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第2回東方最萌トーナメント 58本目

73Next History 2:2005/03/07(月) 08:38:45 ID:5T5mxAgY
「……でも、無理はいえないものね。ごめんなさい、もう帰るから――」
「ままままま待てっ! わかった、話を聞こうっ!!」

 振り返りかけた腕を、慧音が机から身を乗り出して掴む。
 後ろ向きのまま、私は密かに勝利の笑みを浮かべた。
 くっくっくっ、慧音の性格は調査済みよ。

「ありがとう慧音! 恩に着るわ!」

 涙を残した笑顔で振り返って、慧音の手をしっかと握る。
 慧音は、“もう大丈夫”といわんばかりの優しい笑顔で、静かに頷いた。
 ……う、にわかに罪悪感がっ。

「では、暫しここで待っていてくれ。話の共に茶でも淹れてくるとしよう」
「あら、お構いなく」
「すぐ戻るよ。ああ、そこいらの書物には妄りに触れないようにな」

 筆を仕舞うと、慧音は無数の巻物や書物を示してから奥へ歩いていった。
 誰もいなくなった部屋を、見渡してみる。
 清潔感のある整った部屋だけど、いかんせん何処もかしこも本だらけ。
 堆く詰まれた本が島を作り、少々邪魔なくらいにも見える。
 ……触れるなといわれても、こう乱立していると掃除屋の血が騒ぐ。
 それに、慧音の集める“歴史”という奴にも少々興味があるのだ。

「どれどれ……」

 悪いとは思いつつ、腰を上げて書物の群れを眺める。
 はっきりと判別はできないけど、人の名前、時間、知名、
 様々なものが隙間なく書き込まれている。
 これらの一つ一つが、今日までの歴史を作るピース。
 慧音は、頭の中にこれをすべて仕舞い込んでいるんだろうか。

 無数の情報たちを歴史と認識してしまうと、
 やはり迂闊に覗くのは憚られた。
 心の中で慧音に謝りながら、大人しく席に戻ろうとして――

「――あら?」

 書物の群れの中に、ひとつだけ異質なものを見つけた。
 何故なら、その書物にはまだなにも記されていなかったのだ。
 本たちが歴史の具象であるとすれば、これはまだ存在していない歴史か。
 これなら誰かの秘部に触れてしまう恐れもないだろう。
 私は戯れに、本を手にとってページに触れた。

 純白の海に目をやり、ありもしない文字を思い浮かべてみる。
 ――瞬間、身体からすべての感覚が消失する。
 喉まで出かかった悲鳴を上げることなく、
 私は白い世界の爆発に呑み込まれてしまった。




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