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第2回東方最萌トーナメント 38本目

604禅寺にいたモノは(3/4):2005/02/20(日) 19:26:18 ID:WN2FuRnU
「私の式が失礼いたしましたわ」

 少女。
いつの間にやら扇はその手になく、空いた手を合わせて、静かに。

「可愛らしい娘ですね。とても大事にされてること、わかります」
「手の掛かる盛りですの。許してくださいな」

 微笑みを絶やさぬまま、少女。
そして何故か、対する紅い老婆の顔にも…微笑みが。

「わたくしの結界…お気に召しましたか?」
「それはもう」

 今度はころころと、心底より楽しげな顔で、少女。
鈴の鳴るような、と言えば適当か、その笑み、されど哂い声は発することなく。

「境界を操る私を、ああも手玉に取られるなんて。今宵は本当に愉快なことでしたわ」
「それは…良かった」

 既に事切れても不思議ないほど血を失いながら、なおも顔を綻ばす老婆。

「貴女に楽しんでもらえたのなら…思い残す事などありません」
「逝く前に、お礼申し上げたいわ」

 それでもやはり老婆の負った傷は、即座に冥界へ導かれるほどのもので。
そうとわかってなお、互いの顔には翳りひとつない――

「人が山道へ入れば、狸に化かされるでしょう。人が三道へ入れば、狐に化かされるでしょう」

 歌うように、ころころと。

「されど妖のこの身、この私を…八雲紫を、ひと時なれど化かすなど」

 笑うように、ころころと。

「それも人の身で。或いは…寺そのものに化かされたかと、思いましたわ」

 本当に、愉快そうに。

「その真中に、人を食った和尚でもいるかと思えば」

 す、と手を下ろして。

「あなたのような美しい蝶に出会えるなんて。この八雲紫…」

 そして深々と。
彼女には似つかわしくない動作に見えたが…頭を垂れて、礼を。

「今宵の事、きっと忘れませんわ」
「それは本当に…良かった」

 微笑みながら。
今にも泣き出しそうなほど、顔を綻ばせて笑う老婆は。

「最初は…ほんとうは。あだ討ちのつもりだったのです」

 とうに動かぬ躯で。既に流れ出る血さえも失った躯で。

「夫と息子を攫い…恐らくは食い殺したであろう、貴女を。討とうと」

 顔だけは、本当に嬉しそうに。

「けれど…私の力では、貴女には及ばないだろう、と」
「そんな事はありませんわ」

 その眼では、少しだけ伏せた少女の微笑みも…見えぬであろうに。

「そして諦めかけて…気付いたのです。あだ討ちなどより、貴女が喜ぶことを」
「ええ…」

 ころころと、笑うように。

「今のあなたの方が、ずっとずっと。素敵だと思いますわ」
「そしてその結果、私はこうして…貴女に斃されることが、できた」

 ころころと。歌うように。

「貴女に消えぬ私を残せて…良かった」
「だから…」



  「「ありがとうございました」」




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