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青い鳥

1氷河期@:2013/02/13(水) 00:21:58
どうも、氷河期@です
とび森板にて連載している『青い鳥』をこちらでもご紹介しようと思い、立てました
基本コピペですが、間違いなどは修正して貼ります

2氷河期@:2013/02/13(水) 00:22:14
登場人物の紹介

岸本 祐弥(きしもと ゆうや)
本小説の主人公
GNDホイール営業課に勤める25歳
4WD車が好きだが金が無く、仕方なく中古のワゴンRに乗っている
走るのも好きで、気分転換に首都高を走ったりもする

米沢 大輔(よねざわ だいすけ)
本小説のもう一人の主人公
チューニングショップ『ODA SPEED』に勤める25歳
岸本とは同級生で高校の頃は親しい仲だった
黒のR34に乗っており、首都高の走り屋からは『首都高の猛牛、ブラックブル』として恐れられている
厳つい見た目ではあるが、根は優しい

源田 篤史(げんだ あつし)
GNDホイールの社長で元チューナー、47歳
坊主頭で、非常に体が大きいのが特徴。常に作業着を着ている
以前はチューニングを行っていたが、ある事件を境にチューンの世界から退いてしまう
ある事件の後にGNDホイールを立ち上げ、見事成功させた
チューンの腕前は神業級であり、ボディ、エンジン、エアロのあらゆる知識を備えている
チューナーからは『神の手を持つチューナー』と呼ばれている

小田 毅(おだ たけし)
チューニングショップ『ODA SPEED』の店長を勤めるチューナー、45歳
源田からチューンに関するあらゆる知識を伝授した源田の弟分的存在
チューンに関する知識は源田に匹敵するが、手を使う作業は苦手であり、作業そのものは米沢に任せている
とても破天荒な性格をしており、空気が読めない

GNDホイール…源田が立ち上げたホイール会社。ホイール業界No.1の大手企業

3氷河期@:2013/02/13(水) 00:22:32
第一話 『鳥の卵』

つまらねぇなぁ…
そんな思いを胸に秘めながら岸本は今日も首都高を走っていた
(何か喉渇いたなぁ、PAにでも寄るかぁ…)
そう思った岸本は大井PAへと車を向かわせた
PAに着くと真っ先に青いボディが岸本の目に映った
「おぉ…」
思わず声を出してしまう程その車は美しい輝きを放っていた
夜なのに一人輝いている、他の車とは違う何かがある
そう感じた岸本はまじまじとその車を見つめていた
「何だ? 俺の車にゴミでもついてたか?」
「えっ」
突然声を掛けられ驚く岸本
振り返ると後ろには大きな体があった
「あ、いや…その…」
岸本は腰が引けていた
だが何かに気付いた
「社長!?」
「あ?」
岸本の突然の質問に屈強な男も唖然とする
「お前…もしかして俺のところの社員か?」
「あ、あぁ、はい! 岸本って言います!」
随分と張り切った自己紹介をしてしまった
「岸本ねぇ…聞いたことねぇなぁ…」
白けた顔で岸本を見下ろしていた
「あぁ、ははっ、そうですよね、あそこまで大きい会社のヒラ社員の名前なんて知らないですよね」
「ふっ、悪かったな…」
「あ、すいません! 変なこと言ってしまいまして…」
「何、気にするな。それにしてもお前は面白い野郎だな」
「は、はい! お褒めに頂き感謝します!」
「ふっ…」
岸本のことを鼻で笑っていた男、源田 篤史。
岸本が勤めるGNDホイールの社長だ。

「それで何だ、俺の車に興味でもあるのか?」
「あ、えぇと、その…カッコいいな…なんて思いまして」
「え、えぇと、ランサーエボリューションでしたっけ? この車」
「そうだ、ランサーエボリューションⅩ(テン) 通称エボⅩだ」
[あ、やっぱり! 自分4WD車大好きなんですよ!」
「ほう…なら乗ってみるか? このエボⅩに」
突然の質問に岸本は驚いた
「え、良いんですか!? でも自分車だし…」
再び源田は鼻で笑った
「ふっ、心配はいらない。今日は連れが一人いるからなぁ…」
噂をしているとトイレの方からスーツ姿の男が一人こちらへと歩いてきた
「あれぇ…鈴木ぃ、お前何で此処にいるんだよ?」
―鈴木、岸本の同僚だ。
「いや…社長が来いって言うからさ…」
「ふーん、そっか」
「鈴木、お前岸本の車運転してやってくれ」
源田が鈴木に言った
「えっ、何でですかー」
「岸本にエボⅩを運転させる。お前は岸本の車で本社まで来い」
「なっ、頼むぜ鈴木ー 俺の車はあそこにある白のワゴンRだぞ」
「お、おぅ…社長からのお願いなら…」
岸本はこういう時だけは図々しかった
「ところで岸本、お前免許はマニュアルか?」
「あ、はい、一応マニュアルです」
「よーし、なら問題ねぇな。さ、乗れや」
「は、はい」
少々緊張した面持ちのまま岸本は車に乗り込んだ
シートベルトの装着音が車内に二回響いた
「このまま湾岸線を走って本社ビルまで頼むぜ」
「分かりました…」

―ブォォン、ブォォン
独特の低いエンジン音がPAに響いた
そして遂に、青い鳥は卵を抱えて首都高へと旅立った。

4氷河期@:2013/02/13(水) 00:23:23
第2話 『猛牛』

青い鳥は遂に首都高へと羽ばたいた、黄金の卵を抱えて。
2速、3速と順調にギアを上げていく岸本
だがその表情には緊張の二文字が刻まれていた
「何だ、怖いか? この速さが」
源田が岸本に問う
「怖いです… 正直な話、3速からギア上げられないですよ…」
「何、気にするなド素人が3速まで上げただけでも立派だ」
源田が澄ました顔で答えた
メーターに目をやると、すでに200km/hを超えてることに気付いた
「うわぁ…時速200km超えてる…」
「まだ大したことねぇだろ? ほらレブってるぞ、早く4速に上げろ」
源田が平然とした表情で言った
「は、はい…」
岸本は恐る恐るギアを上げた
ギアチェンジの衝撃が車内に響く
「他の一般車両がまるでパイロンみたいですよ…恐ろしい…」
「パイロン避けるくらい簡単だろ?」
「…」
岸本は何も言えなかった
集中しているのか自信が無いのか、ハッキリとしていなかった
―!?
岸本は後ろから迫る高速の光に気がついた
「社長! 何か来ますよ、すっげぇ速いのが!!」
「出たな…首都高の猛牛…」
源田はまた澄ました顔で答えた
何もかも分かっているような顔をしていた
「首都高の猛牛!? 何ですかそれ?」
「まぁ走ってみろ、答えは走りの中にある」
そうしているうちに首都高の猛牛なるものがエボⅩを追い越した
黒く輝くボディは岸本の目にも鮮明に映った
「あれが首都高の猛牛…」

―ブォォン
「黒のR34、首都高の猛牛、ブラックブル…首都高最速の車両だ、岸本」
ブラックブルを見つめる岸本の目は輝いていた。だが違う何かもその瞳に秘められていた
「ブラックブル…すげぇ…」
岸本は小声で呟いた。だが源田の耳にも、その囁きはたしかに届いていた
「追えるか?」
「えぇ、追えますよ、俺。このエボⅩなら…行けます!」
「ふっ…やってみろ…」
(一瞬でコイツの目が変わった…、コイツはすげぇぞ…!)
源田は岸本のちょっとした変化にも気付いていた
ギアチェンジの衝撃が車内に響く
腰が抜けていた岸本が軽々しくギアを5速に上げたのだった
「さっきとはまるで違うな…」
気付くとスピードは250km/hを上回っていた
だが岸本はそれに気付かない
赤い4つの円が岸本の目に近付いてきた
「追いついている、いける!」
「油断するな、相手はまだ本気じゃねぇぞ」
「いや、いけま…」
岸本の口が途中で止まった
徐々に離されていることに気付いたのである
「ふっ、初心者と上級者の違いってところか。それともマシンの問題か」
「…」
岸本は答えることが出来なかった
自分の弱さを自覚していたからだ
「おい、ブラックブルは大黒PAに入るみたいだ。俺達も入るぞ」
「は、はい…」
また弱腰の岸本に戻っていた

5氷河期@:2013/02/13(水) 00:23:40
岸本はエボⅩをブラックブルの横に停めた
「岸本、一度走った奴に挨拶くらいしておくのはマナーだ。意味、分かるよな?」
「はぁ、一応分かりました」
「ならブラックブルのドライバーが戻ってきたら挨拶くらいしておくんだな」
(俺は元々こんなことするはずじゃなかった。ただこの車が格好良い、そう思ったから乗ってみたくなっただけだ
一時の闘争心をズルズルと引きずって後悔するほど、俺はバカじゃない。こんなことしても何も残らない
そんなのは俺自身が一番分かっている)
岸本は心の中でグチグチと言っていた
「岸本、お前勝ちたいと思ったことはあるか? 勝負を通して何か分かち合えたことはあるか?」
「無い…です」
「やっぱりな、目を見りゃ分かる。お前には闘争心が無い。本気で戦おうとしたのはさっきの数分間だけか?」
源田は笑いならがら岸本の目を見つめた
「さっきのは、何か惹かれるものがあったというか…」
「良いんだぜ、そんなちっぽけな理由で」
「えっ」
「どんな理由でも戦いたいと思ったら戦う。後先なんて考える必要ねぇ」
「でも…」
「自分に自信を持て。お前には自信も足りねぇ。どうせ負けが怖いとかそんなんだろ?」
「はぁ…その通りです」
「さっき自分で行ける行ける言ってたじゃねぇか。お前にはあれぐらいの士気が欲しいんだよ」
「…」
「お前はこの首都高というステージに相応しい。走りに対する士気が高い」
「でも俺は…」
源田は岸本に何も言わせなかった
「後先は考えるなと言っただろう? 良いんだよ一瞬で。一瞬だけでも最高の瞬間にしてみせろ」
「!?」
岸本は強く胸打たれた
「俺は走りが好きだ、だけど走りに対する恐怖もある、負けに対する恐怖もある。だけど、一瞬あけでも勝負がしたいです!」
「ふっ、それで良い。何事にも恐れるな、自分に自信を持って全てを打ち破れ」
「はい!」
岸本は変わった、一瞬で
岸本にとって一瞬だが、最高の瞬間であったに違いないだろう
弱い自分を打倒した。それだけでも
「お、ブラックブルに向かってくる野郎が一人いるぜ、あいつじゃねぇか?」
源田は髪をツンツンに逆立てた厳つい男を指差した
「あぁ!? アイツは!?」

6氷河期@:2013/02/13(水) 00:25:00
第三話 『昔話』

岸本は髪をツンツンに逆立てたブラックブルのドライバーらしき男を見て何かに気付いた
「どうした岸本、ブラックブルのドライバーと知り合いか?」
「えぇ、そうですよ、高校時代の同級生ですよ!!」
「ほぅ…それは面白いな…」
岸本は運転席の窓を開けて叫んだ
「おぉい、米沢ァ! 米沢大輔ェ!」
―米沢 大輔、ブラックブルのドライバーで岸本の高校時代の親友だ
それを聞いた米沢は
「あぁ、おめぇ! 岸本じゃねぇか!」
岸本は勢い良くドアを開けて米沢の近くに行った
「いやぁ、久々だなぁ大輔、高校卒業以来か?」
岸本が笑いを浮かべながら米沢に問う
「そうだなー、いやぁそれにしても久しぶりだなぁ」
米沢も同じような笑いを浮かべてそれに答えた
すると、米沢が助手席に腰掛けている源田に気付いた
「あれ、源田さんじゃないですか、ご無沙汰してます」
「おぅ、米沢。今日もブラックブルの調子はすこぶる良さそうだな」
「えぇ、おかげさまで」
岸本が不思議そうな顔で二人の会話を見ていた
「社長、大輔のこと知ってるんですか?」
「あぁ、一応な。だがコイツと関わりが深いのは俺の弟子だ」
「社長に弟子なんているんですか?」
「いるぜ、俺の働いてるチューニングショップの店長が源田さんの弟子だ」
米沢が割って答えた
「その通りだ。米沢、小田は元気か?」
「えぇ、いつも通りですよ」
相変わらず岸本は状況が呑み込めないままだった
「社長、何の話をしてるのか俺よく分からないですよ」
「ん? あぁ、そういえばお前にはまだ話してなかったな」
「何かあるんですか?」
「あぁ。今、俺はこうして大企業の社長をやってるが昔はチューナーをやってたんだ」
「へぇ…社長がチューニングを…」
岸本は興味を沸かせていた。その反面、米沢は空気を読んでいるかの如く静かにしていた。
「俺も昔は凄腕のチューナーって呼ばれたもんだ。チューナー仲間は俺のことを『神の手の持ち主』と呼んだよ」
「えっ? 社長はそんな凄い人だったんですか!?」
「他人からしたら凄かったんじゃねぇか? まぁ俺はチューナーとしての仕事を全うしただけだ」
「でも何でチューニング止めたんですか? 今も成功してますけど、チューニングの世界で生きていけば良かったんじゃ…」
岸本の生き生きとした明るい目とは逆に、源田は少々暗い目を岸本に向けていた
「死んじまったんだよ…俺の仕上げた車に乗ったドライバーが…」
「!?」

7氷河期@:2013/02/13(水) 00:25:15
岸本は触れてはいけない過去に触れてしまったような気がしていた
顔に驚きが分かりやすく表れている
「足回り、ボディワーク、エンジン、全てにおいて完璧だったはずだった。だがあまりにもレベルが高すぎた
俺は本物の化物を作ってしまった気がしたよ。結局そのドライバーは一つのコーナーも曲がれずにクラッシュしてしまった」
「今、その車はどこに…」
岸本が張り詰めた表情で問う
「さぁ、知らねぇな…今頃スクラップにでもなってるんじゃねぇか?」
「下らないことを聞きますが、社長が仕上げたその車の車種は何だったんですか?」
その質問を聞いて源田の表情が少し緩んだ
源田は軽く笑って答えた
「RX-7 Type R いわゆるFD3Sってヤツだな」
「FD…そりゃ速くなりますねぇ…」
「だろう? あれほど扱いやすい車はねぇよ」
「あの…また下らないことをお聞きしますが、小田さんって人は一体…?」
再び源田は軽く笑って答えた
「小田ってのは、俺のチューナー時代の弟子みたいなもんだ。俺の仕上げた車を見てから俺についてくるようになってな」
「へぇ…小田さんってのは凄い人なんですか?」
「車に関する知識だけならアイツは俺以上だ。だがアイツは不器用だ、作業すると間違いなくミスをする。な、米沢?」
「えぇ、設計は小田さんが考えて作業は俺がやってますよ」
「へぇ、大輔もチューニングするのかぁ…」
「羨ましいか?」
「いや、別に…」
「岸本、チューニングってのは良いもんだぜ、走りが好きなお前ならチューニングの良さも分かるはずだ」
「社長まで…」
「なぁ岸本、俺ともう一回走らねぇか?」
米沢が岸本に問う
「おいおい、首都高最速のお前と走っても勝てねぇだろうが」
「岸本、自分に自信を持て。お前にはセンスがある、米沢と同じくらいな」
「ですけど…」
「そうだぞ岸本。お前ああいうバトルするのは初めてだったんだろ?」
「あぁ、初めてだけど…」
「初めてであそこまで俺に食いついてくる奴はいねぇよ。源田さんの言う通り、お前にはセンスがあると思うぜ」
米沢も源田と似たようなことを岸本に向けて言った
「まぁ、そこまで言うなら…」
「よっしゃ決まりだな! さ、さっさと行こうや」
米沢のテンションが上がっていた
それに割って入るように源田が言った
「米沢、ちょっと話がある。来てくれねぇか」
「何すか? 源田さん」
源田が車を降りて米沢を連れていった
一人残された岸本の目には自信と恐怖が半分ずつ映っていた

8氷河期@:2013/02/13(水) 00:25:40
第4話 『モチベーション』

岸本がぼーっとしていると源田と米沢が戻ってきた
「悪い、待たせたな。さぁ行こうぜ」
そう言って源田が車に乗り込む
「あ、いえ。じゃ、行きますか」
岸本は隣に停まっているブラックブルに向かってグッドサインを出した
それに反応して米沢もグッドサインを出してきた
二台の車が今、首都高という大きなステージに出発した

先行しているのはブラックブル
エボⅩは後ろについているがそこまでの差は開いていない
「やはり速いですね、米沢は…」
岸本が不意に助手席の源田に話しかける
「ふっ、そうだな。だがお前も中々じゃねぇか、さっきよりも幾分か速くなってる気がするぜ」
「そうですか?」
疑問に思っていた岸本はブラックブルのテールランプが徐々に近づいてきていることに気付く
「見てみろよ、ブラックブルのテールランプが徐々に近づいてるぜ」
「あ、本当だ…」
「少しは自分に自信を持てよ。お前のポテンシャルの高さは並じゃねぇぜ」
「…」
岸本は黙り込んでしまった。おそらく運転に集中しているのだろう
助手席に腰掛けている源田は先ほどの米沢との会話を思い出していた

―「何ですか源田さん、話ってのは」
「お前この後また岸本と走るんだろう?」
「え、まぁそうですけど…」
「なら負けてやってくれねぇか? アイツは一回自分に自信を失うと二度と戻ってこねぇ」
源田のとんでもない依頼に、米沢は唖然とした
「…」
黙り込んでいる米沢に源田が追い討ちをかける
「頼むぜ米沢、アイツには常人に無い何かがある、その何かを此処で捨てるわけにはいかねぇ。それに、まともにやったところで岸本が勝てるわけねぇ」
「…分かりました、源田さんが言うんですからアイツにはきっと何かあるんでしょう」
「助かるぜ米沢、お前もアイツの力を見てみたいだろう?」
「えぇ、そりゃ気になりますよ。アイツがどれほどのレベルにまで成長するか、楽しみです」
「じゃ、行くか米沢」

源田が気付いた時にはブラックブルとエボⅩが並んでいた
「岸本…お前やるじゃねぇか やっぱセンスあるぜお前」
源田のその一言にはあまり感情がこもっていなかった
岸本は一言も喋らない
―!?
源田が左側に並んでいるブラックブルに目を向けた瞬間驚愕した
米沢の目が本気だったのである、手加減なんて一切ない、そんな目をしていた
(米沢の野郎…手を抜けって言ったのに…)
源田が軽く笑いをこぼす
そして再び岸本に向けて言った
「岸本…お前マジでセンスあるぜ、マシンの性能とかじゃねぇ、お前自身のセンスだ」
「俺、横にいますよ… 首都高最速の大輔の横に…」
岸本の体は軽く震えていた
「でも怖いんですよ… この速さ、そしてこの自分の実力」
「ふっ、そろそろ自覚してきたか。いくらストレートの多い横羽とは言え、一つでもラインが狂うと一気に離されるからな」
二台はやや大きく、長い右コーナーに差し掛かろうとしていた
すると岸本は一瞬だけブレーキを踏み、ギアを5速から4速に下ろしてハンドルを右に切り始めた
「岸本、すげぇインベタだな。ド素人がここまでやるとは正直思わなかったぜ」
エボⅩは壁ギリギリのラインを走っていた。おそらくミラーと壁との距離は5cmも無いだろう
「俺、気付いたんですよ。この車は加速が良い、だから減速してインベタで曲がっても立ち上がりで離せる」
岸本は車の癖も一瞬で理解していた
対して源田は唖然としている
「岸本、お前はマジの化物だな。さすがの俺もこれには驚いたぜ」
コーナーを抜けるとエボⅩがブラックブルの前に出ていた
(岸本…ついつい本気を出しちまったが、まさか追い越されるとはな。マジでお前の才能にはビビるぜ)
ハンドルを握りながら源田はそう思っていた
負けを悟った米沢は静かにアクセルから足を離した

9氷河期@:2013/02/13(水) 00:26:01
第5話 『ブルーバード』

「あれ、大輔が離れていきますよ?」
岸本がバックミラーを見つめながら源田に問う
「負けを悟ったんだろう。降りるのは自由だ」
「そんな暗黙のルールがあるんですね」
「多分そんな感じだろ。首都高は広いようで狭い、いずれこの場所で再び会うだろう。さ、本社に戻ろうぜ」

首都高でのバトルを終えた岸本は源田を車に乗せてGNDホイール本社へと戻った
「此処だ、此処にこの車を入れてくれ」
源田が立派な本社ビルの横にある小さなガレージを指差す
「あれ、こんな所あったんですね。本社ビルが立派過ぎてあんまり目に映えなかったです」
「まぁ無理もねぇか…」
そう言って源田は車を降り、ガレージのシャッターを開けた
岸本は恐る恐るガレージの中に車を入れる
「うわっ、凄い…」
ガレージの中には工具、部品、車に関するありとあらゆる物が揃っていた
「俺がチューナー時代に使っていた道具だ。まぁ新調したり増やしたりしたのもあるがな」
「あれ? でも社長はチューニングを止めたんじゃ…」
「ビジネスとしてのチューニングはな。今俺がやっているのは趣味のチューニングだ」
「趣味…?」
岸本が不思議そうな表情で問う
「そのままの意味だ。だが誰にでも行うって訳じゃない。趣味でチューンする以上、ドライバーがしっかりした野郎じゃなきゃ俺はチューンをしない」
源田が岸本を睨みつけるかのようにじっと見つめる
「岸本、このエボⅩはお前にやるよ」
「え!?」
岸本は驚きを隠すことが出来なかった
「いや、しかし金が…」
岸本が苦笑いを浮かべる
「金? お前の今乗ってる軽自動車で構わん。あれを営業用として使わせてもらおう」
「いやいや、釣り合ってないですって…」
「釣り合ってない? それでも良い。お前はこのエボⅩを最大限に活用出来そうな気がしてな。それだけで充分だ」
「いや、悪いですって…」
源田が呆れた顔をしている
「ったく、遠慮しやがって。お前はこの車に乗るべき人間だ。だからこの車はお前の物だ。良いな? 受け取れ」
「いやしかし…」
「社長命令だ。受け取れ」
源田が遮るように言った
「はい…」
さすがに岸本も折れたようだった
「ふん、それで良いんだよ。お前はこの車と相性が抜群だ。だからこそ俺がチューニングしてやる」
「源田さんがチューニングを…?」
「走るのが好きなんだろ? 俺はそういう奴に精一杯のチューニングをしてやりたいと思ってる。」
「何かお世話になってばかりで悪いですなぁ…」
岸本がおもむろに自分の頭をかき始める
「それに、さっきも言ったがお前とこの車は相性抜群だ、まるで意思疎通しているようにな。走るのが好きで、車との相性も良い。チューニングしない理由がないだろ?」
「は、はぁ… ほんと、恩に切ります」
「まぁ、俺が全力で手を入れてやるんだ。首都高の最速くらいは軽く取れよ?」
「えっ… いや俺には…」
「何言ってるんだお前、首都高最速のブラックブルを抜いたんだぜ? それだけで立派だよ」
「そ、そうですか?」
「いや、ブラックブルはほとんど純正に近い状態だったな、純正であそこまで走らせる米沢もお前と似たようなセンスを持っているかもしれない」
「と、言いますと?」
「どっちも全力で手を入れりゃ同じくらいってことかな」
源田が笑いながら岸本の肩を叩いた
「はっきりしてくださいよぉ…」

源田がエボⅩを見つめる
「そういや、コイツにはまだ名前が無かったな」
「名前…? 社長、車に名前なんてつけるんですか?」
岸本が問う
「俺はそうしなきゃ気が済まないクチでな。現役チューナーだった頃も、サーキットに出す車にはよく名前をつけてたよ」
「へぇ… 面白いですね、そういうの」
「だろう? コイツの名前はそうだな、羽ばたくように走る青い鳥… ブルーバードなんてどうだ? 岸本」
「ブルーバード、すごく良いですよ!」
「よし、今日からコイツはブルーバードだ」
「はい!」

―ブルーバード
首都高に眠る怪鳥の卵が遂に孵った

10B:2013/02/13(水) 19:57:01
Σ(°д°;;)此方来た!?


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