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スタンドスレ小説スレッド

1新手のスタンド使い:2003/11/08(土) 01:58
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

652丸耳作者:2004/01/07(水) 02:47
           ∩ ∩ 
          (  ´o) Coooooo…… 
           (つ  つ
           ( )ヽヽ
              (_) (___)
  
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  能力名   茂名式波紋法                           ┃
┃  本体名  茂名 初                                 ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  パワー - B    ┃  スピード - B    ┃ 射程距離 - E〜C ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - C.    ┃ 精密動作性 - B  ┃   成長性 - E.     ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ 呼吸法によって、生命のエネルギー『波紋』を操る。            ┃
┃ 戦国時代にチベットから伝わった波紋法に、             ┃
┃ 茂名の先祖が古流武術をかけ合わせた物。              ┃
┃ 一子相伝を守られ、現在の茂名は八代目にあたる。.          ┃
┃ 戦場で使われるバリバリの殺人武術なので、               .┃
┃ マルミミには空手に毛の生えた程度の事しか教えていない。.     ┃
┃ 壁に張り付いたり水の上に立ったりと、結構汎用性は高い。  .   ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


           ∩ ∩ 
          ( ´д)      ∧_∧
          (つ  二二二つ(゚д゚; )
         /// )     ⊂   つ
          (_/ (__)     // /
                  (_(__)

        茂名式波紋法『蛇咬』

653新手のスタンド使い:2004/01/07(水) 18:23


654N2:2004/01/07(水) 22:31
乙です。

655:2004/01/09(金) 00:50

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その6」

 
「うう…」
 俺は目を覚ました。
 …ここはどこだ?
 学校の保健室?
 …いや、保健室なんかより遥かに上級なベッドに俺は寝かされていた。
 壁や床も、驚くほど綺麗だ。

「…?」
 俺は顔を上げる。
「もう、いいみたいだね!」
 俺の横には、俺と同い年くらいの元気そうな少女が椅子に座っていた。
 猫の顔を模した、妙な帽子を被っている。
「ここは、どこモナ…?」
 俺はその少女に聞いた。
「ASAの医務室ですよ!」
 元気たっぷりに答える少女。
 どうでもいいが、この娘もかなり可愛い。
 『脳内ウホッ! いい女ランキング』に追加…っと。

 あれ…?
 そう言えば、体が全く痛くない。
 右肩なんて、完全にベキベキだったはずなのに…
 俺は右手をグルグルと回した。
 不思議な事に、違和感は全くない。

「私の能力で治しますた」
 少女は、妙ななまりで言った。
「大変だったんですよ。折れた肋骨が肺に損傷を与えてて…」
 俗に言う、『折れた肋骨が肺に突き刺さったー!』ってやつか。
 少女は、すっくりと立ち上がって言った。
「じゃ、ついて来て下さい」
「えっ?」
 困惑する俺。
「しぃ助教授さんから、大切な話があるそうです。もう立てますよね?」
 その点は、全然問題ない。
 身体の痛みは嘘のように消えていた。
 リナーのスタンドの治癒能力は副次的なものだが、この少女のスタンド能力は、本当に『治して』しまうものらしい。
「じゃ、行きますよ」
 少女は、ドアの前に立った。
 ウィーンと左右に開く自動ドア。
 少女の後について、廊下に出る俺。
 どうやら、ここは近代的な高層ビルのようだ。
 窓から、町の風景が一望できる。
 ここは30階といったところか。
 駅前に、一夜にして巨大なビルが建ったというふざけた話を聞いたことがあったが、ASAが絡んでいたのか…

 エレベーターの前で立ち止まる少女。
 そして、くるりとこちらを振り向いた。
「三幹部の部屋は、最上階の100階にあります」
「偉い人って、最上階が好きモナね…」
 にこりと笑う少女。
「煙とハサミは高い所が好きですからね…」
 何か、とんでもない事を口走っている。

「とにかく、このビルの100階にしぃ助教授さんはいます。
 そして、10階ごとに番人がいるのです。その番人を倒さない限り、上の階には行けません」
「そんな、冗談モナ!?」
「冗談ですた。では、行きましょうか」
 エレベーターの扉が開く。
 俺と少女は、エレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターはガラス張りで、町が一目で見下ろせる。

 高速で上昇するエレベーター。
 俺は、外の風景を見上げていた。
 この町に『アルカディア』は潜んでいる。
 そして、『蒐集者』。あいつは、何なんだ…?

656:2004/01/09(金) 00:51

「100階です…」

 階数を告げる機械音声。
「私の声色ですた」
 すかさず少女は言った。
 さっきから、この少女の言動は微妙にズレている。
 可愛いが、ちょっと変わった娘だ。
 エレベーターの扉が開く。
 ダダっ広い廊下が一直線。その突き当たりに扉がある。

 少女は、その扉をノックした。
「ねここです。モナーさんを連れてきますた」
「…入りなさい」
 しぃ助教授の声。
 ねここと名乗った少女は、ドアを開けた。

 予想に反して、中は普通のオフィスだった。
 ただ、窓からの眺めは絶景だ。
 オフィス中央に来客用と思われるソファーがある。
 しぃ助教授は、重役っぽく手を後ろに組んで外を眺めていた。
 立てかけているハンマーが違和感バクハツだが。
「どうぞ、座って下さい」
 俺の姿を認めると、しぃ助教授は口を開いた。

 その言葉通り、俺はソファーに腰掛けた。
 湯気が出ている紅茶が、俺の前にあらかじめ置いてある。
 しぃ助教授は、少女の方を向いて言った。
「で、ありすはどうしてます?」
「戻ってすぐにおやすみです」
 少女は答える。
「そうですか… では、貴方は下がっていいですよ」
「分かりますた」
 少女はぺこりと一礼すると、この部屋から出て行った。

 しぃ助教授は、俺の対面に座る。
「お茶、飲んでいいですよ」
 そう言ったしぃ助教授も、自分の紅茶をすすっている。
 俺は、少女が出て行ったドアを見ながら訊ねた。
「…あの子は誰モナ?」
 しぃ助教授はニヤニヤと笑う。
「気に入ったんですか?」
「ちちち違うモナ! モナにはリナーが… いや、リナーともそんなんじゃなくて…」
 自分でも、何を言っているのか分からない。
「若いっていいですね。あの娘はねここ。三幹部の一人、ありすの補佐役です」
 『ありす』っていうのは、名前からして女の子の方だろう。
 筋肉ニワトリの名が『ありす』だったら、夢に出そうだ。
「あの娘は、ASAでも稀有な『治癒』のスタンド能力を持っています。
 ねここのおかげで、あなたは今ここでお茶を飲んでいられるんですよ」
 そりゃ有難いことだ。礼を言うため、後で電話番号でも聞いておこう。
「で、治療費は8千万円です」
 さらりと言うしぃ助教授。
 俺は紅茶を噴き出しそうになった。
「な… 金取るモナ!?」
 しぃ助教授は笑顔を見せた。
「命に比べりゃ、はした金でしょう? まあ、特別にタダにしときますけどね」
「それは助かるモナ…」
 俺は胸を撫で下ろした。
 高校生のミソラで8千万はキツ過ぎる。
「で、本題といきましょう。この町に、『アルカディア』が潜んでいるのは知っていますね?」
 俺は頷いた。
「まさか、いよいよ奴が本格的に動き出したモナか…?」
 しぃ助教授は首を振った。
「いいえ、その逆です。静かすぎるんですよ、『アルカディア』は…」
 静か?
「でも、前にも吸血鬼による殺人が…」
 しぃ助教授は、俺の言葉を遮った。
「報道はされていませんが、1日に1人は血を抜かれた死体が見つかっています。
 ですが、『アルカディア』による被害は本来ならそんなモノでは済まないんですよ。
 1週間もあれば、人口5万人程度の町なんて壊滅しててもおかしくないんです。
 ですが… この町は平和そのもの。確認されている『空想具現化』の影響といったら、
 『矢の男』の出現だけなんです」
 あと、俺は殺人鬼の影とやらを見たことがあるが。
 確かに、この町に脅威が迫っていると聞かされながら1週間が経つが、特に変化はない。
「じゃあ、この町にはいないとか…?」
「それもありえません。詳しくは言えませんが、この町に潜伏しているのは確かです。
 しかし、24時間通して偵察衛星で監視していますが、その姿は捉えられない。
 ここからは推測ですが… まず、『アルカディア』には町を壊滅させる以外の目的がある。
 そして、奴はASAが所有している偵察衛星の存在を知っています」

657:2004/01/09(金) 00:52

 それは、つまり…!
「誰かが、糸を引いている…って事モナ?」
「その通りです」
 しぃ助教授が頷いた。
「そもそも、なぜ『アルカディア』はこの町に来たんでしょうか。『異端者』からは、そこら辺を聞いていますか?」
 俺は首を振った。
 リナーは、ただ『アルカディア』を追っているとしか言わなかった。
 しぃ助教授はカップをテーブルに置いた。
「『アルカディア』の本体が吸血鬼で、本体そのものは遥か昔に滅ぼされた事は聞きましたね。
 ですが、スタンドは死なずに残ってしまった。何とか捕獲したものの、ASAと『教会』の間でモメたようです…」
「『ようです…』って、しぃ助教授はその時はいなかったモナか?」
 ムッとした表情を見せるしぃ助教授。
「150年も前の話ですよ…! 私はまだ生まれてもいません!」
 身体がムズムズする。
 怒られるだろうが、気になって仕方がない。
 俺は心を決めると、その質問を口にした。
「しぃ助教授って、何歳モナ?」
「話の腰を折った上に、無礼極まりない質問ですね…! まあ、11番目の素数とだけ言っておきましょうか」
 落ち着け… 素数を数えろ…
「で、話を戻しますよ。150年前、『アルカディア』の処遇についてASAと『教会』がモメたんです。
 本来なら、スタンド関係はASAの管轄なんですが… 
 本体の吸血鬼は『教会』が抹殺した事もあって、『アルカディア』の処遇は『教会』に委ねられたんですよ。
 それから、『アルカディア』は『教会』の地下深くにずっと幽閉されていました…」

 待てよ、それじゃあ…
 しぃ助教授は、口を開いた。
「『教会』は、狩人と追っ手を同時にこの町に放ったんです…」
 この町に潜伏している『アルカディア』。
 それを追ってこの町に来たリナー。
 両者とも、『教会』が送り込んだだって…!?
「リナーが嘘をついてるとは思えないモナ…」
 俺はそれだけを言った。
「それは私も同感です。おそらく、『異端者』自身も満足な情報は持たされていない。
 だからこそ、『異端者』が先鋒に選ばれたんでしょう。『教会』の操り人形で、他の代行者との接触も少ない…」
 リナーが操り人形…?
「それは、どういう事モナ?」
 しぃ助教授はため息をついた。
「貴方は、ことごとく話の腰を折ってくれますね。
 …まあいいでしょう。少し、『異端者』の話をしましょうか。
 今から3年前、ヨーロッパのある田舎町が吸血鬼に乗っ取られたんです。まあ、それ自体はよくある事なんですが…
 ゾンビの中に、生前にスタンド使いだった人がいたんで、ASAにも要請が来たんですよ。
 それで私が行ったんですが、その時に『異端者』と初めて会いました。
 彼女は… 当時から無愛想でしたね。しかも、『ASAの助けはいらない』『引っ込んでろ』の一点張り…!」

658:2004/01/09(金) 00:53

 その情景が目に浮かぶようだ。
 しぃ助教授は、その時の様子を思い出しているのか、少し不機嫌そうである。
「それで結局、私が譲歩したんです。
 たかだか15かそこらの小娘ですから、すぐに泣き言を抜かすと思っていました。
 ですが、彼女はやってのけましたよ。その時の戦い振りは、凄まじいものでした。
 いや、戦いとは言いませんね。あれは一方的な虐殺に等しい。
 人口2000人足らずの小さな町だったんですが、生者・死者を問わずに皆殺しです」
 
「生者・死者を問わず…って!」
 俺は思わず口を挟んだ。
「そうです。彼女が殲滅した者の中には、明らかにゾンビにはなっていない人間も混じっていました。
 私も憤慨して問い詰めましたよ。なんで、罪もない人間まで皆殺しにしたのか…とね」
 それに対する返答は聞くまでもない。
 しぃ助教授は口を開いた。
「『異端者』は涼しい顔で答えましたよ。『任務だから』とね…
 おそらく、彼女は『教会』が死ねと命令したら死ぬでしょう。
 あそこまでいくと、狂信と言うよりも、意思を放棄したと言ったほうが近いですね。
 その後に調べたんですが、『異端者』の出生も経歴も謎に包まれています。
 学校に通っていた記録もないし、国籍もない。
 代行者になれるほどの素質を持った人間ならば、どこかでASAの目についているはずなんですがね…」
 俺は、リナーに不信感は持ちたくない。
 いや、持つ事ができない。
 それに、意思など放棄しているようには見えないが…
「リナーは、モナの前ではそんなんじゃないモナ…」

 しぃ助教授はニヤニヤと笑った。
「そうでしょうねぇ。数日前に、久々に『異端者』と顔を合わせた時、本当に驚きましたよ。
 早朝に『異端者』からASA本部に連絡があったんです。
 『強力なスタンド使いが現れたので、支援を要請したい』とね…
 そりゃ、気が重くなりましたよ。またあの仏頂面に顔を合わせないといけないのか… なんて思いながら。
 で、いざ顔を合わせてみたら…、隣に彼氏はいるは、『異端者』って呼ぶなと言い張るは…
 恋する乙女に早変わりでしたね。…まあ、無愛想は相変わらずでしたが」

「モモモモナはかか彼氏なんて大層なものじゃないモナ!」
 俺は動揺した。
「その時はそう思ったって話ですよ。
 でも、『教会』への忠誠を生きる糧にしていた彼女が、『教会』での名前を呼ぶなとまで言ったんですから…
 下品な言い方ですが… 一体、どうやって彼女をオトしたんですか?」
 俺は、慌てまくった。
「モ、モナは特に何も…!」

 不意に、しぃ助教授は厳しい顔に変わった。
「ですが、彼女はやめておきなさい。貴方は、相当に彼女がお気に入りのようですが…
 不幸になるだけですよ。彼女も、貴方も…」
 
「何でそんな事が分かるモナ…?」
 俺はしぃ助教授を睨んだ。
「不幸になるかならないかなんて、横から言われる筋合いはないモナ!!」

 しぃ助教授はソファーから立ち上がった。
「その通りです。ですが、貴方と『異端者』が親しくなる事によって、大きな災いが振り撒かれるとしたら?
 貴方達の存在によって、多くの人が死に瀕するとしたら…?」
 俺は笑った。答えは言うまでもない。
「もしそうなったら、俺とリナーでその災いとやらを沈めるモナ」

 ため息をつくしぃ助教授。いつの間にか、その表情は柔和なものに戻っている。
「貴方の思いは分かりました。そこまで言うのなら、私は口を挟みません。
 貴方は絶対に… どんな事があっても、『異端者』を離してはいけませんよ。
 もし彼女を投げ出すようなら、私がこのハンマーで貴方を叩き潰しますからね…」
 しぃ助教授は、部屋の隅に立てかけていたハンマーを持ち上げた。
 日光が当たってキラリと光るハンマー。

「そんな事は絶対にありえないモナ。モナは、リナーを離したりはしないモナ」
 俺は断言した。
 ここまで来て、リナーとそのままお別れなんてありえない。
「若いっていいですね〜!」 
 再び、ニヤニヤするしぃ助教授。
「…っと、いつまでもこんな話をしている場合ではありませんね。話を戻しましょうか。
 え〜と、どこまで話しましたっけ…」
 突然、真横に丸耳が現れた。
「『アルカディア』を送り込んできたのも、『教会』というところです」
「あ、そうでしたね…」
 おそらく、彼がしぃ助教授の補佐役なのだろう。
 というか、補佐役の仕事ってこんなんなのか…?

659:2004/01/09(金) 00:53

 沈黙の後で、口を開くしぃ助教授。
「で、私の直感に過ぎませんが… 『異端者』は、多くを知らされていません。おそらく、彼女も利用されています」
 多分、俺もそう思う。
 しぃ助教授は話を続けた。
「それで『教会』の思惑なんですが… これが、よく分かりません。ここで『蒐集者』の存在が絡んできます」

 …『蒐集者』!
 つーとじぃを実験体にした、あの化物か…!

「彼も代行者の一人でしたが、今は『教会』から離反しています。その能力は、貴方も見ましたね…?」

 いや、見たは見たが… 再生したり燃やしたり重くしたり、いろいろありすぎだ。
「スタンド能力って、一つじゃないモナか…?」
 その質問に、しぃ助教授は答えた。
「一つですよ。『蒐集者』のスタンド『アヴェ・マリア』の能力は、特性の同化です」

 …特性の同化?
 しぃ助教授は、説明を補足した。
「平たく言えば、他者の能力を自分の物にしてしまえるって事ですよ。いや、能力に限りません。
 他の生物の特性や、無機物の特性をも自らに同化できるようです。あの再生力は、おそらく単細胞生物のものでしょうね…」
 それは、脅威の能力ではないか?
「スタンド能力でも同化できるモナか…?」
 俺は訊ねた。
「ええ。『蒐集者』は、様々な特性・性質をその身に同化させています。
 スタンド能力、その他の異能、物質の性質を問わずにね。だからこそ、『蒐集する者』なんでしょう」

 そう言えば… さっきの戦いで、倒れた俺にやろうとしていたではないか。
 あの時に俺が抵抗しなかったら、奴には便利な目がついていた訳か…
 今さらながら、俺は胸を撫で下ろした。
 その時、『意識の強い相手に、余りやりたくはありませんが…』と言っていたはず。
 俺はその事を告げた。

 口許に手をやるしぃ助教授。
「特性を自分のものにしてしまうといっても、例えばスタンド能力だけを奪い取るといった器用な事はできないようです。
 奪い取る際、いろいろと余計なものまで同化してしまうのでしょうね。
 彼の本体もスタンドも、完全に変成してしまっている。
 『蒐集者』は、余りにも色々なモノをその身に同化しすぎた。おそらく、意識なども混成しているのでしょう。
 それが、元の『蒐集者』の人格にも影響を及ぼしているようですね。人格が破綻しかけているのも、その為です…」

 俺は、『アウト・オブ・エデン』で奴の様子を視た時の事を思い出した。
「あいつは、真っ黒に塗り潰されてるように視えたモナ…」
 俺は呟いた。
 『蒐集者』は無敵なんかじゃない。そんなものじゃない。
 奴の内部は、混ざり過ぎてもうグチャグチャなんだ。
 あいつは、もう壊れている…

 しぃ助教授は口を開いた。
「では、『蒐集者』自身の話をしましょう。少し話が飛びますが、『教会』が組織として成立したのは1600年前の事です」
 俺は驚愕した。
「そんなに『教会』は古いモナか!?」
「吸血鬼は太古の昔から存在しましたからね。もちろん、スタンド使いもそうですが。
 『教会』の歴史は、吸血鬼との闘争の歴史です。当然、強い戦力が必要となります。
 常に『教会』には、その時代の最新の技術と最強の兵力が存在していました。
 もっとも、現在はかなり規模縮小していますがね」
 確か、『矢の男』との戦いに赴くヘリの中でしぃ助教授自身が言っていた。
 『教会』は、古めかしい戦い方に固執していると…

660:2004/01/09(金) 00:54

「とにかく、いつの時代でも『教会』は戦力を求めていたんです。まず、『教会』は波紋法に目をつけました。
 波紋法は『教会』の庇護を受け、その種類や用途も発展・洗練されていきました。
 しかし、それではまだ足りません。ゾンビ程度ならともかく、吸血鬼相手に波紋法のみでは荷が重い…
 吸血鬼は石仮面で簡単に仲間を増やせるのに比べ、一人前の波紋使いになるのは長く険しいですからね。
 一人の波紋戦士が、一匹の吸血鬼と互角程度では、とても間に合いません」

 俺は少し気になった。
「間に合わないって… 昔はそんなに吸血鬼が多かったモナか?」
 しぃ助教授は首を縦に振った。
「中世あたり、吸血鬼は一大勢力を築いていたようです。当時の伝承も吸血鬼に関するものが多いでしょう? 
 一人で数十匹の吸血鬼を葬るほどでないと、全ての吸血鬼を殲滅するには計算が合わなかった。
 次に『教会』が目をつけたのが、生命エネルギーのヴィジョンを自在に操る存在… スタンド使いです。
 優れたスタンド使いを養成し、対吸血鬼戦の訓練を施す… これが、代行者の始まりです」

 代行者…!
 卓越した暗殺技術と、強力なスタンドを併せ持った存在に与えられる称号。
「当時は500人近くの代行者が存在しましたが… 
 時代が進み、吸血鬼が駆逐されていくにつれ、少数精鋭のシステムへと移行していきました。
 それで、現在の代行者の数は9人に落ち着いている訳です。『蒐集者』が離反したので、正確には8人ですかね…」
 現在の代行者は8人か。
 リナーとキバヤシしか知らないが、あのキバヤシがそんな大層な人物だとは思えない。
 そういえば『守護者』って言うのも、名前だけは聞いたことがあった。
 波紋を物質に固着させる『シスタースレッジ』というスタンドで、武器の法儀式を担当しているいという…

 しぃ助教授は話を続ける。
「そんな風に、『教会』は常に強力な戦力を求めてきました。
 そして今から800年前、最強のスタンド使いを人工的に造ろうというプロジェクトが『教会』内で発案されたんです」
 最強のスタンド使いを人工的に造る?
「でも、800年も前にそんなことが出来るはずないモナ…」
 俺の言葉を受けて、しぃ助教授が頷いた。
「そう。バイオテクノロジーどころか、遺伝子の存在なんて明らかになっていない時代です。
 『教会』は、最も原始的な手段を使ったんですよ。それこそ、完成まで何百年もかかる手段をね…」
 原始的な手段…?
 俺は首を傾げる。そんな俺の様子を見て、しぃ助教授は口を開いた。
「優秀なスタンド使いを集めて、交配させたんです。
 そして、生まれた子をさらに優劣で選り分け、さらに交配を繰り返させました
 それを、何百年も繰り返す… それが、最強のスタンド使いを人工的に造ろうというプロジェクトです」

 俺は思わず机を叩いて立ち上がった。
「馬鹿げてるモナ…! 牛や馬じゃあるまいし、そんな家畜みたいな事を…!
 それに、そんなことしたって、血が濃くなるだけで…!」

 しぃ助教授は落ち着いて言った。
「その通りです。人を人だとすら思っていない。
 強制されたのか、すすんで協力したスタンド使いがいたのかは今となっては分かりません。
 ですが、非人道的な手段であった事は確かでしょう」
 しぃ助教授は話を切って、カップを啜った。
 そして再び口を開く。
「そもそも、『最強のスタンド使い』というコンセプトが間違っていたんです。
 『最強』というのは結果であり、最初から与えられたものではないんですから…
 そのプロジェクトは、1000年単位で実行される予定でした。気の遠くなる話、では済みませんね。
 それだけ長ければ、プロジェクト実行者も30回は代替わりするでしょう。
 至福千年ともじったのか、それとも際限無く続けるつもりだったのかは分かりません。
 当然、近親相姦を繰り返し、奇形児が多く産まれました。
 近年になると、プロジェクトの継続すら困難だったようです。
 しかし、そんな腐ったプロジェクトで産まれた… いや、産まれてしまった異能者がいた。
 それが…『蒐集者』です」

 俺はため息をついた。
 嫌になる話だ。
 極端に濃くなった血統が導いた異能。
 それが、『アヴェ・マリア』と『蒐集者』。
 800年をかけて『教会』が精製した最強のスタンド使い。
 それが、あんな精神破綻者。自分を保つ事すらできやしない化物。
 無様な話だ。
 俺は机に肘をついて、頭を抱えた。

661:2004/01/09(金) 00:55

 しぃ助教授は口を開く。
「で、現在の話なんですが… 『蒐集者』は『教会』を離反したとはいえ、完全に切れたわけではないようです。
 彼が『教会』と組んで何かを画策しているのでしょうね…」
 あいつは、実験をしていると言っていたのだ。
「『蒐集者』は、究極の『BAOH』を造るって言ってたモナ」
 しぃ助教授は頷いた。
「彼は、どうやら生体兵器を重点的に研究しているようですね」
 俺はソファーから立ち上がった。
「あいつ、量産が前提とか言ってたモナ…!!」
 あんなものが一杯いたら、町が壊滅するだけじゃ済まない。

 しぃ助教授は、カップを机に置いた。
 中身はすっかり空になっている。
「『蒐集者』が何を企んでいるのかは分かりませんが、少なくとも人の世の為にならない事は確かですよね。
 奴の企ては絶対阻止です。当面、ASAは『蒐集者』を追いますが…
 貴方も、『矢の男』も、『蒐集者』に能力を奪われないようにして下さい。
 『アルカディア』探しよりも、そちらを優先する事。分かりましたね?」
 俺は頷いた。
 俺の能力ならともかく、奴が『アナザー・ワールド・エキストラ』を得たらとんでもない事になる。
「本当は貴方達も隔離したいんですが、どうせ反抗するでしょう…?」
「当たり前モナ」
 俺はきっぱりと言った。そんなのはゴメンだ。
 そんな俺の様子を見て、しぃ助教授は口を開いた。
「ギコやモララー、しぃにもこの話は伝えてあります。あと、レモナとつーも無事ですよ」
 …そうか。俺は胸を撫で下ろした。

「それで、キバヤシは?」
 俺は訊ねる。
「そう言えば、モナが気絶する瞬間に、殺気を感じた気がしたモナ…」
 しぃ教授の顔が、一瞬強張った。
 まさか…!!
「…殺したモナか…?」

 しぃ助教授はため息をついた。
「貴方の前では隠せませんねぇ… 欲を言えば殺しておきたかったんですが、逃げられてしまいました」
 俺は胸を撫で下ろした。あんなヤツでも、殺されたら寝覚めが悪い。
 同時に、嫌な気分になる。
 しぃ助教授は嫌いではないが、簡単に人を殺すの殺さないのという物言いは好きになれない。
「『解読者』は、『教会』や『蒐集者』に不信感を持っているようでしたがね…」
 しぃ助教授は呟いた。
 だからこそキバヤシは、『蒐集者』の周囲を探っていたのだろう。

「…まあ、話はこんなところです。あと、ここでの話は『異端者』に伝えないようにして下さい」
「えっ? リナーには黙ってろって事モナか?」
 俺は隠し事が得意ではない。
「彼女にこれらの事実を伝えれば、必ず『教会』に確認を取ろうとするでしょう。
 そうなれば、彼女の身が危ないかもしれません…」
 そう言われたら、リナーに伝える訳にはいかない。

 しぃ助教授が指を鳴らした。
 ドアが開いて、ねここが顔を出す。
「彼を家まで車で送ります。ねここ、モナー君を1階まで連れて行ってあげて下さい。私もすぐに行きますから」
「はい! じゃ、こっちへ…」
 ねここは元気よく返事をすると、俺を部屋の外へ連れ出した。
「じゃあ、戻りましょうか」
 俺達は広い廊下を進んで、エレベータに乗り込んだ。

662:2004/01/09(金) 00:55


          @          @          @



 モナーは扉から出て行った。
 部屋には、しぃ助教授と丸耳が残される。

「…甘いと思いますか?」
 しぃ助教授は呟いた。

「…はい」
 丸耳は頷く。
「…ですが、仕方ないでしょう」

 しぃ助教授はため息をついた。
「モナー君は、殺気そのものは感じたようですが、『解読者』に向けられたものと勘違いしたようですね。
 まったく、鋭いのか鈍いのか…」
 丸耳は表情を崩さずに言った。
「彼は、我々を信用しきっているんでしょう…」

 しぃ助教授は窓の傍に歩み寄ると、町の全景を見下ろした。
 そして、重い声で丸耳に訪ねた。
「…で、配備は終わりましたか?」
 その言葉を受けて、丸耳は書類を取り出す。
「はい。2コ戦車師団、2コ空挺師団、1コ政経中枢防衛師団、1コ戦略機動師団、1コ空中機動旅団、1コ重爆撃連隊、
 1コ戦術航空軍が配備完了しました。並びに、第14艦隊及び潜水艦隊が太平洋上に展開しています。
 ICBM60基の調整も終了。衛星兵器『SOL-Ⅱ』も軌道上に配置しました」
「動かす機会が無い事を期待したいですねぇ…」
 しぃ助教授はしみじみと呟いた。
「…全くです」
 丸耳は書類を仕舞い込む。

 しぃ助教授は振り返ると、丸耳の方を向いた。
「彼、『異端者』を離さないと言い切りましたね…。もう、何を言っても聞かないでしょう。
 本当なら、あの返答を聞くと同時に殺してしまうべきだったんでしょうね…」
「…殺さなかった事を、後悔しているのですか?」
 しぃ助教授の視線を受けて、丸耳は口を開いた。
「そう見えますか?」
 しぃ助教授はおどけて言う。
 丸耳は軽く微笑った。
「いいえ、殺さなかった事を喜んでいるように見えますが」

 ふと笑って、しぃ助教授は再び窓の外を見た。
「彼らが普通の男と女なら、素晴らしいハッピーエンドだったのに…
 モナー君は、どんなことがあっても『異端者』を愛し続けるのでしょうね…」
 丸耳が無表情で口を開く。
「ねここに、電話番号を聞いているようですが…」
「…若いですね…」
 しぃ助教授は、それっきり口をつぐんでしまった。



          @          @          @



 俺とねここは1階に降り立った。とても広いホールである。
 つかつかと進むねここ。俺はその後に続く。
 ブースの前を通りかかった。
 無言で頭を下げる受付嬢。ねここも黙って会釈する。
 ここだけを見ると、典型的なオフィスビルだ。
 俺とねここは、そのままビルから出た。

「もうすぐしぃ助教授さんが来ますので、少し待ってて下さい」
「分かったモナ…」
 俺は、天高くそびえ立っているビルを見上げた。
 たった1日で、どうやってこんなものを建てたのだろうか。
「これを建てたのも、誰かのスタンド能力モナ?」
 俺はねここに訊ねた。
 ぷるぷると首を振るねここ。
「違います。本部のビルを、そのままこの町へ移動させたんです」
 …そんなとんでもない事をしたのも、誰かのスタンド能力だろう。

 クラクションが鳴った。
 ビルの駐車場からベンツが走ってくる。
「高級車モナね…」
「頑丈だからです。贅沢してる訳ではないのです」
 笑うねここ。
 俺達の前でベンツは停まった。
「じゃあ、乗って下さい」
 しぃ助教授が運転席から呼びかける。
 俺は、助手席に乗り込んだ。
「じゃあ、またモナ…」
 ねここに別れを告げる俺。
 それを受けて、ねここは手を振った。
「じゃあ、行きますよ」
 俺の返事を聞かず、車は発進した。

663:2004/01/09(金) 00:56

 正直、俺の家はここから近いので、車で送ってもらうまでもないのだが。
 運転していたしぃ助教授が、俺にメモを渡してきた。
「私の携帯の番号です。何かあったらすぐに連絡してください。まあ、私の番号をもらっても嬉しくないでしょうけどね…!」
 俺は無言で謹んで受け取った。
 迂闊な事を言うと、どうなるか分からない。車はかなりのスピードが出ている。
 このままガードレールとクラッシュしても、助かるのはしぃ助教授だけだ。
 俺は話題を変えた。
「そう言えば、『蒐集者』はリナーを殺すって言ってたモナ…」
「しばらくは、『蒐集者』も動けないはずです。私達ASAが目を光らせているし、この国の公安五課も彼を追っています。
 彼がこの地で実験とやらを行っている以上、実験場を失う真似はしないでしょう」

 しぃ助教授は、俺の家のすぐ近くの交差点で車を停めた。
「では、私が送るのはここまでです。家まで車で乗り付けてしまえば、『異端者』にバレてしまいますからね…」
 不倫してるんじゃあるまいし…
「じゃ、無理は控えるようにして下さい。何かあったら連絡して下さいね」
「分かったモナ。今日はいいろいろありがとうモナ」
 俺は頭を下げる。
 そのまま、ベンツは走り去ってしまった。


「ただいまモナー!」
 やっと家に帰ってこれた。
 玄関先には、リナーがいた。
 俺の帰りを待っていた… 訳ではないようだ。
 これから出かけるところだったのだろう。

「ああ、お帰り」
 リナーは無愛想に言った。
 ガナーの靴が無い。まだ学校だろう。
 そういえば、カバンはつーの家に置いてきてしまったようだ。

「…?」
 リナーは、じっと俺の顔を見ていた。
 そして、俺の頭に手を差し伸べる。
 …何だ?
 リナーは、俺の頭から何かをつまみ上げた。
 そして、それをじっと見た後、無造作に握り潰した。
「…今のは何モナ?」
「極小の盗聴器だ。ここまで小型化されてるとなると、ASAの仕業だろうな…」
 そんなもの仕掛けられてたのか…
 俺は全然気がつかなかった。
 リナーは眉を吊り上げる。
「それにしても… 頭のてっぺんにこんなものを付けられて気付かないなんて、君はどれだけ鈍いんだ?
 『アウト・オブ・エデン』を持っていながら、どれだけ隙が多いんだ…」
「ごめんモナ…」
 しょんぼりする俺。
「私に謝っても仕方がない。君のために言ってるんだ」

 どうでもいいが、この家の中はすごく空気が悪くないか?
 何かとても息苦しい。
 俺は靴を脱いで、家に上がった。
「とにかく、今日は大変だったモナよ…」
「何かあったのか?」
 聞き返してくるリナー。
 しまった。ASAでの事は口止めされてたんだった。
 『蒐集者』と戦った事も伏せておくべきだよな…

「キバヤシ… 『解読者』に会ったモナよ」
 仕方ないので、当たり障りのない話題をあげる。
 しかし、リナーは顔色を変えた。
「…『解読者』に会っただと…!?」
「そんなに驚く事モナ? あいつは、ただの馬鹿変人モナよ」
 それにしても、ここは空気が悪い。リナーは平気なのか? 
 換気した方がいいような気がするが…

「ただの馬鹿なものか…! 『解読者』は、戦闘技術こそ高くはない。だが、そのスタンド能力は手に負えないんだ。
 代行者の中で一番多く吸血鬼を狩っているのは奴なんだぞ…?」
 あのキバヤシが?
 デカい口を叩いたあげく、つーにボロボロにされていたではないか。
 リナーは言葉を続けた。
「あいつの能力は、ASAから封印指定を受けているんだ。
 代行者の中でも、封印指定のスタンド能力を持っているのは『蒐集者』と『解読者』だけだ。
 『矢の男』の例を見れば分かるように、封印指定レベルのスタンド能力というのは、持っているだけで抹殺の対象になる。
 だが、ASAですら奴には手が出せなかったんだぞ!」
「そんなにキバヤシは強いモナか…?」
 俺は思わず呟いた。
「強くはない。ASAの三幹部レベルと比べたら、戦闘能力では遥かに劣る。
 だが、そもそも奴は戦う必要すらないんだ。奴の武器は言葉だからな…!」
 では、つーになす術もなくやられたのは演技?
 いや、とてもそうは見えなかった。
 …あの時のつーは『BAOH』化していた。
 聴覚も視覚も破棄して、触角からの感覚のみに頼っていたのだ。
 その『言葉』が通じなかったのではないか?

664:2004/01/09(金) 00:56

 空気の悪さに耐えられなくなった俺は、玄関のドアを開けた。
 換気しなけりゃやってられない。
 外には、キバヤシが立っていた。
 これで、空気の悪さから開放される…

「『解読者』…!!」
 リナーは驚愕の声を上げた。
 何を訳の分からない事を言ってるんだ?
 キバヤシなんていないじゃないか。

「久し振りだな、『異端者』…」
 キバヤシは、ゆっくりと玄関に踏み込んできた。
「貴様…!!」
 リナーは一歩下がる。
 それにしても、リナーは誰と話してるんだ?

 キバヤシはさらに一歩踏み出した。
「…近寄るな!!」
 銃を取り出して、構えるリナー。
 キバヤシはジッポライターを取り出すと、そのフタをカチッと鳴らした。

 リナーの銃が、俺の方を向いている!!
 …ちょっと待て、何で俺を狙ってるんだ?
 そうだ。こういう場合は、マガジンを抜けばいいんだ。
 キバヤシに気を取られているリナーの銃に手を伸ばし、俺はマガジンを引っこ抜いた。

 マガジンが下に落ちて、軽い音を立てた。
 …カチッ。

 俺は何をしたんだ?
 キバヤシが、リナーと向き合っていた。
 リナーが銃をキバヤシに向けたが、俺がマガジンを抜き取ってしまったんだ。
 なぜ? 銃は俺の方なんか向いていなかったじゃないか…!
 それに、空気なんて全然悪くない。俺はなんでドアを開けたんだ?

 キバヤシはさらに一歩踏み込んだ。
 リナーを真っ直ぐに見据えている。
「…彼から聞かせてもらったよ。君は午前6時に起床し、午前7時に朝食をとる。
 その際、モナヤのためにパンを焼き、コーヒーを淹れる。昼はちょっと分からん。モナヤは学校に行ってるからな。
 で、午後7時に夕食。それは、モナヤの妹が作る。それから部屋に戻って、武器の整備をした後に読書。
 そして、午後10時に風呂。服を脱ぐ順番から、どこから洗うのかまで聞いているが、モナヤの名誉の為に黙っておこう。
 風呂から上がった後は、午前2時まで読書。それから就寝…だ」
「貴様…!!」
 リナーが唇を噛む。
 キバヤシは両手を軽く振った。
「以上、これがスィッチだ。どれが好みかな…? と言いたい所だが、君を害しに来た訳じゃない。
 今日は、忠告をしに来たんだよ」

「忠告だと…!?」
 リナーはバヨネットを取り出した。
「そんな物騒なもの仕舞っておいた方がいい。そこにいるモナヤを切り刻むハメになるかもしれないぞ?」
 ハッとして、俺に目線をやるリナー。
 そんなリナーの様子を見て、キバヤシは口を開いた。
「では忠告だ。しばらくは大人しくしておいた方がいい。この町には、代行者が全員集まってしまった」
 リナーは驚きの表情を浮かべる。
「全員…だと!? 『アルカディア』一人に、そこまでやる必要があるのか…!?」
 キバヤシは口を開いた。
「そういう類の詮索を禁じる事も含めて、大人しくしていろと言っているんだよ。
 上からの命令なんだ。黙って聞いておいた方がいい」
「…分かった。命令には従おう」
 リナーは悔しそうに言った。

「君が素直でよかった。本音を言えば、俺もスタンド能力を使いたくなかったからな…」
 キバヤシは、ライターをポケットに仕舞った。

「キバヤシ…! モナをだましてたモナか?」
 俺は、キバヤシに言った。
「何の事だ? 君をだました事なんて一度もないぞ?」
 あっさりと答えるキバヤシ。
「だが、俺はMMRのキバヤシであると同時に『教会』の『解読者』でもある。
 それだけは覚えておいてくれないか、モナヤ…」
 キバヤシはそう言って身を翻すと、俺の家から出て行った。

「さっきのは… 一体何モナ…?」
 俺は呟いた。
 リナーはマガジンを拾い上げると、銃に詰め直す。
「君が体験したのが、『解読者』のスタンド能力だ。狡猾にやると、あんなものでは済まないがな…」
 そして、バヨネットを取り出すリナー。

「一つ聞きたいモナ…」
 リナーはバヨネットを軽く回転させた。
「何だ…?」
「なんでキバヤシがいなくなったのに、武器を取り出してるモナ?」

 にっこりと笑うリナー。
「なんで君が、私が風呂に入るときの何やらを知っているんだ…?」
 …どうしよう。
 よし、ここは有無を言わさず逆ギレだ。

「質問を質問で返すなあ――っ!!」


 まあ、なんだ。
 どうせ自分で治すハメになるのに、痛めつけるってのは…
 一生懸命穴を掘って、自分で埋めるようなもんじゃないか?
 薄れゆく意識の中で、俺はそんな事を考えていた。


  /└────────┬┐
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665新手のスタンド使い:2004/01/09(金) 01:35


666:2004/01/10(土) 01:19

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その1」

 
 キーン コーン カーン コーン…

 授業の終わりを告げる、無機質なチャイムが鳴り響いた。
 僕はノートや教科書を素早くカバンに仕舞い込む。

 ハァハァ…

 奇妙な息遣いが聞こえた。
 かなり近い。急がなければ…!
 休み時間になるといつもこうだ。
 まして、今は放課後。
 本格的に奴らが仕掛けてくる…!

 教室の戸が開いた。
 奴がヘラヘラした顔を出す。
「1さーん!」

 来たッ…!!
 その不気味な肢体。ヨダレを垂れ流すキモイ顔。ニュルニュルした動き。
 奴を構成する全てがキモイ。

「キモイヨー!」
 僕はカバンを抱えると、後ろの戸の方向へ駆け出す。
 しかし、僕が向かったはずの後ろの戸は、無情にもガラガラと開いた。
「ハアハア… こっちに来ると思ったよ…」
 奴は、そちらにも回り込んでいた。
 そう。奴は一人ではない。数えた事はないが、810人いるという話だ。

 戸は両方とも、奴らに押さえられてしまった。
 こうなれば、仕方がない。
「はぁっ!」
 僕は、前方に迫っていた奴の股下に飛び込んだ。
 奴らは体格がデカい分、敏捷性に欠ける。
 僕は奴の両足の隙間をくぐり抜けると、猛ダッシュで教室を抜け出した。
 同じクラスの女子が、何やらこっちを見てヒソヒソ話している。
 奴らのせいで、僕まで変な目で見られるのだ。
 クラスの中で僕に話しかけてくる人はいない。

「1さーん! 待ってー!」

 ゲッ、追いかけてきた…!
 僕は階段を駆け下りると、素早く靴を履き替えて校外に出た。
 

 ちらりと後ろを振り向く。
 どうやら、追ってきている気配はない。
 逃げ足の速さには自身がある。
 よく考えれば本末転倒だ。奴らのせいで足が速くなったのだから。
 僕はため息をつく。
 何で、毎日毎日こんな目に合わなきゃいけないんだ…?

 取り合えず、無事にアパートまで帰ってきた。
 僕の部屋は、このアパートの2階にある。
 ドアの鍵を開けて、奴らが来てないか入念にチェックしてから家の中に滑り込んだ。
 そして、すかさず鍵をかける。
 ふう、これで大丈夫だ…
 僕はカバンを置いて、TVをつけた。
 しばらくは一息つけるだろう。
 今日も疲れた…


 …僕は、テーブルから頭を上げた。
 テーブルに突っ伏して寝てしまったようだ。
 時刻は、ちょうど8時。
 TVからは、今日のニュースが流れていた。
 政治家が汚職で捕まったとか、どこかの国で50人近い人達が忽然と姿を消したとか…
 そう言えば、あの連続殺人事件はどうなったのだろうか?
 20人くらい連続で殺され、最後の方には吸血鬼の仕業というデマまで出る始末だ。
 さんざんマスコミで騒いだあげく、パッタリと報道されなくなってしまった。
 何か、変な圧力でもかかったんじゃないだろうな…?
 まあ、僕みたいな一般小市民にはどうでもいい話か。
 
 ピンポーン!
 呼び鈴が鳴った。
 身構える僕。
 だが、奴らはベルを鳴らして入ってきたという前例はない。
 念の為、ドアの覗き穴から覗いてみる。
 何の変哲もない宅急便のおじさんだ。
 背格好も、奴らとは違いすぎる。
「はーい」
 僕はドアを開けた。
「荷物です… よっこらしょっと!!」
 おじさんは、玄関先にその荷物を置いた。
 やけに重そうだ。何だろうか?
 とにかくハンコを渡す僕。
 手続きを済ますと、おじさんは礼をして去っていった。

 とりあえず、荷物を居間まで運び込む。
 メチャクチャに重い。中身は何なんだ?

667:2004/01/10(土) 01:20

「誰からだ…?」
 送り先の名前はない。
 もしや、奴らの新しい手段か…?
 フタを開けたら、「1さーん!」とか言いながら飛び出して来ないだろうな…?
 僕は、もしもの時のために用意しておいた金属バットを構えた。
 そして、荷物から3歩離れる。
 大きく息を吸い込むと、感情を込めずに言った。
「僕、実は8頭身の事が大好きなんだあー!」

 シーン…

 荷物からは何の反応もない。
 どうやら、奴らではないようだ。
 僕は金属バットを放り出すと、ガムテープをビリビリと剥いだ。
 そして、ゆっくりと蓋を開ける…
 
 ニュッと、箱の中から何かが突き出した。
 …顔?
 …女の子?
 そう。見知らぬ女の子が箱から出てきたのだ。
 しかも、女の子は服を着ていない。全裸だ。ハダカだ。

「…誰!?」
 僕は状況についていけない。とりあえず無難な質問が精一杯だ。
 きょとんとしていた女の子が、不意に口を開いた。
「…私の名前は簞(ばつ)なのです」
 簞? 変な名前だなぁ。

 …うわーぁっ!!
 ハ、ハダカじゃないか!!
 僕は慌てて顔を背けた。
 だってハダカなんだ。
 ちょっと待て。おかしいじゃないか。ハダカだよ?
 なんで女の子が宅配便で送られて来るんだ?
 しかも、ハダカだし。
 …エロいな。
 今だって、普通に名前を名乗ってたよ?
 それもハダカで。
 僕の脳内は、この女の子のハダカ祭りだ。

「とにかく、服を着て! 服を…」
 僕は鼻血を垂らしながら喚き立てた。

「服はないのです…」
 普通に返答する女の子。
「じゃあ、タンスの中に僕の服が入ってるから、適当に着てよ!」
「では、お借りするのです」
 後ろから、ゴソゴソいう音が聞こえてくる。
 …エロいな。

「着たのです」
 僕は、気を落ち着かせて振り返った。
 女の子は、僕のTシャツとGパンを着用している。
 当然のようにぶかぶかだ。
 …エロいな。

 とりあえず、僕は頭を抱えた。
 何から聞けばいいんだ?
「えーと… 名前は聞いたな。簞ちゃんだっけ? 何で宅配便で来たの?」
「分からないのです…」
 そうか。しかも、ハダカだしなぁ…
「何で、僕の家に?」
「それも、分からないのです… ただ、人を探しているだけなのです…」
 人探し? それで、何で僕の家に?
 うーん、困ったなぁ。

 簞ちゃんは困惑げな表情を見せた。
「ひょっとして… 私、迷惑をかけてますか…?」
「いや、そんな事はない、けど…」
 僕は言い淀んだ。
 迷惑云々より、状況が理解できないだけだ。
 ハダカだったしなぁ…
「そうですよね…」
 簞ちゃんはすっくと立ち上がった。
 そして、トタトタと玄関先に向かう。
「お邪魔してしまったのです。この服は、必ずお返しするのです。では…」

 ドアが閉まる音。
 その後に押し寄せる静寂。
 もしかして… 出て行ったのか?
 今は9時。
 連続殺人鬼はなりをひそめたものの、女の子が一人で外を歩くには遅すぎる。

 …まあ、僕が心配する筋合いじゃないか。
 迂闊に出て行って、奴らに出くわすのもゴメンだしな…
 でも、簞ちゃん、可愛かったな…
 いやいや。僕の小市民的第六感が警告している。
 関わり合いになると、絶対にロクな事にならない。
 でも、ハダカだったよな…
 いや、色事で運命変えるなんて僕のガラじゃない。
 …
 ……
 ………
 そうだ、コンビニに用があったのを忘れてた。
 あれだ。懐中電灯が壊れたんだ。急いで買いに行かないと。
 あれを今日中に買っとかないと、大変な事になるんだ。そりゃ大変だ。
 さて、急いで買いに行くとするか…

668:2004/01/10(土) 01:22

「簞ちゃーん! 簞ちゃーん!」
 夜道をさまよいながら、大声で呼びかける。
 全く… どこへ行ったんだ?
 役に立たない懐中電灯をくるくると回す僕。
 適当に町を巡っていたところで、見つかる可能性は低いだろう。
 僕は考えた。
 この町で、泊まるアテがあるとは思えないし、あったらあったで心配はないだろう。
 お金も持ってないだろうし、野宿の可能性が最も高い事は予想できる。
 さて、この辺りで野宿が出来るところといったら…
 とりあえず、公園にでも行ってみるか。

 僕は公園の前に到着した。
 さて、簞ちゃんはいるだろうか。
 よく考えれば、簞ちゃんが公園の場所を知っている可能性も少ないんじゃないか?
 結局、無駄足かもしれないな…

「きゃーっ!!」
 今のは… 悲鳴?
 しかも、簞ちゃんの声だ!!
 確かに、公園の中から声がした…!

 僕は慌てて公園へ飛び込んだ。
 腰を抜かして倒れている簞ちゃんが目に入る。
 その前には、不審な男が立っていた。
「大声を上げるから、変な奴が来てしまったではないか…
 男は余り趣味ではないが、今日もいっぱい吸ってやるとするかァァァァッ!」

 何だ?
 あの男、普通じゃない…!

「早く逃げてください!!」
 簞ちゃんは、僕に向かって叫んだ。
 もちろん、言われなくても逃げるさ。
 僕は典型的な小市民なんだから…
 ただし、簞ちゃんを連れてだ!!

 僕は簞ちゃんを素早く抱え起こすと、背中に背負って思いっきり走った。
 逃げ足だけは自信がある。
 物心ついた時から、奴らに追い回されてたんだ。
 変質者ごとき、僕の足に敵うもんか!

 公園を飛び出して、夜道を一直線に走る。
 とにかく、ここは警察だ…!
 こんな時に限って、携帯電話を置いてきてしまった。
 持っているのは、コンビニで意味もなく買った懐中電灯だけ。
「駄目です… 私を置いて逃げるのです…!」
 僕の背中で簞ちゃんが言った。
 残念ながら、太ももや胸の感触を楽しむ余裕はない。
「大丈夫さ、交番までもうすぐだ!」
 僕は走りながら言う。
「あれは、吸血鬼なのです! 警察の人では何もできないのです!」
 吸血鬼だって…!?
 吸血鬼って、人の血を吸ったり、日光で溶けたりするアレか?
 もしかして、簞ちゃんは錯乱してるのか…?
 怖い目に合ったのだ。それも仕方がないだろう。

 疾走する影。
 それは電柱を蹴って、僕の眼前に着地した。
「人間にしては、逃げ足が早いなァ?」

 …確かに、今の動きは人間にはできない。
 これはリアルだ。
 こいつは、どう考えても人間じゃない。
 夢でも見たんだろうとか、強引に自分を納得させる奴なら、ここで命を落とす。
 僕は小市民だけに、危険には敏感だ。
 こいつは、ヤバい!!

「今日はハラが減ってるんだ… 極上の女なんて、ついてるなァ、俺は…!」
 口をガパァッと開ける吸血鬼。その口から牙が覗く。
 やっぱり、人間じゃない。
 簞ちゃんの言うとおり、こいつは吸血鬼だ。
 吸血鬼が、一歩一歩こっちへ近付いてくる。
 完全にリアルなんだ。適応できないと、死んでしまう…!
 何とか、こいつから逃げないと…

「喰らえ、紫外線照射ッ!!」
 僕は叫びながら懐中電灯のスィッチを入れ、吸血鬼に浴びせかけた。
「ぬ、ぬぐわァァァッ……って、しまったァ!」
 奴が顔を逸らしてフェイクに引っ掛かってる間に、僕は吸血鬼の横を素早くすり抜ける。
「人間ごときがァ…! 一目散に逃げやがってェ!!」
 奴の叫びが聞こえてくる。
 そのまま、家に向かって駆け出した。

「はぁ、はぁ、はぁ…」
 かなり引き離してやった。
 それにしても、なんでこんな夜に吸血鬼と追いかけっこやってんだ、僕は…
「大丈夫ですか?」
 背中の簞ちゃんが言った。
 僕は親指を立てる。
「足の速さには自身があるんだ。吸血鬼と比べても遜色がないことを証明したしね…」
 ようやくアパートの前まで辿り着いた。
 さて… これからどうしたらいいんだ?

「待てェェェェェッ!!」

 ゲッ!!
 吸血鬼が走ってきた。
 僕は、アパートの中に駆け込んだ。
 階段を駆け上がって、僕の部屋に飛び込む。
 そのまま後ろ手で鍵をかけた。

669:2004/01/10(土) 01:22

 僕は、簞ちゃんを下ろした。
 あの超人的な身のこなしからして、玄関のドアぐらい簡単に破れると思った方がいいだろう。
 武器を持って立ち向かうか…?
 例の金属バットが目に入る。

「開けろォォォッ!」
 ガンガンとドアを叩く音。
 ヤバい、もう来やがった…!
 よく考えたら、部屋に逃げ込んだのって、最悪の選択じゃないか?
 ドアがミシミシ言っている。
 ここは… 隠れるんだ!!
 僕は金属バットを拾い上げて、思いっきり窓に向かって投げつけた。
 ガシャーンという音とともに、粉々になる窓ガラス。
 …よし!
 僕は簞ちゃんの手を引くと、押入れに飛び込んだ。

 バキィッ!! という音を上げて、玄関のドアがブチ割れてしまった。
 ビクッとする簞ちゃん。
 しかし、音を立てたら終わりだ。
 簞ちゃんはぶるぶると震えている。
 ゆっくりと入ってくる吸血鬼。
 僕は、ふすまの穴から様子をうかがった。
 つかつかと入ってくると、割れている窓に目をやる。
「チッ… 窓から逃げたのか…」
 窓から外を見下ろして、悔しげに呟く吸血鬼。
 よし、いいぞ…

「…などと考えると思ったかァ?」
 吸血鬼はくるりとこちらを振り向いた。
 奴と目が合う。

「…!!」
 僕は、驚いてフスマの穴から目を離した。
 …気付かれた!
 しょせん小市民の僕が、吸血鬼を出し抜こうなんて無理だったのか…
 押入れなんて貧相な場所で血を吸われるなんて、小市民の僕にはピッタリかもしれない。
 簞ちゃんの震えが身体に伝わってくる。
 …温かい。
 僕は、簞ちゃんを僕の背中側にまわした。
 こうなったら、僕が盾になってやる。
 どうせ死ぬのなら、ちょっとぐらいカッコいい方がいいからな…

 吸血鬼は、押し入れの前に立った。
「さァて… もう、鬼ごっこも隠れんぼも終わりだ… 美味しい血をジュルジュル頂くとするかァ…!!」

「開けないで下さい!!」
 簞ちゃんは、大声で叫んだ。
「お願いです。どうか、このフスマは開けないで下さい…
 そして、このまま引き返してほしいのです。お願いなのです…」
 悲痛に訴えかける簞ちゃん。
 だが、泣き落としが通じる相手とは思えない…

「駄目だァ〜〜ッ!! ジュルジュル吸うまでは、帰れないなァ―――ッ!!」
 吸血鬼は奇声を上げると、一気にフスマを開けた…!!

 その瞬間、フスマに手をかけた吸血鬼の右腕が爆発した。
 僕にはそう見えた。
「な、なんだァ――ッ…!! これは波紋ッ!! オ、オレの手がァァァッ!!」
 煙を噴き出しながら溶けていく右手を押さえて、絶叫する吸血鬼。

「『シスター・スレッジ』は、既にフスマに触っていたのです… だから、開けないでって言ったのに…」
 簞ちゃんは、悲しげに言った。

 吸血鬼の溶けている部分は右手だけではない。肉体の崩壊は次々と全身に波及している。
「知っているぞォォォォッ!! お前、代行者だなァァァァァッ!! 今、やっと気付いたァァァァ!!
 もっと早く気付くべきだったんだァ……」
 喚き声を上げながら、その場に崩れ落ちる吸血鬼。
「……一目散に逃げるのは、オレの方だったのにィィィィィッ!!」
 断末魔をあげて、吸血鬼は溶けてしまった。
 塵のようになって、その場には死体の欠片すら残らない。

「ダスト・トゥ・ダスト。塵は塵に還るのです…」
 簞ちゃんは呟く。
「もう、こんな事はしたくないのです。こんな事、したくないのに…」
 そして、泣き崩れる簞ちゃん。

 僕は、吸血鬼を容易く灰にしながら、泣き続けるこの少女から目が離せなかった…



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670N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:43
椎名が会議室へやって来た時には、既に他の教員は全員着席していた。
「遅いですぞ、椎名先生。教員たるもの自分が遅刻しているようでは、生徒に示しが付かないというものですぞ!
全く、これだから新任教師というのは…」
彼女の遅刻のせいで3分近く会議が遅れた事に、中年で髭面の熊野は苛立った様子で文句を言った。
「す、すみません…」

昨日の夜、高校以来の彼氏と別れたショックから立ち直れなかったという理由は熊野には言っても理解出来ないだろうと椎名は思った。
熊野は50代前半だそうだが、独身で彼女が出来る兆しすら見えない。
いや、この歳になるとむしろ絶望的なのだろうが。
最近も、70を過ぎた両親が必死に漕ぎ着けた縁談5つを全て駄目にしたそうだ。
これらは全て、熊野の同期で老若男女、熊野1人を除いて皆から好かれているおばさん教師・森田寧々、通称モネ姐が言っていた事だ。
実はモネ姐も熊野同様独身なのだが、そこには教職に人生を懸けたワーキングウーマンの気高さが漂っており、
同じ独身でも明らかに彼女の方が格好良く、椎名や他の若い女性教師からは憧れの存在であった。

「まあさて、椎名先生が来ましたから早速今朝の会議を始めることにしましょう」
椎名が遅刻した事に大して苛立つ様子も無く、校長・初ケ谷は穏やかな表情で職員会議を始めた。
彼は俗に言う「おじいさん先生」であり、実績こそあるがその生来からの気の弱さが災いし、今この学校での発言権は
熊野に握られてしまっているのが現状であった。

毎日毎日代わり映えの無い会議にはいつも椎名は退屈していたが、今日は特に昨晩の事が忘れられず、議事そっちのけで夢想にふけっていた。

―――何で今別れなきゃならないの?そんなのって、ひどいよ…

彼は彼女の今までの人生の中で唯一の男であり、自分の中では近い将来結婚するものだと信じていた。
浮気性も無く、彼もまた自分だけをずっと見つめていてくれたと思っていたのに。

―――やっぱりモネ姐さんが言うように、「男は信用出来ないもの」なのかなあ…

自分の二倍以上生きた女性の言葉には重みだけでなく信憑性もあった。
自分の事を応援してくれていたのに、彼女には何と言えば良いのだろうか。
椎名にとっては、遅刻よりもそちらの方が深刻であった。

671N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:43

「さて…、それでは最後に例の奇妙な話について話し合いましょう」
「例の奇妙な話」と聞いて、椎名の意識は空想から現実へ引き戻された。
つまらない教員生活の中で最近起こった奇妙な事件には、彼女のみならず数多くの同僚達が興味を示していた。
自分の興味のある話題だけに、彼女は聞き逃さぬよう話に集中した。

「えー皆さんご存知でしょうが、この学校で最近児童の運動能力が一時的に、しかも驚異的に向上するといった事態が起こっております。
体育の時間にクラス一番の鈍足と言われた子が突然国体級の速さで走ったり、
あるいは水泳のタイムが突然イアン・ソープを超えただとか…」
「分かりきった話は要らないわ、さっさと本題に入りましょうよ」
校長が儀礼的な事実確認を進めていくのを、30代前半の女教師、神尾純子―――何故か周囲からは「リル子」と呼ばれているが―――は
退屈で不機嫌そうな顔をして言った。
かなりの嫌味さで周囲からは嫌がられているが、何でもしつこく言い寄ってくる男の相手をするのに疲れているからだとか。
いつもはその理由をアホらしいと思う椎名も、今朝ばかりはむしろうらやましく思えた。

「…ええまあ、それで我々も当校の生徒が異常とは言え運動能力が向上する分には全く問題が無いという事で、
これまで詳細な事実確認を怠ってきたのですが、ここ数日その生徒達の親から苦情…と言うか不気味がる電話がよく入りまして、
『うちの子に何かしたんですか!?』とか『これからもずっとこうでいられる方法を教えて下さい』とかまあ色々でして、
それでとうとう教育委員会の方からお達しが来まして、事態の詳細な調査をするように、と指示されてしまいました」
哀れ校長、熊野だけでなくリル子にまでもなめられてしまった。
まあそんな事はずっと前から分かっていたのだが。

椎名は結局いつもと大して変わらぬ話題に少々がっかりした。
これが事件の真相が分かりましたとか、全国大会で優勝する生徒まで出ましたとかならよっぽど面白いのに。
尤も、後者は絶対に有り得ないというのは周知の事実であった。
今回の異常な運動能力向上は、どの場合も全くの一時的なもので終わっていた。
一番酷いケースでは、クラスで皆から除け者にされてきた子がこの一件で馬鹿みたいに足が速くなり、
とうとう県大会出場を決めたのに、その当日に急に元の速さに戻ったおかげで目も当てられない結果に終わり
結局今日まで登校拒否を続けている。

ただこの事件で1つ奇妙なのは、運動能力が上がるのはスプリントと水泳くらいで、
野球とかサッカーで腕が上がったという話は今まで1つたりとも挙がっていないことであった。
これがこの件でのキーポイントになると椎名は読んでいたが、あいにく彼女の頭は事件の真相を突き止められるだけの知能が無かった。

「それででして、今日は皆さんから何かこの件についてご存知のことがあるのではないかと思い、こういう時間を設けた訳ですが…
どなたかちょっとした事でも知っておりましたら、気兼ねなく発言して下さい」
「気兼ねなく」という言葉が明らかに嘘であることは全員が承知していた。
案の定、すぐに熊野が不平を言い出した。
「校長、恐縮ですが今日この様な時間を設けましても、何せ余りにも奇々怪々な事件でありますから誰かが何か知っていることもないでしょう。
それにほら、時間も押していますからそろそろお開きとした方が…」
言葉遣いこそ丁寧だが、結局熊野が言いたいのは「どうせ誰も何も知らないんだ、時間の無駄だからとっとと終わらせろ」ということだ。
何だかんだ偉そうな事を言って、結局は自分勝手な男である。
嫌われるのも当然だ。

「そう思うだろ、静川!!」
「…は、はいっ、そう…ですね…」
友人もいない熊野のストレスは、全てこの物静かな静川にぶつけられる。
いつもシーンとしている大人しさが、可哀想な事に熊野に言いなりにさせられる対象となる原因となってしまっている。
心無い発言が彼の本心に拠るものでないとは、(熊野以外は)全員分かっていた。

「そう言えば鳥井先生はこの事件に興味津々でいらっしゃいましたよねえ?ひょっとして、何かご存知とか…」
「苗字で呼ぶなコラァ!」
リル子が話しかけた鳥井は、何故か知らないが苗字で呼ばれるのを…と言うよりも、「鳥」と呼ばれるのを異常に嫌っている。
初めは誰彼構わず乱暴口調で反論することに周囲も腹を立てていたらしいが、最近ではもう彼の1つの個性として認められてしまっている。
だが悪いが、どう見ても鳥顔である。
以前急に姿が見えなくなったので、死んだとかいう噂が一時期流れたが、ある日何事も無かったかのように出勤してきた。
何とも不思議な男である。

672N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:44

ふと、椎名は以前から彼女だけが知っているある事実を思い出した。
それはもう一ヶ月近く前からこれは事件に絡んでいると睨んでいたのだが、忘れやすい彼女はいつもそれを誰かに言う前に
すぐ忘れてしまい結局今日まで過ごしてしまっていた。

「あの、すみません…」
椎名が恐縮そうに挙手すると、すぐに熊野が睨み付けた。
「何ですか、急に!もう会議を終わりにしようという時になって、何か言いたい事でも!?」
高圧的な態度は彼女に黙れと伝える無言のメッセージだった。
普通なら誰もがこんな場面では「すみません」と言って着席してしまうが、今日の椎名は違った。
「…ええ、今回の一件に関係しているのかも知れないことが1つありまして、一応この場で報告した方がいいかと…」
「関係無いんでしょう!?ならもう終わりにしましょう!全くあなたも『くまった』人ですねえ…。
ガハ…ガハハハハ…!!」

出た。熊野お決まりのオヤジギャク。
もう何度も何度も、(面白くないのに)しつこく繰り返されるギャグには全員が呆れ切っていた。
と言うより、人の事を勝手に責めておきながらギャグを言い、挙句自分で勝手に受けるなど、そちらの方が余程無礼である。
やり場の無い怒りがこみ上げてくると、モネ姐が馬鹿笑いする熊野に冷たく言い放った。
「…あなたもね」
侮蔑の込められた言葉に流石の熊野も咳払いをして黙ってしまった。
モネ姐は優しく隣に座る椎名の方を向いていった。
「(さあ、うるさいクマは黙らせといたわ。これで気にせず知ってる事を言ってちょうだい。)
椎名先生、続けて」
椎名はモネ姐に軽く会釈をして、熊野にちょっと目を向けた。
明らかに不満爆発といった感じだ。
彼女は熊野から目線を逸らすと、彼女の知っている事実を語り始めた。

「この突然の運動能力の向上が初めて確認されたのは1ヶ月前のことです。
これは1年3組――つまり私が受け持つクラスですが――の大耳萌奈美さんが水泳の授業中に突然200mを驚異的な速度で泳ぎ切ったという事件です。
それから今日までにおよそ70件以上の報告が為されていますが――実はその内40件以上は1年3組の生徒が当事者です」
今までそんな事実に気付いていなかった他の教員達は驚くと共に、事件のミステリー性が深まってむしろ面白がっていた。
しかしこんな大切な事に今まで皆気付かなかったのか?
椎名は教師と言うものの人間性を垣間見たような気がした。
「フン、面白そうじゃない…。それで?何でそんな事が分かったの?」
クールで嫌味そうな事を言っても、リル子が興味津々であることは丸分かりだった。
「はい、それで私も担任としてクラスの児童に色々と聞いて回りました。そうしたら、どの事件にも私のクラスのある生徒達が関わっていることが判明したのです」
いよいよ聴衆達の期待は高まり、ざわめきが辺りから聞こえてきた。
校長は慌てて教員達を黙らせた。
「み、皆さんお静かに。……それで、その生徒とは一体…?」
「はい、その生徒達はその大耳さんの事件が起こる前日に私のクラスに転入してきた子で、保護者と本人の強い要望で特別に同じクラスに所属することになりました。
彼らはどのケースにおいてもその運動能力が上がった児童達とその前に接触があった事が本人達の証言で分かっています」
聴衆達は再びざわめき出した。
校長も今度はそれを止めようとはしない。
ただ熊野1人だけが、腕を組んでむすっとしながら下を向いていた。
「もう、じらすわね…。それで、その子の名前は?」
「はい。その児童達の名前は…」

673N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:44

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        シャイタマ〜!         |   |   シャイタマ!   |   |
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    \       つ゚∀゚)つ     |    |  ⊂(゚∀゚)つ  |   |      ⊂(゚∀゚⊂  /  /   /
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シャイタマアキラメロシャイタマ  シャイタマアキラメロシャイタマ  ∩_∩   シャイタマアキラメロシャタマ  シャイタマアキラメロシャイタマ
  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  G|___|    ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧
 ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/  (; ・∀・)   ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/
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674N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:45
シャイタマ小僧がやって来る! 前編

少し乾き気味の空気に炸裂音が響く。
1つ。また1つ。最後に1つ。
秋風に流されたその音は、町の住民全てに届くほどの大きさだった。

それは、今まさに始まらんとしている熾烈な戦いを知らせる祝砲であった。



「おいっ、相棒!なにのんびりしてんだよ!早く来んかい!!俺は先に行ってるぞ、ゴルァ!」
ギコがしきりに呼ぶ声が聞こえる。
「あ〜、分かったよ!」
…ったく、たまにはオレだって詩人になりたいのにさ。


「太古の昔より、オスはメスの気を引くため、熾烈な争いを繰り広げてきた。
その1つに、運動能力による優劣がある。
身体の強い奴は、それだけメスにとっては頼り甲斐があるからだ。
そしてヒトは知性的になっても、その本能を忘れなかった。
古代ギリシア人はその本能をいかんなく発揮する場所として、紀元前776年――これは学者の推定だが
オリンピック、つまりここでは古代オリンピックだな、それを設けた。
その後1169年間オリンピックは続いたが、オリンピックはその名の通りオリンピア信仰からなるものであった。
そのため392年にローマのテオドシウス帝がキリスト教をローマ帝国の国教と定めたために、
オリンピア信仰はそこで潰えてしまうこととなり、393年の第293回オリンピック競技大祭が最後のものとなってしまった。
ところが1892年、フランスのクーベルタン男爵は『ルネッサンス・オリンピック』という講演で、オリンピック復活の意志を世界に示した。
その思想は各国から賞賛され、そして1896年に記念すべき第1回近代オリンピックがギリシアで開催された。
俗に言う『ギリシアオリンピック』だ。
その後第二次大戦中は幾度か中止されることもあり、本当は1940年にも東京オリンピックは予定されていたが、
当時の世界情勢から延期という形で取り止めになってしまった。
そして戦争は終わり、1964年10月10日、記念すべきアジア初のオリンピックである『東京オリンピック』が
国立競技場で華やかに執り行われたのだ。
そもそもこの10月10日というのは、記念すべき開催式が雨であったら大変だということで、
過去の統計から晴れの確立が非常に高いことから選ばれた日であって、何の考えもなく適当に選ばれた日じゃないんだぞ!
お前達も見たことがあるだろう、カラー映像で映し出される入場行進とか、『空の五輪』とか…。
競技の方で有名なもんだったら、マラソンで円谷が銅を取ったとか、女子バレーの『東洋の魔女』とか…。
いやー、あれは見事だったな。世界最強のロシアを見事に倒した彼女達の勇士は…」

…知ったかぶりの知識披露もいいとこだ。
てかこのギコ兄、お前は一体何歳なのかと小一(ry
「…でさ、ギコ兄は結局何が言いたいのさ?」
「そう!そしてさっきも言ったが10月10日とはしっかりとした理由のある、
日本だけではない、アジア全体で記念すべき日であるはずなのだ!!
それなのに、ああそれなのに、あのオブチは何を血迷ったか『ハッピーマンデー法』なるものを提唱し、
大事な祝日の意義そのものを完全に潰してしまったのだ!!
これは過去の偉人達ばかりではない、世界史全体と古代ギリシア人に対する冒涜であって…
おいギコ屋、どこへ行くんだ。これから同士を募って『ハッピーマンデー法反対署名』を国会に突き付け、
冥土のオブチに一泡吹かせてやろうと…」
…もう付き合っていられん。



ま、ギコ兄の言うとおり何か釈然としないところもあるけれど、
結局何が言いたいかと言えば今日が「町内大運動会」である、ということだ。
正直言うと、オレも初めてこの大会の存在を知った時はビックリした。
今時こんなことを律儀にする町なんざ、今まで売り歩いた中で見たことがない。
で、今回オレ達も折角だから出場しようということになったのだ。
この商売も毎日労働とは言えるけど、まともな運動なんて何年振りだか…。
筋肉痛になったり、筋を切ったりしなきゃいいんだが。
「おいギコ屋、まだ私の話は終わってはいないぞ!」
あ、ギコ兄が追って来た。
準備運動も兼ね、オレは走って逃げた。

675N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:46

会場は既に人でごった返していた。
地方にしては無駄に広い運動場だが、それでも足りないと思えるくらいだ。
「おっ、やっと来たか相棒。お前は最初の競技なんだから、遅刻すんなとあれほど…、
あれ?兄貴は一緒じゃなかったのか?」
あんなのと一緒に来たら、それだけでフルマラソン3回分くらいの疲労が溜まりそうだ。
「…言っとくが、今日はなるべく会わない方がいい…。大変な目に遭うぞ…」
「…?まあいいや。そろそろ開会式が始まるから、適当に並ぶぞ」
「ああ、分かったよ」



『えー、町内の皆様、おはようございます。(住民、低い声であいさつを返す)
えー、今日はこの秋季町内大運動会も30回目という記念すべき年でありまして、
えー、そういうことで皆様にはいつもの運動不足を解消していただくべく!
えー、全力を尽くしていただきたいと…』
聞いててウザイ。「えー」が多すぎだ。
ってかオレも頭はそんなに良くないけど、何か日本語がおかしいって分かるぞ。
…この町長、頭悪いだろ?

『えー、またこの大会の開催に関しては、
えー、毎年お世話になっています町内商店街の皆様から今年も多大なる助力を頂きまして、
えー…』
よくある社交辞令。
聞いてる方にとっては一番ストレスの溜まる部分だ。
そんなもん酒の席ですませときゃいいじゃないかと問いたい。問い詰めたい。小一(ry

『平成十五年十月十三日  擬古谷町長  擬古瀬 伍琉央』
あー終わった終わった。んじゃさっさと走るとしますか…。

『(司会進行現れる)えー続きまして、県知事の茂羅様よりご挨拶を…』
な、なんだってー!
まだ続くのかよ…。

『えー続きまして、衆議院議員の左菅谷 阿仁様よりご挨拶を…』
んなもんわざわざ今日来てまですることか、仕事あんだろ!
政治家ってのはどうして無駄な選挙運動を…。

『えー続きまして、参議院議員の左菅谷 逐梼様よりご挨拶を…』
絶句失笑。

『えー続きまして、祝電披露』
これはどこかの卒業式か!!??
いい加減ディオ ブランドサマに無駄を削減してもらいたくなってきた。


『…今後の擬古谷町の発展を心よりお祈り申し上げます』
…もういいだろ?
テントの下にいるのでこれから話しそうな奴も見当たらないし…。
…あ、終わったらしい。
これでようやく…。

『えー続きまして、諸注意』
…もう…駄目…。
(ドサッ)
「…相棒…?おい、しっかりしろ、相棒!おい、誰か担架持って来い、担架!!」

676N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:46

額に冷たさを感じる。
失われた意識が一気に復活した。
「…ん、ここは…?」
「お、ようやく目を覚ましたか。こっちもびっくりしたぞ、お前ともあろうものが貧血で倒れるなんて…」
貧血…ああ、あのクソ長い開会式でオレは倒れたのか。
「…ってそうだ!オレの競技最初じゃんか!まさかもう…」
慌てるオレの顔を、相棒は呑気な顔で見つめた。
「大丈夫だぞ、実はあの後倒れる奴がお前以外にも続出してな、予定を変更して競技開始をちと遅らせることにしたんだ。
…ってか、お前は病み上がりで走るつもりなのかよ?」
ギコの顔はオレがまさかそうはしないだろうと思っていることを表していたが、オレは本気だ。
「もちろん初めっからそのつもりさ!何のために今日ここに来たと思ってんのさ!!」
ギコは深い溜め息を吐いてオレを見た。
「…呆れたぞ。お前のその異常な根性はどうかしてやがる…」
「ま、いいじゃないか。どうせオレも1つしか出ないんだしさ。さ!準備運動すっか!!」
オレは救護テントから出て、貧血で倒れたことも忘れて屈伸を始めた。

100m走。
それは極僅かな距離で繰り広げられる男達の全力勝負。
一瞬の手抜きすら許されない集中力と体力の競い合い。
そこにはまさに闘う者達の美学が…
『さあさあやって参りました、第30回擬古谷町秋季大・大・大運動会!!
今年も沢山の町の皆が参加してくれて、VERY VERY THANK YOU だ!
さあ猛者共!今日は己が持てる力を存分に出し切って、思いっきりはみだしてくれ、いやはみだせ!!」
…美学を解さない奴もいるし。
まあ、いっか。とにかく走る!これ。
よし、絶対1位を取ってやるぞ!
『さあさあ野郎共!ノってこいノってこい!!あらくれ共よ!気の済むまで暴れやがれ!!
あらくれワッショイ!!あらくれワッショイ!!あら(ドグシャ)グブゲェ―――ッ!!』
『…失礼致しました。んじゃ、とっとと選手の皆さん、並んで下さい』
…こういう時に限って妙に冷めた奴もいるし。

スタートラインに選手が並ぶ。
第1レースは大会の最初を飾る大事な競技だ。
この競技がうまくいかないと、大会全体がしけてしまう。
責任重大だ。くれぐれも、こけたりしないようにしないと。

「シモシモ? ミナサン ナラビマシタネ? ソレジャ イチニツイテ・・・ ヨ――――イ・・・
y=ー( ゚д゚)・∵;;ターン」

677N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:47

『さあこの秋季大運動会最初を飾る記念すべき最初のレースがスタートしました!
今大会は第30回という節目の大会だけあって、この町に縁のある多くの著名人が里帰りして参加しています。
この100m走でリードしているのは…おぉーーーっとギコ屋選手だ!
ギコ屋選手は今大会で特別に参加している、言わばゲスト!
ゲストだけあって、速い・速い・速い!!
でも彼はこの町には縁が無い・縁が無い・縁が無い!!
ただ商売してるだけ!それなのに速い!ぶっちぎりで速い!
空気も読まずに県知事を無視して突っ走る!議員君も頑張って!
しかしギコ屋速いギコ屋速い!ってか速すぎだァ―――ッ!!
…えー今ここで入った情報によると、現在男子100m走の世界最高記録は
モーリス・グリーンの記録した9秒79ですが、現在のギコ屋選手の走りはそれを遥かに超えた速さであるそうです!
頑張れギコ屋!頑張れギコ屋!
このまま世界の壁を破れぇ―――ッ!!
そして今!ギコ屋選手!
ゴ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ルッ!!!!
記録は?記録!
えー、記録は…
6秒22!!6秒22!!6秒22!!6秒22!!6秒22!!!!!!
6秒22です!!!!
ギコ屋、せヵいぅおッ、くぁるくっ、こぉえたぁーーーー!!
ハレーギコ屋!ハレーギコ屋!

…ってギコ屋どこまで走る!?どこまで走る!?
そっちはフェンスだぞ!ギコ屋、止まらない!止まらない!
そしてフェンスを…
破ったァ――――ッ!!
どこまで走るギコ屋!お前は人間をやめたのかァ―――ッ!?』
『…それでは引き続き競技を始めます。次の選手、呆気に取られてないで早く位置について下さい』

678N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:48















…ってか、



なんじゃこりゃぁ――――――――――ッ!!!!

679N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:49

止まらない!いやむしろ止められない!
つーかこの走りは何なんだよ!?
オレこんなに速くないぞ!
6秒台っておかしいって!!
凡人の2倍速じゃないか!!

目の前に見える「50」。
オレは決死の覚悟でそれを支える支柱に飛びかかる。
慣性で腕が脱臼しそうになるが、なんとか止まることは出来た。
「おい、 ハァッ、 これは一体 ハァッ、 どういうことだよ! ハァッ、 一体何が ハァッ、 起きたんだ!?」

「ケーケケー! スゲーダロ? コレガ 俺様ノ 力サ!」

「!!!」
背後から声。
瞬間、振り向きざまに「クリアランス・セール」で裏拳を打ち込む。
…誰もいない。

「オイッ、 トロイゼ! コッチダゾ、 ケケ!!」

…まただ。
やはり背後には人影はない。

「ナンダ、 オメーハ 結構速イト 聞イテイタガ、 何テコト ナイジャネエカ!」

…小癪な。
こうなったら知能戦だ。
後ろ!
と見せかけて前!
でもなくてやっぱり後ろ!

…逃げ切れなかったな!
「クラァ!!」

「・・・ヤッパリ トレーナ テメーハ! ケケケケ!!」

拳目前の所で瞬間移動。
声の主は、今度は逃げはしない。
宙に漂う不気味な小物体は…スタンドか!

「ヤット 気付イタノカヨ! オ前 勘ガ ド鈍イゼェーッ!!」
小馬鹿にしたような口調が癪に障る。
機械的なボディーに描かれた…アヒャ…?らしき顔が喋っている。
その顔といいダサい形といいもう何から何まで相手に向かって挑発的だ。
「この異常は、やっぱりお前の仕業だな!」
オレが奴を指差しても、向こうは薄目を開けて笑ったままだった。
「・・・マ、 ソウイウコッタ。 俺様ノ 能力ハ 『暴走』。 取リ憑イタ相手ノ 肉体ヲ 暴走サセルコトガ 出来ルッテワケサ。
ケドナ、 ソレガ 分カッタトコロデ オ前ニャ 何ノ 解決策ニモ ナリャシネェ〜〜ヨ!! ケケケケケ!!」
…くそっ、だがこいつの言うとおりだ。
敵スタンドの能力が分かったところで、オレには今何の対抗策も無い。
となると、やっぱり本体を叩くしかなさそうだが…。

「オイッ、 トコロデ テメーハ 俺様ノ 本体ヲ 叩コウナンソザ 考エチャイネェーヨナァー?
残念ダガ ソイツァー無理ダゼ! 俺様ハ 『自動操縦型』ノスタンドダ! 本体ハ 今頃 遥カ遠クデ クツロイデルトコダロォーゥヨ!!」
何ッ!?そんな…それじゃ一体どうすりゃいいんだ!?
こうなりゃ、まずは何としてもギコ達と合流しなくては!

680N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:50

「オイオイオイ、 コンナ通行量ノ 多イ道路ヲ 本気デ 渡ル気カァーイ?」
普段だったら平気で車の隙を縫って行ける。
だが今回は…一台をかわしてもそのまま反対車線の車にぶつかってもおかしくない。
一か八か、一世一代の大勝負だ。
「行くぞッ!」
僅かな勘を頼りに、覚悟を決めて突っ走る。
スレスレのところで、2台とも回避出来た。
「ヘイヘイヘイヘイ! 随分 危ナイ真似 スンジャネーカ! 見テルコッチガ ヒヤヒヤモンダゼーェッ!?」
「…だったら、とっとと能力を解除するんだな」
こいつが喋るだけでも集中力が途切れかねない。
まずはこいつを黙らせておく必要がある。
と言っても、黙れと言って黙る奴でもないし、こうなったら…。
「『クリアランス・セール』ッ!」
自分の耳を殴り、鼓膜を分解する。
時間が来れば、またすぐ分解し直せばいい。
「オイオイオイ、 テメーハ 正気ノ沙汰ジャネーゼ! 遂ニ トチ狂ッタカ!?」
「…えー?何言ってんのか全然分かんねーよ!」
(・・・ハッ、 随分ト 考エタモンダナ、 ダガナ、 『耳』ヲ失ウッテノハ 相当ナリスクヲ ハランデンダゼ、 ケケッ・・・)

聴覚を失った以上、外界の様子は視覚に頼るしかない。
慎重に慎重を重ね、前後左右上下をしつこいほど確認し、忍び足で進んでゆく。
気が遠くなりそうだが、これしか方法は無い。

(ケケッ、ナラコッチモ 『頭脳戦』トヤラデ イカセテモライマスカ・・・)
敵スタンドはギコ屋の目を盗んで憑依を解除した。
向こうからは、自転車を漕ぐ一般人が向かってくる。
(コイツニ 憑依シテ 速度ヲ 倍増サセル!)
敵スタンドの効果に、一般人も徐々に気が付き始めた。
「…お?あれ、足が、足が止められん!」
その先には若者が1人、目の前の道路を渡ろうとしている。
「危ない!よけてくれェ―――ッ!!」
しかし、若者の耳には言葉は届かなかった。

「…はッ!」
気が付いた時には、1台の自転車がすぐ近くまで迫っていた。
「クリアランス・セール」を一瞬考えたが、反射的に身体の方が動いた。
思わず避けようと走り出すと…速くない!?
「今ダ! 再ビ ギコ屋ニ憑依! パワー全開ダァッ!」
あのいやらしい声が耳に入ると同時に、オレの身体はまた暴走を始めた。
しかも今度は、さっきよりも更に速い。
「くそッ、おいお前、やめろッ!」
「ハハッ、 ヤメロト言ワレテ ヤメル馬鹿ガイルカヨ、 ボケガァ!!」

681N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:50

…何キロくらい走らされただろうか。
身体は全然疲れを感じないが、精神はもう荒廃寸前だ。
急に加速が終わり、オレの身体は急停止する。
「オイ、ボケナス! チャァーント 目ノ前ニ アルモンヲ 見テミヤガレ!」
眼前には、見覚えのある「50」の看板。
…まさか。
「カァーッカッカッカ!! 見事ニ 引ッ掛カカリヤガッタゼ コイツ! テメーデテメーノ 耳ヲ潰シテオイテ 墓穴掘ッテヤンノ! カァーッカッカッカ!
・・・オイ、ボケナス! コレガ 俺ノ力サ! テメーハ一生 コウヤッテ 同ジ所ヲ 延々ト 回リ続ケンダヨ!
シッカシ テメーノ 呆気ニ トラレル顔、 マジニ マヌケダゼ! カァーッカッカッカッカッカ!!」
…の野郎。
絶対に許さん。
ここまで人を馬鹿にするとはいい度胸じゃないか。
「…いいだろう、ここまでオレをコケにするんだ、もしオレがお前の本体を見つけたなら、
容赦無くぶっ飛ばしてやるぜ!その覚悟があってオレと勝負しようってんだな!」
対する敵スタンドの表情も、やはり自信に満ちている。
「ケケッ、 ソンナノゼッテーニ 無理ナ話ダヨ! ・・・マアイイダロウ、 コノ俺ノ本体ヲ 捕マエラレタラ、 後ハ煮ルナリ焼クナリ 好キニシヤガレ!
タダシ、 ソレハ貴様ニャ デキネーガヨ! ケケケケケ!!」
「…言ったな。ならこれで勝負は成立だ。
このオレと!お前の本体との『鬼ごっこ』!今からスタートだッ!!」

682新手のスタンド使い:2004/01/10(土) 12:31
乙です。

683( (´∀` )  ):2004/01/10(土) 14:18
此処は茂名王町。とてもマターリした町だ。
・・・だが、ソレは只の一般人の幻想に過ぎない。
現にこの街では世界中でも異例だと言うほどの殺傷事件がおきている。
だが、一般人はそんな事実知らずに、今日も平和で暮らしている
・・・・俺もそう暮らしたい物だな・・。
「ドンドンドン!!」
俺が優雅にティータイムを楽しんでいると、ドアを叩く音が聞こえる
俺は渋々とティーカップを置いて、ドアを空ける。・・まぁどうせ『アレ』だろ・・
「巨耳モナー警部!!事件ですッ!!」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―

申し遅れたが、俺の名は『巨耳モナー』。IQ200(自称)の天才警部だ。
元々本庁で『特別課』と言うのに所属していて、
そこで事件を解決していく内にこんな田舎の辺境に飛ばされてしまったのだ。
畜生。あのクサレ上司どもめ。自分の地位が脅かされるのが怖いのか。
「警部。今回の事件の調書です。」
調書を手に取り一番最初に目に付いたのは白黒の写真。
そこらのグロ画像なんかにゃ負けないくらいグロい写真だ。
「・・・『心臓の中に無数の弾丸』・・?」
俺は首をかしげながら部下に聞く
「ええ。良くわからないのですが・・心臓の前に一つ銃で撃たれた穴が開いてて・・その中に銃弾がつまっていたそうです。」
・・・ハァ?
「銃弾の数は200以上。その時の銃弾は今鑑識が調べています。」
うーん・・いつもこうだ。俺達『特別課』にはこういう訳の解らない事件ばっかり来る・・
・・・・でも。大体誰がやったのかは目安がついてる・・
「『スタンド使い』・・か・・。」
俺が小さな声で呟き、残りの紅茶を一気飲みして鑑識の野郎どもが居る所へ向かった
此処で紅茶を飲んでおかないと帰って時には冷めているからだ。

684( (´∀` )  ):2004/01/10(土) 14:19
「おい。鑑識。」
俺はドアを開けると同時に言った。全員が振り向き、すぐにこう言った
「嗚呼。巨耳モナー警部。えっと・・お探しの物はコチラですね?」
目の前に200以上の銃弾がドチャッと置かれる。コレがさっきまで心臓に入ってたかと思うと気持ち悪い。
「・・ただワンホイールショットで心臓の中に入れたか、殺した後に捜査を妨害しようとしただけなんじゃないか?」
俺はその場で思いついた憶測を言う。間違ってると解っていても言うのは警察の仕事だ。
「ソレはありえませんね。200発もワンホイールショットできる人なんて居ません。」
・・・当たり前だよな
「後者についてはただ200発の弾丸代が無駄になるだけです。弾丸は結構高いですからね。」
・・それもそうか。それだったら死体を焼くとか隠すとかもっと安い方法をするハズだ。
俺は欠伸をしながら事件現場に向かう。・・もう大体どういう事なのか見えて来てしまった。
・・そろそろもっと難しい事件がやりたい。こういう事件ばっかりだと、犯人が断定される上
その断定された犯人はトリックがどうこういうわけじゃない。単純だ・・『能力』に違いないからな。
そんな事を考えてるうちに付いた。警備君がコチラに敬礼をする
「ごくろーさんです。」
俺もとりあえず敬礼をしてちょっとした挨拶をする
中ではまだ何人かの鑑識が調査してる。・・・邪魔になるだけかな。
「・・・・此処に犯人が倒れてたのか?」
俺はそこに座り込む
「あ。巨耳モナー警部・・。はい。そこに大の字に。」
「あんがと。此処に居ても邪魔になるだけだから、帰ってるわ。んじゃ。」
・・実を言うと寒いだけなんだけどね。
俺が署までの道を歩いていると妙な人物が離しかけてきた
「・・・なぁ、アンタあの事件を捜査してんのかい?」
・・・見てたのか・・
「やめときな、あの事件に関与しない方が良い・・『死ぬ』よ・・。」
「・・無理だね。俺は警察だ。これでもプライドはある。一度関与した事件は諦められないね。」
すると、妙な人物は口をひきつらせ
「だったら・・力づくでわからせるしかないなぁ――ッ!?」
途端にソイツらは増えた。ふむふむ。さしずめ『物や人を増幅する』能力って所だな。やっぱり犯人はコイツか・・。
「そらッ!死ねェッ!!」
100人くらいの犯人君がいっせいにかかってくる。脳が俺に命令をかざす
(・・・そういえばコイツら、スミスみたいだなぁ・・。)
っておい。俺の脳はそんな事しか考えられないのか。
「URYAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
彼らが俺の体を殴ろうとしたその時。俺は上体を少し右に反らした。すると、後ろの電気屋のプラズマテレビが姿を現した。
俺は不適な笑いを見せると、巨大なテレビから巨大な拳が現われ、彼らを一掃した。
犯人と思われる人物は呆然としている。
「え・・?そ・・それは・・?」
テレビから出てくる手を指差して震えている
「俺を誰だと思ってるんだ。特別課の巨耳モナー様だぜッ。」
俺は良く解らない決め台詞を言って呆然とする彼に手錠をかける。
・・ヤレヤレ。『コイツ』を使うのは避けたかったんだけどなぁ・・

←To Be Continued

685ブック:2004/01/10(土) 14:24
貼ります。
あと、いまさらですがコテハンつけます。

686ブック:2004/01/10(土) 14:27
    救い無き世界
    第七話・ドキッ!スタンド使いだらけの水泳大会
        〜ポロリもあるよ〜 その3


 デパートの周りは、既に警察、消防署、救急隊、テレビ局、野次馬等、
 たくさんの人でごった返していた。

 私は先程女の子の治療の為に多量の生命エネルギーを
 消費したせいもあり、
 その喧騒に思わず倒れそうになった。

「大丈夫?みぃちゃん。」
 ふさしぃさんが私を倒れないように支えてくれた。

「私は大丈夫です。…でも……。」
 私は言葉を詰まらせた。

 お医者様の話では、女の子の足はもう切断するしかないとのことだった。
 私の『マザー』の力では、あの子を助けることが出来なかった。
 私は何も出来なかった。
 私には力が無かった。
 私は、私はまた…

 ポロリと涙が流れ出る。
 泣いても泣いても、とめどなく涙は溢れ続けた。

「みぃちゃん…」
 ふさしぃさんが、私を抱き締めた。
 子供をあやす様に、私の背中を軽くポンポンと叩く。

「みぃちゃん。
 あなたは良く頑張ったわ。
 もしあなたがあの子を必死に助けようとしなかったら、
 医者にかかる前にあの子は死んでいたかもしれない。
 あなたは立派に、あの子の命をすくったのよ。」
 ふさしぃさんは優しい声で私に慰めの言葉をかけてくれた。
 しかし、それでも私は自分を責めずにはいられなかった。

「違います…
 私は何も出来なかった!
 あの子を助けてあげることが出来なかった!
 私は…私にもっと力があったら…!」
 無力感と後悔で、私の心は埋め尽くされた。

「みぃちゃん。」
 ふさしぃさんが私から体を少し離し、
 私の顔をじっと見つめた。
「みぃちゃん。もしあなたが、
 自分のせいであの女の子が苦しむことになったと
 考えているなら、それは間違いよ。」
 ふさしぃさんはそう言った。
「いい?私達は神様なんかじゃ無い。
 だから何でも思い通りの結果を出せるとは限らない。
 それで当然なのよ。
 私達はほんのちっぽけな存在なのだから。
 それなのに、何でもかんでも自分の所為に決め付けるのは、
 美徳でも何でもない、ただの傲慢だわ。
 思い上がりもいいところよ。」
 ふさしぃさんはきっぱりと言い切った。
 その表情は、いつになく厳しいものになっている。

「でも…でも私は――」
 ふさしぃさんの言う事が正しいのは良く分かっている。
 それでも、あの子の事を考えると、
 私は涙を抑えることが出来なかった。

「…分かってる。
 あの子を助けられなかったことが、悔しいのね…」
 ふさしぃさんはそう言ってもう一度私を抱き締めてくれた。
 その口調と表情は、元の優しいものに戻っている。

687ブック:2004/01/10(土) 14:28

「さ、いつまでも泣かない。
 そんな顔で、でぃ君達をお迎えするつもり?」
「あ―――」
 そうだ。
 でぃさんに、ぃょぅさん。
 私は思わず時間を確認する。
 すでに、ぃょぅさんと別れてから二十分が経とうとしていた。
 私の顔から、さぁっと血の気が引く。

「彼らなら、心配ないわ。」
 私の顔色に気づいたのか、ふさしぃさんは私にそう言った。
「で、でも―――」
 私は不思議でならなかった。
 ふさしぃさんの顔には不安などかけらも見えない。
 なぜこの人は、こんなにも落ち着いていられるのだろう。

「大丈夫。
 なんたってあのぃょぅがついてるのよ。
 彼なら、絶対に何とかしてくれるわ。」
 ふさしぃさんは自信に満ちた表情で言った。

 ああ――そうか。
 ふさしぃさんと、ぃょぅさん、
 いいえ、たぶん小耳さんやタカラギコさんやギコえもんさん全員は
 強い信頼の絆で結ばれてるんだ。
 ちょっとやそっとの事じゃ、ビクともしない位の、確かな絆が。

 私は不安が少しずつ薄らいでいくのを感じた。
 きっと、これもふさしぃさん達の絆の力だ。

 私は、ふさしぃさんがとても羨ましかった。


     ・     ・     ・


 俺の拳が男の右胸部へと命中した。
「げぶぅ!!」
 男がくぐもった声を上げる。
 俺はさらにもう一撃を加えようとした。
「なめるなあああああああ!!」
 しかし今度はパンチをかわされてしまった。

688ブック:2004/01/10(土) 14:28

 しくじった…!
 俺は舌打ちをした。
 空気の抵抗が水のように重かったのと、
 直前で奴に気づかれて直撃だけは回避されてしまった為、
 さっきの一撃は致命傷にならなかったのだ。

「この…ビチ糞がああああ〜〜〜〜!!!」
 男が俺に水中銃を連射してきた。
 腕で防ごうとするが、
 矢は俺の腕をすり抜け、次々と体に喰らい込んだ。

 痛みに意識が遠のく。
 駄目だ、やられる!

「ぐあああ!!」
 その時男がいきなり悲鳴を上げた。
 見ると、男の左肩口に水中銃の矢が刺さっている。

 何が起こったのか分からず、俺は周囲を見回す。
 すると、ぃょぅの前に何やら小さな渦巻きが発生していた。

 そうか。
 自分に刺さった矢を、あの渦の中心部分を通過させることで、
 加速させて男に撃ち込んだのか。

 何て人だ…
 そんな事を、この状況でとっさに思いつくなんて。

「なぁめぇるぅなああああああ!!」
 男がその場から動こうとする。

(逃がすか!!)
 俺は男の左足首を掴んだ。
 その手に渾身の力を込める。
 握った部分が、ミシミシと音を立てた。

「っき、離せぇ!!」
 男が叫び、俺に至近距離から水中銃を乱射する。
 突き刺さっていく矢。
 しかし俺はひるむことなく手にさらに力を込める。

 放してたまるか。
 絶対に放さない。
 たとえ死のうとも。

 あの子の痛み…
 存分に味わえ!!

「ぎゃあああああああああ!!!!」
 骨と肉の潰れる感触。
 男の叫びが辺りに響く。

 男の足が完全に破壊されるのと、
 男の体に何本もの矢が突き刺さるのとは、
 ほぼ同時だった。

689ブック:2004/01/10(土) 14:29



 俺の足が重力に導かれるまま地面へとついた。
 体の周りを水が覆うような感覚はもう消えている。

「流石に、疲れたょぅ…
 小規模に力を一点集中させたとはいえ、
 あの空間であそこまでの風を起こすのは…」
 ぃょぅは疲労困憊といった様子で片膝をついている。

 俺はぃょぅに手を差し出した。
「済まなぃょぅ。」
 ぃょぅは俺の手を取ると、ゆっくりと立ち上がった。

『肩を貸しましょうか?』
 ぃょぅにそう尋ねる。
「大丈夫だょぅ。それより…」
 ぃょぅはそう言って俺の申し出を断ると、
 男の方を指差した。

 男は、仰向けになって地面に倒れている。
 警戒しながら、俺達は男に近づいた。

「どうした、殺さないのか?」
 男が憎まれ口を叩いた。
 しかしスタンドを発動しないところを見ると、
 どうやらもう闘う力は残っていないようだ。

「まだ殺しやしなぃょぅ…
 君には今回の件で聞きたい事が山程あるょぅ。
 死んでもらうのは、それからだょぅ…」
 ぃょぅがさらりと恐ろしい言葉を口に出す。
 その顔に、いつもの人の良さげな表情は無い。

「は、ははははははははは!
 それは御免だ。」
 男はそう言うと、何やらスイッチの様な物を押した。
「!何を!?」
 ぃょぅが身構える。
「クク…あと五分で、このデパートに仕掛けられた
 残りの爆弾が全部爆発する。
 せいぜい逃げて――」

「!!!」
 その時天井がいきなり崩れた。
 俺達は何とかかわしたが、男はそのまま生き埋めになった。

「…でぃ君、急いで逃げるょぅ!」
 ぃょぅの声と共に、俺たちは急いで出口へと駆け出した。

 冗談じゃねぇ。
 こんな所であんなイカレ野郎と心中なんて、願い下げだ。



 俺達はひたすらに走った。
 さっきの戦闘のせいで、
 すぐに体が悲鳴を上げ始める。
 だが、止まる事は絶対に出来ない。
 走れなくなったら、その場所がそのまま墓場となる。

 爆発まで、あとどの位だ!?
 二分…それとも一分?

 恐怖と焦燥と生への執着とが、
 疲弊しきった肉体を突き動かした。

690ブック:2004/01/10(土) 14:30

「!!!!!!!!」
 出口に近づいて来た所で、
 ぃょぅと俺とに絶望の表情が浮かんだ。

 出口への道を、大きな瓦礫が塞いでいる。
 だが、回り道をするだけの時間は、もう無い…!

「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが風で瓦礫をどかそうとする。
 しかし、さっきの闘いでの疲労と、
 あまりの瓦礫の大きさに、瓦礫はビクともしない。

(ちぃっ!)
 今度は俺が瓦礫へと拳を叩き込んだ。
 瓦礫の一部を粉砕する。
 だが、ほんの一部だ。
 道を開くには、遠く及ばない。
 もちろん、少しづつ壊していく時間など有ろうはずも無い。

 糞が…
 これまでか…!!

     ドクン

 突然の体の内からの鼓動。
 気のせいか、前よりも大きくなったように感じる。

     ドクン ドクン

(……で、…前に死……は困る。)

 !!?
 声!?
 誰だ。
 お前は誰だ!!

(お前……かげで…私…『力』……し戻……
 …れは……礼だ…受け…れ。)

     ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 俺の腕が、俺の意思とは無関係にスタンド化した。
 いや、それだけじゃな、
 脚まで、あの「化け物」のものになっている!


 あ アあ   あ    嗚呼 あ

 体の内側が燃える。

  あ  ああ  A  ア      阿

 視界が真っ白に  あ  なる

    ぁ    あアあ  亜  あ  a

 何も あ 考え Aあ られない  アa

   A亜あ  ぁ  嗚呼 あ     あAあア

 気 あア亜 が狂い あ阿 そ あA うだ…!!

 あ A 亜 a アぁ    あ

ああ阿あアああAああああああアああAAAA唖あああああaアあ嗚呼ああAああ亜Aa
亜ああぁあアぁAああ亞あAあ阿あああああaA阿あ亜ああ嗚呼あAAあa亜阿ああAあ
あああA亜あ亜ああああAAaあ阿あああああああああああああああああああ!!!!!

 理性が、吹っ飛んだ。
 俺は『力』に振り回されるが如く、拳を瓦礫へと突きたてた―――

691ブック:2004/01/10(土) 14:30


     ・     ・     ・


 私達は、一気にデパートの出入り口を駆け抜けた。
 そのすぐ後に、デパートから大爆発が起こる。
 野次馬が、それに合わせて悲鳴に似た歓声を上げた。

「でぃさん!!」
「ぃょぅ!!でぃ君!!」
 ふさしぃとみぃ君が、私達に駆け寄ってきた。
 みぃ君はそのままでぃ君に抱きつく。

「ぃょぅ…ご苦労様…」
 ふさしぃが私の肩に手を置いた。
 顔は笑っているが、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 …どうやら心配をかけてしまったみたいだ。
 不甲斐無い。

「危機一髪ってとこだったわね。
 まったくもう、ヒヤヒヤさせて。」
 ふさしぃが涙をごまかすように目をぬぐって言った。

「悪かったょぅ。少し立て込んでしまっていたょぅ。
 本当に、もしさっきでぃ君がいなかったら…」
 そうだ。
 でぃ君だ。
 あの時、でぃ君が瓦礫を壊してくれたおかげで…

 いや、違う。
 あれは「壊した」なんてものじゃない。
 「無くなった」のだ。
 瓦礫が、まるでそこに在った事自体が嘘のように、
 塵一つ残さず。
 あれは、あれは一体…

「!?
 でぃさん!!」
 みぃ君の叫び声。
 見ると、でぃ君がその場に倒れていた。

 急いで側へと駆ける。
 どうやら、でぃ君は気を失っているようだった。

 あの男との闘いが原因だろうか?
 それとも、さっきの―――

「…でぃ君…君は一体、何者なんだょぅ。」
 もはやでぃ君には私の声など聞こえてはいないだろう。
 しかし、それでも私は彼に向かってそう呟かずにはいられなかった。


  TO BE CONTINUED…

692302:2004/01/11(日) 01:33
スタンドアイディアスレで書いた「ファイナル・カウント・ダウン」を使った小説です。
今から貼らせていただきます…

693302:2004/01/11(日) 01:33
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・1

ウチの名前は「のー」と言います。当然やけど、あだ名やで?
関西訛りのAAで、18歳です。性別は…まぁ、つー族ですし不明で頼んますわ。

ウチは今…親友のニダやん(20歳男)と一緒に「ストリート漫才」をやってますねん。
コンビ名は「Nie da No!」っていいまして、こう書いて「ニダのー」って読むんやけど…
まぁ、大概厨房くさい名前やな…と思っとります。

で、今日も駅前で漫才を二本やって、帰る途中なんですわ。

「いやー!しっかし、ワシらも人気出てきたなぁ、のーちゃん!」
「ニダやん、可愛い女の子のファンが出来たからって…ハシャぎすぎやで?」
「なんや。妬いとるんか、のーちゃん?」
「アホぬかせ!」

ベキョッ。

「…路上でハイキックは酷いやんか…」
「いつもの事や。さ、とっとと帰って反省会やで。」

自慢&昔取った杵柄&商売道具の「ハイキック・ツッコミ」をニダやんに叩き込んで、
ウチは駅から徒歩十分の家に向かって歩き出しました。
でも、ニダやんが付いて来んのですわ。

「……のーちゃん、ちょっと待ったってや。」

694302:2004/01/11(日) 01:34
ニダやんは、(派手にダウンしたまま)路地裏を覗きこんどったんです。

「どした?首の骨がやっとイカれたか?」
「『やっと』ってなんやねん!そんな事と違うねん。あの路地…人、倒れとるで?」
「…うっわー、行き倒れっぽい服装やな…」

ニダやんが起き上がって、路地の方を目線で指しました。
ウチらの眼に入ったのは、黒マントの男がうつ伏せでグッタリしとる姿でしたわ。
暗くてよくわからへんかったんですけど、“何か”を大事そうに握り締めとったんですわ。

……まさか、それで刺されるとは知らず…ウチらは、そのオッサンに近寄ったんです。

「オッサンオッサン、飲みすぎか?行き倒れか?」
「死んどるやったら、そう言ってくれや?」
「死人が口利くかい!!」

狭かったんで、仕方なくニダやんに右フックを食らわしつつ、ウチはそのオッサンを起しました。
そうやなぁ…8頭身と同じくらいの身長(タッパ)やったな。うん。
ウチらは三頭身やし、あのデカさは8頭身やと思います。

「…クク、お人好し…だな」

そらもう低い男の声でしたわ。で、次の瞬間には…

695302:2004/01/11(日) 01:34
「…っ!?いったぁ………!!」

肩口に、オッサンの持ってた“矢”を刺されてしまったんですわ。…参りましたわ、ホンマ。

「なぁ!?オッサン、マイ・ディア・相方に何するねん!!」

青アザ作った顔で怒鳴るニダやんも、そらもう…あっという間に…

「のわー!!刺さっとる!刺さっとるってオッサン!!ニダにこの傷の謝罪と賠償を(ry」

同じ様に、矢で突き刺されてしまったんですわ。何や、ウチより余裕っぽかったんが腹立つんやけど。
でもまぁ、要求する前にニダやんはぶっ倒れてしまいましたわ…
ウチも、何やわからんまま…気が遠くなりよったんです。

「…だが、私はお前達の様な“お人好し”を探していた…“ヒーロー”は、お人好しでなければ勤まらぬ。」
「…お前達が無事に目覚めた時、それは“新しい力”の目覚めだ。その時、また会いに来る…」

…オッサンはそのまま、ウチらを残して立ち去ってしまいました。
……そしてウチとニダやんは、近場の総合病院に急患として運び込まれたんですわ……。

原因は二人して「原因不明の高熱」でした。で、とりあえず検査入院になったんやけど…

翌日、あの男が予告通り…現れたんですわ。

<TO BE CONTINUED…>

696:2004/01/11(日) 13:08

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その2」

 
「おはようなのです!」
「ああ、おはよう…」

 朝…、か…。
 僕は身体を起こした。
「あいててて…」
 素の畳の上で寝たのは、初めての経験だ。
「すみませんです…」
 簞ちゃんが、バツが悪そうに言った。
「いやいや、簞ちゃんが謝る事はないんだよ。何というか、男のケジメってやつだから…」
 …?
 男のケジメってのは、別物のような気がするな。
 とにかく、僕が普段使っている布団に簞ちゃんが寝て、僕は畳で寝たのだ。
「でも… おにーさんの顔に畳の後がついているのです…」
「人間、何でも経験だよ。畳の上で寝た事が、僕の人生に大きく作用することがあるかもしれないからね…」
 僕はそのまま学生服を羽織った。
 何か、部屋を仕切るようなものが欲しいな。
 僕はいいが、簞ちゃんの方が困るだろう。

 ちなみに、簞ちゃんは僕の事を『おにーさん』と呼んでいる。
 昨日、泣きじゃくる簞ちゃんに、僕は自分の名を名乗ったのだ。
「ぼくの名は1さんだよ」と…
 そう。僕は名前を名乗る暇さえなく、あれだけの騒動に巻き込まれたのだ。
「1さんさん…ですか?」
 簞ちゃんは顔を上げた。
「いや、さん付けはいいんだ。『1さん』で名前。
 いや、これもさん付けなのかな… でも『1』とは呼ばれたことないし…」
 何か、僕自身の存在に関する大きな問題にブチ当たってしまったようだ。

「…じゃあ、おにーさんって呼んでもいいですか?」
 お、おにーさん!?
 …エロいな。
「私は、おにーさんよりも1つ年下なのです。だから、おにーさんなのです」
「そうか…」
 何か、急に可愛い妹ができたみたいだ。
 こういうのも、悪くはないだろう。
 だが、走り回ったこともあって僕の疲れはMAXだ。
 とりあえず、細かい話は置いといて寝る事にした。
 これが、昨夜の話。
 そして朝を迎えたのだった。

697:2004/01/11(日) 13:09

 テーブルの上には、ご飯に味噌汁、焼き魚が並んでいた。
「わっ、美味しそうだなぁ… 簞ちゃん、料理上手なんだね…」
「お口に合うと嬉しいのです」
 僕は簞ちゃんが作ってくれた朝食を口に運んだ。
 …美味い。

「で、簞ちゃん。聞きたい事があるんだけど…」
 僕は話を切り出した。昨日の夜のことだ。
 この娘は、吸血鬼とやらを簡単にやっつけてしまった。
「一体、君は何者なんだい?」
 簞ちゃんは少し黙った後、話し始めた。
 本来なら、隠すはずの話だったのだろう。
 僕が、吸血鬼を目撃していなければ…

「私は、『教会』の代行者なのです」
 簞ちゃんは聞きなれない単語を口にした。
 話によれば、吸血鬼を退治する『教会』という組織があるらしい。
 簞ちゃんは、代行者と呼ばれるその組織のエリートだという。
「私は、『守護者』という称号を持っているのです…」
 簞ちゃんは少し誇らしそうに言った。
「ヴァンパイア・ハンターってとこ…?」
 僕は、自分の知っている言葉に置き換えてみる。
 簞ちゃんはうなづいた。
「そうなのです。ただし、私は吸血鬼と戦う事はほとんどないのです」
 …そうだろうな。
 昨日、吸血鬼をやっつけた時の様子は尋常じゃなかった。
 あんな化物だろうと、心優しい簞ちゃんは相手を傷つけるのが嫌なのだ。

「他の代行者のみなさんの武器を作るのが私の仕事なのです」
 簞ちゃんは言った。
 そう。この娘は、さらに僕の知らない単語を口にした。
 …スタンド。
 生命エネルギーのヴィジョンをそう呼ぶらしい。
 そして、このスタンドが使える者を『スタンド使い』と呼ぶのだという。
「私のスタンドの名は、『シスター・スレッジ』なのです。能力は、『波紋』を物質に固着させることなのです…」
 ちなみに、『波紋』とは吸血鬼の弱点らしい。
 昨日、あの吸血鬼を溶かしたやつだ。

「それで、何で僕の家に来たの?」
「迷惑だったでしょうか…」
 うつむく簞ちゃん。
「だから、違うって! 迷惑じゃないけど、気になるの!」
 僕は慌てて否定した。
「本来は、誰もいない潜伏場所に送られるはずだったのですが、手違いがあったようなのです」
 …手違い、か。
「それで、何で宅配便なんかで?」
「こっそり入国するためなのです。私達代行者が入ってくると、この国の偉い人はいい顔をしないのです」
 それって、まずいんじゃないか?
 それに、スタンド能力なんていう便利なものがあるなら、それを使ったらいいんような気がする。
 僕はその疑問を口にした。
「この国のスタンド使いの人は、スタンド能力を使った不法入国に特に警戒しているのです。
 こういうアナログな手が一番いい、と大司教様はおっしゃったのです」
 …なるほど。
 という事は、代行者という人達はみんな宅配便扱いでやってくるのだろうか。
 顔も知らない代行者の人達が、次々に小包に詰められていく情景を想像してしまった。

「それで、何でこの国へ来たんだい?」
 僕は核心に触れるような質問をした。
 簞ちゃんは少し考えた後に言った。
「人探しをしているのです」
 …人探し? 吸血鬼じゃなくて?
 簞ちゃんは口を開いた。
「私は、『異端者』という人に会わなければいけないのです」

698:2004/01/11(日) 13:10

 僕は、教室に入ると自分の席に座った。
 話の途中だったが、家を出る時間になってしまったのだ。
 簞ちゃんには、留守番を任せておいた。
 どうせ行くアテもないのだ。
 しばらく家に置いても構わないと思う。
 生活には潤いが必要だしね…

 そう言えば、今日は8頭身どもの姿を見ない。 
 あいつらの事も、簞ちゃんに説明しないといけないな。
 …奴らが僕にまとわりつくせいで、学校では友達が出来ない。
 クラスの人達には露骨に避けられている。
 毎日キモイ奴らと追いかけっこをやっているのだから、それも当然だろう。

 突然、隣の教室から爆音がした。
 僕の思考が中断される。
 グラグラと揺れる校舎。
 …またB組か。もう、いつもの事だ。
 僕はため息をついた。

 クラスメイトの話を横から聞いたのだが、B組には伝説の女ったらしがいるという。
 高校生にして美人と同棲し、なおかつ別のクラスの女子二人を周囲にはべらせている。
 B組のアイドルは彼にフラれて家出したというもっぱらの噂だ。
 さらに年上の女性に家まで高級外車で送ってもらったところも目撃され、ホモにまで思いを寄せられているという。
 彼はその幸せっぷりに、常に薄笑いを浮かべているらしい。
 また、彼の行く所には嫉妬の嵐が吹き荒れるという。
 この校舎も、彼をめぐる争いで何回も破壊されたということもあり、彼の名はもはや伝説と化している。
 まあ、僕には関係ない話だが…

 そして、放課後。
 今日は一度も8頭身達の姿を見なかった。
 どうしたんだろう?
 僕は晴れやかな気分で帰宅した。


 部屋に入ると、見慣れない物が目に入った。
 あれは… 大量の剣や銃弾!!
 その真ん中に、簞ちゃんが座っていた。

「こ、これって…!」
 僕は呟いた。
「お帰りなさいなのです」
 簞ちゃんは、僕の姿に気がつくと言った。
「ああ、ただいま… で、これは?」
 僕は部屋中を見回した。
 小型の剣から大型の剣。様々な大きさの弾丸が所狭しと並べられていた。
 それを、女性の姿をしたヴィジョンが一つずつ触っていっている。
「祝福儀礼というのです。朝も言ったとおり、武器に波紋を固着させて、吸血鬼に効くようにしているのです」
「なるほどね…」
 それにしても、これだけの武器をどこから…?

「ヴァチカンから宅急便で取り寄せたのです。
 こうしている間にも、世界のどこかで『教会』の方が吸血鬼と戦っているのです。
 武器は、常に不足しているのです…」
 なるほど、大変な仕事だなぁ…

 簞ちゃんは、こっちを見て嬉しそうに微笑んだ。
「こんなものも、届けてもらったのです…」
 ダンボールから、何かを取り出す簞ちゃん。
 あれは、僕の学校の女子の制服…!?
 一体、何に使う気なんだ?
 もしや、僕にそういうプレイを楽しんでもらうために…!!
 …エロいな。

「明日から、私も一緒に学校に連れて行ってほしいのです」
 簞ちゃんは驚くべき事を口にした。
 エエエエエエエエェェェェェェェッ!!

「…迷惑でしょうか…」
 表情を曇らせて、視線を落とす簞ちゃん。
「いや、迷惑なんかじゃ全然ないんだけど、何でまたどうして? それに、部外者は学校に入れないし…」
 簞ちゃんは、ぷるぷると首を振った。
「部外者じゃないのです。私は転校生なのです」
 えっ! もう転校手続きは済ませたって事…?
 それって、そんな早く許可が下りるもんなのか!?

「ヴァチカンを通じて、話をつけたらしいです。教育委員会じゃなく、文科省の偉い人に納得してもらったのです」
 簞ちゃんはあっさりと言った。
 うーむ。 アンタッチャブルな領域だなぁ…

 とりあえず立ちっ放しもなんなので、僕は腰を下ろした。
 周囲には、足の踏み場もないほど武器が敷き詰められている。
 カバンはどこに置こうか?

「あっ…! すぐ片付けるのです!」
 僕の様子に気付いた簞ちゃんは言った。
「あっ、いいよ。別に急がなくても…」
 僕は、さっきから黙々と作業をしている、その女性のヴィジョンを見た。
 普通の女性よりも、どことなくメカニックだ。
「で、これが簞ちゃんのスタンドってやつ?」
 僕は、何気なしに訊ねた。

 驚愕の表情を浮かべ、硬直する簞ちゃん。
「おにーさん… 私のスタンドが見えるのですか…!?」

699:2004/01/11(日) 13:11


          @          @          @



「どうぞ…」
 『蒐集者』は、ファイルを机の上に置いた。
 立派な礼服を着た初老の男性がそれを受け取って、パラパラとめくる。
「ふむ。確かに受け取った」
 ファイルを閉じて、男性は言った。

「性能は折り紙付きです。パワー、敏捷性、共に並外れている。
 環境適応力も高く、海底や宇宙空間での行動すら可能でしょうね」
 『蒐集者』は不服そうにため息をついた。
「その代わり、今の状態では素体を選びます。通常の人間に施したところで、適正は不可能でしょう」

 礼服の男性はそれを受けてうなづいた。
「了解した。うってつけの素体がいる。それにしても、君には感謝しているよ…」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「いえいえ… 私の親たる『教会』の頼みですからね。お安い御用ですよ、枢機卿」
 枢機卿と呼ばれた男性は『蒐集者』を見据えた。
「見え透いた嘘は結構だ、『蒐集者』。とりあえず、才能があると思われるスタンド使いを7人、例の場所に集めてある。
 『アヴェ・マリア』の糧にするがいい」
「それはそれは、奮発しましたね…」
「何があっても、君を敵に回すなという上からのお達しだ」
 微笑を浮かべる『蒐集者』。
「枢機卿の地位にあるあなたの、さらに上ですか… それは光栄な事だ」

「で、君はこれからどうするつもりだ?」
 枢機卿は言った。
 それに答える『蒐集者』。
「久々のヴァチカンですし、もう少しゆっくりさせてもらいましょうか… 
 と言いたいところですが、あっちで仕事があるのでね。
 今日中にはここを発ちます。まあ、しばらくは事を起こしませんよ。何事にも準備期間が必要ですからね。
 ASAや公安五課に目をつけられているのが辛いところですが…」
 枢機卿は顎に手をやった。
「ASAの介入、明らかに早いな…。奴らの『SOL-Ⅱ』、照準が法王庁に向いておる」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「本営を移動させ、三幹部を揃えたのですから、かなり本気とみて間違いありません。
 成功した方の実験体、『つー』にもASAの人間が張りついてましたよ。
 護衛じゃありません。『何かやったら、お前の大切な実験体を破壊するぞ…』という脅しでしょうね」


「史上初の『NOSFERATU-BAOH』の完成体か… 『つー』とやらは、そんなに良い素体だったのか?」
 枢機卿は、再びファイルをめくりながら言った。
 『蒐集者』は口を開く。
「素晴らしい出来栄えですね。正直、『monar』の周囲の人間を無作為に使ったのだが… 
 ここまで良い結果が出るとは予想していませんでした。やはり、素質ある人間は、素質ある人間の元に集まるものです」

「そうか…」
 枢機卿は、口に手を当てて考え込んだ。
 そして、おもむろに口を開く。
「実は、君にもう一つ頼みたい事がある」
「何です? 私に出来ることならば」
「この技術を使用する、素体の事だ…」
 枢機卿が、ファイルを右手で示した。
「素体そのものは選抜済みなのだ。おそらく…いや、絶対に『つー』とやらよりは優れている」
「ほう…」
 『蒐集者』は顎に手を当てた。
「しかし、その彼は… 我々では手に負えない。君に、その素体を説得してほしいのだ」

700:2004/01/11(日) 13:12

 『教会』の地下60m。
 そこに設置された特殊施設に、彼は幽閉されていた。
 設置されたエレベーターのみが、そこと外界を繋げる手段である。

 『蒐集者』は、エレベーターから降りた。
 その後ろから、『教会』の職員2人が続く。
 照明は薄暗い。
 廊下の四方は、結晶炭素繊維と高鋼延チタンで固められていた。
 壁の隅々を、コードが網のように這っている。
 コツコツという足音が重く響いた。

 巨大な扉に突き当たる。
 7mほどの高さで、その周囲は黄色と黒のペイントで縁取られていた。
 扉の横に設置されたコンソールパネルが、薄暗い空間に灯火を与えている。
「劣化ウラン装甲です」
 横のコンソールパネルを操作しながら、職員は言った。
 重い音を立てて、扉が左右に開く。
「奴の射程は20mです。これ以上は、私達は近づけません…」
 職員はおずおずと言った。
「分かりました。後は任せてください」
 『蒐集者』は、扉の奥に足を踏み入れる。
「どうか、お気をつけて…」
 職員は、『蒐集者』の背中に呼びかけた。

 廊下に『蒐集者』の足音が響く。
 背後から、扉が閉じる重い音がした。
 しばらく歩くと、今度は小型の扉に突き当たった。
 『蒐集者』は、コンソールパネルにあらかじめ教えられていた番号を入力する。
 音を立てて、その扉が開いた。
 その前には、また同じ扉。
「三重構造とは、厳重ですねぇ…」
 『蒐集者』は呟いた。
 そして、三番目の扉を開ける。

 今までとは打って変わって、明るい部屋。
 その部屋は、まるで子供部屋のような様相を示していた。
 …いや、実際に子供部屋なのだ。
 床には、積み木や画用紙、クレヨンが散らばっている。
 壁は、カラフルにペイントされていた。
 その壁に、プラスチック爆弾が埋め込まれているのを『蒐集者』は見逃さない。
 その量、約2トン。
 プラスチック爆弾の中に部屋を作ったようなものだ。
 何かあれば、ここは一瞬で灰塵と化す。
 これだけの設備を作ってまで、『教会』が恐れているモノ。
 真ん中にはその子供が座っていた。

 小動物のような小柄な身体。
 紫色をした不気味な肉体。
 その全身に、縦横に走る血管が浮き出ている。
 つぶらな瞳が、違和感を増大させていた。
 
「おじちゃん… 誰…?」
 子供は呟く。
「別に、名乗るほどの者ではありません…」
 『蒐集者』は、部屋に足を踏み入れた。

「…来ないで」

 グシャリ、という鈍い音が部屋に響いた。
 爆裂する『蒐集者』の頭部。
 その破壊痕は肩にまで達している。
「…」
 子供は、『蒐集者』の残骸を見つめていた。

「ほう… 大した歓迎ですね…」
 虚空に散った肉片が集まり、再び頭部が形成される。
 それを目にして、子供の態度が豹変した。
 子供は、突然はしゃぎ声を上げた。
「すごいや! もしかして、おじちゃんも『いらない子』?」

 『蒐集者』は腕を組んだ。
「『いらない』かどうかは分かりませんが… 世界にとっては、私が存在しない方が有益でしょうね。
 ただ、『子』ではない事は確かです…」

「なんだ… 違うのか…」
 がっくりと肩を落とす子供。

701:2004/01/11(日) 13:13

「では、君は『いらない子』なのですか?」
 『蒐集者』は訊ねた。
「うん… みんなが、ぼくのことを『いらない子』って言うんだよ… おかあさんも…」
 ――ぐにゅる。
 子供の頭部…頬の辺りから、女性の顔がゆっくりと突き出した。
 一見、生きているように見える。
 だが、その女性の瞳には何も映っていない。
 顎の部分までが突き出ると、女性の頭部はがっくりとうなだれた。
 髪が垂れて、顔が見えなくなる。
 間違いなく彼の母親だ。そう『蒐集者』は看破した。
 細胞組織は生きている。 …いや、生かされている。
 ただし、生きているのは体組織だけ。
 彼女はもう食われているのだ。

「おとうさんも、ぼくを『いらない子』って言った…」
 ――ぐにゅる。
 同様に、頭の先から突き出る男性の顔。

「おにぃちゃんも、いもうとも、おじぃちゃんも、おばぁちゃんも、おじさんも、おばさんも、せんせいも、
 となりのおねぇさんも、となりのおばさんも、ともだちも、ともだちのともだちも、ともだちのおかあさんも、
 ともだちのおにいさんも、ともだちのともだちのともだちも…」
 ――ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。
 ――ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。
 ――ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。
 彼の顔や身体から次々と突き出す人面。
 子供の体は、人面で埋め尽くされた。

 枢機卿は言っていた。
 『ぽろろ』。
 それが、この子供の名前。
 だが、その名を呼ぶ者はいない。
 ぽろろの周囲の人間は、全て彼によって捕食された。
 この子供は、自分が何をやったか分かっていないという。
 『死』の意味を… そして、自分が殺したという事を知らないのだ。
 なまじ、自我を持っている事がこの子供の悲劇である。
 それだけではない。
 この子供は、自分のスタンドに食われている。
 そして、スタンドを食っている。
 自らの才能に食い尽くされ、そして逆に食い尽くしている。
 ――まるでウロボロスだ。

 ぽろろは言葉を続ける。
「だから、なかよくなろうと思ったのに… ねぇ、おかあさん」
 当然ながら、女性の顔はうなだれていて返事をしない。
 ぽろろは『蒐集者』の方に視線を移した。
「ぼくが『いらない子』だから、なにも言ってくれないんだ…」

 『蒐集者』は口を開いた。
「いるかいらないかは、自分で決める事です。
 自分が『いらない子』と思うのならば、ここで膝を抱えて閉じこもっていればいい」
 ぽろろは、無言で首を左右に振った。
 突き出た顔が全て引っ込んでしまう。
 後に残ったのは、ちっぽけな子供の姿だ。
「いやだよ… 外に出たい…」

 『蒐集者』は、ぽろろの前でしゃがみ込んだ。
 目線をぽろろの高さに合わせる。
「君のスタンドに名前をあげましょう。
 ――『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス(黙示の天使)』と」

702:2004/01/11(日) 13:14

 きょとんとした表情を浮かべるぽろろ。
「てんし…? ぼく、天使になんかなれないよ…?」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「もちろん、君は普通の天使ではありませんよ。人の世に地獄を築く、黙示録の天使です」
 目をぱちくりさせるぽろろ。
「もくしろく…?」

「そう、『ヨハネの黙示録』に出て来る天使とは、あなたが知っている天使とは全く異なります。
 よく誤解されていますが、天使とは人間の味方ではありません。 
 現に、『黙示録』で人類のほとんどを滅ぼすのは、天使の仕業ですよ。
 彼ら七人の天使は、神から七つのラッパを授かっています。
 そのラッパが吹き鳴らされると、破滅的な災いが起こるのです。」
 ぽろろは、『蒐集者』の言葉を反復した。
「わざわい…?」

「そうです。人々が殺し合ったり、疫病が流行したり、人類のほとんどが虐殺されたり…ですね。
 人間ばかりでなく、あらゆる動物や植物、天体…すなわち全被造物が災いに晒されるのです。
 それはまさに、人にとっては地獄以外の何者でもありません。
 だから貴方は… 地獄を築く『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス(黙示の天使)』になるのです」
 目をぱちくりしているぽろろ。
 意味の大半は理解できていないのだろう。

「まあ『黙示録』自体は、どこぞのヨハネとやらが、自分の夢を書き綴っただけのつまらない文章ですがね。
 これが約2000年もの間、人類に伝え続けられた事に大きな意味があると私は思います」
 『蒐集者』は、ぽろろの瞳を見据えた。
「『黙示録』で生き残った人類の数は、僅か14万4千人。その全員が、神に選ばれた者です。
 『黙示の天使』である君には、大いなる選択権があるんですよ。
 『いらない子』と、『いる子』を選別する絶対権利がね…」
「ぼくが、えらぶ…?」
 ぽろろは、ただ『蒐集者』の言葉を繰り返した。
 それを受けて、うなづく『蒐集者』。
「手術の話は聞きましたよね。それを受けたら、君は『いらない子』ではなくなります。
 それどころか、君が『いる子』と『いらない子』を選り分けることができるようになれますよ…」

「でも、ぼく知ってるよ。その手術を受けたら、自分が自分じゃなくなっちゃうかもしれないって…
 ぼく、怖いよ…」
 ぽろろは震えて言った。
 『蒐集者』は笑顔を見せる。
「そんな事はないですよ。貴方なら大丈夫です」
「でも…」
 ぽろろは、うつむいてしまった。
 『蒐集者』は、ロングコートをはためかせて立ち上がる。
「では、こうしましょう。そこのテレビ、映りますか?」
 壁に設置されているTVを指差す『蒐集者』。
「うん。見れるよ…」
 ぽろろは答える。

「では、今から約4ヶ月半後の2月8日に、大きな花火を打ち上げます。そのTVに映るくらいのね…」
 『蒐集者』は言った。
「うそだ! ぼく知ってるよ? 花火は冬にはやらないんでしょ…?」
 ぽろろは床に転がっていた絵本を拾い上げると、ぱらぱらとめくる。
 夜空に花火が瞬いているページを開くと、『蒐集者』に見せた。
「花火は夏しかやらないって書いてるよ? それをTVでやるなんて、ぜったいに無理だよ…!」
 『蒐集者』は微笑を見せると、再びぽろろの前でしゃがみ込んだ。
「だから、これが私との約束なんです。最初に、私が約束を守って花火を上げる。君は、約束を守って手術を受ける。
 こうすれば、二人とも約束を守った事になります」

703:2004/01/11(日) 13:14

「約束、だね…!」
 ぽろろは、ぱっと明るい表情を見せた。
「ホントにTVにうつるほどの花火が上がったら、こわいけど僕も手術を受けてみるよ!
 おじちゃんが約束を守ったってことだからね!」
 『蒐集者』はうなづいた。
「私との約束、ですよ… 手術を受ければ、君も外に出れるようになる」
 ぽろろは目を輝かせた。
「そうなったら、僕は『いる子』になれるの!?」
「ええ、なれますよ。君はみんなに祝福される子になる」

「じゃあ、おかあさんもほめてくれる?」
 ――ぐにゅる。
 再び、彼の身体から母親の顔が張り出した。
 『蒐集者』は、ぽろろの無邪気な質問には答えなかった。

 手を伸ばし、ぽろろの頭を撫でる『蒐集者』。
「『いらない子』なんて、この世には存在しません。
 いかなる境遇にあろうとも、望まれない生命など存在してはならないのです。
 もし、『いらない子』なんてものが存在するならば――
 自分で、『いらない子』と思い込んでいる人間だけでしょう」
 ぽろろは、『蒐集者』の目をまっすぐに見た。

 言葉を続ける『蒐集者』。
「手術には、君の心と身体は耐えられる。それは私が保証しましょう。
 しかし、君が今まで自分のやってきた事の意味を知った時、君が自分を保てるかは分からない…」
 『蒐集者』はぽろろの顔を覗き込んだ。
「――そうなった時、私の言葉を思い出してください。
 君は、君自身を『いらない子』と決め付けた世界と戦えるだけの力を持っている。
 君こそが、『いる子』と『いらない子』を選別する地獄の天使だという事をね…」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

704( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:43
・・いつもそうだった。
親は強盗に殺され
俺は義父と義母に虐待され
学校では虐められ
教師には放置され
動物には死なれ
神には見捨てられた
・・そんな俺に物心付いたときから傍に居た『友達』・・
名前の無いソイツを俺は『ジェノサイア』と名づけた・・。

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―幸せはやって来ない①

「・・・嫌な夢見たなぁ・・」
気付いたらパソコンを付けっぱなしにして椅子に座りながら寝てる俺。
時計は4時を指し、紅茶はすっかり冷めている。
・・・意識を無くしたのが12時・・4時間も寝てたのか・・。
昨日のスタンド使い君は自白によって逮捕された。
でも、スタンド使いを法律でしばる事は難しい。ならば何で縛るのか?
・・『力』だ。弱い者を捻じ伏せるのには力だ・・。
突然パソコンのデスクトップから顔が現われる
「随分と元気が無さそうじゃないか巨耳モナークン?」
彼女が俺のスタンド。『ジェノサイア』だ。昨日の犯人を一掃したのも彼女。
能力は『画面がある所を自由自在に移動する』事。
パソコンだろうがテレビだろうが携帯電話だろうが携帯ゲーム機であろうが
画面があればそこからでることが出来る。
「・・ちょっと嫌な夢を見てな・・。ハッキリとした。鮮明で、リアルな夢。」
俺はふと天井を見上げた
「へぇ・・?じゃあ教えてよ。」
ジェノサイアに言われると俺はソレを話し出した。・・ジェノサイアは知ってる事だ・・
・・何故なら俺が今見た夢は・・・昔の思い出なのだから

705( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:44

〜8年前〜

・・俺は雨が降る外を見て、涙を流しながらトンネルに居た。
ジェノサイアが俺の携帯から出てくる
「・・・どうして?どうして何も言わずに殴られるの?」
ジェノサイアは悲しそうに俺に聞く。
話は数分前にさかのぼる。
学力はクラスTOPと頭が良かった俺は、先輩に目を付けられ、絡まれていた
「ねーねー?どうしてんな頭が良いのオォォォオーん?」
「お兄さん達にも教えてよォォォォー。お・べ・ん・きょ・う。」
「お兄さん達も勉強したいんだけどねェー。お金が無いんだよォー。貸してくれなァァーんい?」
俺はいつも友達に虐められてる時の様に無視して帰ろうとする
・・・だが、今回は勝手が違った
「・・無視してんじゃねーぞッ!このスッタコがッ!」
先輩の拳が飛ぶ。
「頭が良いからってよォ〜調子ノッってんじゃねェッ!!」
蹴りがみぞおちに入り、俺は口から血を流す
「また明日よォ〜。今日と同じ時間でこのトンネルに来てよねェ〜?」
「来なかったらどうなってるかわかってるなァッ!?」
そういい残すと、先輩達は去っていった。
そして自分は、トンネルから出て、自分の家に向かった。
「・・・・鍵がかかってる・・。」
もう慣れた。呼び鈴を押しても空けてくれない。俺はドアの前に座る
後ろからふいに誰かに抱かれた様な感じになる
・・・・ジェノサイア。
ジェノサイアは画面と接してる状態ではその画面と同じくらいの大きさになるが
画面から離れると、大きさは普通のAA一体分くらいの大きさになる。
そして、俺はジェノサイアに抱かれながら、家の外で就寝する。

706( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:45
・・翌日。俺は普通に登校する。・・机が無い。
まぁ、教師に言ってもシカトされるだけだから地べたに座るか
「コラァッ!巨耳ィッ!ブチ殺されてェのかァ!?地べたに座ってんじゃねェー!!」
・・どうしろと言うのだ。俺はとりあえずシカトする。
―下校時間。もちろん俺は先輩達の待ち合わせ場所のトンネルは通らない。回り道して家へ帰る。
が、珍しく鍵がかかってない。とりあえず家に入ると、義母が俺を俺の部屋に投げ入れ、ドアの鍵を閉めた
――先輩だ。
金を出すのを拒否したら俺はフクロダタキにされた。
問題無い。金を出すくらいなら痛みに耐えた方がマシだ。
しかし、今回ばかりは勝手が違った。先輩の手に何かがぼやけて見える
・・・刃物。包丁だ。
「金を出してくれないならよぉ〜。殺して保険金をもらうしかねぇよなァ〜?もう親御さんからの許可も貰ってるんだぜェ〜ッ?」
・・・!!
俺に、新しい感情が生まれた。一つは『驚き』そして、もう一つは
・・・・・・・・・・・『恐怖』
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
先輩は本気だった。俺の心臓近くにナイフがもってかれる
「それじゃあ。お楽しみとまいりましょうかァ?」
先輩達が盛り上がる。・・・殺される。
そう思った瞬間。ふいにテレビから大きな拳が現われ、先輩をふっとばしてった。
ジェノサイアだ。
先輩達は驚き、慌てふためき、そこから逃げて行った。
俺は、その日。かなり久しぶりに『泣いた』。何故かはわからない。
ただ。涙が止まるのを待つだけだった。
翌日から俺は『悪魔』と呼ばれ、同級生や教師にも恐怖されていた。
・・不思議と心地よい。何か嫌味を言われるなら、避けられ、無視された方が良いからだ。

・・此処で俺の目が覚めた。
ジェノサイアはソレを聞いて何か思い出したのか悲しそうな顔をしている
・・場の空気が重い。この場合ギャグでも言ってみようか。
だが、失敗するともっと重くなる。こんな時巨耳家にはある秘策がある
――逃げるんじゃよォー。
俺はその場をごまかして散歩にでかけた
気付くとあの時のトンネルの前に居た。
そして、それと同時に驚きが俺を支配した。
   『奴』 が目の前に居る。』って所か
「よぉ・・。巨耳モナー君?お久しぶりだねぇ・・。『8年ぶりい?」

←To Be Continued

707( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:46
登場人物

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。

 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)先輩(がんたれモナー)(26)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院遅れとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。

708新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:13
合言葉はwell kill them!(仮)第六話―空からの狂気その①


海宮町繁華街。
空はそりゃもう嘘みたいに真っ青だ。快晴だ。
雲一つとして見当たりはしない。
そこの交差点で一組の男女が信号待ちをしていた。
男は黒いフードの付いた服を着ていて顔が見えない。
(サンデーの某格闘漫画に出てきたハーミ○トみたいな奴と思っていただこうッ!)
女のほうは 見た目は16歳程度でセミロングの灰色の髪をしている。
なぜか右の目が荒々しく縫い付けられていて、かなり痛々しい。
ウォークマンで音楽を聴いていて、目を閉じて足でリズムをとっている。
二人ともこの人ごみの中でもかなり目立つ。
男は女に話しかけた。
「どうやら見失ったようだな・・・・・。」
「・・・・」
女からの返事はない。
「俺が迂闊だった。よりによってあんな『能力』を引き出すなんて。」
「・・・・」
「とにかくアイツを捕らえなくては。これ以上被害者が出るのは御免だ・・。」
「・・・・」
「・・・おい・・おいッ! 聴いてんのか!?」
「zzz・・ZZzzz・・・」
「・・・寝てんじゃあねェェーッ!! 何やってんだお前はー!」
男が女のヘッドホンを外して怒鳴った。
「zz・・・ん、んあ?・・ああ・・・おはよう」
トロンとした目を擦りながら女が起きた。
「何が『おはよう』だよ!こんな所で寝るな!」
「いや・・・なんかこの陽気の中、音楽にノッていたら気持ちが良くてついウトウトと・・。」
「まったく・・・。もっとシャキっとしとけよなぁ〜シャキっと!」
「オ、オッス!」
「ホラ、信号変わったからいくぞ。」
男が歩き出したので、女は慌てて後を追いかけた。

709新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:14


みなさん、ご機嫌いかがですか?
…誰に言ってるかなんて聞かないでほしいのだ。あたしだってわかんないんだから。
まぁいいや。あたしは…あたしの名は杏子。皆から『ヅー』って呼ばれている。
王牙高校の一年生で家が喫茶店を営んでいる。
今日は週末で学校が休みなので店の手伝いをやらされている。
店には同じクラスのアヒャ、ツー、シーンの三人が来ていた。
本名は亜日野、津田、清水と言うんだけどほとんどニックネームで呼んでいる。
そしてその三人は何やら討論しているご様子。

「俺はランララランランランだと思うんだけどね」
「でも俺の耳にはランラララランランランって聴こえるんだよな」
「僕はランラン、ランララランランランって聞こえるな。」

ここはいつから2丁目になったのかしら。
なにかと思いつつ事情を聞いてみると、
なんでもナウシカのあのテーマ曲はなんて歌ってるのかみんなで話し合ってるんだとか。

「お〜アヒャ君じゃないか!」
出た。トラブルメーカーうちの父さん。
「あ、おやっさん!」
「いつも来てくれてありがとうね〜!今丁度新メニュー開発として新しいドリンク作っていたんだけど飲む?」
「飲む飲む!」

・・・さようなら。
私は心の中でそう呟いた。
何しろうちの父さんの作るオリジナルドリンクは、『当たり』の場合もあるが、大半の場合は『はずれ』なのだ。
何度か試しに飲んでみたが・・・素人にはおすすめできない。

「チャオ!みんな元気してるゥー?」
来た。見せる暴力野郎マララー。
今日も男根の帽子が眩しい。
「ん、アヒャ君。それは何?」
「ああ、おやっさんの特製ドリンクさ。まだ飲んでないけど一口飲む?」
「もちのロンさ!」
そういってアヒャ君からグラスを受け取るとマララーはドリンクを喉に流し込んだ。

「・・・・」
急に無口になるマララー。
ガシャアアン!
音を立てて地面に落ちたグラスが割れた。
と、同時にマララーが地面に倒れた。
やっぱり『はずれ』だったか。

「お、おい!大丈夫か!?しっかり!」
ツーが慌てて駆け寄る。
見ると手足は痙攣していて白目を剥いていた。
「う〜む。ハバネロの分量を間違えたか?」
父さんが顎を撫でながら呟いた。

おい、何を入れたんだ何を。

710新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:14


仕事もひと段落ついたので皆とアイスティーを飲みながら雑談をする。
マララーは邪魔になるので店の隅に放置しておいた。
「そういえばさ、さっきここに来るとき生の事故現場見れたぞ。」
おもむろにアヒャが口を開く。
「何ッ!?」
するとツーがいきなり立ち上がった。
リアクション大袈裟すぎ。
「何処だ!何処で見た!?」
そういえばツーは祭りや事件なんかが好きだったな・・・。
「ああ、この近くに社宅があるじゃん。そこに大型ダンプカーが突っ込んだらしいぜ。
 けっこうボロかったから少しばかし衝撃で壁が崩れてたぞ。」
「そうか!ならば俺は行くぞ!祭り好きの血が騒いでしょうがねぇぜ!」

バン!

ドアを思いっきり開けてツーは走っていった。
「逝ってらっしゃ〜い。」
私達は彼を止めることはできなかった。
          *          *          *

「ひゃあ〜、凄いね〜。」
「あれだけの大きさのダンプが衝突したんだ。死者が出ていないのが幸いだ。」
その事故現場にあの二人はいた。
警察、消防署、救急隊、野次馬等が騒がしい。
原因はダンプカーのタイヤがパンク。スリップしてぶつかったらしい。
「あ!テレビ局の車が来たよ!せっかくだから写ろう!」
「・・・やめておけ。恥をかくぞ。」
二人が現場から立ち去ろうとした時だった。
「急げ!子供が一人瓦礫の下敷きになっているぞ!」
それを聞いて男が立ち止まる。
「・・・どうしたの?」
「・・決まっているだろ。ちょっとした人助けだ。」
影に隠れて分からないが、男は少し笑った気がした。

711新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:14

「うわーん!痛いよぉー!」
二人が人混みの近くに行くと、子供の泣き声が聞こえてきた。
声から男の子と分かる。
隣では母親らしき女性が泣き崩れている。
「すいません。ちょっと通りますよ。」
二人は野次馬をかき分けて声のする方へ近づいた。

「なんだ君達は!早く離れて!」
案の定、警官に制止される。
と、同時に彼の喉にサバイバルナイフが突きつけられた。

「・・・・邪魔しないでくれる?あの子を助けるんだから。」
女が警官を睨んだ。
殺気を帯びた眼差しに流石に警官は後ずさりした。

近くで見ると男の子は両足とも瓦礫に埋まっていた。
這い出そうと試した結果できてしまった擦り傷が腕にできている。
周りでは大人が数人瓦礫をどかそうとするが、なかなか持ち上がらない。
その時、男の子の顔に影が落ちた。
「…大丈夫。すぐに助けてあげるから泣くな。」
男は子供に優しく語りかけた。
「ちょっと待ってな。今すぐどかすから。」
男から半透明のヴィジョンが飛び出した。
人の形をしているスタンドだ。
「じっとしてな。」
スタンドが地面に触れた。

ボゴオオッ!

衝撃音と共に子供の足の上の圧迫感がふいに消えた
驚いて足を見ると足を潰していた瓦礫が吹き飛ばされている。
そして足の横にはさっきまでは無かった石の柱が何本か突き出ていた。
驚きのあまり、男の子は足の痛みを忘れていた。
「ひどいな・・・。両足とも折れている。」
「直せそう?」
「ああ、この程度だったらな。」
男のスタンドが子供の足に触れると同時に、一瞬足が細かな粒子になって飛び散った。

「・・・よし。これでいいだろ。さ、行こうか。」
男と女は、呆気に取られている周りの人々を尻目にその場を立ち去った。
二人の後ろでは、両足とも元の状態に戻った少年が何が起きたか分からないまま立っていた。

712新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:16

「もう凄いのなんのって!そいつ名前も名乗らずに去っていったんだから!もうシビレたね。」

事故現場を見てきたツーが興奮交じりで皆に自分の見たことを話している。
男が少年を助けたとき、丁度ツーが現場に居合わせたのだ。
「ふーん。で、どんな奴だったの?」
シーンが尋ねる。
「えーっと、確かフードを被っていて顔は見えなかったけど・・・。」

その時店の扉が開いた。
「あ!あいつだ!」
中に入ってきた人を見てツーが叫んだ。
アヒャ達は一斉に扉の方を見た。
そこにいたのは紛れも無いあの二人だった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

713ブック:2004/01/12(月) 00:56
      救い無き世界
      第八話・幕間 〜危険牌は通らない〜


「―――「○○デパート爆破テロ事件」の事件での被害者は、
 死者五十六名、重軽傷者二百三十一名、行方不明者四十八名と、
 甚大な数に昇っており、
 事件から一夜明けた今現在もなお、負傷者、行方不明者の
 捜索が続けられています。
 専門家の意見では今回の―――」
 ニュースキャスターが、四角い画面の中で喋っている。
 俺はSSS内にある医務室のベッドに、ぃょぅと並んで横たわりながら、
 テレビから放送されているニュースを見ていた。

「現場のズザギコさー…」
 ピッ
「…病院はどこも事件の被害者でいっぱいで…」
 ピッ
「…やはりこの国は自衛隊をもっと強化…」
 ピッ

 どこのチャンネルを見ても、やっているのは同じニュースばかりである。
 まあ、あれだけの事があったのだから、
 当然と言えば当然であるが。
 我ながら、よく生きて帰ってこれたものだ。

「でぃ君、傷はもう大丈夫なのかょぅ。」
 隣からぃょぅが話しかけてきた。
『もう、平気です。』
 ホワイトボードにそう書く。
 俺の怪我は、みぃのおかげで既に完治しかけていた。
 ぃょぅも、おそらくほとんど治っているはずである。

「でぃ君、あの時の事、何か思い出せたかょぅ。」
 ぃょぅの問いに、俺は黙って首を横に振った。
 あの時、瓦礫に道を塞がれて立ち往生していた時、
 俺は俺の内の『何か』に呼ばれて…
 そして、気付いたときには、瓦礫は跡形も無く消えていた。
 あれが俺のスタンドの『力』…?

 いや、違う。
 あんなものじゃない。
 たぶん、瓦礫を消し去るなんてほんの一端に過ぎない。
 何故か、そう確信することが出来る。
 あいつは、俺の中にいるあいつは、一体何なんだ…

「そうかょぅ…
 何か思い出せたら、些細なことでいいから教えてくれょぅ。」
 ぃょぅの言葉が俺を現実へと引き戻した。
 もし、俺が今さっき考えた事をぃょぅに伝えたら、
 ぃょぅは、そしてぃょぅの仲間達は俺をどうするだろうか。
 俺を一生監獄の中に閉じ込めるだろうか。
 それとも殺すのだろうか。
 漠然とした不安が、俺を襲った。

714ブック:2004/01/12(月) 00:57

「お邪魔するわよ。」
 不意に部屋のドアが開けられ、ふさしぃとみぃが部屋に入って来た。
 俺とぃょぅは、ベッドから体を起こす。
「お見舞いに来たわ。お二人とも、具合はどう?」
 果物の詰め合わせの籠を近くの机に置きながら、ふさしぃが尋ねてきた。
「ぃょぅは大丈夫だょぅ。
 今日にでも、復帰出来るょぅ。
 それもこれも、みぃ君のおかげだょぅ。」
「そ、そんな。
 私は大したことなんか何も…」
 ぃょぅの言葉に、みぃが恥ずかしがって縮こまる。
「でぃ君は、どう?」
 ふさしぃが俺にそう聞いてきた。
『はい。もうすっかり治りました。』
 俺はそう答えた。
「そう、なら大丈夫ね。」
 そう言ってふさしぃは微笑むと―――


 首から上が吹っ飛ぶような衝撃。
 ふさしぃの平手が、俺の顔面を正確に捉えた。
 俺はそのあまりの威力にベッドから転げ落ちる。
「でぃさんっ!!」
 みぃが俺に駆け寄り、体を抱える。
 あまりの平手の速さに、
 俺は一瞬何が起こったのか、理解できなかった。

「馬鹿…っ!
 自分がどれだけ他人に心配をかけたか、分かってるの!?」
 ふさしぃが怒った。
 ある程度覚悟はしていたが、やっぱりか。
 まあ、しょうがない。
 あんな所で、勝手な行動をとって、皆に迷惑をかけたのだ。
 しかも迷惑をかけたのが俺みたいなでぃなら、
 余計に腹も立つだろうさ。
 所詮俺は―――

 次の瞬間、俺は目を見開いた。
 ふさしぃの目に、光るものを見つけたからだ。

 俺は、困惑した。
 何で、この人は泣いてるんだ?
 俺を怒るのは分かる。
 だけど、なんで泣く必要がある?
 いや、そもそも俺みたいなのが死のうが生きようが、
 この人には何も関係無いんだから、怒る必要すら無い。
 なのに、何でこの人は俺の事で、怒ったり泣いたりするんだ?

 ふと隣のみぃを見る。
 みぃも、泣いていた。
 分からない。
 なんでふさしぃも、こいつも、
 そんなに俺なんかに構う。
 両親だって、俺を見捨てたっていうのに…

 打たれた頬が酷く痛む。
 だけど、俺の胸の辺りは何故かそれよりもずっと痛かった。

715ブック:2004/01/12(月) 00:57


     ・     ・     ・


 私はふさしぃとタカラギコ、そしてギコえもんを相手に闘っていた。
 私は先程タカラギコから深手を負っており、
 おそらくこの四人の中では最も不利な状況にあると言える。
 それにも関わらず、彼らには油断の色はかけらも見られない。
(相手は百戦錬磨の兵ぞろい。
 簡単に勝てるとは思ってはいなかったけれど、
 まさかここまで追い込まれる事になるとはょぅ…)
 そして今、私は絶体絶命の窮地に立たされていた。
 三人は、私に止めの一太刀を浴びせようと身構えている。

 だが、同時に今は最大のチャンスでもあった。
 リスクは高い。
 しかし、これさえうまく行けば、大逆転が可能である。
 どうせこのままではじわじわとやられるだけである。
 やるしか…無い!

 私は最後の賭けに出ることを決心した。

 いくぞ!これが私の最後の手だ、喰らえ!!!


「リーーーーチ!!」
 私は牌を横に倒し、場に千点棒を置いた。
 私達は、SSS内の私達の職場となる部屋で、麻雀をしていた。
 誤解のないように言っておくが、もちろん勤務時間外である。

 チャッ、タン
 チャッ、タン
 チャッ、タン

 三人は案牌のみを切り出す。
 だが、問題は無い。
 この流れなら、間違いなく一発で上がり牌を引いてくる…!

「ツモっ!!!」

 一二三(12399)12233 ツモ1
 一…マンズ (1)…ピンズ 1…ソーズ

 リーチ一発ツモ純チャン一盃口ピンフ
 倍満できっちり逆転トップである。

「ちっ!!」
 ギコえもんが卓へと八千点を投げつけた。
 オーラス親っかぶりで最下位転落したからである。
 気の毒ではあるが仕方が無い。
 これが真剣勝負の世界だ。
「それじゃあ次の半荘といきますか。アハハ。」
 タカラギコが金を支払いながら言った。
 しかしその笑い声とは裏腹に、笑顔の裏には殺気にも似た
 気迫が見え隠れしている。

 そして次の半荘が開始された。
 レートは千点=千円。
 一瞬の気の緩みが致命傷となる。

716ブック:2004/01/12(月) 00:58

「…でぃ君に悪いことしてしまったかしら。」
 ふさしぃが(9)を切りなが言った。
「今日のビンタのことかょぅ?」
 私は白を切った。
「ポン。」
 タカラギコが白を鳴いた。
 捨て牌からしてマンズの混一?

「それもあるけど、違うの。でぃ君をデパートに連れて行ったこと。」
 ふさしぃは發を切る。
「ポン。」
 タカラギコがそれも鳴いた。
 ヤバイ。
 まさか大三元か!?

「あの事件に巻き込まれたのは、
 別に君の所為じゃ無いょぅ。
 不可抗力だょぅ。」
 私は牌をツモった。
 あろうことか中。
 これだけは死んでも切れない。
 私は仕方なくタカラギコの安牌である(7)を切る。

「ううん、違うの。
 私は、彼に自分がでぃであるなんて下らない事なんかで、
 他人から逃げるように生きて欲しくなかった。
 だから、あえてデパートに一緒に買い物に連れて行ったの。
 けど…」
 ふさしぃが、(4)を切った。
「けど…それは私の一方的なエゴの押し付けで、
 ただでぃ君を傷つけただけかもしれない…」
 ふさしぃが表情を暗くする。

「…心配ないと思うょぅ。
 でぃ君はきっとふさしぃの事を、
 分ってくれている筈だょぅ。」
 私はそう言った。
 そして、そうあって欲しいと願った。
「…だと、良いんだけどね。」
 ふさしぃは溜息をつく。
「大丈夫。
 悪い奴なら、みぃ君があそこまで懐いたりしないょぅ。」
 私はそう言って、2を切った。

「御無礼ロンです。満貫。」

 一一三三三22 白白白 發發發  ロン2

 …大三元はブラフだったか。
 私はしぶしぶ八千点を支払う。

「そのでぃ君なんですけどね、どうするんです?」
 タカラギコが点棒を受け取りながら言った。
「?どうって?」
 ふさしぃが尋ねた。
「彼の処遇ですよ。
 ぃょぅから聞いた話しか情報はありませんが、
 相当の能力と言えるでしょう。
 今も密かに監視はさせてますが、
 何か起こる前に、何らかの手を打っておくべきだと思うんですけどね。」
 タカラギコはそう答えた。
 私とふさしぃは、顔を曇らせた。

717ブック:2004/01/12(月) 00:58

 私は、そしておそらくふさしぃも、このことは
 努めて考えないようにしていた。
 だが、そうもいかない。
 彼の『力』は放置するにはあまりに物騒すぎる。
 最悪の場合、「処分」される事も有り得るだろう。

「けっ、だからでぃなんかさっさと始末するに限―――」
 ギコえもんは悪態をつこうとして、止めた。
 ふさしぃと、私の刺すような視線に気付いたからだ。
「…悪い。言い過ぎたゴルァ。」
 いつもならばふさしぃは即座にギコえもんを殺している
 はずである。
 だが、ふさしぃはそれをしなかった。
 ふさしぃも、ギコえもんの過去を知っているからだ。

「ま、この話はもうここら辺で止めときましょう。
 最終的にどうするかは、上が決めることです。」
 タカラギコはそう言って軽く伸びをした。
 我々対スタンド制圧特務係も、立場的には相当上に位置してはいる。
 が、流石に今回のことは我々だけでは決められない。
 しかし、それでも私は…

「…最悪の場合はあらゆる手段を使ってでも何とかする
 といった顔ですね、お二方。」
 タカラギコは私とふさしぃを見やった。
「全く、信じられませんね。
 自分の立場が悪くなるのは火を見るより明らかじゃないですか。
 会ったばかりの、音楽の好みすら知らない相手に
 そこまで入れ込むとは。」
 タカラギコはやれやれと言ったように肩をすくめた。
「でも、あなた方のそういう所、嫌いじゃありませんよ。」
 タカラギコはそう言って白を切った。
「それロンだょぅ。跳ね満。」

 (123456789)西西白白  ロン白

「…前言撤回。ぃょぅさんは好きになれそうに無いですね。」
「さっきのお返しだょぅ。」
 私とタカラギコとの間に、火花が散った。

718ブック:2004/01/12(月) 00:59

「そんなことより、結局あのデパート事件の犯人の
 スタンド使いは何だったんだゴルァ。」
 ギコえもんが口を開いた。
「残念だけど、分からないょぅ…
 済まなぃょぅ。
 生け捕りに出来なくて…」
 私は面目無い気持ちでいっぱいだった。
「まあ、仕方ありませんよ。状況が状況でしたから。
 犯人がスタンド使いと分かっただけでも見っけものです。
 その点では、でぃ君に感謝しないといけませんね。」
 タカラギコはそう言った。
「…いずれにせよ、早く背後を突き止める必要があるわね。」
 ふさしぃが深刻な顔をで呟いた。

「お、ツモだょぅ。
 1000・2000.ラストだょぅ。」
 再び私のトップでその半荘は終わった。
「か〜〜〜っ、うっそだろう。
 馬鹿ヅキじゃねえか、ぃょぅ。」
 ギコえもんが半分キレかけている。
 そろそろパンクといった所か。
「しかたないわね、次の半荘を…」
 ふさしぃがそう言いかけたところへ、
 いきなり小耳モナーが割り込んで口を挟んだ。
「さっきからじっとしてたら、皆酷いモナーーー!
 モナばかり仲間外れにして、モナも麻雀打ちたいモナー!!」
 後ろで観戦してばかりでは、さすがに退屈だったようだ。
 というか、さっきまでその存在をすっかりと忘れてしまっていた。
(ごめんょぅ。小耳モナー。)
 心の中で、小耳モナーに謝罪した。

「それじゃあ、ぃょぅと交替するょぅ。」
 私は小耳モナーに席を譲った。
 これ以上勝っては、命を狙われる可能性がある。
「わーい。勝って勝って勝ちまくるモナ〜〜!」
 小耳モナーは無邪気にはしゃいだ。

「ロン!跳ね満だゴルァ!!」
「あわわわわわわわわわわわわわわわ。」

「御無礼ロンです。
 親の倍満。トビましたね。」
「うやうやうやうやうやうやうやうやうやうやうや。」

 小耳モナーはあっという間にトバされた。
 何て弱いのだ。

「も、もう止めるモナー!!」
 小耳モナーが叫んだ。
 しかし、ふさしぃが小耳モナーを睨みつけて、
 抜けるのを許さない。

「さあ、どうしたの?
 まだ一度トバされただけよ。
 かかって来なさい。」
 ふさしぃが凄む。
「リーチ棒を出しなさい。
 鳴いて流れを変化させて。
 大物手を構築して立ち上がるのよ。
 役満をツモって反撃なさい。
 さあ夜はこれからよ。
 お楽しみはこれからよ。
 早く!
 早く早く!
 早く早く早く!」

「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
 小耳モナーが憐れな悲鳴を上げた。
 お終いだ。
 彼はもうお終いだ。
 彼は一騎当千の猛者が集う戦場に丸腰のまま放り出された
 赤子も同然。
 彼の末路はもはや唯一つ。
 搾取されつくし、
 無様に屍をそこにさらすのみ。
 私は小耳モナーに黙祷を捧げた。

719ブック:2004/01/12(月) 00:59


     ・    ・    ・


「アサピーが戻らなかったそうだな、梅おにぎり。」
 男が梅おにぎりに語りかけた。
「申し訳ございません…
 この責任は、必ず…」
 梅おにぎりは深々と頭を下げた。
「いや、いいんだ。
 狼煙は仔細なく上がったのだから。
 何ら問題は無い。」
 男は満足そうに言った。
「しかし…やはり動きましたか、SSSが。」
 梅おにぎりは顔を強ばらせた。
「構わぬ。
 むしろ歓迎したい位だ。
 邪魔者は多ければ多いほど面白い…」
 男が心底愉快そうに呟いた。
「さて…彼らはどこまで私を楽しませてくれるのかな?」


   TO BE CONTINUED…

720N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:40

   /;二ヽ
   {::/;;;;;;;}:}   私をズラして掲載し、10日以上も放置するとは              ∩_∩     ドウモスミマセン
  /::::::ソ::::)     いい度胸だな、N2…                           |___|F ヾ  スミマセンスミマセン
  |:::::ノ^ヽ::ヽ                                             (´Д`;)、      コノトオリデス
  ノ;;;/UU;;);;;;;ゝ.                                              ノノZ乙

721N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:41

シャイタマ小僧がやって来る! 後編

「ナンド ヤッタッテ 無駄ナンダゼ! カカカ!!」

…やはり正攻法では何度やっても駄目だった。
どんなにどんなに気を付けても、こいつはどこかでオレの隙を見付けては、
オレをこの「50」へと帰してしまう。

「オ前ハ 一生 俺ノ本体ヲ 見付ケラレナイバカリカ ココデ 不様ニモ 野垂レ死ニスルニ 決マッテンダ!
イイ加減 諦メテ ココデ 餓死デモスンノヲ 大人シク 待ッテヤガレヨ!!
俺様ダッテ 暇ジャネーンダヨ!!」

時計はもう11時を回った。
皆がオレのことを探しているかも知れないが、そんなのを待ってはいられない。
…ならば。


「・・・何シテンダ テメーハ? ヤッパリ トチ狂ッタカ?」
じっと時計を見つめるオレに、奴はまた難癖を付け始めた。
「…お前、オレがただの馬鹿だと思ってるのか?」
「ソリャオメー、 始メッカラ 分カリ切ッテイルジャ・・・」
酷い話だ。
ま、たかが遠隔操作型スタンドごときの考えにゃオレの策は見破れないか。

「じゃあお前は、オレが何も分からない迷子同然とでも思ってるのか?」
奴は当然の如く即答した。
「アッタリメージャネーカ! ンナモン サッキノ 馬鹿カドウカノ 質問ヨリモ 明ラカ・・・」
オレは続ける。
「今日は晴天…綺麗な秋晴れが広がっている。空にはさんさんと輝く太陽の光を遮るものは何も無い」
「・・・?」
何が何だか分かっていないらしい。
敵にさえも親切なオレは更に続けて差し上げる。
「そこの電柱を見ると、ここの番地は『南町』となっている…。オレ達が運動会をしていた運動場は町内の中央に位置しているから、
つまり大体北の方角に進めば帰れるということだ。
…お前、太陽とアナログ時計で方角を知る方法を知らないのか?」

「・・・???」
これでも分からないようだ。
本体はよっぽどの無知なのか。
敵にさえも寛大なるオレはその広き御心で丁寧に御説明なさる。
「確か太陽は一時間に約15度移動するはずだ。180÷12だからな。
そして時計の短針は一時間に360÷12…つまり30度動く。
と言うことは、時計の短針を太陽に向けると、そこと12時の方向の丁度真ん中が南ってことになる。
ってことは、その反対のこっちに直進すれば運動場に着けるってことさ!」
流石オレ。ナイス説明だ。
無駄に知識を披露するギコ兄とは訳が違う。

722N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:42

「・・・オメー、 ヤッパリ 馬鹿ダロ?」
って何でさ!!
「コノ 一本道ガ ドッチノ方角ニ 延ビテッカ 分カンネーノカ!? オメーノ目ニハ ココニ広ガル ブロック塀ガ 見エナイノカ!?」
…まあ、確かにごもっともだ。
「ソレデモ テメーガ 突ッ走ルッテンナラヨー・・・、 俺ハ容赦無ク テメーヲ コノ塀ニ 衝突サセテ 一気ニ アノ世ヘ 送ッテヤルゼ!!」
「…好きにしてな」

こいつの警告など関係ない。
無視して俺は塀向けて走り出す。
「餓死ガ嫌デ 激突死ヲ選ブノカ・・・ ソレナラ 手間ガ 掛カラネーデ 丁度イイゼ!!
ホラヨ! コンクリニ 血ノ海ヲ 作ッテナ!!」
予想通り、加速が始まる。
だが、始めっからこんなものは気にしていない。

「…さっきっから思ってたんだけどさ〜」
「アア!?」
「お前、オレのスタンドの事をちゃんと予習したのか?」
「・・・ンナモン スル訳ネーダロ! ソンナ事シナクテモ テメーニャ 楽勝ダカラヨ・・・」
どうやらこいつ、戦闘者としては三流らしいな。
オレが言えた話じゃないけど。

「『クリアランス・セール』!!」
壁激突寸前でスタンドのラッシュを打ち込む。
同時に細切れ状になって楽に通り抜けられるようになったコンクリート。

庭の植え込みの木も分解する。
木はそのまま倒れて屋根瓦を破壊したが…、ま、不可抗力と言う事で。

民家の壁もそのまま分解。
さっきから完全には分解していないので、こういう硬い物はくぐる時に身体に当たって痛いが、
そんな悠長にやってる暇も無いので、これは仕方ないか。

食堂で昼ご飯をとっている一家。
ちょっと痛いかも知れないが、食事ごと巻き添えにテーブルも、そして家族も分解。
上半身だけ宙に浮くおじいちゃんの驚いた顔がシュールだ。

「・・・テメー、 ヤッパリ トチ狂ッタダロ!? コンナ 突然ニ 民間人ヲ 巻キ添エニシヤガルナンテヨー!!」
こいつにだけは、そんな事は言われたくない。
オレも流石に突然偽善ぶる態度は頭に来た。
「だったらよ…、始めっからこんなざけた真似すんじゃねえ!クラァ!!」
本当は、オレだってこんな事したくはない。
出来ることなら、普通に道を通って運動場まで帰りたさ。
…けど、こいつがそれを許さない。
こいつはどんな手を使ってでもオレを帰さないつもりだ。
…たとえ無関係な人を殺してでも。
ならオレは、必要最小限の損害に留めながら、市民の皆さんに迷惑をかけてでも帰らなくてはならない。

723N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:43

「・・・ウザッテー野郎ダ、 コウナッタラ 意地デモ 苦シミヲ伴ウ 死ニ方ヲ サセテヤル!」
次の瞬間、地を蹴ったオレの足が浮いた。
瞬間的にオレの脚力を強化し、大ジャンプさせたのか。
その先には、電線。
無論、分解する。
何世帯停電になるかな…。
そのまま何事も無く着地。まだ止まらない。

「・・・ナラヨー、 今度ハ コレデ ドウダッ!!」
車道に平行に近い角度で突入したオレに、小刻みに暴走をオン・オフにする。
突入してくる車・車・車。
こうなったらオレもヤケだ。
「クラクラクラクラクラクラクラクラァッ!!」
次から次へとやって来る車を片っ端から分解。
…高級車とか、ボンネットが凹んでいたりしなきゃいいが。

「・・・チクショー、 コイツ、 正気ジャネエ・・・」
正気じゃないのはどっちだ。
…と、遠くにあの運動場が見えてくる。
もう一息だ!!





「遅レタゼ! 呼ンダカ!?」





明らかに今までのものとは違う、しかしどこか似ている機械的なガラガラ声。
そこには、『暴走スタンド』が2体存在していた。

「畜生! オセーンダヨ コノノロマ! オ陰デ 今ヤバイトコマデ 行ッチマッタジャネーカ!!」
「悪リー悪リー、 チト オメーガ ドコニインノカ 分カンナクッテヨ・・・ マ、 来タダケ 有リ難イト 思イナ!!」

…これは一体。
何故同じスタンドが2体も…!?

「オイ! テメーハ 俺ノコトヲ 戦闘ニ関シテ ド素人ト 思ッタカモ知レネーガ、 ソリャ テメ-ノ方ダゼ!!」
「似通ッタ 信条トカ思想トカ・・・ ソウイウモンヲ 共通シテ 持ッテイル奴ラニャ 同ジスタンドガ 発現スルコトダッテ アンダヨ!
ソウ! 俺達ミタイニナ!」

…なんて骨体!!
確かにそう言われれば分からないでもないが、でもまさかこいつが2体もいるなんて考えもしなかった。
じゃあ、こいつまで協力したら……オレ、一体どうなるんだ?

724N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:43

「コウナンダヨ! ホラッ!」
激!加速!!
「んなああああああああああああああああ!!!!」
加速度がさっきまでの比ではない!
こりゃ時速100キロくらい出てるんじゃないのか!?
ってか冷静にんなこと考えていられん!!

運動場がッ!目前にッ!
な、何としても止まらなくては!!
おおーっと、目の前に再び『50』が!!
こうなったら、意地でも飛びついて止まってやる!!
「クラァッ!!」



ボキッ……



折れた…。

「カーカカカ! 暴走シテンノハ オメーノ足ダケジャネエ! 握力モ何モカモ、全身ナンダヨ!!」
奴の言葉さえももう耳に入らない!!
ってかまだ止まらん!

725N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:43

『さあこの運動会の目玉競技、団体リレーがいよいよスタートです。
………始まりました、スタートしてすぐ、赤がダッシュを決めて周りとの差を付けた!
負けじと負う、青・黄色・緑・白!
…っとお、ここで何者かがこの会場に乱入してきた!!
何だあれは!?何だあれは!?
あれは……ギコ屋だァ――――ッ!!
ってか今までどこほっつき歩いてたんだ!皆心配したんだぞ!
それでもギコ屋、先程から更にスピードアップして走る!走る!
そしてコースに乱入!おおーっと、その先には白の選手が!
危ない白!よけろ白!
しかし……蹴散らされたァ―――ッ!!
ギコ屋止まらない!ああ緑も!黄色も!青さえも!!
残ったのは赤!頑張れ赤!逃げ切れ赤!
しかし……吹っ飛ばされたァ―――!!
ギコ屋まだ走る!ギコ屋まだ走る!
そしてコーナーを曲がらず、まだ直進!そっちにはまたフェンスがあるぞ!
ギコ屋やっぱり止まらない!やっぱり止まらない!
そしてフェンスを…
今度は飛び越えたァ―――ッ!!
ってか高すぎだ!遠すぎだ!!
走り高跳びも幅跳びも世界記録を更新する気かギコ屋!
お前は北京原人かァ―――ッ!?』
『…選手の皆さん、んなとこで突っ伏してないでとっとと競技を再開して下さい』

726N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:44

…もう何キロ運動場から離れたんだ!?
依然止まる気配すらしない!ってか疲れない!!
もう勘弁してくれよォ―――ッ!

「マダダ、終ワランヨ」
「ソロソロ 時間ナンダガナ・・・」



「ヘイ! ヤット見付ケタゼ! オメーラ シッカリ ヤッテンノカ?」
…三体目?
「イイ加減ニシロ! テメー 遅刻シスギナンダヨ、 コノウスラボケナスガ!!」
「マア待テ、文句・苦情ハ後ニシロ。 マズハ アノ『矢』ヲ持ツオ方カラ 真ッ先ニ 始末スルヨウ 言ワレタ コノギコ屋ヲ ヌッコロス・・・ダロ?」

『矢』を持つお方…だって!?
「おいお前ら、あの男と何の関係があるんだ!」
だがオレの質問を聞いても、こいつらは何も答えようとはしない。
「死ニユク テメーニャ、 言ウ価値ナシ!」
「マサシク『逝ッテヨシ』ダナ!」
「カカカカカ!」
くそっ、やはりあいつの部下か…。

「ンジャ ソロソロ イクカヨ・・・」
「俺達ノ MAX暴走ノ 恐ロシサ・・・」
「トクト 味ワウンダナ! 冥土ノ土産ニ 喰ラットケ!!」

『Hail to SAITAMA!!』

悶絶。
苦悩。
思考停止。
無我境地突入。

野原。
河川敷。
鉄道。
彼方物体発見。
…新幹線?

…嫌予感。

加速。
加速。
加速。
音速突入。
停止兆無。

走・走・走・走・走。
線路向突進。
予感成現実。
無策。無術。無勝目。

………危険!!!!


「・・・ソロソロ 準備スンゾ!」
「『セーノ』デ 一気ニ イクカラナ!」
「イクゾ・・・・・・・・・セーノッ!!」



一気に解放される肉体。
新幹線は今まさにオレの肉体を木っ端微塵にしようとしている。
「クリアランス・セール」で攻撃を仕掛けたが、もう間に合わない。
最後に耳に入ったのは、奴らの勝ち誇ったような高笑い声であった。

727N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:45

「ヤッタッ!」
「勝ッタッ!!」
「シトメタッ!!」
三者はお互いの顔を見合わせながら勝利の余韻に浸っていた。
「遂ニ 俺達モ 人ヲ殺セタゼ、カカカカカ!!」
「『山椒ハ 小粒デモ ピリリト辛イ』ッテノハヨー 俺達ノタメニアル 言葉ジャネエカ? カカカカカ!!」
だがうかれる二者はじきにある異変に気付いた。
1人の様子がおかしい。
線路を見つめたまま、じっと固まっている。
「オイ、オメーモ ナンカ言エヨ!!」
「ソウダゼ! ・・・マサカ 人殺シノ道ヲ 歩ミ始メタコトガ ソンナニ嫌ダトカ 言イテエノカ!? ダトシタラ ブッ飛バスゾ!」
しかし、沈黙の理由はそこにはなかった。
「・・・ギコ屋ノ 死体ハ ドコダ?」
完全に自分達が勝ったものだと思っていた残りの二人も、事態の異常性に不安を抱き始めた。
「待テ、 奴ノ能力ハ 『分解』ダッタハズ! モシカシタラヨ、 ソレデ ヤリスゴシタトカ・・・」
1人の言葉に、残りの者も段々と不安を感じ始めた。
「ソウダゼ、奴ダッタラ 新幹線ガ 通ッテル間ニ 分解ヲ 解除シテ ソノママ 逃ゲルコトダッテ 出来ルハズダ!」
「・・・ドウスンダヨ、ソレジャ?」
答えは1つしかなかった。

擬古谷第一小学校、校庭。
そこには3人の少年が、何かを待つようにして木陰に腰掛けていた。
ふと、彼らの目に期待していたものがやって来る。
「ヤッテ来タミタイダ!」
上空から校庭向け降下するスタンド達。
3人はそこへと走り出す。

少年達は、嬉しそうに彼らのスタンドに質問した。
「ソレデ? チャント ギコ屋ハ シトメラレタノ?」
だが、スタンドの表情は暗い。
「・・・ソレガマスター、 作戦通リ 奴ヲ 新幹線ノ目前マデ 誘導ハシタンデスワ。
トコロガドッコイ、 ソレカラ 奴ノ姿ガ 消エチマイマシテ、 ヒョットシタラ ソノママ 新幹線ニ乗ッテ 逃ゲタンジャナイカトイウ 結論ニ至ッテ・・・
ソレデ 指示ヲ 仰ギニ来タンスワ」
報告を受け、1人の少年は激怒した。
「何ダト!? コノ、 役立タズメ! オ前達ハ 何ノタメニ ソンナ能力ヲ 持ッテルト 思ッテルンダ!」
スタンド達が一斉に下を向く。
すかさず、宙に浮く少年が右側の少年の怒りを抑えた。
「マアマア待チナヨ。 ・・・ジャアオ前達ハ 引キ続キギコ屋ヲ ソノ場所ヲ中心ニシテ 探スコト! 分カッタ?」
その言葉を聞き、スタンド達は少し元気を取り戻したようであった。

「落チ着キナヨ、ミギ。 マダ 始マッタ バカリジャナイカ。 イズレ ギコ屋モ 再ビコノ町ニ 姿ヲ見セルサ。
ソノ時ニ モウ一度 アイツヲ 殺シナオセバイイ・・・ダロ?」
宙に浮く少年は左側を向く少年を見た。
その少年も右側の少年に語り出す。
「ソウダヨ、 アンマリ 短気ナノハ スタンド使イニトッテハ 不利ダッテ、 アノオジチャンモ 言ッテタダロ?
大丈夫、 次ハ絶対ニ・・・」
だが、右側の少年の怒りは収まらない。
そして我慢ならなくなったのか、突然火山の噴火の如く怒鳴り始めた。
「・・・オ前達ハ ノー天気スギルンダ! イイカ、 僕達ハ 暗殺ニ 失敗シタンダゾ!?
下手スレバ 僕達ダッテ 始末サレルカモ 知レナインダ! ・・・ソレナノニ オ前達ハ マダアイツラヲ 擁護スルノカ!!
アソコデ 命令ヲ受ケテモ ボサット 突ッ立ッテルアイツラヲ!!」
2人が右側の少年が指差す方を見ると、なるほど3体のスタンドがまだそこにいた。
「オイ、 オ前達、 命令ヲ受ケニ 来タンダロ? 早ク行カナイト、 マタミギガ キレチャウゾ」
だがスタンド達は動かない。
…いや、むしろ反応しない。動けない。

「オイッ、 ドウシタンダ 一体・・・」
左側の少年が近寄ろうとすると、スタンド達の肉体は突然異様な変形を始めた。
そして、その変形が限界まで達した時、スタンド達は爆竹の如く炸裂し―――
消滅する幽体の中から実体の『破片』が飛び出し、集合し―――
そしてそれは、ギコ屋になった。

728N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:46

「・・・!!!!」
「オマエハッ! 逃ゲタハズノッ!」
お約束通り、オレは親指を立てた右手を振りながら「チッ♪ チッ♪」と口を鳴らす。
「ギコ屋!!」

「YES I AM!」

「全く、ホント人をなめた真似をしてくれたな、お前達はァ―――ッ!
さんざ人を挑発した挙句、オレを新幹線に衝突させようとするなんて、子供の策とは思えないぞ…。
まあ、オレが急にいなくなったことで慌てたスタンド達が本体の居場所まで帰らずあそこに居座ってたら
オレの分解も時間切れになってただろうけど、ここはオレの作戦勝ちで決まりってところか」
やはり子供、いや子供でなくてもこうなったら動揺しない訳がない。
全身は痙攣し、中には腰を抜かした奴までいる。
「・・・デ、デモ! オ前ノ能力ハ 『分解』ノハズ! ナラ ドウヤッテ・・・!!」
釈然としないのか、子供達が問う。
本当はここまで馬鹿にされたら何も答えず問答無用で分解したいところだが、
ここはオレの聖母にも匹敵する海よりも深き慈愛でその答えを教えて進ぜよう。
「今まではただ分解して元に戻る…それだけだった。
でもオレは考えたんだ、分解して原子レベルまで小さくすれば、その間は形は自由に出来るんじゃないかって…」
こいつらはまたまた分かっていないらしい。
子供だからか、これじゃあスタンドの理解力が足らなかったのも無理はない。
                  ・ ・
「つまり分解中にオレの体を紙状にして3つに分け、そのスタンドの中に潜伏した。
これでかさ張らずに楽々入っていられるって訳さ!」

「・・・ア、ソウ」
って何じゃその冷めた返事は!
…まあ、それはともかく。
「いずれにせよこの『鬼ごっこ』、オレの勝ちで決まりらしいな。さ!諦めろ」
オレが近寄ると、少年達は観念したのか立ち上がってオレに手を差し伸べた。
そしてオレが捕まえようとすると…。
「馬鹿ガ! 最後ノ最後ニ 油断シタナ、 コノオヤジ!!」
お、オヤジだって!?失礼な、オレはそんなに歳食ってないぞ!
「サッキ スタンドガ 破裂シテモ コッチガ 無事ダッタノヲ 忘レタノカ?」
あ、そう言えば。
「シカモ 僕達ノ スタンドハ 『自動操縦型』! パワーナンゾ イクラデモ 持ッテルンダ!
更ニ 僕達ノ場合ハ、 破壊サレタクライジャ 死ニハシナイノサ!!」
おいおいおい、それじゃ…。

「自分達ノ身体ヲ『暴走』サセルッ!」
「アバヨ、駄目オヤジ!!」
「次ハ 絶対ニ オ前ヲ 仕留メテヤル! 覚悟シテイロ!!」

…言ったはずだ。
オレの勝ちは決まったはずだと…。
「お前達、やっぱり予習足りないだろ?」
理由が分からず、当惑する子供達の顔。
「ナ・・・何デ!!」
別にもう慈悲も慈愛も関係ない。
最後はただ負けゆく奴らに最後の精神的追い討ちを掛けるためだけだ。
「こんな至近距離で、たとえ暴走しようが『クリアランス・セール』のスピードから逃れられるか、ってこと」

729N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:46

「ハッピー・マ『クラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラァ―――ッ!!』」
ラッシュを食らって吹っ飛んでいく子供達。
もう彼らは逃げられない。
それにも気付かず起き上がろうとする3人。
「見ロ、都合良ク 奴カラ 離レラレタゾ!」
「今ノ内ダ! 逃ゲロ!!」
…本当は完膚無きまで叩きのめしたかったんだが、やっぱり相手が子供じゃあな…。
それにあくまでこれは『鬼ごっこ』。最後はやはり捕まえて締めなくてはならない。
「だから手加減しつつ手足だけを狙って叩いたんだ…寛大な慈悲に感謝しろよ。
『Crumble(解体されてな)』」

たちまち達磨と化す少年達。
最早逃げる術は皆無。
「そして…つーかまーえたー!!
あー終わった終わった、こんなハードな鬼ごっこは生まれて初めてだぞ!!」
少年達にはオレの言葉は聞こえていなかった。
完全に負けを認めた表情。
しかも今度は諦めがついているようだ。

3人の身体から飛び出す幽霊。
…やはり、相棒同様悪霊によって操られていたのか。
道理で凶悪すぎると思った。
でも、どこかその表情が清々しいのは気のせいだろうか。

「今回ハ 完敗ダ!」
「チックショー、 勝ッタト 思ッタノニヨー・・・」
「オイ、 今度 マタ 再戦スルゾ!!」
オレには最後に彼らの声が聞こえたような気がした。
だが…誰がやるか!!



「しかし困ったな…、問題はこの子達を家まで送らなきゃいけないことだ。
『クリアランス・セール』で果たして運び切れるかどうか…。
親はどこのどいつなんだよ、全く…!

…てかそう言えば…、
ここ…どこ?」

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

730N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 14:06
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃           スタンド名:ハッピー・マンデーズ            ┃
┃               本体名:シャイタマー                 .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -E   ...┃   スピード -A   ┃  射程距離 -A   ...┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -A    .┃  精密動作性 -D  .┃   成長性 -B  ......┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃取り憑いた相手の肉体を『暴走』させる自動操縦型スタンド。      ┃
┃本体は3人のシャイタマーで、それぞれが同じ能力のスタンドを持ち  ...┃
┃(厳密に言うと、ヴィジョンについている顔はそれぞれの本体の  ....┃
┃顔であるので、全く同じスタンドではないが)、               .┃
┃取り憑いた数に比例して暴走の度合いも変化する。         ..┃
┃暴走している者は自分の運動を自分で制御出来なくなるが、    .┃
┃その間自身の体力を消耗することは一切無く、全てスタンドの     .┃
┃パワーによって運動エネルギーは賄われる。               .┃
┃ちなみに本体にも憑依可能であり、またスタンドが破壊されても   .┃
┃本体にはダメージは無く、すぐに再生可能。               ..┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

731丸耳作者:2004/01/12(月) 21:28
乙と言わせて頂こうッ。

732アヒャ作者:2004/01/12(月) 22:04
こちらからも乙!
N2さんの作品を参考に自分もがんばろう。

733302:2004/01/12(月) 22:16
N2さん乙です!

今夜辺り、やっと第2話できそうです。

734新手のスタンド使い:2004/01/12(月) 23:08
>>733
ガンガレー

735N2:2004/01/13(火) 00:24
>>733
頑張ってください。オイラも出来る限りガンガリマス。

皆様もどうもです。

736302:2004/01/13(火) 00:59
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・2


「まったく、検査入院やなんてツイとらんなぁ〜」
「悲観すなや、のーちゃん。お陰様で休みが出来たんやし」

ここは、某大学病院の病室。ウチとニダやんが高熱で運び込まれて1日過ぎましてん。
不思議な事に検査した結果…「高熱」はあっても「怪我」は無い…っちゅう事ですねん。

…おかしな話やで。ウチらは確かに、あの黒マントの八頭身に「矢」で刺されたはずや…
それなのに、怪我は全く無い…でも、高熱はある…それに、何や…誰かに見られてる気がするんやわ。

「のーちゃーん。」
「ん?」
「そっちに新聞あるやん?ちょっと、取ったって?」

さっきまで読んでた新聞を持って、ウチはニダやんに渡す為にカーテンを

「これで…ええ……よ、な?」

「ああ…あり……がと…さん…」

開けた瞬間……ウチらは絶句しましてん……

737302:2004/01/13(火) 00:59
『………』

(ゴゴゴゴゴゴゴ……)

ニダやんの後ろに…何や、変な男がおったんです。
両腕が、ツタのようなのが何十本もある…変な香具師が……
ニダやんも、ウチも…鳩が豆鉄砲を食らった顔してましたわ……

そんで

「「何やそれぇぇぇ!!!」」

お互い指差しあって絶叫して

「「はぁ!?何をゆーてん…」」

お互い振り返って

「「何やこれぇぇぇぇ!!!」」

お互い、後ろを見てまた絶叫しましてん…

『………』

ニダやんだけやない、ウチにもその「変なの」がおったんですわ…
ウチのは、妙にメカニカルで…額に「10」とデジタル数字があったのを、覚えてますわ。


「……病室で騒ぐのは、感心しないな」

低い声がしましたわ。ごく、最近聞いた声ですわ……

「あ、エライスイマセンなぁ、ホンマ!いやいや、ついビックリってコラァ!!」

点滴を引き千切り黒マントの男に近寄っていきましてん。

「おうおうおう!!あんさん、よーこんなとこに顔を出せたもんやな!!」
「うるさいと言っている。…やはり、お前達は“素質”があったか」
「ここで会ったが100年目やでぇぇ―――!!謝罪とぉ!!賠償をぉ!!要k(ry」

ニダやんが五月蝿いので、スリーパーをキュッとキメて…ウチは黒マントの男…
いや、「八頭身フーン」に尋ねましてん。

「…素質?この……後ろの人の事か?」
「ああ、それはスタンド能力。…矢で射抜かれた者に、発現する具現化された精神の像だ。」
「……精神の…像?」
「俺では説明が下手でな…まぁ、座れ。それと、そこのエラ張った香具師を起せ。」

738302:2004/01/13(火) 01:00
言われるがままに、ウチは八頭身フーンのスタンドや色んな事を説明してもらいましてん…

今、矢は二本ある事……スタンドを悪用させ、日本を混沌に落とそうとしている組織「ZERO」が居る事…
そして、ウチらを対「ZERO」組織にスカウトに来た事…

「……正直、ウチらがアンタらを信用するだけの“証拠”があれへん」
「…ワイもや。確かに!ワイらにそのスタンドっちゅーのが発現したのは認めるわ。」

いきなりの事でパニックになりそうやった頭を、無理矢理働かせて出た答えを告げましたわ。
八頭身フーンは…微動だに、せーへんかったんです。

「……マズイな。屋上に移動するぞ。」
「「ハァ?」」
「…俺のスタンドが鳴いている…“ZERO”だ!ZEROのスタンド使いが、お前達を狙っているっ!!」


……。


「「何でやねーんっ!!」」

二人でツッコんでもフーンは意に介さず…
そのまま、抱き上げられてウチらは屋上へと逃げ込んだんですわ……

739302:2004/01/13(火) 01:01
「……な、何でウチらがいきなり襲われなあかんねん!」
「ZEROの目的は“スタンド悪用での秩序破壊”だ。お前らを強制的にスカウトに来た…と言った所か。」
「だ、だ、だったらぁ!!こんな狭いとこに逃げんでもええやんかぁ!!」
「…お前達に、スタンドの使い方を教えるためだ。もし、我々の組織に入らずとも…いつかは襲われる。
ならば、早い内にスタンドを使いこなせるようにならなければ…待っているのは死だ。」

屋上の扉が、砕ける音が会話を遮りましてん。
其処には、確実に…フーンが言う所の「スタンド使い」がおったんですわ……

「…フーンよぉ…ゲヒュ…舐めた真似してくれんじゃんよぉ…ゲヒュヒュ…俺らの新人掻っ攫う気かぁ?」

気色悪い笑いを浮かべた男が…一歩ずつ、近寄って来たんですわ…。
ウチは、ただの漫才師見習いやけど…わかりましてん。…こいつは、最っ低最悪のクズいうんが…。

「……丸モラか。末端とは言えスタンド使いがわざわざ……必死だなw」
「な、何を挑発してんねん!!うわっ!来るぅ!!あんさんのスタンドで何とかしてーや!!」
「 断 る 」
「はぁ!?」
「お前達だけでやってみろ。集中し、怖れず…スタンドと心を通わせれば、出来るっ!!」
「何じゃそりゃあ!!」

ニダやんの抗議にも、判定は覆らず…ウチは、ニダやんの肩に手を置いて

「……やるで、ニダやん。ここで殺されたら、M1に出る夢も断たれてまうわ。…集中するんや…」
「……あーもう!!わーったわ!!浪花のど根性、見せたるわぁぁ!!」

「…ゲーヒュッヒュ…!!なりたてのスタンド使い二人ぃ?俺様の“狂気”に勝てるかぁ?!」

「………(そうか……お前の名前はそういうんか……)………」
「………(頼むで…ワイはのーちゃんと、未来を生きたいんや…!!)………」

「……!…出るかっ!」


「うおおお!!いくでぇ!!シー・アネモネぇ!!」
「…ファイナル・カウント・ダウンッ!!……さぁ、ウチらが相手やぁ!!」

<To Be Continued>

740N2:2004/01/13(火) 18:05
乙ですわ。関西弁 (・∀・)イイ!!

741新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:40

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その3」



          @          @          @



 フサギコは、机の上に広げた世界地図を眺めていた。
 雨が窓を叩いて、煩雑な音を立てる。
「国防の基本方針…」
 フサギコは呟いた。
 ここは、彼の自宅である。
 今日は、一歩も家を出ていない。
 ASA… あの恥知らずなスタンド使いの集団が、洋上に艦隊を展開したという。
「直接及び間接の侵略を未然に防止…」
 太平洋の真ん中にチェックを入れる。
 雨の勢いは増す一方だ。

 先日、防衛庁長官からの電話があった。
 ASAとは既に密約済みだという。
「ちゃんと、話はついている」
 長官はそう言っていた。
 …何が、話はついているだ。
 政治家ごときがしゃしゃり出てくるな…!

「防衛戦争の定義は…?」
 フサギコは、東京の位置にバツ印を付ける。
「専守防衛…!」
 ペンを床に投げ捨てるフサギコ。

「この国に武器を持って踏み込むという事が… どういう事が分かっているな、ASA!」
 フサギコは叫ぶと、電話の受話器を持ち上げた。
 そして、素早くボタンを押す。
「もしもし、フサギコだ。極秘裏に、陸上幕僚長・海上幕僚長・航空幕僚長の3人を私の家に呼んでくれ。
 内局には勘付かれるな…」



          @          @          @


 
「おはようなのです!」
「おはよう、簞ちゃん」

 うん、快適な目覚め。
 やっぱり、女の子に起こしてもらうというのは新鮮だ。
 僕は、布団から体を起こした。
 美味そうな朝食の匂いがする。
 まるで、新婚みたいだな…

 流石にいつまでも畳には寝てられないので、昨日新しい布団を買った。
 簞ちゃん用の布団である。
 つまり、簞ちゃんはしばらく僕の家で暮らすという事だ。
 乗りかかった船というか、何とやらだ。

742新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:40

 簞ちゃんは、もうすでに制服に着替えている。
 今日から、一緒に学校に通うのだ。
 …って、何の為?
 この町には人を探しに来たんだよな。
 もしかして、僕と一緒に学校に行きたいとか?

「簞ちゃん、何しに学校に通うの?」
 僕は、テーブルの向かいに座って朝食を食べている簞ちゃんに話しかけた。
「聞いた話なのですが… 私が探している人と関係の深い人が、おにーさんの学校に通っているらしいのです。
 だから、その人に会って話を聞くのです」
「ホントにそれだけ…?」
 僕は、簞ちゃんの顔をじっと見た。
「おにーさんに隠し事はできないのです…
 私が探している『異端者』のターゲットが、学校に潜んでいるという話なのです。
 だから、学校を重点的に調べてみたいのです」
「その為に、わざわざ転校か…」
 代行者って大変な職業なんだな。
 簞ちゃんは笑った。
「催眠をちゃんと習っておけば、転校の手続きとかをしなくてもよかったのです…」
「催眠って、あなたはだんだん眠くなる…ってやつ?」
「眠らせちゃ駄目なのです。暗示を与えて、記憶をなくしたりすり替えたりするのです。
 代行者になる人は、みんなやり方を習っているのですが、私は苦手なのです。
 …と言うか、実際に催眠が使える人は代行者の中にもほとんどいないのです」
「みんな習ってるって…学校みたいに?」
 僕は訊ねた。
「代行者になるための厳しいカリキュラムがあって、任務を遂行する上で必要となる技術を叩き込まれるのです。
 催眠もその一つで、どこかに潜入する時などに、覚えておくと便利なのです。
 代行者の中には、この催眠技術をスタンド能力にまで昇華させた人もいるのです」
「スタンドに昇華って?」
 簞ちゃんは言った。
「スタンド能力は、その人の嗜好や性格が反映される事が多いのです。
 …おにーさんのスタンドの能力が気になるのです」

 …そう。僕には、簞ちゃんのスタンドが見えてしまった。
 実は、スタンドはスタンド使いにしか見えないのだという。
 だから、簞ちゃんのスタンドが見えた以上、僕もスタンド使いだったという事になる。
 しかし、僕はそんなもの出せない。
 どうやら簞ちゃんの話では、僕は潜在的なスタンド使いというやつで、まだヴィジョンは形成できないらしい。
 『自分の身を守ろうとする』とか『怒りをぶつける』という気持ちになればいいらしいが…

「スタンド…ねぇ。便利な能力だったらいいな…」
 僕は呟いた。
 あの8頭身を何とかできる能力だったらいいんだけどなぁ。

 そうだ、一つ注意しておかないと…
「簞ちゃん、もしかして、学校に武器を持っていくの?」
 簞ちゃんは答えた。
「持っていくのです。でも、武器には見えないので大丈夫なのです」
 そりゃよかった。
 銃とか剣とかを学校に持ち込まれたら、エラい騒ぎになるだろう。
 でも、少し興味が湧いた。
 武器には見えない武器ってどんなんだ?
「簞ちゃん、その武器っての見せてほしいな…」
「どうぞなのです」
 簞ちゃんは、メジャーのような物を僕に手渡した。
「わっ、触って危なくない?」
「波紋を流していないから、大丈夫なのです」
「メジャーみたいだね…」
 僕は呟いた。
 掌に収まるくらいの四角いケースに、引っ張れば伸びるワイヤーが収納されている。
 真ん中の突起を押すと、たちまちワイヤーはケースの中に戻っていった。
「構造は、ほとんどメジャーと同じなのです」
 簞ちゃんは言った。
 メジャーと違う点は、そのワイヤーが5本もついているという事である。
「私は非力だから、剣は重くて持てないのです」
 簞ちゃんは恥ずかしそうに言った。
 なるほど、これなら軽そうだ。
 もう一つ、同じ物を取り出す簞ちゃん。
「これを両手に持って、ワイヤーの部分に波紋を流すのです。波紋の収束作用を利用しますので、スパスパ切れるのです。
 でも、あまり使いたくはないのです…」
 そうだろうなぁ。
 簞ちゃんは、他者を傷付けるのがよほど嫌らしい。

 僕は朝食を食べ終えた。
 そろそろ登校の時間だな。
「私は、最初に職員室に行かないといけないので、少し遅めに出るのです」
 簞ちゃんは洗い物を片付けながら言った。
 なんだ、今日は一緒に登校できないのか…
「じゃあ、先に行ってるよ」
 僕は家を出た。

743新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:41

 教室に入って、いつものように席に座る。
 …変だ。
 絶対変だ。
 一昨日から、8頭身どもの姿をさっぱり見ない。
 そう、簞ちゃんが家に来てからだ。
 何か企んでいるのだろうか…
 いたらいたでキモイけど、いなかったらいなかったでキモイ。
 ほんと、キモイ奴等だ…

 ガラガラと戸を開けて、先生が入ってきた。
「急ですが、このクラスに転校生が編入します…」
 おっ、来た来た。
「イギリスからの帰国子女です。じゃ、入って」
 先生の言葉と共に、扉が開いた。
 てくてくと入ってくる簞ちゃん。
 それにしても、イギリス? またでっちあげたもんだなぁ。 
「簞なのです。よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げる簞ちゃん。

「可愛い…」
「帰国子女!?」
 ヒソヒソと囁き声が教室中で巻き起こる。
「じゃあ、そこの空いている席に座ってもらえるかな…」
 先生が指差した先には、当たり前のように空席があった。
 これも学校の七不思議。
 簞ちゃんはその席に腰を下ろした。
 座る時に、僕にふと視線を合わせて微笑んだ。
「えー、では出席を取ります…」
 HRはそのまま進行していった。
 すぐに1時間目が始まる。


 はやる心に流されるように、1限の授業は終わりを告げた。
 簞ちゃんが、僕の机の横に立つ。
「それにしても… クラスまで一緒なんだね。年は違うのに、変な感じだなぁ…」
 僕は頭を掻いた。
「『異端者』について知っている人と同学年の方がいいと思ったのです」
 でも、考えてみれば妙な話だ。
 『異端者』という名前からして、簞ちゃんと同じ代行者だろう。
 そうすると、『教会』の同僚にあたるはずである。
 『教会』は『異端者』の居場所を知らないのか?
 まあ、『異端者』なんて名前をつけられるくらいだから、『教会』を裏切ったのかもしれないな。
 僕は、それらの疑問を簞ちゃんに訊ねた。
「分からないのです… まあ、『教会』の秘密主義は今に始まった訳ではないのです。
 現に代行者同士でも、誰がどの任務を扱っているのかは分からないのです。
 それに、この任務に与えられた期間は半年と長過ぎるのです。多分、いろいろ込み入った事情があるのです」
「ふーん。で、その『異端者』ってどんな人なの?」
「ものすごく強い人なのです。直接戦闘のエキスパートで、全身に武器を隠し持っているのです。
 吸血鬼を物凄く嫌悪している人で、吸血鬼の殲滅数も、代行者の中で2番目なのです。
 1番の人はちょっとズルをしてますので、実質最も吸血鬼をやっつけている人と言っても差し支えないのです」
 僕は、ゴリラのようなムキムキのオッサンを想像した。
「重火器や兵器にも通じていて、現行兵器のほとんどのマニュアルが頭に入っているとも言われているのです。
 吸血鬼の間でも恐れられていて、『十字の死神』や『塵の鬼神』などと呼ばれているのです」
 顔面に十字の刺青を入れて、「HAHAHAHAHA!!」と笑いながらマシンガンを連射するオッサンが僕の脳内で暴れている。
 まあ、それくらいでないと吸血鬼とは戦えないのかもしれないな…
「とんでもない人を探してるんだね… で、その『異端者』について知っている人は、何て名前だい?」
 簞ちゃんは口を開いた。
「モナーさんと言うのです」

 …モナー?
 それって、B組の有名な女たらしじゃないか?
「次の休み時間、その人と会ってみるつもりなのです」
 僕の脳裏に、爽やかハンサムボーイ(モナー想像図)が簞ちゃんの肩に腕を回す情景が浮かんだ。
「ダ、ダメだ! そんな奴と一人で会ったら、簞ちゃんが食べられちゃうよ!!」
「…私、食べられてしまうのですか?」
 少し怯えた表情を見せる簞ちゃん。
「いや、詩的表現なんだけど… とにかく、簞ちゃんが一人でそいつと会うのは危険だよ」
 僕は少し考えた。
 そんな野獣の前に、簞ちゃんの清らかな身を晒す訳にはいかない。
「…だから、僕が一人で会ってみる」

 簞ちゃんはうなづいた。
「…じゃあ、そうしてもらうのです」
 自分で提案したものの、少し不安になってくる。
「まあ、簞ちゃんが一人で会った方が情報は引き出せるんだろうけど…」
「任務には半年も期間があるのです。多少マターリしても大丈夫なのです」
 そう言われればそうだな。
 今回失敗しても、あと半年あればいくらでもチャンスはある。
 2限開始のチャイムが鳴った。続きは2限後だ。

744新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:42

 2限終了。
 簞ちゃんは、授業が終わるとすぐに僕の所まで来た。
 こんな事ばかりしていて、簞ちゃんはクラスに馴染めるのだろうか。
 僕がいるから、クラスのみんなが近付いて来ないも同然である。
 まあ、簞ちゃんは学校生活を楽しむのが目的ではないだろうが、せっかくだしね。
「じゃあ、モナーさんに話を聞くのは、おにーさんにお任せするのです」
 僕の心を知ってか知らずか、簞ちゃんは言った。
 僕は席から立ち上がる。
「…おっと、話を聞くとき、簞ちゃんの事はどこまで話してもいいの?」
「別に、全部しゃべっても構わないのです」
「えっ! そうなの?」
 本当にいいのか?
 いろいろ、マズイと思うんだけど…
「関係ない人なら、どうせ信じないのです」
 確かにそうだな。
 僕自身、実際に吸血鬼やスタンドを目撃していなければ、とても信じられないだろう。
 でも、モナーが何も知らなかった場合、アレな人扱いされるのはイヤだなぁ…
「じゃ、行ってくるよ…」
 簞ちゃんに手を振ると、僕は教室を出た。

 B組の教室に入る。当然だが、教室内にはたくさんの生徒がいた。
 さて、誰がモナーだろう…?
 僕は教室中を見回した。
 …あれか?
 見るからにモテオーラを放っている男子生徒が目についた。
 机の上に座って、女の子と何やら会話を交わしている。
 多分、彼がモナーだな。
 ちょっと怖そうな人なので、話しかけるのは気が引ける。
 だが、このまま逃げ帰るわけにはいかない。
 僕は、彼の肩をつついた。
「あの…すみません…」
「何だゴルァ!」
 彼は、こっちに振り返った。
「えーと、君がモナー君?」
 僕はおずおずと訊ねる。
 彼は、ハァ? と言いたげな表情を浮かべた。
「いや、俺はギコだ。モナーなら… ほら、あそこだ」
 ギコと名乗った生徒が指差した先には、机に突っ伏して眠るタヌキの姿があった。
「えっ…あれが?」
 さすがに当惑した。
 伝説の女ったらしじゃなかったのか?
「あれが? って言われてもなぁ、しぃ…」
「うん。あれがモナー君だよ」
 ギコと話していた女子生徒が言った。
 どうやら、間違いないらしい。

 僕は2人に例を言うと、モナーの机に近付いた。
「あの…モナー君?」
 僕は呼びかけた。
 しかし、彼は机に突っ伏したままで反応はない。
「ちょっと、聞きたい事があるんだけど…!」
 僕は彼の体を揺すった。
「ウフフ…リナー…ウフフフ…」
 駄目だ。寝言を言ってるよ。
「起きてー! おーい!」
 ゆさゆさと彼の体を揺さぶる。
「おい、そんなんじゃコイツは起きやしねぇぞ!」
 さっきのギコが横から入ってきた。
「コイツを起こすには…こうやるんだよ!!」
 ギコは、モナーの頭にかかと落しを叩き込んだ。
「ギャー!」
 飛び起きるモナー。
 ギコは無言で去って行った。意外と、いい人なのかもしれない。

「い、痛いモナ…」
 頭をさすりながら呟くモナー。
 やはり、伝説の女ったらしには見えない。
 やっぱり、ものすごいテクを持ってるんだろうか。いろいろな…
「ん? 君は誰モナ?」
 モナーはようやく僕に気付いた。
「僕は、A組の1さんって言うんだけど…」
 とりあえず自己紹介からだ。
「は、はぁ…」
 戸惑うモナー。
 どうしよう。何て聞こう。
 単刀直入にいってみるか。
「…『異端者』って知ってるかい?」
 モナーは細い目をカッと見開いた。
「…知らないモナ」
 今の反応はただごとじゃない。
 やっぱり、彼は何か知っている。

745新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:43

「…で、『異端者』って何モナ? なんでモナに聞いてくるモナ?」
 モナーは逆に質問を投げかけてきた。
 一応、許可はもらっている。
 僕は、簞ちゃんが家に来た事、吸血鬼の事、スタンドの事を全て話した。
 もちろん、考えなしの行為ではない。
 ちゃんと反応を観察する事は忘れない。
 吸血鬼の話でもスタンドの話でも、彼は特に驚いた素振りを見せなかった。
 こんな話、普通の人が聞いたら一笑に付すだけだというのに。
 やはり、彼は何かを知っている。

 話が一通り終わると、モナーは口を開いた。
「その簞ちゃんが探している『異端者』に心当たりはないモナ。でも、簞ちゃんに会ってみたいモナ」
 モナーは困った事を言い出した。
 女ったらしの血がうずいたのか、それとも何か企んでいるのか…?
 もっとも、簞ちゃんは吸血鬼を一瞬で灰にしたのだ。
 このタヌキに大した事ができるとは思えない。
「分かった。すぐ連れてくるよ」
 僕はそう言ってB組の教室を出た。


 簞ちゃんを連れて、B組の教室に戻ってくる。
「簞なのです…」
 モナーに頭を下げる簞ちゃん。
「モナはモナーモナ」
 そう言いながら、モナーはじっと簞ちゃんを見つめている。
 何か、妙な感じだ。
 鋭い視線。
 先程までのマヌケなしゃべり方が嘘のようである。
 まるで、全てを見通すような眼…
「『脳内ウホッ! いい女ランキング』に追加モナね…」
 何を言っとるんだこのタヌキは…

「本当に、『異端者』を知らないのですか…?」
 簞ちゃんは訊ねる。
「知らないモナよ。それより、よく吸血鬼なんかと戦えるモナね…」
 モナーは言った。
「色々訓練したのです」
 それに答える簞ちゃん。
 何か、僕はどうでもいい人みたいだ。
「…この町はどうモナか?」
「かなりの数の吸血鬼が潜んでいるようなのです。でも、なぜか大人しいのです」
 簞ちゃんはモナーの瞳を見据えて言った。
「まあ、代行者がこれだけ町に集まれば、大人しくなるモナね…」
 そう言って、モナーは慌てて口を押さえた。
 今、確かに代行者が町に集まっていると言った。
「…とにかく、モナは何も知らないモナ。さてと、もう一眠りするモナ」
 モナーはいきなり机に突っ伏した。
 明らかに、拒絶の態度だ。
 これ以上話しかけても、無視されるだけだろう。
 仕方ない、今日は諦めるか…
 僕は簞ちゃんと目を合わせてうなづいた。
 簞ちゃんを先頭に、教室を出ようとする僕達。
 しかしモナーは、突っ伏した姿勢のままで、僕の制服の裾を掴んだ。
 それに気付かず、簞ちゃんは教室から出て行ってしまう。

「な…何…?」
 僕はモナーに言った。
 モナーは手を離すと、机から頭を起こした。
「さっきの話だけど… 簞ちゃんと会った日、1さんは簞ちゃんに自分の年齢を教えたモナ?」
 いきなり何を言い出すんだ?
「教えてないけど。名前を名乗るのも遅れたからね」
「でも、『私は、おにーさんよりも1つ年下なのです』って言ったモナね…」
 …!!
 そうだ。確かにそう言った。
 簞ちゃんは、偶然僕の家に着いたはず。
 それなのに、僕の年齢を知っていた…!

746新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:43

 呆然とする僕を見ていたモナーが口を開いた。
「偶然は信用しない方がいいモナ。その偶然も、たぶん仕組まれたものモナ」
 仕組まれただって…? 一体、誰に…?
 その時、僕は気付いた。
 さっきモナーが、代行者が町に集まっていると言った。
 あれは、口を滑らせたんじゃない。
 僕達の… いや、簞ちゃんの反応を見るためにわざと言ったんだ。
 そして、簞ちゃんは特に反応しなかった。その事を知っていたのだろう。
 だとしたら、妙な話だ。
 今日の朝、簞ちゃんは、代行者は誰がどの任務を扱っているのか分からないと言っていた。
 決定的な矛盾とまではいかないが、どこか収まりの悪い話だ。

「…でも、僕は簞ちゃんを信じたいんだ」
 僕は、自分に言い聞かせるように呟く。
「その気持ちはよく分かるモナ」
 モナーは意外にも同意してくれた。
「簞ちゃん自身、『教会』に騙されている可能性も高いと思うモナ」
 …なるほど。
 僕もそんな気がするな。
「そういう事モナ。今度こそ本当に寝るモナ…」
 そう言って、モナーは机に突っ伏してしまう。
 僕は、自分の教室に戻った。

 自分の席につくと、簞ちゃんが話しかけてきた。
「…何かあったのですか?」
「いや、別に…」
 僕は答えた。
「で、簞ちゃん的には、モナーはどうだった?」
 とりあえず話を変えた。
 視線を落とす簞ちゃん。
「あの人は、とても怖い人なのです…」
 そうかなぁ。
 簞ちゃんは怖がりだな。
「あの人の言動は、鈍さと鋭さが表裏一体なのです。それと、あの眼。何人もの人間の死を見てきた眼なのです。
 あんな目をした人間が、あんなに普通に振る舞えるはずがないのです。
 多分モナーさんは、人を殺した事があると思うのです…」
 ええっ!?
 いくらなんでもそれは…
「彼は、相反するものをたくさん抱えているのです。生と死。罪と赦。善と悪。
 あの少し呑気すぎる振る舞いも、彼自身の防御機構に過ぎないと思うのです。
 あんな状態になっても、通常の精神を保っているのが、私は怖くて仕方がないのです」
 簞ちゃんはそう言って黙ってしまった。
 ただのタヌキでない事は分かったが、そこまでのヤツなのか…?

 3時間目が始まった。
 授業中も、僕はずっとモナーの事を考えていた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

747302:2004/01/14(水) 02:01
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・3


「ゲヒュ…♪なーかなか、いいスタンド持ってるじゃんよゥ…!」

ウチらの敵…丸耳モララーは、“素手のまま”こっちへと近寄ってきましてん。
こいつらが…日本の秩序を壊そうとしてる……!!

「……ああ、言いそびれてたんだがな。そいつは、日本町(ひのもとちょう)を本拠地にしたストリートギャングだ。」
「え?…日本町って、茂名王町から一駅隣りの?」
「ああ。」
「………」

……なんか、急に体の力抜けましたわ……要するにDQN同士の縄張り争いやないかい!!

「だが、スタンドなんか使われたら一般人に迷惑だ。だから、我々はこいつらを取り締まる自警団ってわけだ。」
「……なんか、微妙にモチベーション下がるわあ……」
「…そう言うなや、ニダやん…なんとなくやけど、コイツ間違いなく人殺しとる…!」

…そう、ウチが感じた悪寒…それは。

「ヒトコロシにしか、出せないオーラって…あってよぉ〜…ゲヒュ…♪」

「…やっぱ、殺すにはよぉ〜、ちょーっとだけ狂気が必要なんでよぉ〜♪」

「……“マッド・ブラスト”…つまり、俺のスタンドでよぉ〜…殺しちゃってるわけよぉ。」

いつの間にか、丸モラの背後に「イカレた男の像」が浮かんどったんです。
右腕がバズーカ砲みたくなっとって、左腕は注射器状でしてん。

748302:2004/01/14(水) 02:02
「…ヤバイっ!!あっちもスタンド出してきおった!!…いくでぇ、F・C・Dぃ!!!」
「シー・アネモネぇ!!あのスタンドの腕を絡め取るんやぁ!!」

ウチがスタンドとダッシュで突っ込む両横を、ニダやんのスタンドの“無数の触手”がうねりながら突っ込んでいったんや。
ファイナル・カウント・ダウンは遠距離攻撃には向かない…逆にニダやんはある程度射程が長い…
なんていうんか、長年相方やってるとわかるもんですわ。

「せいやぁっ!!!」
(ブオン!!)
あかんっ!!慣れてないせいか知らんけど、遅いし非力ぃ!!

「ゲヒュヒュ…♪パワーもスピードもイマイチ…いや、イマサンかぁ?てめぇのスタンドはよぉっ!!」
(バキャッ!!)
バズーカ砲を振り回してきおった!!何とかガードは出来た…それに…!!
「くぅっ!!…今や、ニダやん!!!」
「はいなぁ!!シー・アネモネっ!!薙ぎ払うんやぁ!!」
ウチの背を踏み台に、ニダやんのスタンドの触手が丸モラの背を薙ぎ払った!!ナイスや、ニダやん!!

(ベシイッ!!)

「チィ…喰らっちまったかぁ…!」

ジリ…ジリと後退りする丸モラの表情が、なんとなくやけど笑っとったんです…
言いようのない、悪寒…それと、予感が…ウチの背筋を走り抜ける…!!

「ゲヒュ…♪ゲヒュヒュヒュヒュ!!!ゲヒュアアアアア――――――!!!!!」

「ニダやん!!深追いすなっ!!何か来るでぇ――!!」
「のーちゃん、心配すなぁ!!ワイのシー・アネモネは遠くからでも攻撃出来るっ!!
奴は、このまま近寄る事すら出来ずっ!!ザ・エンドやぁ!!シバキあげたらああああぁぁぁっ!!!」

それを言うなら「ジ・エンド」やろがぁっ!!とツッコむ暇もなく……


( D O O O N N ! ! ! )

749302:2004/01/14(水) 02:02
「カハッ……な、何や……っ…!?」

異常な爆発音と、炸裂音…ニダやんのスタンドの肩が抉れ、フィードバック現象でニダやん自身の肩も抉れてましてん…!!
何や、これはっ!?まさか……まさかっ!?

「そう…察しがいいね、ツー族のお兄さん…いや、お姉さんかな?」

(ゴゴゴゴゴゴ……)

「狂気って言うのは、エネルギー……抑えきれぬ、精神エネルギーの暴走だと僕は考える……」

(ゴゴゴゴゴゴ……)

白煙の向こうに、今までとは別人のような丸モラが居ましてん……しかも…。
スタンドの“右腕のバズーカをこちらに構えて”…そして、“左手の注射針を丸モラ自身の頭に突き刺した”姿で……!!

「僕の“マッド・ブラスト”は……“狂気を吸い上げて”…それを“弾丸にして打ち出す”……つまり」

( ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ … … ! ! ! )

「僕の方が……ゲヒュ♪……より、遠くから攻撃出来るんだよ、このヘボどもがぁぁぁ!!ゲヒュヒャハアッ…!!」

再び、奴の顔が狂気に歪んでいくのが見えましてん。それも、さっきよりも更にイカレた顔に……!

「…キチガイに刃物(スタンド)やな。お前、本気で腐っとる。……ウチの癪に障るわ、ホンマ……っ!!」

今、決めた。ZEROがこんなんしかおれへんなら、ウチがぶっ潰す。ヘタすりゃ、ウチらのファンまで怪我してまう…!!
ウチの中の“正義感”が!!“倫理観”がっ!!「コイツを許すな」って、叫んどるんやぁ!!!

『……認証ヲ。カウントダウン認証ヲ、マスター。マスター。MASTER……!』
「っ!!?」
(ゴゴゴゴゴ……)

聞こえた。スタンドの声、F・C・Dがウチに何かを伝えようとしとる……!!

<To Be Continued>

750302:2004/01/14(水) 02:02
人物&スタンド紹介(スタンドの詳細はこの話が終わってから…)

本体名:のーちゃん
スタンド名:ファイナル・カウント・ダウン(F・C・D)
詳細
茂名王町の隣町、日本町(ひのもとちょう)に住む18歳の専門学生。
“ニダやん”と漫才コンビを組む大のお笑い好き。
正義感が強く妥協を好まない性格で、モットーは「人に優しく、自分に厳しく」
ひょんな事からストリートギャング集団「ZERO」と「自警団」のスタンドを使った抗争に巻き込まれてしまう。

本体名:ニダやん
スタンド名:シー・アネモネ
詳細
日本町に住む20歳の大学生。韓国人っぽい顔だが、関西人である。
“のーちゃん”と漫才コンビを組み、お笑い界を覇権する夢を持っている。
どちらかといえば、「面倒はキライ」だが、親友“のーちゃん”を守る事には苦労を厭わない。
“ZERO・自警団抗争”も、のーちゃんに付いていくように足を踏み入れていく。

本体名:八頭身フーン
スタンド名:(不明)
詳細
“日本町特別自警団”の幹部連の一人。実際は元DQNの23歳。
自分達がDQNから足を洗った後、表裏問わず秩序を乱しまくる“ZERO”を潰すと決意。
警察へと“ZERO”メンバーを引き渡す事を条件に、多少の不法行為を不問にしてもらっている。
その為か、割と無茶をする。

本体名:丸耳モララー(丸モラ)
スタンド名:マッド・ブラスト
詳細
“ZERO”の末端メンバー。ただし、スタンド使いなので下っ端の中では割とエライ。
普段は何処にでもいる若者だが、破壊行為・犯罪行為を行う姿はまさに「狂人」。
矢を持ってうろつくフーンの始末&自警団側スタンド使いの引き抜きを行っていた。

751新手のスタンド使い:2004/01/14(水) 18:44
乙です


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