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Prequel a later date
5
:
十南
:2014/05/06(火) 14:51:55 ID:/tY2ichk0
(銀ちゃんは、なにしてるかな)
ぼうっと半月を見つめながら、遠い場所を『遠見』する。
……雪原だ。そこに大勢の人間と多数の機材がいる。大きな照明がそのうちの何人かを照らしていた、銀もそこにいる。
雪の上に在って、銀は薄着だった。いつかテレビで見た『温泉』の『浴衣』をボロボロにしたようなものを着て、長い刃物を両手に構えている。そして同じように刃物を持った面々が彼へ目掛けそれを振るっていく。
(どんなお仕事なんだろう?)
時代劇、というものを月はまだ分からない。分かるのは、なんとなくだが戦う『フリ』をしていることだけだ。
だが、途中で斬り合いの流れが止まる。監督のカットが入ったのだ。
(……怒られてる)
『見る』ことはできても『聞く』ことはかなわない。故に、なぜ銀が叱咤を受けているのか月にはわからない。銀はそれに受け答えするとベンチコートを羽織り、紙コップに注がれた温かいお茶を受け取っていた。
(だいじょうぶかな、銀ちゃん)
月の件で叱られてへこんだ時とは違う、銀の沈んだ表情。猫舌で、すぐには熱いものを口にできない銀は、カップの水面をずっと眺めているようだった。
(あ)
と、銀が顔を上げ、半月をじっと見つめる。
(――)
目が、合った。天上の月を介して。それが嬉しくて、反射的に月は微笑む。
「がんばれ、銀ちゃん」
つい、小さく呟くと、銀が微笑んだ。向こうは『遠見』ができないが、月が意識を『飛ばした』おかげだろうか。銀の心に『喜び』が戻ったことも感じていた。
(銀ちゃんは、だいじょうぶだね)
胸の奥に温かさを感じると、不意に月は思いついた。コンビニ袋を『念動』で手繰り寄せると、中から一口チョコのアソートパックを取り出す。本当は茶菓子用に桜良が買ったものなのだが、そんな事情もどこ吹く風とばかりに月は袋を上のギザギザから縦に裂いて開いた。
「みんなに」
大好きだったり、ちょっと好きだったり、好きかどうかわからないけれど知り合った人々に向けて。
「届け――」
外にばら撒いたチョコが『念動』で四散していく。半月の光を浴びたアルミの包装紙が、蛍のような流れ星になり、あちらこちらへ飛んでいく。
「……寝よう、マリア」
目を閉じ、窓を閉めてそちらに背を向ける。そのまま『念動』で毛布を引っ張るように自分のもとへ手繰り寄せ、マリアを左腕で抱きながらこれに包まった。
翌朝。
ぱち、と布団のサナギの中で目を覚ました月は、カーテンで仕切られ日の光が薄く届く部屋の中で『遠見』した。
かつて月が過ごした施設に似た、白い天井に白い壁の一室。視点は、おそらくそこに備えられた寝台からのものだ。
今、月はその寝台の主の『眼』になっている。
その主は、何かを両手で包み込むように持っていた。
「征海君、どうしたのそれ?」
白いリネンと、女性にしては少々角ばった白い手に映えるそれは、アルミの包装紙から開けられた一口チョコだ。
「透子……――っ!」
声を出した途端、視点はテレビのチャンネルを変えるように現実へ戻る。
「……透子?」
『眼』になった相手へ、女性が声をかけていた……だが、透子のものではない。
ならば、自分は一時ばかり透子の『眼』になっていたのだろうか。違う名前で呼ばれていた気がするが、銀のように別の名前を使っているのかもしれない。
「透子も、大丈夫」
もう一度、誰にともなく呟き。
「おはよう」
笑って立ち上がると、月はカーテンを引き開けた。
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