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68ボリ&ティチ(4)@18:2004/03/08(月) 07:35

砂漠の夜は静かである モンスターも殆ど寄り付かないこの地の夜は
人はおろか、虫の鳴き声ひとつない。
聞こえるのは焚き木の爆ぜる音、そして ご機嫌そうな少女の鼻歌だけである。


「見て見てボリスさん、押し花作ったの、綺麗でしょ〜?」
「…ああ」

「この果物、美味しぃ〜ですね〜」
「…ああ」

「聞いてます〜?ボリスさぁん」
「…ああ」

「ボリスさん実は女の人ですよね?」
「…いや」
「ぶぅ〜…引っかからなかったぁ」


ボリスと呼ばれた男は座り木に上身を預け、
火を挟んだ向こうにいる少女を、半分伏せた瞳のまま見つめ、考えに耽っていた。

(この少女は…何もかもが俺とは反対だな…
  何故そんなに明るい…何故笑顔でいられる…?
   笑顔でいたって…愛想が良くたって… 誰も、助けてはくれない…)

負の感情が席巻してゆく心の内で、そうつぶやく。




7年前、兄の死と共にジンネマン家は没落した。
一家はボリスを残し、皆死に絶えてしまった。
十にも満たない良家の少年は、その歳にあって、己の力だけで生きる道を選ばざるを得なかった。

誰もがその日暮らしの生に追われ、助けても何の見返りも無い没落貴族の少年に、
救いの手を差し伸べる者などは現れなかった。
どれだけ泣いても、どれだけ助けを請うても、どれだけ愛想良くしていても、どれだけ笑顔でいても。

死の淵に立たされる度に、あの優しかった兄の顔が思い浮かぶ。
両親の寵愛は兄のみに注がれ、見向きもされなかった少年に唯一人向き合ってくれた家族、
イェーフネン・ジンネマン。
事故死と聞かされていたが、風の噂では"殺された"という話も聞く。
その死の疑問を解き明かし、仇を見つけるまではと、形見の大剣ウィンタラーを傍らに
少年は、許されざる死と立ち向かってきた。

誰の力を借りる事もなく、生きて行けるようになる頃には
少年は自分以外心を許す事ができなくなっていた。
その生い立ちは、少年から笑顔を奪い去り、心に暗い翳を落としていた。

(何故、笑う必要がある…
  笑顔などに、どれほどの価値があるというのだ)



「ボリスさん」
「…何だ?」

「昨日いいそびれちゃったんですけどぉ、助けてくれてありがとうございました」


(…ありがとう、か…)

没落貴族の少年は、誰からか必要とされる事はあっても
誰かを必要とする事は無かった。
少女が不意に言うその言葉が
そんな当たり前の言葉さえ言う事ができなかった、家名を名乗る事さえ許されなかった、
己の過酷な生い立ちを、いとも容易く反芻させる。

(俺にはまるで縁の無い言葉 だな…)




「…もう休め。砂漠の夜は冷えるから毛布を渡しておく。生憎、一人分しか無いがな。」
「えへへ…」

ボリスが毛布を投げてよこそうとすると、
少女は嬉しそうに笑い、火を挟んで反対側の座り樹、つまりボリスの元までクルリと歩いてゆく。

「おい、ティチェル…?」

ティチェルと呼ばれたその少女は、ボリスの傍らに腰を下ろし、
上身を座り樹――ではなく、そっとボリスの上身に委ねた。

「こうやってくっついた方が あったかいですよ…」
「…俺は外蓑があるから、平気だ」
「だ〜めっ! 風邪ひいたらどうするんですかぁ?」

そう言ってティチェルは頭をボリスの肩に乗せ、
毛布を二人の体に巻きつける。

「えへへ…あったかぁい…」
「おい…」

突然の事にボリスの表情には、先程までの翳りが全く残っていなかった。
代わりに困惑したような、何とも言えない表情になる。



「…明日だが…」

ボリスが声を掛けようとした時には、既に規則正しい寝息をたてる少女がそこにいた。
気丈に振舞っていたものの、慣れない強行軍に相当疲れていたのだろう。

(やれやれ…)

己の肩にもたれ掛かる少女を見つめ、何度目かの軽い溜息をつく。
が、今までの溜息とはどこかが違う。
それのどこが違うのかを思い当てる間もなく、ボリスもまた深い微睡みの底へ堕ちていった。




To Be Continued


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