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【テンプレ】東方クロススレ 8【必読!!】

172名前が無い程度の能力:2010/05/19(水) 02:03:52 ID:5su2kZg60
>>171
>>169はこれから続き物にするやつの予告編みたいなもんか?
これから続きも書いていくなら、>>170の板で改めて始めるのもいいんじゃないか?
少なくとも、予告はこのスレで本編は向こうの板、みたいな不親切やるよりはいいと思う。

173169:2010/05/21(金) 10:24:21 ID:M2xXo9/k0
>>172
そうか・・・じゃあ続きが固まったらあっちに
改めて投下するわ

174東方唯一士:2010/06/23(水) 22:19:25 ID:ggiMCntI0
某所で間違って書いちゃったものを転載だよ!

 快晴であった。
 天候はもとより、世界にとっての危機が去った今、ある一人の青年も、その母も心を晴れ晴れとしたものにしていたのである。彼は軽い足取りで玄関に向かうと、母に外出の旨を伝えた。
 「母さん、俺街を見回りに行ってきます」
 彼の外出の理由の中には、ろくな食料のないこの時勢に、少しでも保存できるものを探すこともあった。しかし何よりも彼が気にかけていたことは、先の脅威に連なる存在が来ているかということであり、そのための見回りであるのだった。この見回りはそれほど時間を食わない。彼は空を飛ぶことができるからであった。
 ひとしきりパトロールした後、運良く限定配給が行われているのを見つけた彼は流動食を入手してそのまま帰路に就こうとした。だが兄妹のように見える子供二人がパンの耳を奪い合っているのを目にし、まず食料を母の分と自分の分に分けてから自分のそれを少し分けてやった。兄弟はこのあたりだ花を知られている少年に感謝し、家に帰って行った。青年はそれを目にし、復興が進んでいるのを感じた。以前ならばしょっちゅう暴動が起き配給などは行っている余裕がなかったので、子供が外を出歩くなどあり得ないことだったのだ。

175東方唯一士:2010/06/23(水) 22:21:54 ID:ggiMCntI0
 自宅に着き、テーブルの上の母の書置きを見つけた彼は、その内容を見て「そうか、やっとか!」と喜びをあらわにし、さっそくそこに書いてある通りに作業を始めた。
 日の落ちる頃帰宅した母は、九割がた終わっている作業に驚いた。
 「さすがは私の息子!じゃ、仕上げにかかるとしようかしら」
 母が加わって作業は完了し、青年はいよいよか、と意気込んだ。
 「もう使っても大丈夫かな?」
 「OKだけど、少しゆっくりしてから言ったら?あっちに行ったら当分戻らないんでしょう?」
 「いや、今回は報告だけだけど…じゃあとりあえずお茶してから行くよ」
 コーヒーを淹れて、二人は甲板でブレイクをとった。母は彼の父には似ていない顔を見て、今は亡き夫のことを思った。
 「さて…行くかな」
 しばらくして彼は呟き、準備した宇宙船のような物のコックピットに座った。
 「行ってきます、母さん!」
「無いとは思うけど、怪我なんかしないでよ!」
 息子は心配する母にサムズアップし、目的地を設定して旅立った。その精悍な顔つきは、父がいない今でも、この子も私も大丈夫という希望を、母に持たせた。

176東方唯一士:2010/06/23(水) 22:25:31 ID:ggiMCntI0
 機器が目的地への到着を告げるかと思った瞬間、非常事態発生というアナウンスが流れた。
 「な、何だ?」
 それを確かめる暇もなく、青年は不時着した《その地》の地面に身を投げ出された。見上げた視線の先には…見たこともないような自然、幻想的、牧歌的な風景と、一人の少女の姿があった。
 「ここは…どこなんですか!?いや、今はいつなんですか!?」
 彼は今の状況を不思議がっているようだが、彼の質問もまた、少女に疑問を抱かせた。
 「ここは幻想郷で、イマは今だけど…どういう意味?」
 「ああそうか、すいません。気が動転してまして。おれはタイムトラベルしてここに誤って来てしまったんです。」
 「たいむ…?」
 「時間を移動する、俺の時代の機械です。信じてもらえないかもしれませんが…」
 「ふーん、珍しいことでもないかも」
 あっさりとした答えに、青年は面食らった。
 「そうなんですか!?良かった、話がややこしくならずに済む。すいませんが、『幻想郷』とはどのような所か教えていただけませんか?」
 「うーん、簡潔に言うのは難しいんだけれど…まあ、外の世界にいられない人や妖怪、場合によっては神様が住む場所ね。逆にこれを信じてくれないかもしれないけど…」
 「そういうことなら理解できます。慣れているので。」

177東方唯一士:2010/06/23(水) 22:29:04 ID:ggiMCntI0
「うそ!?じゃあ普通の人ってわけでもなさそうね」
 「ええ、まあ。それでは、いろいろありがとうございました!」
 言うが早いか、彼は飛び去ってしまおうとしたが、少女が呼び止めた。
 「ああ、ちょっと待ってよ!あなた帰り方わかるわけ!?」
 「わかりませんけど、忙しいかと思いまして」
 「私たちは基本暇だから大丈夫よ。方法を探してあげるって」
 「本当ですか?ありがとうございます!」
 彼女はこの真摯な青年に少し当惑したが、やがて名を名乗った。
 「わたしはリグル。リグル=ナイトバグ。貴方は?」
 「俺ですか?おれは―」
 青年は背にかけた剣のズレを直し、少女のほうに向きなおって言った。

 「トランクスと言います。」
 山の間から、朝日が顔をのぞかせていた。

178名前が無い程度の能力:2010/06/24(木) 00:04:39 ID:QbyNAhbM0
投下乙です。
今のところ悪くないと思いますが、長文はある程度の字数で改行したほうがいいと思います。
この手の掲示板上だと、横いっぱいにに長く続く文章は見にくくなりますので。
上に投下されてる方々の文章を参考にすると良いと思います。

179名前が無い程度の能力:2010/06/24(木) 10:19:29 ID:6zHyCB6gO
>178
解りました

180名前が無い程度の能力:2010/06/26(土) 17:27:26 ID:IVURewng0
『鬼に逢うては鬼を受け入れ、 仏に逢うては仏を受け入る。 幻想の理ここに在り。』

一つの平和を受け入れたなら、一つの殺戮も受け入れなくてはならない
一つの繁栄を受け入れたなら、一つの終末も受け入れなくてはならない
一つの誕生を受け入れたなら、一つの滅びも受け入れなくてはならない
一つの非常識を受け入れたなら、一つの常識も受け入れなくてはならない
一つの愛を受け入れたなら、一つの憎悪も受け入れなくてはならない
一つの勝利を受け入れたなら、一つの敗北も受け入れなくてはならない
それ即ち、全てを受け入れることなり

181名前が無い程度の能力:2010/06/27(日) 07:42:32 ID:cvDj4pco0
八八式妖精兵
種類 数打
陰儀 無し
仕様 汎用
攻撃力3
防御力2
速度2
運動性1

182名前が無い程度の能力:2010/06/27(日) 10:07:07 ID:cvDj4pco0
チルノ
種類 ブラッドクルス
陰儀 熱量吸収
仕様 汎用
攻撃力3
防御力3
速度2
運動性2

183名前が無い程度の能力:2010/06/27(日) 17:29:25 ID:cvDj4pco0
フランドール
種類 ブラッドクルス
陰儀 物質破壊
仕様 特殊/白兵戦
攻撃力5
防御力0
速度0
運動性0

184名前が無い程度の能力:2010/06/27(日) 19:57:21 ID:Ho0r96gI0
【劔冑】
超能の鎧。
字が示す通り甲冑であるが、太刀などの武装も含んで云う。
単なる鎧と異なるのは、劔冑には魂が宿り、着用者に超常能力を授ける点である。運動能力の増幅、強靭な回復能力などが標準的だが、
劔冑の中でも特に業物と呼ばれる逸品はそれらに加えて更なる特殊性能をも備えることが稀ではない。
製法によって大きく二通りに分けられ、旧型を『真打』、新型を『数打』と呼ぶ。西洋では、前者を『ブラッドクルス』、後者を『レッドクルス』と呼ぶ。

【数打劔冑】
近代に入って発明された、劔冑の能力の統制を妖精などの低レベルな魂で行うタイプの劔冑。
貴重な黄金時代の魂を消費しないで量産が可能である。
その能力は真打に劣るものの、あらゆる兵器、妖怪を圧倒するには十分であり、現在はこちらが幻想郷での劔冑の主流となっている。

【真打劔冑】
古来の製法によって造られた劔冑。
幻想郷黄金時代に存在した者の魂を最後の素材として打ち込むことで完成する極めて貴重で高価な品である。
つまり、生産量に絶対的な限界が存在する。
現在では、その製法を伝えてる鍛冶も少ない。

185名前が無い程度の能力:2010/06/30(水) 17:29:43 ID:LGc.Bs0g0
幾ら人格の宿る真打劔冑と言っても劔冑はあくまで武器であるため
その力を引き出して操るのは仕手自身である。

劔冑の燃料は使い手の体温であり特に異能の力である陰儀は大量に仕手の体温を消費する事になる。
陰儀を使った場合主に、生身の相手<自分<<<<<<劔冑を装備した相手、の順に効果が出るための体温消費が激しくなる。

186名前が無い程度の能力:2010/07/11(日) 17:50:19 ID:EGzb1xHc0
長くなったのでこっちに投下。一発ネタなので続きは無いです。
あのアーティストたちが幻想入り。
(元ネタわかる人少ないだろうなー。最終回の後、巻末四コマより前の話ね)



スバル「人を……探してるんだ」
霊夢「人探し? 外から来たのに変わってるわね。迷い込んだってわけじゃないの?」
スバル「ああ。オレたちの世界に、入り口が残されてた……アーティストの作品だ、間違いない。
    その扉がこの世界に繋がってた。だから、オレたちが探してるアーティストもこの世界にいる」
霊夢「アーティスト? 絵を描いたりする人?」
スバル「絵を……いや、確かに絵に『なる』んだが……話に聞く限りでは、そいつは画家じゃなくて詩人なんだ」
霊夢「ふーん? よくわかんないわね」
スバル「話を伝え聞いただけだから、詳しいことはオレも知らない、会ってみないとわからない。名前は、パプル・ヘイズ」
霊夢「聞いたことないわねー」
スバル「そうか。だが、この世界にいるのは間違い無いんだ」
霊夢「幻想郷」
スバル「?」
霊夢「この場所の名前よ。この世界、なんて言い難いでしょ?
   それはともかく、あんたの目的は人探しなのね。じゃあ勝手にやってくれるといいわ」
スバル「あ、いや、待ってくれ。探してるのはそいつだけじゃない。
    この世界には、一緒にやってきた仲間がいるんだが……扉を抜けた時にばらばらになったみたいなんだ」
霊夢「ふーん? 聞いてもわからないと思うけど、どんなやつ?」
スバル「とんがり頭の騒がしいやつとバンダナ巻いたアクシデントに弱そうなやつと意地っ張りのたくましい女」
霊夢「見てないわねー。まあ気長に探してみたら? 変なやつらっぽいし、生きてればすぐ会えるでしょ」
スバル「い、いやそうしたいのはやまやまだが……右も左もわからないんだ、せめてこの辺の地図とか」
霊夢「地図なんて持ってないわよ。道に迷ったことなんて無いもの」
スバル「せ、せめて街の場所! 人が集まる場所を教えてくれないか?」
霊夢「あっちのほうまっすぐ」
スバル「あっち……森しか見えないぞ!?」
霊夢「森を飛び越えればすぐだって」
スバル「そんな、森を抜ける装備なんて持ってない! コンパスも何も無いのにまっすぐなんて」
霊夢「あーもうめんどくさいわねー。じゃあもうちょっと待ってなさい。
   あちこち飛び回る白黒いやつがそろそろお茶をせがみに来るはずだから、そいつに頼めばいいわ」
スバル「そうか……助かる」
霊夢「……まあ、今日はちょっと遅いみたいだけどね。もしかしたら気まぐれで、今日は来ない日かも」
スバル「ええ!? 結局どうしろって言うんだ!」
霊夢「私が知るわけないでしょ、うちは神社であって探偵事務所じゃないんだから。
   だいたいあんたも、自分で何とかしようって気は無いの? 森を抜けたら人里には着くって言ってるでしょ?」
スバル「いやだから、あんな広そうな森、普通抜けられないだろ!?」
霊夢「ああ……あんた見るからにもやしっ子っぽいもんね。そりゃ無理か」
スバル「ぐぅっ!? お、お前……もうちょっと気遣いとか……さっきから本音丸出しなのが言霊で丸分かり……」
霊夢「言霊? あんたおかしなものが見えるのね。こりゃ他に迷い込んだやつってのも、相当変なやつばっかりなんでしょうね」

187名前が無い程度の能力:2010/07/11(日) 17:50:51 ID:EGzb1xHc0





魔理沙「恋符『マスタースパーク』!」
チルノ「みぎゃー!?(ピチューン) おーぼーえーてーろー……」(フェードアウト)
魔理沙「ふう、ちょうどいい運動になったぜ……さて、そろそろ霊夢んとこにでも」
アクロ「スパイシーだ!」(突然空中に現れて)
魔理沙「うわっ!? な、なんだお前、下から飛んできたのか?」
アクロ「なんだ今の、お前の技巧(スキル)か? 光がぐわーっと、とんでもなく力強くてさ!
    あんなにまっすぐな技巧初めて見た! お前もアーティストなのか?
    この世界にもアーティストっているのか? もっと他にもたくさん?」
魔理沙「待て、質問は一つずつにしろ。そして出来れば私にも質問させろ」
アクロ「あ、オレはアクロっていうんだ、よろしく」
魔理沙「私は魔理沙だぜ。よし自己紹介終わり。で、お前は何だ? 新手の妖怪か?」
アクロ「え? いや、オレは人間だぞ」
魔理沙「何? 空を飛べる幻想郷の人間で私が知らないやつなんて――
    ……? 待て、お前、飛んでない……?」
アクロ「って、妖怪? この世界には妖怪なんているのか? なんだそれ、もしかして妖精とか神様とかもいたりするのか?
    うわあ凄いな、世界中がスパイシーだ、何かオレすごいテンション上がってきた!」
魔理沙「とっくに振り切れてた気がするが……いやそれよりちょっと待て。
    お前のその……飛び方、でいいのか? なんでそんな、『まるで普通に地面に立ってる』みたいな……?」
アクロ「あ、これ? これはオレの技巧。
    今は、空気を粘土化して固めて土台を作って、その土台を登ってきたんだ。オレはその上に立ってるだけ」
魔理沙「また面白い能力だなー。粘土にして固める程度の能力?
    ……しかしその口ぶりからすると、どうもお前、外の世界か……いやそれとも、全く別の世界から来た、とか?」
アクロ「ああ、そうそう。パプル・ヘイズが残したらしい扉をくぐったら気がついたら森の中に……
    そうだ、オレ、そのパプル・ヘイズを探してたんだ。七大アーティストで最年長の爺さんなんだけど、何か知らないか?
    あと、一緒にオレの仲間もこの世界に――」





デコ「カリント!」
(デコが筆を走らせると、空中に描かれたモンスターが実体化する)
デコ「これがボクの『エア・モンスター』です。こういう技巧を持つ人間をアーティスト、って……」
紫「あなたの、技巧」
デコ「は、はい」
紫「絵画の基本も何もなっていないし、描写も荒い。芸術としては、足りないものだらけよ。
  それに、この形状、属性……戦わせることを前提の一つに置いているわね。
  戦いの技術として見るなら、妖力を弾や光線などにしたほうがずっと効率的だし、
  『描く』という過程を経なければならないから発動も遅い……今のだって、初動から実体化まで1.5秒かかった」
デコ「う、うう……(言い返したいのに頭がついてこない)」
紫「でも、とても魅力的だわ」
デコ「え?」
紫「私たちが弾幕に心象を反映させるように、いえ、それよりももっと直接的に、
  あなたは筆に思いを乗せ、形にすることができる。
  感情を、魂を込めて描く――だから稚拙な絵画でも、こんなに力強くなる。
  たった1.5秒で、あなたは私にこれほどまでの感動を与えた。これはとても素晴らしいことだわ」
デコ「あ、ありがとうござ」
紫「でも稚拙」
デコ「ええ!?」
紫「ねえ。仲間や探し人を探すのもいいけど……それと並行して、面白いことやってみない?」
デコ「お、面白いこと……?」
紫「ええ。『芸術を形にする異能を芸術と呼ぶ』なんてまっすぐなバカをやってる貴方たちのことだもの。
  たとえ少女じゃなくても、あなたたちは『真剣に遊ぶことの素晴らしさ』を理解できるはず……
  あなたはこれから、ちょっとこの世界――幻想郷で、勉強してみるといいわ」
デコ「勉強、ですか? でも、何の?」
紫「絵の勉強。そして、弾幕の修行よ」

188名前が無い程度の能力:2010/07/11(日) 17:52:52 ID:EGzb1xHc0





ネネ「みんな、準備いいかなー? さん、はい」
寺子屋の生徒たち「かーえーるーのーうーたーがー」
ネネ「うん、上手上手。えーっと、そこの子はもうちょっと腹筋に力入れて歌って。そっちの子は背筋伸ばして……」
生徒A「ええーめんどくさいー」
生徒B「それよりお姉ちゃん歌ってー」
生徒C「なんで祭りでもないのに歌なんか……」
生徒D「おねーちゃんミスティアとどっちが歌上手いのー?」
ネネ「え、ちょ、うわ、待って待って」
慧音「こらお前たち! 音楽の先生の言うことだぞ、ちゃんと聞きなさい!」
生徒A「えーだってー」
生徒B「お姉ちゃんお歌上手いもの、また聞きたいー」
生徒C「今まで音楽の授業なんて無かったのに、なんでいきなり……」
生徒D「でも音楽楽しいよー。慧音先生よりお歌上手いしー」
生徒A「ていうか慧音先生が音痴……」
慧音「そうかお前たち。よし、一列に並べ。順番に一撃ずつお見舞いしていくぞ」
生徒全員『音楽の先生の言うことちゃんと聞きます!』

放課後

ネネ「つ、疲れた……」
慧音「いやいや、初めての授業としてはこんなものだろう。生徒たちにも随分気に入られている」
ネネ「そうかしら? 全然わかんないけど」
慧音「いやいや、あいつらは気に入らないやつには容赦無いからな。悪戯されたり教室から脱走されたりはしなかっただろ」
ネネ「え、えーと、腕白なのね」
慧音「いや本当に助かる……私だけでは教えられないことというのはどうしてもあるからな。
   それに幻想郷では、音楽と言えば妖怪や騒霊、という印象が強いせいで、人間で音楽を教えられる者はほとんどいない。
   こうやって、教えてくれる人が来てくれるというのは、子供たちにとって良い刺激になる
   ……利用してるみたいで申し訳ないが」
ネネ「そんなことない、私が自分で選んだことだもの!
   この幻想郷でのお金を持ってない以上は、働いて稼がないと不自由する、
   いつまでも慧音先生のお世話にばかりなってられないから……」
慧音「そうだな……それに、恩に着せるわけじゃないんだが。
   教師というのは、生徒に教えるだけではなく、生徒からも教わるものがあると私は思っている。
   この仕事をやれば、それは必ずネネにとって良い経験になる……人生的な意味でもそうだが、
   もしかすると、ネネの歌――技巧にとっても、プラスになるかも知れない」
ネネ「私の技巧にとって……?」
慧音「いやまあ、私も君たちの技巧のことをちゃんとわかってるわけじゃない、話半分に聞いておいてくれ。
   それと、話は変わるが……ネネの仲間たちと、探し人のことだが」
ネネ「何か情報が!?」
慧音「いや、まだ何も。だが、確実に情報が手に入る機会がある」
ネネ「?」
慧音「満月の晩に、私は幻想郷の全ての歴史を閲覧することができるんだ。
   だからその時に、どちらの情報もきっと手に入る」
ネネ「本当!?」
慧音「本当だ。勿論それまでに仲間と再会できればそれに越したことはないが」
ネネ「それでも、合流できる希望は少しでも多いほうがいい……!
   それにパプル・ヘイズに会うっていう当初の目的も忘れちゃいけないもの!」
慧音「(……だが、全く異なる世界から渡ってきたアーティスト……
    七年もの間、私に知られることの無かった人間の情報が、歴史の中にあるだろうか?
    全ては、満月の晩にならないとわからないが……八雲の大妖や山の天狗にも助力を仰いだほうがいいかも知れない)」

189名前が無い程度の能力:2010/07/11(日) 17:53:32 ID:EGzb1xHc0






幽々子「妖夢ー。ご飯まだー?」
妖夢「はいはい、あと15分ほどお待ちください」
幽々子「あらそう。聞いたークラウン? あと15分だそうだから、それまでに部屋の掃除終わらせておいてねー」
クラウン「…………」
幽々子「あら? 返事は?」
クラウン「どうしてオレがこんなところでお前の小間使いなんか――」
幽々子「ダメよクラウン。『私の言うことは聞かなきゃいけない』でしょ?」
クラウン「ぐぅっ!?」
幽々子「私は死を操る亡霊。あなたが死霊である限り、私には逆らえないわ」
クラウン「だって……オレは死んだんだ! もうやることも何も無いはずなのに、なんでこんなところでこんなこと!」
幽々子「嘘ね。迷いの無い者は亡霊にはならないわ」
クラウン「え……?」
幽々子「あなたは何か、やり残したことが残ってるのよ。だから亡霊になって、私のところに来たの」
クラウン「う……嘘だ、嘘だ。オレはやりたいことをやって死んだんだ、やり残したことなんか……」
幽々子「未練があるのにその未練を認めたがらないなんて厄介な子ねぇ。まあいいわ、今はお昼ご飯までに掃除やっちゃってね」
クラウン「くそ……(しぶしぶ掃除を続ける)」
幽々子「それに、放っておいてもじきに、心当たりくらい見つかるはずよ」
クラウン「何?」
幽々子「気付かなかった? ここは、あなたの世界のあの世とは違う世界のあの世なの。
    だから、あなたがこっちの世界に来た理由があるはずなのよ。
    例えば……あなたをよく知ってる誰かがこっちの世界に来て、あなたはそれに引きずられた、とか」
クラウン「まさか、あいつらが……」
幽々子「まあ心当たりについてはゆっくり考えればいいわ。言ったとおり、放っておいてもじきに会えるでしょうし。
    それよりそろそろ時間よ。お昼にしましょう」





オチも何も無いですが以上です。

190名前が無い程度の能力:2010/07/11(日) 23:54:47 ID:sJ1AX3bk0
原作見かけたら読んでみるか

191186:2010/07/12(月) 10:08:56 ID:4eLp4mYI0
しまった、七大の最後の一人はパプル・スペルだった、ヘイズじゃない。読んでくれた人、すんませんでした。
原作見ながら書いたのになんで間違えたんだろう。つかヘイズってどこから出てきたんだ。

192名前が無い程度の能力:2010/07/12(月) 11:05:45 ID:/RkLx.fA0
パープルヘイズか

193名前が無い程度の能力:2010/07/22(木) 17:17:57 ID:yHX1cJtc0
ムラサにメイド服を着せられてこき使われる小傘
それとカナヤマ様をさとり(サードアイ)+小傘+非想天則で召喚

194名前が無い程度の能力:2010/07/31(土) 19:32:16 ID:UcE.sf1c0
時期的に怪談レストランとクロス・・・

案外幽々子と知り合いだったりしてなギャルソン

195名前が無い程度の能力:2010/08/06(金) 21:03:22 ID:ocsoIzck0
伊吹萃香の行動原理(アルゴリズム)
* 自身の存在する場所に「宴会」を呼び込むべし(宴会を呼び込むことによって自らより優れた「対抗者」を萃めることが目的)
* 宴会に対抗する存在に対して「挑戦」するべし(対抗者の手順を学び、自身に「成長」を促すことが目的)
* 挑戦した者に対して勝利し、その者を「攫う」べし(対抗者に関して自身が学び損ねた事を補完し更なる高度な思考を得ることが目的)
* そして攫った者を持って、さらに高度な「挑戦者」を萃めるべし(以降、上記行動原理の手順をループ)

196名前が無い程度の能力:2010/08/08(日) 16:47:23 ID:EckKWr7A0
それは数学が得意なゆかりんに負けるフラグなんじゃ……

197名前が無い程度の能力:2010/08/14(土) 14:32:52 ID:JAU5aVzYO
ナイトウィザードのクロスとかありそうでないな

198名前が無い程度の能力:2010/08/18(水) 14:55:39 ID:2TBU6dpYO
あげ

199名前が無い程度の能力:2010/09/05(日) 11:59:22 ID:hRd8JcnA0
スカーレット姉妹スレより転載

????「ここに来るのも久しぶりだな・・・」

咲夜「お嬢さま!お嬢様!」
レミィ「どうしたのよ咲夜、そんなに血相変えて。またあの腋巫女が乗り込んできたというの?!」
咲夜「いえ、そっちならまだ良いほうです。あ、あの方が・・・」

????「って、あの方扱いは無いだろう、従者はもうちょっと教育した方が良いな、レミィ。」
レミィ「お、お?お、スレイヤー小父様?!」
スレイヤー「久しぶり。息災かな?」
レミィ「わ、私は別に何とも・・・」
スレイヤー「ははは、そりゃそうだよな、あのスカーレット家をその年で継いだんだ、
       そうでなくっちゃとても当主なんてつとまらないだろうよ。」
レミィ「そ、それはそうですが・・・、小父様、今日は何用なのです?」
スレイヤー「鬼の世に 意味無き事も 楽しけれ」
レミィ「相変わらずHAIKUが好きなのですね。」
スレイヤー「まあ私は風変わりな吸血鬼で通しているからな。
       おっと、ちょっと一服したいのだが構わないかね?」
レミィ「・・・・咲夜、灰皿を持ってきて頂戴。」
咲夜「御意。」

スレイヤー「しかし、この幻想郷というのは良いところだ。無駄に戦わずに済む。」
レミィ「しかし、小父様、小父様は外の世界の方、なぜそうやって行き来できるというのです?」
フラン「あ、スレイヤー小父様だぁ!!」
スレイヤー「おやおや、これはとんだ可愛いサプライズだ。フラン、久しぶりだね。」
フラン「小父様こそ500年振り!」
スレイヤー「あの時は本当に可愛い娘だったのが、さらに可愛くなったねフラン。」
フラン「え、えへへへ・・・」
レミィ「・・・小父様、余りフランをたらし込まないで下さいまし。せっかくようやく普通の生活に
    戻ったばっかりなのですから。」
スレイヤー「いや、私は素直な言葉を述べただけだよ。フランは可愛いからうちのシャロンが会いたがっていたし、
        今度はシャロンも連れてこようとするかね。」
フラン「え?本当?シャロン小母様も?会いたい会いたい〜」
スレイヤー「それはうれしいなフラン。シャロンにも今度伝えておくよ。」
フラン「小父様!本当!?約束してよ?」
スレイヤー「私が約束を破ったことがあるかい?」
フラン「うん、待っているから!」

咲夜「灰皿をお持ちしました・・・」
スレイヤー「ああ、悪いねぇ。このパイプは最近目詰まりが多くてね、紙巻きタバコ並みに灰を出さないと。
        それじゃ失礼して。」
ふうー
レミィ「私には今一理解できませんわ、そのパイプ、いやタバコを吸うって。」
スレイヤー「まあレミリヤ嬢ちゃんには無縁だろうな、タバコ、いやパイプには世の中の思いが凝縮されているのだよ。」
レミィ「しかし小父様、まさか紅魔館に来てタバコだけを吸いに来たっていうことではないでしょうね?」
スレイヤー「ん?ああ、そうだよ。特にレミリヤ嬢ちゃんに話すこともないし、まあシャロンへの土産話に
        嬢ちゃん達の顔を見に来た、という理由ではだめかね?」
レミィ「・・・・・相変わらずですね、小父様・・・・」
スレイヤー「嬢ちゃんも次第に分かるよ、この煙の一時が年よりも貴重になる事が」
レミィ「また謎かけですか・・・小父様は相変わらず。」
スレイヤー「深く意味を考える必要もないんだよ、嬢ちゃん。ここ幻想郷に来てからだいぶ物の見方が変わっただろ?」
レミィ「それもそうですが・・・」
ふうー
スレイヤー「おっと、葉が切れてしまったか。嬢ちゃん、こんな老いぼれの話に付き合ってくれてすまないね、
       私もお暇するとしよう。」
レミィ「・・・・咲夜、お客様がお帰りなさるとの事よ、門まで案内してあげて・・」
咲夜「かしこまりました」

咲夜「美鈴、お客様がお帰りになるわ?」
美鈴「っがrbはrばrが、は、はい、お見送り致しますデス!」
咲夜「(今確実に寝ていたわね・・・)」
スレイヤー「さて、メイドのお嬢ちゃんも門番のお嬢ちゃんもここまででいいよ、お嬢ちゃんと妹ちゃんによろしくな」
美鈴「あ、あのう、ま、またおいで下さいましまし。」
咲夜「お嬢様、妹様には私から伝えておきますわ。お気をつけの程」
スレイヤー「ああ、それではな。」

スレイヤー「さて、この老いぼれの最後の一花をさかせに参りますか。
       花散りて 後に残るは 煙かな。」

パチュ「・・・・スレイヤー様って、最後まで本当に何を考えているのか・・・」
レミィ「HAIKUだけは拘っていたようだけどね。」

200名前が無い程度の能力:2010/11/21(日) 15:57:33 ID:EnPkiurE0
ageてみる

201<激写されました>:<激写されました>
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202名前が無い程度の能力:2011/02/12(土) 16:30:04 ID:aQ6lYKBY0
八雲紫…戦闘A・MH制御3A・演算3A・耐久A・精神B2・クリアランスF

魅魔…戦闘A・MH制御B1・演算B2・耐久B1・精神B1・クリアランスVVS2

神綺…戦闘B1・MH制御2A(VA)・演算2A(VA)・耐久A2・精神A・クリアランスVVS1(F)

魂魄妖忌…戦闘2A・MH制御C・演算C・耐久B2・精神2A・クリアランスVS1

八坂神奈子…戦闘3A・MH制御A・演算A・耐久A・精神A・クリアランスVVS1
洩矢諏訪子…戦闘2A・MH制御2A・演算A・耐久A・精神A・クリアランスVVS1

八意永琳…戦闘2A・MH制御3A・演算3A・耐久VA・精神C・クリアランスVVS1

203<激写されました>:<激写されました>
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204 ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:03:43 ID:IfDfZDkY0
誰もいない……復活するならいまのうち

流れ的には七話後編ですが、長いです。
後編−1、後編−2と区切らせていただきますのでご了承くださいませ。


「東方俺参上」これまでの3つの出来事!

1つ! 電王、野上良太郎が幻想郷の大木から落ちてきた!
2つ! 良太郎を追ってきたモモタロス、宴会で小さな百鬼夜行・伊吹萃香と大乱闘!
そして3つ! 平和な幻想郷に、悪事を働くイマジンの影!
        それは、博麗神社にも現れた!

205俺参上第七話後編−1(1/10) ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:19:37 ID:IfDfZDkY0
・この作品は「東方Project」と「仮面ライダー電王」の二次創作作品です。
・この作品には二次設定・独自設定が含まれております。
・この作品には戦闘シーンや暴力的なシーンが含まれております。
・この作品は「東方Project」及び「仮面ライダー電王」の原作及び他の二次創作作品とは一切関係ありません。

2008年10月6日(第百二十三季九)の朝、人里・寺子屋前。

中では上白沢慧音が里の子供達に授業を行っているが、その外は騒々しい。
見たことも無い妖怪が現れ。見境無く暴れているという情報が入ってきたのだ。

「すみません、その妖怪が出たという方角に案内してもらえませんか?」
「し、しかし桜井先生! 相手は危険な妖怪ですよ!? 何とかしたいというお気持ちはわかりますが
 里の妖怪退治のできる者か博麗の巫女の管轄ですよ!?」
「我々としてはあなたに妖怪に殺されてほしくない、どうかご自愛を!」

幻想郷にとって未知の怪物と戦おうとする外来人、桜井を必死に制止する里の男衆だったが
桜井の決意は変わらず、さらに悪い報せがそこに飛び込んでくる。

「大変だ! あのモグラの妖怪、博麗神社にも現れて暴れているそうだ!
 しかも複数、巫女は外出中と来ている!!」
「な……奴らめ正気か!? 博麗神社に悪さをすれば、自分達もただでは済まないというのにか!?」

そこに飛び込んだ悪い報せ。それは幻想郷の常識を真っ向から崩すものであった。
妖怪にとっても博麗神社は重要な場所なのだが、イマジンはそれをまったく理解していない。
古くからいる里人にとっては到底信じられないものであったが、イマジンの正体を知る桜井は違っていた。
里の男衆の制止を振り切り、外へと向かって走り出す。
その手には緑のラインの入った黒い札を持っている。

「あっ、桜井先生!」
「事態は一刻を争います! 慧音先生には話をつけておいてください!!」

言い残して走り去っていった男は、既に遠く走り去りその姿は小さくなっていた。
その直後、人里とその外とを隔てる区域の近辺で、緑色の光を目撃したという証言が
妖精の間でまことしやかに囁かれ。

その後には緑色の二頭の牛を象った仮面を付け、緑色の鎧に黒いスーツを纏い
緑色の「A」の文字が象られたバックルのベルトを付けた何物かが
金色の角を生やした白い乗り物に跨り博麗神社の方角へと向かって行ったそうだ。

206俺参上第七話後編−1(2/10) ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:24:21 ID:IfDfZDkY0
2008年10月5日(第百二十三季九)、朝。
朝靄も取れ、陽も徐々に高くなっていく頃の博麗神社。境内には神社の主である霊夢と
人里に住む上白沢慧音、そして現代的な服を着た男が立っている。
霊夢は鳥居の内側から階段を見下ろすように立ち
大幣を振りかざしながら何かを念じている。

「これで、俺は家に帰れるんですかねぇ……?」
(しっ、儀式の最中です。静かにしてください)

幻想郷に迷い込んだ者が生きて帰るほぼ唯一の手段。
それがこの博麗神社から出るということなのだが、博麗神社自体は幻想郷にも存在している。
そのため、神社の巫女である霊夢が外の世界に神社の出口を繋げる事で
帰る道を用意しているのだ。今はその儀式の真っ最中。
慧音はともかく、男のほうは半信半疑といった様子で状況を眺めていた。

霊夢の大幣を動かす手が止まり、一息つく。儀式が終わったのだ。
これで鳥居をくぐって外へ出れば幻想郷を後にできる。
外の世界の生活に慣れた者にとっては、幻想郷はとても住み辛い場所である。
百年以上の隔たりは生活様式や価値観を一変させるには十分すぎる時間であった。
幻想郷が結界で隔離されるさらに昔、日本が海外諸国との交流を禁じ鎖国した時のように。

「さ、鳥居をくぐって階段を下りてください。これで帰ることができるはずです」
「本当か!? やった、これで家に帰れるぞ!!」

鳥居をくぐり外へ出るように促す霊夢を尻目に、礼も言わずに一目散に駆け出す男。
よほど幻想郷の環境が男にとって耐え難いものだったのだろうか。
後にする世界への未練などと言ったものは微塵も存在していない。
そんな様子に、幻想郷の住人はやや呆れ顔である。

「全く、帰る手伝いをしたんだから礼の一言ぐらい言いなさいよね……」
「礼だけでいいとは案外謙虚だな。法外な額の賽銭を要求するものだと思っていたが。
 まあ礼も言わずに……というのは、私も引っかかるな。
 気持ちは分からんでもないが、やれやれだ……」

二言目には賽銭の話題が出てくる霊夢にしては珍しく、男に対し賽銭についてそれほど触れていない。
曰く「あんなのから賽銭もらってもどうせ信仰心のかけらも無いただの銭。そんなの別に興味ない」との事。
お賽銭には、神様に対する信仰心が少なからず込められて然るべき物。
信仰心の欠片も無いお賽銭は、もはや賽銭ではない。ただの銭である。
そのただの銭も、普通にお茶を飲み昼寝をし
境内の掃除をするだけの日常を送る霊夢にはあまり意味が無い。

207俺参上第七話後編−1(3/10) ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:27:21 ID:IfDfZDkY0
「なるほど、思ったよりまじめに仕事してるじゃないか。噂は所詮噂に過ぎないって事か。
 ところで、今日来たのは別の用事もあるんだ。護身用の霊札を何枚か用意してくれないか?」
「里の新しい先生用でしょ。夜中に里の外に出るなんて、どうしてこう外の世界の人は
 やることが無茶なのかしら」

妖怪の時間である夜中に外を歩く外の世界出身の先生。
星を見るためとはいえあまりにもリスクが大きすぎる。
そんな彼の行動を、霊夢は話に聞き、呆れていた。
それでも、護身用に霊札を慧音を通じて渡している。

「まぁ、私からも注意はしておくがあまり悪く言ってくれるな」
「わかってるわよ。よく魔理沙経由で噂を聞くけど悪い人じゃなさそうだし
 この間椎茸のおすそ分けも貰ったし……はい、どうぞ。侑斗さんによろしく伝えといて」

霊夢も外の世界から来た寺子屋の新しい先生――桜井侑斗とはそこそこの面識があるようだ。
桜井は幻想郷で生きるために霊札を霊夢から、桜井はその謝礼に食料などを、互いに渡している。
こうして、それらの行為を桜井の職場仲間とも言える慧音が仲介することもある。

「すまないな。ではまた必要になったら邪魔させてもらうよ」

札の入った袋をしまい、用を終えた慧音は博麗神社を後にする。
霊夢はそれを見送るなりさっさと縁側でお茶を飲む用意を始める。
迷い込んだ外の世界の人間を返し、ごく稀な巫女の仕事をこなし、後はお茶を飲むだけ。
霊夢にとって何一つ変わりの無い幻想郷の日常。これが数時間の後どころか
即座に壊れようとは彼女の類稀なる勘をもってしても気づかないものであった……。

その証拠に、博麗神社の上空をデンライナーが通過する。その音で気付きそうなものなのに
霊夢はまた妖精が騒いでいるだけか、と気にも留めなかった。よくも悪くも暢気だったのだ。

博麗神社へと続く階段の麓。喜び勇んで鳥居をくぐり、階段を駆け下りた男は
無様に地面に突っ伏していた。それはまるで、階段から転げ落ちたかのようであった。
だが、それが階段から転げ落ちたものではない事を示すように
男の周りには赤い血ではなく白い砂がぶちまけられていた。

その傍らには、男が砂をぶちまける原因を作ったオウルイマジン。
気を失い倒れている契約者を蹴飛ばすと、博麗神社へと続く石段を見上げる。

208俺参上第七話後編−1(4/10) ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:32:47 ID:IfDfZDkY0
――……の紅白の……も……魔……から……せよ……

「またあの声か……少しうるさいぞ。何だろうと潰せばいいのだろうが!
 もう、奴を追う必要など無いのだからな!」

オウルイマジンの頭に響く声。それが何なのかは彼にもわからない。
だが、聞けば聞くほど不快感を煽られる声。イマジンは、元々破壊衝動の大きい存在である。
それはモモタロスら良太郎の仲間のイマジンとて例外ではない。
モモタロスらには良太郎やハナという制御があるのに対し、オウルイマジンにはそれが無い。
耳障りな声と一方的な命令。オウルイマジンの破壊衝動が外へ漏れ出すのに
時間は全くかからなかった。

周囲の木、石段、果ては神社の鳥居。オウルイマジンの今立っている場所から
目に付くもの全てを攻撃している。幸い、石段の距離が長かったために
博麗神社の本殿には被害は及んでいない。だが、攻撃の手が伸びるのは時間の問題であった。
博麗神社は、妖怪にとっても重要な場所である。力の弱い妖怪にとっては
神社の巫女は恐ろしい存在であるが、神社そのものは重要な場所である。
それより何より、神社が破壊されて巫女が機嫌を損ね、周囲の妖怪に
八つ当たりまがいの勝負を仕掛けられてはたまったものではない。
故に、神社の近辺で暴れるオウルイマジンを止めようとするものも、中にはいた。
だが、イマジンは妖怪以上に力の掟を崇拝していた。結界の影響で遥か昔妖怪の時代だった頃に
比べ、力の衰えた妖怪に、イマジンを止める術は無かった。

しかし、だからといってイマジンの非道が許されるはずは無い。悪事には相応の制裁がついて回る。
オウルイマジンが破壊衝動の矛先を神社に向けようとした時、それは現れた。
時を越える列車、デンライナー。
デンライナーはオウルイマジンの視界を遮る様に横切り、再び空のかなたへと消えていった。
デンライナーの代わりにオウルイマジンの前に立ちはだかるのは3人の影。
一人はひらひらした紅白の巫女装束を纏い、赤いリボンで黒髪を束ねた少女。
一人は気弱そうな、けれどその眼には明らかな意思の光が輝いている青年。
そしてもう一人は、禍々しい外見ながらも悪事を許さぬ心を持った、赤鬼のようなイマジン。

「よう、また会ったなフクロウ野郎。そんな罰当たりな事やるより俺と遊ばねぇか?」
「電王。そんなに遊びたければ、そこら辺にいる変なガキどもとでも遊んでいろ。
 ……やつ等が生きていれば、の話だがな!」

モモタロスの挑発も意に介さず、破壊活動を行うオウルイマジン。
矢羽が木々に突き刺さり、爆発を起こす。そこから蜘蛛の子を散らしたように妖精が飛び出す。
もはや災難というより他に無い。イマジンが活動を開始してからというもの
妖精にとっては優しくない事件が次々と起こっている。その様は、か弱い妖精だろうと
容赦しない霊夢がドン引きする程酷いものであった。
良太郎とモモタロスに至っては言わずもがな。厳しい表情をイマジンに向けている。

209俺参上第七話後編−1(5/10) ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:35:22 ID:IfDfZDkY0
「ちょっと。いい加減弱いものいじめはやめたらどうなの?
 見てる分にも気分のいいものじゃないわ」
「全くだ、気にいらねぇな。せっかくナオミに酔い覚まし貰ったのに
 違う意味で気分が悪くなってきたぜ」
「む? 電王の後ろにいるのは……巫女か。貴様も時間を越えているのは本当だったようだな。
 馬鹿な巫女だ、こんな所にのこのこ来さえしなければ楽に死ねたものを」

イマジンは、明確に霊夢に対し殺意を向けていた。それはイマジンが電王に向ける殺意と等しく
良太郎やモモタロスにしてみればいつもの事だった。慣れる慣れないの問題はさておいて。
霊夢も、妖怪から殺意を向けられる事はある。しかし、今向けられている殺意には
普段向けられているそれと、ただ唯一にして決定的な違いがあった。

――振りであるか否か。

霊夢――博麗の巫女は、幻想郷にとって無くてはならない人材。無闇に殺すなどもっての他である。
博麗の巫女を殺す事ができないがために、決闘儀式の手法まで
生み出されるほど博麗の巫女は守られた存在だったのだ。
オウルイマジンから向けられた殺意は、矢羽となってまっすぐ霊夢に突き進む。
明確な、嘘偽りの無い殺意に霊夢は一瞬慄くが、辛うじて矢羽を障壁で叩き落す。
以前過去に飛んでモールイマジンと対峙した時に、イマジンの恐ろしさは理解していたつもりだった。
だが、一度や二度戦っただけでは頭ではまだしも心で理解するのは難しい。
それが、勝手の違う相手となれば尚更の事。

「……一応忠告しておくわ。私を殺したら、あんたもただじゃすまないわよ。
 この幻想郷で長生きしたかったら、変な真似は今すぐやめなさい」

霊夢の言っている事は、幻想郷において何一つ間違っていない。
良太郎とモモタロスも、霊夢が幻想郷で大事な役割にいるというのは
昨夜酒の席でだが聞き、良太郎もモモタロスも自分なりにではあるが理解しているつもりである。
しかし、オウルイマジンは違う。理解していないのではない。理解する気がさらさら無いのだ。
適当に願いを叶える。邪魔なものは全て壊す。過去へ飛ぶ。過去を壊す。邪魔なものは全て壊す。
それがイマジンの基本的な行動原理。この邪魔なものの範疇に霊夢が入ってしまった。
それだけだ。それだけでイマジンには十分過ぎるほどの霊夢を殺す理由がある。

「お前が何を言っているのかさっぱり理解できんな。
 お前が邪魔ならば潰す。壊す。消す。殺す。それだけだ……潰れろ!」
「危ない、霊夢さん下がって!」
「……くっ!
 (……こいつ、本気で私を殺すつもりなの? 昨日のモグラや蔦の意魔人も、本当に私を……!?)」

210俺参上第七話後編−1(6/10) ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:42:35 ID:IfDfZDkY0
ポーズでもなんでもない、イマジンから発せられる殺意。
幻想郷に住む宵闇の妖怪が人を食うとのたまうのとは全く違う。
普段の異変でもそう体感した事の無い威圧感。
霊夢の忠告も、幻想郷の掟も、イマジンの前には砂利程度の価値しかなかった。
幻想郷の妖怪は、博麗の巫女を殺せない。そんなルールは、イマジンには無い。
霊夢の眼に恐怖の色が映ったと見るやオウルイマジンはペン型の剣を手に突撃してくる。
しかし、霊夢に恐怖を与えても、良太郎とモモタロスには一切効果が無く。
それどころか、彼らの怒りを買っている。ペン型の剣は、炎のようなモモタロスの剣
――モモタロスォードに遮られて霊夢自身どころか結界にさえ届いていない。
直後、モモタロスの蹴りがオウルイマジンの鳩尾に突き刺さり、そのまま相手を仰け反らせる。

「ぐぬっ……何故貴様はこうも我々の邪魔ばかりするのだ!」
「へっ、簡単だ! てめぇらが気に入らねぇから邪魔するんだよ! 良太郎、ボロ服女連れて離れろ!」
「わかった! 霊夢さん、こっちに!」

モモタロスの作った隙は、体制を立て直すのには十分だった。
イマジンとの思想の差異に混乱した霊夢を落ち着かせるためにも
一度霊夢を安全な場所に下げさせる必要があった。しかし、数歩程度下がっただけで
一向に霊夢はそれ以上引き下がるそぶりを見せない。

「待って。良太郎さん、意魔人っていつもあんな感じなの?」
「うん。昨日話したと思うけど、過去も、現在も、未来も全部めちゃくちゃにするのが
 僕達が戦うイマジンなんだ。あいつらはそのためには何だってやる。
 霊夢さんがどんな異変解決を体験してきたのか僕は知らないけど、イマジンの異変を
 解決するつもりなら、すごく危険で怖い事だって事だけは覚えておいてほしい。
 僕も、電王になってからももうダメかも……って思ったことが何度かあるしね。
 なりたての頃なんてよく気絶してたし」

霊夢は、どこかでまだイマジンはいつも相手にしている妖怪の延長線上の存在だと思っていた。
しかし、たった今その決定的な違いを思い知らされたのだ。
良太郎やモモタロスがいなければ大変なことになっていただろう。

「ええい、どけアホイマジンめ! 巫女を潰せんではないか!」
「おい良太郎、何やってるんだ! 早くボロ服女を安全なところまで連れて……」

思い違いをしていたのは、霊夢だけではなかった。モモタロスも、あるいは良太郎も
幻想郷に住む巫女を、自分たちの世界にいる「振りだけの」巫女だと
思っていた部分は、少なからずあったのだろう。博麗の巫女、あるいは博麗霊夢個人としてか。
モモタロスと良太郎の、彼女に対する認識を改める必要が、この直後に起きることとなる。

211俺参上第七話後編−1(7/10) ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:44:41 ID:IfDfZDkY0
「冗談言わないで頂戴モモタロス! 私はね、博麗の巫女なのよ。
 外の世界のだろうと何だろうと、妖怪に舐められたままで引き下がれるもんですか!」

奥歯を食いしばり、恐怖を払いのけ霊夢はオウルイマジンに向けて啖呵を切る。
普段は博麗の巫女としての自覚などどこ吹く風とばかりの生活を送っている彼女だが
神社を危険に晒し、幻想郷に相応しくないほどの暴れ方をするオウルイマジンを前にすれば
いくら暢気な彼女とて黙って見過ごすことは出来なかった。
放置しておけば単純に自分の生活や生命が危ないという理由もあるだろうが。

「ごめんモモタロス、こういう事みたい」
「はぁ!? ……ああもう、どいつもこいつも言い出したら聞かねぇな!」

良太郎とモモタロスも、相手が時間を破壊するイマジンならば戦う理由は十分すぎるほどにある。
見ず知らずの場所で自分達に縁のある者が暴れているのだ。止めないわけにもいかない。

「……君が巫女さんとして戦わなきゃいけないのはわかるけど
 イマジンは本当に危険なんだ。僕達でフォローはするけど、危なくなったら絶対に逃げて」
「……大丈夫。避けるのとかは得意ですから、その辺は心配しないで。それに……
 そこのお面つけた白い鳥! あんたが何しでかしたのか
 その体に思いっきり叩き込んでやらないと気がすまないわ!」
「良太郎納得させるだけの事はあるってか、あるいは頑固モン同士意気投合しやがったか……
 ま、どっちでもいいけどよ。良太郎、こりゃ俺達も負けてられねぇぞ! 変身だ!!」

モモタロスはモモタロスで、ある意味良太郎を髣髴とさせるような頑固さを見せている
霊夢に対する評価を改め自身をさらに奮い立たせていた。
いよいよここからが見せ場とばかりに、良太郎に変身を促す。

「うん、行くよモモタロス……変身!!」

SWORD FORM

それに応える様に、いつの間にか良太郎に巻きついていたデンオウベルトのバックルに
良太郎の右手に握られたライダーパスがかざされる。
モモタロスの体は光となって良太郎の体へと吸い込まれていき
良太郎が纏うのは黒いライダースーツのようなオーラスキン。
そして、中央に線路の入った白いフルフェイスヘルメット。そこに装着される赤いオーラアーマー。
フルフェイスヘルメットの上に線路を走るようにモモタロスが憑依した証である
赤い桃型の電仮面が現れ、顔の前に来た途端、割れる。
桃太郎の誕生を象るように、両腕を広げ、電王・ソードフォームが参上した。

212俺参上第七話後編−1(8/10) ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:47:05 ID:IfDfZDkY0
口上「俺参上」

『俺、参上!!』
「……やっぱそれはやるのね。けれど、そういうのも悪くないかもって思えてきたわ!」

再び幻想郷に参上した電王に、霊夢は賛辞を送る。
妖怪退治の寓話の主人公のような単純明快さ。
自身も妖怪退治の寓話の主人公とも言える存在だけに
霊夢は電王の行為を自身と照らし合わせ首を傾げもするし、肯定もする。
今は電王のこのあり方を肯定し、自身も奮い立っている。
電王はデンガッシャーを、霊夢は大幣をその手に携え、イマジンとの戦いに備える。

『へっ。ならやってみるか? 言っとくがな、ちょっとやそっとの名乗り上げじゃ
 最初からクライマックスにはなれねぇぜ?』
「決闘儀式には口上も悪くないかもって思っただけよ。今度いいのを考えておこうかしら」
『考えるのはいいけどよ、良太郎にだけは相談すんなよ? へんてこなのになるのが落ちだからな?』
(……モモタロスだって人の事言えないじゃないか。そんなことより来るよ!)

行動権はモモタロスに譲っていても意識ははっきりと残っている良太郎が
電王の内側からモモタロスに不平を向け、同時にオウルイマジンの襲撃を報せる。
だが二人はそんな事は了承済みとばかりに、降り注ぐ矢羽を電王はデンガッシャーで
叩き落しながら、霊夢は普段の弾幕ごっこのノリで避けている。

『心配しなさんな良太郎! 空でも飛ばれねぇ限り、こんなフクロウ野郎に遅れをとったりしねぇよ!』
「仮に飛ばれても、私が一発で撃ち落してやるから大丈夫ですよ……こんな風にね!」
「フン、貴様のようなガキに何が……ぐっ!? 貴様何を……」

霊夢の投げた札は、的確にオウルイマジンに張り付き、霊撃を与えていた。
オウルイマジンも剥がそうともがくが、剥がしてどうこうなるものでもない。
それ以前に、そう簡単に剥がれない。アイビーイマジンにも通用した「特別製の札」。
「意魔人バスター」とか「意魔人ブレイカー」とかそんな名前だろう。

(動きが鈍った、今だ!)
『俺にもやらせろ、てぇりゃああああっ!!』

その特別製の札はオウルイマジンの動きを鈍らせ、そこに電王のデンガッシャー・ソードモードの
赤い刃が入る。イマジンを相手にするまで、他の誰かと共闘などした事の無い霊夢だが
意外にもモモタロスとの連携がうまくいっている。いや、うまくいっているように見えるだけだろうか。
互いに好き勝手やった結果がうまく噛み合っただけに過ぎないだろう。

213俺参上第七話後編−1(9/10) ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:49:17 ID:IfDfZDkY0
「お、おのれ……!!」
『なぁ、気に入らねぇ奴にはどうするか知ってるか?』
「どうしたの急に? そんなの決まってるじゃない」

     んだよ!!
こうする
     のよ!!

追い打ちをかけるように、電王と霊夢の蹴りが同時にオウルイマジンに入る。
電王はともかく、霊夢の蹴りはいくら霊夢に体術の心得があるといっても少女の蹴りである。
それを感じさせないのは、彼女の霊力の賜物と不思議なくらいに電王と合っている呼吸であった。
二対一ということもあり、勝負は圧倒的に電王と霊夢が優勢である。

「ちっ、電王はともかく巫女のクソガキがここまでやってくれるとはな!
 ここは一度退散させてもらおう!」
(まずい、逃げられる!)

電王はともかく、霊夢の善戦。これはオウルイマジンにも想定外だったらしく、空へと逃げようとする。
空へ逃げれば接近戦主体の今の電王相手ならば振り切るのも容易い。
そうはさせまいと、電王は一気に勝負に出た。パスをバックルにかざし、必殺技の発動準備に入る。

FULL CHARGE
飛剣「俺の必殺技パート2」

『逃がすかよ! 俺の必殺技、パート2……そりゃああああっ!!
 ……くっ、このっ! 届かねぇっ!! 逃げんなこのフクロウ野郎!!』
「馬鹿め。せいぜい地べたで吠えているんだな……む? 巫女がいない、だと?」

実際、モモタロス・電王ソードフォームは少し距離の離れた相手こそ必殺技でカバーできるが
元々空の相手は不得手である。少し高度をとられるだけでも、このように必殺技が宙を切ることになる。
電王本人の装備には対空装備もあるのだが、今は使えない。
空を飛ばれては、今の電王ではお手上げ状態である。
しかし、今や空はイマジンだけのものではない。否、過去も現在も未来も
空はイマジンのものではない。その証拠に、電王の隣にいたはずの少女はいなくなっている。

214俺参上第七話後編−1(10/10) ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 22:56:22 ID:IfDfZDkY0
「あんたが理解しようがしまいがどっちでもいいけど、幻想郷で一番大事なことを教えてあげるわ!」
「何っ、電王ではなく貴様が飛んだだと!? おのれ、巫女が飛ぶなど戯言ではなかったのか!」

息をするように、霊夢は宙へと浮かび、そのままオウルイマジンの目の前の高さまで上がる。
その右手には霊札ではない、ただの紙――スペルカード。
しかし今から繰り出されるものは、ただの紙ではない。
元来は遊びのためのものだが、今はそうも言っていられない。

霊符「夢想封印」

「貴様何を……ぐおおおおおっ!?」

色鮮やかに輝く光の珠が、霊夢の周りを舞い、オウルイマジンを巻き込む。
矢羽で応戦するも、矢羽は全て光の珠に飲み込まれていく。
電王の必殺技に比べれば、力強さよりも美しさの方が断然強調されている。
元来、美しさを競うスペルカードルールのための技であったから。
殺傷力を付加しているため、本来の夢想封印とは若干異なっているかもしれないが
オウルイマジンは、己が愚弄した幻想郷の掟に敗れ、地に伏したのだ。

「……空を飛べる程度でいい気になるな。冥界にまで行けたら覚えておきなさい」
『けっ、俺がかっこよく倒すつもりだったのによ。おまけに派手な攻撃までしやがって。
 ……本当、何者なんだよあのボロっちい巫女さんの服着たガキはよ』
(まぁ確かに、普通の人は何の道具も使わないで空は飛ばないしね……)

感想を述べる電王を尻目に、霊夢は難なく着地する。その視線の先には、電王がいる。
何を語るでもなく互いに歩み寄り、霊夢は思い切り手を上げ、電王をやや軽めに手を上げる。
互いの手のひらが触れ、小気味良い音が響き渡る。

215 ◆cedHmDsvEg:2011/03/24(木) 23:12:10 ID:IfDfZDkY0
今回は以上です。

前回から相当間が空いてしまいましたが、また不定期に投下させていただく所存であります。
心待ちにしていた方、いらっしゃいましたらお待たせして申し訳ありませんでした。

216名前が無い程度の能力:2011/03/25(金) 12:49:01 ID:yP4dGa2Y0
おかえりなさい! あいかわらず面白かったです!!

217名前が無い程度の能力:2011/03/26(土) 04:15:12 ID:Mo.jTNBQ0
>口上「俺参上」
ディケイドでは何の役にも立たないカードだったけど
スペルカードルールでは役に立つのだろうか、これ

どういう弾幕になるのか見当がつかねぇw

218名前が無い程度の能力:2011/03/29(火) 14:57:47 ID:ybqqso0A0
______1505年
最強のアサシン"エツィオ・アウディトーレ"は
宿敵"チェーザレ・ボルジア"が今現在スペインに居ることを知り、
スペイン行きの船に乗るため、そして旧友"レオナルド・ダ・ヴィンチ"と再会するために、
船でローマに向かっていた。
しかし途中で嵐にあい、不幸なことに船が転覆してしまう。

時は変わり、
その頃幻想郷では新たな勢力の妖怪が出現。
だが幻想郷の住人は"その妖怪および幹部には攻撃出来ない"という謎の暗示にかかり、
いつの間にか幻想郷は数箇所と人間の里を残して新勢力の支配下に置かれてしまった。


そして気が付くとエツィオは見知らぬ洋館のベットに寝かされていた。

そしてエツィオは一人のアサシンとして、幻想郷に平和を取り戻す為、
決して語られることの無い御伽の国の戦いに身を投じるのであった。


物語が進んでいくうちにエツィオは、その新しい勢力が拡大した裏には
人類の知能を超越した様々な能力を持つ、"特殊なエデンの果実"が関わっていることを知る……。


ってネタ、需要皆無
そもそもアサクリを知ってる人がいるかどうか

219 ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 01:31:03 ID:2bdQVyfM0
>>218
潜入弾幕アクションとな
調理法によっては実に興味深いものになるかも


……ごめんなさいアサクリはわからないのでggりました


第七話後編パート2、投下します。

・この作品は「東方Project」と「仮面ライダー電王」の二次創作作品です。
・この作品には二次設定・独自設定が含まれております。
・この作品には戦闘シーンや暴力的なシーンが含まれております。
・この作品は「東方Project」及び「仮面ライダー電王」の原作及び他の二次創作作品とは一切関係ありません。

220俺参上第七話後編−2(1/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 01:44:23 ID:2bdQVyfM0
光の珠に飲み込まれ、時の砂へとオウルイマジンは還っていく……はずだった。
光の珠が消えた後、オウルイマジンはまだそこにいた。
まるで糸の切れた人形のようにうなだれながら、その体を砂嵐のノイズのようにかき消しながら。

(……ま、まさか! まずいモモタロス、あのイマジン、暴走する!!)
『何ぃ!? おいボロ服女、今度はマジでやべぇ、今からデンライナー呼ぶからとっとと乗りやがれ!』
「ちょっと、私に指図しないでよ……って何じゃありゃぁ!?」

そこにいたのは、オウルイマジン「だったもの」。その大きさは優に10倍はある。
鳥のような、虫のような異形。イマジンも大概な外見だったが
「それ」はさらに形容しがたい外見を誇っていた。
鳥の羽と蝙蝠の羽で形成された左右非対称な翼。蜂のような下半身に、虫とも、鳥とも言えぬ頭。
イマジンは契約した人間のイメージでその体と一部の能力を形成する。
その彼らの源とも言えるイメージが許容量を超えるダメージによって暴走した姿――ギガンデス。
鳥や羽虫など天空に住まうもののイメージをでたらめにつぎ込んだ
旧約聖書に描かれたとされる「ジズ」が最もその姿形に近いであろう。

一度死して人格等を失い、より凶悪な力と姿を得て生まれ変わる。それがイメージの暴走。
もはや、イマジンの使命も何もあったものではない。そこにあるのはただの破壊衝動。
かつての契約者だろうと何だろうと、目の前の全てを焼き尽くすために
ただひたすらに攻撃を繰り返す。見た目こそ弾幕ごっこで用いられる攻撃に似ているが
美しさなどひとかけらも無い。ただ、相手を滅ぼすためだけの醜い攻撃でしかない。

「さすがにこれはきっついわね……萃香でもここまで手がつけられない状況にはならないわよ」
『だから言っただろうが、イマジンは危険な奴だって!』
(デンライナーが来たよ、霊夢さん、乗って!)

人の身で相手をするには、ギガンデスはあまりにも強大だった。
攻撃の影響で、既に周辺は穴だらけになっている。
電王も、霊夢も避けるだけで精一杯であった。
仮に反撃できたとしても、攻撃が通るかどうかは定かではない。
イマジン退治の専門家、電王が持つギガンデス対策の唯一の方法。
それこそが、彼らが今乗ってきた乗り物――デンライナーである。

「デンライナーでどうするつもりなの? まさか逃げるの!?」
『馬鹿言いなさんな、戦うに決まってんだろうが! 危ねぇから食堂車でじっとしてろ!』

221俺参上第七話後編−2(2/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 01:47:46 ID:2bdQVyfM0
空に虹色の空間が現れ、その中から線路を生成しながらデンライナーが到着する。
ギガンデスの追撃をかわすように、二人はデンライナーに飛び込む。
デンライナー。時を越える列車であると同時に、暴走したイマジンへの抑止力も備え持った
戦闘列車でもある。到着したデンライナーは、先頭4両から後ろを切り離し
ギガンデスへ向けてその進路を切り替える。

そのデンライナーの操縦室。ここでは電王が既にギガンデスとの戦いの準備を完了していた。
デンライナーを操縦するのは操縦桿ではなく白い自動二輪車。マシンデンバード。
形状どおり、電王のバイクとしての運用も可能であるが
本来の用途は、こうしてデンライナーの操縦のために存在している。
もちろん見た目は通常のバイクである以上、二人乗りも一応可能だ。

『……で、何でてめぇがこっちに乗ってるんだよ』
「これって確かこういう乗り物でしょ? 違うの?」

ハンドルを握っている電王は良いとして、後ろに座っているのは霊夢。
デンライナーの戦闘において、デンライナーのスペック以外に重要視されるのは
ハンドルを握る側の操縦センスのみだ。
後ろに座っている霊夢はまさに「添えるだけ」の状態である。

『そういう事聞いてるんじゃねぇよ、大体てめぇがこっちにいたって何も意味ねぇだろうが!』
「いいじゃない。だったら私は楽させてもらうわ。それに、私がいればご利益が多分あるわよ。
 あんたはともかく、良太郎さんにはちょうどいいんじゃない?」
(食堂車切り離しちゃったし、こうなったらこのまま乗ってもらおうよ)

ここで霊夢を降ろすわけにもいかない。降ろしたところでギガンデスの攻撃に晒されるだけだ。
食堂車まで戻るのも危険だ。乗客を戦闘に巻き込むなど以ての外である。
良太郎の許可もあり、霊夢を後ろに乗せたままギガンデスとの戦いに臨む事となった。

『ちっ、しゃあねぇな。おいボロ服女、しっかり捕まってろよ! ……ちっ、やりにくくて仕方ねぇぜ』
「振り落としたらただじゃ済まさないわよ?」

デンバードは固定されているため、振り落とされたところで
余程打ち所が悪くない限り、致命傷には至らない。
しかし、だからといって振り落としていい理由になどならない。
モモタロスにしてみれば、後ろに十代半ばの少女が乗っているという事自体が
やりにくくて仕方が無い。いい迷惑である。

222俺参上第七話後編−2(3/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 01:51:28 ID:2bdQVyfM0
『いいから黙ってつかまってろ! 行くぜ行くぜ行くぜ!!』
「ちょっ、いきなり飛ばさないでよ!」

電王は、デンバードのアクセルを思いっきり回す。勢いよくチェーンと後輪が回り
それと同時に前方に写る画面の動きも加速する。
目標は暴れまわるギガンデス。アクセルを全開にして間もなく捉える事に成功する。
捉えた後はどうするか。まさか体当たりをするわけにもいかない。

「それで、武器はあるの?」
『へへっ、でかいのぶちかますからまぁ見てな!』

電王がパスを差し込んだスロットの隣にあるボタンを押す。すると、操縦席の後方から
何かが動く音が響き渡る。後部車両が変形しているのだ。
2両目。犬の頭部を模した音波砲発射装置「ドギーバーク」。
3両目。球状の爆弾を投擲する「モンキーボマー」。
4両目。鳥形の小型誘導ミサイル「バーディーミサイル」。
そして、先頭車両の上部に設置されている「ゴウカノン」。
デンライナーの標準武装として、1〜4両目にそれぞれ搭載されている。

程なくして、ギガンデスとデンライナーの撃ち合いが始まる。
それぞれ、その巨体に似合わぬスピーディーな動きで互いの砲撃を弾幕で相殺している。
幻想郷において、この光景を傍から見れば、スケールの大きい弾幕ごっこだろう。

だが、当事者――少なくとも電王の側は遊びではない。
ポーズだけは、あたかも遊びでやっているように見えたとしても。
幻想郷で偶に起こる異変と違い、時間を破壊するイマジンとの戦いは
「絶対に勝たなくてはならない」戦いなのだ。電王の敗北は、時の運行が破壊されることを意味する。
そうなれば、いくら全てを受け入れる幻想郷とてどうなるかわかったものではない。

「うっわー……それにしても派手ねぇ。あ、右から来るわよ! 次は左! その次は下!
 あーもう! 相手は目の前にいるんだからちゃんと当てなさいよ!」
『いちいちうるせぇ! しかしこの野郎、妙にすばしっこいぜ。攻撃が全然あたらねぇ』
(前に戦った時よりも強くなってる、油断しないでモモタロス!)

223俺参上第七話後編−2(4/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 01:55:57 ID:2bdQVyfM0
いつもなら、既にデンライナーがギガンデスを撃ち落とし、決着がついているはずだった。
だが、今回のギガンデス。妙にすばしっこい。デンライナーの攻撃をことごとくかわしているのだ。
デンライナーと対峙出来るほどの巨体のどこに、こんな小回りが利く機動性があるのだろう。
負けじとデンライナーも、冒険映画にでも出てきそうな鉱山のトロッコのような動きで応戦するが
今度はギガンデスの攻撃を防ぐのに手一杯になってしまう。
押されてるとまでは言えないが、優勢でも無かった。弾幕戦。これはもはやごっこなどではない。
互いに本気の弾幕戦。霊夢らが普段やっているごっこからは流儀に反するが
霊夢にとってこの状況を黙って見るのは少々、じれったい物があった。
霊夢が望んだのか、あるいは偶然か。それを覆すものが現れる。

鬼神「ミッシングパープルパワー」

突如現れた巨大な影。それは昨夜、共に酒と拳を交わした、幻想郷の小さな百鬼夜行、伊吹萃香。
この乱入には、電王はおろか、霊夢も驚いていた。
いくら萃香が神出鬼没とはいえ、あまりにも不意打ちが過ぎる。

「派手に暴れてるねぇ。けどさ、この下には大事な大事なものがあるんだ。
 そろそろ喧嘩はおしまいにしようか!」
『おめぇ……小玉西瓜じゃねぇか! どうしてここにいるんだよ!?』
(モモタロス、ここ昨日の幻想郷だから、いたっておかしくないよ……)
「萃香!? こうなったら、動きを止めてもらいましょ! 良太郎さん、萃香に呼びかけて!」

そう。モモタロスと萃香が拳を交わしたのは2008年10月6日。
今デンライナーでギガンデスと戦っているのは2008年10月5日。
たった1日。1日前の、モモタロスと拳を交わす前の萃香が、出没率の高い博麗神社にいた所で
何の不思議があるだろうか。ふと、デンライナーからデンバードが外に出る。
電王と、霊夢を乗せたまま。萃香に協力を仰ぎ、呼びかけるために。

『よう小玉西瓜! っつっても、昨日のだから俺とは初対面か……あーっめんどくせぇ!
 おい事情説明はおめぇがやれ!』
「ちょっと、丸投げしないでよモモタロス。それより萃香、あっちの羽生えてるやつの動きを止めて!」
「んー、元々そのつもりだったからいいけどさ、霊夢そんなとこで何してるの?
 新手の妖怪退治? その前にいるいけ好かない奴は……まぁどうでもいいや」

電王に変身した事で、モモタロスの鬼らしさは失せ、萃香にとっては全くの未知の存在となっていた。
それどころか、モモタロスは元来桃太郎の鬼をモチーフとしており、電王に変身したときは
鬼のイメージより桃太郎のイメージが先行する。萃香にとっては、あまり面白くない相手である。
電王の存在に不平はあるが、神社をギガンデスに壊されるわけには行かない。

224俺参上第七話後編−2(5/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 01:58:19 ID:2bdQVyfM0
『動きを止めるだけでいいからな! 後は俺らがぶっ放すから
 おめぇも撃たれないように離れとけよ!』
「むっ。何かあんたにだけは命令されたくない気がする、何でか知らないけどさ。
 ま、こいつは暴れ甲斐がありそうだし、いらいらするのはこいつにぶつけるとしようか!」
「んな事言ってる場合じゃないでしょ! あんたも神社壊さないでよね!」

萃香の投げた鎖が、ギガンデスを捕らえる。
その隙をついて、デンライナーはデンバードを格納し、再発進する。
捕まったギガンデスは、萃香もろとも空高く飛び上がろうとする。それを食い止めるべく
萃香の鎖を握る手に力が込められ、踏ん張る足はさらに地面にめり込んでいく。

「こいつ、見たこと無い奴だけど結構強い力だねぇ! でも力比べなら負けないよ!」

『……なぁ良太郎、小玉西瓜って、あんなに可愛げのない奴だったっけ?』
(電王の格好が桃太郎だからじゃないかな?
 彼女、鬼だって言ってたから桃太郎は嫌いなんだよ……多分)
「良太郎さん、ちょっと離れるわ。萃香のアレも、そう長くは持たないから早く倒さないと」

ふと、デンバードの後ろから霊夢が離れる。床に足を下ろせばさっきから酷く揺れている操縦席。
あっという間に転んでしまうだろう。そのため、宙に浮かんだまま霊夢は後部車両の方角を向き
陰陽球をかざしながら何かを唱えている。

『おい、酔ったのか? 吐くなら外で吐けよ』
「んな訳ないでしょ。ちょっと試してみたいことがあるの」
(試したいこと?)

飛び上がろうとしながらも、ギガンデスの攻撃はやまない。
萃香を狙う攻撃はデンライナーの砲撃で相殺し、こちらに向かってる来る攻撃は
急ハンドルでの回避。当然、思いっきり傾く操縦席。

「ちょっと! あんまり揺らさないでよ!」
『うるせぇ、文句言うな!』

文句を言いながらも、霊夢は呪文のようなものを唱え終える。
それと同時に、かざしていた陰陽球が青白い輝きを発し始める。
その輝きに合わせ、デンライナーも青白く輝く。

225俺参上第七話後編−2(6/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 02:02:24 ID:2bdQVyfM0
「終わったわよ。ちょっと『願掛け』してみたわ、試しにもう一度その武器のボタン押してみて」
『「願掛け」だぁ? おめぇ、そんなことのためにわざわざ……』
(モモタロス、いいから試してみて)

呆れながらも、良太郎に促され電王は再びデンバードのボタンを押す。
再び砲撃を開始するデンライナー。
だが、そこから繰り出される攻撃は今までのものとは違っていた。
その攻撃には、萃香も見覚えがあった。

「あれは……霊夢の弾幕? でもなんであの蛇から?」

『な、なんだぁ!? デンライナーからわけのわからねぇものが飛び出してるぞ!
 大丈夫なんだろうなおい!?』
「うっさいわね、ちょっと落ち着きなさいよ。悪いもんじゃないから大丈夫よ」
(お札が鳥になったり、あの跳ねてるのは……陰陽球?)

2両目。音波ではなく結界が展開され相手の動きを封じる、犬吠「狛犬陣」。
3両目。空中を跳ねる陰陽球型爆弾、猿珠「陰陽猿爆弾」。
4両目。相手を追尾する鳥に変化する札、雉札「バーディーアミュレット」。
そして、先頭車両に装備されているゴウカノンに加え、霊砲「夢想電砲」。
武装コンセプトは変わっていないが、それぞれの武装に霊夢の得物の意匠が付け加えられている。
デンライナーの白い車体にも、窓の部分を中心に赤いラインが走る。
ラインには霊夢の巫女装束同様の白い模様が入っている。

「基本的な部分は変わってないはずよ。さ、ぶちかましてやりなさい!」

変化したデンライナーは、一斉砲撃の体制に入る。
頃合を見計らったように、萃香の巨大化も切れる。
いくら疎と密を操るとは言っても、でたらめな質量変化を行えば、それなりにばてる。

「霊夢、今度は随分と派手な方法で妖怪退治するんだねぇ……
 ま、アレくらいやらないと退治できないのかな? ……あれ? さっき霊夢神社にいたよね?
 何であっちに……ま、いいか。ちょっと寝ようかな……ふぁ」

仰向けになった萃香の目には、見慣れた霊夢の攻撃を繰り出す
見慣れた柄の見慣れない巨大な蛇が、見慣れない巨大な鳥のような、虫のような
蝙蝠のような怪物を撃退している光景であった。
その光景を最後に、萃香の目は閉ざされた。体を大の字にして眠ってしまっている。

226俺参上第七話後編−2(7/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 02:05:47 ID:2bdQVyfM0
『へっ……何だか分からねぇがクライマックスだ!』
(うん。モモタロス、霊夢さん、行くよ!!)

斉射「巫女と桃太郎〜Double Action〜」

霊夢の手元に、デザインの変わったデンライナーによる砲撃が行われている絵柄の紙が
突如現れる。遊びでない弾幕戦ではあるが、スペルカードルールとしての体裁として
この攻撃の宣言であるスペルカードが霊夢の手元に今、存在する。
最も、これがギガンデス以外に使われることは恐らく無いだろうが。

ともかく、攻撃の宣言は行われた。ギガンデスの攻撃をぎりぎりのところでかわしながら
デンライナーからの猛攻撃が開始される。それは、霊夢の使用可能な弾幕を
ごちゃ混ぜにしたような攻撃。陰陽球が飛び跳ねたかと思えば、相手を追尾する札が飛び交い
針の如きゴウカノンの砲撃に相手の動きを制限する結界。
そして色鮮やかに輝き変則的な動きをする光弾。
その威力はギガンデスをあっという間に沈黙させるほど凄まじい物であった。
デンライナーの火力に、誘導や捕縛など霊夢の技の特性をそっくりそのまま乗せたのだから。

だが、弾幕ごっこの美しさで言えばどうだろうか。
まとまりの無い攻撃は、見た目のインパクトこそあれど、あまり美しいとは言い難い。

『なぁ、もうちょっとマシな攻撃パターンは無かったのかよ。
 あんなダサいの、出来れば使いたくねぇんだがな』
「ちょっと腹の立つ言い方だけど同意見ね。今の攻撃は無いわ、無い。
 やった私が言うんだから間違いないわ」
(えー、僕はいいと思うけどなぁ……あ、モモタロス。ちょっといいかな?)

このごちゃ混ぜ感に、霊夢とモモタロスは互いの意見に賛同し、良太郎は反対に評価していた。
ただし、彼の美的センスは一般とは少々、あるいはかなりかけ離れているが。
モモタロスという存在が、彼のセンスを物語っている。

『へいへい。じゃ、電車止めるぜ。ところで、デンライナー元に戻るんだろうな?
 あれだけ派手に変わるのなんて初めてだからよ、俺らはともかく
 オーナーのおっさんが何て言うかよ……』
「それなら大丈夫よ。多分もう元に戻ってるはずだから……外みたいにね」

与太話もそこそこに、モモタロスは良太郎の言わんとする事を理解したのか
デンライナーを食堂車と合流させ停車させるべく運転を再開する。
同時に、ギガンデスによって破壊された風景は、破壊される前の元の姿へと戻っていく。
博麗神社の境内も例外ではなく、その限られたスペースにうまく停車されたデンライナー。
そこに、男が良太郎によって運び込まれてくる。
オウルイマジンと契約していた、外の世界から迷い込んだ男だ。

227俺参上第七話後編−2(8/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 02:08:55 ID:2bdQVyfM0
「……ほんと、おめぇもよく飽きずにこういうことやるよな」
「いいじゃない別に。良太郎、ターミナルまでならその人乗せてもいいってオーナーが言ってたわ」
「よかった。後でオーナーにお礼いっとかないとね」

本来ならば、博麗神社から帰ることができたはずの男。だが、それが帰ることができないでいた。
限定的ではあるが、良太郎らは男が帰る手助けをしようとしていたのだ。
食堂車に運び終え、後は男をターミナルまで輸送した後に元の時間……
……とは言えわずか1日後だが。そこに戻るだけである。

「そういえば霊夢さん、幻想郷から帰るのには霊夢さんがいないと無理なんだよね?」
「え? ええ、そのはずなんですけど……この人は帰り損ねたみたいですね。
 たまにあるんですよ。結界に悪さする妖怪がいたりしますので」

実際のところ、結界に悪さ――細工を加えるのはその妖怪もだが霊夢本人が行う事もある。
しかし、今回は霊夢が必要以上に結界に手を加えるメリットが何も無い。
真面目に博麗の巫女としての職務を全うしたはずなのに、男は帰還することが叶わなかった。
そのためにこうしてデンライナーで輸送する羽目になってしまっているのだ。

「霊夢君、念のため断っておきますが……デンライナーの運行と
 今回の博麗大結界の誤作動は、何ら相互関係は……あ〜り〜ま〜せ〜ん、よ?」
「だ、大丈夫ですよ。べ、別にオーナーさん退治しようだなんて思ってませんから……」

オーナーがいつものように旗の立ったチャーハンと格闘しながら、霊夢に断りを入れている。
当の霊夢はやはり異変の元凶として退治するつもりだったのだろうか
口では否定しているが微かに冷や汗をかいている。
そんな霊夢を見たオーナーは「勝負ならチャーハン対決で」とリクエストまでしている。
霊夢と勝負することは吝かでは無いらしい。その霊夢の側が乗り気ではなくなっているが。

「あ、オーナー。今こうして普通に良太郎ちゃん達乗せてますけど……
 やる事って結局何だったんですか?」
「それでしたら良太郎君が手伝ってくれましたよ。今回は、ですけどね」
「えっ? それってまさか今回みたいな人をターミナルに……」

228俺参上第七話後編−2(9/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 02:13:03 ID:2bdQVyfM0
ふと、ナオミが思い出したようにオーナーに尋ねる。
そもそもデンライナーが何故幻想郷を走っているのか。
やることがあると言った筈なのに、今は普通にモモタロスがコーヒーを飲み
良太郎とハナがいて、オーナーがチャーハンと格闘している。
幻想郷からの乗客として霊夢と契約者の男が乗っている。
この二名と、ハナの身長を除けば良太郎が電王として戦い始めたころの
デンライナーの車内とそう大差無い。

オーナーがデンライナーを幻想郷に走らせる。その目的は、オーナーの口から
明言されることは無かったが、ハナの予想通り幻想郷に迷い込んだ人間を
デンライナーを使い送り返す、というものであった。

「……一応、依頼主の方からは内密に。と言われていますのでこの件はひ・み・つ、ですよ?」
(なるほど。それであの狐がデンライナーにいたのね)

霊夢は既に依頼主が誰であるか見当はついたらしく、お茶を飲みながら一息ついている。
自身にもさっぱりわからない結界の異常。何とも無いとのたまっても
その実お茶でも飲まないとやっていられない。今の彼女にとって、一杯のお茶は
この上ない清涼剤といえる。その際、しきりにナオミにコーヒーを勧められたが
モモタロスが飲んでいるものが本人の弁とは裏腹にとても美味しそうには見えなかった事と
魔理沙曰く「相当まずい」事から未だに敬遠している。
霊夢はお茶を満足げに飲んでいるが、ナオミは正直不服そうな顔をしていた。
その霊夢に出される予定だったコーヒーは、何故か良太郎のカップに入っている。
良太郎もナオミコーヒーが好きか嫌いかで言えば、あまり口に合わないのだが
そこは長い間デンライナーに乗っているせいか、耐性がついている。
コーヒーを飲みながら、良太郎は霊夢に質問を投げかける。

「霊夢さん、そういえば言ってたよね。幻想郷には外の世界の人が迷い込んでくることがある、って。
 それって結構頻繁に起こることなの?」
「本来はあまり無いらしいんですけど、最近はどうも頻発してるらしくって……
 巷じゃ『外来人異変』なんて言われる位には多いですね……勝手に異変にすんなっつーの」

霊夢の証言通りならば、他にも大多数の人間が幻想郷に自分の意思と関係なく
迷い込んでいることになる。今デンライナーに乗せた契約者の男。
彼のような者が他にも多くいるのだろうか。自分も含めれば、既に二人になる。
デンライナーで自分の意思でやって来たモモタロスらとは違う。
気づけば見知らぬ場所で、帰る手段も確立されていない。これは確かに、救助せねばなるまい。
ウラタロスらの発見もせねばならないというのに、意外な状況が発覚した。
この現状に良太郎も表情を硬くする。

「じゃあ、今はイマジンも来てますから『イマジン異変』ですね!」
「だから勝手に異変にすんなっつーの!」
「『イマジン異変』……あながち、間違いではないかもしれませんよ?」

229俺参上第七話後編−2(10/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 02:15:47 ID:2bdQVyfM0
ナオミの何気ない一言に霊夢は思わず突っ込むが、オーナーはナオミの意見に感心していた。
まるで、結界の異常にもイマジンが絡んでいるかもしれないといったニュアンスである。

「オーナー、それどういう意味ですか? まさかイマジンが幻想郷に迷い込んだ人を
 帰れなくしているとか……」
「現時点では、それについてはまだ何とも言えませんねぇ」
「でも実際騒ぎ起こしてるから、やっぱり異変は異変ね……本当、勘弁して欲しいわ」

オーナーの推理は、見事に当たっていた。幻想郷に迷い込んだのは、人間だけではない。
幻想郷に入ってきてから契約を果たしたイマジンを、良太郎が見たのはこれで2件目だ。
朱鷺色の羽を持つ妖怪の少女、幻想郷に迷い込んだ男。
いずれも契約を果たし、過去に飛んでいる。たった2件でも、わずかな時間での遭遇となれば
次があるのは想像に難くない。まして、既に実体化し活動していたイマジンもいた。
イマジンが幻想郷に古来からいる物の怪の類であれば、異変にはならなかっただろう。
しかしイマジンは、本来幻想郷にはいるはずのない物の怪の類である。
それが大なり小なり事件を起こせば、異変ともなる。

「大丈夫だよ。イマジンの事なら、僕らも出来る限りで手伝うから」
「ま、俺達に任せておけってこった。何なら、ボロ屋で昼寝しててもいいんだ……
 って痛ぇよハナクソ女!」
「一言余計なのよバカモモ! 霊夢さん、私達にとってもイマジンは無視できない存在ですし
 イマジン絡みの異変なら私達にも手伝わせてください」

普段、霊夢は異変解決に際して誰かの力を借りることは基本的に無い。
今回も、出来るならば一人で解決するつもりだったのだ。だがそれは不可能であるかもしれない。
かつて、永夜異変とよばれる異変が起きた際にも一人の力ではどうにもならなかった。
その時と同様に、他者の力を借りる事になるだろう。
知己の妖怪ではなく、外来人の青年と少女、そして外の世界の妖怪とも呼べる者達の力を。

「……そうね。じゃあ、イマジン絡みの異変はよろしくお願いするわ」
「うん、こっちこそよろしくね」

良太郎が差し出した手に、霊夢が手を重ね、その上にハナが手を重ねる。
 あと一人、モモタロスがおずおずと左手で頭をかきながら、右手をその上に重ねる。

「さ、イマジンの異変を解決して、ウラ達も早く見つけましょ!」
「「「「おーっ!」」」」

230俺参上第七話後編−2(11/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 02:19:32 ID:2bdQVyfM0
ハナの号令で、一斉に掛け声を上げる。
チーム・デンライナーwith博麗の巫女、結成の瞬間である。
その光景にナオミは感激しながらも、思い出したようにマイクを手に取り
チャイムを鳴らしアナウンスを行う。

「まもなく、デンライナーは時の列車ターミナルに到着します。
 お降りの方は、お忘れ物の無いようにお願いします!」

アナウンスが響き、デンライナーはターミナルに到着する。
他の車両に乗っている乗客と、良太郎が連れてきた契約者の男が下車していく。
その後まもなく、デンライナーはターミナルを後にした。
オーナーもナオミも、今回はターミナルに用事が無いのか降りるそぶりは見せなかった。

ナオミのアナウンスと共に、再び発車するデンライナー。
仲間のイマジンが少ない以外は、普段のデンライナーとさほど変わらない光景。
程なくして元の時間に到着し、降りようとする良太郎達。
早朝から一波乱ありはしたものの、ようやく今日の本来の目的に向けて動くことができる。

「良太郎君。先ほど話したとおり、幻想郷から帰れない人達については我々で何とかします。
 今回のようにイマジンがらみとなれば、協力してもらう事もあるかもしれませんが……
 当面、ケータロスとウラタロス君達の捜索に専念して下さい。
 そ〜れ〜と。デンバードも自由に使ってもらって結構です。皆さん霊夢君と違って飛べませんし、ね」
「おっさん、デンバード無しだとデンライナー動かねぇだろうが……まさか」

モモタロスの懸念に、オーナーはステッキを左右に振る。違う、と言いたいらしい。
状況が読めない良太郎と霊夢に、ハナが解説する。

「前、デンバードが無い時にオーナーが人力でデンライナーを動かしたのよ。
 霊夢さんはともかく、あの時良太郎はいなかったんだっけ」
「嘘っ!? こんなおっきい乗り物を人力で!?」
「お、オーナーならやりかねない……ね。あの人デンライナーと同じスピードで走れるらしいし」

信じられないと言った様子の霊夢と、その光景を見たことが無いにもかかわらず
ありありと想像できてしまった良太郎。さらに良太郎のオーナーに関する
武勇伝(?)も耳にしたことで、霊夢のオーナーに対する警戒心がさらに増してしまうことになった。

「おっと。霊夢君の目線も怖くなってることですし、そろそろデンライナー出しますよ?」
(ぎくっ)
「あ……そうですね。それじゃオーナー、今度はウラタロス達を連れて帰ってきます」
「じゃあまたな、おっさん!」

231俺参上第七話後編−2(12/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 02:25:38 ID:2bdQVyfM0
オーナーとナオミに見送られ、4人はデンライナーを後にする。
ふと、霊夢はオーナーのありえない身体能力と胡散臭さ、どこからどこまでわかっているのか
まるで見等のつかない態度から、よく知る妖怪を想起せずにはいられなかった。

(わけのわからない程度の能力を持っている輩って、どこにでもいるものね。
 良太郎さん達の事を踏まえれば、確かに退治すべきはあの人じゃないわね)

デンライナーの扉を開けた先は、博麗神社。先日同様、拝殿が出口になっていたのだ。
太陽の高さから見て、デンライナーに乗ってからそれほど時間は経っていないように見える。
しかし、発つ時にはいなかったはずの人物が、境内で霊夢らを待っているように
佇んでいたのだった。その目は、少々赤い。

「あら魔理沙じゃない、あんた何しに来たの? ……目、赤いわよ」
「……ああ、何でもない。何でもないんだぜ」

チチチチチチ・・・チッ・・・チッ・・・チッ・・・

232 ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 02:27:52 ID:2bdQVyfM0
次回予告
昨日と今日。イマジンは同時に暴れていた。
初めてイマジンと真っ向から対峙する普通の魔法使い。
幻想郷にとって普通の魔法使いに、普通ではない想像の魔人は退治できるのか。
いや、巫女も電王もいない。やらなければならないのだ。

「私がお前らを退治してやるぜ」
「お前は俺達に潰されるよ!」

少女の決意は涙と、戦士を呼ぶ。
それは電王ではない、また別の戦士。
幻想郷に最も近く、そして幻想郷でさえあってはならない戦士。

「な、何でお前がここにいるんだよ!?」

幻想郷に呼ばれたのか、迷い込んだのか。あるいは意図的に入り込んだのか。

「気がついたらここにいたんだ。俺、何もわからないって気がする」
「君は、記憶喪失だとでも言うのか?」
(記憶喪失……? にしては彼、おかしいわね……)

緑色の戦士は、再びそのかけがえの無いものを代償に戦うのだろうか。

「……最初に言っておく」

次回 東方俺参上 第八話
零符「ゼロからはじまるミステリー」

233 ◆cedHmDsvEg:2011/04/11(月) 02:41:41 ID:2bdQVyfM0
以上、話が進んでない気がしますが第七話でした。
等身大戦も大変なのに電車戦書こうとするから遅くなりました。
でもまた電車出ます。だって電王ですもの。

MOVIE大戦2010やらレッツゴーやら見終えた後だとライダーに限らず
ヒーローは幻想郷には似合わないのかもしれない、とも思いますが
東方俺参上は可能な限り続けていく所存です。

>>216
ありがとうございます、俺得話なのにそう言って頂けるのは非常に嬉しいです。

>>217
桃が走ってきてパカって割れるようなそんな弾幕、かと。
そういえばどっかの天人さんは桃は弾幕には使ってなかったような。割れてないし。

234名前が無い程度の能力:2011/04/13(水) 19:48:40 ID:VpfjvDVo0
>ヒーローは幻想郷には似合わない
少なくとも第二次月面戦争に駆り出そうとしたら
結末の如何に関らずゆかりんが倒されるオチになるわな

紫「月面侵略します^^」
ヒーロー「侵略活動はゆ”る”さ”ん”!!」

紫「月面いってきます^^」
依姫「おのれ私達の土地を荒らす侵略者!」
ヒーロー「なんだって!それは本当かい!?」

紫「月(ry」
若本「ゴートゥーヘル!」

235 ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 01:56:30 ID:kEzV9Rag0
・この作品は「東方Project」と「仮面ライダー電王」の二次創作作品です。
・この作品には二次設定・独自設定が含まれております。
・この作品には戦闘シーンや暴力的なシーンが含まれております。
・この作品は「東方Project」及び「仮面ライダー電王」の原作及び他の二次創作作品とは一切関係ありません。
・この作品には「仮面ライダー電王」のTV本編ネタバレ要素が大いに含まれています New!!

以上抵抗のある方は恐れ入りますがトリップをNGに指定してくださいませ。

07:58
東方俺参上
我が郡隊は百鬼夜行!

236俺参上第八話前編(1/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:00:34 ID:kEzV9Rag0
時の列車デンライナー
次の駅は過去か、未来か、幻想か

東方俺参上 第八話
零符「ゼロからはじまるミステリー」

2008年10月6日(第百二十三季九)。

霊夢、ハナ、良太郎、モモタロスがイマジンを追って過去に飛び、博麗神社は閑散としていた。
ほんの数刻前の出来事である。それと入れ違いになるように、光の三妖精が恐る恐る
そして魔理沙が大胆に境内へとやってくる。主を失い、もぬけの殻となった神社の境内へ。
魔理沙の声は境内に響き渡る。もぬけの殻の境内に。

「おーい霊夢ー、今日は良太郎を里へ連れて行くんだったよなー? 遊びに来たぜー?
 ……まだ寝てるのか? いないなら勝手に上がっちゃうぜー?」

(……返事、無いね)
(良太郎さんもいないみたいだし、こりゃとんだ無駄足ね……)

この霧雨魔理沙と呼ばれる少女、巷では泥棒少女と呼ばれるほどに手癖が悪いことで有名である。
しかしこそこそとした泥棒はしておらず、堂々と盗みに入るのが彼女の流儀であった。
曰く「自分が死ぬまで借りる、死んだら返す」らしいが、盗んでいることに変わりは無い。
それ位、空き巣も堂々と行うのだ。そんな今や空き巣の格好の標的ともいえる博麗神社で
それは起きていた。

「……ん? な、なんだありゃ!? 妖精の悪戯か何かか!?」

(サニー、あんた何かしたの?)
(してないわよ? そりゃ石段消えたら面白そうとは思ったことあるけどさー……)

ふと、背中のほうから感じる違和感に魔理沙が振り返ると、その光景は普段神社から眺める
光景とは明らかに違っていた。鳥居から続く石段は、そこから先がごっそりなくなっていたのだ。
過去……と言ってもたった一日前に飛んだイマジンの影響だ。
そしてその上空には、鳥とも蝙蝠とも虫ともつかない巨大な怪物が
砂を撒き散らしながら飛び回っている。

237俺参上第八話前編(2/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:05:42 ID:kEzV9Rag0
「あ……あんな怪物、初めて見たぜ……!」

魔理沙は、霊夢と違い妖怪退治を生業としているわけではない。
それ故に、妖怪や怪物に対する知識も霊夢ほど持っているわけではない。
否、もし持っていたとしても、その異様な姿は幻想郷のどこにもいない。誰の記憶にも無い
砂から生まれた怪物の成れの果て。その異様な姿に目を奪われ、魔理沙は後ろに現れた
「それ」に全く気づかなかった。気づけなかったのだ。
唯一気付いたスターも、「それ」がいる場所の異質さから、足がすくんでしまっている。

(……スター?)
(……ね、ねぇ。私今ものすごーくいやな予感しかしないんだけど……
 私の目には何かいっぱいいるのが見えるのよ……地面の下に。モグラにしては大きすぎる。
 巫女も良太郎さんもそんなとこにいるわけ無いじゃない。って言う事は、つまり……)

――じゃあ、お前もあの怪物の仲間にしてやるよ!

魔理沙の背後から振り下ろされる爪。しかしそれは、あまりにも殺気を立てすぎていた。
武術の心得など聞きかじり程度にあるか無いかの魔理沙にさえ、気付かれるほどに。
爪が振り下ろされた場所には、空気しかなかった。
精々、飛びのいた魔理沙に風圧で攻撃の威力を物語る程度だ。

「な、何だよお前! 不意打ちは弾幕ごっこじゃ反則だぜ!?」

不意打ち。それは弾幕ごっこにおいて厳重に禁止されている行為。
魔理沙は弾幕ごっこで数多くの妖怪と戦い、勝利できる程度の実力を持っている。
それは、ルールの上においての勝利。
実力には違いないが、ルールが無ければその実力は微塵も発揮されない。
今魔理沙が対峙している相手は、そのルールの外にいる相手だ。

「弾幕ごっこ? 何だよそれ?」
「ごっこ遊びは家へ帰ってやってろよ!」

次々と地面を突き破り現れるモグラの怪物、モールイマジン。
その数、地上に現れただけでおよそ三体。
魔理沙も過去の寒い春に飛んだ際、デンライナーの中から遠目に見た怪物。
弾幕ごっこを知らないどころか、ルールに従おうともしないイマジンの尖兵。

238俺参上第八話前編(3/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:08:03 ID:kEzV9Rag0
「そうか、お前らイマジンだな? せっかくだから教えてやるぜ、弾幕ごっこってのはな……」

魔理沙は人と妖怪が肩を並べて暮らすことができる
幻想郷を、スペルカードルールを気に入っている。
知らないのならば教えてやればいい。たとえ相手がイマジンでも。
不意打ちの件をさらりと流し、魔理沙はイマジンに弾幕ごっこのレクチャーを試みた。
しかし、侵略者が何故侵略する相手の条件に従わなければならないのだろうか。
魔理沙には互角の条件で精一杯戦える素敵なルールでも
イマジンにはただの面白くない縛りでしかない。
そして、その縛りを楽しむ余裕はこのモールイマジン軍団には無かったのだ。

「うるさいよ!」
「誰が教えてくれって言ったよ!?」
「うざいよ、潰すよ!?」

もはや、モールイマジンらには魔理沙はただの邪魔者にしか見えていない。
邪魔者。それはすなわち、イマジンにしてみれば排除すべき存在。
方法は問わず。モールイマジンには、魔理沙がどうなろうが知ったことではない。
手っ取り早く黙らせるためにも、暴力と言う手段に訴えたのだ。

「な、何すんだよ……!?」
「俺らに意見するからそういう目に遭うんだよ! いやなら黙ってみてろよ!」
「今からこの神社潰すよ! 邪魔したけりゃすればいいよ!」
「どうせお前にゃ出来ないよ!」

魔理沙を突き飛ばし、神社を壊そうとするモールイマジン軍団。
魔理沙も、ここがどういう場所でどれだけ大事なものかは知っている。
それ故に、壊させるわけにはいかないのだ。相手が話し合いに応じなくとも、止めなければならない。

「言ったな……! だったら私がお前らを退治してやるぜ。
 私は良太郎や霊夢と違ってそれ専門じゃないから手加減とか出来ないぜ?」

「面白い冗談だよ!」
「でもその冗談の続きは無いよ!」
「電王でも巫女でもないお前に俺達は倒せないよ、お前は俺達に潰されるよ!」

モールイマジン軍団は左腕のドリルや斧、十字爪等を輝かせ
魔理沙はスカートからミニ八卦炉を取り出す。
互いに睨み合うその光景を、やはりと言うかなんと言うか、逃げるタイミングを失った三妖精が
本殿の影から見守っている。悉くイマジンに縁のある妖精たちであった。

239俺参上第八話前編(4/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:11:57 ID:kEzV9Rag0
(まだいくらか地面の下にいるみたいね、このままじゃ私達も巻き込まれるわよ)
(もう巻き込まれてるわよ……)
(まだ良太郎さんに意魔人退治をお願いしてないじゃない。
 それともルナの言ってた奴ってあいつら?)

サニーの問いに、ルナは首を横に振る。
ルナの言うイマジン――オウルイマジンは、既にここにはいない。
そのイマジンは、既に良太郎と霊夢が退治に向かっているが、彼女らは知る由も無い。

そんな彼女らの思いを他所に、魔理沙とモールイマジン軍団の戦いは始まっていた。
霊夢以上に小柄な体格を活かした魔理沙の立ち回りに、モールイマジンは終始振り回されている。
魔理沙は魔法が使えるだけの普通の人間であり、霊夢の結界や電王のオーラアーマーなど
イマジンの攻撃に対する防御手段に乏しい。精々弾幕で相手を寄せ付けないようにしたり
攻撃があたらない様な立ち回りをすることしかできない。あるいは、攻撃される前に倒すか。

魔理沙は霊夢と違い、妖怪退治に際し謂れのある道具や術を使うわけではない。
単純に、派手で威力が高そうな弾幕を用いて弾幕ごっこのルールの上で
勝利を収める姿勢を取っていた。では、イマジン相手ならばどうするか。
霊夢は普段の札を対イマジン用に祈祷し直して新たな武器として扱い
電王はフリーエネルギーによる武器と、同じイマジンの力を使う。
どちらも、今の魔理沙には真似ができない。
モモタロスが憑いていれば、話は変わったのかもしれないのだが。

「さっきからチカチカしてうざいよ!」
「無駄な抵抗はやめろよ!」

モールイマジンにしてみれば、魔理沙の攻撃――弾幕はただ眩しい光に加え
音と少々の熱を帯びたレーザーポインターのようなものだった。
おびただしい量の星型のそれは、何度も何度もモールイマジンに付きまとい
彼らにとっては不愉快極まりなかった。
これが弾幕ごっこのルールならば、もう魔理沙は勝っていてもおかしくなかった。
しかし、突きつけられた現実は非情である。それがたとえ夢のような世界、幻想郷だったとしても。
モールイマジンの一体が、魔理沙めがけて回転しながら飛び込み、竜巻となって突っ込んだのだ。

「うあああああっ!?」

モールイマジンのそれは竜巻の風に加え、本体の爪やドリル等の凶器による攻撃が加わる。
風圧自体は烏天狗・射命丸文の起こす竜巻よりは弱いが
モールイマジンの本命は両腕の爪やドリル等の凶器である。巻き込まれれば、怪我ではすまない。
それはモールイマジンの攻撃が着弾した場所を見れば一目瞭然であった。
地面に穴が開いていたのだ。こんなものを生身の人間が食らえばどうなるか。
間一髪、魔理沙は竜巻を避ける事ができたが、これではかするのさえ危険だろう。

240俺参上第八話前編(5/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:17:05 ID:kEzV9Rag0
「……ご生憎さま。攻撃を避けるのなんていつもやってる事だからさ。
 その程度じゃ私は倒せないぜ?」
「その割にはお前震えてるよ? びびってるの丸わかりだよ!」
「ならお前をバラバラにするまで続けるよ!」
「まずそうなミンチの出来上がりだよ!」

言うや否や、再びモールイマジンは魔理沙めがけて竜巻攻撃を繰り返す。
初めは難なくかわしていた魔理沙だったが、次第にモールイマジンの側も攻撃の角度を変えたり
複数がかりで攻撃を始めたりと、じわじわと追い詰めていく。
箒で空を飛ぼうにも、十分な高さまで上昇する前に的になってしまう。
そしてついに、魔理沙は神社の拝殿まで追い詰められてしまっていた。

「!?……ほんと、遊び心ってのがわからねぇなお前ら」
「そんなもんしらねぇよ!」
「俺達はここをつぶせればいいんだよ!」
「今ならお前まだ助かるよ! 逃げればいいんだよ! 逃げれればよ!」

言葉とは裏腹に、魔理沙に狙いを絞るモールイマジン。魔理沙ごと神社を破壊するつもりらしい。
そんなモールイマジン軍団を、魔理沙は奥歯をカチカチ鳴らし、肩で息をしながら
怒りと悲しみの入り混じった表情で見やる。
彼女がよく知っている幻想郷の妖怪らしさが、少なくとも目の前の彼らには全く無いのだ。
昨夜酒を飲み交わしたモモタロスと、本当に同じイマジンなのだろうかと言う位、無い。
しかし魔理沙は知る由も無かった。モモタロス以下良太郎の仲間のイマジンが例外で
彼らこそがイマジンの本性であると。どこか抜けていても、やる事なす事は極悪である。

「……ちぇっ。モモタロスみたいに、いい奴だと思ってたのによ……!」

知らなかったとはいえ、勝手に期待し、勝手に失望している。
イマジンに言わせればずいぶんと勝手な言い種だろうが
魔理沙にしてみれば、芽生えた憧れがあっさりと打ち砕かれたのだ。
良太郎とモモタロスの関係。それはある種、魔理沙の理想とするものでもあったから。
もはや、互いに加減する理由などどこにも無い。モールイマジンが化けた竜巻は
真っ直ぐに魔理沙を捉え、対する魔理沙は腹を据え微動だにせずミニ八卦炉を構えている。
単純な火力では霊夢の持つあらゆる技を上回り
もしかすると電王の技にも匹敵するかもしれない威力を秘めた、魔理沙の最大の武器。

241俺参上第八話前編(6/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:19:25 ID:kEzV9Rag0
失恋「やけっぱちのマスタースパーク」

「ばっ……かやろぉぉぉぉぉっ!!」

霧雨魔理沙の代名詞ともいえるスペルカード。ただ一直線。
しかし最大限に輝き、見るものを圧倒する、まさに彼女らしい恋の符。
モールイマジンの竜巻にも、決して力負けすることなく、それどころか押し返した上に
攻撃を仕掛けたモールイマジンを打ち倒している。魔理沙の恋の力が、イマジンに勝ったのだ。

「こ、こんなガキのどぐぉぉぉぉぉぉっ!?」
「なんていりょぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「お、俺たちがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

しかし、今放たれたのは恋は恋でも、失恋に近いものがあったのかもしれない。
それ故か、加減も、使いやすさも何もかもかなぐり捨て
感情のままにぶっ放した純粋で、かつ邪道のマスタースパーク。

「……せっかく幻想郷くんだりまで来て、何やってるんだよ。
 お前ら、妖精以上の馬鹿だぜ。救いようの無い、馬鹿だぜ……!」

帽子に隠れて見えないが、魔理沙の表情は普段の底抜けに明るいものとは
程遠いものになっている風にも取れる。帽子に隠れた顔には、微かに光るものがあったから。
こんなのは、弾幕ごっこではない。幻想郷に、こんなものは似合わない。
精一杯戦い、勝っても負けても笑い飛ばし、酒を飲み交わす。
それが幻想郷の決闘儀式だったはずだ。
それなのにこれは何だ。勝ったのに、何も嬉しくない。
負けた方は、もうここに存在するかどうかさえ怪しい。
おおよそ幻想郷らしくない、外の世界の醜い争いが、そこにあった。
幻想郷の決闘儀式に慣れ親しんだ魔理沙には、衝撃の大きい結末であった。
しかし、魔理沙に感傷に浸っている暇は無かった。後ろから、悲鳴が木霊する。
掌で顔を拭い、直後に平手で叩く。まだイマジンはいるのだ。
気を取り直し、魔理沙は悲鳴のした方向へと走っていった。

(……まだ、いるのかよ。霊夢も、紫も、何やってるんだよ……
 こんな奴ら野放しにするなんて、らしくないぜ……!
 良太郎、モモタロス……いるんなら助けてくれよ。私達の幻想郷を、助けてくれよ!)

242俺参上第八話前編(7/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:24:41 ID:kEzV9Rag0
同じく衝撃を受けているものがいた。既にイマジンとの戦いは目撃している光の三妖精。
彼女らも初めは衝撃を受けたが、やはり妖精と人間の感性の違いゆえか
今の魔理沙のような衝撃を受けてはいない。
彼女らは精神的なものに加え、物理的に衝撃を受けていたのだ。それももっと単純なレベルで。

「で、毎度毎度こうなっちゃうわけだけど」
「ルナ……いくら毎度のこととはいえ開き直らないでよ……今の状態本当にやばいってば」
「ご、ごめんなさいごめんなさい! 何でもしますから許してください!」
「さっきからお前らうるさいよ。この神社潰せって声が聞こえるから潰すんだよ。
 お前らもうるさいからついでに潰してやるよ」

魔理沙が蹴散らしたモールイマジンの他に、地下にいたモールイマジンが一体、地上に現れていた。
地上に現れた先に、運悪く三妖精がいたのだ。
暴力的な衝動の強いイマジン、こうなればやる事はひとつである。
幻想郷には妖精に対する扱いのひとつとして、確かに八つ当たりを推奨している書物もある。
知ってか知らずか、イマジンがやろうとしている事はまさにそれである。
人間相手でさえ、鬱憤晴らしで酷い目に遭うというのにイマジンが相手だとどうなってしまうのか。
あまりの恐怖に、抵抗しようという気さえ起きない。

「そ、そんな声私達にはきこえませーん!!」
「お願いだから酷い事しないでーっ!!」
「た、助けてーっ!!」

何とついてない日が続くのだろう。別段悪戯を仕掛けたわけでもない。本当に何もやっていない。
それなのに攻撃される。人間による仕返しならば、普段仕掛けた悪戯の報復もあるので
程度にもよるが自業自得な節も存在する。
しかし、今あるのは謂れの無い理不尽な暴力。
何も知らずに幻想郷に迷い込んだ外の世界の人間が抱く感情にも近い。
そうした恐怖を払う存在。幻想郷で言うなれば博麗の巫女。外の世界で言うなれば、ヒーロー。

「くそっ、お前らいい加減にしろ……よ?」

その暴虐ぶりに、魔理沙も思わず恐怖をかなぐり捨てて飛び出しそうになる。
しかし、その行動は後ろから響く音に阻止される。
幻想郷では、滅多に聞くことの無い音である。
音に気をとられ、魔理沙は飛び出すタイミングを見失ってしまう。
魔理沙の足を止めた音は、次第に神社へと近づいてきていた。

243俺参上第八話前編(8/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:26:47 ID:kEzV9Rag0
「な、何? この音……河童の渓谷からたまに聞こえる音に似てるけど……」

未知の怪物が入り込んだとき、ヒーローもまた入り込んでいたのだ。
幻想郷に似つかわしくないエンジンの駆動音を響かせながら
土煙を巻き上げてそれは神社の境内に突っ込んできた。
魔理沙の前を横切り、三妖精とイマジンの間に割り込んだ駆動音――マシンゼロホーン。
それには緑色の鎧を纏い同じく緑色の二頭の牛を象った仮面をつけた男が跨っていた。
かつて遠目に見た電王とは、どこか似通っていて、全く別の者。その名は――ゼロノス。

「ぜ、ゼロノス!? 何でお前がここにいるんだよ!?」
「……おかげさまでな」

「な、何なんだあいつ……イマジン、じゃないよな……?」

様々な感情を含ませ、それでいて静かにイマジンの質問に答えるゼロノス。
サニーとスターはゼロノスが立ちはだかった隙に隠れ
モールイマジンに抱えられたルナは、半泣きでゼロノスを見つめている。
魔理沙も、またも見知らぬ存在に少々、戸惑いの表情を浮かべている。

「サニー、もしかしてこの人も良太郎さんの仲間かも。似てるところあるし」
「それならきっと私達の味方だよ! よーしっ、がんばれーっ!」

さっきまで怯えていたサニーは、電王――実際にはゼロノスだが。の登場に
すっかり気を良くし、応援を始めている。
それに応えるようにゼロノスは彼女らに背を向けたまま、手を挙げる。
視線はモールイマジンを捉えたまま、微動だにしていない。

口上「最初に言っておく2007」

「最初に言っておく。俺はかーなーり、強い」

244俺参上第八話前編(9/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:29:40 ID:kEzV9Rag0
「言ってくれるよ。ゼロノス一人で何ができるよ!」

ゼロノスの口上。その内容はどこか子供の喧嘩っぽいが
声は大人の男性らしく、落ち着きがありそれが却って言葉に説得力を持たせていた。
モールイマジンの側も、貧弱な妖精よりも手ごたえのある獲物――ゼロノスを見つけたことで
その攻撃性をより増していた。それどころか、ちらほらと増援が地下から出現している。
ルナを抱えていたモールイマジンも、もうルナには興味ないとばかりにルナを乱暴に放り投げる。

「その前に、その子を離せ」
「ああ、こんな奴もうどうでもいいよ! ゼロノスを潰すよ!」
「え?」

悲鳴をあげる間もなく、ルナの小さな体は無造作に宙を舞う。
咄嗟の事に、飛んで逃げるという行動に移ることができない。
しかし珍しく運がよかったのか、放り投げた方向は魔理沙が走って間に合う距離だった。
妖精なので放っておいても怪我ですむ。もし打ち所が悪くても、せいぜい一回休みだ。

「「ルナ!」」
「あぶない!」

それでも、魔理沙は気づけば全速力で走っていた。ルナを抱えていた。
一瞬の出来事だったが当のルナも他の二人も呆気にとられていた。
全力で走った魔理沙自身も、ルナを助けて数秒、自分が何をしたのか理解していなかった。
そんな魔理沙の正気は、地下から這い出てきたモールイマジンの攻撃がゼロノスの妨害により
宙をかすめ、地面に突き刺さった衝撃で戻ることとなる。
この場は危険である。捕まった妖精は助かった。後やることは一つ。

「緑色のやつ! こいつは大丈夫だ! だから……お願いだ、そいつら退治してくれ!
 私達の世界を……助けてくれ!!」

魔理沙の叫びに、ゼロノスは黙って頷く。言葉は無かったが、力強い頷きに魔理沙も安心したのか
笑みを浮かべながらルナを連れてゼロノスやモールイマジンから離れる。
直後、モールイマジンがゼロノスに飛び掛るが難なくそれを蹴り飛ばし
腰に提げていた二つのもの――ゼロガッシャーを組み立てていた。
今ゼロノスが構えているのはボウガンモード。光弾を発射するゼロノスの射撃武器。
連射は可能だが、流石に弾幕を張るほどの速射性は無い。
その光景は、魔理沙には物珍しい以上に衝撃的な内容であった。以前イマジンと戦った際には
モモタロスに憑依されており記憶が無く、過去に飛んだ際にはデンライナーから外に出ていない。
魔理沙自身の意思で、間近で見るのはこれが初めてになる。

245俺参上第八話前編(10/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:31:56 ID:kEzV9Rag0
(あれが、スペルカードルールじゃないマジの戦い……
 妖怪連中はともかく霊夢もあれ経験したことあんのかな……
 あんなのを、私は相手にしてたのか……)

次々とモールイマジンを撃退していくゼロノス。そのボウガン捌きは、それ自体が
スペルカードルールで用いられる弾幕であるかのような美しささえ醸し出していた。
弾幕としての美しさではなく、武芸としての美しさ。軽快な動きでモールイマジンを翻弄しながら
的確にゼロガッシャーで射抜いていく。弾幕とは違うが、これはこれで美しさを競う競技ならば
高評価であろう。戦闘センスは素人以下の良太郎や、かっこよく戦うと言っても
その実喧嘩殺法なモモタロスとは近接武器と射撃武器という得物の差もあってか
一線を画していた。

ゼロノスとモールイマジンの戦いは、意外とあっけなく終わった。
この後に控えている不意打ちを含めても。

(奴は地下にまでは気づいてない、このまま後ろを取って潰してやるよ!)
「あっ! 後ろ、あぶない!」
「!?」

不意に、スターが叫ぶ。スターの目に映っていた地下のモールイマジンが
背後からゼロノスを襲おうとしていたのだ。
間一髪、スターのアドバイスで相手の攻撃を事前に察知できたゼロノス。
ゼロガッシャーに、ベルトに刺さっていた変身用のカード――ゼロノスカードを挿す。

FULL CHARGE
弩符「グランドストライク」

地上に飛び出そうとするモールイマジンめがけ、ゼロノスはゼロガッシャーの引鉄を引く。
ゼロガッシャーから放たれた緑色の「A」字型の光が、地面ごとモールイマジンを貫き
爆発とともにイマジンは時の砂に還る。

「くそぉ……ゼロノスがいるなんて……聞いて……無かった……よ!」

スターの目にも、もうイマジンは映らない。いるのは、妖精が自分を含め三人、少女が一人。
そして成人男性位の大きさの何者かが一人。
ルナも魔理沙の傍から離れ、サニーやスターと互いの無事を喜んでいた。
ゼロノスは無事を確認すると、ゼロガッシャーを腰に戻し魔理沙の下へと歩み寄る。

246俺参上第八話前編(11/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:35:08 ID:kEzV9Rag0
「……よく持ちこたえてくれた。イマジンの相手などというとんでもない役目を負わせてしまい
 申し訳なく思う。私がもう少し早く来ることが出来ればよかったのだが」

ゼロガッシャーを腰に戻し、魔理沙に対し頭を下げるゼロノス。
しかし神社と4人の少女を守った功績は、4人一様に賞賛していた。

「私達はあんたのおかげで助かったんだ、頭あげてくれよ。でもって礼を言わせて欲しいぜ」
「そうだよ! 巫女はともかく良太郎さんがいないからどうなるかと思ったわ!」
「そうそう、やはり巫女じゃないヒーローは格が違うわね! 妖精だって助けてくれるし!」
「良太郎さんといい、イマジンと戦ってる人は優しい人が多いのかな?」

ゼロノスに対する賞賛の言葉。しかしそこにはゼロノスに変身している者にとっては
聞き覚えのある名前が挙がっていた。

――良太郎。
もし、この名前の意味するものが「野上良太郎」であるのなら。
何故その名前を幻想郷の妖精が知っているのか。
その答えは、今のゼロノスにはとてもわからなかった。
ゼロノスにとって、良太郎はイマジン以上に幻想郷にいる事が不自然な存在だったのだ。
微かな不安を覚えながら、ゼロノスは乗ってきたマシンゼロホーンに跨り
少女らを背に走り去ろうとする。
引き止める声が無ければ、そのまま走り去っていただろう。

「待ってくれよ! お前も、電王でいいのか? 私が見たのとはベルトとかちょっと違うみたいだけど」
「電王、か。その名前をここで聞いたのは彼女以来だな。そうだな、名乗るとするなら……」

――ゼロノス。そう名乗り、緑色の鎧の男は跨った乗り物を走らせる。
手を挙げて、少女の声援に応えながら。

「ありがとなゼロノス! 私は魔理沙、霧雨魔理沙だぜ!」
「「「ありがとうございました!」」」

あっという間にゼロノスは遠く、小さくなってしまった。
自分たちを助けてくれた恩人に、声は届いたのだろうか。
ともあれ、博麗神社を襲った悪意はひとまず去った。
ゼロノスも去り、いつの間にやら鳥居から続く石段も元通りになり
空を飛んでいた巨大な怪物も消えている。
さっきまでイマジンが暴れていたとは思えない博麗神社がそこにあった。
その光景に魔理沙は安堵したのか、へたり込み涙を浮かべてしまう。
すぐ傍に三妖精がいるにもかかわらず。

247俺参上第八話前編(12/12) ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 02:37:23 ID:kEzV9Rag0
「よかった……ちゃんと幻想郷を守ってくれる奴がいたんだ……よかった……
 ……あいつらにも、酒飲ませてやりたかったな……なぁ、霊夢……
 神社ぶっ壊したあいつだって、最後はちゃんと締められたのにな……なんでだろうな……」

その魔理沙の姿は、いつもの気丈で飄々とした姿とはあまりにもかけ離れていた。
その変わり様には三妖精もかける言葉を失い、ただ黙って見ているしかなかった。

博麗神社自体は、ついこの間地震で倒壊していた。
神社が壊れるくらいならば、魔理沙もここまで感極まりはしなかっただろう。
彼女が感極まった理由。それは、幻想郷というものに対し明確な敵意を持ち
幻想郷の象徴たる博麗神社を攻めてきた存在がいた事と
彼女の知る者以外にそれを守ってくれた存在がいた事。
外の世界にある子供向けの英雄譚ではいつもの光景なのだが
今の彼女にはそれがとても心強く思えたのだ。
自分たちが暮らしているルールではどうにもならない輩から、自分たちを守ってくれる存在。
ある意味では魔理沙のよく知る少女が、それを担っている。
だが魔理沙は霊夢に対し、英雄としてではなく友人として接している。
とても、英雄譚に出てくる英雄と同列に看做す事は出来なかった。
たとえ実力の違いをある程度理解し、博麗の巫女がどういう存在か頭ではわかっていたとしても。

(でも、霊夢だって良太郎と一緒にイマジン退治してるじゃないか。
 私だけ、こんなとこでへたり込んでるわけにはいかないよな、やっぱ)

それ故に。自然と零れていた涙をまた拭い、石畳に手をついて立ち上がり
膝辺りの白くなったスカートから砂埃を払い落とす。
ふと。後ろにあった拝殿の扉が開き、霊夢と良太郎、モモタロス、そしてハナが帰ってきた。

「あっ、巫女が帰ってきたわ!」
「そ、それじゃ私達はこの辺で!」
「おじゃましましたー!」

「あ……何しにきてたんだろ、あいつら」

霊夢の姿を見るや否や、三妖精はあわてて逃げ帰ってしまっている。
良太郎へイマジン退治の依頼をするのも忘れて。
最も、彼女達が退治して欲しいと願っていたイマジンは、既に彼らによって退治されていたのだが。

「あら魔理沙じゃない、あんた何しに来たの? ……どしたの、目赤いわよ?」
「……私は何でもない。何でもないんだ。
 なぁ霊夢。また、いつものように弾幕ごっこやら宴会やらやろうな……」

248 ◆cedHmDsvEg:2011/04/20(水) 03:04:00 ID:kEzV9Rag0
以上第八話前編でした。
突っ込まれる前に今回の話の部分について。
セルフでQ&Aやるのってどうなんだろう……

Q:魔理沙は旧作でスペカルール以外で戦っていたはずでは?
A:今作の舞台の幻想郷は、原作とは若干歴史が異なってます。
  その一つが旧作設定。一応神社の裏の池にはあの亀がいますが。
  魔理沙も旧作の戦いには参加してますが、今作ではその記憶はありません。

Q:やけっぱちのマスパ?
A:効能は読んで字のごとくです。スペカの概念が無い電王関係者以外にも
  東方キャラにもこんな感じで今作オリジナルのスペカが極稀に出てきたりします。
  ファイナルとか実りやすいのとかあるからいいかなー、と。要は悪ノリ、不具合あればやめます。
  最も、今回のこれは永久封印モノでしょうけど。メルトダウンってなんだろうな。

Q:敵イマジンはルール無視してるのに何でスペカ宣言してるの?
A:「最低限の命名決闘儀式の体裁かな。ルール無視に対してルール無視で返したら
  取り返しのつかないことになりそうだし。結局、イマジンは倒しちゃってるから
  ルール無視はルール無視かもしれないけどね。女の子の遊びらしいけど
  この異変が解決したら帰る前に僕も一度遊びでやってみたいな。命名なら自信あるよ」
  by良太郎

249名前が無い程度の能力:2011/04/20(水) 16:12:52 ID:1YbR3PP60
GJ! 目には目を歯には歯を、ルール無視の奴等に愛の掟で戦う戦士なわけですね。わかります。
>何でスペカ宣言

本当にどうしようもないときに駆けつけてくれるヒーローって、
どうしてこんなにカッコイイんだろう。感極まるわ。

250名前が無い程度の能力:2011/04/20(水) 18:58:52 ID:1gb3espYO
いつも(というか今朝から)楽しみにさせてもらってます。
セルフQ&Aも非常に分かりやすい。

こんなの作中で作者が突っ込むものに比べたら何ともないですよ。
こういう良作を見たら書く意欲が沸いて来ます。

251 ◆cedHmDsvEg:2011/04/30(土) 03:30:35 ID:ramnd1Ig0
第八話中編近日投下予定です。
今回即興で幕間とセルフQ&Aの追記を投下します。

東方俺参上 第7.8話
活字「とある天狗の号外新聞(ドキュメント)」

2008年10月6日(第百二十三季九)。

妖怪の山にある天狗の集落。ここでは天狗が自分たちの社会を形成し
日々を程ほどに刺激を求めて生活している。
かつて鬼という上位の存在が同じ山にいたのだが、今や鬼は山にはいない。
そんな目の上のたんこぶが取れた天狗達であるが、今度は神が山にやって来た。
一悶着ありながらも、今では友好な関係を築き上げるに至っている。
2007年、年を空けて間もなくの出来事であった。

そんな天狗の社会であるが、その件以外については何も変わらぬ日々を迎えている。
簡素な作りの事務所で、記事を書き上げ写真を現像している烏天狗――射命丸文もその一人。
まだ太陽は顔を出さない時間であり、先ほどまで宴会に参加していた彼女は
まさに寝る間も惜しんで新聞作りに精を出していたのだ。

「いやあ、まさかあんな方々が幻想入りするとは。しかしあの赤鬼もどき
 私が話に聞いていた意魔人とは違うような印象だったけど……」

文は以前、巷を騒がす噂の妖怪、という触れ込みでイマジンについて
慧音にインタビューをしていた。
慧音も歴史編索を能力とするハクタクの性質上、イマジンについて少々知っている程度
だったのだがそもそも幻想郷に存在するはずが無いイマジンを少しでも知っているという事で
彼女に接触を試みたのだ。その時に聞いた話と、赤鬼もどき
――モモタロスは、あまりにも印象が違いすぎた。

「あの青年のイメージであの姿になった……
 となると、やはり外の世界に鬼はいるんですかねぇ?」

文には、どうしても引っかかる部分があったのだ。
幻想郷において一部を除き幻となったはずの鬼。
それをどうして、妖怪になど全く縁の無いはずの外来人の青年がイメージできるのか。

「これは、色々と話を聞いてみなければなりませんね」

格好の取材対象を見つけ躍起になる文。机の上に置かれている文々。新聞の見出しには
小さな鬼の少女と赤鬼が殴りあう写真が掲載されている。

252 ◆cedHmDsvEg:2011/04/30(土) 03:33:39 ID:ramnd1Ig0
「幻想郷に、鬼? 参上?」
突如現れた赤鬼のような姿の妖怪。名をモモタロスといい、外の世界の妖怪らしい。
自称意魔人との事であるが以前伺った特徴
(先日掲載分「謎の妖怪『意魔人(いまじん)』の秘密に迫る! 上白沢慧音独占インタビュー!」を参照されたし)
とは、同行していた契約者と思しき外来人の青年――野上良太郎(19)と
互いに同意の上で行動を共にしていたり、過去へ飛ぼうともしない上に
全く契約と関係ないと思われる喧嘩を始めるなど少々異なる部分もあった。
それ以上に興味深いのは、外来人である野上氏の想像から
何故鬼の姿が生まれるのか、という点である。
幻想郷において鬼は希少なものとなって久しいが、その鬼の行く先を考えさせられる
例になったのではないだろうか。外の世界からやって来た鬼の姿の妖怪が
幻想郷で何をするのか、当新聞では可能な限り彼に接触を試みようと思う。

「連続妖精通り魔事件、収束か」
先日幻想郷を騒がせた、妖精ばかりを狙った通り魔事件は
先日昼過ぎを境にぴたりと発生しなくなった。
犯人が飽きただけとも考えられるので、引き続き魔法の森付近の妖精は
単独行動を控え、見慣れない妖怪や巫女には十分な注意が必要だろう。

「さて、と。今日は寝ますかね……明日の取材も楽しみで……
 ふふふ、寝る前からわくわくして眠れないわ」

寝支度を整え、布団にもぐる文の枕元。そこに大事そうに置かれた、商売道具ともいえる
文化帳にはまだ新聞記事にされていない出来事も多く記されている。
窓から風が流れ込み、そのページがめくられる。

山に金色の熊が現れた
↑どうやら既に山頂の神社に向かったらしい。神様と意気投合したとかしなかったとか

人里の近辺で緑色の牛頭の謎の存在が出没する
↑ワーハクタクの見間違い? だが満月以外にも目撃情報あり。

紅魔館でダンスユニット結成?
↑妖精がほとんどだが、中心にいたのは紫色の怖い顔をした悪魔らしい。
  紅魔館にそんな妖怪はいなかったはずでは?

253 ◆cedHmDsvEg:2011/04/30(土) 04:03:36 ID:ramnd1Ig0
以上、西瓜VS桃の宴会後の文の動向でした。それにしても文はいつ寝てるのだろう。
やはり朝なのだろうか。朝だと新聞配るのに不具合が……無いだろうな、幻想郷だし。
とりあえず徹夜かまして新聞作ってさぁ寝るぞ、って形にはしましたが。
投下時間的に別に作者メタではありません、ええありませんとも。

>>249
今回のゼロノスにはそういったあからさまなヒーロー属性を持たせてあります。
中身は……この作品では既に幻想入りしてるあの人です。なので口調も本作オリジナル。
口上スペカも当然本作オリジナル。若き日を思い出して戦っていたのかもしれません。
色々パラドックスしそうですけど。

>ルール無視の奴等に愛の掟で戦う戦士
タイガーマスク? キン肉マン? 聞いたことあるフレーズなのですが。

>>250
そう言って頂けると幸いです。基本的に本編は両原作らしくギャグを入れても
真面目に進めたいので本文中でネタには走っても作者突っ込みは入れない方向です。
その分、〆の挨拶レスでは突っ込みますが。セルフQ&Aもその発想の産物です。
是非>>250さんの作品も見せてください。元ネタ? 知らなくても調べるくらいはしますので
「大丈夫だ、問題ない」

なにやら好評のようで調子に乗って今回も載せます>セルフQ&A

Q:守矢組が妖怪の山にやって来た時期って違わない?
A:風神録は東方原作同様2007年秋の出来事、しかし今作で守矢組がやってきたのは年明け直後。
  その間守矢組は妖怪の山で地盤固めをしてました。
  電王原作を知っている方にはピンと来る幻想入りの方法かもしれません。
  でもネタバレは勘弁な!

Q:歴史編索とイマジンがどう関係あるの?
A:イマジンは自分の都合のいいように過去を変える未来の精神体です。
  それは幻想郷でも変わらず、正しく歴史編索を行いたい慧音にとって、まさに忌むべき存在です。
  慧音以外で幻想郷でイマジンを知っているのは紫ですが、インタビューしようにも捕まりませんでした。

Q:紫色の怖い顔をした悪魔
A:答えは聞いてない!

254q:2011/04/30(土) 04:38:46 ID:5SCLH1fw0
井上 あみ紗 1
303 25303 井上 あゆみ 1
304 25304 井上 ありす 1
305 25305 井上 えり子 1
306 25306 井上 くるみ 1
307 25307 井上 こころ 1
308 25308 井上 すず 1
309 25309 井上 すずか 1
310 25310 井上 ちはる 1
311 25311 井上 ちひろ

255名前が無い程度の能力:2011/04/30(土) 08:02:33 ID:fJy9HWxM0
>>253
ルール無視の云々はビーファイター主題歌の歌詞です。

256 ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 21:54:35 ID:YbwRdTGw0
>>255
ビーファイターでしたか
そもそも特撮系のクロスしてるのに
そっちを思い浮かべないってどうなんだ、自分……
ともかく教えてくださってありがとうございます

オーズのR映司っぷりに驚きつつも第八話中編投下します
以下抵抗のある方は恐れ入りますがトリップをNGに指定してくださいませ。

・この作品は「東方Project」と「仮面ライダー電王」の二次創作作品です。
・この作品には二次設定・独自設定が含まれております。
・この作品には戦闘シーンや暴力的なシーンが含まれております。
・この作品は「東方Project」及び「仮面ライダー電王」の原作及び他の二次創作作品とは一切関係ありません。
・この作品には「仮面ライダー電王」のネタバレ要素が大いに含まれています New!!

257俺参上第八話中編(1/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 21:57:14 ID:YbwRdTGw0
「あら魔理沙じゃない、あんた何しに来たの? ……どしたの、目赤いわよ?」
「……私は何でもない。何でもないんだ。
 なぁ霊夢。また、いつものように弾幕ごっこやら宴会やらやろうな……」

あまりにも突拍子も無い事を言い出す魔理沙に、霊夢も訝しむ。
確かに魔理沙の目は赤く、まるでさっきまで泣いていたようにさえ見える。

「どうしたのよ萃香みたいな事言い出したりして。宴会なんて昨夜やったばかりじゃない。
 ……私の留守中に、妙な奴らでも来たのね? 例えばそう、イマジンとか」
「ええっ!? ま、魔理沙さん、大丈夫!?」

何時もと変わらない楽園の巫女に、普通の魔法使いは安堵する。
たった今まで、おおよそ幻想郷にはふさわしくない戦いを体験していたのだから。
それでも無事でいられたのは、何だかんだで鍛えられた戦闘センスと
途中からやって来たゼロノスのお陰だろう。
しかし、イマジンが来たという事は命の危険に晒された事でもある。
その事にハナは驚きを隠せない。

「あ、ああ。何とかな。そういや、何かでっかいのも飛んでたようななかったような……
 まぁいいや。今いないって事は私の見間違いだろうな」
「私らもさっき過去までイマジン退治に行って来たところよ。
 でっかくなって、こっちも大変だったんだから。
 まさか、こっちにも出てくるなんて思いもしなかったけど。
 神社壊そうとしたって事は、あいつら私に用があるのかしらね」

魔理沙は今さっきの現在で。霊夢は一日前の過去で。それぞれイマジンと戦っていた。
その一部始終を聞いた良太郎は、イマジンが思いのほか活動的になっていることに不安を覚える。

(僕達が過去に飛んだのに合わせて攻撃してきたのかな……まさかね。
 もしそうだとしたら、イマジンは僕みたいに迷い込んだわけじゃない。
 目的があってここに来たことになる。そうでなければ、こんな統率の取れた動きをするはずが無い)

以前、過去に飛んだイマジンを追って行った直後、現在にイマジンが現れたという
二段構えの攻撃を受けたことがある。
些細な部分は異なるが、今回の流れはそれに近いものがあった。

「そうだ良太郎、ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

258俺参上第八話中編(2/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:00:02 ID:YbwRdTGw0
「何?」

魔理沙が尋ねようとした内容。それは先程共にイマジンと戦った戦士、ゼロノスについて。
細部は異なれど、使った道具や目的は、良太郎の電王と酷似していた。
魔理沙は、良太郎ならばゼロノスについて何か知ってるのではないかと思ったのだ。
その予想は、的中していた。聞けば、良太郎の答えられる範囲での答えは返ってきただろう。
ゼロノスは、かつて良太郎がイマジンと戦った際、一緒に戦った仲間なのだから。
しかし、魔理沙がその答えを聞くことは無かった。

――あれ? 私、何を聞こうと思ったんだっけかな?
ああそうだ、ゼ……あれ? 何だっけ? 出てこないや。私もとうとう呆けたか?

「……や、なんでもないぜ。聞こうと思ったんだが、忘れちまった」
「おいおい、そんな魔法使いの婆さんみたいな格好してるからボケちまったんじゃねぇのか?」

ついさっきまで、魔理沙は確かに良太郎にゼロノスについて聞こうと考えていた。
だが、その聞く事を忘れてしまった。正確には聞く事をでは無い。
聞く内容、ゼロノスについてをきれいさっぱり忘れてしまっていた。
今魔理沙の頭の中には、ゼロノスという名前のイマジンと戦う
電王とは別の仮面の戦士は存在していない。
頭の中に存在していないものを、聞くことはできない。
そんな魔理沙に対するモモタロスの茶々に対し、ハナの制裁がモモタロスの鳩尾に入る。
二つに折れてしまっているモモタロスを尻目に、ハナは一つの疑問を抱く。

「そういえば魔理沙さん、イマジンが出たとき……まさか一人で戦ったの?」
「いやいや、いくら魔理沙さんでもそれは無いぜ。結構数もいたし
 私一人でどうにかできる数じゃなかった。
 だから他に誰か戦ってたはずなんだが……忘れちまった。
 ……あ、あれ? 何でだろうな、これってすっごく忘れちゃいけない事な気がするのに
 思い出せないぜ……」

いくら魔理沙に妖怪退治の心得があるといっても、イマジンの集団を
それも一人で相手にできるとはハナには考えられなかった。
何者かの協力があったはずなのだが、当の魔理沙は忘れてしまっている。
そんな相手を忘れるほど、魔理沙がそこまで薄情で無い事は霊夢が知っている。
つまり、魔理沙の「忘れた」には何かしらの抜け落ちた点が存在していたのだ。
魔理沙自身、忘れているのはおかしいと思っているのだが
頭の中に何も出てこないのでは思い出しようが無い。

259俺参上第八話中編(3/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:02:31 ID:YbwRdTGw0
「……それは今は置いておきなさいよ。それより、早いところ良太郎さん達を里まで連れて行くわよ。
 ただでさえイマジンのせいで時間食っちゃってるんだし」

良太郎らが里へ行く理由。それはイマジンについて知っている幻想郷の住人に会うため。
彼女は、里にいるらしい。もうひとつは未だ連絡がつかないウラタロスら
仲間のイマジンの手がかり探し。人間の里とはいえ友好的な妖怪もちらほらとやってきており
人間と妖怪双方の情報源を確保できるのだ。しかし、博麗神社から人間の里までは
少々距離がある。のんびり移動していたら里に着く頃には日が傾いているかもしれない。

「……そうだな。早いとこ行っちまおうぜ。
 けど私はちょっと他に用のある場所があるから途中までな」
「そんなついでで案内するくらいなら最初からク……じゃなかった、私が一人で案内するわよ。
 異変は異変だし、私が動いたほうが都合がいいわ」
「けどよボロ服女、おめぇ家空けていいのかよ?
 マリモが言ってたみてぇに、イマジン来たらどうすんだよ?」

途中までの案内を買って出た魔理沙と違い、霊夢は最初から最後までの案内を買って出る。
しかし霊夢は神社を留守にすることで、再びイマジンに神社を襲撃されないかという
不安がついて回る。魔理沙が案内した所までで霊夢と交代しようにも
その交代待ちは時間のロスになってしまうだろう。


「それなら心配ないわ。心強い留守番係が今来たから」

そこにいたのは、昨夜モモタロスと大乱闘を繰り広げた小さな百鬼夜行、伊吹萃香。
彼女は朝っぱらから霊夢と一杯交わそうと神社にやってきたのだが、事もあろうにその霊夢に
留守番を押し付けられてしまっていた。

「むぅ、せっかく霊夢と一杯やれると思ったのに今日も留守番扱いはひどくない?」
「よぅ、小玉西瓜じゃねぇか。おめぇもそんなボロっちい服着てどうしたんだよ?」
(って言うか、鬼って朝っぱらからお酒飲むんだ……)

萃香の格好は、昨日の服装とは打って変わり、霊夢の巫女装束と全く同じものであった。
普段は萃香の方が小さいので、サイズは流石に違うようではあるが。

260俺参上第八話中編(4/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:05:22 ID:YbwRdTGw0
「やぁお兄さんにお嬢ちゃんにオニタロス、幻想郷の朝はどうだい?」
「あんまり満喫できなかったかな……井戸に落っこちちゃったしね」
「それより萃香、さっき神社にイマジンが出て大変だったんだぜ?
 お前一体そのときどこにいたんだよ? またあいつの所にでもいたのか?」

萃香は昨夜と変わらぬ調子である。神社は彼女にとって根城とまでは言わないにしても
重要な拠点である。

「そりゃ災難だったねぇ……話には聞いてたけど、運が悪いのは本当みたいだね。
 それと、私が神社に来たのはついさっきだよ。私ゃオニタロスみたく
 意魔人の居場所とかわからないからね」
(やっぱモモの嗅覚はイマジン探すのには便利よねぇ)

いくら萃香がモモタロスに勝てる程度の力があるとはいえ
イマジンの居場所を探す程度の能力には特化していない。
疎の力を駆使すれば、イマジンを探すのには便利かもしれないが
事前にわからなければ手が遅れる。
そういう意味では、モモタロスの嗅覚は事情も分かり
かつ即座に反応できる点で優れているといえる。

「そうだオニタロス。昨夜の約束、忘れるんじゃないよ。霊夢はこの留守番の御代として
 今度宴会をやること。いいね?」
「だからその名前じゃねえっつってんだろうが。ま、何とか工面しといてやらぁ。
 でもって、今度は俺が勝つからな?」
「ま、しょうがないわね。その代わり片付け終わるまでが宴会よ。
 それじゃ萃香、私は良太郎さんを里まで送るから留守番お願いね」
「あ、待ってくれよ。私も途中までついていくぜ!」

萃香に見送られ、人里へと向かう5人。明確な意思を持ち巫女が神社を離れ、行動を開始した。
幻想郷に古くから住む者はこれだけで異変解決と同義と見るだろう。
しかし、当の巫女にはそんな考えは無かった。

――この異変、ちょっと長引きそうね。
お茶請けのお菓子、何種類も用意しなきゃいけないほどには。

261俺参上第八話中編(5/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:09:44 ID:YbwRdTGw0
――――

そして早速異変解決は長引いていた。朝と昼の間頃に出発したはずの霊夢らは
太陽が頂点に差し掛かる辺りになってもまだ里についていなかった。
理由は簡単で、移動速度の遅さ。理由の一つとなっているハナも申し訳なさでいっぱいになり
霊夢に頭を下げる。

「……そういや霊夢。良太郎とモモタロスはどうしたんだ?」
「え? あんた乗せてないの? 私はハナちゃん乗せてるからいくらなんでもこれ以上は無理よ」
「ごめんなさい霊夢さん、なんだか荷物になっちゃったみたいで……」

普通に空を飛べる霊夢や魔理沙、走れば相当なスピードを出せるであろうモモタロスはともかく
良太郎とハナはそうした身体能力自体は普通の人間である。
霊夢に乗せてもらっているハナはいいとして、良太郎となるとそうはいかない。
良太郎も成人間近男性の平均よりは体重は少ない方なのだが
霊夢の背中に乗せるとなると少々負担が大きい。まして既にハナをおぶっている。
その上に良太郎など、そもそもおぶうスペースが無い。
となると、何とか乗れそうな魔理沙の箒に乗せるほうが理にはかなっているのだが。

「いや、乗せてないぜ? モモタロスの奴『俺が良太郎に憑いてひとっ走りすれば大丈夫だろ』
 って言うからさ。無理に乗ってもらわなくてもいいかな、って」
「あのねぇ……良太郎さん達地上にいるのよ、私達は空の上。下はちょうど森で
 そうそう上空なんて見えないし、これじゃ案内の意味が無いじゃない」
「……ったく、あのバカモモ。何意地張ってるんだか。それに良太郎の体だって持たないわよ。
 ほんと、二人とも重ね重ねごめんなさい」

そう。モモタロスに憑依してもらい、全速力で走ったとしても良太郎の体が持たないのだ。
負担を軽減するためにモモタロスが良太郎を担いで移動したら、その分足は遅くなるので
それこそいつ里に着くのかわからない。そして、下が森ということは当然道に迷う
というアクシデントも発生する。

『おーいマリモ、ボロ服女、どっちだ!?』
「あっちか……おーいモモタロス、そこ動くなよー! 動くと撃つぜー?」
「はあーぁ。言わんこっちゃ無い……」

262俺参上第八話中編(6/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:12:16 ID:YbwRdTGw0
早速、各々の足の速さや移動手段でスピードに差が出てしまっていた。
本来使えるルートは、霊夢ら「飛べる人達」を前提としたものである。
当然通常飛べない良太郎、ハナ、モモタロスには適用されない。
ハナを霊夢の背に乗せ、モモタロスは良太郎に憑依して出発することになったのだが……

それがこのざまである。

「ごめんね、足引っ張っちゃって……」
「それはいいけどよ。やっぱ予定通り良太郎は私の箒に乗ればいいんじゃないか?
 そうすりゃみんな飛べるぜ」
「そうね。私でも良太郎さんはちょっと無理でもハナちゃんなら背負えるし。
 良太郎さん、魔理沙に乗せてもらいなさいな」
『じゃ、俺は良太郎から離れるぜ』

魔理沙の提案は尤もである。だが、モモタロスがぐずったのである。
適当な理由をつけて魔理沙の箒に乗るのを嫌がっていたのだ。
良太郎から離れようとするモモタロスを、ハナが一喝して止める。

「何やってるの、あんたも乗る!」
『そ、そうは言うがよ。大体マリモ、お前だって俺ら乗っけたらバランス取れないんじゃねぇのかよ?』
「それなら心配ないぜ。良太郎、一つ確認したいんだがモモタロスに憑依されたからって
 別にその分重くなるわけじゃないんだろ?」
「それは大丈夫だと思うけど」

イマジンに憑依されたことによる憑依者の体重の増加は通常、起こらない。
となると、M良太郎の状態で乗せたほうが魔理沙の重量的負担は少なくなる。

「なら大丈夫だ。箒にちゃんと捕まってくれれば大丈夫だと思うぜ」
「そうそう、早く乗りなさい。高所恐怖症じゃあるまいし。
 そうでなくても私達が飛べないせいで足引っ張ってるのよ?」
(モモタロス、ここは乗せてもらおうよ)
『……わ、わーったよ!』

渋々、M良太郎が魔理沙の後ろに跨る。バイクには乗ったことのあるM良太郎だが
さすがに箒を乗り回したことは無い。
箒はモモタロスにとって振り回すものであり、乗るものではない。振り回すものでもないのだが。
格好としては先程デンライナーでギガンデスを倒したときを想起させる形だ。
操縦は魔理沙、デンバードの代わりに箒。少女の箒の後ろに青年が跨るという
いささかシュールな光景になっていた。

263俺参上第八話中編(7/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:14:13 ID:YbwRdTGw0
「じゃ、しっかり掴まれよ?……あんまり変なとこ触っちゃやだぜ?」
『馬鹿言ってねぇで飛ぶならさっさとしやがれ!』
「さ、私達も行きましょ」

少女の後ろに、箒にしがみついているM良太郎を魔理沙がからかった後
改めて霊夢も背中にハナを背負い空から人里へ向けて行く事になった。
が。

『うわあああああ!? お、おいマリモ、高い! 高いっつーの!』
「しゃべんなよモモタロス、舌噛むしよく聞こえないぜ」
「魔理沙ー、あんまりアクロバット飛行しちゃだめよー?
 良太郎さんもモモタロスも飛ぶの慣れてなさそうだし」
「……あの、私もこうして飛ぶのなんて初めてなんですけど」

モモタロスは箒に跨ったことがなければこうした形で空を飛んだことも無い。
デンライナーの変化といい、慣れない事に対しては結構うろたえる性質の持ち主でもあったのだ。
これが地上ならば転げまわるだけでいいのだが今は空中。落ちればただではすまない。
後ろでイマジンの力で暴れられては、さしもの魔理沙でも操縦感覚がおかしくなる。

『ま、マリモ! しっかり操縦しろってんだよ!』
「も、モモタロス、暴れるなっ! 本当に落ちちまうぜ!」
(モモタロス、落ち着いて! お、落ちる! 落ちるってば!)

箒の操縦を握る魔理沙だが、後ろで自身以上の力で暴れられては制御も利かなくなる。
既に魔理沙はM良太郎を乗せたまま、あらぬ方向へ不規則な軌道で動き始めている。
こうなれば、落ちないものも落ちる。

(およぉぉぉぉぉぉ!?)
『あぁぁぁぁれぇぇぇぇぇ!!』
「今度は私もかよぉぉぉぉぉ!!」

それは既に、ものが飛ぶという軌道ではなくなっていた。急上昇、急降下、錐揉みなんでもござれ。
まだ森は抜けていない。このままではまた森に落ちてしまう。
やむなく、霊夢がスペルカード発動の体勢に入る。

264俺参上第八話中編(8/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:17:47 ID:YbwRdTGw0
「こうなったら仕方ないわね。弾幕で軌道を無理やり変えてやるわ!
 魔理沙、良太郎さん、痛みは一瞬よ!」
「ええっ!?」

結界「拡散結界」

霊夢から放たれた結界は、暴走する魔理沙の箒を押し出すように展開される。
クッションにはなりえなかったが、森に墜落するのだけは避けられた。
しかし地上に思いっきりたたき付けられる形となるため、今度はクッションとなる木が無い。
弾幕結界の衝撃で魔理沙の箒にしがみついているM良太郎から、モモタロスが剥がれ落ちる。
そのまま、モモタロスだけ先に地上に落ちてしまっていた。
モモタロスは体を擦りながらふと上空を見上げると、未だ制御を失っている魔理沙の箒がある。
しかも墜落コースだ。

「いつつ……あのボロ服女、後で覚えてろよ……あン?いや、こりゃかえって好都合かもな。
 おーいマリモ、最悪俺に向かって突っ込んで来い、いいな!?」
「わ、わかった! 遠慮はしないぜモモタロス、でもいつぞやみたいなのは勘弁だぜ?
 もう私はまずいコーヒーなんて飲みたくないからな!」

体をさすりながら、モモタロスは墜落しようとしている魔理沙の箒を見上げる。
イマジンの力で振り回されその後霊夢の弾幕で吹き飛ばされているので
もはや魔理沙自身の力だけでは制御できなくなっている。
せいぜい、どこに墜落するかを選ぶことができれば御の字である。
ならば、モモタロスに受け止めさせる。激突の衝撃で、モモタロスが
魔理沙に誤って憑依してしまった例があるため、迂闊なことはできない。
チャンスは一回。モモタロスが魔理沙をうまく止めることができれば大成功。
箒は、何とかその軌道をモモタロスの方角に向けることができた。
それ自体が弾丸のような勢いで突っ込む魔理沙の箒。魔理沙のスペルカードに似た技はあるが
今はただの事故なのでスペルカード宣言どころではない。
ただ、最悪モモタロスに激突したときの威力は同等だろう。

「へっ、酒よりかはうまいんだがなアレ。さぁて……今だマリモ、良太郎! 手ぇ離せ!!」

モモタロスが取った体勢の立て直しの方法。それは、箒を掴むのではなく
魔理沙と良太郎を抱える形で箒から離れさせる方法。
二人に怪我は無いが、魔理沙の箒は奥の木に激突してしまっている。
恐らく、あの木にいた妖精は気絶しているだろう。一回休みという程ではないが。

265俺参上第八話中編(9/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:20:13 ID:YbwRdTGw0
「……ふーぅ、何とかうまくいったな。二人とも怪我ねぇか?」
「ああ、っていいたいとこだが、背中が痛いぜ。
 良太郎は大丈夫なのか? 私は背中に目は無いから見えん」

下手をすればモモタロスのラリアットが魔理沙に炸裂していた状態であったが
それだけは運良く避けることができた。だが、運良く避けられたのは魔理沙だけであった。
後ろの良太郎は、そのまま魔理沙に激突する形になってしまっていたのだ。

「ん……? お、おい良太郎!? 大丈夫か、しっかりしろ!!」
「だ、大丈夫だよモモタロス。それよりみんな怪我は無い?」
「あんまり魔理沙さんをなめちゃ駄目だぜ良太郎? なんたって私はイマジンを……
 ……って、これ良太郎に自慢してもしょうがないよな。ま、とにかく私は大丈夫だ」

遅れてくること数刻、原因の数割を生み出したであろう巫女が少女を背負い空からやってくる。
ドヤ顔で弾幕をお見舞いした霊夢は、悪びれる様子も無く魔理沙達の容態を心配している。
モモタロスも表情こそあまり変わらないが、相当頭にきている様子である。
元はといえばモモタロスが暴れたからこうなったのだが、お互い自分のことは棚に上げている。

「魔理沙、良太郎さん、大丈夫?」
「モモタロスのおかげでな。っつーか、誰のせいだ、誰の」
「はぁ。元はといえばモモ、あんたが暴れるから悪いんでしょうが」
「へーへーすんませんでしたハナクソ女さんにボロ服女さん」

今すぐにでもハナ・霊夢とモモタロスの殴り合いの喧嘩に発展しそうだが
普段でもモモタロスはハナに対し分が悪いのに、その上霊夢まで加わっている。
モモタロスの負けは確定的だが、モモタロスの側に魔理沙が加わり
また話がややこしくなっている。
そんな険悪ムードを吹き飛ばすかのように、良太郎が突然声を上げる。

「ちょっとみんな、喧嘩してる場合じゃないでしょ。それより、あそこにお店があるんだけど……
 霊夢さんか魔理沙さん、何のお店か知らない?」
「ん? お、ちょうどよかったぜ! ここが私の目的地『香霖堂』だ!」

そこには、おおよそ周囲から浮いている一軒の店があった。
店の表にはあらゆる物が雑然と並べられており、下手をすればごみ屋敷と見紛うほどである。
その雑然としたごみ――売り物らしき物の中には、良太郎の見た事のある物もあった。
幻想郷の中でも一際珍しいものを並べている小道具屋。それがこの『香霖堂』である。

266俺参上第八話中編(10/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:22:44 ID:YbwRdTGw0
その店先には、一人の少女がいた。人間には無い羽根を持った彼女は
本を携えて店先に佇んでいる。先日、アイビーイマジンと契約し
良太郎らに救われた妖怪の少女である。

「あ。君は確か……」
「はて。どこかでお会いしましたっけ? それはそうと、このお店の店主は今留守だそうですよ?」

見れば、確かに店の入り口には張り紙がしてある。
とても販売業を生業としているとは思えない、味気の無い事務的な文章でそれは記されていた。

――商品入荷のため、本日休業 〜香霖堂店主 森近霖之助〜

「何だ、香霖は留守か。なぁ、何処行ったかは知らないか?」
「昨日から無縁塚の方へ行ったそうですけど。
 今日も無駄足か、ここで本を読むのが好きなんですけどね……」
「珍しいわね。もう秋のお彼岸は過ぎたってのに。霖之助さんの事だから
 お彼岸の時に行ってきたはずなんだけど」

無縁塚。死後、縁故のある者に供養されぬ者達が眠るとされる場所。
幻想郷において、それは外の世界からの来客とほぼ同義である。
それ故に、外の世界と引き合う事が稀にあり、幻想郷にとって珍しい道具が落ちている事も
少なくは無い。香霖堂の商品には、無縁塚由来も少なくは無い。

「ま、今日の夜までには戻ってくるだろうな。今日、人里で天体観測会があるんだ。
 香霖もそれを楽しみにしてたからな。だから私はちょっとこの辺で待たせてもらおうことにするぜ」
「ああ、そういや今日って言ってたわね。けど悪いけど私はパスね。
 いくら留守番置いてるとはいっても夜に神社は空けたくないし」

最近行われているらしい人里の天体観測会。星に興味のある者は人妖問わず参加者を募るうちに
いつの間にやら小さな宴会程度の規模になったといわれている。
霖之助や魔理沙も例外ではなく、それを楽しみにしていたのだ。

「へぇ、そんなのやってるんだ。幻想郷はよく星が見えるから、姉さんに見せたら喜ぶかな」
「……色々な意味でお勧めしないわね、私は」

267俺参上第八話中編(11/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:24:43 ID:YbwRdTGw0
良太郎の姉・野上愛理もまた、星に想いを馳せる女性である。
天文学者である婚約者の影響で、星にまつわる本を集めた喫茶店を開く程度には
興味を抱いている。そんな彼女が、もし幻想郷の夜の星空を見ることがあれば
思うところの一つや二つはあるだろう。しかし幻想郷はただの人間にとっては
優しくない場所でもある。こんな所にでも来なければ、いまや満天の星空は
眺めることができないのだ。

「良太郎の姉さんか。やっぱ電王なのか?」
「いや、さすがにそれは無いよ」

電王である良太郎の肉親という事は、姉もまた電王なのだろうか、と魔理沙は考える。
しかし電王はそう簡単になれるものではない。良太郎が電王になったのは
あくまで不運と偶然と不運が重なったに過ぎないのだ。
良太郎はそんな魔理沙の質問に苦笑しつつ即答で否定するが
その後の言葉は飲み込んでいる。

――電王じゃないけど。前の僕の、電王の戦いの中ではとても重要な位置にいた。
と。

「まぁ、今良太郎さんのお姉さんの事について話してる場合じゃないわよね。
 香霖堂まで来たって事は、里はここからそう遠くないわ。早いところ行きましょ。
 ここからはそれほど入り組んだ道もないし、私についてきさえすれば迷うことは無いわ」
「おっと。それじゃ私はここまでだ……そうだ良太郎。前に言ってたケータロス
 ってやつの事については私から香霖に聞いておくぜ。
 あいつは道具に関しては詳しいからな。じゃ、気をつけて行ってこいよ」

「うん、魔理沙さんも気をつけてね」
「じゃあな、マリモ!」

危うく、良太郎の姉の事についてあれこれ話しそうになる流れを変えるべく、霊夢が先陣を切る。
ここから人里は、それほど距離は離れていない。
しかし、足の一つでもあった魔理沙はここで人里行きのグループから離脱する。
霖之助に用事がある以外にも、人里に行きたがらない様子がちらほらと見え隠れしているが
それは霊夢以外の面子には察することはできなかったし、今はそれを言及する時でもない。
魔理沙と別れ、霊夢の案内の下良太郎、モモタロス、ハナは再び人里への道を進み始める。

268俺参上第八話中編(12/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:26:42 ID:YbwRdTGw0
「ボロ服女、こっから先は入り組んだ道は無いんだな? だったら良太郎、デンバードで行こうぜ」
「初めからそれ使いなさいよ……ってわけにも行かないか。今まで森越えだったものね。
 あれ、障害物の多いところを走るのには向いてなさそうだし」

モモタロスが良太郎に憑依しなおし、デンライナーのパスをかざす。
どこからとも無く、エンジンの音を響かせてそれは到着した。
マシンデンバード。デンライナーの操縦桿にして、電王の専用バイクである。
ひとりでに走るデンバードに、霊夢は驚きを隠せない。すかさずハナに突っ込まれるが
バイクという乗り物をよく知らない霊夢には無理からぬことであった。

『ところでボロ服女。おめぇ、デンバードより早く飛べるか?』
「何だか馬鹿にされてる気もするけど。ま、やってみないことにはわからないわね。
 何なら競争でもする?」

マシンデンバード。通常走行時でさえも時速360kmを誇る電王のバイク。
対する霊夢は空を飛べるとはいえ、高速飛行に特化しているわけでもない。
せいぜい、走るよりは早く動ける程度だ。

『言っとくが俺は、バイクの操縦でも最初からクライマックスだからな? ハナクソ女、後ろに乗れ!』
「いいわ。外の世界のバイクって乗り物が、どの程度か見せてもらおうかしら」

そんな両者の競争の結果は、火を見るより明らかであった。
あっという間にM良太郎の操縦するデンバードは、後ろにハナを乗せたまま
霊夢の前から走り去ってしまったのだ。

「ちょ、ちょっと! 私より先に行ってどうするのよ!
 こら、そっちじゃないわよ、待ちなさいってば!!
 ……あーもう、外の世界の乗り物って幻想郷の妖怪以上に化け物ばっかね!
 あんなのが幻想郷で一杯走ろうものならとんでもないことになるわよ……」

結局、一行が人里に着いたのは既に太陽の光は西日になろうかというような時間であった。
高速で空を飛ぶ天狗はいても、高速で地上を走るモノは珍しい幻想郷において
デンバードは新聞記事になったとか、ならなかったとか。

269俺参上第八話中編(13/13) ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 22:30:09 ID:YbwRdTGw0
――――

人里への入り口。太陽が最も高くなるであろう時間にゼロノスはそこにいた。
マシンゼロホーンから降り、バックルに刺さっていたカードを抜く。
緑色の、光り輝く切符のようなオーラとともにゼロノスの姿は
寺子屋で天文学について教えている桜井へと姿を変える。
抜き取ったカードは、粒子化して消えてしまっていた。

(これは……また怒られるな)

里に入ろうとする桜井を、門番を勤める里の男が止める。

「すみません。この辺りでは見かけた記憶がありませんが、外の世界の方ですか?」

確かに桜井は外の世界の人間である。だが、門番に出入りを止められるような人間でもない。
今年からではあるが寺子屋の新しい先生として、里に住んでいるのだ。
そんな人間が、出入りを止められるわけが無い。
人間の里は、外の世界の街に比べれば当然、狭い。
古くからある田舎社会が、そのまま残っているような社会である。
そんな社会で、寺子屋の新しい先生ともなれば、里において知らない人間などまずいない。
まして、つい二、三日前に来たわけでもない。呼び止められる理由は二つある。
一つは、門番自身が里にとって新入りであること。そしてもう一つは――

「待て待て、その殿方は私の知己だ。通してやってくれ」
「あ、これは失礼しました」

寺子屋で歴史を教えており、寺子屋を立ち上げた第一人者である上白沢慧音。
彼女の口添えにより、桜井は無事里へと入ることができた。
門番も、初めは納得していなかったようだが
慧音の知己であることもあり、無碍にはできぬとして、桜井を通すことにした。

しかし、慧音の表情は極めて厳しい。今日の授業は終わったのか
桜井を自宅に招きいれ、一室に通す。
互いに向かい合うように、畳の上に並べられた座布団へと腰を下ろす。

270 ◆cedHmDsvEg:2011/05/01(日) 23:08:09 ID:YbwRdTGw0
というわけで八話中編でした。
先日載せ忘れた件も含めセルフQ&Aを載せておきます

Q:意魔人?
A:イマジンです。イマジネーションの魔人、ということで。
  イマジネーションは想像、の意味ですが「想魔人」でイマジンと読ますのはちと無理があるので
  イマジンの願いの解釈並に強引な解釈をして「意」の字をあてました。
  ちなみにイマジンを知ってる人は基本カタカナ呼び、幻想郷でイマジン(モモ達以外)に
  あまり縁の無い人達は基本漢字呼び、としてあります。

Q:森越えしてた理由
A:博麗神社〜人里の場合ですと、今作限定の地理ですが
  人里←→香霖堂←→魔法の森←→博麗神社

  となってます。当然別ルートもありますが、今作ではこれが一番近道という設定です。
  でも当然飛べるからこその近道であり、飛べない人達には……そしてこのざまである。

Q:朱鷺子が良太郎を忘れてる不具合
A:仕様です。契約完了時、基本的に契約者は意識が朦朧としています。
  記憶を介してイマジンを過去に飛ばす、飛ばれるのは
  契約者に心的ダメージが大きいようですし。妖怪の場合後遺症が出てもおかしくないレベル。
  つまり一連の事件は夢だと思っており、元々良太郎との面識が無い場合
  良太郎との面識は無いも同然です。精々「夢の中に出てきたよくわからない人間」です。

Q:霊夢が朱鷺子をボコらなかった理由
A:ボコる以上に急いでました。なので、人里についた直後
  遅くなる原因を作ったモモタロスは霊夢にお仕置きされてます。

271名前が無い程度の能力:2011/05/15(日) 01:25:11 ID:cyAFqNb20
電王か

272名前が無い程度の能力:2011/05/24(火) 01:37:34 ID:ql2ont0.0
>高所恐怖症じゃあるまいし

エピソード青で「高いところ苦手」って言ってたが
仮にもン十メートルもジャンプできたり
空飛ぶ乗り物乗ってる奴が言っても説得力が無いなw

中の人はガチで高いところ苦手らしいが

273俺参上第八話後編(1/8) ◆cedHmDsvEg:2011/06/19(日) 00:47:54 ID:H6LCJ40k0
「……また、ゼロノスに変身したのだろう? いや、答えなくていい。
 あの門番の態度を見ればわかる。後遺症については私が手を打っておく」
「すみません、お手数をおかけします」

今回の件は、ゼロノスに変身しなければ神社が危なかった。
それを考えれば、桜井は決して無駄に変身しているわけではない。
桜井自身、ゼロノスへの変身がどういうものかはよくわかっている。
そのせいで今ここにいるのだから。
しかし、そうだとしても慧音にしてみれば納得がいかない。
ゼロノスに変身するということの意味を、彼女も知っているのだから。

――自身に関する第三者の記憶の消失。

ゼロノスへの変身の代価は、これである。ゼロノスには力の代償として
このような大きな代価を求められる。
幻想郷は、外の世界において忘れられたもの、必要とされなくなったものが
やってくる世界であるとも言われている。

「君がゼロノスのカードを持っているってわかったとき、何故幻想郷に来たのかも
 わかってしまったよ。やはり、ゼロノスは……いや、よそう。
 ともかく、外の世界のようなカードの使い方だけはしないでくれ。それにな……」

慧音の話は長々と続き、気づけば太陽は頂上から下り始める程の時間になっていた。
ふと、時計の針に気づき慧音は話を切り上げる。

「っと、すまない。私も用事があるんだった。そっちも、今日は天体観測の日だろう?
 私も付き合うが、言いだしっぺは君だ。準備は任せたぞ?」
「そうですね、では私は帰って準備をしてきます」

足をさすりながら、桜井は立ち上がり慧音の家を後にしようとする。
ふと、何かを思い出したように慧音が棚の引き出しを開け、紙を取り出す。

――博麗神社の霊札。
先日、慧音が霊夢の元へ外の世界の人間を帰しに連れて行った時についでに貰ってきた代物。
妖怪退治の心得がある慧音自身には殆ど需要の無いものだが、桜井は別だ。
ゼロノスに変身すれば妖怪退治は簡単にできる。だが、妖怪だらけの幻想郷において
妖怪に襲われるたびにゼロノスに変身していてはすぐにカードがなくなってしまう。
そのために、変身せずに妖怪から身を守ることのできる霊札は、桜井にとって重要な道具なのだ。

274俺参上第八話後編(2/8) ◆cedHmDsvEg:2011/06/19(日) 00:50:13 ID:H6LCJ40k0
「おっとすまん、帰る前に持っていってくれ。神社の札だ。
 いつものように、妖怪に襲われたらそれを使うといい」
「これは……いつも助かります」

頭を下げ、慧音から札を受け取る桜井。礼なら霊夢に言ってくれ、と慧音は涼しげに返すのみだ。
現役の博麗の巫女――霊夢も巫女と呼ばれるが、先代と違い名前もそこそこに知れ渡っており
名前で呼ぶものも少なくない。先代の博麗の巫女は、巫女としての活躍が凄すぎたがために
巫女としての認識のみが広まり、巫女個人の名前は忘れ去られてしまっている。
霊夢を巫女と呼ぶのは、異変が起きたときか、儀式の場か
あるいは仕事や修行を疎かにしがちな彼女に対する嫌味や皮肉を込めて呼ぶ位か。
先代の例があるため、慧音は霊夢を名前で呼んでいる。
先代に比べると修行を疎かにしがちである霊夢に対する釘刺しの意味も込めているが。

「それでは、また夜にな。私も楽しみにしているからな、君の青空……いや夜空教室か」
「はい、それでは失礼します」

(ゼロノスの存在がおおっぴらになれば、私でも隠しきれないかもしれない。
 だから、もう変身しないでくれ……)

頭を下げ、桜井は慧音の家を後にする。桜井が去っていくのを見送った後、慧音も家の外へと出る。
慧音の机の上に置かれた巻物は、光を放ちながら自然と記された文字が消えたり
現れたりしている。曰く

――『桜井は、ゼロノスのカードを一枚も使っていない』

桜井のカードの使用に対し、慧音がカウンターで成立させた術式。
桜井がゼロノスのカードを使う度に術式が発動し、ゼロノスのカードによる副作用を
一時的なものにする。里の門番の青年も、明日には桜井の事を思い出しているだろう。
歴史を隠す。慧音が持ち合わせる程度の能力。
桜井も、似たような方法で外の世界の危機を救ったことがあった。
勿論、桜井にそんな能力は無い。ゼロノスのカードを使ったのだ。
今回は歴史を隠すことにより、ゼロノスのカードが使われた事実を無かったことにし
ゼロノスのカードの副作用に抵抗したのだ。

だが、あくまでも「隠している」に過ぎない。起きた事実は変わらない。
証拠に、桜井のカードは減り、ゼロノスに変身し神社へ向かい
ゼロノスとモールイマジンとの戦い、そしてゼロノスと魔理沙の邂逅。
これらは、既に起きてしまった事実。隠すことは出来ない。
しかし、ゼロノスへの変身という事を隠せばどうか。

桜井のカードは何故か減り、何者かによって神社のモールイマジンは倒され
魔理沙は謎の存在と出会ったことになる。
慧音が隠すことによって、初めからゼロノスを知っているもの以外
ゼロノスは幻想郷において謎の存在のままとなる。
この謎の存在の影響が大きくなればなるほど、隠し切れなくなる。
その時こそ、ゼロノスカードの対価を払わなければならない。
そうなれば里の全て、いや幻想郷全てにおいて桜井を知るものは一人としていなくなる。
そうなれば、幻想郷からも天文学者・桜井侑斗は消失してしまうだろう。

275俺参上第八話後編(3/8) ◆cedHmDsvEg:2011/06/19(日) 00:52:02 ID:H6LCJ40k0
慧音の向かう先は稗田の家。幻想郷にとって極めて重要な書物である
「幻想郷縁起」の編纂を行う御阿礼の子と呼ばれる少女、稗田阿求の家である。
しかし、今日慧音の用事があるのは阿求では無く、稗田の家で手当てをしていた行き倒れの青年。
昨夜、慧音と桜井が見つけて運び込んできたストールの青年である。
今日、永遠亭から薬師がくる手筈になっており、慧音はそこに立ち会うことになっていたのだ。

「上白沢様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「ああ、頼む」

使用人に案内され、慧音は青年が眠っているであろう部屋へと向かっていった。

――――

見渡す限りの砂漠。しかし、太陽は照り付けておらず砂漠特有の
うだるような暑さも無ければ、空は夜ほど暗くない。
しかし空は虹色に輝き、一面の砂地の彼方には辛うじて
モニュメントバレーのような岩が見える程度。
デンライナーが走る風景に似ているが、デンライナーは走っていない。

――やった! 俺の……だ!! もう誰にも…………ない!!
   俺、めちゃくちゃ……そうな……てるだろ!!

狂気に満ちた表情で叫ぶのは、赤いストールを身に着けた青年。
表情と感情は噛み合っていないが目標を達成した満足感が、彼を支配していた。
この何も無い、一面砂景色の世界。これこそが、彼の求めたものだったのだろうか。

――おい

何も無い、砂景色に伝わる何者かの声。しかし青年は気にも留めず
狂ったように笑い、砂を撒き散らしたりしている。
何度か、何も無い場所からの声が響くが、青年は一向に気づかない。
無視を決め込んでいるのだろうか、と言うくらいに声に反応しない。

――おい、聞こえてるだろ。ろくでなしの……

ろくでなし。この単語が出るや否やというタイミングで、青年は何も無い砂地を殴りつける。
そこから、噴水のように砂が吹き上がる。しばらく噴出した後、砂は一帯の砂地と混じってしまい
どれが噴出した砂かはもはや、わからない。

276俺参上第八話後編(5/8) ◆cedHmDsvEg:2011/06/19(日) 00:53:32 ID:H6LCJ40k0
――……うるさいよ。これが俺の……なんだよ。この……無い、砂だらけの…………

さっきまで狂ったように笑い、はしゃいでいた青年とは全くの別人のように
ストールの青年は淡々と言葉を述べる。
殴りつけた地面を今度は足でもみ消すように押し付け、満面の笑みを浮かべながら
何も無い虹色の空に向かって呟く。

――ああ、やっぱダメだわ。すぐに無くなっちまう。
   もう一度…………を……ないと…………って気が……よ

呟き終えると、青年は砂の上に大の字で背中から倒れこむ。そしてそのまま、目を閉じてしまった。
ずっと上から眺めている、日傘を差し紫色のドレスを纏った女性の存在には気付くことなく。

――――

人里、稗田家。
幻想郷縁起に関わらず、稗田家そのものが由緒正しい家系であり
その家も使用人を数人雇う程度には大きい。
その一室に、今は客人がいる。迷い込んだ客人か、果ては招かれざる客人か。
倒れていた所を担ぎ込まれたため正体はわからない。

「う……」

客間に敷かれた布団に、青年は横たわっている。
枕元には、青年の容体を調べに来た看護師らしき女性がいる。
赤と群青のツートンカラーを中央で分け、所々に星座があしらわれた、奇抜なデザインの服。
長い銀髪を三つ編みで纏めたその女性――八意永琳。
竹林の奥で診療所を開いており、人里にも薬を届けている。
自らはそう頻繁には里に来ないのだが、今日は阿求の健康診断のついでに
青年の容体を観察しに来たのだ。

「なぁ、お前……誰だっけ……」
「気づかれましたか。私は薬屋さんですよ。昨日、あなたが近くの原っぱで倒れていたそうなので
 こちらに運び込まれてきたんです」

青年は状況を把握し切れていない。寝起き直後というのもあるのだが
つい先刻まで一面砂景色の場所にいたはずだ。
あの砂の感触は、夢にしてはリアルすぎた。しかし、今は全く違うところにいる。
砂どころか、家屋――それも立派な屋敷の一室と思われる。

「あなた、名前とかはわかりますか?」

277俺参上第八話後編(5/8) ◆cedHmDsvEg:2011/06/19(日) 00:55:54 ID:H6LCJ40k0
――名前?

こいつは何を言っているのだろう、青年の頭には女性の質問に対する
答えよりも先にそちらの疑問が生じていた。
だが身元不明の青年に対し、まず身元をハッキリさせようとするのは
不思議なことでもなんでもない。
たとえすべてを受け入れる幻想郷であろうと、身元不明者が
いつまでも身元不明でいられるなど、正体不明の妖怪でもありえないことなのだ。
それでも青年は身元を明かすことができない。否、明かす事のできる身分を覚えていない。
出身、目的はおろか、自身の名前さえも。

「あー……わっかんねぇなぁ。それより何だか、すっごい体がだるいって気がするよ」
「ふむ。意識や応対は正常で、体力と記憶に問題があり、と
 (参ったわね。これでは彼が野上良太郎であるかどうかの確認が取れないわ。
 運の悪さ的には……どうなのかしらね)」

青年の申告に、薬屋さんは事務的に、淡々と答える。
現状で青年に一番適切な処方箋が何か、次の瞬間には頭を回転させていた。
体力はともかく、記憶喪失に効く薬となるとあるかどうか疑わしい。
たとえそれが幻想郷一の薬剤師の頭脳をもってしても。
体力だけでも解決しようと、最適な処方箋を頭の中で作り上げたと同時に
部屋に少女と少女よりは年上と思しき女性が入ってくる。
少女は黄色と黄緑色の着物に朱色の袴を纏い、菫色の髪に牡丹の花飾りをつけている。
この家、稗田家の若き当主、稗田阿求。
女性は青を基調とした色使いのワンピースを纏い、青のメッシュが入った銀色の長い髪。
里で寺子屋を開いている上白沢慧音。
慧音は普段帽子を被っているのだが、ここは屋内であるためか今は被っていない。

「あ、お目覚めになられたのですか」
「ん? お前、誰だっけ」
「彼女はここ、稗田家の当主稗田阿求。お前をここに寝かせるよう手配してくれた人だ。
 私は上白沢慧音。寺子屋の教師をしている。
 それより君の名前は? 君は今病人だから大目に見るが、人に名前を聞く時は
 まず自分から名乗るべきだと思うが」

名乗りこそすれ、慧音はつい説教じみた喋りになってしまっていた。
これこそが慧音のやや悪い癖であり、知己や教え子からからかわれたり
少々疎まれる理由になっている。
説教をして回っていると噂のとある閻魔ほどではないが。
阿求はそんな慧音に苦笑いしつつ、青年に語りかける。

「そういえばまだ名乗ってませんでしたね。
 私はさっき言われたとおり、この家の家主です。あなたは?」
「……すみません。彼、どうやら記憶がまだ混乱している様子なのですよ。
 自身の名前も、まだわからない様子でして」

278俺参上第八話後編(6/8) ◆cedHmDsvEg:2011/06/19(日) 00:58:10 ID:H6LCJ40k0
青年の名乗りを期待していた阿求であったが、その願いは永琳によって脆くも打ち砕かれる。
それは永琳のせいではないし、まして青年のせいでもない。
しかし、青年が自身の名前を把握していない以上、名乗ることはできない。
阿求は一瞬顔色を曇らせるが、その次には何かを考え込んでいた。
彼女の考えは、青年の次に発した一言で確信へと至った。

「んー、やっぱ何も思い出せないって気がする。俺、困ったって顔してるだろ?」
「あまりそうは見えませんけど……記憶が無い、ですか……」

言葉とは裏腹に青年はにこやかである。青年は自称、記憶喪失である。
記憶が無い。それは「一度見聞きしたものを忘れない」程度の能力を持つ
彼女にはほぼ無縁である。
それ以上に彼女が気になったのは青年の「言動と表情がシンクロしていない」事である。
言葉では困った様子で、口調も確かに困っているのだが表情は笑っている。
ただ単に笑うしかない、だけかもしれないが。

「それともう一つ、今現在は彼はまだ少々疲れている様子です。
 お話でしたら、明日以降でもよろしいかと」
「俺は別にかまわないって気がする。お前らの事、全然わからないし……
 で、俺何してたんだっけ?」

――やはり、記憶能力に問題ありと思われる……と。
青年がここで寝かされている理由は、つい今しがた永琳の口から語られた。
青年が聞き流していただけかもしれないが
「何故自分がここにいるのか」を全く把握していないのは、どんな理由であれ事実のようである。

「いやですわ、さっき言ったじゃないですか。外に倒れていたのをこちらに運ばれた、と」
「そうだっけ? あー……うん、そうだった。そんな気がする」

永琳の解説に青年も納得したのか、一人頷いている。
意識を取り戻した青年に、永琳が許す範囲での質問攻めが始まった。
名前はわからない。どこから来たのかもわからない。自分の身分を示すものは何も無い。
唯一わかるのは、その服装から幻想郷出身ではない、外の世界出身と思しき事。

しかし、それ以上の聞き取りは困難を極めた。青年自身の記憶力の悪さが半端ではないのだ。
数秒前に聞いたことでさえ、覚えていないと言う。これには慧音も初めは「話をまじめに聞け」と
きつい口調で言ったが、何度も続くので次第に諦めていき
永琳は何らかの症状を疑っていた。
永琳が青年に何らかの持病を疑う症状。
それは「記憶能力が極端に悪い」事と「表情と感情がシンクロしていない」事。
怒り顔で笑い話をしたり、号泣しながら取り留めの無い話を理解したり。
健忘症を疑ったが、健忘症と断定するには早い。
健忘症の薬は永琳ならば簡単に作れるが、投与には慎重にならざるを得ないだろう。

279俺参上第八話後編(7/8) ◆cedHmDsvEg:2011/06/19(日) 00:59:50 ID:H6LCJ40k0
「……やれやれ。わかったのは結局『記憶が無い』のと『感情表現があまりうまくない』事だけか」
「その記憶が無い、の原因がはっきりしないのよよね。頭に強い衝撃を受けた様子も見られないし
 これ以上はうちで詳しく検査しないと何とも言えないのだけど……」
「永遠亭にですか? しかし……」
「俺は別に構わないって気がするよ。どうせ、俺どこ行けば分からないし」

日は既に傾き、そろそろ移動しないと妖怪の時間になってしまい、色々と危険である。
それに永琳自身、永遠亭には夜までには帰ると言ってしまっている。
青年の聞き取りが難航したためであるが、これ以上稗田邸にいると
帰宅が遅くなってしまいかねない。

「……それじゃ、検査のためにちょっとついて来てもらえるかしら?
 えっと……何て呼びましょうか。野上君、でいいかしら?」
「……その名前、聞いたことあるけどわからないって気がするし
 そう呼ぶのだけはやめてくれって顔してるだろ」

青年は笑いながら永琳の提案を突っぱねる。その表情から感情は読み取れない。
しかし、野上という名前に何らかの思い当たる節があるのかもしれない。
出発の支度を整える永琳と青年だが、ふと青年の動きが止まる。

――……カイ。お前の名前は、カイだ。
青年の頭に響く声。声の主はわからないが、青年の名前は知っている。
頭に響く声が、端的にではあるが青年の記憶を引きずり出している。
薬の力でも、ショックを与えたわけでもなく、唐突に。

「……あれ、言わなかったっけ? 俺の名前、カイだけど?」
「名前、思い出したんですか!?」
「カイ……そうか。カイ、他に思い出したことはあるか?」
(これは……どういう経緯で思い出したのかしら?
 突然思い出すなんて記憶喪失を偽らない限りはそうそう出来る芸当ではないわね。
 そして……ウラタロスさんの探している青年では無かったようね)

ふと、青年――カイは己の名前を思い出す。阿求と慧音は喜ぶが、永琳は訝しむ。
ついさっきまでろくな記憶力を持たなかった人間が、何故突然名前を思い出したのか。
ショックを与えたわけでも無いのに。

280俺参上第八話後編(8/8) ◆cedHmDsvEg:2011/06/19(日) 01:01:34 ID:H6LCJ40k0
(部分健忘……じゃ、ないわね。さっきまで何も思い出せなかったんですもの。
 記銘も想起も出来ない健忘症……ねぇ)

結局、青年の正体はカイという名前までしかわからなかった。里の出口で永琳とカイを見送り
阿求は稗田邸へ、慧音は桜井と共に今夜行う天体観測の授業の準備があるため
それぞれ帰っていった。

その光景を、物陰から見守る黒い影があった。黒い影は赤い目に二本の角。
その姿は明らかに鬼を想起させるが、黒い体色と相まって
禍々しさをこれでもかと醸し出していた。

「……自分の名前すらろくにわからなくなったか。時間を持たない特異点め。
 さて、こっちもそろそろ動かないとな。丁度いい悪の組織の母体があるようだし、都合がいい。
 俺がでかい花火ぶち上げるまで、しばらくあいつには大人しくしてもらうか。
 いちいち煩いのも気にいらねぇ……」

角を擦りながら、黒い影は人里の闇へと消えていく。
姿は妖怪でありながら、まるで人里を根城にしているかのように。

チチチチチチ・・・チッ・・・チッ・・・チッ・・・

281 ◆cedHmDsvEg:2011/06/19(日) 01:03:14 ID:H6LCJ40k0
次回予告
良太郎が幻想郷に迷い込んだ時、4人の妖怪も同時に入り込んでいた。
竹林にはじける磯の香り。明らかに異質なそれは、持ち前の狡猾さを発揮し兎と化かしあう。

「通りすがりの浦島太郎、ってとこかな?」
(はて浦島太郎、どっかで聞いたような)

かつて抹殺しようとした者の名を冠したそれは、罪に対する皮肉なのか。
永遠を生きる月の姫と地上の兎、須臾に生きた海亀。
生きた時は違えども、道は重なるのだろうか。

「燕の巣にある貝でも取って来いって言われるのかな」
「……念のため言っておくけど、これ全部本物よ?」

ただひとつ、誰しもが当たり前に持つ感情。その一点において、確かに両者の道は重なっていた。

「さ、始めよっか」
「そうだねぇ、それじゃあ」

東方俺参上 第九話
釣符「兎詐欺と亀」

「「僕(私)に、釣られてみる?」」

282 ◆cedHmDsvEg:2011/06/19(日) 01:23:17 ID:H6LCJ40k0
唐突でしたが第八話これにて終了です。一部ナンバリング狂ってますが気にしないでください。
次回からは良太郎を探しに来た他のイマジンにスポットが当たります。

>>271
電王です。
今回投下前の注意書きが抜けてしまいましたが内容は>>256に準じます。

>>272
高岩さんにだって苦手なものくらい……ある……
その苦手なあのフォームもこういう媒体では活躍させ放題ではありますが。
中の人事情関係なくあのフォームは活躍させたいです。

今回のセルフQ&Aはひとまずこの1点のみ

Q:慧音の能力とゼロノスカードの副作用について
A:電王においてある意味東方の設定並にややこしいゼロノス周りの設定。
ゼロノスに変身する度に自分が忘れられるという副作用ですが今回は
「慧音の能力でゼロノスのカードを消費した事を無かったことにし、消費による作用を無くしている」
とマイナスでマイナスを打ち消してます。

ただし慧音の能力も「そういうことに認識させている」だけで、実際に過去を変えてはいません。
実際に変えた時点でやってる事がイマジンと同じになってしまいますので。

そして、今桜井さんが持っているゼロノスカード。これは全て桜井さんと関わった
幻想郷の人妖の皆さんの記憶です。使い切れば当然……

幻想郷からもいなくなった人妖って、確か……

283名前が無い程度の能力:2011/06/20(月) 10:11:33 ID:.g9X4xWU0
カイきたー! そして次回ウラも来るー!?

284名前が無い程度の能力:2011/07/03(日) 04:32:29 ID:IX2CSfIs0
>悪の組織の母体
謎の秘密歴史結社か?

285名前が無い程度の能力:2011/07/21(木) 01:27:18 ID:pD8l3qZ.0
MARVELとクロスしたらどうなるだろうなー別スレにはこんなのあったが

973 :名前が無い程度の能力:2011/04/24(日) 21:49:36 ID:4mcguzn.0
>>970
ミュータント安住の地を手に入れるために侵攻を開始するマグニートー
幻想郷の未知のテクノロジーを手に入れるために裏で画策するDrドゥーム
ソーを打倒するために緋想の剣を狙うロキ
新たな母星を手に入れるために侵略してくるスクラル帝国
妖怪の存在を危険視したトラスク教授によって、妖怪抹殺用に調整されたセンチネル
カオスディメンションとダークディメンションからこんばんわのシュマゴラス&ドーマムゥ
暇つぶしのために色々チョッカイを出してくる、かまってちゃんのサノス
月人をヘラルドにし、地球を捕食せんとするギャラクタス・・・etc

紫がストレスで憤死するまで何日持つだろうかw
本来なら幻想郷の面子とマーベルヒーローたちが協力してヴィランに
立ち向かうのだろうが、妖怪と幻想郷の本質を知ったパニッシャーは
途中で離反してヴィラン+妖怪を虐殺する側になるんだろうな・・・


とりあえずサノスが来たらマジで終わる
運命から外れている上に不死なのでおぜうとゆゆ様の能力が全く効かず、
なおかつ不死キャラを理由なしにぶち殺せるという酷い有様

286名前が無い程度の能力:2011/08/07(日) 16:53:11 ID:CLY5XVKw0
咲夜さんが主人公で[バーン・ノーティス元スパイの逆襲]っぽいのを


私の名は十六夜咲夜、最近までメイドだった。

『さよなら咲夜、もう二度とあなたには会えないかもしれない』

クビになってしまったメイドは無惨よ。家も主人も、仲間も奪われてもうそれまで。

『ここは何処かしら?』
『妖怪の山』

生きるためには下らないお遊びにも食らいつく。知り合いも頼りない。

『アタイったら最強ね!!』

喧嘩っ早いただの魔法使い。

『ぶっ放しちまったぜ!』

私を守矢に売る河童。

『最近のメイドはピャーピャーうるさいからねぇー』

そして、博麗の巫女。

『何だそれ、陰陽玉?』

とにかく最悪よ。

『ちょっと手伝いなさいよ、どうせ暇でしょ?』

しかし、私はメイドに復帰するまで、絶対に諦めない。

287 ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 01:52:11 ID:HZLFiUYM0
・この作品は「東方Project」と「仮面ライダー電王」の二次創作作品です。
・この作品には二次設定・独自設定が含まれております。
・この作品には戦闘シーンや暴力的なシーンが含まれております。
・この作品は「東方Project」及び「仮面ライダー電王」の原作及び他の二次創作作品とは一切関係ありません。
・この作品には「仮面ライダー電王」のTV本編ネタバレ要素が大いに含まれています New!!

以上抵抗のある方は恐れ入りますがトリップをNGに指定してくださいませ。

私信
神霊廟ネタバレは完全解禁だそうですが……コミケには行ってません。
そのためオーズ夏映画のネタバラシしか出来ません、あしからず。

07:58
東方俺参上
僕に釣られてみる?

288俺参上第九話前編(1/10) ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 01:55:02 ID:HZLFiUYM0
良太郎らが人里に辿り着いた日から遡る事一日前。
2008年10月5日(第百二十三季九)。

「それじゃ先輩、キンちゃん、リュウタ。良太郎が見つかったら教えてね。
 僕はこの竹林の辺りを探してみるからさ」
「せやな。ほんなら俺はこの山の方角へ行ってみよか。高いところからならよう見えるやろ」
「じゃあ僕はこっちの赤いお化け屋敷の方探してみる! 答えは聞いてない!」
「おい小僧、何で良太郎がそんなとこにいると思うんだよ?」

デンライナーの食堂車。今、四人のイマジンが一人の人間を探すための作戦会議を開いていた。
山の方角へ行こうとする金色のイマジン――キンタロス。
赤いお化け屋敷を探索しようとする紫色のイマジン――リュウタロス。
竹林の方角を探そうとする青いイマジン――ウラタロス。

「じゃあモモタロスはどこに良太郎がいると思うの?」
「え? そりゃおめぇ……適当にぶらついてりゃそのうち見つかるだろ」
「……先輩。ここさぁ、ターミナルでもなければ江戸時代でもないんだよ?
 全くの異世界って言っても過言じゃない。
 そんな所で、そんな適当に釣竿たらしても釣れる訳無いじゃない」
「桃の字の言う事にも一理あるっちゃあるけどな。そんかわり、ここは妖怪やら何やら
 ようさん出るそうやないか。そのお陰でハナはオーナーから下車禁止って言い渡されとるし
 俺らがハナの分まで何とか探すしかないやろ」

思いの外適当――と言っても普段どおりだったりするのだが。
――なモモタロスに対し次々と突っ込みを入れる他のイマジン。

「じゃあモモタロスが探すところは僕が決めるね、この……えーっと……
 ねぇ亀ちゃん、これ何て読むの?」
「『博麗神社(はくれいじんじゃ)』だね。聞けばこの辺りは迷子が見つかりやすいし
 僕達みたいなイマジンでも居てもそれほど怪しまれない。先輩にはうってつけかもね」
「ほんなら決まりやな。よっしゃ! 山が俺を呼んどるで!」

首を鳴らし、意気揚々とデンライナーを後にするキンタロス。
それを追うように、駆け出していくリュウタロス。

289俺参上第九話前編(2/10) ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 01:56:23 ID:HZLFiUYM0
「あ、待ってよ熊ちゃーん!」
「さて、と。僕もこんな所で油なんて売ってられないね。それじゃナオミちゃん、ハナさんよろしくね」
「はーい、皆さん気をつけてくださいね! また何かあったら駆けつけますから!」
「おう! それじゃ、良太郎連れて帰ってくるからよ、コーヒー用意して待っててくれよな!」

ナオミに挨拶し、軽やかに出て行くウラタロスと、最後に飛び出すのはモモタロス。
各々、幻想郷の全く違う場所で降り、良太郎捜索へと向かったのだ。

……なのだが。

「……やれやれ、参ったな。釣り師が釣られるなんてね。
 先輩にだけは知られたくないな、この失態は」

幻想郷に存在する迷いの竹林。ここは一度入ると抜け出す事は至難の業とされる魔境である。
ここにいるのは妖精か、このあたりに生息している妖怪兎のいずれかである。
そうでなければ、運悪く迷い込んだ外の世界の人間か。
しかし、今ここでぼやいたのは、そのいずれにも当てはまらない。
強いて言うならば後者だが、見てくれは人間のそれとは大きく異なっている。

肩・腿・膝・上半身などに亀甲模様の水色のプロテクターのようなものをつけ
全身は青く、目は橙色。頭には小さい三本の角のようなものが確認できる。
このまもなく後、幻想郷を騒がせることになる外の世界の妖怪――イマジンに最も近い。

(迂闊に動くよりも少し落ち着いて作戦を練り直した方がよさそうか。釣りの基本だね)

この竹林は似たような景色が続き、現在位置の把握が困難である。
魔法の森といいこの竹林といい、幻想郷にはこうした「迷いやすい場所」は少なくない。
そんな事をこのイマジンが知っているかどうかは定かではないが
迷いやすい場所であるならば道標を作り、迂闊に動き回らないなど工夫を凝らさなければ
あっという間に迷ってしまう。

彼も標を作り、迷わないように動いていたつもりだろうが、結果として迷ってしまっている。
こうなれば、下手に動き回って消耗するよりもじっとしている事の方が重要であると言えよう。
幸いにも、彼は釣りを趣味としているらしく、待ちの姿勢に抵抗はほぼ無い。
適当な竹を背もたれにし、地面に腰掛けて数刻が過ぎたあたりで、それは聞こえた。

(……女の子の悲鳴? こりゃ行かないわけにはいかないでしょ!)

290俺参上第九話前編(3/10) ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 01:58:22 ID:HZLFiUYM0
東方俺参上 第九話
釣符「兎詐欺と亀」

少女のものと思われる悲鳴。状況に変化があれば、行動を再開する理由にはなるが
それ以上に、彼が無類の女好きというのも大きかった。
地形上、惑わされやすい視覚ではなく悲鳴という聴覚をもとに移動していたこともあってか
目的の場所には今まで迷っていたのが嘘のようにすんなりとついた。

そこには、江戸後期に庶民の間で着用されていたような襤褸を纏った男が数名
ピンク色のふわふわのワンピースを着た少女を囲んでいる光景があった。
少女の頭には飾りかもしれないが、ウサギの耳らしきものがある。幻想郷に住む妖怪には
こうした少女の姿をしたものも少なくないが、事情を知らないものからすれば
少女を男が大勢で取り囲んでいるという、とてつもなく唾棄すべき光景といえる。

(状況読めないけど……どう見たってこれはねぇ)

竹の陰からその様子を眺めていた青いイマジンにとっても、やはり唾棄すべき光景らしく
当事者らに気づかれぬよう細心の注意を払いながら自分と現場の距離を縮めていく。
一気に出て行って、男衆を蹴散らすのは簡単なことである。が、何分状況が読めない。
下手な行動をして、事態を悪化させるよりはもうしばらく様子を見る事を選択したのだ。

「やっと追い詰めたぞ、妖怪兎め!」
「今日と言う今日こそ、今までの悪戯の反省をしてもらうからな!」
「ご、ごめんなさい……(うっわー、幸運を呼ぶ私がこんな目に遭うなんてなんて皮肉よ)」

ウサギ耳の少女――因幡てゐ。彼女は古くからこの辺りに住んでいる妖怪兎であり
その姿を見た者に幸運を授ける程度の能力を持っているが、狡猾で悪戯好きなため
こうして反感を買うことも少なくない。
そして、妖怪にありがちな身体能力の高さや攻撃性はさほど無く、今回のように
成人男性数名に囲まれれば力の面では抵抗は難しいだろう。少なくとも力の面では。

「今日と言う今日こそは里のもん全員の所にお礼参りさせてやる!」
「お前に騙されたおかげで大怪我した奴だっていっぱいいるんだ!
 聞けばお前も薬師様の世話になってるそうじゃないか!
 その薬師様に申し訳ないと思わないのか!?」
「ちょ、ちょっと待って! 大怪我って私聞いてない、何の話よ!?」

(……なるほど。あの妖怪兎ちゃんは度が過ぎた悪戯で捕まろうとしてる、ってとこかな。
 ちょーっと、糸が絡まってそうな感じもするけど)

291俺参上第九話前編(4/10) ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 02:00:06 ID:HZLFiUYM0
男衆の側は、有無を言わせぬ勢いでてゐの手を掴もうとしている。
静観していた青いイマジンは、事情や相手が妖怪とはいえ
少女相手に暴力を振るうのは良しとしない主義であったらしい。
そんな彼であるからこそ、男衆の次の行動には静観をとりやめ
思わず行動に出てしまっていたのだ。
男の一人が、てゐに掴みかかろうとする。明らかに乱暴な素振りだ。

「いいから来い! お前のせいで俺の連れが酷い怪我をしてるんだ!
 連れの前でお前に土下座の一つでもさせないと気が済まん!」
「ちょっ……だから何の話よ、いたっ、やめて!」

(ええっ! これはマズいでしょ!? ……仕方ない、やりますか!)

てゐを強引に連れて行こうとする男の足元に
両端に六角形の刃が付いた竿が突き刺さり、足を封じる。
まさかこうした形で邪魔をされるとは思っていなかった男衆は、明らかに狼狽している。
何せ、目の前には頭に三本の角を生やした青い亀のような異形がいたのだから。

「何だ!」
「新手の妖怪か!?」
「見たことも無い妖怪……誰だ!?」
「通りすがりの浦島太郎、ってとこかな? 亀じゃなくて兎を悪いいじめっ子から助けに来た、ね」

浦島太郎。あながち間違いではない。
この青い異形――イマジンは「浦島太郎」の「亀」をモチーフにこの姿となっている。
そういう意味では、浦島太郎と言う名前も間違いではない。より正しく言えば――ウラタロス。

「さ、ウサギちゃん。僕が来たからにはもう大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます! そこの親切な亀さんに免じて教えてあげるけど
 怪我した人については私は本当に何も知らないからね!」

ウラタロスに促されるように、てゐはこの場からそそくさと離れる。兎の妖怪らしく、足は速い。
その姿はすでに竹薮の向こう側だ。
だが、追い詰めていた男衆は面白くない。
騙された腹いせをぶつける相手がいなくなってしまったのだ。
ウラタロスにぶつけるなど、あまりにも無謀すぎる。男衆もウラタロスも互いにファーストコンタクト。
ウラタロスにそのつもりが無くとも、男衆から見ればウラタロスも立派に妖怪である。
それもかなり強そうな部類の。そんな相手に対し、八つ当たりなど自殺行為に等しい。通常ならば。

292俺参上第九話前編(5/10) ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 02:02:05 ID:HZLFiUYM0
しかし今ここにいる男衆は、皆妖怪兎相手に鬱憤を晴らそうと集まった者たちである。
いうなれば、それなりに妖怪に対して腕の立つ者たち。
ウラタロスに対しても、一歩も退く素振りを見せない。
そんな男衆の殺気立った気配などどこ吹く風とばかりに
ウラタロスはてゐの走っていった方角を眺めている。
鬱蒼と生い茂った竹林ばかりと思いきや、てゐが走っていった方角を指し示すように
地面には土に不釣合いな白い砂が零れ落ちている。

(嘘っ、あの子イマジンの契約者なわけ!? こりゃこの場に乗り上げて正解だったね。
 それに、この砂を追っていけば多分あの子にもまた会えるし。
 出来れば、良太郎が見つかってからの方がよかったけどねぇ)

その場にあるはずの無い、あってはならない白い砂にウラタロスはやや困惑する。
白い砂とはすなわち、ウラタロスの知る限りではイマジンがそこにいる証に他ならない。
自分達以外のイマジンの所在はある程度把握している。
良太郎を一刻でも早く探し出せるように四人それぞれ別方向に向かったのだ。
この方角に、味方のイマジンはいない。つまり、自分達と敵対するイマジンである可能性が高い。
事を起こされる前に、何とか兎耳の少女と合流しなければならなくなった。
となれば、この男衆と関わっている暇はもう無い。

「言いたいことはあると思うけどさ、ここは運が無かったと思って諦めてくれないかな?
 僕、さっきみたいなの好きじゃないんだよね。それじゃ、僕も失礼させてもらうよ」
「待て! さっきの奴を捕まえるのにどれだけ苦労したと思っているんだ!」
「あいつはこの辺でも有名な悪戯兎なんだ、今日という今日こそは
 懲らしめてやろうと思っていたんだ、それなのにあんたは!」
「あんたも、妖怪さえよければ俺ら人間はどうなってもいいってクチか!
 それならただで帰れると思うなよ!」

事態はウラタロスが危惧していた通りの物となっていた。
男衆は明確な大義があっててゐを追い詰めていたのだ。
そこにてゐに加担するような形で出てきてしまったため
矛先はウラタロス自身に向けられてしまっている。
はっきり言って面倒だ。切り抜けようにも、地の利が全く無い。
白い砂を辿っていく事も考えたが、最悪相手に勘付かれてゐの居場所がばれかねない。
何とか、彼らにはお帰り願わなければイマジンとの戦いに巻き込んでしまう危険性がついて回る。
てゐに憑いていると思しきイマジンか、最悪ウラタロス自身か。
どちらかと戦闘になればこの男衆もただでは済むまい。

「(だから、魚の骨取るのは嫌いなんだよねぇ……面倒臭い事この上ないよ)
 ちょっと待ってよ。君達が意趣返ししたいのはさっきの子でしょ。
 褒められた方法じゃない上に、今度は僕に八つ当たり?
 逃げた魚は深追い禁止、って事で今日は帰った方がいいんじゃない?
 言い分だったら、僕が言伝しておいてあげるからさ。
 初対面だけど、それ位は聞いてくれると思うよ。多分」
「ちっ、何だその曖昧な態度は。知らないで助けたってのか」
「仕方ねぇな、だったら説明してやるよ。何か怒るのも馬鹿らしくなってきやがったしな」

293俺参上第九話前編(6/10) ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 02:04:32 ID:HZLFiUYM0
里人説明中...

ウラタロスの第一の目的、自身への怒りの矛先を鎮める。
これはひとまず成功。次は第二の目的。この竹林からの脱出。
良太郎を探しにきた自分が迷子になっては元も子もない。
何とかして脱出し、仕切りなおさなければならない。
が、もはやこの目的は保留である。何せ、イマジンが現れたのだ。
竹林からの脱出はイマジン関連が解決してからのほうがいいだろう。
イマジンが過去に飛ぶようなことになれば、竹林からの脱出どころではない。

「……おい聴いてるのか? 人がせっかく話してやってるってのに」
「ああごめんごめん、ちゃんと聞いてるよ。でもやっぱり変じゃない?」
「何がだよ?」

男衆の説明を半分流しながら聞いていたウラタロスには
一番大きな疑問点が既に浮かび上がっていた。
そもそもてゐの悪戯は、賽銭詐欺かわざと人を迷わせるとか
その程度のそこらの妖精と大差ないか少し知恵を絞った程度の悪戯だ。
それがいきなり何人もの重傷者を出すほどの悪戯に手を出すとは、とても考えられない。

「だってさ、この間までその辺の川で鯉釣りしてたような子が
 ある日突然マグロ漁船に乗って海の彼方へ出るようなものだよ? どう考えたって変だよ」
「……やっぱそうだよな。賽銭詐欺やってるような奴が
 いきなり人を無差別に殺しかねないような罠張ったりするか?」
「それに、そんな事すれば巫女だって黙ってないだろうし。
 あいつが態々そういう方向から巫女に喧嘩売るなんて頭の悪い真似しないよなぁ」

「けどよ、俺の連れは確かに兎の妖怪にやられたって言ってたんだ。
 あいつの部下の仕業かもしれねぇけど、そうだとしてもあいつの責任だろうが」
「他にそういうことが出来そうな兎の妖怪っていやあ、薬師様のお弟子さんの……」
「ああ、うどんだか天丼だか言う名前のあの子か。けどあの子も違わなくないか?
 確かに愛想は悪いけど、怪我人増やしてわざと自分の仕事が
 増えるような事をする奴でもないだろ? いつも仕事に対して
 かったるそうな態度してるんだ、絶対にありえねぇ」
(なるほどねぇ……その正体不明の兎の妖怪がホシと見て間違いなさそうだね。
 問題はそいつがイマジンなのかどうか、だね……ん?)

突然、ウラタロスの目の前に見たことの無い少女が現れる。
薄紫色の長い髪に、まるで飾り物のような兎の耳。
そして古風な幻想郷では妙に浮いているブレザータイプの制服。
その格好も相俟って、もはやただの女子学生にしか見えない。
それも年齢を偽っていそうな業種の。
鈴仙・優曇華院・イナバ。彼女こそ男衆の会話に出ていたもう一人の妖怪兎であり
人里に薬を売りに歩いている愛想の無い妖怪兎である。

294俺参上第九話前編(7/10) ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 02:07:25 ID:HZLFiUYM0
「……全く。今日も今日とててゐはどっか行っちゃうし、余計な仕事増えちゃうし……
 放っぽって逃げたらお師匠様に何されるかわからないし……どうすりゃいいのよ全く」
「……お、薬売りのお嬢ちゃんじゃねぇか。今帰りか?」
(へーぇ。この子がさっきの話に出てた子か。なるほど確かに可愛いねぇ……
 格好のおかげでウサ耳に変な意味がついてそうだけど)

てゐを探すという行為は、鈴仙にしてみれば面白くない。
何せ勝手気ままに動く妖怪兎は鈴仙だけでは手に負えない。
それを牛耳っているのがてゐなのだが、その彼女からして勝手気ままなのだ。
鈴仙の気苦労は計り知れない。
ちょくちょく口から愚痴が漏れるのも、無理からぬことではあった。

「大体いつの間にか兎角同盟のメンバー増えすぎなのよ……
 管理する方の身にもなれって……あら?」

ふと、自分の世界に入りかけていた鈴仙が我に帰る。
よく見れば、遠目に見ていた里の若者に混じって
見慣れない青い妖怪亀がいるではないか。こちらは鈴仙も初対面である。

「よう薬売りの嬢ちゃん、今日はこんなとこで何してるんだ?」
「それはこっちの台詞……って、里の人達はいいとしてそちらの青い方、はどちら様?」
「初めまして可愛らしいうさぎさん。僕はウラタロス。
 通りすがりの浦島太郎、ってとこかな。君の名前も、聞かせてくれると嬉しいな」

社交ダンスの会場で、男性が女性に交わす挨拶のように、ウラタロスは鈴仙に接する。
しかしその貼り付けた様な態度は、突っ込みどころしかない。
その風貌、仕草、発せられた言葉。全てに鈴仙は呆気にとられていた。
仕草や発せられる言葉は、たまに読む他愛も無い書物や
自身が仕える姫の思い出話で出てくるようなもの。
しかしその風貌は、そんな恋愛も題材とした書物に描かれるイメージとは程遠い妖怪亀。
このギャップに、鈴仙は戸惑っている。能力を使うのも忘れるほどに。

「わ、私は鈴仙って言います。で、その浦島太郎さんがなんでこんなところに?
 (はて浦島太郎、どっかで聞いたような)」
「ああ、実は話せば長くなるんですけど……」

海亀説明中...

「……という訳で、僕も人を探していたんですけど途中でその、てゐちゃんでしたっけ。
 彼女がいじめられてる現場に出くわしちゃいまして。
 つい、旅の途中の情けって奴で助けたんですが……」
(おかげでこっちはいい迷惑だけどな)
「てゐは亀じゃないんですけど……まぁ、そういうことならとりあえずうちに来ませんか?
 他の人はともかく、その格好では里もまずいと思いますんで」

295俺参上第九話前編(8/10) ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 02:10:09 ID:HZLFiUYM0
後ろであからさまな悪態をついている里の男性を無視しつつ
鈴仙の頭には一つの考えが浮かんでいた。
ウラタロスの言うことが本当ならば、てゐは既に帰っているのかもしれない。
実のところ、てゐ――妖怪兎共通の個性として、臆病という傾向が強い。
いくら妖怪としての力を得たとはいえ元は脆弱な兎である。
てゐの狡猾さもそれに端を発するものであり、自身が危険と見れば
安全な場所に逃げてもおかしくは無い。
こうなれば、一度戻って一部始終だけでも報告したほうがいいだろう。
いざとなればこの妖怪亀を土産として師匠に献上すればいい、と。

「お気持ちは嬉しいのですが、どうやらてゐちゃんは悪い怪物に付け狙われているらしくて。
 何とか探し出して、てゐちゃんを保護するなり
 悪い怪物を退治するなりしないといけないんですが……」
「それなら、てゐの行き先に心当たりがあります。
 この先に永遠亭という屋敷があるのですが、そちらに逃げ込んだと考えられます」

最悪のパターン。ウラタロスの頭の中にはその単語が一瞬で過ぎった。
被害が出ないうちにイマジンを退治するつもりだったのだが
どう見繕ってもその永遠亭とやらを巻き込んでしまう。
イマジンだけ釣り上げようと考えていたが、入れ食いにもほどがある。
ある程度想定はしていたが、実際に起こられるとやはり面倒だ。

(あちゃあ……これは被害を食い止めるのは難しそうだ。
 こりゃ是が非でもその永遠亭ってとこに行かないといけないねぇ。
 ……でもま、考え方によっちゃ役得かな。鈴仙ちゃん、結構いいセンいってるし)
「なるほど、根城に逃げ込んだってわけか……ちっ、それじゃ仕方ねぇな。いくらなんでも
 薬師様の仕事場で捕り物演じるわけにもいかねぇよな……おい、帰るぞ」
「そうだな。悪いけど嬢ちゃん、こいつはまかせていいか?
 後、あんたんとこのちび兎にもきつく言っておいてくれよな。
 あいつのせいで嬢ちゃんや薬師様に余計な仕事増えてる件もあるしよ」
「ええっ!? ……はぁ。なんでてゐは私の仕事を増やすことばっかりするのかしら。
 わかりました、てゐには私から言っておきます」
(ん……? 確かにてゐは悪戯ばっかしてるけど
 師匠の手を煩わすほど手傷を負わせるような真似はしたことが無いわ。
 あったとしてもそんな話は一度も聞いたことが無いし……一体どういうことかしら?)

ウラタロスが頭を抱える一方で、里の男衆は永遠亭で騒ぎは起こせないとばかりに
引き上げの準備を始めている。こればかりはウラタロスにとっては好都合である。
鈴仙と話すにしても、イマジンの相手をするにしても里の男衆がいたのではやりにくい。
しかし、鈴仙は里の男の言い残した言葉に赤い目を丸くしている。
彼女の知るてゐの行動とはおおよそかけ離れた証言が出たのだから。

「さて、話が決まったところで鈴仙ちゃん。早速その永遠亭ってところに案内してくれませんか?
 もし悪い怪物がてゐちゃんに憑いていたら、永遠亭も大変なことになるかもしれません」
「そ、そうですね。ところでその悪い怪物ってのは一体何者なんですか?
 さっきの人達はああ言ってたんですが、私にはてゐが殺人未遂にまでなるような
 悪戯をするとは思えないんです。もしかして……」

296俺参上第九話前編(9/10) ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 02:12:02 ID:HZLFiUYM0
疑問を投げかける鈴仙だが、ウラタロスはその疑問をあっさりとはぐらかす。
千の偽り万の嘘、をモットーとする彼もまた、てゐとためを張れるほどの嘘吐きっぷりなのだ。
そうでなくとも、ウラタロスはデンライナーのオーナーから「ここにはイマジンはいない」と聞いている。
それなのにイマジンの痕跡があるという事は、どう考えてもイレギュラーだ。
イマジンの凶暴性や危険度を顧みれば、下手に本当の事を話して
不安にさせるよりも伏せておいたほうがいいだろう。

「……僕もこの幻想郷って所はよく知らないんだけどさ。
 時折変なのが打ち上げられるそうじゃない?
 それが、偶々てゐちゃんを狙った。それだけだと思うよ」
「それ絶対他人の事言えな……」

鈴仙の咳払いと共に話は纏まり、里の男衆は人里の方角へ。
ウラタロスと鈴仙は白い砂の零れ落ちている方角――てゐの逃げた方角へと向かっていく。
白い砂の落ちている方向と、鈴仙が永遠亭への最短距離と称して向かっている方角は
ぴたりと一致している。間違いなく、てゐは永遠亭に逃げ帰っているだろう。
イマジンという歓迎できないおまけをつけて。

鈴仙はイマジンの危険性を知らず、ただ少々厄介な怪物がてゐをつけている、としか聞いていない。
肝心のウラタロスも、危険性を知っており、事態は切迫しているにもかかわらず
割と余裕の表情を見せている。それどころか、移動中に鈴仙と世間話を始める始末だ。

「ところで鈴仙ちゃん。君もその永遠亭ってとこに住んでるの?」
「え? ええ。私の他にもてゐやその部下の兎達、それに私のお師匠様と姫様が暮らしてます。
 そんな環境ですから、亀は珍しいかもしれませんね。
 姫様は珍しいものもお好きですから、もしかしたらお会いできるかもしれませんよ?
 ……難題吹っかけられるかもしれませんけど」
「難題ねぇ。燕の巣にある貝でも取って来いって言われるのかな」

ウラタロスにしてみれば、願ったりかなったりである。
女性の誘いを断る道理など、ウラタロスには無い。
まずは情報収集。目の前の美少女についても情報を集めなければなるまい。
良太郎の捜索やてゐのイマジンについての情報も重要だが
今のウラタロスにとっては二の次であろう。

(ま、今はこの波を堪能するとしますか……永遠亭、か。
 さっき話に出てた薬師さんがいるって事は……
 良太郎の事もわかるかもしれないけど、そんな入れ食いある訳無いよねぇ)

297俺参上第九話前編(10/10) ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 02:14:51 ID:HZLFiUYM0
一向に景色の変わらない竹林を歩いているうちに、一軒の大きな日本家屋が見えてくる。
表には「永遠亭」と記されている。
兎の聖地であり、人里に大きく貢献している薬屋が住んでいる場所であり
そして、永遠の姫が住むとも言われている場所。
竹林の奥深くにある日本家屋。土に不釣合いな白い砂を除けば、まさに幻想的な光景ともいえる。

「お師匠様、只今戻りました」
「ごめんください。少しお尋ねしたいことがございまして、お邪魔させていただきました
(先輩程じゃないけど僕にもある程度イマジンの動向は掴めるからね……
 今のところ動いてはいないみたいだけど、さて)」

鈴仙の帰還の挨拶に続き、ウラタロスが声を上げる。この言葉には下心こそあれど嘘は無い。
ここに里でも有名な薬師がいるとなれば、もしかすると良太郎の事もわかるかもしれない。
イマジンの件が片付いてからでも聞く価値はある。
その事も合わせ、ウラタロスも永遠亭に用があるのだ。

程なくして、女性の声が返ってくる。てゐや鈴仙ほど若すぎる声ではない
落ち着いた様子の大人の女性を思わせる声である。

「あらうどんげ、早い帰りね……それと、お客さん? それとも患者さんかしら?
 患者さんなら早く通して頂戴」
(遠からん者は音にも聞け……なるほど声は美人さんか。
 これは是非近くば寄って目にも見たいねぇ)

家屋の奥から現れたのは銀髪の三つ編みを下げた美しい女性。
服装から医療関係に携わる者と思われる。色彩はともかく。
八意永琳。ここで診療所を開いている女性。

「師匠、彼は浦島太郎、と仰ってるんですけど……」
「……!!」

永琳の表情が急変したのを、ウラタロスが見逃すはずも無かった。

298 ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 02:35:43 ID:HZLFiUYM0
以上、第九話前編でした。
ここでのウラの行動が第八話後半での永琳に繋がってる流れになります。

>>283
ウラどころか(顔見せ程度ですが)キンちゃんやリュウタも出しちゃいました。
書いてる本人が色々出したい&絡ませたいキャラ居るのですが
まだそこまで話が進んでないジレンマ。
遅筆は申し訳なく思います。

桜井さんは人里に馴染んで(?)ますがカイはどうなることやら。

>>284
秘密結社って何か悪の組織っぽい響きですよね。実際は結構違うのもありますが。

>>286
海外ドラマとのクロス……
そういえば以前ERとのうんたらってレスを見た気がします。
結構面白いクロス題材かもしれません。

今回のセルフQ&A

Q:人里にも妖怪退治できる人居るの?
A:一応います。とはいえ霊夢と違い根っからの本職ではありませんし
  ご先祖が陰陽師だったとかで心得がある、そんな感じで。
  腕力は妖怪相手には意味成さないことが多いですが、自身の体力とかはまた別問題でしょうから
  霊夢や魔理沙、早苗さん達とは違う妖怪退治の心得があるようです。

  ……という設定です、この作品上では。

299 ◆cedHmDsvEg:2011/08/15(月) 02:40:43 ID:HZLFiUYM0
追記

慧音や妹紅以外の、所謂「モブの里人」に「妖怪退治できる人居るの?」と言う意味です
この文章だと二人がスルーされてそうな気がしたので。
(妹紅は本作品では竹林某所在住、人里との交流激高、といった感じですが)

300名前が無い程度の能力:2011/08/28(日) 15:34:02 ID:JIjQSXf20
300

301名前が無い程度の能力:2012/01/28(土) 23:07:22 ID:IZROVzz.0
筆勢がすごいな

302名前が無い程度の能力:2012/03/18(日) 10:47:05 ID:1BJ/DP.w0
えっ

303空の境界×東方 ◆8iqfbNauU2:2012/05/18(金) 23:50:24 ID:cB9SbR92O
朝に弱い訳ではない。
だが、人間は誰しも目が覚めたばかりだとまた眠りたい衝動に駆られる生き物のはずだ。
少なくとも、黒桐幹也はそういう考えを持ちあわせていた。
だから、「明日は四時に来るように」なんて言われた時は耳を疑った。
ただでさえ仕事の少ない会社(いや、会社といっていいか定かではない)なのに、朝早く出向けという。
理由を尋ねてもはぐらかされるばかりで真面目には答えてくれなかった。
だというのに、幹也は朝早くからきっちりと会社とは名ばかりの静寂なる廃墟へ足を運んでいた。

「おはようございます」
「おはよう幹也クン。眠そうね」
「えぇ、それはもう」

我ながら気のない返事に、蒼崎橙子はクツクツと笑って伸びをした。
どうやら彼女自身も完全に身体が起きていないらしい。
どうせなら、もう一人の待ち合い人が来るまで珈琲でも飲んで目を覚ました方がいいだろうと思った矢先に「幹也クン、珈琲を淹れてちょうだい」とお呼びが掛かる。幹也は大人しくキッチンへ向かった。
目指すのは最高のインスタント珈琲を淹れること。
出来れば今日は、橙子の眼鏡が外れないようにしたい。彼女が眼鏡を掛けているのは、ここのところ珍しいのだ。

304 ◆8iqfbNauU2:2012/05/19(土) 00:09:27 ID:ad5PzTQYO
結果を言えば今までで最高の珈琲が淹れれたといえなくもない。
幹也自身、妙な達成感に思わず拳を握りしめてしまう程にだ。ここまで自分が簡単な人間だとは想像していなかった。
とにかく珈琲をカップへ手早く移し、橙子の下へと運ぶ。

「随分時間とったのね」

彼女の言葉も最もだが、今は珈琲が先決である。
無言のままカップを差し出すと同時、軋む音と共に扉が開かれた。

「おはよう、し……き」

危うくカップをとり落とすかもしれない所で何とか踏み留まった。
「美味しく入ってる」なんて橙子の言葉も、まったく耳に入らないくらいに気を動転させてしまい、恐らく間抜けな体勢のまま固まっていると思う。それくらいの衝撃。
何故ならそこには。

「……おはようございます、兄さん」
「……おはよう」

待ち人である両儀式と、今ここに居るはずのない黒桐鮮花が『一緒』に入って来たからだ。
偶然遭遇したにせよ、そういう場合は鮮花が意地でも一緒になんて来ようとはしないはずである。それが一体どうしてしまったというのか。
しかし、そんな当人の思惑等知ったことではないのか、二人はそれぞれが普段ほぼ定位置になっている場所へと移動して、それきりだった。
唖然とする僕を尻目に橙子さんは椅子から立ち上がり、茶色に染め抜かれた鎧のような外套を羽織るとさも当然の流れのように言葉を紡いだ。

「揃ったなら行こう。あまり時間は無駄にしたくない」

気付けば彼女の眼鏡は既に外されていた。

305 ◆8iqfbNauU2:2012/05/19(土) 22:58:16 ID:ad5PzTQYO
さて、怒濤というか一瞬という表現が正しい朝は瞬きの如く過ぎ、気付けば四人は黒塗りのバンに乗り高速を走っていた。
所長の愛車であるいつものマイナー1000は、今回は狭すぎたようである。
バンの後部座席には僕と式が、助手席には鮮花が座っているのだが、得体の知れないものが載せられた荷台部分と前の鮮花の妙なプレッシャーのせいで、早くも僕はダウンしてしまいそうだった。

「所長、そういえば何処へ行くか全く聞いていないんですが」

何とかこの雰囲気に負けないように、ハンドルを握る所長に質問を投げた。
すると、ニヤリと橙子はバックミラー越しに獰猛な笑みを浮かべる。

「そういえば言ってなかったな。黒桐、お前幽霊は信じるか。あるいは妖怪でもいい」
「はぁ、幽霊、ですか。まぁ一度見た事がありますから」
「あぁそうだったな」

思い出すように橙子は頭を傾けて、再度同じ質問をしてきた。

「妖怪は?」
「そうですね……。やっぱり直接見てみないことには、なんとも」
「黒桐らしい」

褒め言葉ともなんともとれない発言に僕は眉をひそめるしかない。
僕への質問を切り上げて、所長は隣で未だ針のように鋭い雰囲気を醸し出す鮮花に同じ質問をした。

「私は居るとは思いません。魔術師の使い魔としてならまだしも、今の時代にそんな怪奇的な存在があるとは考えられないです」
「鮮花らしいな」

またしても同じような事を言う橙子の真意を、黒桐は諮りかねていた。

306 ◆8iqfbNauU2:2012/05/19(土) 23:20:20 ID:ad5PzTQYO
「だいたい本当に昔妖怪が居たってのか」

ようやく口を開いた式の第一声はそれだった。
相変わらず眠たそうな目をしているが、声は鋭利な刃のようだ。
対して橙子は大真面目に頷く。

「太古から日本には妖怪は存在していた。絵巻だって残っているだろう。鮮明に描かれた前時代の産物は事実として、私たちに妖怪が存在したことを示している。それだけじゃない、人間が妖怪を退治したなんて逸話は幾らでもある。それに、外国には妖精だっているんだ。日本に似たようなのが居たってなんら不思議でもない」

何だか言ってる事が滅茶苦茶に聞こえなくもないが、今まで自分が見てきたものを考えると妖怪がいたところで当然なのかもしれない。
式と鮮花は、確か妖精に直接遭遇しているはずだ。

「それでだな、最近妙な目撃談がある話を秋巳刑事から聞いてな」
「……大輔兄さん」

呟く僕の声に、鮮花がはぁ、と溜め息を吐いた。
僕だって溜め息を吐きたい気分だ。
まったく未だに大輔兄さんはうちの所長と情報交換をしているようである。
前の一件からはもう下心でやっているように思えてしまい、僕も鮮花もその事には心底呆れ返っていた。

「妙な目撃談というのは?」

落ち込んだ気分になっても仕様がないので、続きを促す。

「なんでも、群馬県のある山林で羽の生えた何かがいたらしい。人の形をしていたというが、どうだか」

群馬。なるほど早くでなければならない筈である。ここから軽く二時間はかかる。

「実際記録されている妖怪は人の形に近けれど異形のものばかりだ。ただ羽が生えていただけなら突然変異か幻影で説明つくだろうな」

307 ◆8iqfbNauU2:2012/05/19(土) 23:37:52 ID:ad5PzTQYO
「じゃあどうしてわざわざ群馬なんかに出向こうっていうんです」
「目撃談がまだあるからだ。羽が生えてた奴だけじゃない。角が生えた奴や、幽霊のような霊魂まで目撃されているらしい。同じ山林でな」

しかしそれだけでわざわざ式や鮮花を連れて群馬まで行くのだろうか。
そんな黒桐の思考を看破したかのように、橙子は理由を語った。

「あまりに短期の目撃談に、ある寺の坊主がその山林に招かれたらしいんだがな、見たそうだ」
「見た、って。妖怪をですか」

いや、と首を振った彼女の瞳は、本当に愉しくて仕方がないといった風に笑っていた。

「結界だ。広大な結界が張ってあったらしい」
「結界……」

結界というと、以前橙子に聞いたことがある。
異界を創り上げる為に外と切り離したり、物理的に遮ったりと用途はそこそこある代物らしいが、それが不自然なのだろうか。
少なくともわざわざ橙子が出向く必要があるものとは思えない。

「まぁ坊主はかなり錯乱していた。結界があるかどうかはわからんが、先の目撃談と加えて行ってみる価値はある。本来なら黒桐はこういう件にはあまり連れて行きたくはなかったが、仕方ない」
「何が仕方ない、だ。どういうつもりだトウコ」

式が睨むように視線を向けるが、橙子は一瞬だけ眼鏡を掛けた時の口調に戻り、口を尖らせた。

「だって結界がなかったら観光するしかないじゃない」

流石にそれには式も呆れを禁じ得なかったようだった。

308 ◆8iqfbNauU2:2012/05/20(日) 00:06:52 ID:b/AqZPSEO
群馬県までは約二時間半掛かって到着した。
目的の山は高速を降りて約三十分の所にあり、計三時間の長旅となった次第である。
バンを山林の麓に止めて車を降りる最中、式と橙子が目の色を変えて山を見つめるのを黒桐は何故だか不安な気持ちになった。
どう考えてもこれはアタリではないのだろうか。
魔眼を持ち合わせていない鮮花にも、二人が何かを見つけたのが解ったようで、同じように山林の奥を見つめていた。

「……これは、とんでもないな。結界というにはあまりにも大きい」

感動を圧し殺したような橙子の台詞にやはりか、と頭を抱えたくなる。
この人をこれ程夢中にするほどのものなんて、悪いが一般人にとってはろくでもないもののはずだ。
と、橙子は唐突に振り返ると我慢ならないといった感じにバンからトランクを二つ引き摺り出した。
いつか見たことのあるオレンジのトランクと、人ひとりくらいなら入れそうな旅行鞄のような正方形の巨大な箱。
二つを持って、既に歩き出していた式に続くように山林へ侵入した。
慌てて黒桐も鮮花と共にその後を追う。

「とんでもない、とんでもないぞ。日本には結界の神様でも居るのか、ええ、どうなんだ」

誰に問いかけているのか、橙子はどんどんと山林を進んでいく。
彼女自身、自らの稀に見る高揚ぶりに枷が外れたと感じるくらいだ。
そして式も、何かに誘われるように一直線に迷いなく歩みを進めていた。

歩みが停止する。

そこは何の変哲もないただの山林の途中であるが、どうやら二人に見える結界はここが境界のようだ。

「物理的な誘導、意識の遮断、多重の構造、結界の範囲。どれを取っても他に類を見ないな。封印指定どころの騒ぎじゃないぞ」

橙子がなぞるように何もない目の前の空間に指を這わせた。
その恍惚とした表情は、どこか憧れさえ見える今まで見たことのないものだった。
対して佇む式は、無表情に前方を眺め、そして躊躇いなく帯のナイフを引き抜いた。

309 ◆8iqfbNauU2:2012/05/20(日) 00:29:30 ID:b/AqZPSEO
「式!」

咎めるような鮮花の声に、式は悠然と振り返る。

「どうした」
「どうしたも恋したもないわよ。いきなり結界斬って妖怪でも出てきたらどうするつもり!」

鮮花の言葉に僕はハッとした。
もし目撃談の妖怪らしきものがこの結界の向こうにいるのなら、その結界を無闇に壊せば得体の知れない化け物が溢れ出す危険性がある。
だが、橙子はそれに、あくまで前を見つめたまま「大丈夫だ」と言った。

「式、お前でもこの結界は一撃じゃ殺せないだろう?」
「……あぁ」

式に視えている結界の線は、人が一人入れるくらいの部分しかなかった。
悔しいがどう頑張っても、この結界を丸ごと一撃で殺せる自信はない。
一歩、式は前へ足を進めた。

「斬るぞ」
「あぁ、やれ」

一瞬。
鮮花が何か言わんとする前に。
僕が得体の知れない悪寒に式を止めようとする前に。
一閃。

血の気が引き潮の如く頭から抜けていき、視界が暗転。
だがすぐに視界は眩い光に包まれ、我慢出来なくなった僕は瞼をこじ開けた。

そして。

「……ここは…………」

雰囲気の全く違う山林に、黒桐幹也は戦慄した。
全身が粟立つ感覚に鳥肌が立つ。

――――ここは、どこだ。

そして四人は降り立った。
忘れ去られたものの行き着く先。
全ての幻想が内包された、全ての夢が映された。

幻想郷に。

第一部 了

310 ◆8iqfbNauU2:2012/05/20(日) 00:31:14 ID:b/AqZPSEO
とりあえず一区切りでありんす

拙い文章で大変お見苦しいかとは思いますが、当方初心者の為ご了承下さい

311 ◆cedHmDsvEg:2012/06/04(月) 02:40:53 ID:eCCUS0.Y0
|`∞´〕
|0M0)

とりあえず生存報告をば。
HDDは吹っ飛んでしまったり私事がごたごたしたりしましたが何とか無事です。

時代は宇宙キタ━(゚∀゚)━!!どころかそろそろ次のライダーだったりして
地以前が舞台の本作品は凄く電王らしからぬ時代遅れ感満載ですが
また細々と続けますので思い出した頃に読んで頂ければ幸いです。

>>303
新作キタ━(゚∀゚)━!!

312 ◆8iqfbNauU2:2012/06/19(火) 22:38:04 ID:3n6gYZFAO
随分間を空けて申し訳ありませんでした
続きです



――ここは、何処だ。

ただひたすらに広がる宇宙のような、果てのない場所で。虚無感にも似た身体の脱力感には何故だかデジャブを感じた。
そう、いつだか昏睡状態にいた時に自分が見ていたあの――

それだけ脳髄の隅で考えた刹那、白刃の一閃がその纏わりつく無限の空間を引き裂いていた。
眩い光に目を細めると、先程までの浮遊していたような感覚は消え、自らの足で地の上へと立っているのがわかる。無性に腹のたつアレは消えたようだ。
収まった光にうっすらと瞼を開くと、そこは先の監獄のような空間の広がりでなく、田舎にあるような剥き出しの地面と鬱蒼と繁る森林が辺りの風景として佇んでいた。
そして、自分は平屋を引き延ばしたような建物の前にいることを確認する。

建物の扉の上には『香霖堂』とのみ描かれた看板のようなものが架けられ、その入り口の周りには廃車に近い自転車や、フラフープ、狸の置物などが散乱し、混沌とした光景を産み出していた。
どうしてか、それを見るとこの建物の中身が気になる。
あれが看板ならば、ここは何らかの商店である可能性がある。
そもそもここまで一緒に来ていた筈のあいつらとはぐれてしまっている以上、合流するには何らかの策を講じなければならないだろう。
ここはきっと、あの得体の知れない壁の向こう側で、同じく得体の知れない化け物がうようよいるだろうから。

だから迷わずその扉を押し開いた。

313 ◆8iqfbNauU2:2012/06/19(火) 23:00:57 ID:3n6gYZFAO
「いらっしゃい」

恐らく自分に掛けられたであろう声に、ここが何かしらの店であった事実を確認する。
後ろで扉が軋みを上げて閉まった。
ぐるりと店内を見渡すと、棚の中に所狭しと詰められたガラクタのようなものと、大きな壺、傘立てに纏めて束ねられた刀が目に入る。驚くことにそれだけだった。何の店かわかりゃしない。
束ねられている刀が果たして本物なのかは見てみない事にはなんとも言えないが、確かめれば済む話だ。
カウンターの手前にあるそれらに近づくにつれ、番頭のようにその場に据え付けられた店員がこちらを見つめているのがわかった。

「何かオレの顔についてるか?」

赤の他人に見つめられている内で最もまともな切り返しのはずだが、店員であるだろう眼鏡を掛けた銀髪の男は眉をひそめるという結果になった。

「いや……。君は、外来人かな?」
「ガイライジン? ナンパなら他の女引っ掛けたほうがいいぜ」

妙な事を口走る男を尻目に、傘立ての束から一本の鞘を引き抜き、おもむろに抜き放った。
その刃を観察すると、真剣だということがよくわかる。重量もこの刀が本物だということを如実に表していた。
静かに刀を鞘に納めると、男と目が合う。
何故か、不思議なものを見るような瞳で目を離さない。

「なんだよ」

耐えかねたのは自分のほうだった。
一体どうして自分がそんな風に見られるのか一向に理解出来なかったからだ。
普段なら同じ事があっても訊きはしないだろうが、どうにもこの男はアイツに似ていて訊かざるを得なかったのだ。

「もしかしたら君は、気付いたらここにいたんじゃないか? 正確には、この付近に」
「気付いたら居たって……夢遊病患者のつもりはない」
「そうではなくて……」

尚も何か言おうとした男の姿は途切れた。
急に何の前触れもなく、唐突に、周囲の風景が消え失せる。

また、またあの空間だ。

314 ◆8iqfbNauU2:2012/06/21(木) 17:47:18 ID:fcG2Q3kkO
気持ちの悪いまとわりつくような空間に呑み込まれ、身体が浮いているのがよくわかる。
だが、そんな事実は今の機嫌の悪さを前には怒りを助長する要因にしか成りえない。
右手には、先程拝借したまま返しそびれた刀が握られている。白塗りの鞘の、使われた形跡のない新品同然のものだ。
式は苛立ちに任せて帯のナイフではなく、刀によって空間を切り裂いた。
再び視界が光に覆われていく――



「これはまた…………」

感嘆したような声に我に返る。
光が視界を覆ってから、この景色を視認したというのに少し呆けてしまったようだ。いけない、と頬を手で叩く。
そうして改めて周囲を見渡すと、辺りは剥き出しの地面と茂る森林のみ。これだけ見れば、光に視界が覆われる前となんら変わらないように見えるのだが、どうにもそう考えるには違和感があった。
雰囲気がまるごと変化したというか、微妙な感覚である。

「……あ、式」
「え?」

式はどう感じているのか話を振ろうと思っていたのに、肝心の彼女の姿はどこにもない。
それに気が付いた鮮花と燈子も辺りを見渡すが、それらしき姿は無かった。
おかしい。光に視界を奪われていたのは体感でも五秒程だ。そんな短時間で式が姿を消せるものだろうか。
「式め……。また一人で巻き込まれたな」

呆れたように言う燈子に、鮮花も同調するように思われたが、そんな気配はない。
その視線は、上に注がれていた。

315 ◆8iqfbNauU2:2012/06/21(木) 18:03:35 ID:fcG2Q3kkO
自然に自分でもその視線の先を追ってしまう。
そして、過去に見た廃ビルに浮かぶ幽霊の光景と重なった。

「あなたたちは食べてもいい人類?」

少女が、浮かんでいた。

「さて、食べてもいい人類とやらが存在するのかは知らないが、それを決めるのは結局自分自身だろう」
「…………………………どっち?」

こんな状況だというのに気にした様子もなく燈子は浮遊する少女と相対した。
可愛らしく首を傾げる少女は、浮遊という点を覗けば他と変わらないように思える。

「兄さん、ここってヤバいわ」
「突然どうしたの、鮮花」
「っ――だって!」

しかと異常性を理解しているつもりなのだが、鮮花はそんなことお構い無しに続ける。

「飛んでるの、人が!」

見ればわかる。
どうやら不肖の妹とこの現実の前には少々頭の理解が追い付かないようだ。
いかに燈子師から魔術を習おうと、妖精相手に魔術戦を繰り広げようとも解らないものは解らないようである。

「鮮花、少し落ち着け。黒桐の方がまだ冷静だぞ」
「いや、でも……」
「ねー」

鮮花の葛藤を遮るように浮遊している少女は、待ちきれないという風に少しづつ迫って来ていた。
三者三様に少女を見返すと、ニッコリとした笑みを形作り、告げた。

「もう食べてもいい?」

ゾッと、何かが背筋を這い上がる恐ろしいまでの感覚は、何も僕だけではなかったようだ。
半ば反射的に鮮花は拳を構えていた。

316 ◆8iqfbNauU2:2012/06/21(木) 18:20:02 ID:fcG2Q3kkO
「驚いた。予想はしていたが、やはり妖怪だったのか」

燈子のみは相変わらず立っているだけのようだ。
そう思ったのもつかの間、宙に浮く少女は何かを放った。
緑色の綺麗なそれは、真っ直ぐに鮮花へと飛来するが、難なく回避することに成功する。
緑色のそれは地面に当たると弾けて消えた。地面には、見間違うことなく穴が空いている。
それを見て鮮花が僅かに動揺した。

「外れたー。……よいしょ」

掛け声らしきものと共に同じような緑色の直径五十センチくらいの塊が数十発ばら蒔かれた。
当たり前だが、ばら蒔かれた塊には僕も直線上にいる。

「兄さん!」

避けようとした矢先鮮花が前に立ち、拳を飛来した塊に突きこんだ。
パァンっ! と快音が響き、塊は弾けて消滅する。
ちらりと燈子の方を見ると、動いた様子はない。どうやら射程には入っていなかったようだ。

「突然何するのよ!」
「えー、だって人間は食べていいものでしょ?」

さも常識のように語る少女に何と言えばいいのか。僕自身わからない。
が、再び少女が攻撃を仕掛けようとした所で突然少女は炎に身体を焼かれた。
一瞬だったが、右腕が爆発したように燃え上がったのだ。

「二人とも、こいつに構っている暇はないぞ、きりがない。見ろ、一番良く燃えるルーンを使ったのにビクともしない」

317 ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 01:51:17 ID:Codt.6vo0
・この作品は「東方Project」と「仮面ライダー電王」の二次創作作品です。
・この作品には二次設定・独自設定が含まれております。
・この作品には戦闘シーンや暴力的なシーンが含まれております。
・この作品は「東方Project」及び「仮面ライダー電王」の原作及び他の二次創作作品とは一切関係ありません。
・この作品には「仮面ライダー電王」のTV本編ネタバレ要素が大いに含まれています
・この作品には作者オリジナルのイマジンが登場します New!!

以上抵抗のある方は恐れ入りますがトリップをNGに指定してくださいませ。


魔法使いライダーと聞いてパッチェさんがアップを始め……ません

318俺参上第九話中編(1/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 01:54:53 ID:Codt.6vo0
「師匠、彼は浦島太郎、と仰ってるんですけど……」
「……!!」

永琳の表情が急変したのを、ウラタロスが見逃すはずも無かった。
しかし、目の前の半分こ看護師な美人と、実はとんだ食わせ物な浦島太郎の間にある因縁など
ウラタロスが知る由も無いし、永琳が一々見ず知らずのちょっと磯臭い青亀怪人に言うはずもない。

浦島太郎。またの名を水江浦島子。永琳はその名に覚えがあった。だが永琳の記憶にある瑞江浦島子と
目の前の自称浦島太郎の青い亀は、かつて月で見た時とあまりにも姿形が違いすぎる。
呪いの類で姿形が大きく変わり果てるというのは、古今東西様々な寓話に記されている。

(これは……とんだ巡り合わせ、なのかしらね。聞けばあの男は筒川大明神となったそうな。
 にしても……ま、まぁ亀には縁のある男だったそうだし、この姿もあながち間違いでは……
 やれやれ。だから私は殺せと提案したのに……)
(今「浦島太郎」って名前聞いた途端表情変わったねぇ。もしや乙姫様……じゃ、ないよねぇ。
 ここ、海は海でも樹海だし。そもそも僕が助けたのは可愛いうさぎさんだし、ここは竜宮城じゃないって)

鈴仙がウラタロスのでまかせを鵜呑みにしたばかりに、月の頭脳はとんでもない思い違いをしていた。
彼女は浦島太郎――瑞江浦島子という人物を知っており、その顛末もそれなりに知っている。
だからこそ、今目の前にいる存在は「ありえな」かったのだ。
ただ一つ、その存在をたらしめるキーワード「イマジン」。こればかりは月の頭脳には存在しない。

「……随分と変わり果てた姿に成られたようですわね。念願の地上生活は如何ですか?」
「え? ……あ、ああ。おかげ様とね。今度は亀じゃなくてうさぎさんを助けたら、こんなところに迷い込んだのだけど……
(うっわぁ……全然話噛み合ってないよ。こりゃ釣れるどころか大時化……いや、変な方向に釣れちゃったかな?)」

あくまでもウラタロスは野上良太郎の持つ「浦島太郎」の寓話の知識とそこに登場する「亀」から
名前(実際には良太郎の命名ではなくモモタロスが腹いせに名づけたのだが)と姿形を拝借しているイマジンに過ぎない。
仮に性格が瑞江浦島子本人に似ていたとしても、生い立ちは全く異なる。はっきり言えば人(?)違いである。
初対面から不穏な空気が流れ始めるが、その空気を変えたのは不穏な空気を流す原因を作った張本人であった。

319俺参上第九話中編(2/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 01:56:44 ID:Codt.6vo0
「そ、そうだお師匠様! てゐ見ませんでした? ちょっとあいつがまた大変なことをしでかして……」
「(ナイス鈴仙ちゃん!)実は、とある怪物を追っているのです。その怪物が、てゐちゃんを狙っているそうなので、大事に至らないうちに……」
「なるほど……てゐなら、もうとっくに屋敷に帰ってきてるわよ。砂場にでも行ってきたのかしら、やけに砂っぽかったけど
 (はて? 私の知る水江浦島子は妖怪退治をするタイプでは無かったはず。神様になって性格が変わったのかしら?)」

てゐの話題が出るや否や、家屋の奥の方が騒がしくなる。これ幸いとばかりに奥へ向かうウラタロスと鈴仙。
ウラタロスはこんな時にも女性に対する対応を変えない。少々の殺気を向けていた永琳に対してでさえ
「お話ならまた後でゆっくりと」と、愛想を振りまく始末である。そういった手合いは永琳自身数え切れないほど軽くあしらっているのだが。
ウラタロスと鈴仙が騒がしい方向へ向かうとともに、永琳もまた動き出す。
しかしここで誤解を解かなかったことが、後にちょっとした騒動を生み出す切欠となってしまうのだった。

(……まぁ、相変わらずみたいね。それにしても最近ここも騒がしいわね。
 姫がまた何か……いや、そういう騒がしさじゃないわね、これは)

廊下を突き進むウラタロスと鈴仙。てゐがご丁寧に砂を巻きながら逃げていたおかげで
広い永遠亭の中でも迷わずに進むことができた。
故に、目的とするものに辿り着くのは簡単なことであった。その目的とするものが、厄介なものであることを除けば。

「み、見たこともない妖怪兎……ま、まさかこれがウラタロスさんの言ってた……!!」
「あ! お前ここにいる月兎に……い、イマジン!? 何で俺ら以外のイマジンがここにいるんだよ!?」
「『俺ら』? ってことは複数いるってわけ? は〜あ、雑魚ばっかり大量に釣れても嬉しくないんだけど……まぁいいや。
 ごめんね鈴仙ちゃん、危ないからちょっと離れてて。良太郎がいれば、もうちょっとカッコよく決まったんだけど……
 ま、このままでも僕は十分カッコいいからね」

幸か不幸か、鈴仙は逃げて距離をとっている。鈴仙自身に戦闘能力が皆無というわけではないのだが
いかんせん臆病である。ウラタロスにしてみれば好都合であるので、彼はその事を咎めはしない。
それ以前に彼が女性を咎める事など滅多にないのだが。
鈴仙が安全な場所に移動したと判断するや否や
どこからともなく両端に六角形の刃が付いた竿――ウラタロッドを取り出し
目の前にいる兎型のイマジン――ラビットイマジンを睨みつける。

320俺参上第九話中編(3/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 01:58:59 ID:Codt.6vo0
口上「僕に釣られてみる?」

「それじゃお前、僕に釣られてみる?」
「俺は魚じゃなくて兎だよっ!」

ラビットイマジンは短刀を、ウラタロスは槍に近い竿を、それぞれ武器として戦う。
その戦い方たるや、以前ここ永遠亭で繰り広げられた弾幕ごっことは全く異なり、舞台と相まって時代劇の殺陣に近い。
ウラタロスとラビットイマジンの力の差は歴然である事や、得物のリーチの都合もあり勝負はあっさりとついてしまう。
そう、まるで時代劇の殺陣において、主演の旗本に浪人が束になっても敵わないように。

「ウラタロスさん、すごいです!」
「おっと鈴仙ちゃん、まだ僕に釣られちゃだめだよ? それと、ちょっと向こう向いててくれるかな?」

鈴仙が反対方向に目を向ける。鈴仙は見張り役を任命されたと解釈したが、実際はそれよりも重要な部分があった。
鈴仙の死角に入るなり、ウラタロスは地に伏したラビットイマジンを踏みつけ、ウラタロッドの刃を頭に突きつける。
とても鈴仙に対し紳士的な行動をしていたイマジンと、同じイマジンには見えないほどの冷徹さである。
あっという間に組み敷かれたラビットイマジンは毒付くが、ウラタロスは淡々と言い放つ。

「これでも女の子には気を使ってるつもりなんだ。お前らが徒党組んで動くタイプのイマジンだってのはわかったよ。
 その中に『因幡てゐ』って女の子と契約した奴はいる?
 船酔いの時と大事な情報は、さっさと吐いた方がいいと思うけど」
「し、知らねぇ! 俺たちは皆ここの妖怪兎どもと契約したんだ! けどそんなやつはいなかった! だからさっさと離せ!」

ため息と共に踏みつけた足を離し、ラビットイマジンの耳を掴み、強引に立ち上がらせる。
一連の動作を手際よく終えるとともにラビットイマジンの手は後ろ手に組ませてある。
そこまで終え、ラビットイマジンの耳から手を離した段階でようやく鈴仙に声をかける。

「お待たせ鈴仙ちゃん。どうやらこいつはてゐちゃんが契約したイマジンじゃないみたい。
 こいつに案内させるから、鈴仙ちゃんは安全なところに行っててもらえるかな」
「い、いえ。私もついていきます。勝手知ったるなんとやら、ですし」

321俺参上第九話中編(4/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 02:00:35 ID:Codt.6vo0
鈴仙も永遠亭の内部事情や構造には明るい。
もしラビットイマジンが罠を張っていたとしても、鈴仙が付けば危険性は大きく下がる。
そう言う意味では願ってもない事なのだが、いかんせんイマジンの相手は危険すぎる。
女の子を危険な目に遭わせるのはウラタロスの流儀に反する。
その事もあり、一旦は渋るウラタロスだが結局は承諾する。

「それじゃ、お願いしようかな。でも釣るのは僕の役目だからね。
 女の子に怪我させるのは釣り場にゴミ捨てるくらい、礼儀のなってない話だからね」
「は、はぁ……と、とにかくてゐを探しましょう」

赤い目を丸くしながらも、ラビットイマジンがおかしな真似をしないように見張る鈴仙。
ウラタロスは未だ知らないのだが、鈴仙にも戦いの心得はある。それもごっこでない、ちゃんとしたものが。
最も、鈴仙自身はそれを活かさずに済んで安堵している。
その心得を振るうということは、自身も危険な場に身を置いていることになるからだ。
その鈴仙の臆病を知ってか知らずか、ウラタロスは鈴仙に最低限の事しか要求しない。
鈴仙も薄々感づいてはいるのだが、このウラタロスというイマジン、相当な女好きで
ただ単に鈴仙に怪我をさせたくないだけである。
おまけに見張りにかこつけて一緒にいられる時間を確保できる。微妙に噛み合ってないが、利害は一致していた。

広い永遠亭の中。ラビットイマジンに案内させるも、未だ目的地や保護対象
あるいは殲滅対象を見つけることができない。
いつしかウラタロスは鈴仙を口説きにかかっていた。ラビットイマジンの動きを封じながら。

「そういえばウラタロスさん、いまじん……って結局なんなんです?」
「あ、ちゃんと説明してなかったね。イマジンってのは……」
「おい、俺にも言わせろ! 聞いたぞ、お前嘘ばっかつくからな! デタラメ吹き込まれても困るからな!」

海亀・砂兎説明中...

「イマジン、についてはわかりましたけど……わからないことがあります」
「二人がかりで説明したのが裏目に出ちゃったかな……わからないことって何?」

322俺参上第九話中編(5/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 02:03:17 ID:Codt.6vo0
鈴仙はひと呼吸おき、赤い目で、能力を行使しないようにウラタロスを見据える。
このイマジンの説明が全て本当ならば、一番わからないのはウラタロス、ということになる。
鈴仙、いや永遠亭の住人も文々。新聞を購読している。
それはつまり、イマジンについての情報を多少偏ってはいるものの、少しは所持していることになる。
にも関わらず契約を結んでしまうのがイマジンの恐ろしいところでもあるのだが。

そしてそうなると一番わからないのはウラタロスら電王のイマジンということになる。
何せ記事に記されていたことほぼ全てが当てはまらない。
実体はあるわ、契約はしないわ、あまつさえ同族のイマジンを攻撃するわ。

「え、僕? ……ふふっ、参ったね。今はまだ、僕を信じて釣られてみて、としか言えないねぇ」
「むー……とにかく、今はてゐを助け出していただければそれでいいんですけど」
「お前らさっきから何話してるんだよ、それと早く離せよ! 痛いっての!」

腑に落ちない表情で、ウラタロスをジト目で睨む鈴仙。能力を行使しないように注意しながら。
さっきから鈴仙の視線が痛い。ウラタロス、ひいては電王とイマジンの因縁を踏まえれば答えは自ずと出る。
しかし、そんなものを鈴仙が知る由もない。そもそも鈴仙は電王を知らない。
妖怪に対して博麗の巫女があるように、イマジンに対しては電王があるという事を。
しかし、ウラタロスは電王の話題を出すことを渋っていた。
イマジンがイレギュラーであるなら、その抑止力たる電王もまたイレギュラーである、と考えたからだ。
今回の事件は、ただの事故である。電王とイマジン、この2つの存在が恒常化するなど、あってはならない。
それが、今のウラタロスの結論である。

「だったら、早くてゐちゃんを釣る餌になってもらおうか」
「誰がなるか、っつーかお前の言うてゐって奴、そこにいるんじゃないか?」
「えっ?」

ラビットイマジンの指摘に振り返る鈴仙。
そこには服から白い砂を零し、青ざめた顔をして立ち尽くしているてゐの姿があった。
その隙を突いてラビットイマジンは逃げ出すが、それよりも今はてゐだ。
てゐに駆け寄る鈴仙とウラタロスだが、てゐは白い砂を零しながら後ずさりしている。

323俺参上第九話中編(6/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 02:05:03 ID:Codt.6vo0
「う、嘘でしょ……夢じゃ無かったんだ……わ、私とんでもないやつと……胡蝶夢丸のせいだと思ってたのに……!」
「て、てゐ! あんた、本当に意魔人と契約を……!?」

てゐから零れ落ちる白い砂は、たちまちに怪物の姿へと変化していく。
青い体に、傷だらけの巨体。両胸には「S」を模した傷があり、全体的なイメージは鮫のそれに近い。
本来の鮫と異なるのは、明らかに人型をして二本の足で立っており
その背中には鰭の代わりに鋸や鎚などの工具を背負っている。
因幡てゐの持つ「日本神話・因幡の白兎」から「鮫」をモチーフに現出したイマジン――シャークイマジン。

「実体化してる、間違いなく契約してるよ。てゐちゃん、そいつに何を願ったの?」
「し、知らないわよ! 私はこんなやつ知らない!」

イマジンは契約を交わし、契約者の時間を得ることによって実体を持つ。
契約を交わさぬイマジンなど、ただの砂粒に過ぎない。その状態のイマジンは恐るるに足らないが
実体を得たイマジンは、とても危険な存在となる。
何せ能力の大半が、契約者のイメージで決められてしまうからだ。それも契約者が強く思い描いた事を。
てゐの場合、かつて自業自得とは言え鰐鮫に散々痛めつけられた経験がある。それがトラウマとなり
イマジンの実体化に使われたのだろう。

「おまえ、嘘吐いてる。おれ、嘘嫌い。でもおまえ契約者。だから願い叶える」
(あらら。こりゃキンちゃんやおデブちゃん並に律儀なイマジンじゃない。
 願い事がわかれば、大時化にならずに済むかもしれないけど……あのてゐちゃんの様子じゃ、難破しそうだねぇ)
「てゐが嘘吐きなのは今に始まったことじゃないけど……
 でもあんた意魔人なんでしょ? どうせ願い叶えるにしたってろくな方法使わないんでしょ。
 てゐ、そんな契約なんかさっさと破棄しちゃいなさいよ」

実際、イマジンの願いの叶え方などろくなものではない。
しかし、だからといってイマジンの契約の一方的な破棄を契約者側から意図的に行うのは不可能である。
意図せぬ方法で、イマジンの契約を破棄ないしそれに近い形にすることは可能ではあるのだが
誰もその方法を知る由がない。

324俺参上第九話中編(7/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 02:06:29 ID:Codt.6vo0
「方法? わからない。おれ、願い叶えるだけ。
 おまえ、願い叶える邪魔するなら、倒す。それに、契約、絶対。破棄、許さない」
「ちょ、ちょっとまって! 攻撃はしちゃダメ!
 この永遠亭にいる兎やお師匠様、姫様は絶対に攻撃しちゃダメって言ったでしょ!」

てゐの制止により、一時は停止するシャークイマジン。だが、その程度の制止でイマジンは止まらない。
性格は律儀であっても、やはりイマジンはイマジンだったのだ。
無差別攻撃が、対象を絞った攻撃に変わったに過ぎない。

「むう。おまえ、言ってること難しい。あいつ、願い叶える邪魔してる。でもおまえ、消しちゃダメって言う。
 だったら、あの青い亀だけ潰す。おまえ、それでいいか?」
「え、えーっと……青い亀さん、助けてくれたのにごめんなさいっ!」
「ちょ、ちょっとてゐちゃん!?」
「あっ、てゐ! あんた、意魔人置いてどこ行くつもりなのよ!」

てゐの心のこもっていない謝罪の言葉。
それを狼煙にてゐは逃走し、シャークイマジンは鋸刀を手にウラタロスに斬りかかる。
ウラタロスも咄嗟にウラタロッドで受け止めるが、単純な力ではシャークイマジンの方が勝っている。
鍔競り合いでは勝ち目がない、無駄な体力を消費すると判断したウラタロスは
すかさずシャークイマジンの腹に蹴りを入れ間合いを取る。

「ぐぬっ!」
「ふふん、そういう力押しだけで僕を釣ろうなんて到底無理無理。
(とは言え、このままここで引っ張ったら鈴仙ちゃん達にも被害が及んじゃうし……どうやって引き離そうか)」

力では良太郎の他のイマジン、特にキンタロスには到底敵わないがこうした咄嗟の判断や小手先の勝負ならば
ウラタロスの右に出るものはいない。
幸い、シャークイマジンは「大男総身に知恵が回りかね」を地で行くようなタイプである。
しかし口八丁で丸め込もうにも、目的のための障害――ウラタロスを排除する一点のみで動いている。
ウラタロス自身が丸め込もうにも、なかなか難しい状態である。

325俺参上第九話中編(8/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 02:07:20 ID:Codt.6vo0
「おまえ、逃げるな。おまえ逃げる、ここ壊れる。それ、契約違反」
「だ、だったら攻撃をやめればいいじゃない!」

鈴仙の至極当然のツッコミに、シャークイマジンの攻撃の手が止まる。
あまりにも馬鹿馬鹿しい流れに、思わずウラタロスも一瞬呆気にとられてしまう。
突っ込んだ鈴仙本人でさえ、何が起きたのか理解するのに時間がかかってしまった。

「むう。攻撃やめる、ここ壊れない。でも攻撃やめる、おまえたち逃げる。おれ、どうしたらいい?」
(あっ……今です、ウラタロスさん、てゐを追いかけましょう!)
(鈴仙ちゃんナイス! 惚れちゃいそうだよ)

シャークイマジンの手が止まった隙に、鈴仙の手を引きその場を離れるウラタロス。
イマジンの相手も重要ではあるのだが、それ以上に逃げたてゐを追わなければならない。
鈴仙もこの流れを意図してはいなかったが、てゐならば間違いなくこう行動するだろう。
今鈴仙の手を引いているウラタロスも、おそらく同じことを考えている。
最も彼の場合、鈴仙のように意図せぬ形ではなく、てゐのように故意に出し抜くタイプだが。

(……これが亀の格好した得体の知れない化物じゃなくてカッコいい男の人ならなぁ)

と一瞬鈴仙が思ったかどうかは定かではないが、ウラタロスの口説き文句を流しつつてゐの追跡に戻る二人。
結果として、永遠亭の広い廊下にただぽつりとシャークイマジンが残される形となる。

「あ。あいつら逃げた。あいつらいない。契約果たす邪魔者いない。おれ、契約果たせる」

シャークイマジンの口調から知性は感じられないが
思考の切り替えはその口調から感じられる知性以上のものを誇っていた。
すぐさま目的をウラタロスの排除から、契約の遂行へと変更する。
そもそも、それが本来のイマジンの目的である。

326俺参上第九話中編(9/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 02:08:38 ID:Codt.6vo0
「でもこの契約内容、おれ何したらいいかわからない。むう」

しかし、シャークイマジンに願われた事は余程複雑であったのか、その場に座り込み考え込んでしまう。
馬鹿の考え休むに似たり、とはよく言ったものでそのままシャークイマジンは
小一時間も廊下を占領していたのだ。
こうなれば、永遠亭に住んでいる住人が不審に思わないはずがない。
まして廊下ともなれば、通りかかる人物の一人や二人、いても当然である。

「あら……? やけに今日は騒がしいと思ったけど、あなた誰?」
「おれ? おれ、願い叶えるためにここにいる。でも願いの叶え方がわからない。おれ、どうすればいい?」

なんとも不思議な会話である。片や傷だらけの青い巨躯で胡座をかき廊下に鎮座している怪物。
片や美しい黒髪の、まるで昔の日本のお姫様かというような身なりの少女。

「願い? 話だけ聞くと素敵な響きね。
 まぁいいわ。私もちょっと退屈だったし、少し話しましょ。私は蓬莱山輝夜。あなたは?」
「おれ? おれ、何話せばいいかわからない」

困ったわね、と言った風に指を口元に当て、考え込む輝夜。
シャークイマジンもそんな輝夜に対し、何をするでもなくただ立ち尽くしている。

しかし、その立ち尽くしている場所が悪かった。
何せ、通路のど真ん中で立ち尽くしているのだ。輝夜以外にも通る者はいくらでもいる。

「姫、こちらに……こ、この者は!?」
「あ、ちょうど良かったわ永琳。イナバ達もいないから困ってたのよ。彼、だれのお客さんなのかわからなくて」

シャークイマジンの異様な外見に、思わず身構える永琳。
ウラタロスも大概だったが、シャークイマジンはそれ以上に凶悪な外見をしていたのだ。
そしてなにより、背中に背負っている鋸や鎚。そんなものを背負って姫の隣にいるのだ。身構えない筈がない。

327俺参上第九話中編(10/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 02:10:24 ID:Codt.6vo0
(やはり、あの瑞江の意趣返しと見るべきかしら。うどんげ達の動向は知らないけど
 今日の瑞江の妖怪の後で似たような妖怪に出くわすなんて……!)

おまけに永琳は永琳で致命的な勘違いをしてしまっている。ウラタロスに対する誤解も満足に解けないまま
シャークイマジンに出くわしてしまっている。これでは永遠亭に害する者の仲間と思われても不思議ではない。
客人として受け入れようとする輝夜と、警戒心で溢れかえっている永琳。
イマジンに対する対応は、真っ二つに分かれてしまっている。

「まぁいいわ。とりあえず彼にお話聞きたいし、客間まで通しましょ」
「しかし、この者の特徴、今話題になっている『意魔人』とほぼ一致します。もしそうであるならば……」
「そう、おれ、イマジン。おれ、契約した。だから願い叶える」

歯車は噛み合った。最悪の方向で。図らずも未来の浦島太郎は、月の頭脳を敵に回してしまったのだ。
釣り上げるには、とてつもない大物である。ボートで鯨を釣り上げるようなものである。

「あら、あなた意魔人なのね。じゃあこの姿だと……」
(瑞江の……神ではなく、意魔人になっていた、というわけね。
 何であれ、私の前に現れた事、私の大切な物を穢すなら、今度こそ亡き者にするわよ。
 私は彼女ほど甘くは無いわ)

―――

一方、自分がどんどん追い詰められていることを知らないウラタロスは、呑気に兎耳の少女と歩いていた。
目的は決して呑気なものではないのだが、目的以上に鈴仙のような美少女と並んで歩ける
この状況を楽しんでいる節がある。

「鈴仙ちゃん、この先は?」
「妖怪兎達の雑居部屋です……なんですけど、さっきの意魔人の話が本当なら
 この中の妖怪兎達も意魔人と契約を……」

外から見る限り、それほど広くない部屋。その中に可愛らしい兎がいっぱいいるのならば
動物好きには堪らない場所なのだが。
可愛らしい兎ではなく、凶悪な面構えのラビットイマジンの大群がこの中にいるのならば。
とても想像したくない絵面ではある。

328俺参上第九話中編(11/11) ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 02:11:56 ID:Codt.6vo0
「(……うぇ、やな想像しちゃったよ)鈴仙ちゃん、中に入るのは止したほうがいいんじゃないかな。
 僕もある程度イマジンの気配はわかるけど、この中、結構いるよ?」
「うっ……となると、てゐはここにはいないかもしれませんね。確かめてみますか?」

そろりそろりと、物音を立てないように部屋の入口へと近づき、襖から聞き耳を立てる少女と青亀。
鈴仙の能力をもってすれば、気づかれぬように移動することなど容易いのだが
習慣、或いはノリかついつい隠密行動をとってしまう。
程なくして、襖を挟んだ向こう側から声が聞こえてくる。

「よぉーし! 今日も派手にやるぞぉー!」
「今日は落とし穴にクレイモア地雷埋めるよ! きゃははははっ!」
「ふふ……はまったら木っ端微塵だよ……」

ウサギをいじめる妖怪ウサギ。その不可解な存在は、妖怪ウサギ自身が契約したイマジンであった。
明らかに悪戯の度を越している計画。彼らは永遠亭に住む妖怪兎の
「悪戯をしたい」「遊びたい」といった願いで実体化し、それを叶えているに過ぎない。
当然、契約者の意向など聞く耳持たず、典型的なイマジンである。
抗議の声をあげるものもいる。だが、そうした者は全てピンクラビットイマジンの
蟷螂拳の餌食となってしまっている。
それもあってか、抗議の声は日に日に聞こえなくなっていく。
それどころかイマジンの手伝いをする妖怪兎まで現れる始末である。
彼らは、イマジンに過去を奪われたなれの果て。イマジンに取って代わられた存在。
彼らは既に永遠亭に棲む無邪気な妖怪兎などではない。短絡的ではあるが粗暴なイマジンそのものである。
契約者の過去を奪い、契約者の時間を乗っ取る事でイマジンの侵略は達成される。
少しずつではあるが、確実に幻想郷はイマジンの侵略を受けていた。

「いいじゃねぇか。やるなら派手なほうがいいだろうがよ!」
「さっさと契約果たして過去に行こうよ! 今度は俺の番だよ、きゃはははは!」

狂ったような笑い声が、庭に響き渡る。今ここに、自身の天敵がいることも知らずに。
やがて終えるであろう狂宴を謳歌する声は、今はまだ止まない。
しかし狂宴の終わりを告げる警笛は、確かに鳴ったのだ。

329 ◆cedHmDsvEg:2012/06/30(土) 02:35:09 ID:Codt.6vo0
以上、第九話中編でした。
何だかタイトルの割にはてゐよりうどんげのが出番多いですが。

今回は登場イマジンの紹介。

ラビットイマジン
TV第31話冒頭に登場した個体と同外見。
「うさぎとかめ」のうさぎをモチーフに現出したイマジン。
TVでは鎌を使用したが、今回は短刀を使用。
ウサギモチーフのイマジンでは一番ウサギらしい外見。
武器が変わったのは別個体と言う強調であって得物を忘れてたとかそう言う理由ではない。

本文中では蟷螂拳を使うピンクラビットイマジン(劇場版電キバ登場)の存在が示唆されているが
その他トータスイマジンの分離体(第21・22話登場)、パンダラビットイマジン(第39話冒頭登場)も複数存在している。

シャークイマジン
今作オリジナルイマジン。
コンセプトは「原作のホエールイマジンを着ぐるみ改造して新イマジンを作るなら」。
てゐを出すにあたって
因幡の白兎って言ったら鮫じゃね?→いや鰐じゃね?→アリゲーター(鰐)は牙王だし、ディケイドに出ちゃったし
(元の寓話違うけど)→やっぱ鮫
てゐに嘘吐かれた原典の話を反映して、嘘嫌いな性格になってます。
喋り方は原作ホエール(第15・16話版)+仮面ライダーSD(マイティライダーズ)のアマゾン+ステレオタイプのネイティブアメリカン
と、ちょっと混ぜすぎちゃいましたが絵を載せられないので喋りに個性を持たせるため、こんなことに。

330名前が無い程度の能力:2012/08/26(日) 17:00:35 ID:e6qDKSOg0
このスレ盛り上がってほしいなあ
アゲ

331 ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:02:18 ID:Fn8udqY20
・この作品は「東方Project」と「仮面ライダー電王」の二次創作作品です。
・この作品には二次設定・独自設定が含まれております。
・この作品には戦闘シーンや暴力的なシーンが含まれております。
・この作品は「東方Project」及び「仮面ライダー電王」の原作及び他の二次創作作品とは一切関係ありません。
・この作品には「仮面ライダー電王」のTV本編ネタバレ要素が大いに含まれています
・この作品には作者オリジナルのイマジンが登場します New!!

以上抵抗のある方は恐れ入りますがトリップをNGに指定してくださいませ。

お久しぶりでございます。
この程度の更新ペースですので時々「あぁ、あんなのあったっけな」程度に認識して頂ければ
幸いでございます。

332俺参上第九話後編(1/11) ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:03:53 ID:Fn8udqY20
―――

「まぁいいわ。お茶でも飲んでたら思い出すでしょ。イナバにでも用意させるから、そこの部屋で待ってて」
「むう、わかった。おれ、そうする」

ウラタロスと鈴仙がイマジンの根城を探り当てた頃、シャークイマジンは未だ二人と対峙していた。
素直に輝夜の提案に従うシャークイマジン。その言動に、凶悪なイマジンの面影はない。
姿形こそ凶悪であるが、今はただの強面の妖怪にしか見えない。
客間に通されたシャークイマジン。座布団に座り、潜伏している宇宙人の如く卓袱台を囲む。
向かい合うように腰を下ろす輝夜。イマジンが相手でも、全く怖気づいていない。

「単刀直入に言うわよ。あなたここの住人じゃないでしょ。
 ……ああ、答えは聞いてないわ。見ればわかるもの。それにそれを咎めるつもりも無いわ、今の所はね」
「おまえ、何言いたい? おれ、願い叶えたい。それだけ」

対するシャークイマジンも、自分のペースを崩していない。互いに敵意こそ無いものの、話は未だ平行線である。

「その契約者……うどんげの話から察するに、おそらくはてゐね。てゐは貴方に何を願ったの?」
「『幸せ』。おれ、それわからない。だから困ってる」

因幡てゐの能力。それは「幸せをもたらす程度の能力」。つまり、わざわざイマジンに契約などせずとも
自身で勝手に出来ることなのである。それを何故、イマジンに願ったのか。
てゐの能力を知る永琳と輝夜はそこが腑に落ちず
シャークイマジンは「幸せ」と言う概念そのものが抽象的すぎて願いを叶えることができずにいたのだ。

「それは同情するわ。そんな抽象的な事を要求されるなんて。
 この際、あなたが思う『幸せ』をやればいいんじゃないかしら?」
「姫、それではこの意魔人が暴走しかねません。危険すぎます」

333俺参上第九話後編(2/11) ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:06:11 ID:Fn8udqY20
通常ならばイマジンは勝手な解釈で契約を実行しようとする。
それは既に大多数のイナバを抑えているラビットイマジンを見れば瞭然である。
永琳も新聞記事の鵜呑みとは言え知識として有している。
勝手な行動をさせては、永遠亭がどうなるかわかったものではない。
シャークイマジンを勝手に動かすなど、永琳が首を縦に振るはずがなかった。
ただ一つ、ある人物の特権によるものを除いては。

「『幸せ』、お前、知ってるのか?」
「知ってるって言えば知ってるけど、あなたの思う『幸せ』と私の知ってる『幸せ』
 ましててゐの考えてる『幸せ』。これは全部きっと違うものよ?
 ……ふふっ、そうね。私もちょうど暇していたし、あなたこの難題解いて見せなさいな」
「ひ、姫!?」

――「己にとっての幸せを見つける」

それが輝夜姫から風変わりな客人に出された難題である。
輝夜にとって、難題を出すのは遊びの延長線上でもある。
新聞記者がしつこい取材に来た時も難題で応対し
かつてとある異変が起きた時も、難題で応対している。全て遊びの延長線上だ。
遊びでなかったのは、過去難題に挑み輝夜をものにしようとした時の権力者達だけである。
その彼らも、遊びに必要以上にムキになった報い
(と言うのも本人達や身内にしてみれば失礼な話だが)を受け
相当に酷い目に遭わされている。

「むう、難しい。そもそもおれ、『幸せ』、知らない」
「あらら、そこからなのね……仕方ない。ちょっとインチキかもしれないけど、特別にヒントを出すわ」

案の定頭を抱えるシャークイマジンに、輝夜はヒントを出す。
イマジンらしからぬ態度で真面目に聞いていたシャークイマジンも
輝夜の話が終わるなり勢いよく障子をぶち破って部屋の外に飛び出す。
流石に障子をぶち破った事には面食らった輝夜だが、それ以外は全く動じていない。

334俺参上第九話後編(3/11) ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:07:52 ID:Fn8udqY20
「……よろしいのですか?」
「最悪、私達『だけ』は無事よ。そこまで酷い事にもならないでしょうけど。
 あの意魔人が本気で私達やここをどうこうするつもりなら
 とっくに永遠亭の機能の半分は持ってかれているわ。
 ……永琳。彼の難題が一段落着いたら、一度全員健康診断でもしたらどうかしら?」

永琳の不安をよそに満足げに語る輝夜だが、最後に思い出したように驚き口を開く。

「どうしました、姫」
「彼にお茶を出すの、間に合わなかったわね。
 最も、意魔人がお茶を飲むのかどうか、私は知らないのだけど」

―――

(先輩とかいたらどうせ乗り込んだんだろうけど……今乗り込んだら確実に被害出るしねぇ。
 何とか中の連中に気づかれずに潜り込む方法があればいいんだけど……ん?)

ふと、ウラタロスが違和感に気づく。中にいるイマジンの反応以外にも、一体イマジンが動いている。
恐らくは先程一戦交えたシャークイマジンだろう。今出くわせば挟み撃ちである。
ウラタロスは鈴仙に目配せをし、この場から離れることを提案する。

「(冗談、今はサメ釣りやるつもりは無いっての)
 鈴仙ちゃん、一匹……多分さっきの鮫イマジン、こっちに来ているよ。ここは離れて様子を見よう」
「ええっ!?」

しかし、タイミングがまずかった。イマジンが複数いる部屋の前に陣取っている時に
鈴仙を驚かす様なことを口走ってしまったのだ。
思わず驚く鈴仙を制止するウラタロスだが、時既に遅し。

「(まずった……!)れ、鈴仙ちゃん、声、声!」
「はっ……!!」

335俺参上第九話後編(4/11) ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:09:45 ID:Fn8udqY20
「誰だ! そこにいるのは!」
「誰だっていいよ! ぶっ潰すチャンスだよ!」

思わず鈴仙を抱えて身を隠すウラタロス。さらにバラバラと出てきたラビットイマジンの軍団と
先程輝夜と話していたシャークイマジンが出くわしてしまう。
これでは、ウラタロスは身動きが取れない。
それ以上に、鈴仙は慣れない磯の香りを長い時間嗅がされることになっていた。

(嘘っ、よりによってこのタイミングで合流させちゃう!? これは当分動けないね……)
(さっきから思ってたけど……ウラタロスさん……く、くさ……これ何の臭いよ……)

鈴仙が嗅ぎ慣れない磯の香りに悪戦苦闘している頃。廊下では兎と鮫のイマジンが対峙していた。
イマジン同士、意思の疎通はスムーズに運ぶ……事はない。ある意味イマジンの通常運転である。

「あ! お前……見慣れない奴だな。お前もここに来いって声聞いてきたのか?」
「声? 知らない。おれ、契約者の願い叶えるだけ」
「バーカ、そんなもん適当でいいんだよ。俺らは過去行って俺らが消えないようにすればいいんだよ」

意思の疎通は全く図れていない。幻想郷における異変においても、意思の疎通がもっとしっかりと図れていれば
大事にならずに済んだ異変も少なくはない。そう言う意味では幻想郷としても通常運転ではあるのだが。
普段の幻想郷の異変が遊びの延長線上であるのに対し、イマジンの異変は遊びでない。
この一点に、全ては要約される。だからこそ、偶然やって来た赤鬼のイマジンは、蔦のイマジンを倒した。

「適当、ダメ。おれ、契約者の願い、叶える。だから、おまえたち、倒す」
「はぁ? お前バカじゃねぇの? 電王じゃあるまいし」
「お前の契約者、『電王ごっこしたい』とでも願ったのかよ? そりゃ傑作だぜ、ギャハハハハ!!」

(また良太郎に別のイマジンが憑いた……訳じゃなさそうだね。あれどう見ても良太郎のセンスじゃないし。
 となると……僕らやおデブちゃん、天ちゃんとは別にイマジンと戦うイマジンが出てきたってこと?)
(はっ! し、しっかりしなさい私! ……って意魔人と戦う意魔人? ま、まぁウラタロスさんがいるから
 珍しくはないのかも……でもあの鮫の意魔人、ウラタロスさんの味方でもなかったし……
 って言うかそもそも『電王』って何?)

336俺参上第九話後編(5/11) ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:11:33 ID:Fn8udqY20
ウラタロスと鈴仙、互いにシャークイマジンとラビットイマジンの動向を探りながら
息を潜め様子を伺う。その一つ一つの挙動が騒動を起こすイマジン。それが集団でいるのだ。
永遠亭が騒動の渦中に飲まれるのに、時間はかからなかった。
ラビットイマジンの一体が、得物を手にシャークイマジンに飛びかかったのだ。

「電王じゃなくったって、俺らの邪魔するんならぶっ潰してやるぜ!」
「やはり、おまえたち、敵。なら、おれ、戦う」

その一撃を皮切りに、次々とシャークイマジンに飛びかかるラビットイマジンの群れ。
個体の戦闘力はシャークイマジンの方が優っているのか
敵の数をものともせずに互角以上の戦いを繰り広げている。
鋸刀や鎚を使い、あっという間にラビットイマジンに対し優勢に立つ。

(ひえぇ、やっぱり直接戦わなくてよかったぁ……あんなの相手にしてられないわよ……
 もしあいつがてゐと組んだら……そ、想像するだけで震えが止まらないわ)
(へぇ、あいつなかなかやるねぇ。やはりパワーは相当あるってところか。その分頭は弱いみたいだけど)

永遠亭の廊下を舞台にした大立ち回りは、館の住人の注意を釘付けにするには
十分すぎるイベントであった。ここを舞台にしてのこれほどの大立ち回りは
かつての永夜異変位なものである。いつの間にか、周囲には妖怪兎の観衆が出来上がっている。
その人集りならぬ兎集りの後ろから、二人の女性もまた事の顛末を見にやって来ていた。

「あら、やはりこうなったわね。武力に関しては、彼は見た目通りってところかしら」
「姫、わかっていてあの意魔人をけしかけたのですか?
 しかし、ここにこんなにも意魔人がいたなんて……」

「もう勝負みえた。おまえたち、負け。おれ、勝つ」

観衆の野次も加わり、戦いはシャークイマジンの優位が揺らぎ無いように見える。
数で挑んだラビットイマジン軍団の方が、息も上がりボロボロである。
鋸刀を構え直し、ラビットイマジンに対し向き直る。止めの一撃を繰り出すためだ。

337俺参上第九話後編(6/11) ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:13:00 ID:Fn8udqY20
「お、おい、こいつ強いじゃんかよ!」
「こっちは数で勝ってるってのに、何てザマだよちきしょう!」
「だったら数を増やすんだよ、おいてめぇら!」

ラビットイマジンの一体が号令をかける。
すると、観衆の妖怪兎が次々とシャークイマジンに飛びかかり、動きを封じる。
その光景に、妖怪兎の後ろで見ていた輝夜と永琳は目を疑う。

「なっ、ちょっとこれどういうことなのよ!?」
「くっ、そこの兎の意魔人! 勝手に他人の家の住人使わないでもらえるかしら?」
「観客は黙ってろよ! よーしてめぇら、そのままそいつ抑えてろよ!」
「む、むう。こいつら、傷つけられない。それ、契約違反。おれ、戦えない」

――人間の盾ならぬ、妖怪兎の盾。兎に手を出すな

と契約者であるてゐに言われているシャークイマジンは、身動き一つ取れない。
それをいい事に、ラビットイマジンはシャークイマジンに対し集中攻撃をかける。
しかも質の悪い事に、妖怪兎が飛びかかった部分めがけて攻撃している者もいる。
そうなれば、シャークイマジンは妖怪兎を庇うように攻撃を受け、余計なダメージを受けてしまっている。

「記事で読んだ以上に下衆ね……気が済んだら、二度とここに立ち入らないでもらえるかしら」
「手出しは無用だぜギャラリーども! こっちにゃ忠実な部下がいるんだ、俺らも部下はかわいいからな!」
(姫、奴らは従えた兎を盾にするつもりです。それでこちらの動きを封じるのでしょう)

あまりにも下衆な手に業を煮やした輝夜が霊力を集め、弾幕を展開しようとするが
それに合わせラビットイマジンは妖怪兎の一部を自分たちの周りに侍らせる。
うかつに攻撃すれば、妖怪兎を巻き込みかねない。

(あの子達、何かであいつらの言いなりになってるみたいね。
 だったら、私が波長を狂わせば引き剥がせるはず。で、でもそうしたらあの鮫の意魔人が動き出しちゃう……)
「鈴仙ちゃん。何とかしてあのウサギさん達を引き剥がせない? イマジンについては僕が抑えるからさ。
 あいつら反対側の誰かと話してるみたいだから、慎重に仕掛ければ大丈夫だよ」

338俺参上第九話後編(7/11) ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:13:51 ID:Fn8udqY20
鈴仙の考えを見透かしたように、ウラタロスが提案する。
永遠亭のウサギと親交のある鈴仙ならば、という提案なのだが
実際のところ鈴仙にそれほど地上の妖怪兎との交流は無い。鈴仙がウサギを引き剥がすのに使うのは
ウラタロスが考えているそれとは全く別の手段である。
微妙に噛み合っていないが、目的は同じ。イマジンを取り押さえるために飛び出すウラタロスを
鈴仙が後ろからバックアップする。
後は、タイミングを見計らい、実行に移すだけだ。

「ウラタロスさん、私がタイミングを測ります」
「頼んだよ鈴仙ちゃん。さてと、それじゃいっちょ釣り上げますか」

鈴仙が波長を駆使し、周囲の動きを観察する。息を潜め、飛び出す機会を伺う二人。
ふと、鈴仙が奥からやって来る小さなものを発見する。てゐである。

てゐもまた、逃げ回っていたがこの永遠亭の騒動を聞きつけ、自然と足が向かってしまっていたのだ。
本来の彼女の性格ならば、こうした身の危険に繋がりかねない場面からは一目散に逃げ出すだろう。
しかし、今回は事情が異なる。子分とも言うべき妖怪兎が、危険に晒されているのである。

「ちょーっと待った! そこのかわいくないウサギさんがた、そんなところで弱いものいじめしてないで
 私と遊ばない? 私を捕まえたら、もれなく幸せになれるわよ? ほら、みんなもこっちに来る!」
「あ。おまえ、契約者。ここ、あぶない。おまえ、逃げろ」
「へぇ、鬼ごっこってわけかい。けどな、俺たちゃガキの遊びしにきたわけじゃねぇんだよ!」

(てゐ!? でもこれはチャンスね、今兎意魔人連中の注意はてゐに向いているわ、後はなんとか
 あの子達を引き剥がせば……!)

ラビットイマジンの号令で、妖怪兎の一部が飛びかかる。
その標的は、あろうことか自分たちのボスとも言えるてゐであった。
てゐも一瞬、自分に何が起きたのか全く理解できず、反応が一瞬遅れてしまう。飛び退こうにも、一歩遅かった。

339俺参上第九話後編(8/11) ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:16:15 ID:Fn8udqY20
「なっ!? ちょ、ちょっとあんたたち! 相手が違うでしょ! 私に飛びかかってどうするのよ!」
「む? おまえたち、なにしてる? そいつ、ボス。おまえたち、相手、違う」
「残念だったなぁ! 『おまえが自分のボス』なんて記憶、こいつらには無いみたいだぜ? キャハハハハハッ!!」

ふと、永琳がてゐにのしかかっている妖怪兎の眼を見る。本来赤いはずの兎の目が、黒かったり緑色だったり
あらぬ色をしているのだ。体躯が小さいために見落としていたが、毛色もふわふわの白に緑やらピンクやら混じっている。
変異にしては妙な生え方である。同じタイミングで、ウラタロスもそれにようやく気付く。
しかし人質を取られている今、対処ができない。

「『記憶』……まさかあの兎、既に意魔人に乗っ取られているとでも言うの!?」
「……気が変わったわ。貴方達みたいな下衆な兎に、ここの敷居をこれ以上跨がせているわけには行かないわ。
 即刻、ここから出て行ってもらおうかしら」
「やれるもんならやってみろよ! こいつらから先にブッ飛んでもらうけどな!」

「くっ、僕としたことがボウズもいいところだよ。鈴仙ちゃん、ちょっとマズい事になった。
 時間は一刻を争う、僕ならあのウサギさん達を治せる方法を知ってる。飛び出すから、僕のアシストに回って!」
「え? ……ええっ!? ああもう、どうなっても知りませんよ!」

ウサギの様子を確認したウラタロスは、ウサギを元に戻すために速やかにイマジンを倒そうとする。
幸い、相手の注意はてゐや永琳、輝夜の方に向いている。
鈴仙もまた、形振り構わずに能力の発動に移る。

懶符「生神停止(アイドリングウェーブ)」

ウラタロスが影響を受けないように注意しながら、鈴仙は妖怪兎達の波長を操る。催眠術にかかったかのように
ぽてり、ぽてりと廊下に落ちる妖怪兎達。兎のフォールから解放されたてゐだが
シャークイマジンはやはり怖いらしく、飛び出したウラタロスの影に隠れている。

340俺参上第九話後編(9/11) ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:18:51 ID:Fn8udqY20
「さっきはごめんね、亀のお兄さん。でも私を助けてくれると信じてたよ?」
「それはどうも。僕は全ての女性の味方だからね。それに君のウサギさん達は、僕がしっかり連れ戻すからね」
「むう。おまえ、契約者守る? なら、おれ、おまえと戦わない。あいつらと、戦う」

先程までウラタロスを敵と認識していたシャークイマジンだが
てゐがウラタロスに対し全く敵意を見せていない現状を把握し、ウラタロスに対する警戒心を解く。
片や水色の亀怪人。片や紺色の鮫怪人。二体のいかつい男の影に隠れ、てゐはほっと胸をなでおろす。
妖怪兎達がぐったりしているが、てゐには誰の仕業か見当が付いている。なので、心配はしていない。
牽制され動けないラビットイマジン軍団を迂回し、妖怪兎達を眠らせた張本人である鈴仙がてゐに接近する。

「てゐ! ああよかった、あんた無事みたいね……一時はどうなることかと思ったわよ……」
「あはは、私がそんな簡単にやられるわけないでしょうが。心配しすぎだよ鈴仙は」

「お、おい、また振り出しに戻るどころか、さらに状況悪化してるじゃんこれ……」
「し、しかもあの青い亀、電王のイマジンだぜ、分が悪いなんてレベルじゃねぇぜ!?」

頼りの綱の兎の盾も封じられ、一体相手に苦戦していたのにさらに一体追加されてしまう。
しかも追加された一体は、時間の中で悪行をこなしているイマジンには悪名高い電王のイマジンである。
一時は勝利を確信したラビットイマジン軍団ではあったが、現状のあり得なさに怖気づいてしまっている。

(瑞江の……どういうことなの? うどんげだけでなく、今度はてゐを篭絡するつもり? それとも……)
「さぁて、形勢逆転ね。ああ、そこの下衆な兎共。この難題は解いてもらわなくて結構だから。
 自分のしでかした事を反省しながら、おとなしくやられなさいな」
「て、てめぇ! ふざけんな!!」
「その代わりといっちゃなんだけど……」

己の屋敷で静かに、平和に暮らしていたイナバ達を愚弄し、傷つけた罪は重いとばかりに
普段ののほほんとした表情とは打って変わった凛とした表情で、輝夜は冷酷にラビットイマジン軍団に刑を言い渡す。
それを合図にてゐとウラタロスは互いに頷き、ウラタロスは一歩前に出て、てゐはそのウラタロスから一歩下がり

口上「僕に釣られてみる?」

「私に」 「僕に」

――釣られてみる?

341俺参上第九話後編(10/11) ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:19:57 ID:Fn8udqY20
―――

一方その頃、永遠亭の中でも輝夜の私室に次いで重要とされる、永琳の作った薬品の保管庫。
ここにある物は全て取り扱いに細心の注意を払わねばならないものである。
永琳が暇つぶしで作ったものから、実際に治療に使われるまで、薬品という薬品が全てここに貯蔵されている。
ある種聖域とも呼べるこの場所に、ひとつの影が立ち入ろうとしていた。

(……さて。注意は全て向こうに向かっているようでおじゃるな。それにしても彼奴も麿に盗人紛いの事をさせるとは。
 麿は貴族であり、盗人では無いわ。ここに迷わず来れる者が麿以外に居ればよかったがの)

薬と毒は紙一重であるが故、ここは永遠亭の中でも特に厳重な封印が施されている。
使われているのは南京錠と厳重とは程遠いが、永琳が自前の知識でこしらえた、特注品でもある。
影は当然その鍵を持っているはずもない。

(この程度は既に予測済みよ。しかし麿の炎、決して死なぬ鳥の持つ炎と同じ故な。鍵など無意味でおじゃるよ)

南京錠に手をかざすと南京錠は一瞬で燃え上がり、灰になってしまう。
この時点で、この影の主は人間ではないことになる。最も、幻想郷の場合ただの人間のほうが珍しいのだが。
その一部始終を、一羽の妖怪兎が目撃していたことに影はまだ、気づいてはいないようである。

チチチチチチ・・・チッ・・・チッ・・・チッ・・・

342 ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:20:43 ID:Fn8udqY20
次回予告
ラビットイマジンによる永遠亭の乗っ取りは失敗に終わった。
しかし、記憶を奪われた妖怪兎はまだ治らない。
彼らを治すためには、良太郎が持つ電王のパスが必要だ。

「野上良太郎、という人物を探して欲しいのです」
「……本来ならば、貴方の望みなど聞く耳持ちません。
 ですが、貴方は姫様の恩人。今回は、私も力になりましょう」

永琳の協力を仰ぎ、人里で良太郎を探すウラタロス。

『うーん、やっぱり女の子は口説くに限るなぁ。憑くのは何か違うよ』
(わ、私の身体で女の子口説くとかそんな真似絶対しないでくださいよ!?
 明日から人里来られなくなるじゃないですか!!)

永遠亭に入り込んだ、第二の賊の目的は?
そして、てゐと契約したシャークイマジンは、幸せを見つけられるのだろうか?

「おまえ、みんな消そうとしてる。だから、おれ、おまえ、倒す」


「こ、これ……この薬使うと……その肌、治るから……だから……!!」

東方俺参上 第十話
鮫亀「セイム・ゲイム」

「さて。貴方に私の難題は解けるかしら?」

343 ◆cedHmDsvEg:2012/09/26(水) 01:42:45 ID:Fn8udqY20
以上、第九話後編でした。
今回は盛大にナンバリング間違えてます、ごめんなさい。

今回のセルフQ&A
ところで、東方の怨霊って口授見る限りじゃ結構イマジンに近いような……

Q:妖怪兎がラビットイマジンに従っていた理由
A:相当数のラビットイマジンが永遠亭に潜り込んだうち、憑依して活動している連中です。
  ウラタロスのチョンボっぷりがちと目立ちますね……てゐって前例があるってのに。
  ちなみに、妖怪兎の皆さんの絵面はうどんげっしょーのあのウサちゃんをイメージして頂ければ。

Q:えーりんがウラを目の敵にしすぎな件
A:「最初ムッコロそうと思ってた奴がいつの間にか神様じゃなくて得体の知れない亀の妖怪になってました」
  じゃ、いくら永琳でも面食らうと思うんですよ。実際はご存知のとおり赤の他人ですが。

Q:最後に出てきた麻呂は何者?
A:文面から妹紅意識してますけど少なくとも妹紅本人じゃないです。

Q:モグライマジンいないの?
A:ここ(永遠亭)にはいないよ!(ぶっちゃけ兎軍団で間に合ってるよ!)

344名前が無い程度の能力:2012/09/28(金) 02:20:30 ID:X2nFAZMk0
侑斗が幻想入りした件について

345名前が無い程度の能力:2013/02/16(土) 17:54:16 ID:wzGFjr3o0
鳥獣伎楽とパラッパ&ラミーのライブバトルを見てみたい

346名前が無い程度の能力:2013/03/21(木) 22:42:29 ID:tkL6wDyI0
ひさしぶりにアタゴオルシリーズを読んだ。
ヒデヨシに幻想郷来て欲しいな。

347名前が無い程度の能力:2013/03/26(火) 22:16:09 ID:EDDt7Pjk0
神奈子や早苗から外の世界ではお笑い芸人がいっぱいいて
お笑いがお茶の間を支配しているのと同然ということを知る霊夢と紫。
「せっかくだし外で一番面白い芸人さんを呼んで芸を披露してもらいましょう」
ということで早速外で一番人気のある芸人にスキマを仕掛けるが、そこへエガちゃんが
芸人に江頭アタックをくらわせ(バラエティの収録中だった)、入れ替わる形でスキマに入ってしまう。
黒のスパッツ(見かけほぼタイツ)で上半身裸の中年親父の登場に呆然とする紫。
「どーん!」と躊躇なく芸を披露するエガちゃん。響き渡る悲鳴。

全てを受け入れる幻想郷も驚く完全なるイレギュラー。
少女達の悲鳴と怒号、弾幕が交差する中走り、飛び、踊るエガちゃん。
やがて彼は幻想郷で最も嫌悪される外来人となる。
そして訪れる依姫・豊姫ら月人との対決。
『穢れてると言われたら俺の勝ち。そんな俺の芸でお前らが笑ったら俺の完全勝利だ!』

これは妖怪にも神にも、月人にも全力でぶつかり伝説を残した一人の男の物語である。

   東方3時前〜江頭2:50が幻想入り〜


上のはあくまネタだけどエガちゃんの幻想入りするお話に興味があるので
何かネタとかありませんか?

348名前が無い程度の能力:2013/03/27(水) 00:17:01 ID:XVOIc07kO
東方×パワポケ14で話を書いてみてる。


あらすじ
ブラックホールズに敗戦。あれから幾らか年が過ぎた。
様々なフィクションの世界が融合したパワポケの世界…
そして東方の世界も融合していた。
ちゃっかりと融合した幻想郷の存在を、ほとんどの人が知っていないだけで。
そして幻想郷の世界は野球の道具や野球に関わっていた人が割増で流れ込んできた影響で、
野球が流行りつつあった。

そんな中、ジオットは様々なフィクションの野球チームを集めての大会を決行。
紫は"なんとなく"、この大会に出る事にした。
全ての始まりの存在、〇〇(14主)を中心としたチームを作ることにして……



主要キャラ
・〇〇
14主。魔球が当たり前になった事によって、
時間がすぎて知名度が薄れてきた所で、紫に拐われる事に。
半ば強引にコーチになった彼は、
野球初心者だらけの幻想郷の住民達に野球を教える事に。

羨ましいポジションである。

・紫
なんとなくで参加を決め、14主を拐った張本人。
紫なりに何か考えはあるみたいだが……どうだか。
ちなみに本人は野球はしない。押し付けるだけ押し付ける。



こんな辺り。
彼女候補とかどうしようか悩んでる感じです。

349 ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 02:56:17 ID:wCLd1qcU0
・この作品は「東方Project」と「仮面ライダー電王」の二次創作作品です。
・この作品には二次設定・独自設定が含まれております。
・この作品には戦闘シーンや暴力的なシーンが含まれております。
・この作品は「東方Project」及び「仮面ライダー電王」の原作及び他の二次創作作品とは一切関係ありません。
・この作品には「仮面ライダー電王」のTV本編ネタバレ要素が大いに含まれています
・この作品には作者オリジナルのイマジンが登場します New!!

以上抵抗のある方は恐れ入りますがトリップをNGに指定してくださいませ。


久々に筆が進んだと思ったら東方もライダーも進みすぎて
ちょっとしたウラタロス状態です。鈴奈庵? 心綺楼? ヒーロー大戦Z? 何s(ry
マジでそろそろウィザードの次が出てきそうな時期なんですよねぇ……(遠い目

九話前編の投稿タイムスタンプを見た瞬間ファントム生まれそうな位絶望したのは内緒

07:58
東方激獣拳
このあとすぐ!

350俺参上第十話前編(1/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 02:59:20 ID:wCLd1qcU0
「突然だけど、一網打尽で行くよっ! 鈴仙ちゃん!」
「は、はいっ!」

それは、一瞬の決着であった。

幻惑「花冠視線(クラウンヴィジョン)」
縛符「ソリッドアタック」

鈴仙がラビットイマジン軍団の波長を操り、動きを狂わせる。
そこにウラタロスが投げつけたウラタロッドは、一瞬でラビットイマジンの軍団を捉える。
投げつけた竿から展開されたフリーエネルギーは、六角形の青い結界となり
標的――ラビットイマジン軍団の動きを封じる。

「く、くそっ!」
「いきなり必殺技ってそれ失敗フラグとかじゃないのかよ!?」
「にひひっ、それが成立するのは強敵相手の時だけさね。
 スペルカード宣言してボーナスに響くのはボス戦、かつ相手も宣言したときだけだよ?」

てゐの相手を小馬鹿にしたような発言を引鉄に、ウラタロスのスライディングキック。鈴仙の銃撃。
そしてシャークイマジンの鋸刀の一閃。各々の強烈な一撃が入る。
ラビットイマジン軍団は、反撃の機会すら与えられずに撃退されたのだ。

「やった!」
「よし、たおした。これで、おれ、契約完了……ん?」

シャークイマジンがてゐに歩み寄ろうとするや否や、ラビットイマジンを捉えていたウラタロッドが
今度はシャークイマジンに向けられる。
ウラタロスにしてみれば、シャークイマジンもまた過去へ飛び
過去を、未来を改変しようと企むイマジンに映っていたのだ。

351俺参上第十話前編(2/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:01:27 ID:wCLd1qcU0
「おっと。みすみすお前を過去に行かせるわけないでしょ?」
「むう。やはりおまえ、敵。ここで、倒す」

向けられたウラタロッドを払い除け、ウラタロスめがけ鋸刀が襲い来る。
鋸刀の一閃を躱し、シャークイマジンの懐に潜り込み、当身をかけるも
ウラタロスのパワーではシャークイマジンを伸すには至らず、睨み合いに持ち込まれる。

永遠亭の廊下を舞台にした、イマジン同士の戦いは第二ラウンドに持ち込まれるかに見えた。

「はい待った。貴方達の間にどんな因縁があるのか知らないけど
 うちにしてみたらどちらもイナバを救ってくれた恩人(?)よ。双方とも、構えを解きなさい」
「姫様が言うんじゃ仕方ないね。私の意見も姫様と一緒だよ。
 だから……あ、あんたも私の言うこと聞くのならこれ以上の喧嘩は無用さね」

輝夜の一声が水入りとなり、第二ラウンドは先送りとなる。
シャークイマジンも、契約者たるてゐには逆らえないのか構えを解き、直立の姿勢をとる。
その態度にウラタロスも刃を収めざるを得なかった。
イマジンはともかく、女性を敵に回すのはウラタロスにとって喜ばしいことではないのだ。

「むう。こいつ、邪魔する。倒したいけど、おまえそう言うなら、やめる」
「お前が話のわかるイマジンで助かったよ。
 ところで、水入りになったところで僕らはどうすればいいのかな? 悪いけど、僕が永遠亭でコイツと握手
 ……ってのは勘弁して欲しいかな。みんなとの握手なら、喜んでやるけど」
「そうね。まずは恩人(?)に対して何のおもてなしも無し、は永遠亭の沽券に関わるわ。
 皆、今日は色々あって疲れたでしょう? 急な事だから用意が出来てなくて、ささやかな物になるけれど
 宴会を開かせてもらうわ。存分に楽しんで頂戴な」

宴会。その一言に、てゐは浮かれ鈴仙も満更ではない。
ウラタロスも、酒はともかく美しい女性と酒の席に着けるという事でむしろ乗り気である。
しかし、宴会の段取りを決めようとする矢先、鈴仙に妖怪兎が駆け寄ってくる。駆けつけた妖怪兎曰く

――永琳さまのお薬の保管庫に、怪しい奴が来た

352俺参上第十話前編(3/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:03:34 ID:wCLd1qcU0
東方俺参上 第十話
鮫亀「セイム・ゲイム」

「ちょっ……それまずいんじゃないの!? もし中身を盗まれたら……!」
「ん、わかった。おれ、みてくる」
「いいえ、私が見てきます。客人はお酒の席に参加なさってください。
 それに、私が行けば薬を盗まれたかどうか、すぐにわかりますし。
 泥棒退治程度でしたら、私にもできますわ」

会釈をし、薬品保管庫の方へと向かっていく永琳。
心配そうに見送るウラタロスに今度は鈴仙が声をかける。

「大丈夫ですよ。お師匠様、ああ見えて結構強いんですから。それに、身体も丈夫ですし」
「……僕の考えすぎならいいんだけどね。鈴仙ちゃんの方が永琳さんと付き合い長いみたいだし
 鈴仙ちゃんの言う事を信じますか」
「さ。それじゃ中に入りましょ。宴会の準備が終わる頃には永琳も帰ってくるわよ」

丈夫どころか永琳はそれこそ不死身であるのだが
説明がややこしい事や禁忌にも触れかねないために
「身体が丈夫」という表現に留めている。
まさか正真正銘不死身の存在がいる、などとはウラタロスも考えもしなかった事である。
イマジンも契約者さえ無事ならばほぼ不死身に近いのだが、完全な不死身ではない。
それ故に、鈴仙の「身体が丈夫」という表現だけで安心できるものではなかった。
イマジン相手ならば、ある程度身体が丈夫であっても太刀打ちは困難であろうから。
……最も、生身でイマジンを倒せそうな人間を若干名、知ってもいるのだが。

―――

真っ直ぐに薬品保管庫へと向かう永琳。
保管庫へ向かう道は一本しかない。賊は恐らくは裏口から逃げるであろう。
そうであったとしても、保管庫近辺は一本径になっている。
力任せに道を作る、などという手法を取られない限り
永琳は賊と正面から鉢合わせることができるのだ。
何とか、賊が裏口に出る前に鉢合わせることができた。
賊が力に訴えなかったこと。そして思いの他足の運びが遅かったことが幸いしたのだ。

353俺参上第十話前編(4/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:04:48 ID:wCLd1qcU0
賊の姿は、全く賊のイメージとはかけ離れている。賊などという言葉が失礼にあたるほどだ。
むしろ、昔の貴族を思わせる服装である。しかし、あくまでも服装、外見だけだ。
文官礼服を思わせる外見でこそあるものの、その貌は人間のそれではない。イマジンだ。

「ほほほ。麿に何用か? 麿は急ぎ故、そこを通してたもれ」
「……意魔人、ね。どうやら貴方達は、一枚岩の種族ってわけでも無いみたいね」

妙に時代がかった口調で話すイマジンに、永琳は毅然とした態度で臨む。
理由は一つ。そのイマジンの片手にあるものは、永琳が製作した薬品であるからだ。
ならば答えは一つ。このイマジンこそが、永遠亭に入り込んだ賊である。

「何を申すのかと思えば……そんなものは当然でおじゃろ。人間という種族一括りで考えられるのならば
 とうの昔から争いなど起こっておらぬわ。麿らとて、それは同じことよ。
 ささ、麿はそちの質問に答えたのじゃ。今度は麿が要求をする番。そこを通してたもれ」
「お願いついでにもう一ついいかしら。その手に持っているものを置いていってはいただけないかしら?」

イマジンにしては、妙に知能が高く見える。話し方のせいかもしれないが。
しかし本題は至ってシンプル。薬品を持ち帰りたいイマジンと、薬品を返してもらいたい永琳。
平和的な解決が望めるか否か。それはイマジンが目的とするものと、薬品の種類にもよる。

「……できぬ相談でおじゃるな。先も申した通り、麿は急いでおる。早よう開けてたもれ」
「……ああ、自己紹介が遅れましたわ。私、八意永琳と申します。
 この永遠亭で薬師を営んでおり、ここの薬は全て私の管理下にあります。
 薬品の管理は大変慎重に行わなければなりませんので、私の許可なく薬品の持ち出しはご遠慮願いますわ」

至って冷静に、永琳はイマジンを食い止めようとする。ガチンコの実力行使ならば永琳は負けないだろう。
だが、それは不死身ゆえに負けないだけでそれ以上はない。
相手が二流以下のイマジンならば勝てる程度の実力は持ち合わせている。
しかし、今回の戦略的には相手が持っている薬品を永遠亭の外に持ち出された時点で永琳の完敗である。

354俺参上第十話前編(5/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:06:16 ID:wCLd1qcU0
永琳にとって、それこそ避けねばならない事態である。薬品は正しく使われて初めて薬として成り立つ。
それ以外の使い方をすれば、たちまち毒と化すのだ。故に、永琳は薬の作成には常に慎重に取り組む。
勝手な持ち出しなど、言語道断である。

「ほほほ……やはり賊の真似などという、慣れぬ事はせぬに限るの。
 麿は貴族ゆえ、賊の真似などどだい無理な話だったのじゃ。
 さて八意とやら。麿も名乗るのが筋でおじゃるが……
 憎々しい事にそちに名乗る名を持ち合わせておらぬ。
 麿の契約者は、おいそれと名乗れぬ身柄であるが故にの。無論、それは麿とて同じことじゃ」
「それならご心配なく。私の本来の名前も、とても地上の言葉では表現できませんもの」

ふと、イマジンの態度が変わる。開き直ったようにも取れる。
それと同時に、イマジンの背後に炎のような物が見える。オーラの類ではない、本物の炎。
木造建築物である永遠亭にとっては、極めて危険なものである。
イマジンが薬瓶を持たぬ左手をかざすと、その掌からは炎が上がっている。

それを攻撃の構えと見た永琳もまた、弓矢を構える。

「姫の屋敷を荒らす狼藉者め! 生きて帰れると思うな!」
「麿は鳳凰ぞ! 不死の鳥ぞ! 死して帰すとは笑止千万!」

掛け声と共に、炎と光の煌きが永遠亭の一角を彩る。

―――

「……やけに外が騒がしいですね」
「まだ宴会は始まってないってのに。せっかちなイナバもいたものね」

355俺参上第十話前編(6/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:06:58 ID:wCLd1qcU0
永琳が文官礼服のイマジンと弾幕ごっこに見立てた真剣の戦いをしている最中。
ウラタロスとシャークイマジンを歓迎する宴会の準備は着々と進められていた。
もとよりお祭りが好きな幻想郷の住人。宴会ともなれば食いつかないはずもない。
輝夜らも様々な経緯を経て幻想郷へとやって来た身の上ではあるが
比較的すぐに幻想郷に馴染むことができた。
それからというもの、宴会の頻度も上がり催し事を開いたりさえしている。

呑気にしている美しい女性二人を他所に、怪物二人は真剣な面持ちで佇んでいる。
片や元からの強面、片や女好きではあるものの考え事をしているが故の真剣な面持ち。
考えていることは女性を侍らせて酒と料理をあおるであろう今後の出来事ではない。

――何故、ここにイマジンがいたのか。

イマジンの事を知っているまではまだいいとしよう。
聞けばこの幻想郷、外の世界の情報が正確性はさておくとして伝わることも少なくないらしい。
ウラタロスの知る「イマジン」と、彼女らが知る「意魔人」の間には確かな壁があったのも事実だ。
ある意味外の世界の妖怪たるイマジンが、ほぼ妖怪の天下である幻想郷で伝わったとて不思議ではない。

しかし、現物がいるとなれば話は別だ。ウラタロスら電王のイマジンのようにイマジンにとっての
「然るべき手法を取らず」来ていたわけでもないようである。
イマジンにとっての然るべき来訪方法。即ち「イマジンとの契約」。それを成された痕跡があるのだ。
オーナーが嘘をついたとも思えない、そもそも嘘はウラタロスの専売特許である。

過去を奪われた妖怪兎を顧みるに、ここにいたイマジンの目的はほとんど
「契約者の過去を奪い、自分の存在を確立する」事のように見えた。が、どうにも腑に落ちない。
好き放題やるのがイマジンだが、それにしてもここまでの数が襲来するだろうか。
もしウラタロスが来ていなければ、永遠亭は遠からずイマジンに内側から制圧されていたかもしれない。

「……さん、………ロスさん」

356俺参上第十話前編(7/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:07:57 ID:wCLd1qcU0
ラビットイマジンと戦ったシャークイマジンについては、今はおいておこう。
そもそもイマジンと戦うイマジンなど、ウラタロスにしてみれば珍しくもなんともない。
ただ唯一の共通点である「時の列車」が絡んでいない時点で、警戒するに越したことはないのだが。
それに、今やってきた賊というのもどうも引っかかる。
まるで騒動が起きるのを見計らったかのように物取りに入ったのだ。
やはり、賊の退治に乗り出すべきだっただろうか。

「ウラタロスさん、ウラタロスさんってば」
「ん? あ、ごめん鈴仙ちゃん。ちょっと考え事しててさ」

鈴仙の声にも気づかないほど、深く考えこんでいたのかと頭を掻くウラタロス。
ふと気づけば、少し騒がしい程度だった外が、やけに騒がしい。
時計というものはこの広間には無いが、時間はそれなりに経過しているように思えた。
周囲を見やると、輝夜が妖怪兎と会話している。

「……そう、ご苦労様。あなたは持ち場に戻ってもいいわよ」
「お師匠様、まだ戻らないんですか?」

鈴仙の質問に、輝夜は首を縦に振る。それはつまり、そろそろ戻ってくるであろう
永琳の身に何かが起きたことになる。
外の騒がしさと合わせれば、答えはただ一つと言えた。

――永琳はまだ、賊と戦っている。

それは永琳の能力を考えれば、その賊が只者ではない事を示すただ一つの理由。
ただものでない賊と言えば――イマジン。
それが意味することを察知したてゐから、不安げな声が漏れる。

「そ、それっていくらお師匠様でもまずくない……?」
「し、心配しすぎよてゐ。あんたも知ってるでしょ、お師匠様が只者じゃないって事くらい」

声が震えながらも、てゐを勇気づける鈴仙。しかし、言葉が悪かった。
その「只者じゃない」永琳が苦戦している相手。そんな賊なのだ。
となれば相手は未知の敵。未知の敵と言えば――イマジン。

357俺参上第十話前編(8/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:08:48 ID:wCLd1qcU0
「やはり、おれ、行く。おれ、そいつ、倒す」
「え? し、しかし……」

シャークイマジンの突然の提案。ウラタロスの発言を遮るように出た提案。
イマジンと思しき賊相手ならば、イマジンが行けば解決するかもしれない。
一瞬、鈴仙にはそんな思考がよぎるがそれは同時に師匠である永琳の言いつけを破ったことにもなる。

「それに、おれ、ここ、いられない。契約者、こわがってる。だから、外、でる」
「……えっ?」

シャークイマジンはシャークイマジンで、頭を抱えていたのだ。
契約内容は「てゐに幸せを運ぶこと」なのだが、それを果たすどころか怯えさせてしまっている。
輝夜に指摘され、今の今までずっと頭を抱えていたのだ。
当のてゐも、シャークイマジンからは距離をとっている。
得物を携え立ち上がり、完全に宴会ムードをぶち壊したシャークイマジンをウラタロスが引き止める。

「……一つ、いいかい?」
「むう、なんだ?」

デンライナーでのお巫山戯など微塵も感じさせない雰囲気を醸し出しながら
ウラタロスはシャークイマジンを問い詰める。イマジンにはある意味似つかわしくない、張り詰めた空気である。

「お前、『イマジンとしての目的』と『契約者の契約』どっちが大切なのさ?」
「……契約、果たす。それ、イマジン。だから、おれ、行く」

拙い言葉を返し、シャークイマジンは広間を後にする。
その数刻後、広間の外は一層騒がしさを増したかと思えば、静寂を取り戻す。


永琳が広間に戻ってきたのは、静寂より暫くの後の事であった。

358俺参上第十話前編(9/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:09:51 ID:wCLd1qcU0
―――

宴会の準備の最中、永琳と賊の戦いは過熱していた。
永琳は本業こそ薬師であるものの、とある軍隊の刺客を退ける程度の実績はある。
それもルールのある弾幕ごっこではなく、実戦の上において、である。

「ほほほ。さすがは噂に違わぬ天才ぶりよの。
 よもや文武両道の天才とは思ってもみなんじゃ。許してたもれ」
「そう仰るのであれば、その薬瓶を返していただけますか?
 医師が怪我をさせるなど、笑い話にもなりませんわ」

イマジンは永琳の弓の腕を褒め称えるが、そこに誠意は込められてはいない。
永琳の側もそれを知ってか、イマジンを仕留める意気込みで矢を放つが
イマジンには命中しない。

永琳の狙いはイマジンの脚を正確に捉えている。
しかし、尽く永琳の放つ矢はイマジンが放つ火炎弾に焼き払われている。
イマジンの放つ火炎弾も、永琳には掠めもしない。互いに決定打に欠けているのだ。

「そなたもしつこいの。それはできぬ相談であると申したではないか。
 麿が頭を下げたのは、そなたを見縊っていた事よ。麿の焔、火傷では済まぬぞ?」
「どうあっても、返してはいただけないのですね? では……」

薬符「胡蝶夢丸ナイトメア」

弓では捉えられぬと判断した永琳は、弾幕でイマジンの足止めを試みる。
高速で放たれた蝶の弾幕は、炎でも打ち消せず確実にイマジンを捉えている。
そして永琳は、賊相手に下すには度を越し
イマジン相手に下すには丁度いいくらいであろう一撃を放つ。

「ほほ……やりおるの」
「……傷病は私が責任を持ちます故お覚悟を。老子曰く……」

359俺参上第十話前編(10/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:10:36 ID:wCLd1qcU0
「天網蜘網捕蝶の法」

薬瓶だけを躱し、無数のレーザーがイマジンを貫く。
公家装束を炎に包み、イマジンは呆気なく地に伏し砂と化した。月の頭脳に歯向かった末路である。

「『天網恢恢疎にして漏らさず』。全て、あるべき場所に戻させてもらうわ……っ!?」

転げ落ちた薬瓶を永琳が拾い上げようとしたとき、左の足首に激痛が走る。
永琳は確かに不死身なのだが、痛覚は普通の人間と同様である。
思わず薬瓶を拾おうとした手を止め、膝を付き左足首の方角を見やる。

――言うたでおじゃろ。麿は不死である、とな。

「リザレクション」

声と共に、永琳の足首の激痛の正体――纏わり付いていた砂が、怪物の手の形に変わっていく。
同時に、辺りに出来上がったイマジンであった砂の山が、不自然に隆起している。
砂の山は再びイマジンとしての姿を形取り、強引に永琳を持ち上げ
そのまま乱暴に柱めがけ放り投げる。
頭部が柱の角に直撃するように、計算しつくされた上で。

「ほほほ。麿は寛大であるが故、この程度の手打ちは問わぬでおじゃるよ。
 この薬の代金じゃ。釣りは要らぬぞよ」
「くっ、まち……なさい……!」

必死にイマジンを止めようとする永琳だが、投げつけられた際に頭を強打している。
追跡しようにも、不死であっても、意識と痛覚がそれを妨げる。

頭を抑えながら立ち上がろうとする永琳を一瞥し、その場をさろうとするイマジンの前に
もう一体、イマジンが現れる。濃紺の巨体を持つ、シャークイマジンである。

360俺参上第十話前編(11/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:12:05 ID:wCLd1qcU0
「おまえ、通さない。それ、おいてけ」
「ほほほ。イマジンが麿の邪魔をするとはの。
 其の者の言うとおり、確かにイマジンも一枚岩ではおじゃらぬな。ほほほほほ……下がりゃ!」

公家装束のイマジンの一喝の後、床が突然炎を放つ。炎はシャークイマジンの動きを阻み
公家装束のイマジンに退路を与える形に燃え盛っている。
永遠亭が火事にならないのが、不思議なくらいの炎の勢いだ。

「ぐ、むっ」
「ほほほ、言うたでおじゃろ。麿は急ぎ故、形振りは構えぬとの」

その異質さに、シャークイマジンも戦闘態勢に入るが、炎に足止めを食らっている。
それならばとばかりにネイルガンを取り出し、射撃を試みるが案の定炎に阻まれてしまう。

「おれ、おまえ、たおす。契約、果たす!」
「さよか。麿を屠るが契約とな……ほほほ、笑止! なればその契約、永劫に叶うことは無いわ!」

炎に足止めをくらっていたが、シャークイマジンは意を決し
公家装束のイマジンめがけ飛び込み、鋸刀を振り下ろす。鋸刀は袈裟斬りになるような形で入り
公家装束のイマジンの躯からは砂が吹き出す。これ以上ないくらいに直撃している。
しかし、公家装束のイマジンはその致命傷とも言える傷を意に介さず、笏から炎を放つ。
永琳相手の時よりも火力が増している。内心、先刻は永琳をただの人間の女と見縊っていた。
しかし、イマジン相手ともなればイマジン相手の火力で応戦する。
焔は着実にシャークイマジンの躯を焼き尽くす。

「ぐ、が……!」
「ほれ見よ。麿は何者にも屠る事叶わぬ。して、このイマジンの契約者は麿を知る者か?
 否。麿を知り、かつ消そうとする者など麿が契約せしあの娘以外におらぬはず。
 ならば答えは一つぞ……そこな者のようにの!」

「……バレちゃしょうがないね!」

361俺参上第十話前編(12/12) ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:13:37 ID:wCLd1qcU0
縛符「オーラキャスト」

物陰に向かい炎を放つ公家装束のイマジン。物陰から苦し紛れに放たれた一撃は辛うじて命中するが
そもそもこの攻撃に殺傷力はない。が、動きを封じる意味では非常に優れた一手である。
物陰にいた主――ウラタロスはその隙を突き、すかさず永琳に駆け寄る。

「くっ、わ、私のことよりもあいつの手にある物を……あれは……!」
「今は永琳さんの方が大事だよ。僕は女性を放ってまで釣りに興じるつもりはないからね」

永琳の制止を無視し、ウラタロスは永琳を抱え、この場を引き上げる。
早く引き上げなければ、再び奴は動き出す。ウラタロスの読み通り、オーラキャストによるバリアを
力業で粉砕し、公家装束のイマジンは自由を取り戻す。かに見えたが。

「ふん。逃げよったか……して、いつまで麿に付き纏うつもりでおじゃるか?」
「あい……つ、けい、やく……しゃの、だい、じな、やつ……だか、ら、に、が、す!」

自力で立ち上がったシャークイマジンは、公家装束のイマジンの動きを封じるように押さえ込む。
体中から砂を零しながら。契約者であればイマジンと契約している証。イマジンであれば――瀕死の証。
シャークイマジンの身を張った足止めにより、永琳は無事逃げ果せる事ができたのだった。

「麿を傷つけるに留まらず、行く手をも阻むとは……その躯、殺さぬ程度に焼き尽くしてくれようぞ!」
「ぐ、ぐおおおおっ!?」

薬を取り戻すことも、賊を捕らえる事も叶わず永琳は賊の怒号と、巨躯の協力者の断末魔を耳にし
ウラタロスに抱えられる形で、その場を後にせざるを得なかった……

362 ◆cedHmDsvEg:2013/05/06(月) 03:47:03 ID:wCLd1qcU0
以上、第十話前編でした。

今回のセルフQ&Aはこの一点のみとさせていただきます。

Q:東方激獣拳?
A:

獣を心に感じ、獣の力を手にする拳法、「獣拳(じゅうけん)」。獣拳に、相対する二つの流派あり。
一つ、正義の獣拳「激獣拳(げきじゅうけん)ビーストアーツ」
一つ、邪悪な獣拳「臨獣拳(りんじゅうけん)アクガタ」

戦う宿命の拳士たちは日々、高みを目指して、学び、変わる!!


……今日(昨日)のヒーロータイムの放送事故ネタです、すみません

電王の同期のスーパー戦隊というわけで東方×ゲキレンジャーを意識したタイトル。
ある意味電王よりも組み合わせ的には美味しいかもしれない。できないけど。やらないけど。

>>344
霊夢「『侑斗をよろしく デネブ』……なにこれ」
侑斗「デェェェェネェェェェブゥゥゥゥ!!」

その理屈だと葦原さんやひより、大人ハナさんも幻想入りしてそうな……
今回大人ハナさんも何らかの形で出せたらな、とは考えてます。

>>347
今更だけどエガちゃん単独スレ立ってますな
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/41116/1365486611/l100
江頭2:50ってもう一つのジャンルだと思うんですよ。

>>348
14主の名前でとあるスレを思い出したのは俺だけでいい……

363名前が無い程度の能力:2013/06/02(日) 23:56:45 ID:o20gaDYM0
鮫トレードって言葉があってだな
どう転んでもてゐは詐欺に縁があるのね

364名前が無い程度の能力:2013/07/23(火) 00:23:50 ID:tZIsVDc60
アメコミ勢放り込む妄想してたんだけどバットマンすごい苦労しそうでゆかい

365名前が無い程度の能力:2013/08/05(月) 00:18:59 ID:NI7lqQAY0
ttp://scpjapan.wiki.fc2.com/
幻想郷の「外で信じてる人がほとんど居なくなったものが来る」設定について、こういう「魔法の道具とか超科学で作られた道具とかを、
一般人の記憶を消したりしながら集めて、存在を隠し保管している組織」が居た場合どうなんだろ。
組織が外の世界で妖怪を捕獲したら、「研究施設に収容され調査されてる」ってことは「収容し一般人から存在を隠さなければいけない」
と思われるほど「恐ろしい存在だと信じられてる」ことになるんじゃね?。

366名前が無い程度の能力:2013/09/15(日) 04:22:07 ID:34R5xu.s0
メガテンの悪魔が幻想入りしたらどうなるかね?

367名前が無い程度の能力:2013/09/29(日) 10:04:04 ID:hh1nvU.c0
>>366
忙しい人のための幻想郷っぽくなる

368<激写されました>:<激写されました>
<激写されました>

369<激写されました>:<激写されました>
<激写されました>

370名前が無い程度の能力:2014/03/04(火) 12:10:30 ID:DsiXYd6.0
3×3EYES勢とのクロス考えてる奴どっかにおらんかなー
東洋妖魔の女の子達だから親和性高いと思うんだけどなー
サンハーラで散った八雲を探していつのまにか幻想入りして八雲違いで一悶着とか
いっそ八雲もなんかの間違いで幻想郷で再生してるとか

371名前が無い程度の能力:2014/06/09(月) 20:43:30 ID:E9jUFiT20
大阪チーム(GANTZ)×東方




小さめの部屋に、複数の男女が呼び出された。といっても、人に呼ばれたのではなく、黒い球ーーー此処に長く居る人間は[黒アメちゃん]と呼んでいるーーーによって、である。
大半は黒い全身タイツのような服に着替えているが、キョロキョロと周りを見回している人も居る。そのうち、一人のOLらしき女性が、長身の坊主頭の男性に声をかけた。
「あの〜···」
「···」
「此処って何処ですか?」
「···」
「···答えて下さい···!」
何度も尋ねるが返答はなく、ただ黙々と着替え、黒い球から出てきた台から、SF映画に出て来そうな銃らしきものーーー長さからしてショットガン、もしくはライフルといったところかーーーを手に取る。次に、刃の部分のない日本刀の「つか」を手に取り、腿に装着。その間にも次々と質問していた女性はもう諦めたらしく、玄関の方に歩いていく。
「冷たい奴やなァ。ノブヤン。」
台にあったありったけの装備を持ち、フル装備した男が、長身の坊主頭の男に言う。ノブヤンと呼ばれたこの男は、「室屋信雄」。この黒服集団のリーダー格である。
「フン···知るか。あんなのとっとと死ねばええ。」
冷たく言い放つ。玄関の方から悲鳴が聞こえてきた。おそらく「黒アメちゃん」の転送が始まったのだろう。
「黒アメちゃん」の「転送」は、頭から行われる。他人が見れば、さぞかし驚く事だろう。頭から徐々に消えていくように見えるからである。

372名前が無い程度の能力:2014/06/09(月) 21:06:30 ID:E9jUFiT20
まだ続く。






P,S
誰か来てくれ!わざとageてます。

373名前が無い程度の能力:2014/06/12(木) 19:51:58 ID:TktX95Q20
「ん···こいつかぁ?今日の相手は。」
「うおッ」
「あ〜かわええ〜。」
「···あれ、何時ものキモい奴らとちゃう···角あるけどそれ以外はフツーやん?珍しーなー。」
[黒アメちゃん]の表面に表示された映像を見て、十人十色の感想をもらす。後ろの方でOLがなにやら叫んでいるが、もう知らんわ、という顔で誰も相手をしようとしない。他に連れてこられた人も、もう諦めたようだ。

こうして[黒アメちゃん]に呼び出されたあと、しばらく自由ーーーといっても武器を選んだりスーツに着替えたりする時間だがーーーな時間があり、その時間がすぎると、[黒アメちゃん]の表示に、今回のミッションのターゲットが表示される。最近妖怪じみた化け物と戦ってきたメンバーは、意外と普通な星人の外見に驚いていた。
「あ、見て見て!ホラ、<星人>て書かれとらん!」
「おお。ホンマや。何でやろ···?」
妖怪と戦う前、必ず<星人>と書かれていたが、今回はそれが無い。最近のミッションと違う点が、また見つかった。
「あ、もう転送の時間なん?早ー。」
「え!?ウソ!?」
この違いを仲間と話し合う前に、もう転送が始まった。だが、彼らも口だけで、落ち着いているように見える。








実はそれとは少し違う。彼らは楽しみにしているのだ。これからおこる、一切常識の通用しない殺し合いを。


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