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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】

275白猫:2008/07/05(土) 22:29:24 ID:W4Rh7kXM0

焦点の合っていない目がようやくこちらに向いて、セシェアはネルに対する愛おしさが湧き上がるのを感じる。
狂っている――そう、狂っていた。
少女――セシェア=ヴァリオルドは、兄を慕い、兄を愛しく想い、既に[兄]として見ることはできなくなっていた。
巨大なあの足はズルズルと引きずられながら、どこかへと消え去っていく。だが、セシェアはそんなものに興味を抱かない。
 【はい……私です。お兄様、やっと……やっと、二人で暮らせるんです。ルヴィラィ様がきっと、素晴らしい新居を作ってくれますわ――】
 「――――ルヴィ、ラィ」
その単語に、ネルの体がピクリと動く。

此処は、何処だった?
       ――イグドラシルだ。

自分は、何のためにここへ来た?
       ――大量破壊兵器である[アトム]を破壊するために。

今失った大切な人は、どうして此処にいた?
       ――彼女が、自分の姉だから。


この戦いの発端は――誰だった?


   ドスッ

その音を、セシェアは最初理解することができなかった。
その音が、自分の胸から聞こえたことを理解するのに、半秒掛かった。
その音は、ネルの手に握られたグングニルからも聞こえたと理解するのに、二秒掛かった。
その音で、自分の胸がグングニルによって貫かれたのだということを理解するのに、五秒掛かった。
 「お前は――違う。セシェアじゃない」
だが、愛しい兄のその言葉を、理解することはできなかった。
 「セシェアは優しい子だった……誰よりも優しくて、誰よりも可愛い、僕のたった一人の妹だった」
"だった"――ネルがそう言うのを、セシェアは聞いていて、聞いていなかった。

ヴァリオルドへ向かう道中に魔物と遭遇し、殺され、
ルヴィラィに気まぐれに拾われ、傀儡として再び命を与えられ、
そして今、破壊の槍によってその命が燃やし尽くされようとしているのを感じ、戦慄いていた。
 「お前は――セシェアなんかじゃ、ない。お前はただの――名前すら持たない、哀れな傀儡だ」
立ち上がってグングニルを引き抜いたネルは、頬を伝う涙すら拭わず、冷たくそう言い放った。

本物のセシェアなら、アネットの死に何も感じないわけはなかった。
本物のセシェアなら、ルヴィラィに媚びるような言葉を使うわけはなかった。
例え彼女が本物のセシェアだったとしても――自分はこんな妹を、妹だと思うことはできなかった。
例え彼女が、自分が数年間探し続けていた愛しい妹だったとしても、自分の誇りだったあの姉を、愚弄することは許せなかった。
ドサリ、と地面へと崩れ落ちたセシェアは、一瞬後に凄まじい勢いで燃え上がり、煤すら残さずに、燃え尽きる。
彼女の断末魔をネルは聞いていて、しかし聞かないふりをしていた。
これで残った傀儡は――先の巨大な足の持ち主と、デュレンゼルの二体だけ。
"それよりも"。
 「……アネ、ット」
あんな一撃を受けたというのに、アネットはまだ人の形を保っていた。
だがあれほどの一撃で、生きている方がおかしい。事実、既に[先制攻撃]で彼女の気配を、感じることはできなかった。
安らかな表情で目を閉じるアネットの傍に跪き、そっとその手を取る。
血に塗れた、しかし白く美しいその手にそっと口付けし、ネルは小さく呟いた。


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