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長編、長文支援スレ

110瞳を開けて:2003/08/30(土) 22:19
 そんなわたしの気持ちを見透かすように、魔物はニヤリと笑った。
「いいことを思いつきました。あなたに一生消えない呪いをかけて差し上げましょう。自
分の無力を嘆きながら、永遠にさまようがいい!」
 魔物の指先から魔法が放たれる。呪いの波動がわたしの全身を包む。全身を襲う激痛。
自分の体が変貌していくのがわかる。絶望と恐怖と憎しみと。それでも悲鳴を上げなかっ
たのは、王女としてのわたしの最後の矜持だった。
 ……後に残ったのは小さな小さな茶色の子犬。
 思い出した。思い出したわ、全部。
 魔物はわたしに哄笑を浴びせかけると、転移の魔法で姿を消した。
 隠れていた小部屋からヨロヨロと外に出たわたしが見たものは、無惨に破壊されつくし
たムーンブルク城の姿だった。
 生き残った人を求めて、城の中を駆け回る。
 焼けただれたタペストリー。砕かれた石像。お母様が慈しんだ中庭の花壇も、魔物に踏
み荒らされて見る影もなくなっていた。
 信じられなかった。あの美しかった城が、優しかった人々が、強かったお父様が、いな
くなってしまったなんて。
 廃墟の中で、わたしは泣いた。お父様の名を、城のみんなの名前を呼んだ……つもりだ
った。
 だけど、わたしの口から出たのは、ワンという犬の声で。
 まるで喜劇。笑ってしまうわね。
 いっそ死んでしまいたいと、あの時は思ったけれど。


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