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サブストーリーⅢ『ラトナ武闘会?』
1
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/14(月) 22:00:24
「ラトナ武闘会開催!来たれ若人よ!戦う時は今!」
軽薄な煽り文句と、落書きのようなイラストが書かれたチラシ。
それが、ラトナの街のいたる処に貼り付けられている。
稚拙ながらも妙に人の目を引くデザインと、子供だましな煽りが、
逆にラトナの街の人々の興味をそそったらしく、
武闘会の主催組織でもあり、参加者資格をもつ者達が多く集まる冒険者連盟では、
この話題で持ちきりだった。
「この豪華賞品ってのは、何だろうな?」
「さすがに殺しちゃ反則か」
「……最近街に来た、紅毛の可愛い子も出場するらしいぞ」
「――あの、月の傭兵…は、どうなんだろうな。さすがに魔女は出ないだろうが」
「おい!最新情報だ!――どうやら、ランダムでタッグを組まされるらしいぜ」
「そりゃ、あれか?可愛いルナの子と組めたりする訳か?!」
冒険者で賑わう酒場は、いまやその話題一色だった。
しかし、殆どの者は気づいていなかった。
小さく『企画責任者 ダグディ』と書かれている事に。
2
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/14(月) 22:00:58
GM:久しぶりのサブストーリーになります。
ラトナの街で、冒険者連盟主催の武闘会が開かれる。
っということで、単純な戦闘モノ…となるかどーかは謎です(ぇ
参加は1PL1PCでお願いします。
PCが事前に知っている情報としては
・冒険者連盟主催の武闘会がある
・基本ルールは不殺(殺した・殺そうとしたと判断された時点で失格)
・申し込んだ参加者をランダムにタッグにしての2対2で進むトーナメント。
・豪華賞品がでるらしい(詳細不明)
・街では結構話題になっている
・よく見ると、ダグディが責任者
という事だけです。
テンプレはこんな感じでしょうか?
○大会への評価
○目的
○動機
○基本戦術
○装備
○その他
3
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/18(金) 02:49:20
追記
時期としてはメインストーリーⅢ〜Ⅳの間です。
報酬に関しての噂はダグディ自身が流していて、
「生命の源とも言うべき、癒し効果が!」「これを手に入れれば世界を手に入れたと同じかもしれないな」
「あの冒険者連盟の切り札!」等と煽ってます。
4
:
カイ
◆tMRIkW4z4c
:2005/11/20(日) 03:04:43
とある街角、張り紙の前に幾重にも連なる人の輪。
さらにその中に一人の男がたたずんでいる。
背にはその大柄な体格をさらに超えるような長さの大剣。
「あの剣士さんはやっぱり武闘会にでるんだろか」
「出るかもな、さっきから食い入るように張り紙見てるぜ」
「なかなか強そうだな、出場するなら勝ちに賭けてみようか」
「相方次第だからな、案外あっさり捻られるかもよ・・・っと」
「おーい、そこの戦士さんよ、おまえさんは武闘会にでるんか?」
しばらく張り紙を見つめた後、男は足早にその場を立ち去った。
「癒し効果?・・・なんだそりゃ」
○大会への評価 : 胡散臭い奴が胡散臭い大会を開くってか。妙なこと思いつくもんだな。
○目的 : 大会に裏がないか調査する。という名目で面白半分に参加。
○動機 : 面白そう。ダグディの能力の一端でも知られればいいか。
○基本戦術 : 観客を巻き込まない程度の技を使用。頸声、疾風は使用しない。
もちろん「神の左手悪魔の右手」も使わない。挑発されても絶対に使わない。
観客や関係者に危害が加わる恐れがある(もしくは実際に発生した)時には殺さない程度にタコ殴りにする。
卑怯な振る舞いの結果負けた場合、勝った人物は数日後に闇討ちにあうかも(をい)
○装備 : フル装備。面白半分とはいえ、下手に怪我などしたくないので。
○その他 : 観客や関係者に危険が迫らないならば勝敗にはさほどこだわらない。
5
:
ラーシュ@闇司祭
◆XksB4AwhxU
:2005/11/21(月) 17:51:55
○大会への評価
「報酬が明らかでない所といい、何だか胡散臭いな…」
○目的
強い相手との戦いを通しての修行、及び、純粋な戦闘の楽しみを求めて。
○動機
「胡散臭くはあるが、強い相手と純粋に戦えるのは悪くない。修行にもなるしな」
○基本戦術
殺さないように留意しつつ、通常通りの戦法
(仲間が後衛攻撃系なら防御重視し、補助系なら防御と攻撃のバランスを取り、
自分の身を守れるような前衛なら攻撃重視)を取る。
異能力は使用しない。
大会中に非常事態(何者かの乱入、主催の策略、災害など、
関係者や観客に危害が加わったり危機に陥るような状況)が起きた場合、全力で防御・救助・状況の打開に当たる。
関係者が自分や観客を殺そうとしてきた場合でも、ぎりぎりまで殺さないように応戦する。
○装備
規定などに掛からない限り、フル装備。
○その他
修行と戦闘が目的なので、最終的な勝敗にはそこまで執着しない。
6
:
エクレール
◆VAJ7fpdPRA
:2005/11/21(月) 21:36:26
大通りから少し離れた閑静な小通りにも、そのチラシは張られている。
静かな通りでは足を止める者もいないチラシの前に、一人の少女が居た。
食材の詰まった買い物袋を持て余しながら、煽り文句を食い入るように覗き込んでいる。
「武闘大会の賞品って随分凄いモノなんですね。
危ないことは怖いですけど、強い人と一緒になれれば勝てるかも…
…素敵な賞品なら、これをプレゼントすればお嬢様も喜んで下さるかしら?
そしたら、お褒めの言葉を戴いて…ご褒美も下さったり…うふふふ…」
…妙な含み笑いに震えながら、参加を決意するのだった。
○大会への評価
ダグディの名前には気付いていません。
豪華な賞品を勝ち取る大会程度の認識です。
○目的
賞品を手に入れること。
○動機
賞品をプレゼントすることと、若干の不純な動機を含みます。
○基本戦術
パートナーへの支援を重視して、一人ずつ倒すことを狙います。
自分自身は防御に専念して跳ね回りながら逃げますが、常に相手を拘束する隙を窺います。
冷静に分析しながら戦いますが、誰かさんの姿を客席辺りで見かけたりすると暴走するかも知れません。
○装備
縛鎖聖典、紅月環に加えて、
リゼットからこっそり借りた虚空旋律をスカーフにしています(ぇ
7
:
パティ
◆.ONVKM5Kbk
:2005/11/21(月) 22:18:36
「ダグディ…確か、林檎事件の依頼者だったかしら?
彼、良い線行ってるとは思うけど、どう見ても面白ければ何でも良いって感じなのよね。」
と、企画責任者の名を注意深く見つけて、銀髪で長髪のエルフの女性が言えば、
「あー、確かその手の話を幾つか聞いたことあるよ。こりゃ、賞品ってのは間違いなく、
ロクなもんじゃないよ。人を驚かすのに心血注ぎそうだからねぇ…。」
と、長い茶髪をポニーテールにしている人間の女性が呆れたように言う。
「でも、周りの人の話を聞く限りだと、強い人は集まっていそうだよっ。
…賞品はどうでもいいけど、誰が出てるのかは気になるから、参加してみようっと。」
と、セミショートの蒼髪の少女が、楽しそうに言う。
「それにしても…あたし達、ある意味このチラシ以上に注目されてないかい?」
この時、彼女たちはある事を失念していた。
一人一人が十分に名が知れている上、三人一緒であれば、嫌でも注目されてしまう事に…。
○大会への評価
強い人と戦えたり、コンビを組めたりするのは良いけど、
主催者の名前でかなり台無しになってる気がっ(w;
○目的
強い相手と戦う為。
○動機
強い相手と戦えそう&誰と組めるか楽しみだから。
○基本戦術
速さを生かしたヒットアンドアウェイを基本としつつ、相手(特に前衛系)を引っ張りまわし、
相手のパートナーとの連携を崩すようにする。但し、こちらのパートナーが後衛系であった場合は、
パートナーへの防御を厚めにして動く。ただし、相手を殺さないように、十分気をつける。
技の組み立ては、技の連携を重視する。技で観客を巻き込まないように、細心の注意を払う。
異能力は使用しない。(大会が中止されるような非常事態にでもならない限りは…)
○装備
疾風剣(With 鞘:『旋風』)
彗星剣
ハイパー・サーベリアント・スーツ(最初から装備済)
紅月の指輪
○その他
賞品は間違いなくネタに走ってると思っている。
(レイナやアーシャに言われた影響もあるが、どうもそうにしか思えない)
8
:
リョウ
◆jsI5jKTdcE
:2005/11/22(火) 00:00:50
町の中心部からやや外れたところにある一見の宿。
その一室で青髪の青年が一枚の紙切れを眺めながら何かをつぶやいている。
「2体2のタッグトーナメント…しかも組み合わせはランダムですか…
武道会としてはかなり…いや相当珍しい部類ですね…
タッグ戦というだけなら本来接近戦を得意としない魔術師などの参加を促すためとも取れますが…
ランダムというのはいったいどういうつもりで…」
青年が手にしているのは今話題のラトナ武道会のチラシ。
どうやら彼にとっては腑に落ちない点が多いらしく1人で自問自答しているようだ。
そうしたまま半刻ほどが過ぎ…
「ここで考えていても無意味か…企画責任者からして常識で測れるとは思えない。
まあ虎穴にはいらずんば虎児を得ずといいますし…この場は実際に参加してみることにしますか。
腕試しにはちょうどよいですし、仮にも冒険者連盟が主催ですから賞品も多少は期待ができるでしょう。」
長考の末に一つの結論を出した青年は、おもむろに立ち上がるとチラシを握り締めたまま部屋を出て行った。
9
:
シーナ
◆bkLRdztmN.
:2005/11/22(火) 00:04:09
「やほー、シーナさーん☆」
「ゆ、優さん……なんですか、そのにこやかな表情は……」
満面の笑みを浮かべる優を見て、思わず腰を引くシーナ。
彼女がこのような笑みを浮かべるときは、おおよそシーナにとってよからぬ事を企んでいると相場が決まっている。
「やーねー、そんなに警戒しないでよ。今日はあなたにいいもの持ってきたんだからさ」
そう言ってシーナに差し出したのは、二振りの刀。
「ご注文の小太刀二振り。シーナさんのご要望に合わせて付加能力もつけておいたわよ」
「ず、ずいぶん早かったですね……」
「このラトナ随一の武器商人、御祠優の力を甘く見ちゃダメよ。まあ、多分に幸運も重なったけど、それでもこのスピードで調達できる商人は他にいないわよ」
「ともかく、ありがとうございます。えーと、お代は確か……」
「ああ、それならいいわよ。すでにいただいたから☆」
「へっ?」
解せない。シーナの表情がそう語っていた。
「私は払った覚えがないのですが……」
そう言いながら、いやな予感が頭の中を漂い始める。
「ところでさー、その刀……試し斬りする気はない?」
「はい?」
唐突な話題転換に戸惑うシーナ。
「実は、試し斬りの場として……『ラトナ武闘会』にシーナさん、登録しちゃった☆」
「はい!?」
突然降ってわいた話にシーナは思わず優につかみかかる。
「ちょっと待って、私はそんなのに参加する気無いわよ!」
「そんなこと言っても、登録しちゃったものはどうにもならないし」
「とりあえず、参加は取り消させていただきます!」
きびすを返して武闘会の大会本部へと向かうシーナ。
だが……
「ダメよ、シーナさん。契約にはちゃんと従っていただきますから☆」
「へ……!!」
優の声に振り返った瞬間、頭を締め付けるような痛みがシーナを襲う。
「っつ……いったい何が……」
「シーナさんには、この契約書に従っていただきますよ〜」
そう言って優は、シーナに契約書を見せつける。
〜〜〜
御祠優(以下・甲)と、シーナ=アースティア(以下・乙)の取引に関し、次のとおり契約を締結する。
・甲は、本契約に従い、乙が発注した商品を乙に売り渡すこと。
・乙は、本契約に従い、甲の要望に可能な限り従うこと。
〜〜〜
「なお、この契約書には契約魔法がかけられているから、逆らおうとすると痛い目に遭うわよ〜」
「そんな無茶苦茶な……だいたい、そういうものは当人の了承がない限りは……」
そう反論しようとするシーナに対し、優は紙面の片隅をぽんぽんと叩く。
そこには、手書きのサインが入っていた。
『シーナ=アースティア』
……目を何度も開け閉めする。どう見ても自分の筆跡である。
「この契約書はシーナさんの了解を得て作成しました。よって、この契約書は有効って事で」
「こんなものにサインした覚えは……」
と言いかけて、口をつぐむ。
……間違いない、九分九厘『影』の仕業である。
だが、それを誰が証明するというのか。
『実は、私の中の知らない人が勝手にやったことで……』
……間違いなくキ○ガイ扱いである。
「……分かりました、契約を履行すればいいのですね」
「分かればよろしい。シーナさん、頑張ってね〜☆」
脳天気な優の声援が恨めしく思うシーナであった。
=====
○大会への評価 : 評価以前に、大会の存在自体をつい先ほど知った状況。
○目的 : 優との契約を履行するため。
○動機 : 優が勝手に登録した上、参加を強制された。
○基本戦術 : 意地で『影』は使わない(大会が普通に開かれている間は)。
使わない以上は、おそらく全力に近いレベルで戦わないといけないだろうとは考えている。
(もちろん無茶はしない。相手に必要以上のダメージを与えるつもりはなく、
危険と判断したら躊躇無くギブアップを宣言します)
ルール上認められているようなので、召喚獣もつかいます。
(影を使わないと決めているので、背に腹は代えられない……というレベルで)
※それでも影を使ってしまって暴走させてしまった場合……
一応『影』も大会ルールは把握しているので、相手を殺そうとはしません。
ただし、レフェリーが止めるまではねちねち相手を痛めつけます。
○装備 : フル装備。
○その他 : 強制参加とはいえ、出る以上は手抜き無し、真面目にやるのが礼儀と考えている。
10
:
香天
◆2y0jlMaigo
:2005/11/22(火) 00:19:30
「……結局、登録しちゃいましたねー。まあ、問題ないとは思いますけど」
武闘大会。
本来の香天なら「まだ見ぬ強敵と戦えるかも!」と大喜びで参加するところなのだが
今回はちょっとばかり事情が違っていた。
「冒険者連盟の主催ですか……出来れば近づきたくない場所なんですよね」
『月の傭兵』となるよりも以前、香天は冒険者連盟の仕事で組んだ相手に
いかがわしい悪戯をされそうになり、半殺しの目にあわせた事があるのだ。
だが、悪いことにその相手というのが支部のお偉いさんの甥っ子で
事実をもみ消され一方的に彼女に非があることにされてしまったため即日脱退、
以後は冒険者連盟とは出来る限り距離を置いている次第なのである。
「ラトナだけならともかく、これ程の大イベントだと他の町の支部からも人が来るでしょうね。
もしかして、あそこの連中も来てたりしたら……今回は止めときましょうか」
チラシを見ながら深くため息。出場断念と決めようとした時にチラと目に入ったのが
───『企画責任者 ダグディ』
「ダグディっていうと、確かあの『林檎』事件の……あとホワイトジョーカーの人、でもあったはずですよね?」
直接の面識はまだないのだが、巷の噂話に、また『傭兵』の仲間からも色々と話は聞いている。
まったく知らない相手─という訳でもないし、何より彼は連盟にとっても持て余し気味の問題児である。
そのダグディが連盟主催のイベントでそんな重要な役どころを任されるとは思えない。
すなわち『企画責任者 ダグディ』はイコール『主催者 ダグディ』の意であり、
冒険者連盟は単に建前上名前を冠されているだけだろう。それならば───
○大会への評価
「賞品とか思いっきり胡散臭そうですけど、そんなのは別にどうでもいいです。
問題は連盟のお偉いさんが来場してないかどうかと、何より──強者がどれだけ参加してるか、ですねー」
○目的
強敵との戦いを楽しむ。勝てれば勝てるに越したことはないが、あくまで楽しむのが第一義。
あと、噂のダグディの顔も一度見てみたい。
○動機
もちろん、まだ見ぬ強者と出会える事。そして普段は共闘している仲間とも戦える事。
○基本戦術
相手チームに前線で戦うタイプの強者がいるなら
出来ればその相手と自分、パートナーともう一方の相手というタイマン×2の構図に持ち込む。
そうでないなら、パートナーとの連携も重視してさっさと勝ち抜けを目指す。
もちろん『相手を殺さない』という(ほとんど唯一の)ルールは遵守。
ただし、余程憎い相手(例のセクハラ卑劣漢の関係者とか『老人』とか←出ないって)が相手だと…殺すかも。
あと、突発事態で大会そのものが崩壊したorしそうな場合も。
・『氣甲装身』について
強敵とのタイマン構図になった場合、使用して戦う。
そうでない場合も、パートナーが接近戦タイプならやはり使用する方向で。
パートナーが遠距離戦を得意とするタイプなら、基本的には使わずに撹乱を主体として戦う。
ただパートナーが狙い打ちされそうな場合は使用、相手の攻撃をカバーするようにする。
○装備
『七香天』は着けて行くが、あくまで万が一の突発事態に備えてであり、試合中に特殊能力は使わない。
『帝龍』はまだ完成しておらず持っていないが、もし試合を勝ち進んだ場合
試合前、もしくは試合中に猫ルナのアルフが『帝龍』を持って来てくれるイベントが発生(お約束)
11
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/23(水) 17:37:23
サブストーリーⅢ『ラトナ武闘会?』―結果発表―
ラトナの休日。
普段はゴツイ男達が黙々と修練に励む、冒険者連盟の練習場。
いま、その周辺は人の海で埋め尽くされていた。
即席の闘技場に変えられ、中空には魔導具を使ったと思われるオーロラビジョンが、
選手一人一人の動きを大きく映し出し、遠くの観客にも試合の様子がつぶさに解るよう配慮されている。
参加選手数十名から、予選を勝ち抜いたのは12名。
全て、大会の始めにランダムで決定されたパートナーと組んでの試合に勝ち残った面々だった。
そして――。
決勝の組み合わせが、冒険者連盟の大きな掲示板に張り出される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ラトナ武闘会決勝組み合わせ
パトルアリス・スターティアラ vs リョウ・トライハート
影星鈴 ユフィール・クロスウィンド
呉 香天 vs エクレール・クォレル
ラーシュレイ=スヴェル シャル・ファウ(シャルロット・ファウンテン)
シーナ=アースティア vs カイ=マクスウェル
鎧羅 トゥレシ
あ、そうそう、最終決勝は、勝ち残った3組で、
タッグを組んだままでのバトルロイヤルとなるんで、宜しくー。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最後のフレンドリーかつテキトーなメッセージが激しくやる気を削ぐものの…。
ラトナ武闘会は、今、まさに佳境を迎えようとしていた。
12
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/23(水) 17:39:47
◆ ◆ ◆
大会開始を告げるダグディの声。
そしてアナウンスが響く!
全選手入場!!
死人殺しは生きていた!! 更なる研鑚を積み人間凶器が甦った!!!
帰還者!! カイ=マクスウェルだァ――――!!!
「おい、誰が人間凶器だ?」
総合格闘技はすでに我々が完成している!!
影式柔撃術免許皆伝 影星鈴だァ――――!!!
「……さすがに、そこまでは言わん」
離れしだい撃ちまくってやる!!
遺跡ハンター、クールスプリガン リョウ・トライハートだァッ!!!
「接近戦も出来ますよ…一応」
素手の殴り合いなら我々の歴史がものを言う!!
素手の妖精 謎の拳闘家 呉 香天!!!
「歴史って……それに、我々って誰ですかー」
真の護身を知らしめたい!! 神力術の達人 エクレール・クォレルだァ!!!
「…え、その…がんばります」
全戦闘術のベスト・ディフェンスは私の中にある!!
鎧の神様が来たッ 鉄壁の鬼 鎧羅!!!
「鎧の神様〜?そりゃ、まあ防御にゃ自身があるけどよ」
バーリ・トゥード(なんでもあり)ならこいつが怖い!!
赤毛のピュア・ファイター トゥレシだ!!!
「殺しちゃだめなのよね…難しいわ」
火の部族族長こそが地上最強の代名詞だ!!
まさかこの男がきてくれるとはッッ ラーシュレイ=スヴェル!!!
「おい、なんで俺の素性を知っている!」
闘いたいからここまできたッ キャリア一切不明!!!!
美貌の拳銃使い シャル・ファウだ!!!
「姉さま…いらっしゃると思ったのに」
色っぽぉぉぉいッ!!説明不要!! 推定93!!! 59!!! 87!!!
シーナ=アースティア!!!
「なっ、なんの数字ですか!――違います!」
魔術は実戦で使えてナンボのモン!!! 超実戦魔術!!
本家魔導師連合から、魔法少女ユフィール・クロスウィンドの登場だ!!!
「え?ええっ?わたし実戦はあんまりしてないよ」
若きアイドルが帰ってきたッ
どこへ行っていたンだッ ブルーブレード
俺達は君を待っていたッッッ。パトルアリス・スターティアラの登場だ――――――――ッ
「え…アイドルって、えええっ?ボクぅ!?」
13
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/24(木) 20:59:08
◆ ◆ ◆
アップテンポの軽快な曲が流れる選手紹介。
その合間に、別のオーロラビジョンに予選での各選手の戦いぶりが映し出されている。
紅蓮の炎を纏ったラーシュの一撃で吹き飛び、香天の追撃でダウンする巨体の戦士。
エクレールの拘束結界に動きを封じられ、ファウの拳銃から軽く放たれる一発の銃弾で沈む魔導師。
夾出身と思われる二人の侍姿の男が、パティとセイの姿が霞むと同時に倒れる光景。
リョウの神速の射撃で貫かれ、ユフィールの魔術によって現れた虹色の閃光に飲み込まれる召還獣。
舞うような動きで騎士姿の男を翻弄するシーナ。そこへ、鎧羅が止めの剛剣で峰打ちにする。
最後に映るのは、カイとトゥレシ。
巨大な剣が振られ、紅い光が奔る。――それだけで、担架が二つ運び込まれて試合が終わっている。
「どの選手も、一騎当千!どこが優勝してもおかしくない実力です!
しかも、半数以上は、かの月の魔女の傭兵なのです!やーすごいですねー、解説のギースさん」
ヘンなアナウンサー口調で、ダグディが隣の覆面男に話をふる。
「………ああ。ラトナでは最強の武装集団だろうからな」
覆面男。月に踊る天使亭のバーテンダー、ギースは、あっさりと肯定して物騒な感想を漏らす。
「冒険者連盟当局も目をつけているらしいですが、逆に月の魔女に目をつけられるかもと、
幹部連中も戦々恐々みたいですね。まあ、どうでもいいことですが」
そして、更にあっさりと冒険者連盟の内情を暴露するダグディ。
観客からはくすくすと笑い声が。
冒険者連盟幹部は、官僚的だと評判が良くないこともあって、
冒険者が多く集まった闘技会では格好のネタとなるようだ。
「そんなシケタ話題は置いといて。さあ!第一回戦が始まります!みなさん拍手をーー!」
割れんばかりに響く拍手と共に、入場曲が響く。
この日の為に、楽団まで用意していたらしく、その演奏は本格的だった。
いやがおうにも盛り上がる観客。
そして――。
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17
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/27(日) 17:03:18
◆ ◆ ◆
剣術、拳闘の訓練用に設計された練習場を改良し、闘技場とした戦いの舞台は、
流れた血を吸い取り、叩きつけられる時にクッションとなるのに最適な砂を使用している。
その足元の砂に僅かな足跡も足音も残さぬ歩法で、影星鈴―セイ―とパティは、静かに入場する。
と言っても、冒険者連盟でアイドル的存在となっているパティがいる以上、
その歓声で足音等聞えもしないのだが。
「目立つのは好きでは無いのだが……な。是非も無しか」
「あぅぅ、ごめんなさい、セイちゃん」
パティをちらりと見て苦笑いするセイに、パティが申し訳なさそうに謝る。
観衆の熱心なパティコールが恥ずかしいのか頬は真っ赤だ。
二人とは逆サイドの入場門では――。
ブーイングと歓声が入り混じった声が響いていた。
『ユフィーちゃぁぁん、可愛いよー』というような声援に混じって、
『スプリガン野郎!われらがシスターを返せ!』という男の声が聞えてきたりもする。
「――あれ?リョウさん。なんだか、またブーイングされてますよー?……シスター?」
「そ…それは、コホン。気にせず行きましょう」
予選の時から、ブーイングが続いているのが気になったのだろう、
金のツインテールを揺らして首を傾げるユフィーに、リョウは明後日の方向を向いて誤魔化す。
クールスプリガンこと、リョウ・トライハートがユビキタス教会の女神とも言われているシスターと
深い仲だという噂は、ラトナ中に広まっている為、やっかむ声もまた大きい。
「はーい。――それじゃ、作戦通りにですね」
「迎撃結界で一瞬で奇襲を排除してください…私もなるべく持たせて、ユフィーさんの魔導攻撃の機会を作ります」
シンを介在させた思念通話で、戦術を確かめ合う二人。
しかし……リョウ自身、この戦いは分が悪いことをヒシヒシと感じていた。
ユフィーは、魔導師連合所属者としては珍しく実戦経験の持ち主らしいが、それでも月の傭兵である
リョウやパティとは踏んだ場数が違いすぎる。
そして、パティのパートナーの影星鈴。実力は未知数、ただ解っているのは予選で全ての敵を一撃で倒していること。
その落ち着いた佇まいは、実力を伺わせるのに十分だった。
「パティ、範囲系魔術への対策として二手に分かれる。
パティはあの弓使いを頼む。私は、あの魔導師の可愛いらしい子と戦うこととしよう。」
「セイちゃん、無意識に言ってるんだろうけど……『可愛い子』って……ふーん、そうなんだねー」
「いや、そーいう意味では無いぞ」
「どーせ、ボクは、あんな可愛くないよっ」
淡々といつもの無表情で返すセイ。
しかし、セイを良く知るパティには"図星を突かれた"というような、小さな表情の変化を捉えることが出来る。
彼女は、パティの姉達と同じく、結構気が多いのだ。
そんなやり取りの中、試合開始の合図である銅鑼の音が鳴り響き、姉妹喧嘩を中断させた。
18
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/27(日) 17:05:38
――小さな砂煙と共に、パティ、セイの姿が消える。
一瞬でユフィーの迎撃結界魔方陣が完成。リョウの姿が"ワーウルフ"へと変化する。
魔方陣に凄まじい電撃の嵐が生まれ、人狼と化したリョウの腕に装備されたハーフアームクロスボウから中空に向けて光が疾る。
「きゃっ。な、なんで当たらないの?!」
A+級の迎撃結界が繰り出す雷撃を避け続け、眼前まで迫ってきたセイにユフィーが驚きの悲鳴を上げる。
ユフィーの結界の深部にこうまで深く侵入出来る相手は初めてだっただけに、同様が顔色に出てしまう。
「ふむ。――やはり、なかなか可愛いな。瞳と髪が綺麗だ」
「……え?あの…」
わざわざシンの伝導を利用した通信手段を用いて、耳元で囁きかけるように賞賛するセイの言葉に、
青ざめていたユフィーの頬が薔薇色に染まる。
セイは芸術的なまでの動きで雷撃を避け続けながら、その凛々しい口元に笑みを浮かべて微笑んだ。
「私がそちらに行けたら、降伏してもらえるか?傷つけたく無いからな」
「…は、はい……。っ!あぅあぅ、で、でもっ、近づけさせませんからー」
そんなユフィーの様子に小さく微笑むと、セイは結界強度が中央部へ移行して来たのを
察知し、速やかに結界外へ退避する。
(な、なんか向こうは妙な雰囲気になっていますね――。早くカタをつけて、ユフィーさんの援護にいかないとマズイ気が)
焦る心を冷静に理性で抑制し目の前の敵を見やる。
リョウの右腕から放たれたクロスボウは、神速の踏み込みで近接距離まで迫ってきたパティを捉えていた筈だった。
……が、確実に相手を無力化する為のスタン効果を付与した矢は、綺麗に刀で弾かれていた。
「さすがだね、リョウさん。でも、この距離ならボクの方がずっと有利だよっ」
「確かに。けれど、その為の人狼化ですよ」
変身により強化された脚力で一気に加速する。勿論、パティを引き離す事は出来ないだろう。
しかし、それは逆にパティを引き付けてセイへとの距離を広げ射程内に収めると言うことでもある。
――そう簡単には、撃たせてもらえはしないだろうが。
パティの姿が再び霞む。
想定を遥かに超えた速度で間合いを詰められ、剣閃が身体をかする。
そして――。
「いくよ!――蒼天流…双牙斬!!」
――巻き上がる砂塵と共に、衝撃波を伴う斬り上げ。
完全に入る事は無かったものの、剣から発される波動はリョウの身体を中空に持ち上げる。
(っ、さすが…効きます。人狼化していたとしてもマトモに食らえば……
まずいですね。――いえ、これはチャンスかもしれません)
斬り上げと同時に飛翔したパティ。リョウとの距離が僅かにだが開く。
瞬間。
リョウの腕に装備されたハーフアームクロスボウから二発の矢が凄まじい速度で放たれた。
軌道を全く同じにしたまま――パティの刀目掛けて。
二本目の矢を同じ軌道で放つことにより二発目の矢を隠すトリッキーな弓技、ブラインドアロー。
それを、武器破壊技であるテンペストブレイクと組み合わせた絶技だった。
一本目の矢は、振り下ろされた刀に弾かれる。
しかし二本目の矢は、さすがに意表を突いたのか、パティの剣閃をぶれさせる。
そして、その二本目の矢は――バーストアロー。爆発系の矢だった。
「――っ」
技を中断し、すぐさま爆発範囲内から離れるパティの後を追うように爆風が吹き付ける。
しかし、ダメージを与えるまでには至っていないだろう。それも計算の内、リョウもまた爆風に紛れて距離をとる。
射程は十分。
クロスボウの向けられる先は、迎撃結界内に侵入を繰り返すセイ。
「きゃぁっ、きゃぁっ、嘘、何で当たらないの?!こっちに、こないでくださぁい」
「ふむ。嫌われてしまったか?――残念だ」
「え?……そ、そんなことは無いけど。でも、試合だし」
「では、試合が終わった後ならば……傍に寄っても問題ないな?」
「………う、うん。ちょっとだけなら、いいよ」
ぽっ。再び頬を赤らめるユフィー。いい雰囲気だった。
そこへ。
「――!!」
リョウの腕から放たれた閃光がセイを捉えた。
否、紙一重。しかし、無理な回避行動を取らされた為、迎撃結界内の電撃までは避けられず、セイの右腕はしたたかに雷撃で撃たれる。
しかし、動きは俊敏。電光を纏わせながら、再び結界外へ退避する。
「油断したな……しかし、無粋な狼だ」
ユフィーを口説くのに熱心になるあまり油断していたのが悔しいのか、セイの唇から自嘲を含んだ文句がでる。
「セーイーちゃーんー」
パティがジト目で睨む。リョウへ向ける闘気よりも、こちらの方がより密度が高そうだ。
「――ああ、真面目にやるから」
冷や汗を額に伝わせつつ、セイの姿が霞む。再び雷撃の嵐と化す迎撃結界。
19
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/27(日) 17:06:11
「こっちも再開だよっ」
「望む処です」
中距離。――ハーフアームクロスボウに装填されている矢の残数は二。
(10秒のリロードは、この状況下では致命的。もう少し重装備で挑むべきでしたね)
「蒼天流、烈風剣!」
パティが高らかと技名を叫ぶと、蒼い闘気が高速で迫る。
回避したものの、僅かにかすった。が、人外の回復力がその傷を一瞬で塞ぐ。
中距離対応の技であろうその斬撃の余波を人狼と化した肌で感じつつ、リョウは反撃の機を狙う。
勿論、パティと共にセイをも射程に捉える事は忘れていないが、さすがに二度同じ手は通用しないだろう。
徐々に間合いを詰めるパティに、そうはさせじと大きく踏み込む瞬間にカウンターを入れようと集中するリョウ。
中距離から近距離ギリギリまでの間合いで、互いを伺う二人。緊張感が高まる。
そして――。
「蒼天流―斬空烈波斬!!」
剣の振り下ろしと同時に無数の刃を生じさせ、敵を切り刻む技。
この技は囮、完全に決めることが出来ないのを前提に、他の技へ繋ぐ。
パティ蒼い闘気が剣を覆う。
リョウもまた素早く反応する。
未だギリギリ射程範囲。技を放った後の隙を見つけ出せば、二本の矢だけでも十分。
変化術を用い、ニードルショットの性質を持たせた矢を作り出しながら、照準をパティに合わせる。
二人の集中が極限に達した時。
「終わったぞ」
ぶっきらぼうな声が響いた。
集中を遮られた二人が振りむくと、そこには――真っ赤になってるユフィーをお姫様だっこしているセイ。
「……あの……ごめんなさい、リョウさん。捕まっちゃいました」
「――こほん。とりあえず、我々の勝利だな」
「…不本意です」
「…ボクもだよ」
◆ ◆ ◆
おまけ
退場するユフィーに、なぜか自然な様子でついてゆこうとするセイ。
「セイちゃん……。どこへ行くのかな?」
「いや、戦いが終われば、昨日の敵も今日の友――だからな」
着物をパティに掴まれたセイの額に一筋の汗。
「そーなんだ。じゃあ、ボクも一緒にいこ。
セイちゃんが、リョウさんとは"違う"狼にならないようにねっ」
「……むぅ…了解した」
20
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/28(月) 21:38:26
◆ ◆ ◆
冒険者連盟と魔導師連合のアイドル的女性選手が登場した前試合と比べるとさすがに声援はトーンダウンしたものの、
銀髪で美貌の拳銃使いに、メイド姿の妖精的な美少女、小さいながら(小さいだけに?)巷で人気の小美人、
ワイルドな魅力を持つA級ルナとして注目されている青年が出場するだけあって、観客の盛り上がりは続いている。
「あの…シャルロットお嬢様、いつラトナに……」
「しっ。私はシャル・ファウです」
そんなやり取りをしながら、入ってきた、シャル・ファウとエクレール。
シャル・ファウとは偽名。
本名シャルロット・ファウンテン……エクレールの使える主人リゼット・ファウンテンの妹。
そんな意外性たっぷりの人物と偶然、武闘会のパートナーとなってしまったのだった。
(私はお嬢様に賞品をプレゼントをしたかっただけなのに…なんという、神の悪戯でしょう…あぅぅ)
エクレールは恨めしげに空を眺め、嘆いた。
「本戦に来るまで、大した相手はいませんでしたねー。今度の相手は、ちょっと期待できそうですけどー」
「一人は月の傭兵、もう一人は、ラトナでも数少ない魔導機銃使か。楽しみだ」
ラーシュと香天。
純粋に"闘い"を求めて来た二人の唇には笑みが浮かんでいる。
握る拳、剣の柄にも力が篭る。
「相手は連携を重視した後衛火力と防御補助型。分断するのが手だな」
「はい。どちらが…とは決めないほうがいいですねー。こちらも連携でー」
香天の身体を異能力『氣甲装身』が覆う。
ラーシュの剣に炎が宿る。
「エクレールは私への援護と、補助をお願いします」
「はい。任せてください」
「それと――大会が終わったら、お姉さまの居場所、吐いてもらいますからね!」
「はぅぅ、そ、それは…」
妙なオーラを放っているシャルと、妙に恐縮しているエクレール。
――そして。
各人の思惑を他所に、試合開始の銅鑼が鳴り響く。
21
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/11/29(火) 22:35:15
◆ ◆ ◆
一瞬で間合いを詰める。
近接戦闘タイプの香天とラーシュの選択は、当然の正攻法だった。
今までの戦闘では、完全無欠にそれで決着はついていた。
が――。
進行先を遮る結界の鎖。
それを縫うように、拳銃の抜き撃ちで弾丸が連射される。
ガッガッガッ!
エクレールの構成する鎖型拘束結界が拳銃にとって最適な射程に敵を追い込み、
シャルが精密な射撃で攻勢をかける。
敵を寄せ付けず有利に闘いを進める為の見事なコラボレーションだった。
「ちっ!……結界ってやつはやっぱ苦手だ」
「銃撃も、狙いが正確なだけに避けやすくはあるのですが…どうも、手の内みたいです…やばいですねー」
拘束結界を紙一重で避けつつ、飛来する銃弾を剣で弾き落とす。
華麗な演舞のごとき体術を駆使して避け続ける。
――香天、ラーシュも見事に反応はしていた…しかし。
誘導されている。
徐々に不利な間合い、拘束結界と銃撃とが重なり効果的に連動する位置へ。
「エクレール、更に中央へ追い込んで」
「はい。――シャルロ…あぅ、ファウさん」
狭まる鎖型の拘束結界。激しさを増す拳銃の連射。
既成の弾丸を用いるタイプでは無く、魔力そのものを弾としているのだろう、
デザインは回転式拳銃。装弾数は六発のみなのだが、術者の魔力が高速自動装填される最新型らしく、弾切れの様子は無い。
「あ、あはっ、あの二人の能力ってかなり相性いいんですねー」
「今まで戦ったことの無いタイプだが……付け入る隙が無いな、っと!」
中央に追い詰められた香天・ラーシュが背中合わせで苦笑いする。
戦況は不利。しかし、二人とも余裕は失っていない。
「モード…『グラッセ』」
シャルの拳銃が蒼い光を放つ。銃口に小さな魔方陣が浮かびあがった。
高度な魔術が展開していることを示す呪紋が魔方陣を彩り、高速回転を始める。
瞬間、その中央から射出される魔弾。
それは蒼く輝き――。
「範囲系?――っ」
「くっ、避けろ!」
「させません!」
香天、ラーシュ、エクレール、三者の声が重なる。
放たれた蒼い魔力塊は、着弾と共に銀の光となって散開する。――氷の橋。
それが空中へ縦横無尽に広がった。同時に吹き付ける冷気。逃げ道を巧みに塞ぐ白い鎖。
「っちぃ!結界が邪魔か――しまった」
「援護しますよー!」
ラーシュの腕が、氷の橋につかまったのを見て、香天が衝氣によって氷塊の根元を破壊する。
自由になったラーシュは瞬時に体勢を整えると、再び撃ち放たれる冷気弾を見据え、一気に闘気を解き放った。
火の部族の族長候補である彼の闘気の性質は炎。
それを――宝具「ウィンドスピリット」の力によって増幅して炎の刃と化して放射したのだ。
炎刃と氷弾がぶつかり合う。――キィィィン!澄んだ音が響いた。
火炎によって溶け砕かれた氷塊が周囲に散らばり、砂地に溝を作ってゆく。
……ラーシュの火炎刃の威力が氷結弾に勝ったのだ。
「危ない危ない。氷だけに肝を冷やしたな」
「ラーシュさん、それはちょっと寒いですよー」
「なかなかですね。さすが……姉さまの仲間、月の傭兵」
「シャルロット様、いつの間にこんなに腕をあげられたのです…?」
22
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/12/03(土) 00:29:53
再び張り詰める緊張感。
一度の集中撃を回避したものの、香天・ラーシュが中央に追い詰められていることには変わりない。
相手も同じ手は使わないだろう……とすると。
二人の身体が微妙に相方との連携を意識しつつ、じりじりと間合いを狭め始める。
それに対応して、エクレールの結界、シャルの銃口も移動する。
その緊張の糸を切ったのは……。
「エクレール!がんばりなさい」
よく通る、凛と張りのある声が歓声を縫って、エクレールにかけられる。
誰よりも愛しく思う人物のその声を、"二人"が聞き逃す筈も無かった。
「お嬢様!」
「お姉さま!」
観客席に見える凛々しい姿。
エクレールの方は、そんな状況には慣れていた。
お嬢様の姿に見惚れて、戦闘での手を緩めてしまうことは無い。
しかし、シャル……妹であるシャルロット・ファウンテンは、免疫が無いだけに動揺も大きかった。
香天、ラーシュ、どちらも狙えるように照準を合わせていた銃口は下を向き、
一瞬とは言え、完全に観客席に気をとられてしまっていた。
「――隙ありー!」
「甘いな」
A級ルナである香天、ラーシュが、その隙を逃す訳が無い。
一気に間合いを詰める為に踏み込む。
「――鎖よ!」
エクレールが懸命に拘束結界を展開させ二人を絡めとろうとする。
並みのルナならば、一瞬で雁字搦めになるであろう程、雨のように鎖型の結界が襲い掛かる。
特にシャルへ向かう道筋には、数十本もの鎖を用意し、彼女の隙をフォローする。
が……。
「っっ!頼むぜ、香天」
闘気を最大限に放出したラーシュが、その拘束結界の中へ飛び込んだ。
そして無理やり道を開くと、相方へ一言。
「カッコイイですよー、ラーシュさん」
ふわりと笑って、香天が炎の形をした刃によって切り裂かれた結界の隙間に身体を入れ、
強く跳躍――シャルの元へ辿り着く。
「このっ!」
「距離が甘いですねー」
はっと我に返り、香天へ銃口を向けようとするシャルの腕に、美しい脚線が弧を描いてヒットした。
鎧結界の上からでさえ、その衝撃は激しかったらしく、シャルの手から拳銃型の魔導機銃が落ちる。
優雅に一回転しての連撃。掌が、シャルの鳩尾に吸い込まれる――衝氣。
無駄なく氣を打ち込む技である為、本来ならばそのまま相手は崩れ落ちる筈だった。
しかし、高い戦闘術の心得があるのだろう、シャルの足は、無意識に衝撃を和らげるために地を蹴っていた。
23
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/12/04(日) 01:27:36
◆ ◆ ◆
「くっ、援護を」
「いや、俺の相手を務めてもらうぜ」
疾る鎖型結界を、炎の刃が断ち切る。
しかし、同時にラーシュの手と脚に巻きついた拘束結界はギリリと締まり、
体勢を崩させる。――攻撃と防御の激しいせめぎあいが続く。
シャルへの接近戦を許してしまった以上、大規模な障壁結界を作るのは難しい。
相手はA級ルナ二人。一つ油断をすれば、自らの身すら危ういのだ。
エクレールの額に汗が流れる。
(向こうはシャルロット様に任せるしか……。私の仕事はラーシュさんを抑えること!)
宝具「縛鎖聖典」から幾筋もの新たなる鎖型結界が生まれ、ラーシュを包囲し始める。
「なるほど、援護妨害。更には封じ込め狙いと……面白い」
ラーシュの持つフランベルジュが業炎を纏う。
一振りすると炎の軌跡が描かれ、その火勢を物語る。
「ブルー・ホライズン」
エクレールの放った鎖が蒼く染まる。
それらが幾重にもラーシュへ襲い掛かる。
同時に
「――そう簡単には…っ」
未だ絡めとられている腕と脚を無理やり動かし、芸術的な剣捌きで鎖を断ち切る。
そして、剣の触れた箇所から外への指向性をもった爆発が――。
ゴォォン、ドゴォォ!剣の軌跡に沿って何十発もの花火のような紅の華が咲く。
『炎樹連爆』。至近距離での爆破はバックファイアも厳しく、なかなか使えない技だったが、
ラーシュのフランベルジュに絡まっている枝状の宝具「ウィンドスピリット」の力により、
指向性を持たせることが出来た故に、使い勝手が良くなっている。
「まだまだです!」
次々に撃墜される蒼い鎖だが、あっという間に再生分裂して、再びラーシュを囲む。
氷属性の鎖は、直ぐに固まり、再構成を可能としているのだ。
エクレールもまたA級ルナであり、神力術の達人。
――炎と氷、攻と防。未だ決着はつかず。
24
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/12/05(月) 19:52:11
◆ ◆ ◆
一方――。
吹き飛ばされた形になったシャルと、技を決めた香天。
勿論それだけでは終わらず――。
「止めです!」
シャルの頭上へ飛んだ香天が脚に紅の氣を漲らせ、急降下する。
五曜聖獣拳の奥義の一つ「火曜星・朱雀蹴」。
敵の頭上をとった上で凄まじい数の蹴撃を繰り出す、必殺の技。
だが、香天が蹴り砕いたのは――突如襲い掛かってきた氷塊だった。
(なっ、なんですかー?これは…一体?!まさか――)
反射的に中空から顕現する氷を破壊しながら、香天は"可能性"に行き当たる。
「迎撃結界……。間に合ったようですね」
シャルの美貌に笑みが戻る。
それでも、衝氣で受けたダメージは強烈だったらしく、足はふらつき、体勢は整っていない。
そんな状態で迎撃結界を編み上げたのだ。――並大抵の魔導技術では無い、が……。
「まだ、まだ、ですよーー!」
結界の中、香天の声が響く。
襲い来る氷弾を火炎の如き氣を纏った脚で蹴り受けながら、
シャルに向かって迎撃を叩き落としながら間合いを詰めているのだ。
「バカな――。いいでしょう!私とて、体術はっ…」
選択肢は二つ。間合いを取って魔術で攻めるか。
間合いを詰めて、体術にて迎えるか――。
(姉さまの前で逃げる姿など…!)
シャルは後者を選んだ。
紅の軌跡を描く香天の足技を両腕で受け止める。
同時に十分に修練を積んだ事のわかる見事な蹴りを合わせた。
カウンターの廻し蹴り。しかしその先に香天の姿は無い。
ゴッ!鈍い音と衝撃。
香天の蹴撃は、シャルの防御をバネにして再び飛翔し、襲い来る廻し蹴りを回避した後、
再び急降下――。見事に、最初の衝氣によって綻びていた結界を砕き、
氣甲装身によって形成されているつま先を鳩尾に叩き込んだ。
「くっ…ぅ」
がっくりと膝をついて呻くシャル。
「勝負、ありですね。本当に、ギリギリでしたけどー」
砕き切れなかった迎撃結界の氷弾を受けたのだろう、
右腕と脇腹を凍りつかせたままの姿で香天が一つ息を吐いた。
◆ ◆ ◆
「シャルロットお嬢様!…ぁ、いけない」
崩れ落ちるシャルの姿を見て、エクレールの唇から叫びが漏れる。
それでも、結界に綻びを生じさせないのは、これまでのリゼットと共に積んできた戦闘経験故だろう。
(二人の隙をついて、シャルロットお嬢様を癒して戦線復帰させる事は……さ、さすがに厳しそうです)
完全に守りに入るのならば、結界を駆使して二人を相手にすることは出来る…。
しかし、火炎を刃とする目の前の青年と、ダメージを受けているとは言え、優れた格闘家を一人で捌くのは…。
(アレを使わない…副作用――を考えると……でも、お嬢様が見ていらっしゃるのに…)
メラメラと暴走しかけるエクレールの思考。
「ん?拳銃使いのお嬢ちゃんは、癒さなくていいのか?」
ラーシュの言葉で、はっと我に返る。
「そうですね。――そちらの方が、"私の仕事"です」
ふわりと微笑んで、エクレールは「降伏します」と伝えると、
シャルロット・ファウンテン……大切なお嬢様の妹の元へ駆け寄って行った。
25
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/12/08(木) 22:39:57
◆ ◆ ◆
観客席が、突如異様な盛り上がりに包まれた。
「ぬぉぉぉー!」という野太い声が、即席の闘技場を揺らす。
その妙に殺気立った歓声は――入場門から現れた一人の美女に向けられていた。
身体を殆ど隠さず水着のように肌の露出した衣服に、薄物の羽衣で覆った扇情的な姿。
その魅惑的な曲線が全て羽衣から見えてしまい、逆にその下は全裸では無いかと妄想させてしまう、
悩ましさがあるのだ。
「な、なんですか……一体?」
当の美女―シーナ―と言えば、びくんと身体を震わせて怪訝そうに呟きを漏らすだけ。
なぜ、こんなにも男くさい歓声が自分に浴びせられるのか解っていないようだった。
「そりゃぁ、そんな色っぽい格好してりゃーなぁ」
無骨な夾風鎧の上からも逞しい体躯が解る大男――鎧羅が、苦笑を湛えた口調で答える。
しかし、彼自身は、周りの男達とは違い、全く心を揺り動かされていないのか、シーナを見る目は変わらない。
落ち着いた闘気がかすかに感じられるのみ。
「何を言っているんですか。私は肌を大きく隠してますよ」
「……いやな、そーいう問題でもねぇんだが。まっ、気にせずいこうぜ」
くつくつと笑う鎧羅に、少しいじけた様なシーナの表情。相性そのものは良いようだ。
再び。
揺り返すような、やはり男くさい歓声が木霊した。
シーナ達が入場した東門とは逆、西門から入場してきた二人にも、観客は大きく反応している。
否、正確には女性一人、だろうか?
「なに?――人間て煩いわね」
自分に向けられる声援と熱気を迷惑そうに眉をしかめて
ツインテールにした豊かな紅毛を振る少女――トゥレシ。
見事な程整った美貌に白い肌、高慢ささえ感じさせる程の気品と態度、そこから垣間見える稚気。
華奢な鎖骨の下から大きく服を盛り上げて、深い谷間をつくる胸と、
肩を露出させて胸とアンダーのラインだけを覆い、お腹の中央で切られてウェストと小さなお臍が覗くようなデザインの服が
アンバランスな色気を醸し出している。
「……なんつーか。その服は誰が用意したんだ?」
東門に佇む巨漢と変わらぬ逞しい体躯の戦士――カイが、少し呆れたように尋ねる。
「レイナよ。こっちの方が、その、……いい、からって」
トゥレシの透き通った肌に薄く朱が散る。
"……"と誤魔化した部分を考えると「可愛い」とでも言われたのだろう。
なるほどなぁ、と心の中で笑いながら、カイは表情にださずただ無難に頷く。
予選で、少しからかった時には、殺されかけたのだ。この竜族の少女は怒らせない方がいいだろうとの判断だった。
(根本的に、手加減が出来ない性格みたいだしな。あー、ある意味弱いヤツより厄介かもしれないか)
傭兵時代に会った、同じく"手加減の出来ないタイプ"の少年を思い出し、カイは眉を顰めた。
「――何よ?」
その気配を悟ったのだろう、トゥレシが不振そうにカイを睨んだ。
「いや、何でも」
背に負った大剣を抜き放ち戦闘準備を整えつつ、答える。目の前の少女は、アイツとは違うだろう。
(どーも、あの妙に仲のいい姉妹に篭絡されたよーだしな。暴走に気をつけりゃいいか)
観客の声援が一瞬途切れる。
――戦闘開始の合図である銅鑼が、今、まさに叩かれようとしていた。
26
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/12/10(土) 23:36:58
◆ ◆ ◆
一瞬で間合いを詰める闘いが続いていた、これまでの試合だったが、今回は違った。
ゆっくりと大男二人が当たり前のように近づき、間合いを探り出す。
「よぉ、久しぶり。――あの時の続きと行こうか」
「俺ぁ、あっちのお嬢ちゃんの方がよかったんだがな」
戯言を言い合いながら、大刀と大剣が目にも止まらぬ速さで振りぬかれる。
派手な火花と強烈な闘気が、闘技場の中央で眩い光を放つ。
達人同士の闘い。それ以外何者でも無かった。
しかし――。
観客の視線はもう一方の二人に注がれていた。主に男の。
「アナタ……山で兄様と戦った…」
すっとトゥレシの大きな瞳が細まって、僅かな殺気を帯びる。
「え…ええ。ソウシンさんと試合をしましたけど」
何故、トゥレシが殺気だっているのかを理解できないまま、シーナは素直に頷く。
薄手の羽衣から透ける、艶やかな肢体が僅かに動くと、豊かな胸もまた揺れて、
場内の歓声も大きくなる。
「兄様と同じ――技を…使っていたわね?」
「ソウシンさんも、夢幻流の使い手のようですね。かなり腕前で…」
「っ!」
更にトゥレシの殺気が高まる。
その気配に、シーナは訳が解らないものの、最大限の警戒態勢をとる。
すぅっと褐色の肌に冷や汗が流れた。
「そう……なんだ。兄様、闘いを教えた人に手を出すこと多かった…わ」
「え?私は、ソウシンさんに教わった訳では――っ!」
問答無用とばかりに、紅の光がシーナの脇を通り抜けてゆく。
凄まじい――威力だった。
「い、いまの当たってたら、死にかねない気がするんですけど?」
「――まだ、死んで無いじゃない」
「………」
シーナは、これまでで最大の危機を覚えていた。
27
:
GM
◆lor4BkqD86
:2005/12/12(月) 22:21:20
◆ ◆ ◆
「よぉっ、若いの。前と違って剣が大人しいじゃねーか。剣に雷を纏わせる術はどうした?」
荒っぽいながらも正統な夾式剣術に忠実。質実剛健とも言うべき剣筋で、
特製と思われる大太刀が、凄まじい速度と技術でカイに迫る。
全身を武者鎧で固め、顔までもが面頬で覆ったA級ルナ――鎧羅は、芸術的な剣裁きを見せつつ軽口を叩く。
「そりゃ、アンタの方だろ。間合いに入った途端に無差別爆破って無茶な剣は使わないのか?」
カイも負けてはいない。
いや、それどころか、力は互角だとしても、スピード、剣技は若干上回っているのだろう。
目を見張る程巨大なカイの剣は確実に鎧羅の身体を掠めている。
しかし刃そのものは――鎧と闘気、そして鎧と同化するように配されている結界に阻まれ傷一つつけることは出来ない。
「ちっ、相変わらず硬てぇーな、おっさん」
「だから、祠で使おうとしたアレで闘いなって言ってるだろ」
「こんな大勢がいる場所で、切り札の一つをホイホイ見せられるかよ」
「俺も同じだ。――だが、ちょっとした手品なら見せられるぜ?」
大剣と大太刀が数回目の会合を迎え、火花を散らした時。
鎧羅の腕から組紐のような白い何かが二人の獲物をがっしりと結んだ。
神力術応用の一つ『拘束結界』。
「やべーな…っと!」
「甘いぜ」
大剣に闘気を送り込んで、拘束結界ごと切り捨てようとするカイに、
剣技と神力術の両者を駆使して間合いをとらせまいとする鎧羅。
拘束結界に引き寄せられ超接近戦になった、二人は、剣の柄、肘、足技を交えての攻防に移る。
(あちゃー、殴り合いになると、結界貫通の目処が立たない分こっちが不利か。実戦ならヤバかったな)
心中で苦笑を漏らすカイ。まあ、実戦ならば元々こんな展開になることも無いのだが。
漢くさい殴り合いをしながら、カイは冷静に繋がったままの剣を上手く捻る。
そして、相手の足元に自分の足首の裏をひっかけ、一気に上半身のバネをつかって押し投げた。
眼前の敵である鎧羅の故郷、夾に伝わる"柔"と呼ばれる体術の一つだった。
勿論、この投げで、ダメージ等与えられる筈も無い。
しかし体勢を崩すだけで十分だった。同時に、強化術を右手の筋力に注ぎ込む。
片手だけで大剣を密着させたまま「砕」を応用しての零距離打撃…拘束結界を砕き散らした。
そして、すぐさま受身を取って大太刀を繰り出す鎧羅に、自由になった大剣で応える。
再び散る火花。
「ひゅー、やるな。つーか、柔術を使われるたぁ思わなかったぜ。文字通り一本とられたってやつか?」
「おっさんもな。拘束結界なんざ、術師タイプがやるもんだって先入観を突かれた」
28
:
GM
◆lor4BkqD86
:2006/01/09(月) 23:16:26
◆ ◆ ◆
紅光に焼かれ、溶けた跡を見せる砂。
その熱気を感じつつシーナは密かに、使役獣の召喚を始める。
「答えなさい。――兄様と、どんな関係?」
「何の関係もありません」
「嘘」
「そう言われても……あの、もし、貴方にとって不本意な関係だったら?」
「………」
吹き付ける殺気が全てを物語っていた。
(わ、私にどうしろと〜〜)
冷や汗を流しながら、シーナは懸命に平静を保とうと努力する。
――何か動きがあれば、すぐにでも襲い掛かってきそうだ。
(竜というより、野生動物ですね……)
「と、とりあえず、試合を。ルールに則ってですよ?」
「ええ」
トゥレシの体内闘気が一気に上昇する。
それに呼応するように、シーナの腕輪から炎を纏った焔霊獣が現れる。
紅い光が再びシーナを襲った。
今度は、先程の何も考えないで撃ったような強力かつ雑な一撃では無く、
精度を優先した、戦闘技術に沿った攻撃。
「ファーティナ!」「はい、マスター」
トゥレシの放った紅光が褐色の肌を焼こうとする寸前。
火柱の如き焔霊獣がその間に立ちふさがり、全て受け止めた。
そして、ゆっくりとその姿を形成し始める。…火炎の服を纏った女性の姿に。
「焔霊獣?…炎でアタシにダメージを与えられるとでも思っているの?」
「いいえ。けれど、それは焔霊獣にも言えること。…ファーティナ、私を守りなさい」
「はい、マスター。御意のままに」
ふわり。シーナを抱擁するファーティナ。
頬が触れんばかりに近づき、炎の吐息さえ感じられる距離。
「…なぜ、人型で…抱きついたままなのです…?」
「こうした方が守り易いからです。マスターの鎧となって……守る為です」
「――アンタ達…何イチャイチャしてるのよ!」
再び襲う熱線。
それらを、「人型の鎧」…シーナを抱擁しているファーティナがことごとく受け止める。
「い、イチャイチャという訳では…」
「マスター、照れなくても」
「照れていません!」
そんなやり取りを繰り返しながらも、着実にトゥレシの火炎弾を受け止めて行く。
「――いいわ、直接」
痺れを切らしたトゥレシが、シーナへ向けて一気に距離を詰めた。
29
:
GM
◆lor4BkqD86
:2006/01/17(火) 23:30:26
◆ ◆ ◆
「おいおい、あっちへ援護行かなくていいのか?結構ヤバそうだぞ」
「うんにゃ。お前ら月の傭兵が、そう簡単にやられるとは思わないんでな」
大剣と野太刀が、火花を散らし鎬を削る。
カイと鎧羅は、互いの隙を狙いながら剣舞の如く美しい動きを見せ、
時折、体術を駆使したトリッキーな技も披露する。
まさに戦闘技術を「魅せる」事の出来るレベルまで習得している二人ならではの攻防だった。
――玄人好みの戦闘を繰り広げている二人だったが、観客の注目はどうしてももう一方、美女同士の戦い向かっていた。
「くぅっ、ちょこまかと!これだから、月の傭兵は…」
間合いを詰めたものの、防御に徹したシーナの変幻自在な動きと、
それでもフォローしきれない打撃を受け止めるファーティナの防御に、
トゥレシは有効な攻撃をヒットさせる事が出来ない。
「――…ファーティナ、すみませんね」
「いえ、マスター。この程度ならば、大丈夫です…むしろ役得…」
「…え?」
「何でもありません」
それでも、この戦況が長く続けられる訳も無い。
トゥレシの疲れや、鎧羅の勝利を待つのも消極的過ぎる。
シーナは絶え間なく身体を動かしながら必死で打開策を模索していた。
「あああっ!もう!!!!――こうなったら…」
が、トゥレシの忍耐力の方が先に切れたらしく、一旦距離をとり、据わった目でシーナを睨み付ける。
両腕には凄まじい闘気を纏った紅。
「ふふふ。一気に…勝負つけてあげる」
トゥレシの両手が重ねあわされ――。殺気が限界まで高まる。
そして――。
試合の決着をつける一撃が放たれた!
30
:
GM
◆lor4BkqD86
:2006/01/21(土) 00:10:25
◆ ◆ ◆
カイの大剣が、強烈な打撃となって鎧羅の胴体部分を直撃する。
が、大木へ小さな斧を打ち込んだが如く、小揺るぎもしない。
それどころか、回避行動を略し敵の攻撃の隙を効果的に突ける形となった鎧羅が、
大段上から野太刀の一撃を繰り出す。
「甘いぜ、おっさん!」
ガガッ!
刃の触れている部分へ零距離から衝撃を加え、反動によって一気に間合いを開く。
「ぐっ――。やってくれる…が、お前の負けだな」
さすがに僅かに通ったのか、鎧羅から呻き声が漏れる。しかし、口調は未だ不敵。
余裕を纏わせて、勝利宣言までしてみせる。
「ハッタリか?――負けかどうか、剣で証明してみやがれ」
カイも挑発するように軽く剣を振ってみせる…が。
「いや、その必要は無い。この試合、二人一組ってーこと忘れてねーか?」
鎧羅の視線の先を見て、青ざめた。
「いっけぇぇぇぇーーーー!!」
トゥレシの叫び。
大人の胴程の太さの熱線が、熱波だけで地を溶かしながらシーナへ向かう。
直撃すれば、ルナとは言え跡形も無いだろう。
「ファーティナ、熱波から私を守りなさい!軌道を外します」
「はい、マスター!」
精神感応により、一瞬で指示を出したシーナが紅の軌跡に向かい小太刀を構える。
剣気がシーナの小太刀・月詠の刃に集まり、刀身を朧にする。
一閃。
凄まじい熱波に肌を焼かれながらも、熱線の軌道を上空へ歪める。
紅の奔流は空へ向かう火柱となり、周辺の空気を灼熱に変えつつ
特殊な歪曲フィールドを発生させる魔力を持つ小太刀・月詠だからこそ可能な絶技だった。
「はーん。なかなかやるじゃない?でもまだまだ…」
トゥレシがその高慢にも見える美貌を逸らし、そう言った時、審判の声が響いた。
「カイ・トゥレシ組、「殺意ある攻撃」に該当!ルール違反により失格!」
31
:
GM
◆lor4BkqD86
:2006/01/24(火) 23:20:18
「だぁぁーー!そりゃないぜ!」
カイの筋肉質な腕が閃き大剣を地に突き刺す。
勝負に負けたのは悔しいが、それ以上に目の前の男と決着をつけられないことが悔しかったらしく、
剣呑な瞳で、鎧羅を見ている。このまま続行してやろーかと言いたげに。
「まっ、縁が無かったってーこったな。個人的な勝負なら金を払えばいくらでも相手してやるぜ」
「金とるのかよ…って、そりゃまた筋金入りの傭兵なことで」
「そういうこった」
ニヤリ。カイ、鎧羅が共に笑う。
とりあえず、この場は勝負あり。ということに落ち着いたらしい。
「なっ、なんでよ!死ななかったからいいじゃない!」
審判にくってかかるのは、勿論、トゥレシ。
何やら物騒な闘気を未だ掌に纏わせて、脅すように睨み付けている。
と、そこへ。セイとパティが観客席より飛び降りて、トゥレシの元へ…何やら話しかけると、
彼女の顔が真っ赤に染まり、引きずられるように入場門へ一緒に帰ってゆく。
「死ぬかと思いました…」
「マスター。…言いつけ通り守り抜きました……帰ったらご褒美お願いしますね」
「――な、ご褒美って、何ですか」
「それは、私の口からは…」
シーナに抱きついたままのファーティナが妖しい笑みを浮かべて何やら囁いている。
冷や汗を流して対応するシーナもまた、彼女を引き剥がしつつ入場門へ逃げ帰るように。
…何はともあれ。
決勝戦のメンバーは決定したのだった。
32
:
GM
◆lor4BkqD86
:2006/01/24(火) 23:20:31
◆ ◆ ◆
決勝戦。
パトルアリス・スターティアラ・影星鈴。
呉 香天・ラーシュレイ=スヴェル。
シーナ=アースティア・鎧羅。
激戦を勝ち抜いてきた6名が大歓声の中、入場門から現れる。
全員、かなりの特徴ある選手であり、有名なA級ルナでもある為、
固定ファンも多いらしく、応援も多彩だ。
パティには、若い男性ファンが多く、セイには女性ファンが憧れの視線を送っている。
香天へ好意的な視線を送るのは、小さな姿が保護欲をそそるらしく中年男性が多い。
ラーシュは正統派なせいか控えめで淑やかな女性ファンが。
勿論シーナへは、一定の年齢層から上の男性の観客が熱い声援を送っている。
鎧羅に対しては、妙にゴツイ男性が野太く渋い応援を繰り広げていた。
そして――。
企画責任者であるダグディがマイクをとり、決勝前の挨拶の為だろうか?壇上に立つ。
白いタキシードが、豪奢な金髪と甘いマスクにこれ以上無く似合っている。
そして、その美麗な唇から飛び出した言葉は…。
「ちゃーっす。やー、さすがイイ戦いをしてくれる。
予定じゃ、ここでバトルロイヤルだったんだが、それじゃー勿体無い…という意見が出たんで、
急遽予定を変更して……」
ニヤリと意味深な笑いを浮かべて、ヴァルトデスから派遣されている人間が座る貴賓席へ視線をやる。
「昨今、話題の弐拾四式S型魔導機兵と支援機を相手に戦ってもらおうと思いまーす。
勝てば全員優勝!くぅぅ〜太っ腹!」
――弐拾四式S型魔導機兵。
それは、ヴァルトデスが全精力を挙げて開発した次世代魔導機兵。
当然ながら、その全てが完璧に機密に包まれている筈の機体だった筈。
それを、この衆人環視の中、駆動させようというのだ。
――というより、そんな機体を「どこで」手に入れたのだろうか?
「意味」を理解した一部の人間と、ルール変更に戸惑う観客のざわめきが
闘技場を覆いつくし、騒然とした空気が辺りに漂う。
33
:
GM
◆lor4BkqD86
:2006/01/27(金) 23:59:21
「……えーと。ヴァルトデスのにじゅうよ…?って!?えええーー!」
パティが大きな瞳を見開いて、驚愕の叫びをあげる。
びっくり、という様に両手を挙げている処が、素直なパティらしく可愛かったのか、
隣のセイがくすりと笑ってから、同意した。
「…確かに、驚きだな」
そして、パティの蒼い髪を撫で、すっと弐拾四式S型魔導機兵に目をやる。
弐拾四式S型魔導機兵。
4m程の大きな身体に全身を覆う純白の甲冑。
腕に携えるは、先端に向かって幅広になる巨大な曲刀と盾。
流線型のデザインが、今迄の魔導機兵とは全く違う威圧感を放っている。
その肩には、人型サイズの黒い影。――これが支援機だろうか?
「軍事機密もいいところですよー。あれってー」
「……こんな処で性能を公表すれば、ヴァルトデスは大打撃だろうな
もし、破壊でもされれば、面子も傷つく…か」
ラーシュの紅の髪が気に入ったのか、ちょこんと頭に乗っかっている香天が、
少し呆れたように言い、ラーシュが答える。
自然と良いコンビになっていた。
「こりゃまた、ヴァルトデスに喧嘩を売ったな。
しっかし、どこからこんなの手に入れたんだ?!」
鎧羅が弐拾四式S型魔導機兵の白い機体を見上げ、軽い仕草で野太刀を抜き放つ。
戦闘開始の合図が無くとも、第一級の警戒態勢でいるのはさすが傭兵と言ったところだろうか。
勿論、隣にいるシーナも警戒は怠っていないが…。
「何にせよ…私達は、その喧嘩の道具に使われるようですね」
ため息一つついて、同じように小太刀を用意する。
ふわりと隣にファーティナが具現化し、戦闘準備を完璧にする。
最新鋭のS型魔導機兵。
A級ルナが集まったとしても勝てるかどうか解らないとされる機体。
自然と、全員の緊張感が高まって行く。
そして――。
既に聞きなれた音。
戦闘開始の合図である銅鑼の重い響きが空気を揺らした。
34
:
GM
◆SNwumj5Nac
:2006/03/17(金) 01:42:06
◆ ◆ ◆
"まずは支援機を破壊"
それが全員の一致した思惑だった。
連携を伴った戦いの定石は、彼らレベルの冒険者や傭兵ならば身体に刻み込まれている。
「しかし、なぁ――。全員が前衛ってのもまぁバランスが悪いっちゃぁ悪ぃな」
ザリッ。一歩踏み出したのは、鎧羅。
巨大な野太刀を軽々と抜き放ち、臆することなく無造作に弐拾四式S型魔導機兵へ向かって歩を進める。
基本的な防御力の高い鎧羅が、陽動となり敵の攻撃を誘い足止めを行う。
動きが早く接近戦を得意とするパティ、セイ、香天が人型支援魔導機兵へ。
非常時の援護及び回り込みは、安定した剣技を持つラーシュとシーナが担当となる。
それが――全員が当たり前のように動く中で、無言のまま決まってゆく。
「みなさんと一緒だと、なんだか楽ですねー」
氣功装身を纏い、人間大になった香天が嬉しそうに笑い、小さく膝を撓めた。
身体にフィットした長衣のような民族衣装のスリットから覗く脚が美しい。
「…なんとなく、あの支援機から発せられる波が気になります…」
有機使役術を極め、生物の精神波に敏感なシーナが不安げにその秀麗な眉を顰めた。
両手には油断なく小太刀を構え、使役獣であるファーティナを傍に置き、最大限の警戒態勢で挑んでいる。
「シーナちゃん、敏感だからね。もしかしたら、何かあるのかも・・・」
表情豊かな瞳に警戒の色を湛えて、パティがシーナを見つめる。
「ほう。彼女は敏感……なのか。それは試してみたいものだな…」
パティの隣にいたセイも、シーナをそっと眺めて……意味深な事を言う。
「こら、セイちゃーーーーんっ!」
「…冗談だ。そんな目で睨むな」
パティに冷たい視線を送られ、セイは苦笑いして肩を竦めた。
そんな軽いやり取りの間も、
パティは軽く刀の鞘に手を添えて、居合いの姿勢のまま、じりっと"その時"を待ち、
セイは無形の姿勢のまま指先に闘気を集める。二人、共に隙は無い。
「イヤな予感がする――もしかしたら、責任重大ってことになるかもな」
刃に炎を宿した剣を一振りし、ラーシュがその紫の瞳を細める。
その先には二機の魔導機兵。
二つの機体は、冒険者達の準備を待っていたかのように。ゆっくりと。
稼動音を高め・・・・動き出した。
35
:
名無しさん
:2006/04/08(土) 00:27:04
◆ ◆ ◆
「――はっ!」
短い呼気と共に、鎧羅が巨体からは想像出来ない踏み込みで、
弐拾四式S型魔導機兵の足元へと間合いを詰める。
剥き身の野太刀を叩きつけるような、大振りな一撃。
しかし、その速度は、外見通り鈍重な魔導機兵の脇腹へ吸い込まれるようにヒットし…。
装甲と刃がせめぎ合い、派手な火花を撒き散らす。
それだけだった。
何の痛痒も覚えないとでも言うように、機械らしい的確な動きで、
魔導機兵の巨大な腕が閃き、肉厚の刃が、逆に鎧羅を襲う。
「結界を帯びた多重装甲か――。ふん、俺と同じタイプって訳だな」
持ち前の結界を太刀に纏わせ、受け止めながら苦笑を浮かべる。
そこへ――。
「…っ!な…っ、これは拳法?!」
「ほう、転移か――意表を突かれたな」
「え?これって…??」
香天、セイ、パティの驚きの声が重なる。
通常ならば、防御・回避に回る筈の人型支援機が、転移魔方陣に沈んだかと思うと、
突如、追撃をかけようとした香天の目の前に出現し、鮮やかな蹴りを放ってきたのだ。
「くぅっ、コイツ、なかなかやりますよー」
銀色の魔導合金で構成された、支援機の蹴りは、咄嗟に左腕でガードしたにも関わらず、
香天の身体に染みとおるような衝撃を与えてくる。
――不意をつかれたとは言え、強い。
右の蹴りと左のガードから生まれた接触を支点として、支援機は綺麗に宙に浮き、
香天の頭上を捉える。そして、一回転しての踵を落とした。
「させません!」
空から落ちてくる蹴撃へ、香天は両手を十字にし、中央部へ氣を集める。
激しい振動と、氣同士がぶつかり合って発生する閃光が舞い散る。
十字受けで伝わって来た、支援機の蹴りの威力に身震いしながらも、
香天は強敵と戦える喜びに小さく笑みを浮かべた。
36
:
GM
◆SNwumj5Nac
:2006/04/08(土) 00:27:38
「うーん。あそこまで接近戦になると、ボク達が入るのは難しそうだよ」
「意図的に、だろうな。――まずは徹底的に一人を狙う。多数対少数の基本だが…」
有効な手立てを講じることが出来ず、パティとセイは足を止めたまま、香天vs支援機の攻防を眺めているしか無い。
「ねえ、セイちゃん。あんなに強くて攻撃的な支援機ってあるのかな?」
パティが、戦いから目を逸らさないままセイに尋ねる。
「…ふむ。恐らくは逆だ。
外見から受ける先入観を利用し、対支援機への定石を逆手に取った設計なのだろう」
「ぅぅ、その設計者って絶対性格悪いよぉー」
「と、すると。俺達の仕事は決まったようなもんだな」
二人のやり取りへ、ラーシュが割り込む。
「私は本物の支援機へ行きますから。あちらはよろしくお願いします」
同じく、シーナも上品な笑みを浮かべて同意する。
重装甲の剣士型魔導機兵へ向かっているのは、鎧羅のみ。
足止めさせるのならば十分ではあるものの……。
支援機を破壊するのは厳しいだろう。ということを踏まえての判断だった。
「宜しく頼む。こちらは香天の戦いに入り込めるよう、機を伺う」
「うん、二人とも頑張って。ボク達も必ず勝つから!」
冷静な応えに、情熱的な返答。
セイとパティの性格を現すような言葉にラーシュはにやりと笑ってみせ、
シーナは苦笑を浮かべ――一瞬にして、鎧羅達の元へ向かった。
37
:
GM
◆SNwumj5Nac
:2006/04/12(水) 20:39:23
◆ ◆ ◆
シャープな設計で、華奢にも見える支援機――否、攻撃機は、
その身体からは想像も出来ない蹴撃を繰り出し続ける。
「くぅっ――。足技を、中心に組み立てる……拳法?」
下段への回し蹴り、超高速で襲い掛かる上段からの踵落とし。
香天が無理に中に入ろうとすれば、吸い込まれるように腕を捕まれ、投げに移行されかねない。
しかし、それを捌く香天の技量も並では無い。
下段蹴りのタイミングで間合いを詰め、衝撃を殺し、逆に肘を叩き込む。
上段蹴りへは、一気に上体を上体を沈めて足元を刈る。
そして――中段。
空を切り裂いて、攻撃機の銀色の脚が香天のわき腹へ吸い込まれようとする、その瞬間。
空気が揺れた。
――っっぅぅん。
大気を硬質化させ、ハンマーで叩けばこのような音がするのだろうか。
そんな鈍い振動と共に伝わる響きが、闘技場を震わせる。
「成功ですねー」
空高く浮き上がりながら小さく笑う。
そう。攻撃機の蹴り足へ氣を纏わせた掌で見事に迎撃し、その反作用で一気に間合いを開いたのだ。
対応しきれなかった攻撃機は、蹴り脚に氣が浸透したせいで、僅かに反応が鈍っている。
一対一ならば、ただの時間稼ぎでしかない。しかし…。
「見事だ」
開いた間合いへ、素早くセイが入り込む。
攻撃機の胸元へ強烈な踏み込みと共に、真っ直ぐ正拳突きを繰り出す。
完璧な正攻法故に、一撃必殺の威力をもつそれを、攻撃機は、左掌で右拳を支えたまま右肘で受け止める。
途端、正拳から放たれるセイの闘気。
闘気と魔力のぶつかり合いで美しい光が両者の接点から生まれる。
そして、大地を踏みしめる脚の反応が低下している攻撃機が、セイの闘気に押されるように吹き飛び…。
「これで!終わりだよっ」
片膝を付いた伏せるような状態のままのパティが蒼い光となる。
その光は、一瞬で攻撃機の足下へ。
一閃。
パティの持つ刀が横薙ぎに攻撃機を捉える。
蒼い火花が散る。防御の為に集中した魔力と、それを貫く剣気に体表の装甲を破損させながらも、
攻撃機はなんとか、その一撃を受け止める。
……それは始まりでしかなかった。
横薙ぎの余勢そのままに高速で一回転。
下段から再び蒼い刃が斬り上げる。
一撃目の衝撃で動きが止まっている攻撃機が避けるのは不可能だった。
しかし、それでも腕を交差させ、魔力を集中して盾としたのはS級機兵と言うべきか。
パティの凄まじい剣閃に――腕のあちらこちらでヒビが入り始める。
装甲が剥離し、銀の粉となって浮き上がった。
「まだ、まだだからねっ」
パティの言葉通り、徐々に攻撃機の身体が浮き上がって行く。
そして、一気に剣気を開放されると、見事に宙にその銀の身体が吹き飛び。
同時に蒼い光も上空へ。
「蒼天流――。双牙斬!!」
きっちりお約束通り、技名を叫ぶと、
パティは中空に浮いた状態のまま。上段から真っ直ぐに攻撃機へ向け刀を振り下ろした。
攻撃機が右腕で受け止めようとする。
が、各所にヒビが入ったそれは、いとも簡単に斬り砕かれ、肩口から胸まで刃が沈み込む。
機械仕掛けの身体を動かしていた魔力が流出し、眩い白の光を発していた。
完全に力を失った攻撃機は、そのまま地に叩きつけられ、
受身も取れず、腕を失ったまま転がり動かなくなった。
「ん、こっちは勝利だね!」
にっこりと満面の笑みを浮かべてピース。
パティの屈託無い表情に、香天とセイも小さく笑みを返す。
そして――。
闘いは、剣士型支援魔導機兵との戦場でも決着がつきつつあった。
38
:
GM
◆SNwumj5Nac
:2006/04/30(日) 01:09:21
◆ ◆ ◆
鎧羅の巨大な太刀が、剣士型支援魔導機兵の分厚い装甲に幾度も叩きつけられる。
鮮やかな太刀捌きによって、人の背丈以上もある巨大な剣は弾かれ、渾身の一撃が入った。
眩い火花が散り、白銀に鮮やかな傷跡が刻まれる。
が――。届かない。
刃は強化された魔導鋼の表面を僅かに傷つけるのみ。
機兵の動きは全く鈍ることは無い。
「人間と違って疲れを知らぬ鋼鉄の身体ってところか」
鎧羅が再び、同一箇所を狙い、刃を振るう。
瞳に捉えることも難しい達人の斬撃。
しかし、機兵の戦術プログラムと駆動性能はA級ルナのそれにすら対応する。
鎧羅の戦闘パターンを読み取ったプログラムは、着実に彼の「癖」を把握していた。
ギィィン!
装甲を削った時とは別の、白い火花が派手に光った。
大剣が大刀を受け止め…。肩口の装甲が開く。
白銀の中から覗く、大口径の砲身。
「ちっ!」
渾身の一撃を受け止められ、動きの止まった鎧羅へ向け、
致命的な銃撃が始まろうとしたその瞬間。
――ごぉぉぉぉ!
紅の光と共に、灼熱の業火が機兵の装甲と…銃身を焼く。
出口を灼き溶かされた砲弾が内部で破裂して、機兵の体が僅かに揺らぐ。
そこへ。
再び、火炎。
鎧羅のつけた装甲の傷をなぞるように、火炎刃がなめる。
「魔導機銃を内蔵しているタイプは、この手に弱いんだな、やっぱり」
炎を象った剣に紅蓮を纏い、ラーシュが笑う。
「ファーティナ。よくやりました」
刃と化して、装甲を溶かした炎の精霊獣に乗り、シーナが艶やかな笑みを見せる。
「はん。いいところを持ってくぜ。お二人さんよ」
機兵の剣を押し返し、間合いを取り直した鎧羅が再び刀を振るい、
体勢を整えさせることなく、押す。
そこへ、ラーシュも加わった。
鎧羅の猛撃に動きの止まった機兵の「傷口」を再び炎の剣気を送り込む。
火炎と斬撃の連続に、装甲の崩れた機兵から煙が漏れ始める。
「ファーティナ、私の護りと刃――そして翼に」
シーナの一言で、服と小太刀に紅が宿る。
背には、紅翼。
精霊獣が、憑依する形で劇的に戦闘力を増す使役術。
そう長い間は使えないものの…。
「すぐに、決着をつけます」
空に舞う。
地での3者の闘い。
その真上へ。
39
:
GM
◆SNwumj5Nac
:2006/05/10(水) 21:04:08
炎と鋼の演舞が熱砂の上で繰り広げられる。
鎧羅が足下から、掬い上げるような一撃を放てば、
自らの爆炎によって浮き上がったラーシュが、機兵の巨大な上半身部へ。
灼熱の刃が踊り、肩口の傷をこれでもかと焼き溶かしてゆく。
「はっ!」
ラーシュの赤髪が揺れる。
空中での縦から回転斬り。大剣で受け止められると、すぐさま重心をずらし後頭部へ向け横薙ぎ。
紅の軌跡と空気を焦がす烈火の闘気が、美しい紅を散らす。
機兵が反応しようとした瞬間、鎧羅の野太刀が足部の装甲を叩く。
貫くことではなく、崩すことを狙った重い一撃。
絶妙の支援。
その機をラーシュが逃すわけも無く。
「攻撃機との連携が崩れれば、脆いって訳だ!」
ガッ!――炎型の剣、その先端が機兵の肩部銃口を覆う装甲を焼き溶かし、突き刺さる。
刹那、一気に剣へ闘気を放出し、内部から――。
ゴォォォォォ!!!
機兵の装甲の隙間から、蒸気のような煙が吹き上げた。
動作を徐々に緩慢なものにさせながらも、機兵は、甲冑の兜にも思える顔をラーシュに向け…。
眼部に装備された魔導機銃へ、魔力を流し込み始める。
空気に波紋が走る。
「甘いですね」
上空から急降下してきた影が、笑った。
眼部に突き刺さる短い二つの刃。
シーナが逆立ちするような姿で、二本の小太刀を重ね…深々と機兵の頭部、銃口へ沈めていた。
「ファーティナ。出力を最大にお願いね」
「はい、マスター」
そこへ、ラーシュが行ったと同じような膨大な熱気の放出。
ギィィィ!!
機兵の内部が熱によって歪み軋む。
その悲鳴のような音と共に、炎の舌が蒸気を噴出している隙間から赤い姿を現す。
そして…。
ゆっくりと膝から崩れ始めた魔導機兵は、再び動くことは無かった。
隣の攻撃型魔導機兵との戦いも決着はついたようで、
勝利を讃える歓声が太陽照りつける闘技場に、一際大きく響いた。
「――ヴァルトデスの最新鋭機も大したことねーなー。っつー訳で、勝者!『冒険者』!」
ダグディの軽薄な声と共に、決勝で戦った全員に、勝利が告げられた。
40
:
GM
◆SNwumj5Nac
:2006/05/28(日) 18:09:41
◆ ◆ ◆
「やぁー、お見事お見事!やっぱり、この都市の冒険者は一味違うねー」
大歓声を縫って、ダグディの無意味に明るい声が拡声魔術によって響き渡る。
「しっかし、ヴァルトデスの最新鋭機とやらも大したことねーな。
ま、相手が悪かったってのもあるかぁ?」
美形らしからぬ、ケケケっというような声で笑いながら、
ダグディは主にヴァルトデス関係者のいる貴賓席へ向け嘲る。
「なるほど…私達は、ダシに使われたというわけですね」
観客席で苦笑いを浮かべるリョウ。
「ああ。ヤツがヴァルトデスを挑発して何の意味があるのかは解らないけどな」
隣で、カイもまた呆れたような顔で、破壊された魔導機兵を見つめている。
「でも。観客は喜んでるようですね」
主人であるリゼットの隣に座り、ぴとっとくっついていたエクレールが笑う。
確かに観客は、何かにつけて大国の権威を振りかざすヴァルトデスに嫌気が差していたらしく、
ダグディの言葉に歓声をあげている。
そのダグディの声が、ようやく直接、間接的にヴァルトデスを罵る言葉を終わらせ、
優勝者達を称え、賞品を説明する話題に移った。
「優勝者には!生命の源とも言うべき、癒し効果があり、
これを手に入れれば世界を手に入れたと同じだと言っても過言ではない!、
あのケチで貧乏な冒険者連盟の切り札的な豪華賞品が贈られます!」
どう考えても素直に褒めていないものの、
美辞麗句にも聞こえないことは無い言葉の羅列。
そして、高らかに誇らしく…ダグディは優勝賞品を告げた。
「その素晴らしい品は――冒険者連盟内食堂、一ヶ月無料券!勿論、お代わり自由!」
しーーーん。
地獄のような静けさ。
そして…数分後。
この大会最後の競技が行われた。
逃げ回るダグディ vs 怒れる冒険者達。
この日、ラトナの街では、
逃げ回るダグディを追いかける大会優勝者達の怒声が夜遅くまで響き渡っていたという。
(完)
おまけ
次の日。
「冒険者連盟の食堂…誰が行くんだ…」
「ラーシュさん、そんなに盛大にため息つかなくてもー。そこってまずいんですかー?」
「傭兵御用達の携帯食の方がまだましだってー話だぜ。俺はよく知らんが」
「たしかに。あそこは…自分で料理した方がマシですね」
「あ、あはは、ボクも遠慮したいかなー。栄養のバランスはいいらしいけどねっ」
「私は、お嬢様にお食事を出した後、そのまかないで…ですから。優勝しても困っていました」
「食堂には…『影』ですら、近寄りません。雪君の料理よりはましでしょうけど…」
珍しく、月に踊る天使亭に人が集まり。
大量の無料食事券を前に、顔を突き合わせては、
盛大なため息をつく姿がみられたとかみられないとか。
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