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おぷ様頑張れ
:2021/02/01(月) 20:47:49
西條八十(さいじょう・やそ)
ぼくの帽子
母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?
ええ、夏、碓氷うすひから霧積きりづみへ行くみちで、
谿底たにぞこへ落としたあの麦稈むぎわら帽子ですよ。
母さん、あれは好きな帽子でしたよ。
僕はあの時、ずいぶんくやしかつた、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。
母さん、あのとき、向むかふから若い薬売くすりうりが来ましたつけね。
紺の脚絆きやはんに手甲てつかふをした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折つてくれましたつけね。
だけど、たうたう駄目だつた。
何しろ深い谷で、それに草が背丈ぐらゐのびていたんですもの。
母さん、ほんとにあの帽子どうなつたでせう?
そのとき傍で咲いてゐた車百合の花は、
もうとうに枯れちやつたでせうね、
そして、秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。
母さん、そしてきつと今頃は、今夜あたりは、
あの谷間に、静かに雪が降りつもつてゐるのでせう。
昔、つやつや光つた、あの伊太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いたY.Sといふ頭文字を埋めるやうに、
静かに、寂しく。
「コドモノクニ」大正11年(1922)2月号
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