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12
:
蝶
:2004/04/07(水) 22:48
浩平はえいえんに行った。本当のことを言うと茜はそのことがすごくさびしい。
また、ひとりぼっちになってしまったからである。
けれど、茜は信じている。きっといつか浩平は帰ってくるのだ。ずいぶん待たせるかもしれないけど、
浩平のことを思ってずっとここに座っていれば、きっと浩平が見つけてくれる。
浩平はえいえんに行った。あれからもうずいぶん時間が経った。茜は浩平のことを忘れないように
している。浩平と一緒にクレープを食べたことや、浩平と一緒にクリスマスを過ごしたことを思い
出して、浩平のことを忘れないようにしている。
しかし、茜はあんまり頭が良くない。太るとわかって甘いものを食べてしまうし、いきなり眠り
込んでしまって、気付いたら丸一日も過ぎていた、ということもあった。
浩平を忘れないようにしようと思う。
浩平はえいえんに行った。
しかし、茜は、浩平がどんなひとだったかもうはっきりと思い出すことが出来ない。茶色の髪だった
ことは憶えている。背もあまり高くなかったと思う。しかし、それ以上のことはすべてえいえんの
光と幻に巻かれてしまった。
それでも、茜が今でも、浩平についてたったひとつだけ、何にも増してはっきりと憶えていることがある。
いつ、どんな状況だったかはわからない。しかし茜は、浩平が「学校が終わったら真っ先に美味しい
クレープを食べに行こう」と言っていたのを憶えているのだ。
茜は思う。
自分はもう浩平のことをあまりはっきりと思い出すことができないけれど、浩平の方は自分のことを
憶えてくれているかもしれない。クレープを食べることもちゃんと覚えていて、いつか、自分の
元に、クレープを二つ持ってやって来るかもしれない。
――お待たせ、茜、と。
だから茜は、クレープ屋の前のベンチに座っている。
放課後のそのベンチにはいつも三ツ編みの女の子が座っている。無愛想にいつも俯いて座っている。
しかし、時折女の子は顔を上げる。誰かが通り掛かるたび、上目遣いで道行く人を見上げるのだ。
じっと、クレープ屋の前を通りすがる男の子の顔を大きな瞳が見つめている時があるのだ。
茜の見つめる先、小さな視界を埋め尽くして、道行く少年達は、喧騒とともにある。
秋山瑞人『ONE〜輝く季節へ〜』
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