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何でもいいから名ゼリフをカキコするスレ
1343
:
( ´_ゝ`)流石だよな俺ら。
:2006/09/17(日) 23:59:01 ID:h7NnPF2A
歴史あるヨーロッパの街並みに、その姿はよく似合った。
白銀の髪。白暫の肌。均整の取れた体躯。そして深紅の瞳。
所在なげに路面電車を待つ様子は、どこの貴公子かといった趣である。
(・・・・・・迷った)
優雅な外見とはうらはらに、貴公子は始めての街で道に迷っていた。
だがそれで焦るとか心細いとか、そういった感情は沸いてこない。
逆に、見知らぬ街で迷子になったこの状況を楽しんでいるようでもある。
普段はこういう遊び心のある性格ではない。知らない街は、人の心を華やがせる。
「市街地に向かうのなら」
「え?」
隣の男が出し抜けに話しかけてきた。コートを着たその男の背は高く、背幅は広く、
胸板には厚みがあり、揺ぎ無く落ち着いていて・・・・・・そして隻眼だった。
市街地へ向かうのなら、そこの路面電車に乗ればいい。男は簡潔に要領よく説明してくれた。
「この街は始めてかね」
「そうです」
「だと思ったよ。ホテルは庁舎前だろう?」
「そのとおりです。でもなぜ?」
男はコートのポケットに手を入れたまま、貴公子殿に解説した。
標識のポーランド語ではなく、英語の説明文を読んでいたこと。
視線が前後左右の建物にさまよっていたこと。
身なりが良く、そこらの安宿に泊まりそうな雰囲気には見えなかったこと・・・。
「すごい観察力ですね。探偵をなさってるんですか?」
「似たようなものだよ。ポーランドへようこそ、ミスター・・・・・・」
「ミスターはよしてください。私は・・・・・・私の名前は、アーデルハイドです」
貴公子殿は右手を男に差し出した。名乗るとき、羞恥の響きが混じっていた。
「ベヒシュタインだ」
男の手は岩のように鍛え上げられ、がっしりと頑丈そうで、そしてかすかに地と硝煙のにおいがした。
「自分の名前が好きではないらしいね」
ベヒシュタインは言った。
にこりとも笑わないのだが、人を惹き付ける不思議な包容力のある人物らしい。
自分では気づいていないが、アーデルハイドは普段からは考えられないほど多弁になっていた。
「私の父は、娘が欲しかったらしいんです。私にはそのつもりで名前を用意していて、
生まれたのが男の私だと知らされても、そのままこの名前をつけてしまいました」
「名前を変えたいかね?」
「・・・・・・いえ、今はもう慣れました。
初対面の人は、よく妹と二人姉妹だと思い込んでいますよ。その説明をするのが面倒なだけです」
「同情するよ。私の娘・・・・・・娘といっても養女だが、彼女は名前がいささか男勝りでね。
だが本人は名前どころか、身なりに気をつかう気配もない。無愛想な子だよ」
「失礼ですが、ご家族の方は?」
昼間でも零度を下回る12月のポーランド。ベヒシュタインの吐く息が、一瞬止まるのがわかった。
「妻と娘がいたよ。ずいぶん前に死んだ」
「それは・・・・・・」
二人はしばらく、見事に石畳で舗装された古い街並みを眺めていた。
何度も戦場に見舞われ、そのたびに蘇った不死鳥のような老いた都市。
今ではその跡形もなく、数年前からずっとこの平和で退屈な風景が維持されてきたような気さえする。
「娘は・・・・・・亡くなった娘だが、ピアノが得意だった。よく聴かされたものだったよ」
「どんな曲を?」
「私は音楽には詳しくなくてね。確かショパンの、随分激しい曲で・・・・・・」
「革命のエチュード、ですか」
「たぶんそれだ。おとなしい子だったが、どういうわけかその曲がお気に入りだった」
「この国の曲ですよ。ポーランドのね」
「ほう?」
「ショパンが、ロシアに占領された母国ポーランドを嘆いて作ったと言われています」
「そうだったのか・・・・・・」
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