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ブラゲスレ避難所part173
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空中浮遊の時間はほんの僅か。とてもじゃないが自分の状況を理解するには足りない。分かるのは、自分の腹部がめちゃくちゃ痛いということだけ。
「ぐぁッ!」
濡れた固い床に背中から落ちて、そのままの勢いで滑っていく。
ジュンタの脳裏では一瞬前の少女の動き――目にも止まらぬスピードでボディを捉えた渾身の一撃を繰り返しリピートしている。
あり得ない。
視認できないスピードで殴られたというのもあり得ないが、人があんな細腕で吹っ飛ぶのがあり得えない。
目はチカチカと衝撃に眩み、投げ出された身体は痺れるように痛い。
痛みを堪えながら、ジュンタはそのまましばらく天井を眺めることになる。
浴室の天井には薄い透明な窓ガラスが嵌められ、広がる夜空と、美しい満月が見えた。
――それは夜空に浮かぶ丸い月。高貴なる金色に輝く、美しい星。
僅かな時、胸に郷愁のような気持ちが込み上げる。
それを咄嗟に気付かないふりをして、ジュンタはゆっくりと身体を起こし、濡れた床に座り込んだ。
この状況、色々気にはなるが、差し当たっては現状の確認を。
「一体、俺はなんでこんな場所に……?」
ジュンタはグルリと辺りを見回す。
大理石でできた広い浴槽。
まるで古代ローマの大浴場のように広く、豪華な造りをしている。何十人と一緒に入ることが出来る浴槽にはなみなみと湯が満たされており、少し香るのは薔薇の香りか。
(……どうして俺は風呂なんかに? それも、)
ポチャン、と水滴が落ちた音と共に、ジュンタは広い浴槽唯一の利用者を見た。
大きなタオルを身体に巻き、見えてはいけない場所を隠した少女は、怒りに顔を真っ赤にしてジュンタを睨んでいた。
「…………よりによって女湯なんかに」
床に座り込んだまま、ジュンタは見上げるように少女を見る。
彼女との位置は、殴り飛ばされたために遠い。それでもタオル一枚巻き付けただけという扇情的な格好の彼女は、恐ろしいまでに綺麗に見えた。
少女は視線をジュンタから逸らさぬまま、一歩大きく前に出る。
彼女は唇をわなわなと震わしながら、ビシッと人差し指を突きつけてきた。
「あ、あああなた! よ、よくもこの私(わたくし)に対してあんな不埒な真似を! わ、私、こんな辱めを受けたのは生まれて初めてですわよっ!!」
ジュンタにしてみれば、裸に近い美少女というだけでも手に余るというのに、どうやら彼女は性格的に『マズイ』相手らしい。一人称が『わたくし』である時点で、それが知れるというものだ。
嫌な予感をそこはかとなく感じつつ、せめてもの抵抗にジュンタは挑戦する。
「あー、そっちが怒る気持ちはよく分かる。謝罪の気持ちもある。申し訳ない。悪かった。ごめんなさい。だけど言い訳が許されるならわざとじゃなかったんだけど…………うん、聞いてないよね」
挑戦は簡単に失敗で終わる。
そもそも声が届いてないのだから、どんな言い訳に挑戦しても無駄だろう。怒りに震える少女には、誰の言葉も聞こえはしまい。
「ふ、ふふふっ、許せませんわ。ええ、許せませんとも。
この私の裸を見ただけではなく、む、胸まで揉むなんて。これはもう、問答無用で死罪ですわね。一切の情状酌量の余地はありませんわ。ふふっ、このリオン・シストラバスに挑んだ勇気だけはかって差し上げましてよ。バカとしか言いようがありませんけれど!」
紅髪紅眼の少女――リオン・シストラバスの片手が、ゆっくりと足下の床に伸ばされる。
彼女の足下に置いてあったのは、水滴を刀身に伝わせる、一本の匠の剣だった。
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