武装神姫の犬子の可愛さは異常 - 1195043796

170：はわわ、名無しさんがきちゃいました：2010/11/15(月) 21:35:02 ID:WFPBFdzs0: メモ

「ただいま」
「おかえり」

そう言って小町はすとんと私の目の前で背を向け腰をおろした。
別に嫌われてるとかそういう訳ではない。
これは彼女との毎日の日課をする時の合図なのだ。
その合図を受け取り、私はそっと彼女の肩に手を置いた。

彼女の仕事は重労働だ。
が、小町はそれを面と向かっていう事はない。
だから私も何も聞かず、秋の寒い時期になっているにも関わらず、かなり汗ばんでいる彼女の装束を毎日見る事でそれを理解している。

「……どうしたんだい？手を置いたっきり」
「……ん、あぁ、いやなんでもないよ」
「そうかい」

服の上から、彼女の肩を揉む。
今日もお疲れ様という気持ちを込めてぎゅっぎゅっと強めに揉みしだいて行く。
その度に、んっと小町は小さく声を漏らす。
彼女からの丁度良い強さだと言う返事を貰い、少しずつ揉む位置をずらして行く。

「そうだ、聞いておくれよ旦那」
「どうしたのさ」
「今日運んだ幽霊から聞いたんだがね？……」

肩揉みを始めてからは、その日に小町が体験したりした事の報告会が始まる。
面白い話、悲しい話、時として怖い話や腹立たしい話など様々だが、それを小町は逐一教えてくれる。
その度に私は相槌を打って行く

「……ってな事があったんだよ」
「へぇ、そいつは面白いな」
「こんな事私がこの仕事を初めてさ！本当にこの仕事は飽きないねぇ」
「うんうん、良きかな良きかな。……はいっ、おしまい」

大体話題が2、3終わる頃には肩揉みも終わる。
最後に小町の肩をポンっと叩いて。本日の日課を終える。が。

「こら、旦那はすぐそうやって逃げる。次は私の番だよ」

……何時の間にやら後ろに回っていた小町に捕まり、立ち上がろうとした所をもう一度座らされる。

「……全く。そんなに私の肩揉みは嫌かい？」
「昔ほどではないよ、昔ほどでは」
「それは言わないお約束だよ！」

……小町も私の肩を揉み出すと言い出したのは、私が小町との日課を始めてしばらくした後の事であった。
最初の頃はお世辞にも上手いとは言えなかった小町の肩揉みも数年経った今ではプロも顔負けのうまさとなっている。
風の噂だと、閻魔様もこのマッサージの虜になっていると言う。恐ろしい話だ。
元々仕事帰りの小町のためにやっていた事なのに、何故私も？と思い小町に聞いたが訳だが。
「……私のためにありがとう、って感謝の気持ちを表そうとしただけさ。それじゃ理由にならないかな？」
……嬉しい事を言ってくれるものだ。
そんな訳で、こんな夕刻の日課がずっと続いている訳だ。

「……はい、おしまい」
「ありがと。……どうした？」
「……わかんないや。けど、心地が良いから、しばらく、こうで」

ふと私の首に手が回され、そのまま後ろから小町に抱きしめられる。
……こう言う時は大体嫌な事があった時と相場が決まっている。

背中越しに感じる小町の息遣いを受け止めながら、私はそっと小町の手を握る。
ぴくっと少しだけ動くが、気にせず小町の手を握り続ける。
……女性の手にしては大きく、そして傷だらけの手。
過去に一度だけ、デート中に見事に眠りこけた小町に聞いた事がある。

「……仕事、大変じゃないの？次の日眠っちゃうぐらい疲れるのに楽しいの？」
「…………楽しいさ。あたいはこの仕事が天職だと思ってる」
「……そうか」
「せっかくのデートなのに眠っちゃってごめんよ。でもあたいは……いや、私はこの仕事が大好きなんだ」

……彼女はそう言い切った。
……それ以来、私は小町に仕事の事について何も言わなくなった。
その変わり、黙って彼女の背中を支えてやろうと心に誓った。
帰って来たらご飯もお風呂もすぐ出来るように生活のリズムを作ったし、仕事もそのリズムを崩さないようなものに転職した。
全ては大好きな彼女の為に。彼女を全力で支える為に。

「ねぇ」
「何？」
「……私、お腹ぺこぺこだよ」
「……さよか」

いつもの調子に戻った小町に笑いかけ、立ち上がる。
小町も同時に立ち上がり、ぐすっと私の背中で何かを拭いた後にくるくるっと私の目の前に現れる。涙は見えない。笑顔こそ彼女が一番似合う顔だ。
それを見たいが為に私も頑張れる。

「今日のご飯は？」
「メインはシチューだ」
「やった！丁度食べたい気分だったんだ！」
「うむ。ってちょっと待て。先にお風呂行きなさい。」
「分かってるー」

……素直にお風呂場に直行した小町が脱ぎ散らかした服を洗濯機に突っ込み、台所に向かう。

今日のおかず、もう一品増やそうかなと思いながら。