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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】

255国道310号線:2008/07/05(土) 03:34:56 ID:Wq6z33060

−近づくな、人間−

それは5メートルを優に超える深紫色の蜘蛛だった。
威嚇のため前脚を持ち上げるが、動作はひどく遅く、だいぶ弱っているのが見て取れる。
蜘蛛の制止にミモザは足をとめたが、自分の何倍もある巨大な相手を恐れる事無く見上げた。
「あなたが呼んでいたのね。」
この声、それに、振り上げている左前脚の大傷、間違いない。
痛みを感じる左腕に手を当てる、少女はあの声の主はこの蜘蛛だと確信した。
「あのね、痛いよ助けてっていう声が聞こえたの! だから、ミモザね、痛いの治しにきたの!」

やや興奮気味に話し出した彼女に、巨大な蜘蛛は戸惑った。
−おぬし、わらわの言葉が分かるのか?−
「うん!」
ハッキリと自分に答えた人間の子供を見て、蜘蛛は仲間から聞いたことを思い出す。
ビーストテイマー、魔物を使役し操る人間。
その者たちの中には、自然と共感し魔物の言葉を理解する者もいるという。
「…ねぇ、そっちに行ってもいい?」
ミモザは蜘蛛の傷ついた前脚をチラチラ見ながらたずねた。
左前脚の傷は脚の先から中ほどのまでバックリと口を開け、脚は今にも千切れそうだ。
痛いのを治しにきたということは、この左脚を治療したいのだろう。

彼女のやりたい事を蜘蛛は察したが、すぐに返答はしなかった。
ビーストテイマーに気を許すということは、自身が服従させられる危険性がある。
人間の下僕に成り下がることなど、彼女のプライドが許さなかった。
そうとは言え、今の脚さえ動かすこともままならなぬ衰弱した体では、自力での回復は絶望的だ。
屈辱的な生か誇りある死か、彼女は選択を迫られた。


−……かまわぬ、好きにしろ−

しばしの沈黙の後、吐き出す息とともに前脚を下ろす。
彼女は生を選んだ。
「うん!」
嬉しそうにパッと顔を輝かせたミモザは急いで蜘蛛に駆け寄ると、かけていたカバンから救命道具を取り出す。
そして、体液が流れるままに放置していた彼女の傷を治療し始めた。

「おめぇ、ここいらじゃ見かけねぇ面だが、何者だ?」
今まで成り行きを見守っていたケルビーが、大人しく治療を受けている蜘蛛に尋ねる。
蜘蛛を脅かさないようにとのミモザの配慮で彼女と距離を置いているが、万が一、蜘蛛が襲ってきた時に備えて
警戒は怠っていない。

−アラクノイド…、人間達がそう呼んでいる種じゃ−

この地より遥か北方に住んでいたが人間に追われ逃れてきた。
そう語る間、彼女はミモザの方を見ることは決して無かった。
蜘蛛から伝わってくる静かに燃える怒りにミモザはビクリと手を止めたが、そのまま傷薬を塗り続ける。

「はい、終ったよ。」
最後の包帯を巻き終わり、ミモザは笑顔でそう告げた。
傷は全身に及んでいたため、アラクノイドは蜘蛛のミイラのようになっている。
「しばらくは絶対あんせいだからね。 それから…。」
「おい、ミモザ、そろそろ帰るぜぃ。」
他に注意事項は無いかと思案していた彼女をケルビーは急かした。
洞穴の入り口から漏れる光は、すでに赤みを帯びている。
ミモザは慌てて散らかしていた道具をしまうと、ケルビーと共に外へ駆け出す。

−人間よ−

立ち去ろうとするミモザをアラクノイドは呼び止めた。
振り返った少女の半身は夕日を浴びて茜色に染まっている。

−他の人間にわらわの事を黙っていてはくれぬか? わらわを恐れて退治せんと此処に現れぬともかぎらん−

こちらを見すえるアラクノイドの瞳には、切実さが込められていた。
「うん、分かった。」
ミモザはうずくまったままの彼女に手を振ると、黄昏迫る森の中へと家路を急いだ。


あの頃の私は、森に入っては母から教わった治療術で生き物の怪我を治して回っていました。
彼女との出会いはそんな日常の一コマにすぎませんでした。
アラクノイドの頼み通り、彼女の事は私とケルビーと森のみんなだけの秘密にしました。


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