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お題でマイナーカプを語るスレ

237名前が無い程度の能力:2012/02/26(日) 18:29:09 ID:KuKqcfwc0
>>235

雪の降らない冬を、私は知らない。
この秋津洲のはるか南洋には、雪がまったく降らない冬でも暖かな常夏の島嶼があるらしい。
1月に桜が咲くと聞いた時には、「梅より先に桜が咲くものか」と冗談にしか思えなかった。
東海(太平洋)側の桜でさえ3月に咲く。4月でも残雪のある幻想郷では想像できない光景だ。
一面が白に塗りつぶされる大雪も嫌いだが、だからと言って一年中夏のような陽気も違和感を覚える。
では春はどうかと聞かれれば、それでも私は「夏と冬よりはマシ」と言う具合にしか答えないだろう。
とどのつまり、私は秋を象徴する女神として「秋」以外の季節になると腰の据わりが悪くなるのだ。
だから、この凍みた雪原で『冬の忘れ物』と対峙しているのは、非常に苛立たしい気分だった。
「ごきげんよう、豊穣の女神様……」
レティ・ホワイトロックと言う名の雪女みたいな妖怪は、どこか含みのある笑みを浮かべて会釈した。
「ごきげんよう、冬の忘れ物………」
私は精一杯の皮肉を言の葉に籠めて挨拶を返した。彼女はその皮肉に飄然とした笑みを浮かべたまま佇んでいる。
如月も半ばのよく晴れた昼下がり、空は深い青に澄み渡り、遠く山々から吹き下ろす風の声すら黙する静けさだ。
「立春を過ぎ、もうすぐ彌生……私の居座る時季も終わりますわ」
「そう、それは結構なことね……でも、そう言って近年はドカ雪を置き土産に残していくようだけど」
彼女は毎年この時季になると、殊勝にも別れの挨拶にやってくる。その為、私は彼女のホームに出向かなくてはならない。
しかし、ここ最近の豪雪は目に余るモノがある。雪融けの遅れは必然と農作業に影響し、収穫も左右する。
私はギュッと雪原を踏み締めた。無機質な白の下には、稲を刈り終わった水田がひっそりと春を待っている。
彼女に文句を言ったって如何にもならない事象なのはわかってはいるが、それでも私の言葉尻は刺を含んでいた。
「クスッ、貴女は気候が似る春を迎えても幾分か不機嫌ですからね。季節は廻ってこそ清らかになるというのに……」
「新たな生命の萌芽を感じられる春は喜ばしいわ。少なくとも、苛烈な夏や冷酷な冬よりは……」
こんな遣り取りに何の意味があるのだろう。私は時折、心の中で虚しさを感じる。
にわかに風が強くなってきた。凍てつく風が耳朶や指先をジンジンと悴ませる。
「それでは、私はこれでお暇させていただきますわ。精々、ご自愛くださいませ……」
そう言ってスカートの裾を翻し、レティ・ホワイトロックは鉛色の雲が広がりつつある空に消え去っていた。
風に舞い、細かな粉雪が降り始める。私は彼女の消えた曇天を眺め、ひとつ溜め息をついて踵を返した。
「……里で温かいモノでも食べて行こうかしら」
吐く息が白く立ち昇り、消えていく。また季節は廻る。私はこの感情をいつまで蟠らせていればいいのだろう。

本当は、彼女の寂しげな横顔に心を揺らされているというのに……


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