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TWのシナリオについて考えてみる

123『das Bild』その2@28:2004/03/10(水) 17:14
 画家の男が来てから三十分ほど経った。
 ナヤトレイは自分の髪が綺麗に乾いた事に気付いた。
 (……シベリンも心配するだろうから、そろそろ帰ろう。)
 ナヤトレイは腰に吊るした鞄の中からブラシを出すと、手早く髪を梳かし後ろ髪を
編み上げた。そして、前髪を押さえる為のバンダナを額に巻くと立ち上がった。
 歩き出す前にナヤトレイはもう一度画家の男を見た。男は集中しているのか木炭を紙に
走らせていた。
 (……変なの。)
 ナヤトレイは小さく首を傾げ、町に向かって歩きだした時だった。男がナヤトレイの方を
向いた。そして、慌てたようにスケッチブックを置いて走ってきた。
 (?!)
 ナヤトレイは腰に吊るした短剣に手をかけた。
 「ま、待ってくれ。」
 男はナヤトレイの前に立つと、敵意がない事を示す為に手を広げた。
 「お嬢さんはこの辺りに住んでいる人なのかい?」
 「…………。」
 「ああ、ごめんよ。私は旅をしながら絵を描いているんだ。」
 警戒した表情をしているナヤトレイを見て、男はそう言うと木炭を見せた。かなり
使ったのか、木炭はもう少ししかなかった。
 「今、お嬢さんを描いていたんだけどまだ途中なんだよ。お願いだからモデルになって
くれないかね?」
 (私を……描いていた?風景じゃなかったの?)
 ナヤトレイはこの男が風景を描いているのだと思い込んでいた為に驚いた。
 「駄目かね?」
 念を押すような男の質問に返事せず、ナヤトレイは町に向かって走り出した。
 ナヤトレイにとって姿絵は手配書と同等に考えていた。苗族が何らかの理由で皆殺しに
されたからこそ、生き残りであるナヤトレイに生きていられては困る者がいる。だから、
ナヤトレイの特徴を描き込む姿絵はそのまま詳しい手配書となるのだった。
 (そんな物が……私を狙う者の手に渡ったら……。)
 ナヤトレイは町に入る前に足を止めて、今来た道を振り返った。
 (あの画家を殺せば良かった。そうでなければ、あのスケッチブックを奪ってくるべき
だった。)
 今そう考えても、あの男はもうあの場所にはいないと思われた。
 (途中って言っていたから、二度と会わなければ問題はなさそう。)
 強引に自分を納得させたナヤトレイはナルビクの町中に入った。
 人通りの多い道を迂回しながら、ナヤトレイはふと道を歩いている人達を見た。
 (黒、赤、茶、金、白……。)
 ざっと見ただけでもナヤトレイと同じ色の髪を持つ者はいない。もっと多彩には見えるが、
色が濃いか薄いかの差だけである。
 ふと気付くと、ナヤトレイは周りの人達がチラチラと自分を見ているのに気付いた。
見てからコソコソと話をしている人もいた。
 (そんなに……この髪が珍しいのかな。)
 ナヤトレイは小さく溜息をつくと、<シャドウ&アッシュ>に向かって歩き出した。
 (一族では銀の髪なんか珍しくもなかったのに……。)
 苗族の中では銀の髪は普通であった。それこそ、黒や赤などの色をしていた方が珍しく、
初めてシベリンの深紅の髪を見た時は血で染まっているのかと思った程だった。
 (それを言った時のシベリンの顔……今でも思いだす。)
 ナヤトレイが血で染めたのかと言った時、シベリンは一瞬唖然とした表情になったが、
すぐに大笑いを始めたのだった。
 (見た目からシベリンは深紅の死神と呼ばれているけど、私は……何だと皆に思われて
いるのだろう……。)
 苗族の証である銀の髪と紫の瞳は、今のナヤトレイにとって厄介な物でしかなかった。


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