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翻訳者
:2017/02/10(金) 23:20:55
“彼女”はそのどちらも知らなかったのだけど。
足下だけは明るく輝いていた。だから進める。歩き方は母親の後を追って知ったから。
(ここはどこ?)
夢の中、言葉があったらそう言っただろう。
夢だったら幾らでも見ている。答えてくれる人はいなかったけれど、明るい方へ明るい方へ進んでいけた。光る方に進むのは生物にとって最も原始的な習性であることときっと関わりはあるはずだ。
這うように歩く。進む。生きる。
やがて、光は足元から広がって、壁を、天井を、輪郭を作る。
光り輝くトンネルを潜り抜けて、辿り着いたのは上下左右が無辺と言えるほどの広大な空間だった。降り注ぐ光の量は太陽があったら目を焼き潰していただろう。
けれど、あたたかな光のみが降り注ぐ。いのちの光を受け止める空間は、一個の巨大な生命体で八割を満たしていた。
(おっきい)
誰もが言葉を失うだろう。地球上最大の生命、それはある種の菌糸類、もしくは一本の大樹である。
生命のみどり、木陰がなす黒に抱かれて、いつしか彼女はあたたかさに包まれていた。
「ここまでお客様とは珍しいわ。未だ名もない人よ、扶桑樹へようこそ」
優しい声を覚えているだろうか。両腕を広げて、歓迎するかのように、今にも抱こうとしているかのような姿勢を取ったその人は、夢の中の大樹に印象を似つかわせていた。
「桜火、その子はだあれ?」
しなやかな肢体、対になった猫の耳がぴょこりと頭の上の茂みから覗く。転校生「二子石希望」は自分自身が何の不思議でもないような当然の顔をしてそこに立っていた。
このふたりに出会ったのが普通の人であったとしても、夢の中の住人ならそういうこともあるだろうと思って納得するだろう。
当然、彼女は夢の中でヒトという生き物に出会うこと自体初めてだったのでなんら疑問を抱くことはない。
「ここまで大変でしたね、よしよし……」
桜火と呼ばれたその人は“彼女”のその両腕で抱き上げると、精一杯の慈愛を籠めた視線を向ける。
「親に捨てられましたか。黄泉津大神(ヨモツオオカミ) に選ばれし千と五百分の一よ」
「ひっどいはなし、引き離されちゃ生きていけないよね、望も希もソウ思うよ」
人の柔肌、すべすべのお肌で撫ぜているのに、赤ん坊になる前のいのちは少しぐずる。泣こうとする前兆を察して、桜火は少し悲しそうな顔をしてぽすりと双子の一人に渡した。
隠された腕、桜火の右腕、誘眠の花びらを散らしても夢の中でなお眠らせることは出来ない。
自分に言い聞かせるかのように、袖を引く。桜火は右腕を露わにした。
もう片方、振袖という衣装に包み隠されたもう片方の腕はごつごつとした木肌、節くれだった樹木であった。ああやっぱりねと言った表情で希も望も代わる代わる同時に納得した顔をする。
ここは夢の世界。
ヒトの深層心理、無意識の領域、そして命の生まれる場所。
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続くよ!
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