中、小さな藍丸の身がぼんやり光りだした。
「雷王…」
すっと立ち上がった童の周りには、黒く焼け焦げた幾許かの死体。
顔も判別できぬそれは確かあの日見た惨状。
知っている、気のせいなどではない、克明に覚えている。
私が片をつけたのだ、この子の代わりにこの身で全てを償うと誓って。
やはりここは…暗がりにて何も見えぬが、ここはあの…
そして私は…
「見つけた、雷王…」
大人びた声にはっと顔を上げる。
成人し時を止めた姿が漆黒に白々と浮き上がる。
純白の大輪が咲き零れるような艶やかさで。
「全部燃やしちまわないよう気ィつけたんだぜ…」
彼は手にした紅の髪を眼前に翳すと、舌でべろりと舐り、片笑んだ。
焔の緋を灯した両目が、薄っすら弧を描き、うっとりと愉悦に歪む。
だがその表面は何も映してはいない。
ただひとり、もうここにはいないかの面影しか。
「俺のもんだ…」
灰が舞う
人肉を、雷獣を燃した灰が宙に舞う
黒髪を巻き上げ、虚ろな声を掬い、
真綿が首を絞めあげるような優しさで
ふうわり暖かく彼の身をくるんで、やれ踊れ、やれ歌えと囃し舞う
己を軸に吹き上がる雪のようなそれを愛しそうに見つめ、藍丸は無邪気な幼子のようにくすりと口を綻ばした。
「愛してるぜ…」
手の中の一房にそっと接吻を捧ぐ。
まるでそれこそが生きているかのように、そこに思いの丈のすべてを注ぎ込むかのように。
そして灰燼となりて尚我が身をくるむ彼の温みに、藍丸は朧な目を泳がせ、恋しいその名を口ずさむ。
「雷王…」
!!!!!
狂気じみた陶酔に身を委ね、滲み出す人ならざる妖艶な色気に唾を飲む。
今次こそついぞ知らぬ、あのような姿は見たことがない
だが怖気立つほどにかの身は美しい
求めて焦がれ、居らぬのに追い彷徨う、その寂莫たる様相から目が離せない
あれはなんだ あれが藍丸か あれこそが藍丸なのか
私の藍丸が、私を燃し、私をこそ想い狂ってゆく
心此処にあらず、彼岸に寄りかかり、血の涙を流し流離う
この世でもなく、あの世でもなく、既にない私の影を瞼に浮かべ…
「藍丸…」
まるで私が死すれば藍丸は…
「雷王…、らいおぅ…、」
まるで私を求め藍丸は…
510
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:15:55
藍丸っ!!!!!
口蓋を刷き飛ばすほど擦れた声が、叫びとなり、寝屋の静寂をびりりと裂いた。
「………夢、か…」
あれが、夢。
現の出来事であったような鮮明なあれが夢だと…?
雷王は身を起こすと、奔る鼓動の早さに知らず肩で息をついた。
三度暴走した力はいよいよ雷王をも焼き尽くし、灰にした。
その遺髪をぎゅうと握り締める白い手、切なげに細められた紅い眸、、酔客のように茫と舌足らずに呼ぶ声、そのどれもが夢の一言で締めくくるにはあまりに鮮烈で、まるで易者に先見を受けたような心地さえする。
(喉が渇いた…)
頬を露が滑り落ちる。
額に触れ、初めて全身にみしりと汗が滲んでいることに気づいた。
「夢、なのかあれが…」
怖れから幾度も自問する声が上擦る。
豹変した藍丸に、否、それを嬉しく思う浅ましき己が心にぞっとした。
自らを御しきれず、取り乱し、心隠すことも忘れ、我を失くした主の純粋さゆえの乱心が、どうにも愛おしくてならなかった。
そして彼をそうしたのが私であると思えば思うほど、臓腑は悦びに打ち震え、手に手をとりたい惑いに駆られた。
あのとき、手を差し伸べていれば、共に二人きり何れかの果てへと旅立てたのだろうか…
不埒な想像のもと、寄り添うように隣りで眠る主の頬を撫ぜる。
「藍丸…」
夜が更けるまで身を交えた痕を膚に散らし、彼は無防備の態で寝息を立てていた。
「藍丸…」
夢の中、ひとときでも忘れてしまった名を呟く。
二度と忘れないよう、何があろうと失わぬよう、想いをこめて。
「ん、…どした、雷王」
不意に目を覚ました藍丸が、降り注ぐ低い声に短く応えた。
「いや、…なんでもない」
「…そ、か」
なんでもないと言うわりに、常に温かな身体が今はやけに熱く感じられ、藍丸はもそりと彼の腿に頭を乗せると、仰向いて雷王を見上げた。
暗闇のなか、表情はよくわからない。
だが、考える性質である雷王のこと、なんでもないと言うのなら何かがあったということくらいはわかる。
そっと情人の顔に手を伸ばすと、その指先を雷王の手がきゅうと握り締めた。
どちらともなく、ふ、と笑みが漏れる。
「藍丸」
「ん?」
「…少し、抱いてもよいか」
汗が引き、冷え始めた膚が、眠っていた心許なさを引きずり出す。
無性に人肌が、藍丸の温もりが、欲しいと思った。
「…いいけどよ、俺ぁもう腹いっぺえなんだが…」
眠りに落ちる寸前まで雷王で満たされていた中は、今も何かを咥えたような膨らみを憶えてじんじんと疼く。
下腹をさすって苦笑すると、
「いや、ただ…抱擁を…」
「ああ、そういうことか」
いいぜ、と起き上がった藍丸の胴は、すぐさま両の腕で絡めとられた。
隙間なく膚と膚をあわせ、密に熱を移しあい、雷王は思う。
あれは夢、空恐ろしいが互いを独占する甘美すら味わった夢。
しかし惹かれた心は夢ではない。
理に背く本能が焦りに逸る。
だから今、主の火をこの背に封じたように、己が暗き欲を腹の奥底へと葬り誓う。
藍丸がこの世にいる限り、私は絶対に消えぬ、と。
いつか背が焼け爛れ、盛る劫火に燃されようとも、私は死なぬ、と。
もちうる誠実と忠実を腕に、若い身体を強く掻き抱く。
「離れぬ…決して離れぬ…」
幼子のようにしがみつき、縋るように言を搾り出す。
多くを語らず、その身ひとつで何事かを訴える様に、藍丸は何も問わず静かに抱き返した。
背を濡らす獣の嗚咽は聞かぬふりをして。
なんかようわからんけど、夢オチってことだけは確かだ。
独占欲に狂う藍丸とかいいと思う、すっごくいいと思う
一部レンタル、「菩提樹:天野月子」、thanx☆
511
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:16:08
◆ 龍夢
命に代えても守ると誓った。この身体が滅んでしまい、魂だけになろうとも、近くちかく仕え、どのような刃であろうが防いでみせると…藍丸のためならば、どんな無茶であろうが成し遂げる。誰にでもなく、己に…天に誓った、誓ったはずだった。
そうであったのに、なぜ藍丸はいない。己はここにいるのに、藍丸の姿はどこにもない。眼前には、真っ赤な瞳と炎の力を纏わせた男が悠然と佇んでいる。
藍丸の身に巣食う、絶大な緋王の力を押し込めたのは雷王だ。完全に、あの妖怪は力を失くし眠りに就いたはずだった。だが、その慢心を彼の王は嘲りでもって見ていたのか…気配を欠片ほども出さぬことに、安堵する自分たちは愚かだったのか。
どれほど己の失念に悔恨を抱いても、もう遅い。あれは妖怪の首領にまで上り詰めたものだ。滅してなお、存在し続けた妖怪の力を侮っていた。たかが文様ひとつで、封呪などできる相手ではないと、なぜ気付けなかったのか…。
今さらだろうが、思わずに居られない。
藍丸は、雷王の目の前で炎に包まれた。
惨劇は一瞬だった。僅かな笑いを口元に刻み、こちらを振り向いた刹那、突然に身の内から噴き上がった紅蓮の業火は雷王が藍丸に触れるより先に、瞬く間に主を灰と化した。伸ばした指の先、脆く崩れる身体が信じられなかった。
驚き、何が起こったのか理解も届かぬうちに、真っ白な灰の中から緋色の王は一歩を踏みこんだ。
腑抜けが…
にやり唇を吊り上げ、満足に王は嗤う。長い時の中、主の内側で牙を隠し爪を研ぎ澄まし、じっと沈黙を保ってきた王は、この刹那の満足を味わうためだけに、長いながい悠久とも感じる時間を過ごしていた。
雷王の無駄な足掻きに片頬をゆがませ、藍丸の疑いを持たぬ甘さに笑いを殺し…
我が、あの程度で静まるとでも思うていたか
無駄であったな、獣の王よ
不気味に落とした声で呼ばわれたが、雷王には意味さえ分からなかった。
藍丸は何処へいった。
どうして主の姿はなく、この男が目前に立っている。
いとしい、いとしい、あの藍丸を
この男はどこへ隠した?
茫然と見上げる雷王を、いっそ憐れみすら籠めた眼を向けながらも、皮膚の下からは残酷な顔が浮かび上がる。そろり雷王の頬へ手を伸ばし、身を屈めて耳元に口を寄せる。寝間の囁きを交わすごとく、緋王は甘くあまく声をそっと吹き込んだ。
汝の藍丸は、もうおらぬ
我が灼いてやった。
静かに身を引き、頬に添えた手で肌をなぞる緋王をぼんやり見上げる双眸は、ガラス玉のように感情がない。
だが、次の瞬間にガラスの内側から雷の力が溢れかえった。首を仰け反らせ、太い慟哭の叫びが迸る。ぶわりと巨躯を包む獣性の本能が、純粋な怒りに染め上がった。空へと放たれた咆哮が、天上を揺るがし、あらゆる世界へ鳴り響いた。魂を震撼させる神獣の慟哭は、長くながく尾を引き、何重にも折り重なる残響が鋭く 不快な音波となって空を引き裂いた。その亀裂を目指し、天の底を轟かせる軍勢が、雷王の怒りの声に応じ集い来る。
すでにその座を追われた身でありながら、獣はいまだ神獣の力を発揮する。
緋王が飛びのくより早く、天から堕ちるいくつもの雷の束が怒りの槍となって突き落ちた。
返せ
かえせ
かえせかえせかえせかえせっ!!!
512
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:16:24
私の主だ
私のものだ
私だけの藍丸だ
「返せ!!!!!!」
放たれた凄まじい声に喉は破れ、口からは血が迸る。それも構わぬ雷王が、真っすぐ示した先に立つ緋王へ、次々と稲妻は天から転がり落ち、耳も眼も壊れる音と光が炸裂した。
痴れ者が…
そんなものでは我は倒れぬ
嘲る声が雷鳴の轟きに押され掻き消される。ひらり飛びのく足下に、背後に、左右へと…緋王を追う稲妻は大地を穿ち、大木を斬り裂き、草木を薙ぎ払い、雷王の命ずるがまま、青白く太い電光の刃が螺旋を描き振り下ろされる。
かえせ…返せ…かえせ…ッ!!
すでに人の形を失った獣が、本来の姿となって空を駆る。雷王の憎悪と怒りと悲しみが、天の理を捻じ曲げ、呪符の道理を突き破り、二度と飛ぶことが叶わぬはずの獣が、天空へと舞い上がる。
その僅かな間にも、雷王の血を吐く叫びは止まらない。
雷獣の長の声は、眷属全てを駆り立てた。地上のものであろうが、地の底に眠るものであろうが、僅かなりとも繋がりがあるものたちが、雷王の元へ馳せ参じる。
重く黒々とした雷雲は、雨竜・雷竜に伴われ、うねうねと空を覆い尽くし、緋王を追う稲妻が、大地と天の間を忙しなく行き来した。揺れ動く空は重みに耐えかね、抜けた底から激しい雨が滝となって流れ落ちる。
消えた主を求め、雷王の率いる軍勢は怒涛の勢いで天を疾走し、藍丸の姿を見出そうと、大地を次々と引き裂いた。
地上は地獄の底よりも暗い闇に囲まれ、天の軍勢が空を蹴立てる轟音と鋭い電撃の刃ばかりが、無数の柱となって深く打ち込まれた。地獄まで貫き通る穴からは、亡者どもがこの世へと這い出し、篠突く雨は濁流となって大地を押し流した。
猛り狂った雷王の足元から、狂気の奔流が溢れだす。彼が通り抜けた後ろには、人の悲鳴と命が容赦なく奪われる光景だけが残された。どこぞで緋王に振り下ろされた刃があったが、彼の生死すら雷王の眼中にはなかった。
いない、いない、ここにもそこにも、主がいない…
何処へ消えた。どうして居ない。必ず見つけ出してみせる
主がいない世界なぞ、雷鳴と共に消えて失せてしまえばいい
荒れ狂う凄まじい流れに乗って、雷王の軍勢は勢力を増して移動する。だが、後ろに付き従う無数のものたちにも気付かずに、ひたすら藍丸を求め、姿を消した主を求め、魂を捧げた彼の人を求め雷王は、征く。雷鳴と稲妻を荒ぶる形のまま解き放ち、天も地上も阿鼻叫喚の地獄へ突き落としてなお、見つからぬ主の名を叫び、血の涙を流し、求め…駆け抜けた。
*****
真っ黒な雲が空に現れたと思う間もなく、ビルの谷間にごろごろと雷雲の唸りが響いた。藍丸が見上げた先には、天を引き裂いた雷光の形が刻まれている。
アイツら、暴れるつもりか…
思う間もなく、雷鳴に引き摺り回されるように強い風が吹き上がり、遅れて激しい勢いで雨が降りだした。
ガラスに激しく叩きつけられる雨粒は、窓の表面を勢いよく流れ落ちていく。小石が無数に降るような音を鳴り響かせるそれは、激しく刻む動悸のようだ。
潔いほどの荒れ狂いように、魂の原始的な部分を揺さぶられた。身の内側から迫りくる感覚は、明らかな高揚だ。
家啼の内側は外部の天候に左右されることはない。常に心地よい空間を形成する内部にいることに慣れた身としては、家屋の中から遭遇した嵐というものが、とてつもなく感慨深い。引き受けた依頼の調査に、こんな人間たちが使うビルの一室に宿をとることになり、慣れぬ人工的な気配にささくれていた心地が、猛々しい 嵐の力を前にして、一気に落ち着いていった。
地上を見下ろす高みからは、群なす黒雲の巨大な塊がよく見えた。無数に走る閃光が、ごろごろと不気味な低音を発しているそこに、かつては己の獣も居たことがある事実が、より一層に藍丸を惹きつけていた。
雷獣の一匹くらい望めるのではないか…
眼を凝らし窓辺に近づいた矢先、空から巨大な力の塊が叩きつけられた音が、強い振動となって辺り一帯を圧した
同時に藍丸のいる室内だけでなく、見える範囲の建物全てから灯が消える。
513
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:16:37
堕ちやがった…ッ
頭よりも先に本能が、何があったのか理解している。衝撃は重く大気を震わせ、存分に人間たちを怯えさせる力に満ちていた。残響にびりつく気配は、かなり大きな雷獣が地上に降り立った証拠だが、人間たちの眼に付くことはないのだろう。
いったい、どんな雷獣だ
純粋な興味を抱いた。かつて雷王が獣となって現れたとき、その姿に魅了された。ひどく美しく気高い生き物の姿は、どれほどの時を経ても忘れることなどできはしない。
そこに…いるのだろうか。
雷王と同じく、地上には決して見ることなどない美しい獣は、いるのだろうか。
反射的に外へ目を向けた藍丸だったが、地上を見降ろした瞬間、胸の奥を素手で掴みこまれるような驚きで、喉が鋭く鳴るのを抑えられなかった。
真夜中のような闇の世界に走り抜ける、紫電の閃光に炙りだされた強烈な白と黒の光景の中、ちらり紅い色が視界を過った。
人間のものではない
人が纏う色ではない…
それは頭が理解するのではない。妖怪としての本能の反応だ。あれは古くから知っている色だ。紅く鮮やかな、妖しだけに許されているその色を藍丸は知っている。
雷王…?
激しい水煙の幕と紫電が飛び交う闇の中、雷王の姿が朧にある。しかも、随分と懐かしい…まだこの辺り一帯が、江戸と呼ばれていた時代の、あの頃の服装をした雷王が亡霊のように立って、藍丸を見上げていた。厚みも重みもない、薄く弱い雷王の姿をしたソレは、泣きだしそうな眼をしている。
雷王であるはずがない。そんなはずは無い。雷王はずっと自分と共にある。あの日に側にずっといると誓わせた。何があっても離れないと、決してどこにも行くなと呪縛をかけた。今も、忠実な獣は隣室に控えているはずだ。
だ が、いまそこに居るのは確かに藍丸の獣だ。見誤るわけがない。高いビルの一室から雷王が佇む場所までには距離はあるが、今や距離など一足飛びで縮められる藍丸には無関係だ。魂を捧げられ、命を委ねられ…その全身全霊が藍丸のものと言霊を放った雷王は、例え姿がどのようになろうが、藍丸には分かる。
あれは雷王だ。ひどく頼りなく、消え入りそうな輪郭をしていても雷王だと『知っている』
だが、藍丸のものである彼は、どうして雨に打たれて立っている?
そんな姿となって、胸が引き絞られるほど悲しい目をして…
嵐に呼ばれ雷鳴に誘われでもしたか…
そのまま天へと駆け戻り、二度と戻っては来れぬのではないか。
不安は呼吸一つ分の間もなく押し寄せた。藍丸の喉元は塞がれ、瞠る瞳は引き絞られる。
どこへ、行くつもりだ
お前は俺のもんだろう
「雷王…ッ!」
あの獣が側を離れるなどあり得はしない。確信を抱いていても、不安が募った。あれは雨と雷が見せている幻と、必死で思ってみても慰めにもなりはしない。こんなにも感情は揺さぶられている。姿を目にしているだけで、見えぬ糸で強く結ばれている縁が感じられる。
僅 かでも動きがあれば、どんなことをしてでも引き留めてやる。だが、確かめようと眼を凝らしたとたん、ざぁああ…と雨脚がひときわ強くなった。白く飛沫が舞い散る水煙の中で、悲しい目をしていた獣がゆっくり微笑んだ。とてつもなく距離はあるはずなのに、『藍丸』と優しく呼ぶ声までが聞こえるようだ。
雷王…?
浮かぶ疑問は音にならず、名を思うだけしかできなかった。そうして、次の瞬間に獣の姿が雨に掻き消された。
「待てッ、雷王…!」
思わず叫びかけ、邪魔立てする窓を打ち砕こうとするのと同時に、身構える背後から、ドアの開く音がした。音を立てて振り向けば、先ほど雨に呑まれ消えたはずの獣が、暗がりの中に佇んでいた。
「藍丸?」
514
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:16:48
訝しげに眉をひそめる雷王は、昔の着物など着込んでいない。この時代、その年かっこうに相応しい服を纏っている。
圧倒的な威力と存在感。声ひとつ、眼差しひとつで心の深くから、いとしいいとしい気持ちが無尽蔵に湧き起こる、藍丸の獣。
「らい…お…」
「なにかあったか」
僅かに声が震えた程度だったが、雷王は鋭敏に反応をする。流れるような動きも、仔細を逃さず見つめる熱心な視線も近づく体温も、なにもかも全てが雷王であるのに、頭の中にはいまだに雨の中に立つ雷王の姿が強く残っている。
悲しい眼と緩やかな笑いが、ひどく鮮明に記憶を占領してしまっている。夢か幻だと、どれほど自分に言い聞かせてみても、心の奥が奇妙に悲しい。雷王がいるのに、胸にわだかまる喪失感がぬぐえない。半身を引き千切られたような哀惜が、きりきりと胸に鋭い痛みを覚えさせている。
「藍丸?どうかしたのか?」
尋ねる雷王の声に不安が混じる。雷王を見詰めてばかりの藍丸を怪訝に感じてなのだろうが、そんなことにすら、なぜか泣きだしたい衝動に駆られた。たった数歩の距離だろうが、離れて居られるのがひどく悲しく不安になる。
「雷王」
求めて伸ばした手は、力強い大きな掌に包まれたが、身体の一部が触れあうだけでは足りなかった。重なる手を手繰り寄せ、温かい雷王の身体を腕にする。大きな体躯は藍丸をすっぽりと胸に収め、温かな雷王に深くふかく包み込まれた。
「なにかあったのか。なぜ悲しい目をしている」
ゆっくり頭をなぞる掌は優しい。胸から響く声は低いがよく通る。尋ねていても、無理に答えは求めていない。応じたければ言えばいい。声にせずとも雷王の寄こす優しさは揺れる心の奥底にまで沁みて行きわたる。それでもまだ足りない。胸の深い場所が痛くて息がつまりそうだ。
「お前は…俺のもんだ」
縋る指に必死の力が籠る。呟く声は呪詛の力を秘めている。
「そうだ。私は未来永劫、お前のものだ」
低い囁きで藍丸の呪に即座に応じた雷王の身体の奥で、確かに呪縛の力が動いたのが分かる。もう幾つの言葉の鎖が重ねられているのか。藍丸にも雷王にも分かりはしない。ただ、また一つ重みが加わろうが雷王は嬉しさを覚えるだけだ。
藍丸自身も、自分が施したものが何かは知っている。雷王は決して空へなど戻れぬよう、重ね続けた言葉は封じの印より強い力を発している。
「どこにも、行くな」
関節が白くなるほど強張る藍丸の指を、雷王の手が上から包み込むように握りしめた。背を抱く腕に力が込められ、自然と首がのけぞり雷王を見上げる形になっ た。見降ろす双眸は揺るぎなく、カケラの迷いもなく藍丸に向けられている。視線が合わさり、雷王は目元を愛しげに細めてみせた。
「お前の側より他の、どこへ行けという」
吐息よりも柔らかく、応えと共に唇が寄せられた。そっと口元を覆う温もりが、藍丸の不安を溶かそうとしていた。
「…俺だけのもんだ。誰にも渡さねえ」
熱に浮かされるような藍丸のうわ言にさえ、雷王が「ああ」と応じてくる。いつものことなのに、雷王に触れている『今』が、常より鋭敏に沁みて仕方ない。つきりと立ち上るこの痛みが、堪らなく悲しくてならない。嵐が及ぼす影響なのか、垣間見えた雷王の幻影がもたらしたものなのか…失ったわけではないのに、悲しいかなしいと嘆く思いは止まらない。
窓の外は未だに闇に閉ざされ、明かりひとつも許されぬ嵐のさなか、雷王の存在だけしか確たるものはない。雷王にしっかりと自分を抱かせる藍丸もまた、この世でただ一つだけの愛しいものを強く抱きしめながら、大切な獣の名をそっと呼んだ。
怒られるかな
おこられるかな…
おこらないよな?!
515
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:17:02
◆ 二乗
三百年前から薄々は気付いていたが、どうやら連中のおおぼけ具合は、あの頃より更に進行したらしい。
京に棲みかを定めた弧白が、一紋に戻ってから半年が過ぎているが、確信は、藍丸がときおりに此方にやってきたり、自分があちらへ顔を出したりするごとに、ますます強く深まっていく。
それにしても、原因はどこにある。
弧白がいた頃にも兆候はあったが、これほど凄まじくはなかったはずだ。
常に疑問は抱いていたが、つい聞きそびれてしまっている。
それというのも、雷王と藍丸が常に共に行動をしているせいだ。あの二人の間には、傍に居るのが馬鹿らしくなるほど密な空気が流れている。ソレを目にするにつけ、どうにも微妙なことを尋ねる気になれない。
むしろ、もうどうでもいいような気にすらなってくる。
一紋には戻りはしても、所詮はあちらに常に居るわけではない。
三百年ほど経ってくると、そこそこ神経質な部分も妖怪とはいえ研磨されていくようだ。
それが証拠に、弧白は珍しく藍丸の守りを他出する雷王から半日任されたのに、尋ねもしなかった。
その藍丸は、雷王からの連絡を携帯に受けて、実に楽しげに情人と話しをしている。
未だあの獣は気に食わないが、藍丸が選んだ相手だ。横合いから手出しするほど野暮ではない。
すでに、弧白が雷王に背を向けたときに決着はついていた。
今でも時折に思い出す。
天から失墜した神獣が、地に縛り付けられる呪縛を刻ませた不気味な文様。
あんなものを背負って、よくも鬼にもならず過ごせたものだ。
妖かしには、それぞれ分というものがある。
それは人間に比べ、より厳密に狭められたものであり、枠を超えることなどほぼあり得ない。
一線を越え、抑えつけられた本来の能力は形を変え、歪みを産み、やがて妖怪の気を浸食し鬼と化す。
雷王が背に刻んだ文様は、場合によっては要らぬものになりかねない『杖』だった。
藍丸が力を暴走させなければ、一度たりとも使われぬままでいたはずだ。
そうなれば…
雷王と会話をしている藍丸に、銀白色の瞳を向けて弧白は黙考した。
…そうなれば、何時の日にか正気を喰い破られた鬼となり、調伏され封印されただろう
術に関しては、大妖の弧白よりも秀でた獣が、その危険を知らぬはずがなかった。
それでも、あの獣は藍丸のためになるならばと、ためらいもなく背に文様を入れたのだろう
馬鹿には敵わないってのは、本当だよ
あのときも思ったが…
「…それで?ソッチの話しは終わったのか。…そうか。俺たちがいるところか?」
弧白の胸中も知らぬ藍丸は、携帯越しに雷王の声に笑みを浮かべていた。
そっと、感情の発露のまま口元に乗せた笑みは、どれほどの情愛を抱いているか、他者にも如実に伝わるほど、優しげで幸福に満ちたものだ。
その顔をさせられなかったのが、自分ではないのが僅かに惜しかった。が、感傷に浸っている場合ではなかった。
516
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:17:13
「…なにか、目印になるもの…か?」
雷王に居場所を聞かれたらしく、辺りを見渡した藍丸の目がこちらを向いて、眼顔でもって『どこだ?』と尋ねてきた
どこと言われても、弧白も地名くらいしか分からない。
人間たちの付ける地名や場所の名は、ころりころり転がるように名を変え形を変える。
長く生きる妖怪の身としては、覚えるのも面倒と、かつてから慣れ親しんだ名称だけを覚えている。
詳細なんぞ言えるはずもなく、軽く首を横に振れば、さも納得した頷きが返ってきた。
分からないと身ぶりしたはずだったのだが、藍丸は弾んだ表情でもって弧白に笑いかけた。
「よし、わかったぞ」
明るい宣言に、ぎょっとなる。
…ちょっとお待ち!
何を分かってくれたんだい
言いかけた言葉の端が出るより先に、藍丸はなぜか道路に止まっている一台の車に眼をつけていた。
まさか…藍丸、それはお止め!
止めようとするより先に、藍丸は堂々と携帯のあちらにいる雷王へ告げた。
「ぬらり生命の車の前に俺たちはいる。分かりそうか。そうか…よし待ってるからな」
パタリと携帯を閉じる藍丸の手元から目が離せない。
同時に、雷王おまええっ!!と脳内で怒りの単語が爆発しそうだ。
分かるわけないだろう。
車はこのビルの前に、一時停車してるだけで明らか動く。
藍丸も藍丸で、どうしてソレを目印にしようなんてした。
「弧白、どうかしたか」
「どうかもなにも…本当に、あいつは分かったって言ったのかい」
訝しげに尋ねても、藍丸はストローをずずっと鳴らし頷いた。
雷王がこの場に居れば、行儀が悪いと咎めるところだが、弧白の受け持ち分野ではないので気にも留めなかった。
今はそれよりも、藍丸のボケに対応するので忙しい。
いろいろ、山よりも高く言いたいことがある弧白に、藍丸は相変わらず邪気のない笑いを向けてきた
「あと十分くらいて来るらしい」
来れるもんかっ!
ぬらり生命ってのは、この街ではけっこう有名な保険会社だ。
そんな車、あっちこっちに走り回っているし停まってる。
しっかり者だ…と、唯一それだけは認めてやっていた獣だったのに、ついに平和ボケしたか。
こめかみのあたりが微妙に痛くなってくる。
そーいえば、三百年ぶりに戻った一紋では全員がボケていた。
今夜は弧白様が戻ってくださったお祝いでございますと、魚取り担当の蛟女が、マグロをまるまる一本担いで持ち帰ってきた光景にはさすがの弧白ものけぞった。
しかも、藍丸も雷王も『それは豪勢だな』と笑うだけで、台所を預かる桃箒にしても、戸惑うどころか両手で受け取っていた。
その後、桃箒によるマグロの解体ショーが庭先で行われ、大いに盛り上がっていたが、思わず『この一紋からしばらく離れていてよかったよ』と感じずにはいられなかった。
嬉々としてでっかい魚をさばく、水屋担当の妖怪の口元には、狂気走った笑いが滲んでいたんだが、誰も気づいてないんだろうか…。
517
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:17:25
「藍丸、ちょいと聞きたいことがあるんだが…」
いったい自分が居なくなってからこのかた、こいつ等に何があったのか。
思わずに居られないのは、妖怪でなくても思うところだ。
「なんだ。そんな奥歯に物が挟まったみてえな他人行儀な言い方して、どうしたんだ
お前らしくもねえ。久しぶりに戻って照れでもしてんのか?まっさか、そんなことは
ねえよなあ。もっとも、お前が戻ってくれて、本当にうれしいぜ。けど、どうしても
江戸の街には帰ってこないで、こっちに住まうのか?俺としちゃあ、またお前には
側にいてもらいてえところなんだが、お前の立場を考えたら簡単にはいかねえんだろうなあ
まあ、新幹線もできてることだ。ちょくちょく戻ってはきてくれるんだろ」
立て板に水。早い浅草ことばでまくしたてられ、長く京都のゆったりおっとりの言葉に馴染んできた弧白には、口をはさむ間さえつかめない。
しかも、すっかり自分の問いかけの始まりは消えてしまっていて、藍丸から『またこっちに来てくれるだろ』の問いかけの方に頷く羽目に陥っている。
さすがと、本当にさすが大きくなったと誉めてやりたいところだが、コレは違う。
大きく羽織として成長したんじゃなくって、ただの天然ボケが成長してる状態だ。
「蛟女が、この前はマグロだけだったのがお前の気に入らなかったんじゃねえかって
えらく気を揉んでやがってな。次にお前が来るときには、クジラを手に入れてくるって
張り切っているんだぜ」
眼をキラキラさせて言われても、それは次に行ったら庭ではクジラ解体ショーをするってことだ。
食事前に、流血沙汰かい…ッ
お前ら全員、ちょっと待てと言ってやりたかった。
そんな性格していなかっただろうに、どうしてそうなったのかを尋ねたい。
だが、弧白にしてもどこから聞けばいいのか分からなかった。
妖怪であって、年月なんぞ関係ない身の上だったが、今だけは三百年の歳月が、物質的な重量となって目の前に立ちふさがっている気がした。
どうにも胸の内に積もる思いを言葉にできず、深く息をして外を見れば、藍丸が目印にしていた車は、すでにどこぞへ立ち去っていた。
「藍丸、車が消えているよ」
弧白の指摘に、え?と顔を上げた藍丸だったが、次の瞬間には雷王を心配するどころか「まあ、大丈夫だろ。アイツなら来れる」と根拠も分からない信頼ぶりを発揮してくれた。
微妙に…惚気られている気がする…
じっとり半眼になりかかったとき、からころと鐘のなる音が店にあった。
流れ込んできた気配は、ひどく馴染みがある。
「ほら、来ただろ」
弧白が目線を上げて確認するより先に、藍丸は後ろに首だけを巡らせて雷王を出迎えていた。
「分かりにくかったか」
尋ねる主の頬に、絶対服従の獣は片手を添わせて『いいや』と首を振る。
「すぐに分かった」
518
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:17:36
目印があったからなと言いながら、藍丸が位置をずらして譲った席に大きな身を置きながら、「だが藍丸。普通は動くものを目印にしてはいかん。動かぬものにしたほうがいい」と基本的な注意を与えていた。
注意されながら、藍丸が雷王に注ぐ視線は熱が篭り、受け止める雷王も今にも相好を崩しそうに甘い顔つきでいる。
店内であろうが構いもせず、テーブル上で手を握り合う二人の前で、弧白はふつふつと胸の内を滾らせ始めた。
なんだか…分かってきた。
どうして天然ボケばっかりが増えてきたのか、この状況で全て弧白には理解できた。
要は頭に立つ二人が、この三百年で大きくボケに成長してくれた影響が一紋に現れていたわけだ
「つまり…お前たち…」
呟く声に同時に顔をあげた目の前の馬鹿二人に、弧白はにゅうっと口元を引き上げ、恐ろしく綺麗な笑みを湛えながら、眼の中は怒りで真黒にしながら手袋を外した。
天然ボケの発生源に、自分たちから成り果てていたってわけかい!
怒髪天を突く弧白の怒りは、それはそれは凄かった。半分くらいは、自分が側にいるのに藍丸の全神経が雷王にばかり向いているのが、面白くない本日の八つ当たりだったが、知ったことじゃなかった。
「弧白ッ!お前、いったいどうしたってんだ!」
「落ち付けっ!そのような力をこんな場所で使うものではない」
なんだか主従がそろって、もっともらしいことを叫んでいたが、これもまた聞こえないことにしておいた。
その後、弧白の怒りが炸裂した店内には、突如としてお狐様たちが集合し、怪奇現象が嵐となって吹き荒れたが、元凶である二人には最後の最後までどうして弧白が怒り狂ったのかは、分からずじまいだった。
そうして、最終日にホームまで見送りに行った弧白は弧白で、浅草へは顔をしょっちゅう行くが、やはり暮らしはこちらにすると告げておいた。
天然ボケに対して、どこまでもツッコミ気質の弧白には、ボケだらけの一紋に取り囲まれる生活は、ストレスがたまることばっかりだろうと予測がついたためだった。
藍丸には本気で残念そうな顔をされ、すこぉしだけ心は揺らいだが、『そうか…じゃ、こうしようぜ。来月は一紋総出で京都見物するから、その時にまた皆で宴会でも開くってのはどうだ』と、全力の笑顔で言われたときには脱力しそうになった。
しかも、止める立場の雷王は、『それはいいな』と頷いてまでいる。
あれだけの騒ぎを起こさせ、怒りまで露わにしてみたのに、やはり藍丸は藍丸で、獣は獣頭だった。
京都土産の八つ橋と漬物を持たせ、二人を乗せた新幹線が消えた瞬間に、その場にへたり込みそうなくらい疲れていた弧白だった。
藍丸のことは、いまだに非常に気に入っているが、あそこまで天然が成長されてしまえば見守る程度しか残されていない。そして、今の一紋から冷静な判断ができる自分が抜けてしまえば、日本中にとんでもない話が蔓延するだろう予測もついた。
ちょっとずつでいい…少しずつ、連中をどうにか普通に近づけてやるしかないね
決意する弧白だったが、彼は知らない。ならばと、藍丸たちがちょくちょくと京都へやってくるせいで、弧白そのものも京都の妖怪たちの間では、お笑い界を制覇すると噂されていることを…
まったく、毛先ほども分かっていないのだった。
狐白はツッコミ気質
そうとしか思えないのは、私だけじゃないだろ
519
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:17:48
◆ 包薫香
腰がソファに重く沈む。
昵懇の間柄にあるホステスから、いつかの飼い犬探しに次いで依頼された男の浮気調査。
一抹のキナ臭さに目を瞑り、ひとり動くこと二週間。
長くホテルに閉じこもっていた男が漸く動きだしたと、約束どおり依頼主の携帯に連絡をいれた時点で御役御免になった。
(…ただの浮気調査ではあるまい)
当初より勘付いてはいたが詮索はできない。
藍丸も同時期に別件で一ヶ月拘束されているが、とりあえず今後の対応を相談したいと連絡を入れると、頑張れよっの一言が暗黙の内に調査の続行を命じていた。
おそらく主は事の全てを把握している。
(…疲れた)
背凭れにばふりと身を預け、目を閉じた。
鼻先に突きつけられたピンク色の爪先を思い出す。
男と接触する者がいれば相手が誰であれ連絡するよう告げる口元は赤かった。
だが真にこの目に映し、触れたいと望む者とは、既に一週間以上会えていない。
早朝から深夜にまで及ぶ張り込みは、雷王の心をこそ疲労の泥沼へと引きずりこんでいた。
「なーに気難しい顔してんだ?」
だから、会いたくて会いたくてたまらなかった彼の声さえ、当然夢かとやり過ごした。
(藍丸は…今宵も相手の屋敷に泊まっているはずだ…)
ぎゅうと眉間に皺を寄せ、より一層きつく目を瞑る。
だが予想に反して幻だと思っていた声は消えなかった。
「らーいおうっ!!!」
「うおっ?!」
今度こそはっきりと聞こえた主の声にばちっと目を開くと、次の瞬間、真後ろから両手で顔を挟んで仰向けられた唇に、ふわりと温かい感触がぽう、と灯った。
「へへ、おかえりっ」
「…ただ、い、ま……あ、藍丸…?」
雷王の頬に手を添え、悪戯っ子のように笑う藍丸を下から仰ぎ見、何度も瞬きを繰り返す。
居るはずのない姿に驚き、口を閉じることさえ忘れていると、もう一度今度は額に啄ばむような口づけが落とされた。
「…何故、此処に…」
「ああ、俺のほうも今日で終わったからな」
長けりゃ一ヶ月って話だったからラッキーだと、風呂上りのほこほこと湯気を立てた掌が未だ冷たい頬をさわさわ優しく撫ぜてくる。
仄かに香るこれは洗髪剤の類いか。
「藍丸…」
「ああ」
左頬に在る手をとり促すと、藍丸はソファを周り、雷王の正面から腿の上へと跨った。
目元を覆い隠す濡れた細い毛束を指先で弄りながら、見つめあい、漸くといった態で情人の存在を実感すると、男はふっと安堵に口角を緩めた。
やっと逢えた、と。
「…いい香いがする」
ふと目を細め、小鼻をひくつかせて囁くように雷王が言う。
人工的な芳香を嫌う獣が、藍丸から漂うそれには不思議と惹かれた。
「よく似合う…」
かつて奔放に天を駆けたあの頃、膚を切る風は土地により時代により香いが異なっていたことを思い出す。
今鼻先を擽るこれは、例えるなら樹木が立ち昇らせる複雑な香りを幾種か練りあわせた、古来より伝わる薫物に似た懐かしさがあった。
濡髪に鼻先を潜らせ、すん、すん、と嗅ぐ。
「くすぐってえって、雷王っ」
首を竦め、笑いながら身を捩る。
胴を絡めとられた腕の中、藍丸もまた久しく待ち望んだその力強さを居心地よく感じながら。
「買ったのか」
いたく気に入った嗅ぎ慣れぬそれは、決して安価なものではないだろうと雷王は問う。
香りを腑に満たしつつ、舌先で耳殻を舐め、滑り落ちた先で耳朶を食むと、痩身がひくりと跳ねた。
「千代が、ァ…くれた…」
「…千代、か」
十年かそこらぶりに懐かしい名を聞いた。
そして全てに合点がいった。総じて千代のためだったか、と。
目の前で仰け反る喉に喰らいつかんばかりに吹き上がった官能の火だったが、その名の前に僅か萎む。
千代は、主が慈しんでいるなら嫌うべくもない人間のひとりだが、だからこそ少々こちらの気を削ぐ者でもある。
「悪ぃな。おめえには全部言ってもよかったんだがよ、なんせ今回も…」
紅い髪を梳く仕種は、拙くも親が子を宥めるようなそれに似ていた。
520
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:18:09
ならば、子は聞き分けるしかない。
「…また命を狙われたのだろう。わかっている、気に病むな」
雷王は湯上りの桃色に染まる頬に手を添えると、応えるようにちゅ、と口を吸った。
「それで?」
「…それで?って…なんだよ」
手を滑らせ、浴衣の肩を抜きながらの問いかけに、藍丸はわからぬと口を尖らせる。
「何故千代がこれを?」
また、すん、と鼻を鳴らすと、藍丸は“そんなに気に入ったのか”と破顔した。
「なんか俺に合うのを調香させたっつっ、てた…んっ」
目の前にある鎖骨に歯をたて、あがった艶声に、脳髄がびりびりと痺れる。
実態を知れば、藍丸が長く拘束されたのも、そのため会えない時間に飢え乾いたのも、何もかもが人間の女のためだった。
正直、苛立たないではなかったが、この香いは…
「悪くない…」
ずっと包まれていたくなる、本能が求める甘やかさに、思わず相好を崩す。
「は、雷王ならそう言うだろうって…」
千代が言ってた、と再びかの名を紡ぐ口は、嫉妬深い雷獣の一際強い一噛みで喉を圧す嬌声に塞がれた。
同じ箇所に二度つけた鬱血痕をぺろりと舐めながら、雷王は六十年ほど昔を回顧する。
人が起こした戦の終結、その全てを狭間から見ていた藍丸が、漸く表へと出た終戦の翌年、夕闇のなかで出会った少女。
痩せこけた姿も惨め、手足はゴボウのように枯れ、立っているのがやっとといった風情の彼女は、寺の境内で倒れたところを一紋に助けられた。
「千代も…齢八十を超えるか」
「ああ、でもまだまだ子供だぜ?俺たちにとっちゃ幾つになろうがあの子はあの子のままだ」
食うものなく行き倒れ、帰る場所なく、生きる縁さえ失い、泣く気力も奪われた…当時はさして珍しくもない境遇のひ弱な娘だった。
だが生きている限り、人は人が壊し尽くした人の場所へと戻らねばならない。いつまでも家哭の中に保護してはやれぬ。
それでも主が手を差し伸べるならと従い、…半年は共にいただろうか。
「元気だったか」
これまで藍丸は幾度となく会っていたが、雷王自身が彼女と最後に会ったのは、確か古稀の祝品を届けた折だったと記憶している。
それから十年、人に流れる刻は妖のそれよりずっと短い。
「心配か?」
「…いや、」
つい今しがた、千代の名に悋気をおぼえ、主の膚に痕を残したばかり。
気にならないこともない、とはいえ、独占欲を理性で塗り潰そうと足掻く雷王の葛藤に気づいた上で茶化すのだから、余計に口蓋は重くなる。
だがそのしかめ面を覗き込み、ささやかな意趣返しに満足げな表情を浮かべた藍丸は、雷王の首からネクタイをするりと抜くと、童のように無邪気に言った。
俺に尋ねるまでもないだろうと。
「元気でなきゃいちいち命狙われたりなんざしねえだろうよ」
「…それもそう、か」
千代の老いを凌駕する明達なさまに尊敬や畏怖も抱く者があれば、一方で疎ましく思う輩も後を絶たないらしい。
だから藍丸はいつからか彼女に助力してやっている。
きっかけは忘れたが、雛を見守る親鳥のような心地だと言っていたか。
胸元のボタンをひとつずつ外してゆく手を制し、濡れ羽色の前髪を掻き揚げてやれば、そんな慈悲深くも強き眸がとろり蕩けて雷王を見下ろしていた。
「明日は、休みだよな?」
「…ああ、休みだ」
藍丸の腕が首に絡み、巨躯を引き寄せ抱き締める。
「…0時、回った……今年もおめえをくれんだろ?」
俺に、と艶めいて揺れる眼差しは芳しい香気を纏い、欲望のまま赤裸々に誘う。
無論、雷王に断る理由などない。もとより彼の生まれ日には欲しがるがままに与え続けて今に至る。
贈る品の中身は…いつからか変わってしまったが。
「雷王…」
浮ついた熱い呼気に吸い寄せられて、歯肉を剥き出し、獣が笑む。
愛しき者の素直な求めに歓喜して、高ぶり猛った獣は喰らう。
「存分に…おまえの望むまま今年の今日も…」
高みにある唇へと首を伸ばして喉を鳴らし、一方眼下のそれへと頭を垂れて口を開け、どちらからともなく薄膜を啄ばみ、舐めて啜り、そして夜は更けてゆく。
それもこれも恩人の祝い日までに決着をつけようと奔走した千代の計らいだとは、無論ふたり知る由もなく。
藍丸の誕生日話…の、つもり…ですが…どうなんだこれ
裏設定のほうが楽しくなったので、続きくさい千代の話は次に回すー
お題提供はアタル:「逆さまちゅー」
521
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:18:20
これは、とある日のツイッタでの会話から始まりました
以下、ついった会話
要「今関西北上空を東へ走っているもよう<雷王」
アタル「走っているのか!進軍中か!それは、
甘味を買い求めるために爆走しているってことでおk?
って、考えたら迷惑な獣だなあ、雷王www
空を飛べるままだったら、日本全国津々浦々、
有名じゃなかろうが藍丸のために買い出しに走りそうだわ」
要「主の命により、日本全国津々浦々の甘味を買い集めるため、
雷獣の一群が関西を東へと進軍なう。
本日の最重要項目は「新聞に入ってたデパートのちらし、
この“花畑牧場…みるくきゃらめる”?とかいうのが食いてえ」により、
我ら現時刻をもって北上を開始する、とかなw」
アタル「こちら、三番隊。目的地に到着、および目標捕捉。
これより『いっき大人買い』作戦を展開する」
要「銀貨30と荒縄の代わりに、お財布とお買い物バッグを寝所から持ち出して、
日本全国の菓子屋にできる長蛇の列(@客たち)と合戦所望して、
「いっき大人買い」を成し遂げる怖ろしい藍丸狂信者たち、それが雷獣一族なんだな」
こんな会話から生まれたのが、コレ↓
522
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:18:32
◆ 買物
「雷王、おれ九州のかるかん食べたい」
「あ、和歌山のうすかわ饅頭くいたい」
「それと長崎のおにくるみ羊羹」
「京都のは弧白に頼むから、とりあえずそんだけ買ってきて」
主の我儘は愛おしい。
どんなことでも、叶えてやりたいと願うのは恋心だけではない。
幼いころより大切に育てあげ、獣であり妖怪である自分には
決して芽生えなかったであろう『情』を与えてくれた唯一無二の存在だ。
ましてや、肌の暖かさを分け与えられ、膝に乗りかかって甘える藍丸に
今や骨抜きとなっている雷王が、いかにして逆らえよう?
恋の力は偉大だった。
愛する者の存在は、全ての理すら覆す。
「…では、行ってくる」
「おう、頼んだぜ」
障子をからりと開け放ち、低く告げる雷王の頬に
主は戯れのような口付けを寄せ、別れが惜しいと背を強く抱きしめて応じた。
「そのような目をするな。明日には戻る」
「そう、だな…」
振り返り頬をなぞる掌に肌を擦り寄せ、そこにも愛おしげに口づける藍丸の顎を持ち上げ
己のそれを重ね合わせた。
藍丸の腕が背を掻き寄せ、雷王の手が腰を抱いて互いの身体を近くちかくにする。
やがて、名残惜しげに唇を離し見つめ合い、身を離す直前に再び小さな口付けを送った雷王は開け放した空へと大きく飛躍をした。
とたん、待ち構えていた空が陰り黒雲がどっと一面に押し寄せる。ざっと激しい雨が降り出し、轟く雷鳴に雷王の声が聞こえたようだった。
半身が引き千切られるような寂しさを覚えながら、雨雲が雷王と共に走り去ってもなお
藍丸は黒雲の走り去った方角を眺めていた。
「雷王…早く帰ってこいよ…」
早くも獣の不在に寂しさを募らせた藍丸を、弧白は呆れて眺めた。
「藍丸、ちょいといいかい」
だが、物思いにふける藍丸には、狐の声は届いていない。
ただひたすらに、雷王が恋しくてならなかった。自分のためとはいえ、情が通じ合ってからは雷王と離れたことがない。たった一日だろうが、藍丸には身を斬られるような辛さがあった。
「藍丸」
ほんのわずかな戯れだった。まさか本気にしてくれるなんて、思っても居なかった。
心底から好かれていると、いまだ唇に残る雷王の感触を指先で辿りながら、複雑な
溜息を吐いたときだった。
「………藍丸!人の話を聞いておいでかいっ!」」
ビンッと張った声に音を立てて振り返れば、部屋の片隅で狐が肘置きに半ば身を凭せ掛けて、うんざり息を吐きだしていた。雷王が出立するので頭がいっぱいで、かなり忘れていたが
弧白は最初っから部屋にいた。
「その様子じゃあ、まったく聞いていなかったね」
呆れたもんさと息を鋭くつく弧白は、三百年ぶりに一紋へ顔を出すようになっているが
本拠地は京都に構えている。
どうせなら手元に帰ってきてほしかったが、何度か”しんかんせん”で行った京都に
弧白は彼なりに手勢を集めているので、無理に江戸へ戻すよりもいいだろうと判断をした。
その後、二か月か三か月に一度の割合で弧白はこちらへやって来て、藍丸たちは
京都見物にちょくちょく顔を出しに行っている。
古くからある京の都は空気の色が違い、妖怪の身には息がしやすいラクな土地だ。
しかも、京都は甘味が多い上に、現地でしか食せないものもあるので、藍丸はしょっちゅう京都へ出向いている。
だが、いまだ完全制覇ができていない。
523
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:18:45
「ちょいと、そこにお座り」
どこか気が抜けたまま佇む藍丸を、狐は眼差しひとつで動かそうとする。
藍丸も幼いころの習い癖で、弧白の言葉に素直に従った。
いまだ雷王に後ろ髪を引かれながらも、藍丸は火鉢の前に座りこむ。
心ここにあらずの乱暴な所作のせいで、少しばかり裾が乱れたが構いもせずに放っておいた。
雷王がいたら、すぐさま横から手が伸びて正されるところだ。
気を抜けば、どうしても自分の獣のことばかり考えてしまう。
そろり見上げた弧白にも筒抜けだったようで、あからさまな態度をとられた。
「お前があの堅物にぞっこんなのは、よぉく分かった。
まあ、そんなことはどうでもいいさ。それより、聞きたいことがある」
ばっさり二人の関係は投げ捨てて、弧白は不思議そうな目を向けてきた。
ひどく珍しい顔つきに、藍丸も興味を抱いて身を乗り出した。
「なんだ?なにか、妙なことでもあったか」
「アイツだよ。なぜまた飛べるようになってるんだい?」
相変わらず狐は、雷王の名を呼びたくはないらしい。頑固で強情な狐らしさが面白い。
が、藍丸には何を言われているのか分からない。
「飛べるって…前から飛んでるだろ」
「前から?そんなはずはない。できるわけがないんだ」
「どうしてだ?雷王は神獣だぞ?飛べて当たり前じゃねえか」
弧白に断言されても、雷王は昔から空を駆っている。
幼いころは藍丸をひとり置いては行けぬからと、決して空を駆ることは無かったが、
藍丸が羽織として頭角を現すと同時期に、雷王は己の眷属を引き連れて自在に天空と地上を行き来している。
「なんだ、弧白は知らなかったのかよ」
「そうじゃなくて、いつから飛べる力が戻ったんだい!」
「だーかーらっ!戻るとか、戻らないとかじゃなくって、雷王は飛べるんだよ!」
「飛べるはずないだろ」
「現に飛んで行っちまったの見ただろ」
どうにもテンションが上がっている弧白に、開け放したままの障子を指差す。
そこで、ぐっと狐が言葉につまった。
それを見て藍丸は「みょうなヤツだな」と笑うしかない。
狐はまさに狐につままれているような顔つきで、空を強く見上げている。
どうして、また空へ戻れるようになった。
弧白の疑問はそこにある。
決別したあの夜に、雷王は己の能力を潰した印を背中に刻んでいたのだ。
飛べるなど…できるはずがない。
しかし、弧白はしらない。
雷王の藍丸への情が高まりすぎて、背中の印と引き換えに施された封印が木端微塵に
砕け散ってしまったことを。
弧白は知らない。
この三百年の間に、いつも雷王が遠方まで甘味を買いに走っていることを…。
524
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:18:55
だが、聡い狐は愚かではなかった。
雷王が天空へ戻ったことが示すことだけは、即座に把握ができた。
雷王が空を駆けるようになったために、昔の雷獣たちが彼の元に集まり
一緒になって買い出しをするようになったということは、図らずも神獣が一紋に下った形となり、いまや藍丸の配下は空にまで及んだがために、日本でも最大最強の一紋になったことを示している。
だが藍丸の口から、そのような話しは聞いてはいない。雷王も告げはしない。
おそらく、あの獣あたりは今日の状況で、弧白が全て把握すると踏んでのことだろうが
藍丸そのものに、自覚がないのは確実に思える。
「ああ、明日が待ち遠しいぜ…」
百鬼夜行が数万できるくらいの首領でいる自覚は…やはり藍丸にはない。
というか
しらないんじゃないかっ!?
ことの大きさに青ざめる弧白とは真逆に、ほんわり雷王を思って笑う藍丸は、この世でもっとも幸せな男だった
525
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:19:08
◆ 雨宿り
突然の雨は土砂降りとなり、降り篭められると踏んだ店々が軒並み閉めた戸板の前で、彼は暫しの休息を得る。
ざあざあと勢いよく降る様は、まるで桶を引っ繰り返したよう。
刻を同じくして大黒屋を出た半妖の友も、今頃何れかで雨宿りをしているのだろうか。
濡れた前髪を掻き揚げ、低く垂れ込める黒雲を見る。
「こりゃ暫く止みそうにねえな」
懐に忍ばせた手拭いで、髪から額、頬、首筋を拭い、ほぅとひとつ息をつく。
湿り気が強いこの時節、やっと晴れ間が見えたと外に出たらこのざまだ。
思い巡らすうちにも道には忽ちに水溜りができ、柳の根元からぴょいと飛び出た蛙は、さも嬉しげにぬかるみへと飛び込んだ。
「俺も蛙だったら、こんな雨も素直に喜べるのかもしれねえなあ」
ばちばちと天より穿つ浅い泥水のなか、僅かに蠢く薄緑色に目をこらし、ひとつ溜息をつく。
早く戻らねば一紋の皆が心配するだろう。
挙句、大勢が列挙して騒ぎ出し、最悪人の形がとれぬ者まで皆が皆、昼日中に人目も憚らず主を探索に出る様まで目に浮かぶようだ。それに常に仲が芳しくないというのに、その頂点にいる紅と白の二人までもが、こういうときに限って共に連なって動き出すのだから、
「まったく、なぁにやってんだか。なあ?」
おめえもそう思わねえか、と行儀よく座る蛙に呼びかけると、そいつはぎょろりと眼を左右させたかと思いきや、低い濁声でゲロと鳴いた。
「おおお、おめえわかんのかっ」
「ゲロ」
「だよなあ、大体心配しすぎなんだよな!大黒屋に行くっつったら、一体何個食えんだってくれえ袋いっぺえに金子持たされてよ。挙句、襲われたら袋ごと投げつけて逃げろって…俺ァ一紋の頭領だぜ?ンな情けねえこたできねえってのに、雷王ときたらまったく過保護で、」
嫌になる、と続く言葉は突然の落雷に遮られた。
予期せず近くに落ち弾けた稲光と、地響きにも似た轟音に、全身の毛という毛が総毛立つ。
「!!!畜生っ」
負けじと、があと我鳴る。
なんだかわからないが、負かされた気がした。ただの雷ごときに。
否、それが愚痴を吹いた口を諌める雷王の叱咤のように思えて、正直言うと少々堪えた。
幼少の砌より、お小言にいちいちしょげるような繊細さはなかったが、ここ一番で落とされる雷のような一喝には毎度脅え竦んだものだった。
「まぁそれでも、もっかいだけ、やっちまうんだけどな…」
今となっては記憶も随分風化されたが、幼い時分、漠然とそうして試すことがあったように思う。
叱られるまで悪戯を繰り返し、鬼の形相で叱られようとももう一度だけ同じことを繰り返す。
そうしてドキドキしながら待つのだ。
またこないだと同じように叱ってくれるだろうか。
呆れたりしないで、また本気で叱ってくれるだろうか。
よそのおとうやおっかあのように、雷王も俺を心配して叱ってくれるだろうか、と。
「雷王…」
過去を辿れば、親を恋しがる雛のような、切ない甘声が薄らと漏れる。
かつて雷王は叱ってくれた。そうせねばならぬときは、何度も真摯に繰り返し。
「二度目は…そりゃぁおっかなかったが…」
暗がりに蛍火を見て心安らぐような、くすぐったいような、なんともいえない心持ちになったことは今も覚えている。
彼の一途な優しさも。
ふ、と笑んで、戸に背を預けて天を仰ぐ。
益々強くなる雨脚の向こう、いつも己が背を守る紅の腹心を思い、目を眇めた。
すると、垂れ込める闇雲のなかを閃光が走る。響動む雷鳴を引き連れ、地を這う迅雷。畏れる人々を居丈高に見下ろす神の所業。
雷は扱えど、何時からか天駆けることをやめて久しい雷王が属するそれら。
ならば、と春雷を愛しく思うようになった糸口を求めて遡る。
(雷王の音だから怖くない、…本当はちょびっと怖いけど我慢する)
526
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:19:20
もう泣かないと決め、頭から布団を被った幼子が、今更にひょっこり顔を出す。
「はやく迎えにこい」
本当に攫われちまうぞ。
金子になど目もくれぬ、過去の記憶のなか巣食う藍丸という名の童に。
いかほど与えられようとも満足できず、情愛に飢え乾く藍丸という名の餓鬼に。
「雷王…」
目を伏せると、甍を打ち、地面を叩き、柳葉に払われ、川に落ちる、雑多な雨音たちが嫌が応にもいっぺんに耳に流れ込んでくる。
あまりに激しく喧しいそれらに閉口するがしかし、いつしか辺りは静まりかえっていた。
先刻までそこにいた蛙もいつの間にやら姿を眩まし、軒から落ちる玉水さえ風雅を損ね、まるで景色がここだけ色を無くした様に見えた。
じきに、ぱしゃぱしゃと足音が聞こえたかと思うと、傘を手にした件の男が姿を現した。
「…雷王」
「待たせた」
途端、辺りが色を取り戻す。
来ると思っていた。一紋の誰よりも早く現れると信じていた。
そうでなければならない。この男はそうでなければ。
(親であり、兄弟であるなら、いの一番に探し出さなければ…だよ、な)
先日、親でもなく兄弟でもないと告げたことに、不安げな顔を寄こした男を思う。
目が合うと、ずくりと胸が痛んだ。
「遅え」
一本しか持たぬ傘を見て、素っ気無く言い放つ。
おそらく元は二本あったはずだ。どこぞで誰かに一本くれてやったのだろう。
その目線を受け、何気なく微笑み答える、
「先だって宗也が雨宿りをしていてな、」
その一言ですべてに合点がいく。
長話を強いたせいで困らせてしまった友に、雷王が手を差し伸べた気遣いがありがたいと思った。
「ちぃとばかし話が長引いたせいで、雨宿りさせるはめになっちまった…」
だが、悪いことをしたと顰める面に、いつもの笑みはない。
それどころか、片落ちたやじろべえのように、心が今にもくず折れそうに傾いでいる。
(ああ、こりゃたぶん雨のせいだ。長雨のせいだ。そうに決まってる)
こんなに気が滅入るのは。
こんなに息が詰まるのは。
こんなに…不安でしようがない心持ちになるのは。
527
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:19:32
柄を傾いだ傘の下へと移ると、雷王の身体が濡れていることに気づいた。
腕には葉や小花をべたりと貼り付け、背には泥を飛ばし、顔を上げれば上気した頬を伝うのは汗だった。
「…悪かったな」
手拭いで額の汗を拭いてやる。
俺の身を思え。俺の身こそを思えと、胸の裡、餓鬼が泣いた。
軒先から垂れる玉水の褥のうえ、ひとり心細さを枕に、温もりを求めて泣いていた。
いつぞやの幼い藍丸が泣いていた。
雷王の膚を飾るアジサイの小花を抓んで、ふっとほくそ笑む。
「どうやったら、こんなになるんだおめえは」
「すまぬ。…少々焦った」
大黒屋に目星をつけ、七賢竹屋への道を行きがてら、川沿いを走って漸く見つけたというが、それにしては汚れ方が尋常ではない。寺社の境内から大川の畔まで回ったと聞いて、初めてなるほどと思えるほどだというのに、男はそれ以上口を割ろうとはしない。
澄ました顔のしたに隠された、雷王の真実。
指で花弁をくるりと回して、主は笑みを深くする。
「…藍丸?」
聞くまでもないのだ、本当は。
「案じたか」
されど今一度聞きたい。
「俺の身を案じたか」
鬱々とした気分を晴らすために。
「怖れたか」
貪欲な餓鬼の腹を満たすために。
「俺の身を案じ、怖れたか」
落雷に出くわすたび、引き出される、かつての記憶を新たに塗り直すために。
「おめえの口から聞きてえ」
風に吹かれ、柳がざららと音を立てる。
人っ子一人いない路傍にて、ふたりは静かに向かい合う。が、男の返事は早かった。
主の揺らぎを見透かしてか、それとも己の逸る思いゆえか。
「案じた」
大きな雨粒が傘を打つ。
「怖れた。肝が冷えた。何処にいるのかと…慌てた」
その雨音をものともせず、男の声はしかと届いた。
「だが、顔を見たら…安堵した」
ゆるりと持ち上がった大きな掌が、僅か苦しげに歪む頬を包みこむと、熱い眼差しは主の漆黒の眸をじっと見つめる。
(情けねえ)
彼は胸中で呟いた。
こうして言質をとらねば、すぐさま過去に足元を掬われる己の弱さに笑うしかない、と。
「藍丸?」
手をすり抜けて、とん、と広い胸に頭を預ける。
面を見られぬよう、そうして隠す。
案じられ怖れられることが嬉しくてたまらず、昔と変わらず気に懸けてくれる姿に満足を覚える。
童は向けられる情愛を試して、ふたりの隔たりが如何ほどか、計ろうとする。
昔も、今も。
(どうやら臆病風に吹かれちまってるらしいな…)
膚を通して伝わるは、早鐘の如き雷王の心の音。
雨音より障りがよいその音色に耳を澄ませていると、肩を抱く逞しい腕の温もりに、知らず強張っていた肩から力が抜ける。
(ああ、たぶん、たぶんだが、俺ぁ雷王を…)
ふと思いついた言の葉に、胸が仄かにさんざめく。
正しく記憶は塗り直された。
雷王がいれば、餓鬼も童も寝静まる。
雷王にならば、この身のすべてを預け委ねてよいのだと知る。
親でもなく兄弟でもない、ならばふたりは何なのか
528
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:19:42
考えたことはなかった。
大体が、考え始めてまだ昨日今日といったところだ。
そう逃げを打つ己を連れ戻せば、答えはサイコロを振るより容易に出た。
童が求め、餓鬼が欲しがるそれは、今の藍丸こそ掌中の檻に捕らえたいと望むものだ。
いつか伝えることはあるのだろうか。
口蓋を切り、真情を打ち明ける日はくるのだろうか。
小止みになった雨のなかに、またもや蛙が姿を見せる。
ゲロと鳴くのは冷やかしかと、うっかりあっちへ行けと睨めつけてしまう。
つれないことだと三度鳴き、棲み処へのそのそ消えてゆく濡れた背中を見送って、小止みになった雨露の下、藍丸はやっとのことで足を一歩踏み出した。
並んで歩くことにすら思うこそばゆさを誤魔化すように、目だけは真っ直ぐに前を見て。
ぐだぐだに次ぐ、だるだるな話で申し訳なく…読めます…か…?
梅雨期って心も身体も調子を崩しがちですよね!そうですよねっ?!<無理矢理か!
「春雷」にちょこっと絡めながら、相思相愛になるチョイ前のふたりを。
529
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:19:58
買物に雷王がいけないときは、買い出し部隊が行きます
三番隊は、期間限定品担当
1番隊は、海外商品担当
ここの部隊は外見が日本人じゃない。
くるっんくるんの金髪碧眼とか普通におる
当然、海外言語もぺらぺらさ
2番隊は、地域特産品担当
隠れた絶品を見つけ出せるグルメ揃い
4番隊は 情報収集&レシピ収集担当
情報局みたいなもん。どこの何が美味しいとか、
桃箒にレシピを渡してやったり…細やかな神経が必須
はっ…
どんどん部隊が増殖していってる
限定品担当部隊だけでいいんだ。
お前らだけ、行って来い
ちなみに、限定品担当のところは人間と激戦するから
エリート部隊なんだよー <たったいまそうなった
◆ 買い出し部隊
私は雷獣三番隊隊長である。
本日、雷獣になりたての者より、なぜ藍丸という半妖のために、
我らが動かねばならないのかと不満を漏らされた。
生まれたての獣というものは、礼節というものを欠いており
まことに困ったものである。
しかし、我らの長がかつて
二十年近くの年月を不在にしていた過去を、知らぬのも事実
このような不満は、折りにして若いものたちから洩れ出てくる。
彼らは知らぬ。
ある日突然に長が地へと失墜し、我ら雷獣の間に広がったあの暗黒を…。
決して天には戻らぬと天帝より告げられた我らの混乱が、
いかほどであったかを…。
幸いにも、幼い彼らは知らぬがゆえに、軽々しく不満を口にできるのだ。
530
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:20:09
雷獣の長は、千年に一度生まれ出る。
どのように幼い獣であろうとも、
長の運命を持って生まれ出た雷獣が
次の世代の導き手となる。それを我らは失った。
率いるものもなく、先を導くものもなく、
長が不在の二十年は我らの年月に比べれば
短い間であっても、十二分にすぎる混乱の時であった
闇の中を彷徨う我らの元に、長が戻れたのは、
全て半妖のおかげである。
天の理を打ち砕き、あのものは情ひとつで長の力を再生した。
自覚してのことではなかろうが、 長が再び我らの前に現れた安堵は、
言葉に表せるものではない
なによりも、再び長と共に空を駆けることができるのは
我ら雷獣にとっては至上の喜びである。
我ら雷獣の一族は、あのものに対し、つくしきれぬ恩がある。
どのようにしても、返しきれぬ義がある。
しかも彼の男は、我らにひとつとして見返りなど求めようともせぬ
気風のいいものだ。
たかが好物ひとつを届けることが、いかほどの労になろう?
なに、空駆ける我らには、造作もないものごとだ
いつでも、長が愛でる半妖のため
我らは全身全霊でもって、頼まれごとを引き受けよう
どっちもこっちも、
天然しかおらんって、ことだな
531
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:20:25
◆ 縛
咆哮が屋敷を振るわせた。
雷王の部屋は襲だけを残し、しん、としていた。
その静けさがひどく不気味だと、藍丸は思った。
「…飛ばしてしまいました…」
獣化した紅に襲われそうになって咄嗟に、と襲が言う。
その震える声は、恐怖の爪を立て、藍丸の胸を掻き毟る。
「雷王…」
漏れた音が言葉だと、誰かが認識するより早く、藍丸の足は外へと飛び出していた。
雷と雲を従えた神獣。
神の申し子、気高き雷獣。
かの者が空へと帰った。
果てない蒼のなか、無窮の天を、今思うさま駆けている。
「許さねえっ」
ぎりり、と奥歯を噛み締める。
あれは俺のものだ。俺だけのものだ。
誰にもやらぬ。
誰にくれてなどやるものか。
先を睨みつけ、ひたすら走り、跳躍することおよそ一刻。
知り得るなかで、最も高く聳える山頂に辿り着いたとき、黒雲はぽつぽつと雨粒を落とし始めていた。
空を仰ぐ。
天と地を二分する密雲は、その重さと厚さで、視界に映る一面を黒一色で埋めた。
「雷王…」
もったりと垂れ込めるそれに目を眇める。
あれはいる。この空のどこかに必ずいる。
だが、どこにいるのかがわからない。
それを探し出そうというのだ。砂を掴むような途方もないことだと知ってはいるが、逸る鼓動は止まぬ、何かせずにはおられぬ。
だから、天に近い場所へと来た。
獣に手が届けば、その祈りだけで走り来た。
過去を覚えていようがいまいが、絶対に連れ帰るという思いひとつで、此処へ。
そして、直向きな思いを挫くかのように雨足は強くなる。
天の所業の前では人など塵に等しい。
槍降るような暴雨は疾風を呼び、今にも身体は吹き飛ばされそうだ。
「雷王っ!!!」
遠くにきく雷鳴に叫ぶ。
何度も、何度も、呼び慣れた名を舌に。
幼き頃より、藍丸がひとつ呼べば、必ず答えた養い親の優しげな声は、今もしかと覚えている。
耳に、胸に、なにより心に。
號と鳴り、声を掻き消す風。
礫となって肌身を打ち、力を削る雨。
だが、思いの丈だけは奪われてたまるものかと、渾身の力をこめ、かの者を呼ぶ。
「雷王!!!戻れ!!!戻ってこい!!!」
みっしりと分厚い暗雲に、藍丸が我鳴る。
時に光が閃く雷雲に、藍丸が吼える。
開いた端から口に吹き込む雨を吐き、開けていられない目を抉じ開け、それでも尚藍丸は呼ぶ。
「雷王!!!俺の声を聞け!!!」
ふと、冷える一方の身体の底に、ぽっと小さな火が点る。
それは藍丸の意思で体内を巡り、腕に肩に首に、紅い紋様を浮かび上がらせた。
「炎よ、俺の獣を連れ戻せ
炎よ、あれを紅蓮の首輪で括り、
炎よ、主を離れた腹心を生きたまま炙れ」
532
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:20:37
裏切るのは許さねえ
悲しみを、苦しみを、
人がもつ感情のなか、もっとも強い力となる怒りへと変え、曇天へ火柱を叩きこむ。
それは絵巻物の天へ昇る龍のごとく、うねうねと、
そして何者をも飲み込む濁流となり、巨大な生き物の如く、天上へと奔る。
「雷王!俺の火をたどれ!此処だっ俺は此処にいるっ!!!雷王っ!!!!!」
念は焚き付けとなって炎に注ぎ、昼日中の陽光以上の煌きで宙を照らす。
藍丸は思う。
今まで刻というものを気にしたことはなかった。
一日一日は、当たり前に過ぎてゆくものだと思っていた。
朝目覚めれば、今日も昨日と同じ刻が始まるのだと信じていた。
だが、ちょっとした隙間に、雷王は消えた。
藍丸が側を離れた、ほんの僅かな合間に、ひとりきりで。
「雷王…っ……俺を……俺を連れてけえっ!!!」
叫びは喉を焼き、裂き、血の哀願となって体内を巡る。
いつしか、藍丸の目は、しとどに涙を流していた。
俺は此処にいる。
お前の導として此処にある。
だから早く、どうか早く、もがれた半身が息絶える前に。
求めるあまり、焦がれるあまり、己の業火が己を焼き尽くす前に。
一番星のようにちかりと閃き、駆けて来い。
この焔を目指し、飛んで来い。
たとえ、天がおまえを求めていようが、おまえが天に惹かれようが、
再び姿を現したなら、もう帰さない。
誰にも何処にも帰さない。
それでも掴む手を払うというなら、そのときこそ俺は。
「寒ぃ……」
大河のように天へと迸る夥しい焔は煉獄の炎となり、雨を蒸し、雲を焼く。
なのに、身の裡は冷えていく。
火を使えば使うほど、紅を見れば見るほど、凍えていく。
ぽっかり開いた胸の穴を、ざあざあびゅうびゅう、風雨が潜り抜けていく……
「らい、おう…っ!!!」
吹き飛ばしても薙ぎ払っても、即座に密する雲どもが恨めしい。
焔は気力だけで放たれる。
心身はともに疲労を増し、藍丸はいよいよ片膝をついた。
軽い眩暈を覚え、切れる息をハッハッと継ぐ。
「ちっ…くしょうっ」
俯いた頭を、それみたことかと雨が打つ。
わかっている。
無茶だなんてことは、はなっからわかっている。
羽織とはいえ、半妖ごときが、天の意思を反ぜるわけがない。
「んなこたぁわかってんだ」
でも、それでも、俺は、
533
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:20:48
「諦めるなんざ…雷王を諦めるなんざ、できるわけがねえ」
あれは俺のもんだ
暗い独占欲に染まった羽織をばさりと風に靡かせ、手の甲で涙を拭う。
未だ吹きつける強風は容赦なく身を殴るが、藍丸は峰の上、堂と立ってみせた。
張りきれない意地など持ち合わせていないのだと、天に戦いを挑むように。
もう泣かない。弱味も見せない。
その代わり、燃やしてやる。
燃やし尽くしてやる。
なにもかも、目に見えるすべて。
それでおまえが戻るなら。
それがおまえの道標となるならば。
……何がどうなろうとかまわない。
「炎、召喚…」
丹田に力をこめ、静かに告げる。
もう一度、力を。
二たび、炎を。
燐を炙るような、ぢり、という鈍い音が、手の中に赤焔を呼ぶ。
俺は後悔しない。
おまえを信じているから後悔はしない。
おまえさえ戻るなら、もう二度と刻を手放さない。
おまえとの大切な刻を今度こそ全力で守るから、だから。
すう、と息を吸う。
「雷獣の王よ、この手に戻れ」
静謐な気配を纏い、静かに、ただ静かに、言霊を吐く。
我武者羅な絶叫より、高鳴り破れる鼓動より、真摯に、強く。
突如、天が啼いた。
黒雲の中を稲光が走るや、雷火が落ちる。
白光は、一瞬にして空を割り、木々を裂き、眸を貫いた。
山は戦慄き、恐怖に竦む。
だが藍丸は微笑んだ。
現し世に害為すそれも、己には瑞光だ、と。
つづく轟音のなか、耳が確かに獣の唸りを拾ったから。
閃光から袂で庇った目を、そろりと開く。
そこには毛並みも豪奢な巨体が、藍丸の前に佇んでいた。
音もなく軽やかに、落ちた稲妻とともに降りたった神獣。
威嚇の唸りで空気を震わせ、べっ甲のような眸が美しく光る。
藍丸はその圧倒的な存在感に感動し、息を飲む。
気高く雄々しい様は、数多ある世の羨望のすべてを衣のように纏っていた。
まさに王たる風格に、寸時、声をかけることすら忘れてしまう。
「雷王…」
一歩、歩み寄る。
髪から滴る雫が目に入ろうと、瞬きを忘れ、
歯肉も露わに威嚇されようと、安堵する心は開いたまま、
また一歩、足を踏み出す。
534
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:21:05
「…捕まえた」
両腕で頭を抱き締め、頬と頬とを擦りあわす。
濡れた毛束は硬いが、伝わる温度は間違いなく雷王のものだった。
幼き頃より膚で知るこの温もり、間違えようがない。
顔を洗う雨に忌々しげに頭を振ると、藍丸はニッと笑う。
てめえで戻ってきやがったんだ、だからもうだめだ。
土砂降りの雨のなか、獣の目を覗きこみ、とどめを刺す。
「おめえはもう俺から離れられねえ。おめえが二たび俺を選んだんだ」
窮屈な地上に住まう、半妖の主を。
天でも一族でも自由でもなく、その手で育てた藍丸を。
「だから、な?」
放ち続けた炎の残熱高い、紅を刻んだ両腕を伸ばし、獣の首を抱き締める。
従する証しとして、熱の輪で気高き獣を閉じ込めるように。
離れぬ誓いとして、焔気の鎖で紅の腹心を縛り上げるように。
雨にも風にも溶けない陽炎が、水煙のなか、ゆらりと立ち昇る。
藍丸の腕から、雷獣の首から、互いが絡む身と身の合わせから。
そして獣は恍惚の声をあげる。
気に入ったと、嬉しいと、もっともっとと、甘えるように細く高い響きで啼く。
「ん、おめえは俺のもんだ。俺が捕まえた。だからもう…」
伸ばした手を舐める従順な様に、藍丸も応えるように牙を舐める。
「俺から離れんな。…もう、二度と……」
獣に首輪をつけたかったんですが、…ぬるくない、です、か…?
だからって炎の首輪つけたら、サーカス…だし、な…TT
535
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:21:53
次回雷藍絵茶開催中にこうご期待d(゜v´)
主催
ttp://www.eonet.ne.jp/~gfpl-m/
ttp://fdtorimono.jugem.jp/
会場
ttp://www.takamin.com/oekakichat/user/oekakichat3.php?userid=433717
参加してるかもね
カズキ
ttp://rfs.sonnabakana.com/
大風
ttp://otagelpam.blog91.fc2.com/
ミズホ
ttp://yukiusa.chagasi.com/
アタル 要
ttp://ttw218.web.fc2.com/nitoro-index.html
おがた
ttp://shinsekai.org/
岡谷
ttp://rinrin.saiin.net/~okaya/kari/
536
:
風と木の名無しさん
:2010/10/02(土) 09:22:27
主催の茗たんからのお願い(゜v´)
※ 夜食、おやつ、飲み物については各自でご用意ください*
(但し、金鍔は一人四つまでですv)
(アルコールも可ですが、「酒に呑まれない」程度でお願いします!笑)
※ カップリング等の指定は特にありませんが、多少、類友的な偏りがあることは、あらかじめご承知ください。
※ 本編、もしくはFDしかプレイしていない、またはフルコンプをしていない場合は、「ネタバレOK!気にしない!」という方のみご参加ください。
(そのあたり、遠慮ナシにガンガンいきます。ぶっちゃけ、FDトークの場なのでw)
※ 絵描きさんでも、字書きさんでも、どっちでもないけど語りたい人も、紅天好きさんなら歓迎です*
ただし、ROMのみの参加はお断りします。
(絵中心の場なら、可にしたいところなんですが‥すみません!)
※ お帰りの時間は任意です。
(仮の閉会時刻は零時頃です。そのときに一度、管理人が声をかけます)
と、まぁ、最低限はそんなカンジで!
あとはみんなで楽しくワイワイお話できれば、なんでもいいカンジです!!
よろよろ、よろろ‥、よよよ、よろしくお願いします‥ッ*
つか、こういう呼びかけって、毎度毎度キンチョーします‥! ← ヘタレ。笑
久し振りだし‥!!
基本は誘い受なんだ。
いつも遊んでくれる人だけでも来てくれたら嬉しいなんて言っちゃう小心者でもある‥。笑
537
:
風と木の名無しさん
:2010/10/03(日) 03:37:21
ttp://twitter.com/gfpl_may
538
:
風と木の名無しさん
:2010/10/07(木) 21:00:44
茗たんの新着日記d(゜v´)
Memo >>なんとか。
なりそう、なのですが。
まだ、ちまちまと原稿などやっております。
まぁ、コピー本の方は何とかなりそうなので、Offlineの更新はしておきました*
いつにもまして、ぺラくてすみません‥!
ですが、けったんと作ろうと思ってた無料冊子はちょっと無理っぽいです。
弧藍で、雷王とか尸とか狐の王様たちとか書きたかったんだけど‥、今回は時間切れー。
なので、そのネタはまたいつか‥!
気がつけば、もうスパークまでもう何日もないんですね!
ビックリです。
ついこないだまで、呑気にFDで遊んでたと思ったのに‥。
なんとか会場に向けて荷物は送りましたけど、持っていく方の荷物とか、まだ全然。
つか、本もできてないですが。(あれ?)
原稿仕上げ、コピー、製本と、まだまだ時間を要します。
昼間出来ないので、すべて夜!
無事にすべて、終わりますようにー!
そのあと、いろんな人に会えるのが楽しみですvv
そんなわけで、戻ります。
最後に。
拍手パチポチ、まことにありがとうございました*
今回は時間なくて焦りまくりでしたが、他にも、色んな方からはげましてもらって、なんとか!
ありがとう!!
これから年末に向けて、仕事とオフラインの方がますます大変になりますが、がんばるぞ。
(去年はそれで体壊したので、今年は気をつける‥)
539
:
風と木の名無しさん
:2010/10/21(木) 17:29:02
Memo >>スパーク、ありがとうございました!
昨日夜、帰宅しました。
10日のスパークで、当スペースにお越しくださった方、本をお手にとってくださいました方、まことにありがとうございました*
お声かけてくださった方、差し入れをくださった方も、ありがとうございます!
ご当地ものから、季節ものまでなんだかたくさん頂いてしまい、恐縮です。
きんつば、お干菓子‥紅天らしくて素敵です*
賞味期限の短いものから、少しずつ大事に食べさせて頂いています。
ありがとうございましたー*
前日の東京は大雨でしたが、当日は雨も上がってよかったです。
どどっと駆け抜けたような3日間でしたが、すごく楽しかったです!
前日、当日とかまってくれた方々、本当にありがとうございましたvv
2日連続、桜(螺)なお店で宴してきました!
お腹よじれそうなほどたくさん笑ったvv
いっぱいお話しましたvvv
充実していました。
観光では、浅草の鰻と両国のお蕎麦が美味しかったです!
浅草寺の仲見世では、桜(螺)のあげまんじゅうも!!
(食べものばっかり‥)
やっとこさ、江戸東京博物館も行ってきました。
ホテルの部屋から、スカイツリーもバッチリ見えました。
雨の中、某聖地にも行きました。
悔いはない!笑
そして。
当日合わせの嘉藍コピー誌ですが、作って持っていった分は完売しました。
あとは一月のインテ用に少しだけ再版しようかなぁ、と思っています。
それから〝壺中日月長(雷藍本)〟と〝あやかし長屋奇譚(桜藍本)〟が完売しましたので、この二冊につきましては、これで頒布終了とさせて頂きます。
お手に取って頂き、まことにありがとうございました*
さてさて。
一月の咎狗プチオンリー、今度のグッズはリストバンドですよ。
東京のは行けませんが、大阪、楽しみです!!!
拍手ありがとうございました*
メッセージの御礼はこの下にありますので、ご覧頂けましたら幸いです。
パチポチしてくださった方も、まことにありがとうございました!
10/8 あたるさん
メッセージありがとうございました*
おかげさまで、なんとか原稿間に合いましたー!
あたるさんの次の御本も楽しみにしています!がんばってください!!!
540
:
風と木の名無しさん
:2010/10/25(月) 17:02:39
サイト行けばブログ読めるからここにupしなくても平気だよー
541
:
風と木の名無しさん
:2010/10/26(火) 17:10:58
Memo >>元気です。
ちょっとだけ体調崩したりで、ご無沙汰してましたー。
きっとアレです‥スパーク前日、雨の下北をフラフラと彷徨ったせい‥。
でも、悔いはない!笑
お、今日は咎狗アニメ第3話目放映ですねw
遅い時間なのでアレですが、初回だけはリアルタイムで観ました。
(スパーク用のコピー本作りながら‥。笑)
はじめにnたん登場‥、久しぶりにトシマの妖精さんを見たわ‥vv笑
シキティも‥ゲームではあんなに早い登場でしたっけ?
美しかったですね、さすがトシマのカリスマ(レアモンスター)だわ‥*
この秋はほかにも、ジャイキリ地上波が始まったり、相棒シーズン9が始まったり‥* なんかTV的に楽しいことばっかりです!
そして、これはTVではなく映画なのですが‥来月はハリポタ最終話の前編が、なんと3Dで公開。
そこでこの二年間、先延ばしにし続けてきた最終巻を購入&読む‥。
‥壮絶な、‥(としか言いようが)
いつも一緒に映画を観にいく面々が、ちょうど今、最終巻を読んでいるところなので、あまり大きな声で感想を言えないのがツラいところ‥。笑
そろそろ、ジャイキリの最新刊も出るのではないだろうか。
あの合宿の続きがもう楽しみでしかたない!
そんなところで。
おかげさまで、50000Hit 達成いたしました。
自分のこんな飽きっぽい性格で、ここまでこのサイトが続くとは思わなかったので、本当におかげさまで、としか言葉がなく‥。
ありがとうございます*
目とお肌の方も、徐々に回復しつつあるみたいなので、これからもぼちぼちとやっていきますー。
とりあえずは‥冬に向けて、原稿する体力を‥!
紅天本と、狗本‥源シキは、コピーになりそうなのですが‥なんとか、なんとかっ!
と、そのまえにインテに申し込まねば。笑
ぼーっとしてる間に、どんどん時間がー!
気をつけよう、ホントに。
最後に、拍手パチポチありがとうございました*
だんだん、朝晩の空気がひんやりとしてきました。
皆さまもお身体ご自愛くださいませ!
542
:
風と木の名無しさん
:2010/11/05(金) 15:00:56
Memo >>がんばらないと。(ほどほどに)
どうなることかと思ってましたが、気づけばあっさり通過していました ‥ 台風。
最近、やる気とやる気なさが交互に襲ってきます。
ずっと前から、18禁じゃない作品の二次もやりたくて、そっちのサイトを作ろうかな、と思うたびになんだかんだあって頓挫する。笑
源泉さんとか大好きだから、もうしばらくはいっかー、と思いつつ。
(シキティモスキヨ!)
つか、源シキはハマってもう何年?
2年以上経つんじゃない??(3年???)
咎狗のプチオンリ(インテ)、申し込んだので、何かしら‥薄ーい18禁のコピーとか出したいです。
久々に書くぞー*
もうホントにコイツら大好きだー、ふっふーん ♪
Lamento ‥
とりあえず、あとひとつマイナ寄りな雑文書いたら、ようやく本編のバルコノ ‥ (げふっ)
なんていうのか、マイナだったらサクサク書けるとか、でもバルコノは自分の中でサンクチュアリだから仕方ないんだ‥。(どーいう言い訳だ。笑)
悪魔さんたちも親世代もライもコノエも大好きなんだけども、やっぱりバルドさん‥*
あと、カガミノヒミツ、これもやってしまいたい。
お話自体はとっくに脳内で完結してけったんには話してあったり。(だいぶ前に)
もし、まだしばらく書かないでオチとか忘れたりしちゃったら、そのときは彼女の記憶が頼りです‥。(えー)
紅天 ‥
インテ新刊のネタ練り中です。
これが終わったら、また桜藍ネタとかやりたいなぁー*
雷藍とか桜藍て、本編とかFDとかって括りない方が書きやすいかもです。
FDをやって、ポンと素直にネタが浮かんだのが嘉祥と鷹比佐のルートだった。
あとは、ちょっとひねらないと無理なカンジで‥、いや、個人的な感想ですが。
あ、弧白は、弧藍というより、尸ネタやりたいんですけど、なかなか‥。
今はそこまで手が回らない。
たぶん、私とけったんは誰よりもおバカなネタを考えた。笑
拍手パチポチありがとうございました*
なかなかピッチを上げられませんが、ぼちぼちやっていきますー。
2010.10.30
543
:
風と木の名無しさん
:2010/11/08(月) 12:29:31
Memo >>小春日和。
今日はポカポカ、小春日和‥。
とか言ってる場合じゃなくて、もう11月になっちゃいましたっ!(ひえー)
もうあとの日にち数えるのが怖いです‥。
まだ、ほぼ真っ白‥。笑
なんだか、安易なネタに走りそうになって、イカンイカンと軌道修正中。
書くからにはまっすぐ。
攻め気で行きたいです!
通販‥。
お申込ありがとうございました*
11月5日までのご入金分につきましては、本日すべて発送いたしました!
一週間以内にお手元に届かない場合は、お知らせくださいませ。
在庫状況も少し変わりました。
〝続・あやかし〜〟の在庫は残り5を、〝狐妖〜〟の在庫は、残り10を切る数になりました。
それから〝羽織のおしごと〟について。
もともとあまりたくさん作る気がなかったのと‥、それでもスパークでは少し残るぐらいかと思っていたのですが‥。
結果は一冊も残りませんでした。
通販をお問い合わせくださった方には、本当に申し訳ありませんでした。
1月インテの再版時には、あらかじめ通販用にも少し置いておきます。
よし。
それでは、しばしまた、ネタを練り練りしてきます。
拍手ありがとうございました*
返事不要で励ましのお言葉も頂きました!!
ありがとうございます!笑
がんばるよー*
パチポチしてくださった方もまことにありがとうございましたvv
今月中に何か更新出来れば、と、思っております‥。
2010.11.06
544
:
風と木の名無しさん
:2010/11/11(木) 16:08:18
Memo >>ありがとうございました*
土曜の夜から未明にかけて、紅天の絵チャにお邪魔してきました。
主催のおがっさん(おがたさん。地のイントネーションだとこうなる‥ゴメン。笑)、ありがとうございました〜*
最初、入り口がわからなくて30分間ほど路頭に迷いましたが、(自分だけかと思ってツイッタ見たら、みんな迷ってた。笑)なんとか開いてよかったー。
ドSな上に焦らしプレイ‥流石おがっさん!!やるな!!!笑
絵師様たちの素敵絵と深夜テンションな喋りで、またまた腹よじれるほど笑ってきました。
楽しかったー!
遊んでくださった方々、ホントにありがとうございました!!
ログも楽しみにしてまっす!!
ちょっと前ですが、ニトキラの最新作情報、出ましたね。
もっと公開されたらいいのに。
あと、大メビも楽しみですが、発売時期はズレてほしい。笑
でもどっちも来年中に出ないかなぁーvv (贅沢な‥!)
最近、お知らせ以外でMemoを更新することがどんどん少なくなっているので、こちらにツイログのリンクを貼っておきます。
Twilog(ttp://twilog.org/bancha_may)
私のツイッターログがブログ形式でまとめて表示されます。
ぶっちゃけ、そちらがもう日記のようになってしまっているので‥。
くだらないことしか呟いてませんが、よろしければ覗いてやってください。笑
拍手パチポチありがとうございました*
立冬、過ぎました。
もうすぐ冬がきます、どうぞお体ご自愛くださいませ〜!!
2010.11.08
545
:
風と木の名無しさん
:2010/12/03(金) 14:22:39
Memo >>ありがとうございました。
「藍丸、夕餉の前にそんなに(金鍔を)食べて大丈夫なのか」
「大丈夫だ、問題ない」
とか‥
(大黒屋で‥)
「一番いい小豆で頼む」
とか‥‥、
そんなネタで原稿していたり‥。(していません!)
まぁ、ネタわかる人だけ呆れてください。笑
拍手をたくさん、ありがとうございました*
メッセージの御礼はこの下にありますので、ご覧頂けましたら幸いです。
(不要の方宛にもあります‥v)
パチポチしてくださった方も、まことにありがとうございました*
11/22
minori 様
はじめまして*(笑)
このたびはメッセージ、通販申込など、まことにありがとうございました!
紅天好きーさんがおひとり増えてとても嬉しいです。
SSも読んでくださってありがとうございます。
minoriさんに上げて頂いたその三つは、比較的短い時間でスルッと書けたものばかりなので、そう仰って頂けると喜びもひとしおです‥!
これからものんびりと、好きなように書いたり書かなかったり(え?)ですが、遊びに来てくださると嬉しいです。
ツイッターのフォローもして頂き、ありがとうございました*
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします!
11/23
大風さん
レス不要とのことでしたが‥すみません、どうぞサラッと流す程度で‥!笑
こちらこそ、萌えなお題&お優しいお言葉ありがとうございます‥*
それなのに雷王が弱っていてごめんなさい。笑
そうなんですよ〜、藍丸はきっと抱っこも平気です!
ハタチ過ぎても平気で雷王の膝に乗るぐらいですから!!
ただ、怪我人(?)にほとんど怪我もしていない自分が抱っこされることに抵抗を感じたようです‥笑
もうおっしゃる通り、それは雷王の育児法の賜物というか、圧勝ですねvv
リクして頂いてから、お待たせしすぎて申し訳ありませんでした。
忘れてた、と言われなくてホッとしました!笑
このたびは本当に本当に、ありがとうございました*
11/24
要さん
こんばんは〜* おお!要さん!!(小躍り)
レス不要とのことでしたが‥、申し訳ありません、レスします!笑
こちらこそ、夏インテ以来ご無沙汰しております。
逆・膝枕、読んで頂け‥(恥!)あああ、恐縮です、感想、ありがとうございます‥*
そうですよね‥可愛い藍丸のためならなんでも自分の身に引き受けてしまうんですよね、雷王は‥!
最後の抱っこは、「甘えさせられるばかりではつまらぬ」という雷王の攻としてのプライド‥かもvv
雷王は、やっぱり藍丸を甘やかす方が性に合っているみたいです‥。
ありがとうございます、私も次の御本、楽しみにしておりますので‥!
またインテでお会いする際は、どうぞかまってやってくださいませ。
11/25
アルベさん
わぁー、ありがとうございます*
久々に紅天更新できました〜!
殺伐だけど、甘く‥vv
だって、雷藍ですから〜* 笑
2010.11.26
546
:
風と木の名無しさん
:2010/12/10(金) 13:22:33
Memo >>師走です。
あっという間に12月です。
仕事のほうも、年末の繁忙期でバタバタしております。
しかも、お正月にお休みとれるようにするため、年末は休みなしです。
というか、キレイにカレンダーどおりの出勤。
大晦日?何それ、美味しいの、っていう‥。笑
毎年のことですけれどね!
さて、お知らせというほどのこともないのですが、ちょこちょこと近況など‥。
このたび、ナビキラ様に登録させて頂きました。
新しく出来たキラル系の総合サーチ様です。
‥ありがたいです。ありがとうございます*
オフラインの方は、今のところ登録していません。
これから先、キラルの方でオフラインが活発になることがあれば、そのときには改めて登録申請させて頂こうと思っています。
1月のインテ。
ただいま絶賛原稿中です。
今回、咎狗の血のプチオンリーにも参加させて頂きます。
企画のペーパラリーも参加します。
紅天は一応、新刊発行する予定‥。(ちょっと自信ないですが)←え?
源シキはぺらいコピー(これもちょっと自信が‥)と、ペーパーラリー用のペーパー。
もしものときは‥、ペーパーラリー以外のどれかが落ちます。すみません!
(最悪、ペーパーラリー用ペーパーのみになる可能性がある‥)
発行物の目処がつきましたら、スペースのお知らせとともにオフラインページを更新します。
平日夜に原稿出来たらいいのにな。
リアルと萌え時間の切り替えが、どんどん下手になっていきます‥。
最後に。
拍手パチポチまことにありがとうございました*
いつも、パワーを頂いておりますvv
本当に寒くなってまいりましたので‥どうぞお風邪など召されませんよう、ご自愛くださいませ。
2010.12.09
547
:
風と木の名無しさん
:2010/12/27(月) 16:28:03
Memo >>Works 咎狗の血、更新しました。
師走も後半戦!
今年もいよいよあと十日余りとなりました‥。
本日は40000打記念リク第4弾、6つのうち唯一咎狗の血で頂いたリクエストSSをアップしました。
コメントにも書いたのですが、「源シキ」という指定以外ありませんでした、ので‥。
‥ま、まさかのイベントネタで‥、クリスマスネタで‥、書かせて頂きました。(笑)
約一年、お待たせいたしました。
改めまして、リクエストしてくださいました方、まことにありがとうございました*
どうかお心広くお納めいただけましたら幸いですvv
これで、残り2編となりました。
ひとつは紅天なのですが、こちらはもしかすると当サイト外の場でご披露させて頂くことになるかもしれません‥*
最後、Lamento につきましては、もうひとつだけ外堀を埋める雑文を書いてから本編(ラブラブバルコノ編w)へ。
も、申し訳ありませんー!
さらにさらにお待たせいたしますが、どうかのんびりとお待ち頂ければ幸いです。(笑)
さて。
インテでは、源シキのコピー誌を出す予定です。
コピーだけど、18禁‥にします、たぶん。
そして、紅天本はネタ作りの段階で派手に詰まってしまい、今回は発行を見送ることにいたしました。
書きかけている部分もあるので、この次‥、5月ぐらいには‥発行したいと思います。
インテでの紅天本は、10月のスパークでの新刊〝羽織のおしごと〟が、大阪初売りとなります。
プチオンリの告知サイト様の方で、1月のインテのスペースなど発表になる頃に、こちらでも発行物のことなど併せまして、詳細をお知らせさせて頂きます。
拍手パチポチありがとうございました*
いつも本当に励みになっております!
嬉しいです‥!!
ありがたや、ありがたや‥vv
2010.12.20
548
:
風と木の名無しさん
:2011/01/01(土) 15:38:02
Memo >>よいお年をvv
なんと、あと2日で年越しです!
そして、本日から冬コミが始まりましたね!
サークル&一般で参加される皆さま、お疲れさまです〜*
さて、当方はといえば、前にも書いたとおり、31日までは普通に会社行って仕事です。
そして原稿は‥これまた相変わらず、遅々として進まず。
毎年のことでわかっていることなのに、年末はどうしてもペース配分がうまくできず、何か調子が激しく狂ったままです。
今月に入って、再版分や新刊のことで何度かお問い合わせを頂くこともあり、恐縮しきりでございます‥。
なんとか‥なんとか、源シキのコピー本が出せますように‥!!
お正月休みは家に引き籠って頑張る所存です。
ありがとうございます‥*
今年は夏前まで体調を崩していたこともあり、本もあまり出せませんでした‥。
オンラインでも‥せっかく頂いた40000打のリクエストが、1年かかってまだ全部消化できていないというダメっぷりでございます。
本当にすみません!
あと二つ、頑張る!(笑)
そして、お気づきかもしれませんが、サイトの4周年記念日が実は先月にあったのですが、ご覧のとおりの体たらくなので、50000打に引き続き企画を自粛いたしました。
しかしながら、どちらのことも、ここに遊びに来てくださる方あってのことなので。
日が過ぎてはいますが、改めて御礼申し上げます。
ありがとうございました*
55555打のときには‥ひとつふたつ、またリクエストをお受けしようかな、と思っていますので!
その際にはまた、おつきあい頂ければ嬉しいです!
拍手‥*
たくさんパチポチして頂き、まことにありがとうございました*
返事不要のRさまv
わーい、久々かつまさかの源シキイベントネタに反応してくださって、ありがとうございますvv
新刊コピーもなんとか頑張ってみますので‥、どうぞ見捨てないでやってくださいませ〜* (笑)
今年1年、遊びに来てくださった方、拍手やメールを通じて励ましてくださった方、本当に本当にありがとうございました*
この年末は、どうやら寒波が猛威をふるうようであります。
どうぞ皆様も、お風邪など召されませんように。
お身体をご自愛のうえ、楽しい年末年始をお過ごしくださいませ。
それでは、よいお年を〜*
2010.12.29
549
:
風と木の名無しさん
:2011/01/14(金) 12:59:13
Memo >>あけきりまして‥
新年明けきりまして、おめでとうございます*
今年も、どうぞよろしくお願いいたします!
うう‥、もっと早くご挨拶したかったのですが‥すみません。
色々、ギリギリになってしまいましたが、週末のインテのことで、取り急ぎ上がってきました。
昨年最後の日記にも書きましたが、先月から何件か、お取り置きのお問い合わせを頂いております。(ありがとうございます!)
そして、現在(7日の22時30分)までに頂いた分で、「続・あやかし長屋奇譚」の在庫がすべてなくなる形となりました。
したがって、インテ当日に頒布する紅天本は「狐妖艶恋情話」と「羽織のおしごと」(再版分)のみとなりますので、その点あらかじめご了承くださいますよう、よろしくお願いいたします。
なお、お取り置きのお問い合わせは、本日で一旦終了とさせて頂きます。
通販のお問い合わせなどございましたら、申し訳ありませんが、インテの翌日10日から、よろしくお願いします。
インテでは、咎狗の血プチオンリーにも参加します。
イグラのペーパーラリーにも参戦します。(詳細はプチオンリーサイト様でご確認ください)
配布するペーパーの内容は源シキのシリアスな掌編です。
お話と呼べるシロモノではありませんが、雰囲気をお楽しみ頂ければ、と。
昔からサイト上ではよくやってた設定なので、もしかしたら「懐かしい」と思ってくださる方がいるかも、いないかも??
18禁ではありませんが、よろしければ貰ってやってくださいませ〜*
そして、源シキの薄い18禁な新刊コピー‥もしかしたら‥落ち‥!
ま、まだこれからギリギリまで足掻いてきますが‥。
最悪、無配冊子ぐらいにはなるか‥な。
どちらにせよ、Offlineの更新はイベントの前日になります‥申し訳ありません‥。
在庫のお問い合わせ頂いた方には、通販方法など順次返信させて頂いています。
(本日受け付けた方にも、のちほどメールさせて頂きますのでお待ちください)
通販処理の再開は、10日からさせて頂きますので、返信メールに記載している手順でお申込頂けましたら幸いです。
拍手パチポチ、まことにありがとうございました*
いつも元気を頂いています!
なかには「日記ぐらい書けよしっかりやれよこの野郎」のお叱りもあるのかもしれませんが‥。笑
取り急ぎのご連絡でした〜!
それでは、戻ります!!
2011.01.07
550
:
風と木の名無しさん
:2011/01/14(金) 13:00:07
Memo >>脱稿しました!
昨日のMemoを書いてる時点では、本当に自信なかったんですけど。笑
なんとか‥書きあげました。
インテでは、源シキのコピー本が出ます!
興味のある方は、どうぞよろしくお願いします*
Offline も更新しました。
詳細はそちらをご覧頂けましたら幸いです。
紅天本の既刊につきましては、昨日申し上げたとおりですので、よろしくお願いします。
明日は‥お天気はどうなのでしょうか。
参加される皆様、体調管理を万全にして、どうかお気をつけていらしてくださいませ*
それではそれでは、これからコピーと製本作業に行ってきます。
2011.01.08
551
:
風と木の名無しさん
:2011/01/14(金) 13:00:46
Memo >>インテ、ありがとうございました*
9日のインテで、当スペースにお越しくださった方、本をお手にとってくださいました方、まことにありがとうございました*
かまってくださった方、お声かけてくださった方、差し入れをくださった方も、ありがとうございましたvvv
いつも本当に恐縮です‥。
名物やおねだり品(ねだるな!)も頂戴しまして‥。
なのに自分はワンパタなモノばかりなので‥申し訳ない、次回こそ何か、新機軸を‥!(と、いつも思ってはいるわけです。笑)
お天気もよく‥、1月のインテは人が多くて当たり前なんですが、昨日はなんだか‥異様な人出だったような気がします。
全体的に大盛況だったのではないでしょうか‥?
咎狗スペースも、プチオンリの影響で、景気がよかったようなvv
うぅ‥よかった!久々に賑やかなスペ周りでしたー!(笑)
私も久々に猫(Lamento)充してきました*
バルド〜* ライコノ〜*
悪魔系イロモノも大好きだー!!(笑)
個人的に、LamentoはBLGで一番いいゲームだと思っているよ!
何だろうなぁ‥ストーリー的に自分好みっていうのが最たる理由なんだろうけど、でもあのクオリティはすごい‥。
色々ハントしてきまして、結果を見ればいろんなジャンルのアンソロとか再録ばっかり買って(きてもらって)ました。
分厚い本がいっぱい‥*
しばらくは、ぬくぬくしながら眠れそう‥*
しかし、紅天本を買えなかったのは残念だ。
自分も新刊出せなかったので言えないんですが、それはちょっとさびしかった‥!(笑)
そのかわり、冬コミの大メビ無配本、頂きました‥!
ありがとうございます‥!!
わぁ、ホントに新作楽しみになってきました!
キラルもラブデリも、今年中に発売されないかな‥!!
イベントのあとは、紅天サイトの管理人さんたちとアフターに行ってきました!
お話したかった人たちとたくさんお話できて、ちょっとしたサプライズ(あたるママンの粋な計らいで‥v笑)もあって本当に楽しかった!
ありがとうございました〜*
心が充実しました‥vv
そして在庫の件。
当日合わせの源シキコピー本「addict」 ですが、お取り置き分を除き、在庫はもう虫の息です‥。
今、この日記を書いている時点(10日21時30分)で、あと2冊‥。
こちらは今回のプチオンリー用に作ったものですので、申し訳ありませんが、無くなり次第終了とさせて頂きます。
お取り置きや通販のお申込をしてくださった方には、イグラのペーパー(サイトに再録予定はありません)も強制的につけさせて頂きますので、その点よろしくご了承くださいませ!(笑)
あと「再生」と「CRISIS」は完売いたしました*
これまでお手に取って頂いた方、まことにありがとうございました*
紅天の嘉藍コピー本、再版分ですが。
こちらは、3月のイベントにも持って行けたらいいなと思って作ってあるので、少し余裕あります。
これも無くなり次第、頒布終了とさせて頂きますので、よろしくお願いします。
さて、少し休んだら次の原稿にかかります。
今年前半はまた紅天で‥、後半はまだわかりませんが‥、何か新しいものに出会えていたらいいなぁ、と思います。
拍手パチポチありがとうございました*
押してくださるお気持ちに、感謝です‥!
2011.01.10
552
:
風と木の名無しさん
:2011/01/14(金) 13:04:55
ttp://ttw218.exblog.jp/
553
:
風と木の名無しさん
:2011/01/16(日) 13:45:13
Memo >>通販のご連絡。
通販のお申込、ありがとうございます!
以下、お心当たりのある方はご確認をお願いいたします。
15日正午までに頂いたメールにつきましては、すべて返信が完了しています。
まだ届いていないという方は、お手数ですがご連絡ください。
14日夜の時点でご入金が確認出来た方には本日、クロネコメール便で発送いたしました。
1週間以上経ってもお手元に到着しない場合は、お手数ですが管理人までお知らせください。
今回はいろいろ重なってしまって、管理人にとっても予想外の事態でした。
わけても、嘉藍の再版分をお待たせしてしまったことについては本当に申し訳ありませんでした‥。
辺境の鄙サイト(しかも嘉藍なんてどマイナー)と、高を括っていたことも裏目に出ました。
FD効果‥というか、羽織×羽織効果か?(笑)
こんなことはそうそうないことだとわかっていても、今回はかなり焦りました。
やっぱり、通販は毎回どんなに少量であっても、こちらが冷静に対応させて頂けるよう、以前のようにちゃんと期間を設けてやったほうがいいのかもしれません‥ね(反省)。
あと、源シキ本のお問い合わせも‥、今更ないわと完全に油断していたのですが、多少はあのアニメ効果があった‥???(え)
あ、そうだ、プチオンリー効果か!!
み、認めたくないわけじゃないんですが‥だってあのアニメにしろ、源シキとか、全然関係ないですもんね‥(笑)
そんなわけで、今頂いているお問い合わせ、お申込分が落ち着きましたら、改めて通販の方法を考えます。
いろいろ余裕なくて、本当にすみません。
そして、本当に本当にありがとうございました*
(そういや今回一条さん大人気!とか、今更はしゃいでみます‥しーん)
2011.01.15
554
:
風と木の名無しさん
:2011/02/02(水) 12:11:56
Memo
>>24
日までの通販ご連絡&絵チャお知らせ。
本日24日までにご入金の確認できた方には、クロネコメール便にて発送の処理をさせて頂きました。
万が一、1週間以上経ってもお手元に到着しない場合は、お手数ですが管理人までお申し出くださいませ。
Top でも告知いたしましたが、2月5日に紅天の絵チャをします!
時間等はまた、日が近くなりましたらお知らせします。
絵描きさんだけでなく、字だけでの参加も勿論OKです*
紅天がお好きな方であれば、どなたでも!
ただし、完全にROMのみという参加はお断りします‥あしからず。
拍手パチポチしてくださった方、まことにありがとうございました*
返事不要でご報告くださったM様、ありがとうございます!
恐縮です‥。
更新‥も。
相変わらずまったりで申し訳ありません。
せめて月イチを目指そうと思います。
今月中に、一編‥!
がんばります。
2011.01.24
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